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■320 / 親階層)  第一部「騎士の忠義・流れ者の意地」・序章
□投稿者/ 鍼法 -(2006/07/23(Sun) 18:14:06)
    2006/07/23(Sun) 18:18:49 編集(投稿者)
    2006/07/23(Sun) 18:18:38 編集(投稿者)



    「……暑い」

     カッ!といった擬音が似合うほどに強烈な日光、整備された街道に人は居ない。いや、むしろ動物が見当たらない。まぁ、ここまで強い日光ならば、動物もどこかに避難しているのだろう。

    「……暑い、死ぬ」
    「五月蝿い。黙って歩け」

     そんな殺人的な日光に照らされた街道を徒歩で歩く二人組がいた。
     片方は、小柄で細身ながら革鎧に包まれた筋骨隆々の体躯を、精悍な顔つきで飾っている。美青年と聞かれれば戸惑うことは間違いないだろうが『いい男』と聞かれればだれもが首を縦に振るだろう。その表情がだらしなく緩められていなければ、だ。
     対するもう片方は――なんというのだろう、不気味だ。
     上半身裸でも汗が噴出しそうなほどに暑いというのに長身を頭までをすっぽりと覆う古ぼけたローブに身をつつんでいるのだから、見ているこちらが暑苦しい。唯一ローブから覗いているのは双眸と靴くらいなのだから。

    「なぁ、やっぱり宿場から共用の馬車使った方が良かったんじゃねえの?」
    「使う金があるか?」

     ……沈黙。

    「無い」
    「そうだ。お前が宿場町の賭場ですべて金をスッたことを忘れたか?」

     言葉に詰まる。そうだ、一攫千金などと夢物語を語った挙句に有り金の殆ど――残りも宿金を払うのに消えていった――を町のチンピラに奪われてしまったのだ。

    「はっはっは……この神様の責め苦って俺のせい?」
    「貴様以外に責任があるのなら、誰でもいいから原因を連れて来い。俺がこの場でソイツを解体してやる」
    「……許して」
    「許して金が入ってくるならば、親の仇でも許そう」

     がっくりとうなだれる。
     その時だった。
     鼻腔に微かな――本当に微かだが、かぎなれた臭いが流れる。
     血の臭い。

    「オイッ!」
    「何だ?」
    「血の臭いだ!街道の先から!」

     聞くのが早いか、ローブを纏った男は走り出していた。







    ――運がねぇな、畜生

     思えば、冤罪で騎士の身分を剥奪されてから五年間、幸運と言う言葉から程遠い人生を歩んできた。代々続く騎士の家系である実家を追われて、剣の腕を生かして傭兵をやろうにも、いけ好かない領主が裏から手を回して傭兵ギルドに登録も出来ない。非合法の仕事をしようにも元宮廷騎士ということで裏家業の奴等からも信頼されない。
     とどめに――野党の襲撃で天に召される寸前と来た。

    「運がねぇよ、畜生、クソッタレ」

     思わず言葉が洩れるほどだ。
     呟きながらも、手斧を振り回す野党の首を剣で斬りとばす。いや、首と一緒に剣までポッキリ逝きやがった。これだから大量生産の安物は嫌いなんだよ。
     背後を見てみる。護衛を依頼されていた商人のキャラバンは全滅だ。これで生き残ってもおまんまの食い下げ。とことん運がねぇよ、畜生畜生畜生。

    「あ〜あ、畜生……なんでこんなに運って奴がねぇんだよ」

     剣が折れたことで安心したのだろう、恐怖に引きつりかけていた野党の顔が喜悦に染まっている。その喜悦には嗜虐的なものも含まれているようだ。良くてなぶり殺し、悪かったら足から刻んで家畜の餌といったところか。

    ――あ〜あ……本当に運がねぇよ

     もう、諦めて降参しようか。そう思った瞬間――

    「あれ?」

     場違いなほどに間抜けな声を上げて、先頭にいた野党が倒れる。
     その背中には、数本のスローイングダガーが突き刺さっていた

    「なんだ!」
    「落ち着け!」

     突然の襲撃に慌てる野党。だが、長剣を携えた髭面の男の一喝で静まる。恐らくは髭面が頭領なのだろう。

    「街道のど真ん中に隠れる場所なんて殆どねぇ!円陣組んで警戒しろ!」

     ああ、コイツのせいだったのか。
     別に自信過剰になるわけではないが、宮廷騎士を勤めていた自分がそんなに弱いとは思っていない。少なくとも、ただの野党に遅れを取る積りなんて無かった。なのに、負けた。あまりにも組織的な攻撃で。

    ――……元兵士かなんかか?

     キャラバンの馬車に寄りかかる形でへたり込む。出血しすぎたのか、思考が鈍い。
     だが、鈍かった思考も次の一瞬で覚醒した。
     遠方から光る『何か』が飛来して、髭面の額を貫いたのだ。

    「んなぁ!」

     間抜けな叫び声を上げる野党。だが、声を上げたものも次の瞬間に額を貫かれる。

    ――魔弓……しかも狙撃に特化してやがる……

     短時間に二人を殺されたことで、野党の円陣が乱れる。無理も無い、戦場でも姿の見える凄腕よりも、姿の見えない狙撃兵の方が精神的にはダメージとなるのだから。
     そして、浮き足立った野党を完全に崩すには十分なものが飛び込んできた。
     自分の身長ほどもある大剣を担いだ男が走りこんできたのだ。
     とっさに剣を構えるが、そんなもの関係ないと言うが如く振るわれる大剣。それは剣ごと野党の首を切り飛ばした。

    「に、逃げるぞ!」

     誰かが叫ぶが、次の瞬間には同じ声が断末魔を上げる。
     パニックになった挙句、頭を抱え込んだ男は大剣に切り飛ばされ、乱入してきた剣士に挑もうとした男は背後から光に貫かれる。
     壊走を始めるのに時間は掛からなかった。

    「逃げんな!俺の収入源!」

     その叫びを背中に受けて、野党は一目散に逃げる。当初は三十人近くいた野党も確認できるだけで3,4人に減ってしまっている。

    「……大丈夫か?」

     剣を背中にしょった鞘にしまいながら、男が話しかける。

    「危なかったな……キャラバンの護衛か?」
    「……そんなところだ」

     出血で喋るのも億劫になってきたが、とりあえず返す。

    「大変だったな……お前一人で10人以上斬ったみたいだな。大した腕だ」
    「そいつはどうも」

     気の抜けた返事だ。自分自身でそう思うが、変えられそうにない。力が出ないのだ。

    ――ヤバイ、眠くなってきた
    「大丈夫か?俺の名前はノークウィス。お前は?」
    ――namae?ナマエ?なまえ?ああ、名前か……俺の名前は――
    「俺の名前は……ヴェルドレッド、だ」

     そこで、俺の意識は一度途切れた。







    あとがき

    こんにちは、あるいはこんばんは鍼法です
    先月、この企画掲示板を拝見して小説を書こうと一念発起して書き上げた次第にございます。
    一応はプロローグ、序章に当たる部分となります。キャラクターのプロフィールや武器、その他のことを企画掲示板に後日書き込むので、そちらも参照しながら呼んでいただけると非常に嬉しいです。
    次も呼んでいただけたら嬉しい次第でございます。では、失礼します。

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