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■334 / 2階層)  第一部・『騎士の忠義・流れ者の意地』・第2話
□投稿者/ 鍼法 -(2006/08/18(Fri) 23:57:29)
    2006/09/10(Sun) 18:31:00 編集(投稿者)
    2006/08/19(Sat) 15:32:58 編集(投稿者)
    2006/08/19(Sat) 10:05:46 編集(投稿者)


              第二話『パラディナA』


    「何処から沸いてきたんだ、畜生!」

     粗末な鎧に明らかな安物である剣を構えながら、自警団の隊長は悲鳴を上げた。
     目の前では、二足歩行の獣を思わせる魔物が両手の鉤爪でまだ若い自警団の青年が切り伏せられている。
     ここは曲がりなりにも宿場町だ。こんなところまでこんな魔物が入ってくることなど、珍しいどころの話ではない。
     今まで一度も無かったのだ――

    「これだけ被害で出てるのに、駐屯している騎士団は何をしてるんだ……っ!」

     分かっている。騎士は所詮貴族指定がなるものだ。平民や旅人を護るのは仕事ではないのだ。いくら大義名分で民草を護るといっても、所詮騎士と言うものは貴族を守る為のものでしかない。

    「うあぁ!」
    「ワイトス……!クソッタレが!」

     毒づきながら、乱杭歯を除かせる獣の首を剣で切りつける。
     だが、なまくらもいいところの剣で丸太のような首をした魔物のそれを切ることは出来ない。筋肉と分厚いに皮で弾かれてしまう。

    「ぎゃぁっ!」
    「ジャン!」

     更に一人、魔物の爪で鎧ごと体を真っ二つにされる。人間と魔物の膂力は比べるまで無いのだ。こんな知能の無い低級な魔物でさえ、戦闘訓練を受けていない自警団では手を焼く。否、追い払うことも出来ない。

    「街には入れさせないぞ!」

     勇んで一人、魔物に飛び掛るが、胴に噛み付かれてそのままわき腹を食いちぎられた。まだ、学校を卒業してから一年も経っていない若者のはずだ。病気の母を守ると言って、勇んで自警団に入ってきたのを覚えている。

    「ケインス!」
    「馬鹿野郎!オッシ、近づくんじゃねぇ!」

     たしかケインスと一緒に入隊した新入りだ。学校時代からの親友と聞いている。
     だが、どんな理由があろうとも無防備に近づいてきたものを見逃すほど魔物は人情とやらを理解していない。逃がす理由も無い。

    「逃げろ!」

     叫んだところで何も変わらないのだが――

    「トーシロが無茶すんじゃねぇよ!」

     今回は変わった。
     二メートル近い剣を振りかざしながら、男が鉤爪を振りかざした魔物を腰の辺りで寸断する。革鎧を着た――おそらくは傭兵だろう。

    「全く……田舎の自警団はこんな狗も追い払えねぇのかよ!」

     大きなお世話だ。内心で毒づきながら、同時に言葉では言い表せないほどに感謝する。このまま戦い続けていれば、自警団は全滅。街は蹂躙されていただろう。

    「まぁ、いい!」

     大剣を構える傭兵は、太い笑みを浮かべ――

    「銀貨二枚、後で払えよ!」

     言い放った。

    「……いくぞ、オラァ!」

     雄叫びを上げて、剣を振りかぶりながら突進する傭兵――後で聞いたが、ノークウィスというらしい。

    「二匹めぇ!」

     噛み付こうとした魔物の下あごと上あごを両断。どういう歩法なのか、返り血が付いていない。

    「三匹めぇ!」

     後ろから飛び掛ってきたのには、腰の短剣を抜いて額のところに突き立てる。魔物は飛び掛ってきた勢いのまま、地面を転がっていく。
     四匹目は地面に顎を擦り付けんという高さから跳ね上がるような動きで首を狙うが、ボクシングでいうスウェイバックで回避され、すきだらけの腹部を深々と短剣を突き立てられる。その背後から飛び掛った五匹目はいつの間にか逆手に持ち替えていた大剣で一瞥もされずに頭蓋を割られていた。
     だが、六匹目は五匹目の死体を踏み台にして飛び掛ってきる。あのタイミングでは避けられない!

    「あぶ――」

     危ないと言おうとしたが――
     それよりも早く閃光が六匹目を地面へ磔にしていた。
     閃光の出先を見てみると、木の大きな枝にローブを着た男が立って弓を構えている。放ったのが閃光だとすると、魔力を矢として使用する魔弓というものだろう。
     視線を戻してみると、八匹目がノークウィスに袈裟懸けに斬り捨てられていた。

    「あ、ありが――」

     何事も無かったかのように近づいてくるノークウィス。
     自警団の隊長はノークウィスの強さに度肝を抜かれていた。色々な人間が使う宿場町だから『自分は強い』と吹聴する傭兵や冒険者は多い。しかし、その殆どが口ほどの実力がない者だったする。
     だが、目の前にいる傭兵は違った。今まで見てきた冒険者や傭兵よりもずっと強い。
     そして――

    「報酬くれよ。銀貨二枚な」

     話の唐突さも一番だったかもしれない。








     いきなりの報酬要求で少々驚いたが、話を聞いてみて、何を言いたいか理解した。そして、それが大して無理な要求でもないということも。

    「それにしてもよ」

     自警団が普段から集合場所としている酒場の一角で、ノークウィスは酒が並々注がれたジョッキを一口呷る。当然ながら、この酒は自警団の奢りである。

    「田舎の宿場町っていっても、自警団があんな低級な魔物を追い返せないでどうすんだよ」

     むしろ、田舎町の自警団は警察機構をかねている面もあるので、より強い抑止力が求められるはずだ。

    「それは……」
    「ま、おかげで俺らは銀貨三枚手に入るんだけどな」

     言い訳や弁解に興味は無いのか、自警団隊長の話を切り上げる形で、言い放つ。

    「耳が痛いな。ただ、この規模の街じゃ自警団は副業としてしか存続できないんだ」

     落ち込んだ顔で呟く。自警団といっても、中身は小さな軍隊に近い。有事以外は金食い虫のごく潰し以外のなにものでもないのだから、予算がしっかりと組まれていない田舎町では、普段は普通の仕事をして魔物が侵入してきたときに、武器を持って戦う程度のものだ。

    「なるほどねぇ……それで、あんな低級の魔物相手に三人の重傷者と二人の死者を出した。と」
    「そんな言い方は無いだろ!」

     黙って話を聞いていた一際若い自警団員――オッシがノークウィスに掴みかかる。
     だが、掴んだと思った瞬間には腕を捕まれ、捻られていた。折られてはいないが、あれでは身動き一つ取れない。

    「お前等の言い分なんて聞く気はないんだよ。大体、なんだあのなまくらは?最近の野党の方がよっぽどマシな武器を使ってるぞ」
    「その……予算が……」

     小さくなりながら、呟く自警団長。

    「仕方がなぇな……報酬は銀貨一枚にしてやるから、もうちょっちマシな――」

     言おうとした瞬間だった。
     ノークウィスの耳をかするような軌道で、ナイフが投げつけられる。

    「何をかってに商談などしている?」

     ナイフが掠ったときと同じ姿勢で固まったノークウィスを睨みつけながら、アルベルムは冷たい声で言い放った。

    「……速かったな」

     冷や汗を流しながら、呟くノークウィス。

    「貴様がいらんおせっかいで報酬を減らすのかと心配になってな……連れてきたぞ」

     言って、アルベルムの背後からエルリスとセリスが顔を覗かせる。アルベルムの背後に立っていたので何が起きたか見えなかったのだろう、怪訝な顔でいまだに固まっているノークウィスを見る。

    「あの……ありがとうございましたっ!」
    「は?」

     固まったままであったノークウィスに向かって元気よく――要するにものすごい勢いで――頭を下げるエルリス。それを見て、固まるノークウィス。

    「俺、何かした?」

     疑問の呟きを上げるノークウィス。それに対して、疑問の視線を向けるエルリス。

    「だって……私の無茶な依頼を受けてくれたし……」
    「ああ、それのことか?そんな無茶な依頼じゃないからな」

     場合によっちゃ、略奪の仕事とかを出来高で請けることもあるし。と、言うノークウィス。その言葉に、目を丸くしたのはエルリスだった。

    「そんな仕事もあるんですか?」

     信じられない。そんな口調だ。

    「まぁな。つーか傭兵なんてのは汚れ仕事がナンボの商売だし」
    「そういう仕事を好んでする外道が多いのも事実だ」

     カウンターに座って酒をあおりながら、付け加えたのはアルベルムだ。

    「そうそう。町を襲う時には、いきなり攻城用の魔法を打ち込んだり――」

     その時だった。
     街道を火柱が駆け抜けた。

    「……こんな感じで」

     呆然と呟く。
     街道からは、悲鳴と断末魔。そして、血の臭いがする。

    「冗談だろ!?」

     それが何者かの襲撃だと気付くと同時に、自警団の団長は悲鳴を上げた。今日という日は徹底的に悪いことが続く。








     衝撃を感じ取っていたのは、診療所も同じだった。

    「……っ!何だ!」

     いきなり起きた地響きと悲鳴のコーラスにヴェルドレッドは上体を起こす。まだ傷が完治していないのか、少々痛むが行動には支障がなさそうだ。

    「どうしたんですか!何かあったんですか!」

     診療所の廊下を歩きながら、叫ぶ。だが、返事は無い。

    「あれは……シャロンさん?」

     少し進むと、廊下に誰かが倒れている。白衣を着た女性――確か、名前はシャロン・マクウェルだったはずだ。

    「シャロンさん!」

     駆け寄り、シャロンを抱き起こす。眼鏡をかけた理知的な顔つきの女性――シャロンは蒼白になって生気が感じられない顔でヴェルドレッドを見る。

    「ヴェルドレッドさん……まだ、傷が治りきってないんですよ」
    「何言ってるんですか!それよりも、この騒ぎは!?」
    「分からないんです……いきなり、爆発があったと思ったら……急に沢山の人たちが……」
    (爆発?攻城用の魔法か?)

     だとしたら、誰がそんな魔法を撃ち込んだ?そこまで考えて、思考を振り払う。今は何が起きているかを確認するよりも、シャロンを治療するほうがよほど先決だ。

    「ヴェルドレッドさん……」
    「動かないでください!傷が深くないって言っても、ほうっておけば出血多量で死んでしまいますよ!」

     叫びながら、白衣をまとめて背中の傷に押し当てる。すぐに赤く染まった。速く止血しないと、下手をすれば死んでしまう。

    「私はいいです……治療の魔法くらいは、使えます」

     言うが速いか、シャロンの体から青い燐光が漏れ出す。それを契機にするかのよう、背中の出血の勢いが弱くなっていた。

    「ね……私は大丈夫ですから、町の人たちを」

     出血は止まったようだった。だが、出血が止まっただけであって傷は塞がっていない。魔法は非常な精神の集中で始めて扱えるものだ。傷口から発する激痛の中でこれだけのものを紡げるのだから、相当なものだろう。

    「駄目です!」

     シャロンの弱弱しい願いを斬り捨てると、白衣で胴体をきつく縛る。縛ったときに、シャロンの口から苦しげなうめき声があるが、そんなものにかまっていられない。

    「……とりあえず、傷口からの出血は止まってます。ただ、傷口が完全に塞がっていないから、絶対に動かないでください。いいですね?」

     弱弱しくうなずくシャロン。
     その姿に無言でうなずくと、ヴェルドレッドは踵を返して診療所から駆け出していった。




    後に『パラディナの惨劇』と呼ばれることとなった戦闘が始まる――







    〜あとがき〜
    こんばんは、あるいはこんにちは。鍼法です。拙作を読んでいたてありがとうございます。
    さて、今回の第二話ですが……話がほとんど進んでいません(汗)戦闘描写に時間が掛かったからかなぁなどと考えている今日この頃だったりします。相変わらず影が薄いハーネット姉妹はちょっと置いておいて……次回はヴェルドレッドが活躍します。この物語三人目の主人公のはずなのに今一活躍シーンが無かったので、次は活躍させます。おそらく、多分……
    ここまで読んでいただき、真にありがとうございました。では、失礼します。
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