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■359 / 4階層)  第一部・『騎士の忠義・流れ者の意地』・第4話
□投稿者/ 鍼法 -(2006/10/01(Sun) 16:47:32)


              『パラディナ4』


    「おいおい、こりゃまた豪勢に……」

     気絶した少女が言っていた方向に少し走ると、野党と思われる男達の死体が数体転がっていた。全員、一撃で仕留められている。

    「手際がいいな」

     死体を検分しながら呟くアルベルム。
     その言葉を聞き流しながら、ノークウィスは辺りを見回す。ここには野党の死体はあっても、ヴェルドレッドの死体はない。恐らくは、移動しながら戦っているのだろう。その痕跡を探っているのだ。
     程なくして、それは見つかった――血の跡だ。点々と路地の方向へと続いている。
     アルベルムの顔を見る。既に気付いたのだろう、検分をやめて路地裏へと視線を投げやっていた。




     それとほぼ同刻。ヴェルドレッドは曲がりくねった路地裏を疾走していた。
     数秒遅れて、数人の足音が聞こえる。

    「しつこい奴等だ」

     息を弾ませながら、ヴェルドレッドは呟く。走ってきた集団は十人。内四人は切り倒したから、後六人だ。
     目の前が行き止まりだと気付くと、すぐさま停止する。
     停止したヴェルドレッドを見つけると、問答無用に一人が切りかかる。

    「浅いっ!」

     だが、唐竹割りの一撃はヴェルドレッドを捉えることは無かった。半歩下がって回避する。
     走りながらの一撃で上体が泳いだ男の首を斬り飛ばす。
     断面から血を噴出させて倒れこむ男の背後から、戦斧を構えた男が接近。横薙ぎの一撃を放つ。だが、これも体を屈めて回避。
     屈めた勢いのまま突進し、心臓を一突き。もんどりうって男が倒れる。

    「な、何なんだよぉ!」

     倒された二人の後ろに立っていた男が悲鳴混じりの叫びを上げる。腰は引けて、明らかに怯えている。ほんの数分で十人いた仲間が半分に減らされたのだから、無理も無いとも言えるが。後ろの四人も同じような状態だろう。

    「何が目的だ」

     言い放つ。ほんの少しの殺気と視線で、男達は簡単に屈した。

    「お、俺達は雇われたんだよ!」

     涙半分で言う男。
     この言葉に眉を顰めるヴェルドレッド。何故、この街を襲う必要性があるのかが、分からない。

    「ひ、一人金貨十枚払われて……お、女を殺せって言われたんだ!あ、蒼――」
    「喋りすぎだよ」

     男の言葉は最後まで続かなかった。続けようが無かった。
     突如として虚空からにじみ出た柄刃関係なく漆黒の剣に貫かれたのだ。

    「全く……依頼主のことを喋ろうとするなんてのは客商売の風上にも置けないだろ?」
    「あ……が…かし、ら」

     胸板を貫いてまるで生えているような剣を呆然と見、泣きそうな表情で頭と呼ばれた男――この歳ならば少年か――を見る。

    「な、んで……」
    「あー、うるさい」

     無造作に杖を構える少年。

    「とりあえず、死刑な」

     無邪気な死刑宣告。それを聞いた瞬間、男はなけなしの生命力と体力を注ぎ込んで、逃げようとしていた。だが、殆ど宙に足が浮いているような状態で動くことなど満足に出来るわけも無い。

    「ひ……っ!」

     喉の奥から搾り出したような悲鳴が、最後の言葉となった。
     次々と虚空から滲み出てては飛び掛る漆黒の剣にボロ雑巾にされていた。

    「さて……」

     少年の視線が次に捉えたのは――先ほどまで逃げ腰でいた残りの四人だった。

    「まさか逃げられるなんて思ってないよな?」
    「か、頭……」
    「選ばせてやるよ。俺に殺されるか、そのバカを殺してみるか……どっちがいい?」

     選べるわけが無い。たとえヴェルドレッドに挑んだとしても返り討ちにあうのがオチだ。

    「お、おい……」

     両隣の男に目配せする。ヴェルドレッドはその動作で何をしようとしているかを理解した。
     確かに一人なら殺されるのが精々だが、四人がかりならば、あるいは――

    「ま、待て!」

     目の前の魔術師を殺せるかもしれない。
     一斉に斬りかかる男達。ヴェルドレッドの静止は一瞬遅かった。

    「何してんだよ?」

     剣は少年を切ることは無かった。
     少年の頭部からあと少しといった空中で何かに止められている。物理的な結界魔術だろう。

    「う、五月蝿ぇ!」

     プレッシャーからなのか、喘ぎ喘ぎ男が叫ぶ。

    「魔術師だかなんだかしらねぇけどな、お前見たいなガキにアゴで使われるいわれなんざねぇんだよ!」
    「前のお頭を殺しておいて、何が『新しい頭』だ!盗人猛々しいってんだ!」

     馬鹿な事を――っ!
     そう叫ぼうとした。だが、ヴェルドレッドが声を上げるよりも早く、剣を振り上げた男達は上半身を血霧と変えていた。

    「頭は大丈夫デスカー?僕ちゃんは第三の選択は与えてまちぇんよー?」

     人を小ばかにしたような赤子言葉で笑う少年。突き出した左手の前面には順逆回転する三重の魔方陣。

    「……っ!逃げ――」

     順逆回転を続けていた魔方陣が鼓動するように明滅していることに気付いたヴェルドレッドは叫ぼうとする。だが、間に合わない。
     次の瞬間、路地裏を炎と暴風が覆いつくした。





    「……随分大きな爆発だね」

     王都の中心に程近いアルヴィムの邸宅。執務室の中で、果実酒片手に水鏡を覗いていたアルヴィムは優雅な微笑みを浮かべたまま呟いた。

    「火炎系攻城用魔術のようです」

     水鏡のすぐ隣に座っていた女性――紫色の髪と瞳が美しい女性だ――は掌のマナ・クリスタルに刻み込まれた構成式を維持しながら呟いた。

    「それは見れば分かるよ」苦笑混じりの声「ただ、随分と効果範囲が大きすぎるね?あれでは未熟だと思うけど……」

     この呟きに、女性は――アルヴィムの近衛兵【七将】の一人である魔術師、イーディスは頷く。

    「効果範囲の限定と威力の制限式が非常に未熟です。あれでは軍事行動の時には味方にまで被害が出てしまいます」
    「無差別攻撃専用ということかな?」

     そういうことになります。イーディスの言葉にアルヴィムは苦笑。

    「さてさて……スタッドテイン卿のお手並み拝見と思ったけど、これでは話にならないかな?」

     あの程度の雑魚を雇うようではね。と呟くアルヴィム。
     その目は――何処までも穏やかで優雅な光を湛えた目は水鏡に映し出されたパラディナの風景を睥睨していた。





    「おっ!アレを避けられるんだ……スゴクナイデスカ?マジでー!」

     冗談じゃない。内心でヴェルドレッドは叫ぶ。攻城用の魔術というのを始めてみるわけではないが、あそこまで無茶苦茶なものは始めてみた。
     攻城用魔術は構成式に多少の大雑把は許される。だが、あれでは大雑把過ぎる。あんなものをまともに使えば味方まで巻き込んでしまう。事実、ヴェルドレッドの近くにいた男達は攻撃に巻き込まれて焼死体になってしまった。
     そしてヴェルドレッドも――

    「だけど、その傷じゃもう動けそうにないなぁ!」

     爆発の衝撃で体中の裂傷が開いてしまった。出血と痛みで意識が朦朧とする。とっさに物陰に隠れられたとは言っても、完全に衝撃や熱を受け流すことは出来なかった。

    「ま、面白かったよ」

     言って、杖を突き出す。その前面にはやはり三重の魔方陣。

    ――やべぇ……
    「バイバ〜イ…」
    ――やられる

     思って、目を閉じる。
     一秒、焦らそうとでも言うのか攻撃は来ない。
     二秒、やはりこない。
     三秒、幾らなんでも遅すぎる。
     そして――

    「な、何だよ!……魔弓?」

     魔術師の声。目を開いて、確認する。

    「おいたが過ぎるんじゃねぇの?魔術師さんよぉ!」

     叫び声。この叫び声の主をヴェルドレッドは知っている。前、野党に襲われたときに助けてくれた傭兵――

    「ま、仕事じゃねぇけど慈善事業だ。街の損害分たっぷりぶちのめしてやるよ!」

     ノークウィスのものだ。
     そして、自分が倒れていることに気付いたのだろう。ノークウィスがこちらを向き、不適に笑う。

    「ヴェルドレッドだったか?けが人にしては頑張ったじゃねえか。後は任せておけよ」

     言って、ノークウィスは大剣を構えた。







    〜あとがき〜

     こんにちは、あるいはこんばんは。鍼法です。
     殆どが戦闘描写の上に話が進まなかった第四話でした。なお、題名丸文字はOSによっては文字化けするのでは?という指摘を友人からされたので、今回からは通常の数字とさせていただいております。
     さて、プロローグに当たるパラディナ編も終わりが見えてまいりました。このままお付き合いしていただければ幸いです。では、失礼します。

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