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■554 / 8階層)   第一部・『騎士の忠義・流れ者の意地』・第8話
□投稿者/ 鍼法 -(2007/02/18(Sun) 18:34:18)
    2007/02/18(Sun) 19:35:43 編集(投稿者)
    2007/02/18(Sun) 18:35:00 編集(投稿者)

                   『終章』





    (――私は許しはしない。アレは人の手には余る力だ。あんなものを持つものがいれば、必ず禍根を残す。だからこそ……)

     スタッドテインがはき捨てた言葉を脳裏に浮かべながら、アルヴィムは果実酒の注がれたグラスを指でもてあそぶ。その表情は普段通り優雅な微笑を浮かべていたが、どこかが普段とは変質していた。

    「アルヴィム様……ご采配を」

     アルヴィムの背後に控えるイーディスの声。

    「イーディス君、人が思案に埋もれているときは、静かに見守るものだよ」

     微苦笑を浮かべて、アルヴィムが呟き、果実酒を一息に飲み干した。

    「まぁ、いい……『どんな手を使ってでも、禍根を根絶やしにしてみせる』か……愚直だね。スタッドテイン卿」

     グラスを静かに置く。うつむいていた顔が上がったとき、そこに張り付いていたのは、亀裂のような笑みだった。

    「第六位をよびたまえ。イーディス君」
    「承知しました」

     ゆっくりと部屋を出て行くイーディスを背後に気配で感じながら、アルヴィムはさらに笑みを深くする。

    「ならば、スタッドテイン卿。私も本気で、仮借なく、自分の行動に移させてもうよ。卿が容赦をしないように、私もどこまでも苛烈で、容赦のない方法で、自分の目的を果たして見せようじゃないか。姉妹の力なしに、第二の災厄は乗り越えることができないということは、分かりきっているのだから」

     くぐもった笑いを部屋に響かせるアルヴィム。
     どこかで、大きな動物の遠吠えが聞こえた。







    「先輩! ヴェルドレッド先輩!」

     エルリス達と必要な食料などの買出しが終わって、町をフラフラと歩いていた。そんな時だった。
     背後からの声に振り向くヴェルドレッド。
     そこにいたのは、白銀の鎧を身に着けた騎士だった。隊証はリセリアのものだ。

    「あー……」

     顔に見覚えがあるのだが、思い出せない。

    「僕ですよ! ほら、王宮騎士団第七戦隊で先輩の部隊にいた新米の」
    「あ、ああ……リヴィアンか」

     そこまで言われて、誰のことだか思い出すヴェルドレッド。
     まだ、ヴェルドレッドが騎士だったときに指揮していた部隊の新米だ。臆病だが、剣術と視野の広さをかっていた覚えがある。

    「王宮騎士がこんなところで何をやっているんだ? 王都警備と反王宮勢力の退治が仕事だろう?」
    「あのあと地方の騎士団に左遷させられたんです。お前は勇敢じゃないからって」

     苦笑交じりに言い放つリヴィアン。
     騎士は勇敢であることも求められる。王宮騎士団団長エルムアインなどは部下に『命を惜しむな名こそ惜しめ』と激を飛ばすほどだ。

    「それだけで左遷か」
    「それだけでも、上から見れば大事なことなんですよ。そういう先輩は何をしているんですか?」
    「傭兵の真似事をやっていてな。今は依頼主と一緒にここに買出しに来たところだ」

     言いながら、肩をすくめるヴェルドレッド。

    「そうですか……」

     言いながら肩を落とすリヴィアン。

    「どうかしたのか?」
    「実は、ここ最近魔物の出現が多くなってきているんです」
    「魔物がか?」

     うなずくリヴィアン。

    「月に1,2件だった遭遇事件が今年に入ってから少しずつ増加を始めていて……」

     今、仕官を募っているところなんです。続けるリヴィアンの言葉にヴェルドレッドは眉をしかめる。別段、魔物の出現数増加は珍しいことではない。五年に一回程度だが、魔物が出やすい年というのは必ず存在するのだから。
     だが、リヴィアンの仕草にはそれ以外の何かが含まれていた。

    「街道での遭遇件数が増加しているのか」
    「はい。それも少人数のパーティーや行商人を狙って」

     小さな声で呟いたつもりだったのだが、リヴィアンには聞こえたようだ。疲れたようにため息を吐いて首を左右に振る。

    「まるで、魔物が意識を統一して人間に攻撃を仕掛けているみたいです」
    「そんなわけないだろうが」

     鼻で笑うヴェルドレッド。

    「魔物は群れで行動することはあっても、軍事的な行動をとることはないはずだ」
    「そうなんですが……」

     不安なのだろう。
     その表情を見て、肩をすくめるヴェルドレッド。昔から、こうなのだ。慎重というよりも、臆病や神経質の部類にはいるほど、リヴィアンは物事をネガティブに捉える。大抵のものなら、笑い飛ばすほどのものでも。

    「まぁ、仕方がないか」

    ――災厄からまだ十年もたってないからな……

     後半を声に出さずにおくヴェルドレッド。確かに、リヴィアンは気にしすぎではあるが、今でも実戦指揮官をしていたら、多少は気にするだろう。現在第一線で活動する騎士の多くが、ラザローン事変に何らかの関わりを持っているのだから。ヴェルドレッドも、騎士見習いとして、魔物に襲われた町の防衛についていた。

    「……まぁ、僕の考えすぎだと思うんですけど」

     苦笑しながら言うリヴィアン。

    「リヴィアン! 何時までほっつき歩く気だ!」

     とおりの向こうから聞こえてくる叫び声に、リヴィアンはばつが悪そうに振り返る。
     視線の先に居るのは、同じ白銀の鎧を着込んだ数人の騎士だ。おそらくは同僚だろう。

    「すみません。僕、仕事があるんで」
    「さっさと戻ってやれ」

     先ほどの話からすれば、騎士団は相当な仕事を抱えているのだろう。こんなところで長話をしている暇は無いはずだ。
     会釈をすると、リヴィアンは走っていった。

    「……俺も戻るか」

     言いながら、待ち合わせ場所の旅籠へと向かう。ノークウィスたちがどのような情報を持って帰ってくるかは分からないが、どの道王都に向かうのであろうことは予測できる。王都ならば制御法について何か分かるかもしれないからだ。
     乗りかかった船だ。乗っていってやろうじゃないか。そんなことを考え、ヴェルドレッドは足を速めた。
     日は沈み始めている。早く戻らなければ、待ち合わせに遅れてしまう。

       騎士の忠義流れ者の意地―了―  次章 剣士の思い竜の思いへ







    あとがき

    こんにちは、あるいはこんばんは。鍼法です。ここまで読んでいただき、ありがとう御座いました。

    今回の話は少々短いです。というのも、こちらの身勝手極まりない理由なのですが……三部作ではなく、複数の章で物語を構成することにしました。第一章『騎士の忠義流れ者の意地』は序章であり、物語の中核――背骨に位置する物語の序章だと思っていただけると、ありがたいです。第二章は、時間軸は同じですがスタート地点が王国南端の都市エンヴァスとなります。主人公は……お楽しみということで。

    第一章をここまで読んでいただき、ありがとう御座いました。では、失礼します。

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