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■325 / 1階層)   第一部・『騎士の忠義・流れ者の意地』・第1話
□投稿者/ 鍼法 -(2006/07/30(Sun) 22:14:21)
    2006/09/10(Sun) 18:29:10 編集(投稿者)
    2006/09/10(Sun) 18:27:11 編集(投稿者)
    2006/07/31(Mon) 22:02:31 編集(投稿者)



          第一話『パラディナ@』


     宿場町パルディナの特徴を挙げてみよ。
     ――田舎である。これくらいしか上がらないくらいの田舎である。

    「まったく……武器屋が無いから野党からかっぱらった武器を鍛冶屋に売るハメになっちまった」
    「文句を言うな。野党の頭の剣が上質な鉄を使っていなかったら、あんな鉄くずは買わん。すくなくとも、俺は」

     中央通りを歩きながら、ノークウィスとローブの男は皮袋の中身を覗いている。
     街道で護衛の傭兵を助けてから、すでに二日が経過していた。二人は丸一日かけて、全滅した商人キャラバンの残骸を輸送手伝い及び護衛という形で行っていたのだ。理由は簡単――

    「まぁ、商人組合から礼金も手に入ったし。一日でこんだけ稼げたのに文句を言うのは罰当たりだよな」

     言葉の通りの、謝礼目的だ。各地を巡回する商人たちは、護衛の斡旋や売買の会場などを互助会と言う形で助け合っている。その組合は商人が全滅した場合の残った物資の平等分配もしている。そのため、公平性を期して第三者――この場合はノークウィス達――が立ち会ったりするほうが、いいのだ。
     そして、再度野党が襲ってくる確率もあるので護衛が欲しい。その二つを仕事として受けて、礼金をもらったという経緯になるのだが――

    「ああ、今日は久しぶりに美味いメシが食える。温かいベッドで寝れる。もう街中で野宿なんてしなくていいんだ」

     金の無い冒険者などは街中で野宿をする場合が多い。ちなみに、各宿場町にはそういう場合に備えての広場的なものがある。

    「誰の責任で宿泊できなかったか考えてみろ」

     呟く声。その声にノークウィスは苦笑。

    「そういうなって、アルベルム」
    「ほう?貴様と組んでもう二年になるが同じことを数回経験したぞ?」

     ローブの男――アルベルム・バルデュックが苛立たしげに言い放つ。
     事実――ノークウィスが旅の財布を管理すると、三回に二回は何かしらの問題を起こすのだ。
     そのために、アルベルムは自分専用の財布を持っているのだが、中々使おうとしない。相棒を見捨てるわけにはいかないという責任感なのか、それとももっとまずい状況下で使う為なのか。
     どちらにしろ、事実上の旅の財布がノークウィスの責任かにあるというのはあまり感心できない。少なくとも、冷静な第三者ならばそういうだろう。

    「じゃ、お前に財布任せるか?いくらプロ意識が高いからって最高の装備を集めてたらおまんま食い下げなんだぞ」

     そう――
     アルベルムはアルベルムで財布を任せられない理由があるのだ。
     曰く「俺達はプロ。最高の装備で固めておかなければ命が幾つあっても足りない」
     一理ある。二理も三理もある。戦場で安物の剣が折れ、粗悪品の鎧が砕け、劣悪な魔道機関が不具合を起こしたら目も当てられない。だからといって軍の特殊部隊が使用するような魔弓と魔道短剣を従軍手当ての全てで買ったりする必要はないと思う。

    「む……」

     五十歩百歩。どんぐりの背比べ。
     どちらも変わらないのかも知れない――

    「まぁ、いい。とりあえずメシでも食うか」

     ――話をそらしやがった
     フーとため息を吐きながら、ノークウィスは内心で呟く。実を言えば、ノークウィスは不毛な言い争いをしたいとは思っていない。どちらとも金の管理が雑というだけの問題なのだから。

    「じゃぁ、久しぶりに豪勢な食事といきますか」








    ――汝、何を望みて騎士と成り得る?
     ――我、望むべくは王の平安
    ――汝、何を愛でんがために騎士と成り得る?
     ――我、愛でるものは民の笑顔
    ――汝、和を尊び平和を愛すか?
     ――是、平和を善とし、和を尊ぶ
    (またこの夢か……)


     セピア調で流れる風景。六年前、まだ成人してから間もない頃に行われた騎士宣誓の儀式。


    (まったく……このころの俺といったら餓鬼だったからな)


     夢の風景の中、宣誓の誓いとして渡された剣《ガーディアンズ》を、目を輝かせて見つめている自分を見る。


    (この後半年の間には汚職やらなんやらでけっこう幻滅したんだよぁ)


     俺の穢れ無き精神が穢れたのはこの頃かも?などと夢で幻滅する。


    (まぁ、あの宣誓が無かったら俺は傭兵になって商人の護衛やってないよなぁ)

     ここで、ヴェルドレッドは覚醒した。






    「起きましたか?」
    「……ここは?」

     目を覚ましてみると、そこは簡素な病室だった。ベッドのすぐ隣には白衣に身をつつんだ女性が立っている。どうやら、起き上がった気配を察知して様子を見に来たらしい。
     清潔な毛布に掃除が行き届いているのであろう、綺麗な室内。さらには清潔な服装で忙しそうに歩き回る医師の姿も見られる。

    「パルディナの診療所です」
    「言うことは……俺は生き残ったのか」
    「そういうことになりますね」

     これだけ小さな診療所なのだから、自分がどのような理由で運び込まれたのか知っているのだろう。そう考え、内心で眉を顰める。名誉ある死などというものに興味は無いが、それでも小さじ一杯分くらいのプライドは装備しているのだ。
     そこまで考えて、額に掌を軽く当てる。重要なことを忘れていた。

    「なんてこった……生き残ったのはいいが金が無きゃ生殺しだぞ」

     そう、金が無い。ついでに言うならば持ち合わせは殆ど無い。
     診療所から出るのにも治療費を支払わなければいけない上に、この先最低限の水と食料――贅沢を言うならば、新しい剣――を手に入れるための金も必要なのだ。

    ――これなら、死んだ方が良かったかも……
    「大丈夫ですよ」

     言って、白衣の女性が皮袋を渡す。感触からして銀貨と銅貨が何枚か――銅貨と銀かはサイズと重さが違うので、振ったりすると分かる――入っているらしい。

    「これは……どういうことで?」
    「商人組合の方々からです。『商人は運べなかったが、商品は行程半分運んだので四分の一だけ金を払う』と」
    「……ボロ儲けのくせに」

     小さく呟く。襲われたキャラバンの商品は全てパラディナの商人に分配される。当然、その分の仕入れが減るので得するのだ。中には盗賊などと結束して商人キャラバンを襲って商品を奪う商人もいるくらいなのだから。

    「そういう事言わないでくださいね」

     誰もが思っても口にしない言葉なんですから。と、続ける女性。公然の事実ではあるが、交通機関が街道しかないパラディナにとって外部からのものを手に入れる一番いい方法は商人なのだから、逆らえないのだ。これだけ小さい町――というよりも村――ならば、商人に睨まれれば生活必需品も手に入りにくくなるのだろう。

    「すまなかった」
    「分かってもらえれば良いんです」
    「そういえば、俺をここに運んできた傭兵が居ると思うんだけど」
    「ああ、あの人たちなら、酒場に居ると思いますよ」

     怪訝な表情を浮かべるヴェルドレッド。何故、酒場と言い切れるのか。

    「ここは本当に何も無い田舎ですから、娯楽と言ったら酒場くらいのものです」

     怪訝な表情を浮かべているのに気が付いたのか、苦笑半分に付け加える。

    「酒場か……回復したら、寄ってみるかな」

     ベッドに寝転びながら、呟く。

    「その傭兵にも会って話がしたいし……きっといい奴なんだろうな」








    「ぶえーくしょいっ!」

     同刻、酒場では大きなくしゃみが響いていた。
     ヴェルドレッドに『いい人』扱いされたノークウィスのものだ。
     くしゃみで唾が自分の料理に入らないよう持ち上げて、アルベルムは眉を顰める。食事の時くらいはローブを脱いで、椅子の背もたれにかけている。
     ウェーブのかかった黒髪と剣呑そうな目つきのアルベルムは、ノークウィスのように鎧ではなくゆったりとしたシャツに帷子を着こんでいるだけという、非常に――傭兵としては――軽装だった。

    「……誰か俺が良い男だと噂してやがる」

     ノークウィスの呟きに軽くため息だけ吐くと、アルベルムは目の前の皿に盛られた肉を黙々と食べる。相棒の馬鹿馬鹿しい呟きに我関せずを決め込んでいるようだ。

    「ああ、一体何処の美女だろうなぁ……この超が付くほどにカッコイイノークウィス君に黄色い歓声を上げているのは」
    「妄想もそこまでにしろ。食事が不味くなる」

     希望に満ちた目つき――見るものが見るものならば、飢えた獣の目つきと称するだろう――であたりを見回し始めたノークウィスに侮蔑を籠めて言い放つアルベルム。
     酒場の雰囲気は――少なくとも、ノークウィスの近くは――かなり悪い。一般客と傭兵などの『訳あり』を分けている為だ。小さな宿場町だ。もし、一般客に何かあればこの酒場は信用を致命的に失って、潰れてしまう。そのことを考えてなのか『訳あり』の客は別に入り口が作られた、奥の部屋に集められている。前払いなので、食事の後は入り口とは別に作られた裏口ともいえるドアから出て行くことになっている。

    「なんだよ、俺が美女に想われているって思っちゃ悪いか?」
    「悪いとは言っていない。ただ、俺は静かに食事がしたいと言っているだけだ」

     この静かというのは、ノークウィスの動作が鬱陶しいと言う意味合いも含まれているのだろう。
     酷く馬鹿にされて肩を震わせるノークウィスをよそに、アルベルムは皿に盛られた肉とサラダを食べ終わり、茶を飲み始めている。

    「お前な!馬鹿にすんのも――」

     叫ぼうとするノークウィス。だが、喧騒の中からほんの少し聞こえてきた音に、一瞬で集中する。戦闘が終わったとの戦場や深い森などでよく耳にする咆哮。

    ――魔物……数は8ってところか

     どうする?とアルベルムに視線を送るノークウィス。アルベルムは既にローブを着こんで酒場を後にする準備を始めている。

    「行くぞ」
    「行くって、どこにだよ?」
    「宿屋だ」
    「そうだな」

     アルベルムの言葉にうなずくノークウィス。
     その行動に叫びを上げたのは、すぐ近くに座っていた少女だった。

    「ちょっと待ってください!」
    「ん?何?」
    「何って……助けないんですか!?」
    「何で助けんだよ?」

     うっと良い詰まる少女。まさか、真顔で『何故助けなければいけないのか』と返されるとは思っていなかったのだろう。

    「だって……困ってる人がいるのに!」
    「だから、何で困っている奴がいたら、助けなきゃいけないんだ?」
    「人として当然じゃないんですか!?」
    「俺の感性的には当然じゃないね」

     今にも噛み付いてきそうな少女の叫びを聞き流しながら、背中に大剣を背負いなおすノークウィス。今にも宿に戻りますといった雰囲気だ。

    「うう……じゃ、じゃあ私が雇います!」

     『雇う』の一言に、ノークウィスの足が止まる。

    「幾らで?」
    「え……?え〜と……銀貨一枚で」
    「安いな、銀貨三枚」
    「そんな……」

     ちなみに銀貨三枚あれば、町で一番上等な宿を借りることが出来る。貧乏人向けの宿が銅貨10枚ということを考えれば、相当な大金だろう。

    「む、無理です!」
    「じゃぁ、他当たれ」
    「うう……人でなし!」
    ――かわいい女の子に人でなしとか言われると傷付くよなぁ

     内心で肩を落とす。仕方が無いから協力しようか考えるが、金には人一倍うるさいアルベルムは決して協力しようとは思わないだろうし、はっきりいって安すぎる。幾ら傭兵が命を二束三文で売り払うような連中だとしても、さすがに安い。
     そこまで考えて、気が付いた。わざわざ目の前の少女から銀貨三枚を受け取らなくてもいいのだ。

    「分かった。その依頼、受けてやるよ。ただし報酬は銀貨三枚」
    「そんな……っ!今、自由に出来るお金がそんなには……」
    「分かってるよ。半分慈善事業だ。第一、そこに座っている嬢ちゃんの連れの視線が痛いし」

     言って、ノークウィスは視線で席を指す。そこに座っている少女が、先ほどから非常に強い嫌悪の視線を送っているので、ノークウィスとしても居心地が悪い部分があったのだろう。

    「そこで、だ。お嬢ちゃんが払うのは銀貨一枚。残りの銀貨二枚は町の自警団にでも支払わせる。自分らの町を護ってくれるんだ、自警団だって文句は言わないさ。これで問題なく俺らには銀貨三枚が、お譲ちゃんのいう人助けができるってわけだ……文句ないよな?アルベルム」
    「……勝手にしろ」

     小さくため息を吐くと、アルベルムは言い放った。その後に、ノークウィスたちにも聞こえないように「お人よしが」と呟く響きに苦笑めいたものが混じっていたのは、本人には秘密だろう。

    「契約成立だ。俺の名前はノークウィス。お嬢ちゃんは?」
    「エルリスです。エルリス・ハーネット」
    「OK、お嬢ちゃん。いや、エルリスちゃんって呼んだ方がいいのか?」
    「お好きな方にどうぞ」
    「そうかい。じゃぁ、エルリスちゃん、少し待ってな。さっさと片付けてくるから、よ」

     報酬用意しといてくれよ。と言い放つと、ノークウィスは駆けていった。









    あとがき
    こんにちは、あるいはこんばんは。鍼法です。ここまで拙作を読んでいただいて、ありがとうございます。
    さて、序章が終了して第一話ですが、第一部の鍵を握る少女。メインキャラ設定にも名前が載っているエルリス・ハーネットが登場でございます。彼女と共に第一部の鍵を握る少女、セリス・ハーネットは終了間近に姿だけ登場……この後あーなってこーなって。とプロットとクライマックスの情景ばかりが浮く今日この頃です。
    ここまで読んでいただき真にありがとうございます。第二話でまた出会えることを切に祈っております。ではっ!

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