Release 0シルフェニアRiverside Hole

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■247 / 2階層)  LIGHT AND KNIGHT 三話
□投稿者/ マーク -(2005/12/25(Sun) 02:05:19)






    ―カランカラン

    「ん、誰だ?」

    カウンターに座り、新聞を読んでいた店主は入ってきた相手へと視線を向ける。
    入ってきたのは金髪をした二人組みだ。

    「久しぶりね」

    そういって、笑う少女とは対象に店主の顔は怪訝そうな顔をしている。

    「あんたか。
     連れがいるとは珍しいな」
    「まあ、いろいろあってね。
     鑑定と買取―よろしくね」

    そういって戦利品を取り出し、店主の前にそっと並べていく。
    剣やアクセサリーなど、実に多種多様な代物がカウンターを飾った。

    「ふん、剣はただの古い剣か。
     こっちの首飾りは―」

    店主は置かれた物を一つづつ、手に取り調べていく。
    その様子を見る限り、あまり高く売れそうな代物はなさそうだ。
    しばらく経って鑑定が終わると、店主はカウンターの下から銀貨を取り出して袋にしまい、ヒカルの前にドスン、と置いた。

    「ふん―しめて銀貨20枚か」
    「22」

    店主の見立てた代金に対し、ヒカルが横から口を挟む。
    あと二枚おまけしろ。
    という要求に店主は大層、嫌そうな顔でヒカルの顔を睨む。
    しかし、それにも負けずヒカルは真っ向からその視線に答えた。

    「―――」
    「―――」

    無言のにらみ合い。
    先に根負けしたのは店主だった。
    店主は、カウンターの下から更に二枚の銀貨を取り出し、袋に入れる。
    それに対し、ヒカルはといえば、妙に物分りのいい店主にむしろ、怪訝な顔をしていた。

    「妙にあっさり引いたわね」
    「うるさい、とっとと帰れ。
     面倒ごとはゴメンだ」

    たった今買い取った商品を後ろの棚にしまい、再び新聞へと目を向ける。
    その態度に腹立たしく思い、店主に声をかける。

    「厄介事って何よ?」

    店主は新聞に目を向けたまま、たった一言でその問いに答える。

    「『ジャンヌ』の凱旋だ」
    「――!?」

    ある種、予想外の答えに息を詰めらせる。
    ―『ジャンヌ』
    それは教会が誇る三聖女の一柱。
    聖女とは如何なる病も治し、死に行く命すら救うという教会のシンボルの一つ。
    清らかなる乙女のみが持つというその奇跡を持って、教会は人こそが神に
    愛された存在だと謳う。
    現在の聖女は『マリア』、『ジャンヌ』、『ブリジット』の三人。
    その中でもジャンヌは黒髪の戦乙女とも呼ばれる神速の剣士でもある。
    それゆえ、『ジャンヌ』はその奇跡と剣技を持って、戦いを勝利に導く。
    この凱旋というのは戻る際に近くの街を寄り、人々に奇跡を行使することを指す。
    つまり、今この街に聖女が来ているという事だ。

    「分かったか?
     お陰で今ここには教会のやつがうじゃうじゃいる。
     こう言いたくは無いが、ハーフと関わりを持っていると思われたくないんだ。
     悪いな」
    「分かってるわよ」

    それを聞いて、銀貨の入った袋を掴み、店を出る。
    とっとと、帰ろう。
    そう思って店を出て大通りから裏道に出ようといたら後ろから腕を引っ張られた。
    慌てて振り返るとそこには―

    「やっと、止まった」
    「レイス?」

    自分の腕をつかんでいる金髪の少年を見る。
    いったい、何だろう?

    「別に構わないんだけさ、その銀貨は山分けじゃなかったっけ?」
    「あっ」

    と、そこで今の今までレイスのことを完全に忘れていたのに今更ながら気づいた。
    『ジャンヌ』の事を聞いて、気が動転してたらしい。

    「ごめん。あー、もう」
    「気にしなくていいよ。
     ハーフにとっては教会のことは死活問題だろうからね」

    それだけじゃないんだけどなー、と思うが口にはしない。
    ふと、今立ち止まっている先に人垣ができているのが見えた。
    人垣の間から見えるのは黒髪の少女が祈る様にして手を重ね、何かをしている姿。
    一目見て、それが何か悟った。

    「―『ジャンヌ』」
    「みたいだね」

    黒髪の少女は一心不乱に祈り、救いを求める人たちへと奇跡を行使している。
    だが、その顔は遠目から見ても分かるほど憔悴している。
    おそらく、あと、一、二度が限界であろう。
    その読みが正しいことを示すようにジャンヌは一度ふらつき、目の前に立つ
    子供を抱えた女性に頭を下げる。

    「―そんな、どうして!?」

    女性の悲痛な叫びにただただ、ごめんなさいという様に頭を下げて去っていく。
    ジャンヌを追おうと、女性は子供を抱えたまま走り出そうとするが、
    護衛の騎士たちに遮られ、ジャンヌの姿が見えなくなると同時に
    そのまま地面に座り込み涙をこぼす。
    自分がその一部始終を見て、冷めた思いでその両者を見ていることに気付く。
    両者とも、間違っているとは思わない。
    聖女とて全ての人を救えるわけでは決して無いのだ。
    けれど、女性にとってはそれで割り切れるはずが無い。
    けれども、それは―

    「仕方が無い・・・こと」

    騎士が女性から離れ、聖女の下へと歩き出すと同時、動き出したものがいた。
    ―レイスだ。
    レイスは、女性の下へと歩み寄り、抱きかかえた子供を見る。

    「呼吸が荒いし、熱が酷い?
     これはフラナの毒か。
     確か、解毒にはハイカの葉が効いた筈」

    そう呟き、先日、遺跡から入手した材料の一つである葉っぱを数枚取り出す。
    フラナとはこの近くに群生している花の名だ。
    一見、綺麗な花だがある一定の時期と条件下で毒性のある花粉を噴出する。
    毒性は消して低い訳ではなく、あのぐらいの子供には生死に関わる程だ。
    家の近くにも群生してたし、帰ったら気をつけたほうが良さそうだ。
    と少し場違いな感想を抱く。
    もっとも、生命力の高い獣人や元々森に住むエルフにとっては風邪を引く程度で済むのだが。

    「これを煎じて飲ませれば、明日の晩には良くなるでしょう」
    「えっ?あっ」
    「早く、帰って寝かせたほうがいいですよ」

    そういって、女性に葉っぱを持たせて離れる。

    「―ありがとうございます」

    女性は深く頭を下げて、お礼の言葉を口にする。
    レイスはそれに対し、穏やかな笑みで返した。

    「いいの?」
    「何が?」
    「折角手に入れたのにあげちゃっていいの?」
    「ああ、それか。
     うん、構わないよ。
     ちょっとした反発さ」
    「反発?」

    疑問符を上げ首をかしげると、今までの穏やかな笑みから少し変わり、どこか悪戯好きの子供のような顔で答える。

    「だってほら、かの聖女様が救えなかった人を救えるんだ。
     これって実は凄い事じゃないかな?」
    「ぷっ」

    レイスの言葉に思わず、慌てて口を押さえるが我慢できず、軽く吹き出す。
    でも、そうだ。
    聖女には多くの人を救う力がある。
    けれど、それは聖女の力でなくとも、人の力でも十分に救える者も多い。
    中には聖女の奇跡を持ってしか助からないものもいるかもしれない。
    今の子供だって、運良くレイスが薬を持っていたからだが、そうでなかったらどうなっていたかは、おそらく明白だろう。
    だが、とも思う。
    教会にとって聖女こそが彼らの掲げる正義でもある。
    人は選ばれた存在だ―故にそれ以外のものは迫害されて当然という認識を持つ。
    それは彼女たちの所為なのではないのか?
    暗い感情が自身の中に浮かんでくる。
    けれど、それが八つ当たりだとも分かっている。
    彼女たちだって―

    「ただほんのちょっとだけ、普通と違う力があるだけなのにね。
     なのに、どうして―」
    「ヒカル?」

    何処か上の空に呟くこちらの様子をいぶかしんでこちらの顔を覗き込んで来る。
    それに気付き、慌てて顔を上げ、一歩、後ろに下がる

    「・・・・そろそろ、お別れね。
     これ、さっきのお金の半分」
    「あっ、ちょっと」
    「じゃあね」

    かけられた言葉を振り切り、そのまま逃げるようにして去っていく。
    自分にとってもっとも禁忌となる存在。
    それはやはり、まだ乗り越えられそうになかった。








    「はあはあ」

    荒く息を吐き、今まで走ってきた道を振り返る。
    そこには今まで隣を歩いた少年の姿など見えるはずはない。
    だというのに、どこかで追ってきているのを期待している自分に気付く。
    なんて、身勝手なのだろう。
    逃げる様にして去っていったというのに、追いかけてくれるのを望んでいるなど。
    そんな、自分の感情に嫌気が差す。
    何故、こんな心が乱れているのか?―簡単だ。
    自身にとっての禁忌に触れたのに平然としていられるほど自分が強くないからだ。

    「はあ、ばっかみたい」

    それは誰にむけて言った言葉なのか自分ですら分からない。
    自分なのか、レイスに向けてなのか、それともあの聖女なのか。
    ふと、視線を感じ、周りを見渡すとちらほらとこちらを見ているものがいる。
    ただ不思議そうに首を傾げるがそれ以上は、何もしない。
    いつも、通りを歩いているとこうやって視線を感じる。
    セイ曰く、私はなかなか人目を引く容貌をしているらしい。
    といっても、自分ではそうも思わない。
    が、視線に敵意が入ってない以上、やたら敏感に反応することも無い。
    そう―敵意さえなければ。
    視線の一部に薄っすらとだが敵意と良く似た感情を感じる。
    間違ってもそれは穏やかな感情ではない。
    それは獲物を見つけたときの感情にも似ているようにも感じた。
    しかし、振り向いた見渡すが視線の主は判別がつかない。
    はっきりいって気味が悪い。
    そしてなにより、ここはいまだ街の通りの中だ。
    こんなとこで騒ぐのはあまりにも不味い。
    そこで、教会のものにでも見つかれそれこそお終いだ。
    だから、速度を上げ不自然にならない程度に早足で街の出口をと歩く。
    視線の主はぴったりこちらについてきている。
    ―ったく、一体何の用かしら?




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