Release 0シルフェニアRiverside Hole

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■271 / 3階層)  LIGHT AND KNIGHT 四話
□投稿者/ マーク -(2006/05/14(Sun) 22:04:39)




    既に日が暮れ始めた状態で森に入るのはいくら慣れた道とはいえ、危険であり
    街の宿で一晩あかし、明朝、早くに街を出て、街から僅かに離れた森に進む。
    この森は自分たちが住む孤児院の裏の森と繋がっている。
    出入りにも使うことがあり、下手のものより土地勘はある。
    森に入って数分ほど歩き、急に立ち止まる。
    今だ、視線は消えていない。
    宿の中でも無遠慮にそそがれるその視線にはいい加減、苛立ってきたので、
    追ってきているであろう敵のいるであろう方角に向き直る。

    「さて、私に何の用かしら?」

    腕を組んでそう尋ねるも返事は返ってこない。
    ―だんまりか。

    「―キッ」

    そこで何かが鳴く様な音がする。
    瞬時にそこに目を向けるとそこには一匹の猿―

    「猿?」

    これが、視線の正体か?
    そういえば、時々山の猿が餌などを求めて街に下りてくることもあるそうな。
    ふむ。だが何か誘うようなものでもあっただろう?

    「あー」

    そういえば、子供たちへのお土産に果物を買ってた。
    その中には確かバナナもあったはず。
    そうこう考えている間にそろりそろりと猿が歩み寄ってくる。
    ―まあ、いっか。
    と、思いアーカイバを出そうと、目を外した瞬間―

    「―!?」

    突如、踏み込んできた猿が右の腕を振るう。
    瞬間的にバックステップで回避したため、怪我は無い。
    そして、次の瞬間には一目散に走り去っていく猿の後姿。
    猿は信じられぬ速さで木の陰へと逃走した。
    良く考えればアーカイバにしまった物の匂いなどわかるはずが無い。
    店で買ったときから狙っていたなら、店のものを盗んだほうが効率がいいだろう。

    「いったい何が―」

    と、そこで気付いた。
    空振りで終わったと見えたその腕がちゃっかり胸から下げていた
    お守りをもぎ取っていたのを。
    首から提げた紐は途中で千切れ、繋がっていた護符が消えている。
    だが、何故護符など?
    あんなものに大した、否、価値としては全く無い。
    かといって決して人目を引くような物などではなかったはずだ。
    いや、待て。
    自分はアレと似たものをもう一つ持っていたではないか。
    まさか、それと勘違いしたのか?
    だとすれば、アレは何者かの使い魔の可能性が高い。
    手にかけたアーカイバを開き、ある物を取り出す。
    それは、刀の柄の様な形、また小さなナイフのような形状に彫られた黒ずんだ木の護符。
    あの遺跡の魔方陣に刺さっていたこの護符を一体何故、奪おうとするのか?
    護符を掲げ、日に照らして観察するが、何もわからない。
    だが、これでこの護符には何かがあるのは分かった。
    護符をアーカイバではなく取り出だしやすい道具入れにしまい、猿の消えた方角を見やり、
    そのまま駆け出した。






    木々の間を駆け抜け、猿の行き先を追う。
    勝手知ったる森だが、視界ギリギリに見える猿の速度は衰えず、
    差は縮まるどころか再び開きかねない。
    だが、森を抜けるまで食いつければそれでいい。
    森を抜け、障害物の無い見晴らしの良いであろう道にでさえすれば、
    必ず追いつく自信はある。
    だが、今まで視界を覆い尽くす様に茂った木の密集地帯が、その密度を
    減らすにつれ、少しづつ猿の速度が落ちているのが分かった。

    「これなら―」

    しかし、木々の間から現れた影を視認し、ブレーキをかける。
    同時に、ソレが腕を振り抜き、目の前の空間を刈り取る。

    「なにこれ?」

    現れたのは一言で言うなら人形。
    起伏の無いまるでお面のような顔に、関節など無いように見える手足。
    瞳と思わしき器官以外見受けられない顔には意思を感じられない。
    人形がだらりと地面に伸ばした長い腕を後ろに引き、踏み込むと同時に振るう。
    鞭のようにして振るわれた腕を身を屈めて回避する。
    空振りした腕は真後ろにあった木をなぎ倒し、逆の手を振りかぶる。
    瞬時に、横に飛んで真上から振り落とされた腕を避ける。
    鞭のような腕から繰り出される一撃は危険だが、振りかぶった際にその軌道は
    大方、読み取れる。
    けれど、油断はできない。
    その威力は強大、食らえば後ろの木と同じ運命となる。
    しかし、次の瞬間人形は予想を裏切る行動に出た。
    左腕を真後ろに引き、拳を繰り出す。
    ただし、拳は握られていない。
    手刀の形で繰り出された腕が伸び、突きを繰り出してきた。
    まさしく、槍のごとき一刺し。
    判断は一瞬。
    右足を高く上げ、迫りくる一撃に対し、こちらも一撃を放つ。
    狙いを違えず、振り下ろされた踵落しは人形の腕を叩き落し、
    強引に軌道を変えられた腕は地面へと深く突き刺さる。
    地面に深々と刺さった腕は容易には抜けず片腕が固定された。
    逆の腕も左肩を引けないため、一撃を放てない。
    その隙に駆け出し、威力もスピードも無い一撃をかわして右足を振りぬく。
    右足の先に圧縮した空気の刃が人形の胴体を両断し、崩れ落ちる。
    これで動くことは出来まい。
    使い魔だとしてもこれほどの重症では再生にも時間がかかるであろう。
    動けないそれに止めを刺すよりも先にすべきことがある。
    装備品の一つである投擲用のダガーを右手に構え、気配を伺う。
    今までの人形とははっきり異なる人の気配―おそらくこの人形を仕掛けた
    相手だろう―が真っ直ぐこちらへと向かってきている。
    木の陰に隠れて気配を消し、タイミングを計る。
    そして、目標が一息で飛びかかれる範囲に入った瞬間、飛び出した。
    相手を押し倒し、馬乗りになって首筋にダガーを突きつける。
    その突きつけた首筋の上、相手の容姿を確認して、息を呑む。

    「・・・・レイス」
    「ヒカル・・・・」

    こちらの名を呼ぶと直ぐにレイスの顔には驚きの色に染まる。
    その反応に困惑し、首筋から短剣が僅かに離れ硬直する。
    だが―

    ―チャ
    「!?」

    かすかな物音と共にレイスの腕が上げられる。
    その手には今まで見てきた鋼の双剣ではなく、鉄色の砲。
    瞬間、首筋から離したばかりの短剣を、首筋へと伸ばし―

    ―ダーンッ

    銃声が響き、動きが止まる。
    しかし、痛みは無い。
    銃口はこちらではなく、その後ろ。
    失った下半身を自力で再生し背後から忍び寄ってきていたあの人形の眉間を撃ち貫いていた。
    ―なぜ?
    疑問が浮かぶ。
    この人形を仕掛けてきた相手なら、あんなことするはずが無い。
    ならば―

    「そろそろ、どいてくれない?」

    その言葉に従い、警戒しながらもレイスの腹から降りた。









    「とりあえず、聞くわ。
     アレ、あんたの仕業じゃないのね?」
    「あの人形かい?
     僕の仕業じゃないよ。
     むしろ君の仕業じゃないか、思ってたんだけど」
    「はあっ!?
     なんで、私が」

    そういうと、レイスは考え込むようなポーズをとり、
    つい先ほど倒した人形の消えた場所まで歩く。

    「これ、分かるかい?」

    そういって、拾い上げたのは人の形に切られた一枚の紙。
    紙の頭には針で刺されたかのような穴が開いている。
    けれど、その穴の位置と人形の紙で見当がついた。

    「式神・・・・」

    父から聞いた蓬莱に伝わる術の一種だ。
    紙や石、術者の一部を媒介に用いて兵を生み出し、使役する使兵術だ。
    形式的には使い魔に似ているが、使い魔には基本的に人格があるが、
    式神にはなく、あくまでも都合のいい道具でしかない。
    また、使い魔などと同様身体は魔力で構成されてあり、魔力があれば再生できる。

    「でも、それが?」
    「僕はこれに街の方で襲われた。
     狙われる謂れなんて無かったし、つい先日蓬莱の名を持つものと会った。
     偶然とは思えなくってね」
    「まあ、確かに・・・・」

    自分だって同じような状況ならば、そう判断するだろう。

    「でも、あいにく私の差し金じゃないわよ」
    「そのようだね、君も狙われてたということはあの遺跡か、もしくは
     街での一件か」
    「街での一件?」
    「ほら、街でフラナの毒にかかってた子供を」
    「ああ。でも、それが何でまた狙われる理由に?」

    お礼を言われることはあっても、狙われる謂れは無い。
    なんで、人助けして狙われねばならないのだろう?

    「助けたからこそさ。
     聖女が助けられずに見捨てた上に、聖女でもなんでもない人間が
     それを助けたからね。
     これじゃ、聖女に不信感を持ちかねない。
     そうすれば、おのずと教会に威信にも関わる。
     教会にとっては目障りにもなるよ」
    「私が襲われた理由は?」
    「一緒にいたから、仲間と思われたかな。
     と言いたいとこだけど、多分、教会は白かな」
    「でしょうね、それなら街で手を下すでしょうし。
     それに―」

    小物入れの口に手を入れ、そこから護符を取り出し目の前にかざす。

    「これを狙う理由に説明がつかない」
    「なるほど、それが狙いなのか。
     けど、今度はそんなものを何故狙うか―それが疑問だ」
    「そうなのよね」

    所詮、こんなのは木だ。
    しかも、魔力と瘴気で汚れきり、木炭のように燃やす以外に使い道はあろうか。
    それに燃やしても染み込んだ瘴気は煙となって周囲を穢すであろう。

    「ちょっと貸して」

    そういって、ひったくるように私の手から護符を奪う。
    そのまま、護符を握った手を額へと当て、目を瞑って瞑想を始めた。
    目を瞑っていた時間は短かった。
    ほんの十数秒で瞼を開け、溜息をついた。

    「駄目か」
    「何しようとしてたの」
    「ん?ああ、この木に残った気配から何か掴めないかと思ったんだけど
     瘴気の穢れが邪魔して駄目みたいだ」
    「ふーん・・・穢れが消えれば何とかなるの?」
    「えっ、まあ、多分」
    「よし、じゃあついてきて」

    やろうと思えば、この程度の瘴気なら私の力で祓える。
    ここまで走ってきた道のりを思い出し、おおよその現在地から目的の
    場所の方角を探し、走り出した。




    森の中を二つの影が駆けていく。
    前を走る少女―ヒカル―はこの深い森の中でも迷い無く進む。
    その背中を追って少年―レイス―もまた同じく道を駆けていく。
    やがて少女が立ち止まり、それに習って少年も足を止める。

    「たしか、この辺のはず・・・・」

    そういって周囲を見渡すが、木が生い茂る視界を塞いでしまっている。
    しかし、少女が何を探しているのか、それを知らぬ少年は少女に声をかける。

    「ねえ、結局どこに向かっているのさ?」
    「すぐ分かるわよ、それより静かにしてて」

    かけられた言葉を一蹴のものに切って捨て、ヒカルは瞼を閉じ意識を集中させる。
    それを見て同じようにレイスもまた瞼を閉じ、意識を集中させる。

    ―――――ッ

    音が聞こえる。
    微かだが水の流れる音だ。

    「あった!」

    閉じた瞼が勢い良く開かれ、水の聞こえる方角へと飛び出す。
    どうやら、この水音の先、おそらく湖か泉こそがヒカルの目的の場所だと、レイスは
    判断し、ヒカルを追いかける。
    木々を抜けると、そこには泉があった。
    底まで見渡せるほど、澄んだ泉だ。

    「すごいな」

    思わず、感嘆の声を漏らす。
    それほどまでに、この泉の水は澄み切っている。
    ヒカルは、そんなレイスの様子に目を向け満足げに微笑み、泉の淵まで歩き膝を突いて
    覗き込む。
    ―よし、と泉の状態を確認し、左手で護符を取り出し、空いた右手で自身の髪を
    一本掴んで抜き、護符に巻きつけ、左手で掴んだまま泉に護符を沈める。
    自分の髪を使ったことから見て何らかの簡易的な儀式であろうと、レイスは判断したが
    その内容まではつかめない。
    こんな簡易な儀式で本当に瘴気を払えるのか?
    堪えきれずにレイスは不安げにヒカルに尋ねた。

    「大丈夫なのかい?」
    「何が?」
    「悪いけど、こんな簡易な儀式でその瘴気は払えないと思うんだが」
    「ふーん、まあそうね、普通なら。よっと」
    「なら―」

    そこで、言葉は止まった。
    ヒカルが引き上げた護符が視界に入り、驚愕によって一切に動きが停止する。
    護符は水につける前の黒ずみ、禍々しいまでの瘴気を漂わせていたというのに
    今そこにある物には一切合切、そのような気配は無く、見た目にも生気に溢れた
    色合いをしている。

    「いったい、どうやって?」
    「見た通りよ、髪を巻きつけて泉に沈めただけ」
    「だが―」
    「特別なことは一つだけ、名前を使っただけ」
    「名前?」
    「そっ、名前ってその固有のものを表す記号でしょ。
     人の名前だって付けた人がそうであれという願いが込めらて付けるもの。
     だから、名前ってのは多かれ少なかれ、その恩恵を受けるものなのよ。
     蓬莱ではこういうのを名は体を現すと言ってたはずだけど」
    「名前が力になる。そういうことかい?」
    「そんな感じ。
     蓬莱では泉というのは白い、というか清い水って書くの。
     それと私の名前ね」
    「光」
    「そう、闇とか魔を払うにはうってつけというわけ。
     この泉が澄んでるのは多分、名前が力になるというルールの縛りが強いからね。
     さて、一体これは―」

    そこで、護符を握ったままヒカルの動きが止まった。
    その視線は一点を、護符を凝視したまま動かない。

    「ヒカル?」
    「あっ、何?」

    声をかけられ、ハッとした表情でようやく護符から視線を外し、レイスを見る。

    「何か分かったのかい?」
    「ううん、何も。
     私でも何か分からなかったから驚いちゃって」

    はははっと、笑うがその笑みには少し違和感を感じさせる。

    「・・・・それ貸してくれる」
    「あっ、はい」

    手渡された護符を握り、意識を集中させる。
    しかし、瞼を開けたレイスの顔は堅い。

    「だめだ、持ち主が何ならかの妨害をしているみたいで僕の力じゃ分からない」
    「そう・・・・それ、返して」

    そう言われて言われるがまま、護符をヒカルの手に返す。

    「とりあえず、これは私が持っておくから。
     また、襲われるかもしれないけど、向こうも私が持っていることに
     すぐ気付くだろうし、そうすればレイスが襲われる心配は無いと思うわ」
    「君はどうするんだい?」
    「これについて調べて危なかったら手を引くわ。
     それじゃあ、そろそろお別れにしましょ」
    「だが!」
    「悪いけど―」

    そういって、レイスの声を遮る。
    それでも言葉を続けようとしたレイスの言葉はヒカルの瞳によって押さえ込まれた。

    「私にはあなたに近づく勇気も無いし、あなたが私の領域に踏み込むのを許すこともできない」

    そこで、一度言葉をきり、厳しかった目つきを若干緩め、困ったような顔のまま、
    笑みを浮かべる。

    「もともと、たった一度組んだだけでパーティーでしょ。
     元の鞘に戻るだけよ」

    レイスはそれでも納得がいかないといった顔つきだが、レイスもヒカルもお互い、冒険者だ。
    余計な深入りは許されない。
    何より、彼女にこのような顔をさせてしまった以上、踏み入るべきではない。

    「分かった。気をつけて」
    「ありがと」




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