Release 0シルフェニアRiverside Hole

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■311 / 7階層)  LIGHT AND KNIGHT 八話
□投稿者/ マーク -(2006/07/17(Mon) 06:22:29)




    「招かれざる客、ですか。
     よもや、ここまで来るとは」

    そういって、神木に片手をつきこちらに背を向けていた男は身を翻し
    こちらに向かい合う。
    男は三、四十歳ほどの先ほどの二人と同じ、蓬莱の服を纏った呪術師だ。
    纏う空気は穏やかながらもスキが無い。
    そんな男を前に軽口を叩く。

    「神木にとってはあなたこそ招かれざる客じゃないかしら?」
    「確かに、そうかもしれませんね」

    こちらの軽口に対して感情を表さず、むしろ余裕を持って返答する。
    年の功というべきか、この辺りは向こうのほうが数枚上手のようだ。
    ゆえに、遠まわしに言うのではなく、あえて正面から言葉をぶつける。
    それはレイスも同じ考えだったらしい。
    私が頭の中でまとめていた思考を代弁するように、レイスが言葉をつむぐ。

    「あなたが神木を占拠したのあなた達の願いである最強の使い魔を生み出すため。
     そのために神木の一部を手に入れたかった。違いますか?」
    「ええ、正しいですよ」
    「ならば、それは既に果たされた筈。
     ここから出ていくことは出来ませんか?」
    「残念ながら。
     まだ、その力は最強にはあらず。
     そして、神木を手放すことはできません。
     約束のためにも」

    そういって閉じていた目を開き、こちらを見やる。
    その目には強い意志が見える。
    退く気はなさそうだ。

    「約束とは?」
    「それを口に出すわけにはいきません。
     わが師との約束にして、もはや遺言ですので」

    亡き師とやらを思い出したのだろう、一瞬だが男の目が弱くなる。
    が、それは一瞬すぐにまた、力強い視線となる。

    「どうすれば、諦めるのかしら?」

    故に、レイスの言葉を継いで口を開く。
    やや考えるようなそぶりを見せ、こちらに視線を合わせてくる。

    「我が願いが果たされるか、もしくは―」

    そういって、笑みを浮かべ― 

    「我が最強が砕かれるか」

    つまり、結局は力ずくで止めてみろと言うことか。
    正直、神木の付近でドンパチやるのは正直避けたい。
    神木に被害がいく可能性があるというのは当然だが、『戦い』というもの事態、
    それが神木には毒の可能性がある。
    とはいえ、放っておけば神木がどうなるか分かったもんじゃない。
    実を言えば、来る途中の遺跡の中、そこまでこの神木の根はのびている。
    そして、その根を見た限り、神木は徐々にだが弱っている。
    原因は明白だ。

    「最後に一つ、何故、『最強』を?」
    「わが祖国のため、そして約束のため」
    「祖国の?」
    「そう、我が祖国、蓬莱を守る力として」

    国を守る力をか。
    それ自体を批判することなど出来ない。
    けど―

    「いいわ。
     その最強、砕かせてもらうわ。
     半分であれど同じく蓬莱の民の血を引く者として」
    「ほう」

    こちらの顔をじっと見て、ふと、男の顔が微笑を作る。
    それは奇異なる縁を楽しむような笑みだ。

    「蓬莱のものか。
     ならば、名を名乗られよ。
     勝者であろうと、敗者であろうと相手の名ぐらい知っておきたかろう。
     我が名はカケイ・クウカイ。
     汝らの名は」

    『汝ら』とそう告げた男の言葉に答え、レイスが名を言う。

    「レイス・クロフォード」

    ここで、ようやく彼のフルネームを今更ながらに知ることとなった。
    そしてレイスが告げた言葉に一泊、間をおきしっかりと答える。

    「姓は橘、名は光、その意は輝き」

    そう告げた途端、男の顔が変わった。
    信じられないものを見るように。

    「そうですか、あなたが―
     よろしい、あなたに敗れるならば、それも正しき運命でしょう。
     では、始めましょう」

    懐に手を入れ、何かを取り出す。
    それは木を削り取って出来た人の形をしたもの、いわゆるヒトガタだ。
    そして、それの元となった木は考えるまでも無い。、
    男がそれを投じ、周囲の魔力が脈動する。
    人形から奔る大量な魔力は急速に巨大なある形を取り始める。
    時間にして一秒にも見たず、それは現れた。
    木で出来たような肌を持ち、屈んだ身で人の5倍はあろう体躯。
    背や腹、腕や首など体中のいたるところに棘のような物が生え、頭にはそれとは
    明らかに異なる大きな角をもつ。

    「我が最強、名は華鬼。
     鬼を模りし我が最強の式神です」

    男の声に答え、鬼は目を覚ましたかのように顔を上げ天に向かって咆哮をあげる。
    その咆哮だけで、気力が奪われかねないほどの力を感じる。
    それを正面から受け止め、鬼を見やる。
    やがて、鬼が再び顔を下ろし、こちらを見やる。
    ―来る。
    次の瞬間、鬼が腕を振りかぶり、拳を突き出す。
    受けることはおろか、掠るだけで身を砕きかねない圧倒的な暴力。
    それを大きく後退して避ける。
    しかし、後退した私とは異なり、レイスは前に駆けていた。
    体格差は大きいが逆に言えば、懐にもぐりこめば、思うようにこちらを
    攻撃できないとの判断だろう。
    大振りに振るわれる拳は彼にとっては当たるようなものではない。
    両手に剣を持ち、最速の速さで駆ける。
    速い、見る間もなく、レイスは拳の振るうに適さぬ近距離まで進む。
    だが、近づいてきたレイスをあざ笑うように鬼に変化が訪れる。
    鬼の体表に会った無数の棘、それらが、突如伸びレイスに向かう。
    慌てて、剣でそれらを打ち払うが、後退を余儀なくされ即座に拳が振るわれる。
    また、伸びた棘は意思を持つかのようにうねり、追撃する。
    慌てて、レイスを援護すべく風を放ち、棘を打つ。

    「げっ」

    本来、切る攻撃の風は棘からはえたツルを切るには及ばず、打つだけで終わる。
    予測していたが、この式神は神木の一部を核とした影響で木の特性を持つらしい。
    しかし、そうなると私の風の技はほとんど、効果が無いということだ。

    ――ヒュンヒュンヒュン

    鞭のようにしなるツルがこちらを狙い、伸びてくる。
    それらを避け、弾き、蹴り飛ばす。
    レイスも際限なく殺到するツルを切りとばすが防戦一方といった様子だ。
    幸い、こちらを脅威と見てないのかツルはほとんどが、レイスに殺到している。
    流れを変えるには今か。
    風の力は、エルフとしての力は使えない。
    ならば、もう一つの側面を引き出すだけ。
    私の中に半分だけ流れる蓬莱の民の血と名を意識する。
    自身の中で何かが組み変わるような錯覚を感じる。
    だが、それで準備は万全だ。

    「光は―」

    迫るツルを前に見据え、駆ける。
    はっきりとした意思を込めて、言葉をつむぐ。

    「光は目にも移らぬ速さなり―」

    瞬時、目標を失ったツルが立ち止まる。
    そして、その遥か後方、鬼の真後ろに突如として姿を現す。
    地面を削りながら、急激な加速による慣性力を片足でこらえ、鬼の背中へと向く。
    地を削る音で、気付いたのか、鬼が身体をひねり、首を回してこちらを見やる。
    だが、遅い。
    先ほどと出だしは同じ、しかし、後半部の異なる言葉を継げる。

    「光は前に突き進む―」

    言うと同時に片足で地面を蹴り跳躍。
    身体は先ほど継げた言葉どおり、真っ直ぐ、重力さえもないかのように
    鬼の胸辺りに向かって真の意味で直進する。
    これが私の持つ、もう一つの、そして私独自の戦闘スタイルだ。
    これはエルフの精霊魔術や、蓬莱の言霊に近しいものだ。
    そもそも魔術は現実の世界に詠唱を持ってあり得ざる架空を持ち込むことだ。
    ゆえに、架空の事象である以上、世界の理屈に合わず、修正力が働き、
    時間と共に行使された魔術は消える。
    では、精霊魔法とは何か?
    精霊魔法はその名の通り精霊を介する魔術だが、精霊を介すという事が
    ここでは重要だ。
    精霊は世界―ここでいう世界は隣り合う七の世界のいずれかでなく、全てを含め、
    あらゆる事象、概念をひっくるめた『世界』いう概念―に介入する力を有する。
    精霊の自然を左右する力はこれによるもので、精霊魔法は精霊に術者の魔力を
    代償にして、この奇跡を起こさせることだ。
    また、何らかの形で精霊の意思と干渉できるものは思うだけで、初級の簡易な
    魔術程度を無詠唱で発動できる。
    故に、精霊魔法は、他の魔術とは一線をきす。
    例えば、精霊魔法の魔術はキャンセルが出来ない。
    それは魔法の結果が現実の事象だからだ。
    精霊魔法の実態は精霊を解してこの世界に特定の事象を引き起こさせることに
    他ならない。これはそもそも、『魔法』とはいえ無いのかもしれない。
    私が用いたのはこれの考えにやや近い。
    私が用いたのは世界に介入できる力を持って特定の事象、概念に自身を同化させ、
    その恩恵を得ること。
    そして、その概念を僅かに改竄し、現実を書き換えることだ。
    世界に介入できる力というのは、例えば精霊の力や、時たま存在するこの世界の
    概念にとらわれない異能力者の力。
    私はハーフで生まれ育ったのも霊地とは程遠い森だったため、私と共にいる精霊は
    正直、意識をこちらに伝えることも出来ないくらい弱く、小さな精霊だ。
    というより、本人には悪いがこの程度の規模では精霊とは呼ばれない。
    共にある精霊はエルフの血が強ければ強いほど、そして住まう森の魔力が強いほど、力が強い。
    おそらく、ハイエルフとその精霊なら私と同じことも出来るだろう。
    私の干渉できる概念は私の名の意味である『光』。
    それによって、光の持つ概念を―光の持つ力を現実に起こす。

    「光とは熱を持ちて穿つもの―」
    「光は先に集うもの―」

    二つの言葉を続けざまに放つ。
    そして、地を蹴った足とは反対の足を身をひねって前に突き出す。
    突き出した爪先には光が集まり、光槍が生まれ、光槍は鬼の胸を穿つ。
    同時、穿つ槍が熱を持って傷口を焼く。
    しかし、致命傷ではない。
    当てずっぽうで核に当てられる訳ではない。
    槍と化して突き刺さる私を潰さんと両の拳が同時に迫る。

    「光は塵ゆく―」

    短い言葉を持って光槍を破棄。
    重力に従い、身体は落下を始め、拳を避ける。
    懐にもぐりこんだ私によって撹乱され、ツルの動きが稚拙になった隙を突き、
    私と入れ替わりにレイスが飛び込む。
    鬼の身体に二つの刀身が舞う。
    『金剋木』―木を切るの鉄の刃。
    その概念が生きてる以上、その刃を止められはしない。
    だが―

    ―ガギンッーー!
    「なっ」

    甲高い、金属と金属のぶつかる音が響く。
    鬼は鉄と化した自身の手でレイスの剣を受け止めていた。
    これも五行の思想を取り入れたものなのだろう。
    しかし、まさか戦闘中にしかも一部だけを変化させるとは。
    動きを止めた剣を同じく鉄と化したツルが絡め、封じる。

    「くっ」

    更に四肢を封じんとツルが更に迫る。
    判断は一瞬、剣の握りを操作し、拘束から逃れる。
    ―刀身を残して!
    刃の無い、握りだけの剣を握り構える姿は滑稽というほか無い。
    そんな武器ともいえない棒を握り締めるレイスに尚もツルが追う。
    迫り来るツルを前に、剣の柄を振るい、一閃。
    次の瞬間、見えない何かにとって鉄のツルは断ち切られる。

    「これが種ね」

    あの硬い甲羅を貫くには『螺旋』の力だけでは足りない。
    そして、結界を割った一撃に、さきほどの届かなかったはずの一撃。
    これが答えか。

    「見えない刀身、いえ、形なき刃というわけね」

    不可視にして不現の刃、それは架空も現実も問わず断ち切る力。
    それがあの剣の力かそれとも、彼本人の力かは知らないが、
    鉄さえ斬るその力には、あの鬼でさえも対抗はできない。
    なら、勝敗を分けるのは、懐にもぐりこめるか。
    そして、あの巨体に一太刀でどれだけ傷を与えられるかだ。
    鬼が動き、自身の全てのツルを私に向かって殺到させる。

    「光は捉えられるものではない」

    言葉どおり、光を捉えることはかなわず、ツルは空振りに終わる。

    「まず、邪魔なツルを!」

    光の灯った右足を真上に向かって振りぬく。
    爪先の光はそのまま鬼の遥か頭上へと飛び―

    「光は降り注ぐ―」

    言葉を持って拡散、光の散弾と化して鬼の頭上に降り注ぐ。
    光は鬼の身体に容赦なく降り注ぎ、ツルを穿ち、焼き、削ぎ、貫く。
    一瞬にして、身体にあったツルの元となる棘の8割が潰される。
    残った二割の棘からツルを生やし、駆けるレイスに奔る。
    それを阻止せんと最速を無理矢理超え、神速、光速をもってツルを砕き、
    鬼を撹乱、レイスを支援する。

    ―ギシッ
    レイスの前を塞ぐ、ツルを砕き、全ての棘を一時的に沈黙させたところで、
    自身に走る鈍い痛みを自覚する。
    このような無茶な速さや動きをした代償として、特に足にかかる負担が激しい。
    しかも、本来、緊急回避などの一瞬で使うこれを連続で使い続けたことが大きい。
    あと一、二度で走ることも出来なくなりかねない。
    気付かれないよう、レイスと鬼の死角となる位置を探す。
    鬼の後ろだ。

    「光は見ることもかなわぬこと」

    再び、目に映る速さを超え、先ほどとは異なり、音も立てぬように停止する。
    ―痛い。
    自分の身体が崩れゆく様な錯覚を感じ、座り込む。
    足に手をあて、呼吸を整え、『力』を使うために精神を集中させる。
    だが、そこで地面に走る異常に気付く。
    ―暖かい?
    それになにやら、何かが動くような振動も感じ取れる。
    視界を上げれば、レイスがツルが消え、手薄になった鬼へと文字通り
    飛び掛っているのが見えた。
    ―まさか。
    地面の暖かさに何かが流れるような感覚、飛んだレイスに後ろから
    見える鬼の足の地面の様子。
    それらが繋がり、危険を察知する

    「―――」

    だが、言葉が出ない。
    言葉を出せば、鬼は自分に気付く。
    そうすれば、振り返った鬼の一撃で無防備に座り込み、満足に走れない私は死ぬ。
    そんな可能性が鎌首を擡げ、言葉を躊躇わせる。
    そんな一瞬のためらいが、絶望的なまでに結果を分けた
    鬼が両の拳をレイスではなく、地面に勢い良く振り下ろす。
    一撃で地面が揺れ、大地の亀裂から水が噴出した。
    それもただの水ではなく、熱湯、まるで間欠泉のごとく勢い良く噴出した熱湯は
    レイスに直撃し、その身体を吹き飛ばす。

    「レイス!!」

    もはや、叫びは悲鳴のようだった。
    吹き飛び無防備なその身体を狙う鬼の腕に声を上げる。
    自分の死すらも一瞬、忘れ、愚かにも自分の存在を知らせてしまった。

    「あっ」

    鬼がレイスから視線を外し、ゆっくり振り向き、こちらを見下ろす。
    刈る者と刈られる者、もはや絶対的な死を予感した。
    弓を引き絞るようにして後ろに引かれ行く鬼の右の拳。
    引き絞られた拳が限界まで行き、次の瞬間、振りぬかれる。
    時間の流れがまるで遅くなったような感覚。
    思考を放棄し、目を瞑って心のなかで、家族にそしてレイスに謝る。
    そのとき空気が動いた。
    身体が凄まじい勢いで吹き飛ばされ、背中から地面に激突。
    衝撃と激痛、しかし生きている。
    身体に痛みと同時に何かが覆いかぶさっている。
    それは鬼の木でも鉄でもない感触と暖かさ。
    そして、その暖かさは徐々に失われつつある。
    それに気付き、信じたくない一心で痛みをこらえ、瞼を開く。

    「―――――あ」

    自身に覆いかぶさり、急速に熱を失いつつあるソレ。
    それは彼だった。

    「レイ・・・ス」

    ―何故、こんなこと?
    ―何故自分なんかの盾に?

    レイスの手には盾にしたのであろう砕けた剣の柄が握られていた。
    柄を握る手も指も砕け、折れ、指が一本も欠けてないのが不思議なぐらいだ。
    血で紅に染まった胸部は痛々しく、肋骨も砕け、内臓も確実に幾つか死んでいる。
    正しく、絶望的な状態だ。
    それでも生きている。
    生きて何かを伝えんとする。

    「・・・逃・・・げ・・ろ」

    血を吐きながら継げる言葉は尚もこちらを案じる言葉。
    死ぬかもしれないのに、何で私を?
    嫌だった、どうしても嫌だった。
    何より嫌だったのは自分を庇って死のうとしているこいつが気力を振り絞って
    笑みを浮かべ、逃がそうとすること。
    こぼれる涙を堪え、レイスの顔に触れる。

    「さあ・・・早く」

    尚も逃がそうとするレイスに向き合い、涙を堪えながら見やる。

    「・・・・答えて。
     あなたは生きたい?」

    だれもが、答えるであろう、あまりにも簡単な問い。
    それを投げかける。
    しかし、それは今のレイスには十分すぎる。
    その言葉にレイスの笑みが、虚勢が崩れ、弱弱しい顔に変わる。

    「生き・・・・・たい」
    「そう」

    泣く様に弱弱しくもはっきりとそう答えたレイスに向き合い、黙って頷き、
    仰向けに倒れふしているその身体に跨ってもっとも重症な胸部に両手を当てるに
    丁度いい位置を確保する。
    時間が無い。
    たぶん自分は愚かなのだろう。
    目の前の少年が何者か知ってるくせに私の最大の秘密を教え、
    全てを任せようというのだから。
    でも、それでも、いいと思ってしまった。
    彼を失うくらいなら。
    ナイフを取り出し刃を逆手に持って振り下ろす。

    「グッ」

    ナイフの突き刺さった左手の甲を見ながらナイフを引き抜く。
    ナイフで貫かれた左手から体力の血が流れレイスの胸へとこぼれていく。
    そして、自分の血で真っ赤にぬれた両手をレイスの両手にそれぞれ当て、
    自分の血を塗りつけるようにする。
    傷口は傷むがどうせすぐ塞がる。
    それよりも目の前の命を救ううのが先だ。

    「陽光は癒しを、月光は救いを」

    自分の力を限界まで引き出し、本来の形で行使するための詠唱。

    「天より振りし幾多の輝きは浄化を」
    「地に在りし煌きは力を」

    手に光が集い、辺りをまばゆく照らしていく。

    「ここに我、代償を手に、光を持って奇跡を願う」

    穏やかな光の中、両手に伝わる目の前の鼓動だけが全て。

    「穏やかなる光、願いを持ってここに降りん」
    「清らかなる光、思いを持ってここに来らん」
    「全てを許そう。傷も痛みも穢れも全てを」

    そして、光が急速広まり散ってゆく。
    消えたか輝きの中、そこには焦点の合わぬ目でこちらを見上げ、
    横たわるレイスの姿。腕も、胸の傷も全てが消え、治癒している。
    成功だ。
    それを確認し、一気に脱力感が来る。
    けれど、ここで倒れることは出来ない。
    まだ、一つだけすることがある。
    手握ったのは神木の護符。
    徐々に暗闇へと落ち行く意識の中、思いを持て言葉をつむぐ。

    「光は剣と化す」

    それに私に残った全ての『力』を注ぐ。
    そして、それが終わると同時、暗闇へと落ちていく。




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