Release 0シルフェニアRiverside Hole

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■288 / 4階層)  LIGHT AND KNIGHT 五話
□投稿者/ マーク -(2006/06/14(Wed) 01:55:14)


    ある場所を目指して森の中を一直線に駆ける。
    レイスと分かれてから半刻ほど、深い森の中を走り続けている。
    途中幾度か振り返り、尾行されて無いか用心深く探りながら、進む。
    その様を見れば何か、やましいことがあるか、もしくは隠すべきものがあるかと
    判断するやも知れない。
    それはある意味、ヒカルにとっては正しく、他の人にとってはこれ以上ないほどの
    勘違いとなるだろう。
    森を抜けて、その場所に着く。
    そこには森の中にぽつんと建つ木造の一軒の家。
    中からは子供たちの騒ぐ音が聞こえてくる。
    ―そう、これこそが彼女にとってのもっとも大切な『家族』という名の宝である。

    なんとなく、息を落ち着かせドアノブに手をかける。
    そしてノブをひねり、ドアを押す。

    「ただいまー」

    勢い良く扉を開くと、それには反応してダイニングの先にある廊下から、
    十歳足らずの少年少女が元気良く飛び出し、その内の元気のいい男の子などは
    文字通り飛んで来る。
    それを両手で受けても地面に下ろし、周りを囲むようにそばによってきた子供たちの頭を撫で、一人一人、見ていく。
    周りにいる数は5人。とするといないのは8人。
    しかも、いないのは男5人に女の子が三人。
    男女の比率は男のほうが多い。
    とすれば―

    「他の子は外?」
    「うん、あと、サキねえが何人か連れて買い物にいってるよ」
    「えっ、うそ。 
     あちゃー、どっかで入れ違いになったかな」

    多分、あいつに追われて普段の道とはぜんぜん異なる道を通ったからであろう。
    この広い森の中ではお互い決まった道を通るのでもなければ、逢う事もあるまい。

    「まあ、いっか。
     ただいま、みんな元気にしてた?」





    「ぬっ、このスープの味付けはアリスね。
     隠し味には・・・・駄目ね、何か植物をつかってるみたいだけど」
    「すごい、良く分かるね。
     山に咲いてた葉っぱを使ったの。
     香りがよかったから使ってみたんだけど、どうかな?」
    「おいしいわよ、私もうかうかしてると追い抜けれちゃうわね」

    そう笑って、首を回す。
    子供たちはほとんど、自分たちの部屋へと戻っていってしまった。
    いるのはセイやサキを除いた年少組みの中で一番年上でしっかりとしたアリスと、
    彼女とよくいるセトナだけ。
    サキは今だ帰ってくる気配はないっと。

    「そういえば、セイは?」
    「部屋にこもってます。忙しいらしくて昨日からご飯も睡眠をとってないみたいで す」
    「ああ。まだ、終わってなかったんだ。
     にしても、一日二日は良くても、あまり続くと危ないわね。
     以前は5日間も出てこなかったし。
     まったく、あの時は良く途中で倒れなかったわね」
    「その分、完成したら糸が切れたみたいにぷっつりと倒れこんじゃって大慌てしま したね」
    「そうだったわね。
     ふう、ご馳走様。
     ちょっと様子を見てくるわ」
    「あっ、それなら一緒にご飯も持っていってください」
    「了解」

    アリスが多分、私の分と一緒に用意したであろう食事を持ってやって来る。
    それを受け取り、ダイニングの奥の廊下を歩き、三つ目の部屋で立ち止まる。

    ―コンコンッ
    「セイ?」

    予想通りだったが返事が無い。
    ノックに気付かないほど集中しているのだ。
    まあ、勝手に入っても大丈夫だろう。
    何か言われてもノックはしたといえば、いい。
    気付かないセイが悪いのだから。
    そんな言い訳じみたことを考えながらドアノブをひねり扉を前へ。
    音を立てぬよう静かに開くと、キャンバスに向き合うセイの背中が見えた。
    その背中が邪魔をして残念ながら肝心の絵のほうは見えなかった。
    そして、突然キャンバスに走っていた筆が止み、セイが振り返る。

    「ヒカル姉さん、何時からそこに?」
    「丸一日」
    「えっ、本当?
     うわー気付かなかった」
    「いや、冗談よ」

    この反応がジョークかそれとも本気なのかは分からない。
    本人は気付いてないが、セイは絵を描いているとき異様に集中力が高く、外界からの刺激に酷く無反応となる。
    そのくせ自分の領域、つまり自室に入る異物に関しては異様に鋭敏に反応する。
    最初にセイに冗談で一時間後ろで立ってたといったら普通に信じられてしまった。
    セイも自身の外界への反応の低さは自覚していたから、そうであってもおかしくないと、思ってしまったのだろう。

    「絵、まだ、かかるの?」
    「うん、まだ、ちょっとかかるね。
     帰ってきたら、見せるって言ってたけど無理みたいだ。
     ごめん」
    「そうね・・・・少し残念かな」

    そういって少し残念そうに溜息をつくと、セイはなにやら真剣な面持ちでこちらを見ていた。
    何か言いたげだったが、とりあえず、自分の話しを先にしてしまおうと、話を切り出す。

    「それで、セイ。
     悪いんだけど、又明日から出ることになると思うの。
     みんなのことお願いね」
    「・・・・姉さん」

    そう言って辛そうにセイがこちらの顔を見上げてくる。
    セイは頭もいいし、勘もいい。
    おそらく、私の様子が違うことに気付いたのだろう。
    もっとも、セイにだけは多少伝えておくつもりではあったが。

    「帰ってくるのは何時?」
    「ごめんね、分からない。
     早ければ数日だけど、もしかしたら帰ってこれないかも」

    セイと視線を合わしているのに辛くなり、僅かに顔を背け、そう言う。
    帰ってこれないというのは、つまり―

    「死ぬ気なの?」
    「―ううん。
     死ぬ気は無い。けれど死なないとは言い切れないかな」
    「死ぬかもしれないのに行くの?」
    「うん、それでも私は行かなきゃならない。
     だから、ゴメン」
    「そっか」

    そういって、セイは視線を窓に向け、何処か遠くを眺める。
    やがて、意を決し、口を開く

    「分かった、みんなには適当に伝えておく」
    「・・・・・引き止めないのね」

    ちょっとだけ、残念だったので不満気味にそういうとセイがクスクスと
    笑い声をもらす。

    「言って、聞く人じゃないのはもうとっくに分かっているからね。
     だから、引き止めないけど、かわりに約束。
     ちゃんとここに帰ってくること」
    「話、聞いてた?
     帰ってこれるかどうか分からないのに―」
    「だから」

    途中、私の言葉を切って、笑いながら言葉をつむぐ。

    「帰ってこれないかもしれないなんて考えないべきさ。
     姉さんはちゃんとこの喧しい家に帰ってくること。
     約束だよ」
    「うう、努力するわ」
    「ははは、約束を破るのが嫌いな姉さんらしい答えだね。
     そうれでいいよ。
     努力することは約したからね。
     こうすれば、途中で諦めるなんてことはないからね。
     気をつけて」
    「うん、明日みんなが起きてるころにはもう出てると思うから」

    入ってきた扉へと歩き、ノブをひねりドアを開けたところで、言っておくべき
    言葉を思い出す。

    「それじゃ。
     絵、楽しみにしてるから」









    ―ザザザッ

    森の中に草のこすれる音だけが響く。
    空は今だ薄暗く、時刻は後、半刻ほどで日の出というところであろう。
    そんな薄暗い森の中、道なき道を駆ける。
    やがて目的地が近づき、周囲を探りながらそこに出る。
    目の前には山の傾斜の中に続く、洞窟の入り口。
    亡き両親から教ええられたとある場所へと入るための裏道だ。
    本来ならここには見張りが何人かいるはずなのだが―

    「やっぱ、既に事切れてるわね」

    あるのは既に物言わぬ亡骸になった二人の鎧を着込んだ門番。
    その鎧には深々と、切られた後がある。
    けれど―

    「出血が少ない?」

    死因はその傷だと思ったのに、出血が異様に少ない。
    鋭利な傷口と、あまりに少ない出血。
    これが意味するのはどちらだろう?

    「悩んでもしょうがないか。
     虎穴に入らずんば虎児を得ず。
     行くしかないわね」

    思考を止め、周囲を警戒しながら洞窟の中へと入る。
    かなり、長くて道も多く非常に迷いやすい、というより迷わせるために
    ここまで複雑に掘られたのだが、その道順は完全に覚えている。
    自分の記憶に従い、いくつもの分かれ道の中から迷いなく進むべき道を選ぶ。

    ―――――

    歩き出して半刻、唐突に音が聞こえた。
    かすかだが、金属音だ。
    おそらく、洞窟の前の門番を倒した者のものだろう。
    途中、障害となるものがいなかったがそれも前を行く者がことごとく
    打ち倒していたからだろう。さらに、そのお陰で追いつくことも出来た。
    用心しながら、音のする方へと足音を消しながら進む。
    そこは、正しい道順から外れた道だが、それでも音の聞こえるほうに進む。
    そして、すぐに金属音は止んだ。
    おそらく、戦闘が終わったのだろう。
    一応、前を行く者の正体には見当がついている。
    きっと、今までの出来事は偶然ではなく―

    「必然だったって訳ね」

    通路の先、人形のようなあの式神が巨体を横たえ、その輪郭を崩しながら無へと帰っていく。
    そして、その前に立ちふさがる双剣を構えた少年の後姿。
    少年はまるで初めからわかっていたかのように驚きもなく、こちらへと向く。

    「やはり、来たね」
    「ええ、あなたもね」

    お互いに口調は穏やかだが、気を緩めはしない。
    たとえ目的は同じかもしれない。
    でも、分かり合えるとは限らない。

    「でも悪いけど、その真意を聞かせてもらうわ。
     これはあなた達、教会の仕業なの?」
    「へえ」

    ここで、ようやく、レイスは驚きという表情を作る。
    いや、驚きというよりどちらかといえば感心という表情だ。

    「何故、僕がそうだと思うの?」
    「まず、最初に会ったときの戦闘の痕跡から。
     あの強固な甲羅にあった独特の傷。
     そして、その周囲の壁や床にあった妙な感覚で開いた真新しい足跡。
     とくに甲羅にあった傷はそこだけ抉り取られたように周囲にヒビをいれることな く貫通していた。
     あれは教会独自が編み出した対異族用の戦闘術、その一つの痕跡だわ」

    加えて言えば、その技の名は螺旋。
    独自の歩法からの急激な加速による突進。
    そして、ゼロ距離においての全身の捻りから繰り出す刺突。
    さらに、その突きに高速での回転を加え対象を撃つ技だ。
    この技を真に扱った場合、対象には罅一ついれず、綺麗な正円の傷だけが開く。

    「そして、もう一つ」

    そういって、道具入れに手をいれて、小さなものを取り出す。

    「これはいくらなんでも不注意だと思うわよ?」

    そういって、苦笑しながら取り出したのは金で出来た十字架だった。
    それも、シンプルながらも刻まれた小さな文様や言葉はそれがただの代物で
    無いことを物語っていた

    「教会の使者である証たる特殊紋様の施された十字架。
     名を語るだけにしても大げさすぎるわ。
     この紋様は普通じゃ真似できないし」

    そういって言葉を切って、顔は手の十字架にむけレイスの反応を横目でうかがう。
    レイスの反応は相も変わらず、薄い笑みを浮かべたままだ。

    「どうかしら?」
    「やれやえ、降参さ。
     でも、君はこれをどう思ってるんだい?」
    「・・・・・教会の人間、一部か全体かは分からないけど、それらの者による
     アレの制圧―」
    「ふうん、それなら」
    「もしくは」

    レイスの言葉を途中で切る。

    「逆に、国の―帝国側の暴走か全くの第三者によるものか」
    「なるほど、どれかは分かってじゃいないわけだ」
    「残念だけどね、どれも怪しすぎるもんで。
     さあ、教えてあなたは何しに来たの」
    「僕を疑っているわけ?」

    なおもレイスの笑みは消えない。
    おそらく、分かっててやっていることだろう。

    「いいえ、教会が犯人だとしても、あなたが敵対してるということはあなたは
     この暴走を止めにきたということ。
     だったら、手を取り合うべきじゃない?」
    「僕一人でも、どうにかなると思うよ?
     君と組みメリットは?」

    レイスの試すような物言いは続く。
    いや、ようなではなく本当に試しているのだろう。

    「ここはアレに通じる裏の道。
     正しい道は教会と国のごく僅かな人しか知らない。
     あなたも知らないはずよ。
     でなければ、こんな道にはこないわ」

    私は知っている。
    この先は行き止まりで、しかも罠まで仕掛けられた危険な道だ。
    今までの道にも罠の道を選び、そしてその罠をことごとく抜け出た跡があった。

    「私はアレに通じる道を知り尽くしてる。
     私の代価は道案内、悪くは無いと思うわ」

    その言葉にしばらく考え込み、やがて―

    「分かった、その代価でいいだろう。
     もはや分かりきったことだけど、確認しておく。
     この先、この道の通じる先にあるもの。
     それは」
    「ええ、帝国アヴァロンが誇る、神なる木。
     人の世より隔離され、人が立ち入ることを禁忌とされし場。
     神木エルトラーゼに通じる道よ!」


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