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■292 / 5階層)  LIGHT AND KNIGHT 六話
□投稿者/ マーク -(2006/06/18(Sun) 04:06:05)
    2006/06/18(Sun) 17:24:33 編集(投稿者)


    ―神木エルトラーゼ。

    それは帝国北部に存在する帝国のシンボルの一つ
    神木のそもそもの始まりはおよそ二千年前、魔法王国崩壊期にまでさかのぼる。
    かつての魔法王国崩壊の原因は謎に包まれている。
    しかし、崩壊時、大陸の中央に存在した大陸全てを掌握した魔法王国を中心に
    大規模な破壊が起きた。その大破壊により魔法王国は完全に破壊され、その周辺地域すらも大規模な破壊の爪あとを残した。

    そして、事態はそれにとどまらなかった。
    大破壊による影響か、大陸のおよそ6割に渡って、瘴気という本来の魔族の
    住処たる地の空気というべき毒素が撒き散らされた。
    それらは人にとっても、他の異族たちにとっても非常に有害であり、もっとも瘴気の濃厚な魔法王国のあった地は大破壊を抜きにしても人の踏み入ることの出来ぬ異界と化していた。
    また、濃度は薄くとも、大破壊の影響を免れた地域でも瘴気の影響は大きかった。
    毒素による奇病、異常気象や不安の蔓延、魔族の活性化。
    これら全てが瘴気の影響といわれている。
    しかし、この瘴気の影響が無い地域があることが少しして判明した。
    現王国エインフィリアの北東部やヴァルフダリス共和国とビフロスト連邦の南部、それらは地域だけ瘴気の影響が軽かった。
    理由は無論存在する。
    王国はその北東部に存在するエルフの集落に存在する大樹が瘴気が浄化したため。
    連邦は始まりの三人の聖女の存在。
    共和国は伝承でだが、二振りの刀を持った女性が瘴気を払い、海の向こうへと
    消えていったという。
    この海の向こうが、女性の持っていた得物から蓬莱ではないかと考察されている。しかし、蓬莱では生憎そのような存在は確認されていない。

    まあ、このように瘴気の影響より逃れた地域を元に発展し、現四大国なったといわれている。
    そう、四大国だ。
    ここに含まれなかった私たちの住む帝国、アヴァロンにはそれらを払う手段は存在しなかった。
    故に、他の地域と同じを方法を取るべく、行動した。
    とはいっても、既に聖女は連邦内の正教会―と、正教会とは旧教会とも言われ、現在、異族狩りなどをする新教会とは異なる、古くから存在する由緒正しい教会だ―に保護され接触できず、共和国の救世者の存在は闇に消え、残った手段は一つしかなった。ゆえに、現在では帝都となっている地域に住まう者たちはエルフと接触し、助けを求めた。そして、彼らより、二つのものを授けられる。
    それこそが、大樹と同じく瘴気を浄化する力を持った木。
    神木エルトラーゼと、そしてかつて存在した神木イルヘイムの苗だった。
    神木イルヘイムは現在の帝都に、エルトラーゼはエルフと人の友好の証として帝国北部の瘴気の影響が薄く無事だったエルフのもう一つの集落との間に植えられた。

    そして、それは千年あまり続くが、ある日、終わりが来た。
    その最初の原因は神木の誇る力。
    あらゆる傷を癒し、あらゆる病を治し、あらゆる呪いを祓い、あらゆる魔を退けるその力。そして、神木を得しものには神たる不死の祝福を、王たる最強の力を。
    そんな話までもが、市民に知られるようになったことだ。
    実際に言えば、後半は嘘といっていい。
    確かに神木には高い癒しや退魔能力、肉体を活性化させ、さらなる身体能力を与えたり、精神や魔力を高める傾向はあるが、不死や最強の力など与えるはずが無い。
    そんな嘘でも市民は信じた。
    そして、それが悲劇に繋がる。
    ある日を境に何百何千もの人が帝都の神木に押しかけた。
    ―あるものは病気の娘のために。
    ―あるものは復讐の力を得る為に。
    ―あるものは死を恐れるが為に。
    ―あるものは魔族の恐怖から逃れるために。
    ―あるものは富を得るが為に。
    当然、皇帝の臣は神木を守るため市民を払った。

    そして、それは第二の避けられぬ悲劇に連なる。
    皇帝の臣たる騎士たちの手により、神木の周囲は完全に守られていた。
    しかし、それでも進入するものたちは存在する。
    そして、神木の周囲には神木の力を独占する皇帝への不満や怒りを露にした
    市民の姿が常に見られた。
    それでも、神木を守るために侵入者を討ち、市民の不満の高まる中、一ヶ月が過ぎそこで事件は起きた。
    もはや、帝都より出ようとその姿を確認できるほど大きく、高く育ったイルヘイムが痛ましい音を立てながら倒れたのだ。
    木の内部は腐り、穴だらけ。
    枝も自重を支えきれず折れたものが多く、葉には水分がなく乾ききっていた。
    なぜ、このような事態になったのか、すぐに調べられ原因は解明された。
    それはある意味、神木の小さな欠陥だった。
    神木は負の力を吸収し、瘴気を浄化する作用を持つ。
    ここで問題なのが、浄化できるのが瘴気だけという点だ。
    負の力とは瘴気だけを指すわけでなく、不安や怒り、憎しみや殺意という負の感情すら含まれていた。
    神木は浄化できないそれらの力までも溜め込み、そして内部から腐らせることになった。

    イルヘイム倒木の報せはエルフにもすぐさま伝わった。
    エルフにとって神木や大樹とは宝といっていいものだ。
    それがこのようなことになったという事実はこれ異常ないほど動揺させた。
    そして、当然だが、彼らの思いはもう一つの神木へと向かった。
    神木エルトラーゼまでもが彼らに倒されるのではないか、そんな思いが誰の胸にも渦巻いた。
    そして、同じく皇帝もまた、悩んでいた。
    神木が彼らにとって宝だということは彼も知っていた。
    そして、彼にもこのままではエルトラーゼが同じよう倒れるのではないかという思いも持ち、ならば、エルフに全てを任すべきかも知れぬとも考えていた。
    しかし、それ以上に神木を失い瘴気に晒される恐怖を持っていた。
    そんな危ういバランスを取っていた天秤を傾けるもの、いや倒すものがいた。
    それは新教会における最高権力者にして教会で最も反異族思想の高い人物だった。
    彼の言葉に惑わされ、皇帝とその臣は教会のものと共にエルトラーゼに向かい、神木を制圧した。
    それにはエルフも猛烈な抗議の声を上げた。
    しかし、それらは残さず教会が弾圧し、生き延びた者は王国北部のエルフの集落へと向かった。
    その際、教会のものは現在の王国と帝国の境界でその足を止めることになる。
    そこに住まう竜族の干渉によってだ。
    そして以降、この千年弱は教会と帝国の者によって神木は管理されている。
    その際に、負の力が不用意に流れ込まぬよう、そして誰にも侵入されぬよう、皇帝は神木の周囲に結界をはり、守護し続けている。
    これが神木をめぐる二千年の歴史である。

    「これが私が知る限り最も詳しい神木の歴史よ。
     何か問題はあるかしら」
    「いや、僕が知る以上に詳しい解説だ。
     だが、何故、それだけのことを君は知っている?
     この道とて、そうだ。
     この通路の存在は教会も帝国も知っているが詳しい道は、皇帝や教皇ぐらいしか
     知らない筈」
    「それこそ簡単でしょ。
     教会でも帝国でも知られて無いなら他から教えられたに決まってるでしょ。
     忘れた私が何者か?」

    そこで、突如、息を呑みレイスはこちらの顔を凝視してくる。

    「いや、忘れていた。なるほど。
     確かに、そうだ。
     帝国でも強化でも知られていないなら、他の―つまりエルフに伝わる記憶という こ とか」
    「そういうこと。
     私の母は神木の監視者だったの。
     そして、その役目は私に引き継がれている。
     だから、神木に起きている全てを見届け、神木に害なすものを排除する義務がある」

    人により奪われた神木が再び折れるようなことが無いよう、神木を見守ること。
    それこそが私の役割たる神木の監視者。
    亡き母より、継いだ大切な仕事だ。

    「・・・・・ひとつ聞きたい」
    「何?」
    「何故君は自分の正体をこうも簡単に晒した?
     僕が教会の者と知ってて」
    「そのこと?
     うーん、あえていうなら、なんとくというか・・・・・」

    少々、答えに詰まった。
    本音を言えば、とある疑惑を種族を明かすことで晴らすのが目的だったが、
    それを告げては意味が無い。

    「あなたが変り種だから―かな?」
    「変り種?」
    「そう、あなたが持つ十字架」

    そういって、現在レイスの首から下げられている十字架を指差す。

    「普通、教会の十字架は銀だったはずなのよね。
     けれども、あなたのものは金。
     それって、教会内で異端を意味する符号よね。
     魔術を扱うものとか薄いけど異族の血を引くものとか。
     監視しやすよう、派手な色した」
    「そして、僕が魔術師だったから、かい?」
    「ええ、まあそうゆうこと。
     それに、実はあなた気付いてたんじゃない、最初から」
    「む、何故そう思う?」
    「まあ、勘ね。
     あなた勘が良さそうだし、どうしても異族の者って纏ってる空気が違うのよね」
    「まあ、確かに疑ってはいたかな」
    「だったら、明かしちゃったほうが安全かなって。
     問答無用で襲い掛かってくるようにも見えなかったし。
     っと、そろそろ気をつけて。
     あとはこの一本道。
     仕掛けがあるとしたらこの先よ」
    「了解」

    そういって、レイスは双剣を両手で抜き、足音を立てず進む。
    こちらは、足に付けれる鋼鉄のアーマーの所為で無理なので空気の干渉して
    足音を消して進む。
    しかし、何も問題も無く一本道を抜け、薄暗い洞窟を抜け、そして―

    「侵入者ですか、珍しい」
    「そして残念ですがここまできた以上帰すわけにも行きませぬ」

    二人の男が目の前に突き抜けるような青空の下、突如、立ちふさがった。


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