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■295 / 6階層)  LIGHT AND KNIGHT 七話
□投稿者/ マーク -(2006/06/25(Sun) 01:32:49)





    目の前に現れた二つの人影。
    その二人の纏う特徴的な服を見て、何者かを悟る。
    いや、この一連の事件を起こしているのがどんな者なのか、私はある程度分かっていたし、レイスの話でその予想は十中八九正解だと分かっていた。
    ただ、それでもそれを認めたくなかった。
    神木が母との絆ならば、こちらは父だ。
    彼らの纏う衣服は白い生地を主に袖や裾が妙に長い独特の服。
    そして、犯人の用いた式神と言う独特の呪術。
    そう、これらは亡き父の故郷たる蓬莱に伝わる文化であり、それらがどのような
    目的であれ、神木の力を得るために悪用されているとは思いたくなかった。
    だが、もはや、これらは疑いようの無い真実である。
    だからこそ、私は神木の監視者として、そしておこがましいかもしれないが、
    正しき力の担い手として、彼らを止めねばならない。

    「何が目的か知らないけど、力ずくで止めるわ」

    思考が一瞬で切り替わり、それに連れて身体の節々が戦うために切り替わる。
    隣を見れば、既にレイスも双剣を構え、いつでも飛びかかれる姿勢だ。
    そんな私たちの動きに対し、一人の男は一枚の紙切れと何らかの金属板を懐より
    取り出し、もう一人はただ左手を掲げる。

    「「お行きなさい」」

    二人が言うと同時に紙片と金属板を当時、掲げた左手を前に払う。
    そして、それらの動きはそれぞれ一つの変化を生んだ。
    紙片と金属弁は妙な光沢を持つ式神に、払った手の先にはいくつかの生物の特徴を
    持ちながらもどれとも異なる奇怪な生き物が姿を現していく。
    ―式神とキメラの使い魔。
    これらも、レイスのいった情報と一緒だ。
    この事件の犯人として考えられたのは数人の元学園都市所属の研究員。
    数ヶ月前、学園都市から研究資料として保管されていた神木の枝が
    ある研究員たちによって盗み出されたという。
    その研究員は全て蓬莱から渡って来た呪術師で、彼らの研究内容は最強の使い魔を
    生み出すことだったらしい。
    前に訪れ、この神木の枝を見つけた遺跡も彼らの研究の一部の可能性が高い。
    そして、今目の前に立ちふさがる使い魔はその過程で生み出されたものだろう。

    「式神か、おそらく、これについては君のほうが詳しいだろう。
     キメラは僕が、君は式神を」
    「そのほうが良さそうね」

    敵は二体でこちらも二人。
    一対一同士に持ち込み、各個撃破ということだ。
    式神は蓬莱出身の私が、キメラの使い魔は元魔術師のレイスが適任だ。
    お互いに相手を打つべき敵を見据え、同時に駆ける。

    しかし、そうは言ったものの、目の前の二体の相手は共に一筋縄ではいくまい。
    それでも、式神という呪法の性質上、弱点は一つ知っている。
    本体の符をどうにかすれば自然と崩壊するのだ。
    それを知ってる分、キメラよりは幾分か楽だろう。
    普通なら。

    「ハッ」

    気合を込めた一声と共に、蹴りを振りぬき、真空の刃を打ち出す。
    が―

    「ッ、予想通りね。
     仕込んだ金属片はそのためか」

    目の前の式神の身体は全てが金属で構成されたものだった。
    おそらく、錬金術や東方独自の五行思想を組み込んだものだろう。
    そして、非常に問題なのは―

    「蹴りも風も効いたもんじゃ無いわね」

    相手をするなら五行に則り、火剋金、つまり鉄には炎を持って対抗すべきなのだ。
    風や木の力は圧倒的に不利である。

    「火なんて私使えないのよね、っと」

    真っ直ぐ伸びた鉄の手はさながら巨大な剣であり、振るわれた腕は大気を断つ。
    それを脚の動きでかわし、距離をあける。
    大体動きはつかめた。

    「終わりにしましょう」

    言うと同時に、腰に掛けた特殊な革で出来たポーチを開く。
    手を入れ、手の平いっぱいにつかんだのは氷の粒。
    ポーチ自体は一応、C級無いしB級のアーティファクトだ。
    効果は内部温度を氷点下以下に保ち、尚且つ周囲の水分から氷を
    自動生成するもの。
    とはいっても、使い道はほとんどない。
    もっと大きければ貴族が食材の保存用に使ったりするが、この大きさでは大した物を入れられない。
    しかし、私の場合は全く別の使い道として使われる。
    いや、正確には使うのはこれ自体ではなく、精製される氷だ。
    手に掴んだ氷の粒を式神の右手へとばら撒き、ついでもう一度氷を掴み、今度は
    反対側へ。
    そして、ばら撒くと同時にその周囲の風を動かす。
    動きは円、思いに答え、その周囲の風は螺旋を描いて渦巻き始める。
    そして小さな竜巻はばら撒かれた氷を拾い、その内で回しだす。
    渦の中、氷はお互いにぶつかり合い、擦れ、砕け、散っていく。
    そして、周囲の異変に式神がようやく気付くが遅い。
    既に、渦の周囲では氷がぶつかり合い、それによって生まれた一つの現象が生じている。
    それは雷だ。
    氷の摩擦による放電現象。
    それは渦巻くごとに肥大化し、今にも放たれんとす。
    式神が動く。
    渦から逃れる動きだ。
    だが無駄だ。
    雷が臨界を超え、渦から離れ、向かうべき場所へと向かう。
    そこは鉄で生み出された異形の元。
    皮肉にも鉄ゆえに雷は流れる場所をそこに選び、内部全てに流れ込む。
    電流が流れ込み、式神が動きを止め数秒、突如式神がその姿を失いだす。
    それは本体である符を失い、自己を構成できなくなったがゆえの崩壊だ。
    残ったのは符の燃えカスと焦げた金属片だけ。
    そして、式神を倒されうろたえた男まで走り、新たな式神を出すよりも
    速く一撃を放ち無力化する。

    「っ、そうだ。
     向こうは?」

    倒れた術者から視線を外し、レイスを探す。
    そして、彼とキメラの戦闘を見やり、息を呑む。
    振り下ろされるキメラの太い腕を抜け、双剣が踊る。
    さながらその動きは演舞のよう。
    キメラはまるで虫のように何本もの腕を付けられた異形のものだった。
    しかし、その腕も半分以上が断ち切られている。
    そして、その中でも一際大きく、攻撃的な腕を断ち、
    続く一閃で巨大な胴を一閃する。
    上半身と下半身が分かたれ、そのまま倒れこみ、徐々にその輪郭を失う。
    ―アレ?
    ふと違和感があった。
    遠目だが、断ち切った胴は太く、巨大でその直径は短いところでも
    彼の剣以上あったように見えた。
    しかし、現実にキメラの胴は両断されている。
    勘違い、かな?
    そうこう考えている間に、レイスが術者を昏倒させ、こちらに
    歩み寄っていた。

    「さあ、行こう。
     おそらく、この先に待ち受ける者こそが全ての発端だ」

    レイスの言葉にうなづき、前を見やる。
    先に見えるは緑に生い茂る巨大な木。
    決着の場だ。




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