Release 0シルフェニアRiverside Hole

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■173 / 2階層)  蒼天の始まり第十二話@
□投稿者/ マーク -(2005/04/01(Fri) 21:36:42)
    2005/04/01(Fri) 21:37:13 編集(投稿者)

    『竜』



    ―ザッザッザザザーー!!
    「戻ったぞ」
    「お帰り〜」
    街まで様子を見に行ってきたクロアが戻ってきた。
    ここは世界でも最大級と言われる火竜の巣。
    『クリムゾンバレー』と呼ばれる大渓谷の入り口に当たる場所である。
    敵は人数が多いから、地の利を生かし先に回り込んで罠を仕掛けておくという
    ことになり、ここで騎士団が来るのを待ち構えていた。
    もっとも、ミコトの言ってた兵器の危険性もあるから竜の集落からはかなり離れた位置だ。
    幸いこの先は切り立った崖のおかげで一本道になっててあまり不都合は無い。
    「ああ、ただいま。
    なあ、俺たちこうしてるとまるで恋人同士っていうか夫婦みたいにみえないか?」
    「セリスは近づかないほうがいい。
    触ると妊娠するから」
    「ふえ、そうなの?」
    そういって、クロアも元に行こうとしたセリスをユナが止める。
    うん、セリスにあまり近づかないほうがいいと忠告してくれるのは
    とてもありがたい。けど、ただでさえセリスの知識は偏ってる上に
    間違った知識も多いのだからできれば、これ以上出鱈目を教えないで欲しい。
    セリスは単・・・純粋なんだから。と、エルリスが思っている間にも
    クロアとユナの掛け合いは続いていた。
    「待て、そりゃどういう意味だ。一体俺をどう思ってやがる?」
    「そのまんまの意味。それ以外にある?獣」
    ちなみに、ユナがいったのは、けものではなくけだものである。
    たった一文字多いだけでかなり変わってくる。
    「ぬお!?エルリス、お前なら分かってくれるよな?」
    「大丈夫、安心して。
    フィーアが帰ってきたら全部伝えておけばいいんでしょ」
    「やめてくれ・・・やはり俺の心のオアシスはセリスのみ―」
    クロアがまさに絶望の淵に立ったかのようにうな垂れ、
    最後の砦、セリスへと顔を向けるが、
    「ねえ、お姉ちゃんクロアみたいなのを『節操なし』って言うんだよね」
    「そうよ。良く知ってるわね」
    「えへへ、ミコトに聞いたんだよ」
    現実はあまりにも無常だった。
    「うわ〜〜〜!!!??セリスまで穢れてしまっ―
    「いい加減にしてくれない」―すいません」
    まあ、こんな感じでこんなところにいる割には平和だった。


    帰ってきたクロアと共にみなで昼食を取り、王国の動きを聞く。
    当然料理の仕度は私がすることになるわけだが、その時のユナの視線が怖かった。
    最初に手伝ってもらった時、ミコトが言ってた通り真っ黒な炭のようなものの
    塊だけが創られた。
    おかげで手伝って貰った方が仕事が増えそうなのでそれ以降は断ってる。
    だが、私が料理を作るたびに「不公平・・・なんで私は・・・・・・ちゃんに手料理を・・・」という感じでぶつぶつ言いながら何か怨念でもを込めたような視線でこちらを
    見てくる。
    はっきり言って怖い。マジでコワイ。ほんと勘弁して欲しい。
    「クロア。街の方は?」
    「ああ、それなんだが街の方に騎士団が来たなんて噂はなかったぞ。
    けど、血なまぐさいやつらが妙に集まってたな。
    かなり呪詛が籠められた血だ。しかも一匹、二匹の匂いじゃねえ」
    「一匹って獣人いえ、人の血ではないのね」
    「ああ、かなりの量だが獣人が多いな。胸糞わりい」
    「なるほどね、流石に王も足元に火がつくのは恐れたか」
    「どういうこと?」
    「そいつらが王国の討伐部隊よ。
    おそらく存在するはずのない部隊、王国騎士団第0番隊。
    まあ、そんな呼び方するやつはほとんど居ないから
    『ファントム』って呼んでるわね」
    「それって何ですか。ユナせんせ〜」
    セリス、雰囲気ぶち壊しだから。せめてその間延びした声は止めといて。
    「『ファントム』王国の影の部隊。
    王の私兵という事になってるらしいけど一番多い仕事は王都内の異端狩りね。
    こいつらのせいで王都には獣人、エルフは一切いないといっていい。
    さすがに竜に喧嘩売るなんて世間に知られれば反乱でも起きかねないから
    正規軍を使わなかったのだと思う。
    まあ、予想通りね」
    「そいつは幸か不幸か、どっちだろうな?」
    「さあ?でもおかげで最悪、殺しちゃってもいいけど」
    「殺してもってそんな・・・」
    今までと違って戦うのは同じ人間。
    当たり前のことなのだがそれでも殺すというのは抵抗がある。
    「いい?この部隊の人はみな社会的の死んでいる者たちよ。
    言ってる意味分かる?」
    「えーと」
    「それって犯罪を犯して死刑にされた人とか、
    世間では死んだことになってる人ってことでしょ?」
    ああ、なるほど。そういうことか。
    こういうときはセリスのほうが頭が回る。
    「その通り。王国に引き渡された賞金首なんかが司法取引として
    この部隊に所属してるわけ。表向きは死んだか、逃げられたかにして」
    「つまり、この部隊の人はみんな犯罪者だから殺しても構わないってこと?」
    「ちょっと違う。これらは既に死んでいる人ってこと。
    確かに賞金首は生死問わずだから殺しても罪には問われないから、
    どちらにしろ殺しても罪に問われることはない。
    もっとも、あるはずのない部隊の邪魔をしたところで王国が私たちを捕える事は
    出来ないのだけど」
    でも、社会的に死んでると言っても生きてることには変わりはない筈。
    「言ってることはわかった。
    でも、できる限り殺さないようにするぐらいはいいでしょ」
    「何言ってるの?当然でしょ。
    賞金首なんだから殺さなくても動けなくして王国の影響の少ない店にでも
    連れてけばそのまま賞金を貰えて、そいつらは牢獄行きか死刑。
    死んだはずの者なら王国の弱みにもなる。
    そう、半分も落とせば一時的だけどこの部隊は壊滅すると言ってもいい。
    私はただ、殺しても後に問題にはならないと言ったの」
    ・・・そういう問題なのか。


    「さて、作戦を確認するわ」
    「作戦というほどのものでもないと思うけどな」
    と、途中で口を挟んだクロアが頭から血を流しながら地面に転がる。
    その近くにはまるで吐血でもしたように大量の血が口の周りについた状態の
    ユナの使い魔が飛んでいた。間違いなく命じたのはユナである。
    この数日でユナ・アレイヤに対する認識は当初とかなり変わった。
    初めこそ、これこそが王国の英雄。とエルリスも思っていたが結局その幻想も
    また儚く砕け散ったのである。
    獣人ならではの治癒能力か、かなり早く復活したクロアを含め、話を続ける。
    「私たちは今、谷の入り口に当る部分にいる。
    王国のほうからこの谷に入るにはこの入り口を通る以外に方法はなく、
    わたしたちはここで待ち伏せし、騎士団を迎え撃つ。
    私の使い魔が迎撃にまわるけど念のため、クロアとエルリスも待機してもらう。
    入り口には私とセリスで結界を張っておくから、抜けられても大丈夫だけど、
    私たちは結界を張るために動けなくなるからそのつもりで」
    つまり抜けられればそれだけユナやセリスが危険になるわけだ。
    気をつけよう。
    「オッケー」
    「分かったよ」
    「任せとけ」



    「おっ、来た来た」
    騎士団を最初に発見したのは当然だが最も視力のいいクロアであった。
    谷の入り口はちょうど丘のようになっていて騎士団が来たのがよく分かる。
    かなりの数だが、騎士団と言うからごつい鎧を全身に着込んでいると思ったが
    そうでもなく。むしろ、目立たぬためかかなり軽装であった。
    顔の辺りは全員、布で隠されている。
    騎士隊が来たということはどうやらミコトの心配は杞憂だったようである。
    「アレって本当に騎士団なの?」
    「そう。騎士団と言っても非公式の部隊だし目立つ格好は控えてるのだと思う。
    クロア、準備は出来てる?」
    「まあ、見てなって」
    そういって、騎士団がある地点に差し掛かったところで、クロアが指を鳴らすと
    共に騎士たちの立つ地面が爆発した。
    クロアのマーキングをあらかじめ騎士の通る道に仕掛けておいたのだ。
    数を稼ぐため規模は小さめだが行動不能に追い込むには十分だった。
    30近くの爆発が続き、ふいに止む。
    「あれ、もう終わり?」
    「無茶言うな。獣人の魔力は人に比べて少なめなんだ。
    念のため残して置かなくちゃならないし、これでも俺は多いほうなんだぞ」
    獣人は高い身体能力の代わりに魔力を利用するすべをほとんど持たず、
    持つ必要もない。
    高い身体能力、治癒能力を持つため魔術に頼る必要がないからだ。
    そのため、獣人は魔術というものを持たず、魔力も低いのが普通である。
    「2割ってとこね。あとは直接やるしかない。
    行って、ニール、アル」
    ユナの使い魔である2匹の竜がが実体化し、その巨体が空へ飛び上がる。
    竜は一直線に騎士に向かいその猛威を振るう。
    はっきり言ってそれだけでも壊滅できそうな勢いである。
    騎士たちも現れた竜に対して対応するが一方的な戦いだ。
    「どうなってやがる?」
    「なにが?」
    「竜を倒すために来た筈のやつらがたった2匹の竜に苦戦してるなんて
    おかし過ぎる」
    確かにその通りだ。でも実際、騎士団に対して圧倒的な力を見せている。
    「ユナの竜の力が予想以上だったんじゃない?」
    「そりゃ〜、おかしいぜ〜」
    「なっ、何が?」
    「いくら使い魔って言っても〜形は真似できても
    中身は真似できないモンなんだ〜。
    だが〜、確かにあれには竜に近い力があるな〜。
    あれって、ホントに使い魔か〜?」
    なるほど。使い魔であるマオの言うことならその通りなのだろう。
    だが、やはり猫に負けるのはすごく悔しい。
    「私の使い魔は確かに普通じゃない。
    だから、アレは竜そのものと考えてもいいわ。
    でも、あくまで竜と同じ程度だから、たった2匹の竜に苦戦するのは
    やっぱりおかしい。
    まだ何かあるのかも」
    何か・・・さすがにこの状況でミコトが予想していた兵器はありえないだろう。
    なら、何が?
    「なんだ、あれ?」
    そういって、クロアが見上げるのは街の方から来る大きな影。
    大きい。獣人や吸血鬼とはあきらかに大きさが違う。
    まるでアレは・・・
    「竜・・・」

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