Release 0シルフェニアRiverside Hole

HOME HELP 新着記事 ツリー表示 スレッド表示 トピック表示 検索 過去ログ

■179 / 8階層)  蒼天の始まり第十三話B
□投稿者/ マーク -(2005/04/04(Mon) 05:18:39)
    『蒼き空』                              


    蒼き空。
    黒い蝙蝠の様な翼を羽ばたかせながら空に浮くそう呼ばれた
    かつての仲間に抱えられる微笑むミコト。
    そこにいれば、エルリスがいたら気付いただろう。
    あの時助けられた男だと。
    「・・・何よ?」
    「太ったか?」
    ―ドゴッ!!
    抱きかかえられながら、容赦ない肘鉄を顔面に喰らわす。
    「なんか言った?」
    「グッ、悪い。どうやら成長というべきなようだな」
    そういって、ミコト胸元へと眼を向ける。
    良く見れば、男の手はちょうど胸の真下にまわされている。
    つまりその所為で、ミコトの豊かな胸が彼の腕に当たっていた。
    「死・ね!!」
    今度は握った刀の柄で男の額を殴る。
    あまりの痛さにあやうくミコトを支える手が緩むが
    「落としたらマジで殺すから」
    今度は慌てて支える腕を強めるがそうすれば当然、腕に当たっていた胸も
    さらに強く押し付けられることになる。
    「死刑決定!!」
    どうやら、リーダーなんかと言われていたわりには立場は低いらしい。




    緊張感の欠片もないやり取りを終え、バルムンクが地上に降り、ミコトを降ろす。
    見れば、バルムンクと瓜二つの男、クライス・クラインがまとう空気は今までの
    氷のような気配とは違う、燃え上がる炎のようだった。
    「貴様、吸血鬼か。
    何故、俺と同じ顔をしているのか疑問だが、
    ちょうどいい。ここで滅する!!」
    今までと違い、殺気を露にして真っ直ぐバルムンクを睨む。
    バルムンクも腰に差した剣に手を掛け
    「勝手に話を進めないでくれる」
    ミコトが二人の間に割ってはいった。
    「あんた、まだ決着はついてないわよ」
    刀をクライスへと向けながら挑発的に言う。
    「どけ!!今なら見逃してやる」
    ―見逃す・・・
    その言葉にミコトも殺気を露にしクライスを睨む。
    「あいにく、あんたの相手は私で十分よ。
    バルムンク。あんたは向こうにいるフィーアを手伝って。
    多分、火力不足で困ってるはずだと思う」
    「・・・分かった」
    そういって、翼を広げ空へと舞い上がる。
    「待て!!」
    「あんたの相手は私よ!!」
    追いかけようとしたクライスにミコトが斬りかかる。
    「フン、死に急ぐか!!」
    「残念だけど」
    刀を強く握り、ただミコトにとっての事実を語る。
    「勝つのは私よ」
    「ほざけっ!!」
    叫びながら、ミコトに向かって斬りかかる。




    ミコトはクライスの繰り出す剣を先ほどから避けているだけで反撃を
    仕掛けていなかった。
    クライスはミコトが反撃してこず防戦一方の様子を見て、先ほどの発言は
    ハッタリで、勝算などないと判断していた。
    たとえ、最初のスピードでも対応できる。
    クライスは圧倒的な力をもつ異端との戦いにおいて敵の狙う場所を本能的に
    感じ取ることで生き延びてきた。
    先ほどまでも、ミコトが狙う場所を感じ取りそこを剣で防いでいた。
    クライスにとってこの剣はどちらかといえば盾の役割をこなしてきた。
    この剣がある限りまともな斬りあいではクライスを狙っても全て防がれる。
    そう、この剣を先にどうにかしなければならない。
    ミコトはそれを感覚的に理解していた。
    しかし、ミコトは既にその剣の弱点を掴んでいた。
    先ほど突きを防がれたときはあの脱力感がなかった。
    切っ先で当たったから接地面が少なかったとも考えられるが
    おそらく、対魔力のないところ、もしくは弱いところがあるという事だろう。
    だが、クライスの剣はほぼ全てオリハルコンで作られた剣でその強度は半端でない。
    それを壊そうと思ったら刀の魔力を一点に集中させなければならない。
    ならばこの宝刀の魔力を切っ先に集中させ、対魔力のないところを討つ。
    それこそが勝機である。
    「開放、見」
    魔力を眼にまわし動体視力を上げる。
    クライスの剣をすんでのところでかわし、
    「開放、細」
    次は魔力を腕にまわし、強化された動体視力とほんの数ミリの動きさえ
    完全にこなす繊細さでかわし切れぬ剣の切っ先と切っ先を当て受け流す。
    「開放、鋭」
    刀を覆う魔力を切っ先に集中させる。
    狙うのは剣の中央。彫られた対魔効果のある彫刻。
    対魔の金属に対魔の魔術の文字を刻むという矛盾したことの所為で刻んだ文字の部分だけ
    対魔効果がなくなっているのだ。
    はっきり言って、宝刀の力で細かな動きも寸分違わずこなせる様になっているが、
    動くものが相手ではその力を使ってもまさに神業だ。
    だが『相手はこちらの狙う場所が分かる』。
    ミコトはそう考え、それを逆手に取った。
    最初から剣を狙えば相手もそのまま受ける筈。
    そうやって動く目標を固定させた。
    ―勝負!!
    刀の切っ先は寸分違わず、剣の中央の文字に突き刺さり
    ―ピキッ!
    「なっ!?」
    「終わりよ」
    ―バキン!!
    真っ二つに折れた。
    「言ったでしょ。私の勝ちだって」







    漆黒の翼を羽ばたかせ、黒い影が兵器へと向かう。
    見れば、金の獣、フィーアが兵器の置かれた砦へ近づこうとするが
    下から放たれる銃と矢に阻まれ、元に位置へと戻されていた。
    「天上に在りし雷の神、それより生み出されし紫電の精よ。
    我が道を開く矛となり、我が前に立ち塞がりし壁を崩す鎚となり、
    我に仇名す愚かなる者を裁きし雷となれ。
    『トゥール』」
    まるで意志を持つかのように雷がバルムンクの周りを覆う。
    バルムンクの意志によりその身を覆っていた大部分の雷はその身を離れ、
    地上からフィーアを狙う代行者たちに襲い掛かる。
    雷は幾人もの敵を昏倒させながらもその威力を衰えさせていなかった。
    恐るべき精度と威力である。
    通常の魔術はこれほどの精度でコントロール出来るものでもなく、
    当たればその魔力を全て吐き出して消滅する。
    高位の魔術ならば障害物も物ともせず全て破壊できるが
    細かなコントロールはできず、なにより加減が効かない。
    周りに残した雷を用いて放たれる銃弾を弾きながらフィーアの元へと飛ぶ。
    「えっ?バルムンク!?」
    「状況は?」
    「あっ、と!!ご丁寧に結界が張ってあって私じゃ手が出せない」
    「だろうな。ここは俺に任せろ」
    そう言って代行者を襲っていた雷を呼び戻し、それらを一つにまとめる。
    「砕け!『ミョルリル』!!」
    まとめられた雷は球状になり、そこから紐のように出た部分を掴み
    大きく振るう。
    それは雷で出来た鎚だった。
    振るわれた球は大きく弧を描き、結界へと向かう。
    「なっ!?」
    「・・・嘘?」
    だが振るわれた鎚は結界と拮抗し、耐え切れずにそのまま消滅した。
    「アレを防ぐだと?」
    「なんて力・・・
    一体どこの馬鹿が張ったやつよ!?」
    本当なら結界を張ったのにバカも何もなく、
    はっきり言ってただ悪態をつきたかっただけなのだが、
    フィーアの言った事は意外と当たっていた。
    そのバカの人は北の小さな町の学校にて
    「ックシュ!」
    「先生かぜですか?」
    「う〜ん、これは誰かが噂してるみたいね」
    「はあ、そういえばハーネットさんとミヤセさんはどうしたんですか?」
    「一身上の都合で自主退学よ。
    ・・・それにしても協団のやつらいきなり私に結界を張ってけだなんて。
    しかもあんな妙なところに。
    まあ、いっか。深く考えなくても。
    おかげでジジイに小言を言われずに済んだし―」
    「先生、早く始めてください」
    「ああ〜ゴメンね。
    じゃあ、始めるわ」
    ・・・
    ・・・
    ・・・
    「でどうする?とりあえず結界だけでも壊すなら同時にでもやる?」
    「いや、結界を潰しても結界を構成している魔術式を討たねば直ぐに戻る。
    消えた一瞬を狙ってもう一撃、撃ち込むか、結界ごと貫くしかない」
    「そう。じゃああんたが結界を潰した瞬間に中に入ろうか?」
    「それも駄目だ。教会が手を貸しているならアレにもオリハルコンぐらい
    使っているだろう。ミスリルでもフィーアでは無理だろう?
    第一、結界の中に飛び込むなど、入った瞬間に結界が再生すれば死ぬぞ」
    「・・・さすがにそれは嫌ね。じゃあ、どうする?」
    フィーアが考え付いたことを手当たり次第に口に出すが、ことごとく却下され
    隣に立つ男の顔をうかがう。
    バルムンクも渋い顔つきで思案する。
    「・・・魔力は残っているな」
    「まあ、半分以上は」
    「それで負荷を掛け、力ずくで貫く」
    「勝てるの?」
    「これ以上の方法はないと思うが?」
    実にあっけらかんとした顔で肩をすくめて言う。
    「まあ、試すだけ試してみればいいか。
    いざとなったらミコトを呼べばいいし」
    そう、ミコトがいれば簡単な問題だ。
    ミコトならこの結界を斬れる筈。
    そうして、消えた瞬間にバルムンクが決めればいい。
    本当に簡単なことだ。
    「では行くぞ」
    消えた精霊を再び宿し、言葉を紡ぐ。
    「紫電の精よ。
    汝の主、黒の王の名において命ずる。
    今こそ、その力の全てを我が前に示し、
    このひと時のみ汝こそが神となりて
    愚かなる者どもを裁く雷を天より降ろせ」
    突如、天候が荒れ雲より雷が地上へと降り注ぐ。
    それを見てファーアが再び巨大な墓標を創り出し結界へと落とす。
    落とされた岩は結界へとぶつかり崩壊する。
    そして、その次の瞬間その岩を追う様にして特大の雷が結界に落ちる。
    だが、長い時間、拮抗が続き徐々に雷の勢いが衰えていく。
    「あれでも駄目なの!?」
    ―リーンッ!
    突如後ろから鈴の音が鳴り、二人は慌てて振り返る。
    そこには黒いドレスを纏ったまだ幼い少女が浮いていた。
    「お手伝いさせていただきますわ」
    少女が腕を掲げると雷と結界のぶつかる空間が歪み、突然、雷が消えた。
    「負けた!?」
    だが、次の瞬間、雷は結界の中に再び現れ、真っ直ぐ兵器へと突き刺さる。
    内部へと潜り込んだ電流は内部の導線を焼き切り、行き場をなくし暴れ狂う。
    きしくも外装に使われたオリハルコンが外に出ようとする電流を拡散し、
    内部にとどめていた。
    暴れまわる電流によって内部は電磁波の嵐となり高温によって配線のみならず
    内部の機械も溶かし、最後は動力炉に穴が開き爆発した。
    「少々お待ちください。回収してきます」
    そういって少女の周りの空間が歪み、姿が消える。
    そして、今度は1人の青年を連れ再び結界の中に現れた。
    少女と青年は兵器の残骸を荒らし、一つの巨大な宝石を見つけ戻ってきた。
    「空間転移魔法・・・」
    特定の空間と空間をつなぐ最も高位の魔術の1つ。
    しかも、自分自身や、自らの魔力で生み出した物以外を転移させられるには
    かなりに技量と魔力を必要とする。
    他人の魔術をあの一瞬で転移させるなど人間業でない。
    魔術学園や協団の頂点に立つ人物でも出来るか出来ないかいう芸当である。
    ましてや、見た目10代前半の少女が扱うなど普通ではありえない。
    ―話には聞いてたがまさか、こんな幼いとは。
    「初めまして。今代の黒の王」
    少女はドレスの端を持ち上げ、恭しく挨拶をする。
    対して、隣に立つ青年は無表情に、だが、どこか不機嫌そうな顔で
    こちらを見ている。
    「ああ、初めましてだな。
    鮮血の薔薇姫、月下の大公」
    吸血鬼の都市バロニスを統べる三人の吸血鬼。
    鮮血の薔薇姫、リリス・デイ・ガーネット。
    月下の大公、アベル・デイ・ガーネット。
    そして、常闇の支配者である。
    上二つは固有の人物を指すが最後の人物だけは異なる。
    何らかのきっかけで人に滅ぼされたり、配下のものに殺されたりし、
    既に何度か交代している。
    ゆえに常闇の支配者という称号を継ぐ者が統治者となる。
    もっとも、上二人が基本的に共に動き、常闇の支配者とその配下とは
    基本的に険悪である。
    そのため統治者と言っても常闇に決定権はほとんどない。
    この二人を相手に喧嘩を仕掛けるのは愚策であり、
    二人の眼が光っている内は常闇はおとなしくしている。
    血の濃さは力の差。
    鮮血の薔薇姫は真祖がつくりし唯一の眷属。
    月下の大公はその正体が知られておらず、この者こそ真祖と言うものもいれば
    真祖の子ともいわれる。
    が、何故この二人が同じ姓を持つかは彼らとその従者以外誰も知らない。
    そして、常闇はバロニスの大部分の吸血鬼を統べる王である。
    これらが戦えばバロニスという都市そのものにとって深刻なダメージとなる。
    それゆえ、だいたい両者ともお互いを快く思っていないがおとなしくしている。
    周りにいた代行者は守るべき対象が破壊され、さらに最凶の化け物を前にし、
    早々に引き上げていく。
    そして、引き上げていく代行者を尻目に目的を達成したことを伝えに
    フィーアがもう夜も明けようとする空に飛び上がりミコトの元に向かった。






    「さてと、それじゃあ」
    ミコトは背後から殺気を感じ、後ろから繰り出された槍をギリギリで受ける。
    「リューフ!?」
    「・・・向こうもやられた。
    引き上げだ、クライス。
    まだやるというなら俺が相手になってやる」
    そういって、片手で槍をミコトに向け威圧的に言う。
    「・・・別に戦わない相手を追うつもりはないわ。
    こっちも疲れてるし」
    「そうか・・・・済まんな。
    ―行くぞ!!」
    「クッ・・・分かった」
    そして、二人は走り去っていく。
    見ると他の代行者たちもそのあとを追うようにして去っていく。
    ということは―
    「向こうは終わったってことね」
    仲間のいる方角を見るとまるで見てたかのようなタイミングで
    フィーアが現れる。
    降りてきたフィーアに乗せてもらい、バルムンクの元へと向かう。
    ―とりあえず、一件落着。向こうはどうなったかな?





記事引用 削除キー/

前の記事(元になった記事) 次の記事(この記事の返信)
←蒼天の始まり第十三話A /マーク →蒼天の始まり第十四話 /マーク
 
上記関連ツリー

Nomal 蒼天の始まり第十話 / マーク (05/03/31(Thu) 19:00) #170
Nomal 蒼天の始まり第十一話 / マーク (05/03/31(Thu) 19:02) #171
  └Nomal 蒼天の始まり第十二話@ / マーク (05/04/01(Fri) 21:36) #173
    └Nomal 蒼天の始まり第十二話A / マーク (05/04/01(Fri) 21:40) #174
      └Nomal 蒼天の始まり第十二話B / マーク (05/04/03(Sun) 18:42) #175
        └Nomal 蒼天の始まり第十二話C / マーク (05/04/03(Sun) 18:44) #176
          └Nomal 蒼天の始まり第十三話@ / マーク (05/04/04(Mon) 05:09) #177
            └Nomal 蒼天の始まり第十三話A / マーク (05/04/04(Mon) 05:10) #178
              └Nomal 蒼天の始まり第十三話B / マーク (05/04/04(Mon) 05:18) #179 ←Now
                └Nomal 蒼天の始まり第十四話 / マーク (05/04/05(Tue) 21:57) #180

All 上記ツリーを一括表示 / 上記ツリーをトピック表示
 
上記の記事へ返信

Pass/

HOME HELP 新着記事 ツリー表示 スレッド表示 トピック表示 検索 過去ログ

- Child Tree -