Release 0シルフェニアRiverside Hole

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■175 / 4階層)  蒼天の始まり第十二話B
□投稿者/ マーク -(2005/04/03(Sun) 18:42:58)
    2005/04/03(Sun) 18:43:13 編集(投稿者)

    『氷の女王』





    「クソッ!!何故貴様が!!」
    「因果なものだ。再びまみえる事になるとわ」
    騎士団のリーダーと思わしき男、アストと銀の月アルテが剣を交じあわせ
    火花をちらす。
    男は以前負けた記憶があるからだろう。
    余裕のない険しい顔で剣を振るう。
    対照的にアルテの顔は普段通りの、しかし厳しい顔だった。
    アルテは横に、上に振るわれる一撃一撃に重みのある剣を完全に読みきり、
    最小限の力で捌き続けていた。
    振るわれる剣と剣の合間、その一瞬の隙を縫ってまさに神速と形容するに
    相応しい突きを放つ。
    ―ッダーン!!
    今までの経験により培われてきた直感にそって、反射的に体を逸らし、
    今まさに自らの命を刈り取ろうとした凶弾を避ける。
    完全にはかわしきれず、頬から血が流れ、
    男の左手には今だ煙が残る銃が持たれていた。
    突きは弾を避けた際に外れ、男の纏う服を切り裂いただけだった。
    「ほう、この距離で避けるか」
    左手で頬から流れる血を拭い、
    「この程度ならばな。
    しかし、人に注意して置いて自分が油断しては面目が立たない。
    本気を出そう。かかって来るといい」
    「ほざけ!!」


    男と少女が幾度となく剣を交じあわせる。
    男は本来は両手で扱うべき剣を軽々と右腕のみで操りアルテの剣を防ぎ、
    左手に持った銃で距離の開いた一瞬にアルテを狙う。
    両手剣を片手で振り回す目の前の男は尋常でない腕力である。
    だが、それでも銀の月の剣に全て止められ、また押し返されていた。
    男と対峙する女騎士は見た目に騙されれば痛い目を見る。
    現に、男との剣の力もスピードも絶対的な違いにはなっていなかった。
    だが、それでも確実に男の振るわれる剣の重さとスピードは
    アルテを上回っている。
    勝てない理由は絶対的なまでの経験、そして技術の差。
    たかが一国で多少噂になっただけの犯罪集団のリーダーでは
    比べることすらおこがましい絶対的なまで実力の差である。
    それこそが銀の月の異能。
    見た目に、過した時間に矛盾した長い長い年月を掛けて錬磨した熟練の技と知。
    彼女がその身に受け入れる存在の力である。
    男の左手から放たれる銃弾を見切り、ギリギリのところでかわしながら、
    アルテは剣の間合いに飛び込む。
    「ハァァァッ!!」
    裂帛の声と共にアルテは自身の気を剣と両手に集める。
    東洋のみならず、西洋にも伝わる自身の体に宿る気を用いて
    自己を高める気孔術。
    熟練のものならば物質にすら気を通わせ、その力を高めることが出来る。
    そして、気を纏い、渾身の力で剣を振るいう。
    剣と剣が火花を散らし、
    ―ピシッ!
    嫌な音が男の剣から発せられ、剣と剣が離れる。
    すかさず、アルテは続けざまに、一撃目に当たった部位と平行の位置に剣の腹に
    第二撃を叩き込む。
    耐え切れなくなった剣は根元から折れ、その先の無防備な男は
    もはや振るわれる剣を防ぐものはない。
    しかし、それは甲高い金属音と共に阻まれた。
    男は折れた剣の柄を捨て素手になった右手を盾にして剣を防ぐ。
    剣を防いだ部分の服が破れ、その下から銀色の輝きがその姿を覗かせる。
    そして、思い出す。
    アイゼンブルグで盗まれたある品物。
    かつて、魔法文明時にてその名を轟かせたという機甲技師、
    アルバロス・シルバー・アームズの作った最高、そして最強の義手。
    そのレプリカであった。
    中身のほとんどは解析不能のブラックボックスか、現在では再現できぬ技術、
    オーパーツに分類されるもので、これはまだほんのわずかな機能を
    再現しただけの試作品だった。
    それでも当時、ウルカヌスの捕縛よりも奪われた義手の破壊のほうが賞金額は
    高かった代物であり、それだけこれは危険なものなのである。
    アルテが捕縛したときには壊すよりアイゼンブルグに返した方がいいだろうと
    判断し、破壊せずに引き渡したが、今となってはそれが悔やまれる。
    男は義手を盾にして剣を防ぎ、後ろに飛ぶ。
    それを追うようにして進むアルテに向けて、銃を左手から右手に移し、
    右腕をアルテへと向ける。
    アルテは顔を目掛けて迫る銃弾を見切り、首を傾けるだけでかわす。
    だが、顔に向かってきた一撃の所為で他のことに注意がまわりきらなかった。
    右腕の義手の一部から銃弾が飛び出し、剣を握る右手の甲に掠る。
    痛みに顔をしかめ剣を落とし、素手になったアルテを見て好機と判断した男の義手からナイフが飛び出して先端のナイフごと腕を突き出す。
    ―ドッ!!
    二つの影が重なり、刃が胸を貫き、背中からその刀身を覗かせた。
    「また俺の負けか・・・」
    そう、赤き血を刀身から滴らせながらも銀に輝く短剣が。
    アルテは左手で外套の下、腰の辺りに仕舞われていた短剣を抜き、
    男の腕よりも速く、その剣を胸へと突き出していた。
    短剣は正確に心臓を一突し、男の胸から剣を抜くと男は力なく地面に倒れこんだ。
    倒れこんだ男を一瞥すると、血を払うようにして短剣を振るい鞘に戻す。
    そして右手の具合を確かめる。
    掠っただけとはいえ、剣のキレは幾分か落ちるだろう。
    だが、悠長に治療などしてる余裕もなく傷口に軽く布を巻くだけで、
    左手で長剣を拾い騎士たちの元へと向かった。








    「てええいっ!!」
    人を相手にする始めての戦い。
    今までのような人にあらざる者を相手にするのとは勝手が違う。
    なにより、人を殺すということはまだエルリスには重い。
    そして長時間の戦闘、長い長い『殺し合い』によって体力以上に、
    精神力を疲労していた。
    精神が疲労すれば、集中が乱れやすくなる。
    それはつまり、周囲の認識力の低下を意味し、その結果、
    ――後ろ!!
    後ろにいた騎士が大きく振りかざした剣をすんでのところで受け止める。
    エルリスの集中力も、もう限界に近い。
    部隊を統率するものはアルテが相手しているため、今までのように
    集団としてまとまった動きはしていなかったがその分、
    残りの騎士がエルリスとクロアに集中してしまっている。
    ―不味い。
    エルリスの額を嫌な汗が落ちる。
    相手の騎士はこのまま力任せに押し切ろうと剣に全体重をかけている。
    しかも向こうは男でこっちは女。
    このままでは剣をいずれ剣を抑えきれなくなり真っ二つにされるだろう。
    一か八か、両手で支えていた剣を逸らす。
    逸らされた剣に沿って、襲ってきた騎士の剣はそのまま地面に突き刺さった。
    だが、騎士は手に持った剣を捨て剣を杖のようにして立ち上がろうとする
    エルリスに身体からぶつかる。
    吹き飛ばされたエルリスの目には、剣を拾い今まさに振り降ろそうとする
    騎士の姿が映った。
    死―
    「お姉ちゃん!!」
    ―セリス。
    そうだ。こんなところで死んでたまるか!!
    自らの意志でこのようなことをすることなど初めてだ。
    こちらから身体を明け渡すのだ。
    もしかしたら、もう戻れないかもしれない。
    ―だが、それがどうした!!
    こんなところで死ぬくらいなら、たとえどんなことだろうと
    最後まで足掻いてみせる!!
    「目覚めなさい!!」
    自身の中に眠る存在に向け叫ぶ。
    振り下ろされる剣を見つめながら
    私の意識は途切れた―
    「―グアアァァァッ!!」
    男の悲鳴と共に、振り下ろされる剣が止まる。
    男の肩の辺りが氷で覆われ、今まさに振り下ろそうとした腕が止められた。
    氷は徐々に広がり、男の体を覆っていく。
    そんな男を気にせず、エルリスは静かに立ち上がり、男を覆う氷は全身に広がり
    男は氷の彫像と化した。
    そして、剣を掲げ、まるで歌うようにして言葉を紡ぐ。
    「『汝が犯せし罪、我が世界で贖わん。
    愚かなる咎人に、捌きの鉄槌を下せ。
    未来永劫、けして溶けぬこの地にて、
    我が痛みを知れ、我が怒りを知れ、
    その罪を知れ』」
    最後の言葉が紡がれ、世界が変わる。
    「『コキュートス』」
    一言で言えば異界。
    今までいた谷が一瞬にして氷で覆われ、雪が降り注ぐ。
    そこらに倒れ付していた騎士たちは氷の上で静かに眠っていた。
    「この世界はまさか!?」
    「なんでこれを!?」
    別々のところから発せられた声は共に、疑惑と緊張を含む
    どこか焦るような声だった。
    そして、その異質な世界を生み出した張本人はその極寒の
    世界の中で静かに立ち謳う。
    「『深き眠りに誘われ
    穏やかなる終わりを望みし者よ、
    神々の創りし氷の精の名において
    汝が終焉を弔おう』
    『アイスグレイブ』」
    紡がれた言葉は力となり、この氷の世界にて現れた。
    空に浮かぶ巨大な氷の塊。
    空を飛ぶ機械竜を一回り上回る氷が残る数匹の竜の上空に出現し、落ちる。
    機械竜はその巨大な氷に押しつぶされ、地面へと叩きつけられて
    その活動を停止させた。
    その巨大な氷の立つ様はまるで弄ばれた竜に対する墓標のようだ。
    そして、大きさこそは違うものの人を押しつぶすには十分な氷の墓標が
    同じように空中に無数に現れ、雨のように騎士たちに降り注ぐ。
    氷はユナたちを綺麗に避けながらも、騎士たちへと乱雑に降り注ぐ。
    多くのものは直撃こそしないものの、地に落ちた際に砕けた大粒の氷の塊に
    襲われ、倒れ付した。
    そして、この世界にて動く敵がいなくなると役目を終えたかのようにして
    少女もまた倒れ伏す。
    同時に谷を覆っていた氷はガラスが砕けるように散り、
    降り注いだ雪は溶けるようにいて消滅した。





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