Release 0シルフェニアRiverside Hole

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■106 / 1階層)  「Β 静かな日々」@
□投稿者/ 犬 -(2004/12/30(Thu) 00:07:20)
    2004/12/30(Thu) 00:08:46 編集(投稿者)
    2004/12/30(Thu) 00:08:37 編集(投稿者)


    ◇――Erzahlerの章――◇



    世界四大国家の一翼を担う新興技術国家、ビフロスト連邦の首都ヘイムダル。
    見上げるような高く険しい断崖を背にし、海を正面に構えたなだらかな丘陵地で、山脈から海へと河が一つ流れている。
    ヘイムダルは綿密な都市計画の基、いくつにも区画分けされており、その中央区には荘厳な意匠が施された大きな二つの時計塔が立っている。
    ヘイムダルは中心から海側が人口の多い住宅街、住宅街の外縁部に魔科学・魔法関連の施設、断崖側は農業地帯で人口が少なくなっている。

    その人気のない断崖の麓の森のそばに、ぽつんと家が建っていた。

    その家は、かなり変わった造りをしていた。
    まず、敷地の周りを、焼成した粘土を乗せた高さ3m超の白塗りの壁が、まるで小さな城壁のように約1エーカーもあるやたら広い敷地の周りを延々と囲んでいる。
    敷地内の家は東西二つに別れていて、二つの連絡路が小さな花園の中庭を造っている。
    ちなみに庭らしい庭はそこだけで、他は新地みたいな地面で樹がぽつぽつと生えてるだけだった。芝生や花壇なんてどこにもない。
    西は3階建ての家で、これは普通の建築様式だった。東がかなり変わっていて、焼成した粘土を屋根に乗せた木造の平屋だった。
    他にも白塗りの尖塔や、とても広い部屋が一つあるだけの平屋もある。

    そんな変わった家の、東側の家の玄関から、一人の少年が出てきた。
    少年はビフロスト連邦中央魔法学院の制服の上に、防寒用の朽葉色のマントを羽織っていた。
    年は10代中頃だろうか。ほとんど白に近い銀髪で、精悍な顔立ちをしている。
    180を優に超える長身で、鍛え込まれ引き締まった体躯は華奢さを全く感じさせない。

    少年の名は、レナード・シュルツ。

    レナードは庭を縦断して門を出ると、振り向いて門に手を当てる。

    「Aileen Van Herzog Mimirの名においてLeonard Schulzが命じる。閉じろ」

    レナードの命に従い、家中の窓や鍵が独りでに閉まっていく。そして最後に、大きな門が重々しい音を立てて閉まる。
    なんとも不思議な光景だった。
    だが、レナードは別段何ともないような顔で、門の蝶番を引っ張って開かないか確認した後、ゆっくりと歩き始めた。
    そして、数メートルほど歩いて立ち止まる。

    「アクセス」

    レナードはつぶやき、目を瞑り、集中する。
    レナードは身体能力強化の魔法を使おうとしていた。

    魔法は人間が生み出した、あらゆる現象を起こす技術だ。
    この世界はマナで出来ており。
    魔力はマナの塊にしてマナを性質付けるものであり。
    エーテルは魂より生じる生命エネルギーである。
    そして、エーテルによって魔力を制御、カタチになるよう構成する。
    それが魔法のメカニズム。

    身体能力の強化は、2つの工程を要する。
    神経伝達や筋肉の細動を制御する”運動神経の強化”と、擬似的に不可視の筋肉や臓器、血管や神経を増設する”身体機能の強化”。
    身体強化は子どもでも出来る基本ながら実戦にも通じる技法であり、鍛錬すれば身体表面上にうっすらと防護膜として纏うことも可能で、さらに達人ともなれば刃物すら受け止められる。

    「コントロール、イメージ」

    レナードは言の葉を紡ぐ。
    呪文とも言われるこれは、宣言により自身を方向付け、集中しやすくするためのものだ。然るに呪文は千差万別。人の数だけ呪文はある。
    魔法が実質エーテルによる作用でありながら、精神力を要するというのはあながち間違いではない。
    湖面に自身を映すように穏やかに、何事にも動じず常に冷静に安定させられる精神力と集中力を以って自身を管理し、最大の技量を揮って魔力を掌に握する。
    そして、レナードは想像する。
    筋肉繊維。骨格。血管中の血流。神経網組織。各臓器官。増設し効率化するそれらを。

    「クリエイション」

    そして、その想像を創造する。
    体内で稼動中のエーテルを、新たなエーテルで制御、維持管理する。

    「………よし」

    レナードは全工程を終えて、拳を開閉して確かめる。
    身体の調子を確かめた後、レナードは前を向き、時速40kmほどで駆け出した。











    レナードは草原を駆け抜け、ヘイムダルの中央区に辿り着き、日が昇るにつれて活気付きだした街の中を駆けていく。
    彼が目指すのは中央区の中央部、ビフロストの象徴である二対の大時計塔の片方、中央魔法学院。
    学院の院章は上側にB.F.C.M.A.という文字。両端には二つの尖塔。下端には玉杯。そして上端から玉杯へ繋がる架け橋。
    文字は学院の略称、尖塔は二つの時計塔、架け橋は世の理たる天の城へと至る橋、玉杯は知識の水を受ける杯だ。
    大時計塔のもう片方は国会議事塔。国章は基本的に院章と同じで、上側の文字はBifrost Federation。架け橋は上下ではなく尖塔同士を繋げている。
    文字はそのまま国名。架け橋は友好と結束の意を示す。









    レナードは学院に着いた。
    予鈴が鳴るのが近いのか、門衛が詰め所から出てきている。
    レナードは身体強化の魔法を解きながら門をくぐり抜け、塔の中に入った。


    塔の中は、中心に直径50mほどの巨大柱があって、その周りが真上まで空洞になっている。
    そして各教室などはその空洞と外壁の間と、巨大柱の中にある。
    そのため、階段も塔の壁際と巨大柱の外周部の二つが、外と内で二重にグルグルと回っている構造だ。
    各階ごとに三方向に巨大柱と外縁を繋ぐ通路もある。
    塔の1階部分は巨大な空間が確保されていて、それだけで普通の家の5階分くらいはありそうな高さだ。
    また、高度な技術を以って造られたステンドグラスや彫像、噴水が並んでいて、豪華絢爛にして造詣深い。


    レナードは1階フロアを通り抜け、魔法駆動のエレベーター待ちの長い列の最後尾に並ぶ。
    この時計塔は1階ごとの高さが異様に高いので、各階の移動は階段よりエレベーターが使われることが多い。
    だが、3つあるエレベーターのうち1つは教職員ないし来客専用になっていて、学生の使用は禁じられている。
    結果、2つだけのエレベーターで全学生総勢1500人を超す人数を捌かなければならない。
    多少待つのは仕方のないことだった。




    数分の後、エレベーターが2往復ほど昇降するとレナードも乗ることが出来た。ガラス越しに塔の内部がよく見える位置だった。
    レナードは軽い重力負荷を感じながら、壁がガラスになっているエレベーターから、外を眺める。


    巨大柱周りの廊下に教員がちらほらと出て来始め、それを見た初等部の子達があわあわと内壁廊下を駆けていく。
    廊下からきゃーきゃーと黄色い声を上げて、女子中等生が雑誌を見ながらエレベーターの方を指差している。
    午後の実地訓練に向けてか、男子高等部生数名が簡単な組み手をやっている。
    そんな風景を眺めていると、11年生の階に着いた。
    ちょうど、予鈴が鳴ったのと同時だった。


    レナードはエレベーターを降りて、廊下を歩いてく。
    レナードのクラスは7組。
    乗ったエレベーターからすぐの位置だった。




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