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□投稿者/ マーク -(2005/04/12(Tue) 22:00:30)
| 『鉄甲都市』
ビフロスト連邦の小さな一国の街外れの館。 私はそこで育った。 もっとも、私が6歳の時には既にこの大陸の中央に位置する大陸中、 最大規模の魔術学校、リュミエールゼロのある都市に学園都市にいたので 実際に暮らした年数は今まで生きた都市の半分にも見たず、 すごした記憶はほとんど無かった。 魔術学園へはどんな簡単な魔術でもいいから魔術式を構築できれば 何歳でも入学できることになっている。 だが普通、入学するのは十歳前後。 はっきり言って学園としても私は異例だったのだろう。 私がそんな小さな頃に学園としに入学したのはひとえに兄と離れるのが 嫌だったからだ。 その頃兄は十歳。 既に魔術を構築することは可能だったため、入学に問題は無かったのだが、 私が駄々をこね一緒についていくと言い出したのだ。 無論、兄も両親も困り果てた。 そして、兄がコレが出来たらついてきてもいいと言って、簡単な炎を出したのだ。 必死だった私は兄が構築した魔術式を真似て無我夢中で式を構築した。 今思えばあの時兄が炎以外の魔術を使ってたら、私はここにいなかった。 結果で言えば、私はその魔術式を完全に、いや兄以上の精度で発動させた。 両親も兄も信じられないといった顔で私を眺め、 もう一度やってみるように言った。 既にコツをつかんでいた私はさらなる精度で発動させ、 全員に学園都市の入学を認めさせた。 もしかしたら。 もしかしたらと何度も考えた。 あの時に何かが違っていたら私も兄も両親と共に笑ってあの家で 過ごしていただろう。 焼け落ち、廃墟となった家を思い出し、いつも思う。 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ―チュンチュン
「ん」
朝か。 久しぶりに昔の夢を見た。 でも、泣いてなんていられない。 ミコトも言っていた。 後悔先に立たず、過ぎ去ったものは戻らない。 昔を振り返ることも大事だが囚われてはならない。 今これからどうするかを考えるべきだ。
「行くわよ」
軽い朝食を取り、見張りとして実体化させていた使い魔に飛び乗る。 向かう先はアイゼンブルグ。 王国の内部に存在する独立都市であり、その優れた技術力により発展し、 他国からも注目される技術都市である。 アイゼンブルグは出入りこそはある程度自由だが、都市全体が外壁に囲まれ、 閉鎖的な部分もある。 だがその結果、魔法文明時の技術が他の国に流れることもなくその内部でのみ 受け継がれ、その知識と技術で街は発展し現在でも世界最高レベルの技術力を誇る 鉄の都となっている。 また、都市自体も王国の内部にありながら他種族を好意的に受け入れており 王国から逃げ出したものはほとんどここで暮らしている。 位置的にも近いため学園都市、協団とも関わり合いは深いが、 私はここに来たのは初めてである。 市場やメインストリートは遠目にも活気に溢れ、人ごみで溢れかえっている。 商品も食料から銃器までありとあらゆる物が揃えられ、その分混沌としている。 兄、レイヴァン=アレイヤを探しにここまで来ていた訳だが、 昔から、ここアイゼンブルグにはいづれ来たいと思っていた。 鉄鋼業が盛んであり、様々な武器、銃器も揃えられたこの街ならではの物も多く、 ここにある銃器には大変、興味をそそられている。 兄を探すついでに見物することが出来るためここに来たのは正解だったと思った。 無論、仲間に頼まれたことも忘れていない。 アイゼンブルグが王国に協力体制をとっているか、 それともただの技術流出かの調査。 そして、もう一つはある物の返却である。 だが、たまには少しくらい羽を伸ばしてもいいだろう。 そう自分の中で結論を出し、街に入ったユナは一目散に立ち並ぶ店へと 入っていった。
「高い!! ベネリがこれってどういうことよ!!」 「高いってそれが相場だぞ・・・」 「確かに普通ならコレぐらいでしょうけど、 こんな状態の銃が相場の値段と一緒な筈無いでしょ。 ふざけてるの!?」 手に持ったショットガンはすでにかなり使い込まれておりボロボロだが、 十分修理して使える物だ。 だが、このような中古を通常と同じ値段で売るなど容認出来る筈が無い。
「ああ、もう分かった。 コレでどうだ」
そういって、提示してきた値段は中古の相場よりも少々低いくらいだ。 無論、その値段なら文句は無い。
「商談成立ね」 「畜生もってけドロボー」
金を支払い、アーカイバに仕舞う。 流石は鉄甲都市と呼ばれるだけあって種類も豊富で 店の数も多し、何よりその完成度が高い。 さて、次は何を探すかな。
「おい、嬢ちゃん」 「何よ?」 「そいつを修理する気ならこの先の路地を抜けたところにある店の 偏屈ジジイに頼むといいぞ。 選り好みが激しいから受けてくれるかどうかは分からんし、 性格も最悪だが、腕は確かだ。 嬢ちゃんなら気に入るかもしれん」 「ふ〜ん」
そういって、男が親指で指した先の細い通路を覗き込む。 どうせ、当てもないしデッド・アライブのメンテも予定していたので 腕のいいジャンク屋などを探していたから都合はいい。 男が示した先の路地に入り、少し歩き細い道を抜けると 一軒の店がぽつんとあった。 はっきり言ってお世辞にも大きいとも繁盛しているともいえない。 が、こんな場所にあるならそれも仕方ないだろう。 とりあえず、ドアを開け覗き込むと店のカウンターには店主と思わしき老人が 座って新聞を読んでいた。 男の言ったとおり確かに初老の老人で、気難しそうな顔をしている。
「ここって、ジャンク屋?」 「ああ、そうだ。嬢ちゃんなんか直して欲しいのか?」 「・・・これと、あとコレのメンテナンス」
名前を知らないのだから仕方ないとはいえ、さっきの男といい さんざん嬢ちゃんと子供扱いされてるのは気に食わないが、我慢しよう。 そう自分に言い聞かせ先ほど店で買ったショットガンと 愛用のデッド・アライブを老人に見せる。 それを見た瞬間、老人が驚き目を見開いた。
「これは凄い。こいつのメンテか?」 「ええ。完璧に整備して欲しいの。 あと、こっちは修理より、折角だから改良して欲しいけど出来る?」 「ワシを誰だと思っている。 クククッ、久しぶりにやりがいのある仕事じゃ。 二日じゃ。二日後に取りに来い。 それまでには両方とも完璧にしといてやる」
そういって、老人は3丁の拳銃を持って奥に潜り込む。 店の中を見ればかなりの量の銃や機械が棚や壁に置かれている。 そのほとんどが使い込まれた物を修理した物だと分かった。 手にとって念入りに見てみると、型自体はそこらで売っている様な ごく普通の物だが、内部にかなりの改良が加えられている。 驚いくべきことはその改良が素晴らしい。 なるほど、これを見た限り、確かに腕はいいだろう。 だが、なんせ預ける物が物だ。 疑うわけではないが、念のため使い魔を一匹、霊体化させて ここに見張らせて置くとしよう。 さてと折角来たんだし、どうせだからここのやつも買っていくか。 見渡して幾つか気になるのを見つけては手に取り、確かめる。 手の大きさなんかも気にしないと使いづらいだけだ。 候補に入れては除外し、やっと2つにまで絞り込んだが、
「どうしよう?」
迷う。凄く迷う。 ここにあるのは中古とはいえ、かなりのカスタマイズがされた物ばかりだ。 幾つかの候補は簡単に除外できたが今度のはどちらも捨てがたい。 かといって、両方買うというのも無駄なだけだ。 どちらにする? 右手に持っているのはベレッタ・M92F。 改良点は銃身などが強化されていて、実弾の代わりにE・Cで魔力弾を撃つ点。 銃身の強化は実弾を撃つことを考慮に入れてないため、 魔力を阻害しない素材で強化されている。 左手にはコルト M1911A1 。 こっちも銃身の強化が施されてあるがこっちは純粋にベレッタよりも強固に 改良されている。 理由は実弾をE・Cで魔力を通して強化する点の対処のためだろう。 威力が高ければその分銃身の磨耗度も高いからこの対処しかない。 そうすると連射するならベレッタだが、威力ならコルトガバメントとなる。 他にも強化点はあるかも知れないが目に映ったのはその辺だ。 ・・・・・決めた。ベレッタで行こう。 威力は他のことでも補えるし、実際に使うこともほとんど無いだろうから これでいいだろう。 あとは他のところで弾を仕入れておくか。 店主を呼びだし、金を払ってアーカイバにしまう。 名残惜しくコルトガバメントを見ながら、店を出た。
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■203 / ResNo.12) |
赤き竜と鉄の都第13話
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□投稿者/ マーク -(2005/04/29(Fri) 19:40:15)
| 『霊眼』
―ガシャン!!
「出しやがれーーー!!」 「全くだ。 早く戻らないとユナが心配する。 こんな悪趣味な真似はとっとと止めて、開放しろ」
なにやら、巨大な鳥籠のように天井から吊り上げられた牢の中には二人の男が 閉じ込められながら、30近くの女性に向けて叫び、あるいは言い聞かせていた。
「それは出来ない相談ね。 貴方がこの義手の製作者、つまり彼の義手のコピーに成功した青年でしょう? ぜひ我が社に欲しい人材だわ」
女はギンから奪った義手を片手で抱き抱え、反対の手で弄りながら話す。
「それなら、俺は関係ないのだろう」 「いいえ、貴方は間違いなく普通の人間ではないわ。 とても興味深い存在。 是非とも我が社に協力して欲しいと思っているのよ」 「ようは実験動物か」 「さすがに、そこまではしないわ。 ただ、ちょっと調べるのに協力してもらうだけ」
全く、よく言う。 もはや、何を言おうとこの女には意味がない。 この女は我が社といっていた。 つまり、今『金眼』を取り仕切る責任者がこの女なのだろう。 それにしても悪趣味なものだ。
「ふふふ、強情ね。 あのままだったら確実に死ぬところを情けをかけて助けてあげたというのに 随分と頑固な子供たちなのね」
全く持っていい笑い種である。 ユナが出した霧によって前が見えないところで偶然壁にあった 罠に二人そろってかかってしまい、捕えられてしまった。 あまりにも情けない。
「そりゃ、30過ぎの女から見れば俺たちは子供だろうな」 「!!?? いっ、今なんていった?」 「30過ぎのババアっていったんだよ」 「!!!!!!!! ふっふふふふ、いいわ。 あんたたちと一緒にいた小娘たちも連れてきてあげる。 そうすれば、貴方たちの気も変わるでしょう。 今、協力するといえばこの子達には情けをかけて命だけは 助けてあげるわよ」 「止めた方がいいぞ。 アイツを怒らせるぐらいなら魔族に喧嘩売ったほうがマシだからな」 「何とでもいいなさい。 直ぐに二人ともつれてきてあげる。 この小娘たちが泣き喚く様を特等席で見せてあげるわ。 オーホッホッホ」
そういって、女が下がっていく。 ・・・・・不味いな。 このままだと―
「この建物が崩壊するぞ」
「お兄ちゃん、どこ〜?」
全くどこ行ってしまったんだろう? あの道は一本道だったから兵たちが来た先に進んでみたのだが、 結局、行き止まりだった。 今は行き止まりにあった部屋にいるのだが、どうもこの部屋で兵は 待ち伏せしていたらしいが、今はそんなことはどうでもいい。 お兄ちゃんは・・・ついでにギンはどこに行ったのだろう?
「いたぞ、1人だ!!」
また、やられに来た。 ドアからと顔を出してきた兵に手当たりしだい、銃を撃ちこむ。 これではストレス解消にもならない。 まったく、お兄ちゃんはどこに行ったの?
「どうです、ユナ?」 「あっ、リン。 こっちは駄目。そっちも?」 「はい。それにあの二人の痕跡はやはりあの廊下で途絶えています」 「じゃあ、一体どこに・・・」 「分かりません・・・・・でも、もしかしたら―」 『ふふふ、我が城に迷い込んだ愚かな鼠たち』 「「誰!?」」
突如聞こえた声に身を固める。 すると、部屋にあった水晶の壁に何者かの姿が浮かび上がり、 そこから声がしている。
「映像?」 『ええ、そうよ。 貴方達の大切な人はこの通り私が捕えているわ』
そういって、画面が変わる。 そこにいたのは奇妙な籠の中にいるギンとお兄ちゃんの姿。
「お兄ちゃん!?」 『ふふふ、助けたかったら、私の元までいらっしゃい。 まあ、来れたらの話だけど、でも安心して殺したりはしないわ。 その代わり死んだ方が楽という思いをするかもしれないわね。 オーホッホッホッホ』
と癇に障る笑い声と共に、画面が再び透明な水晶に戻る。
「ふっ、ふふふふ」
今まで感じたことがないほど強大な憎悪が心の中に渦巻いている。 いいわ、今すぐ行ってあげるわ年増のババア。 お兄ちゃんに手を出した罪、その身を持って償いなさい!!
「リン」 「任してください。 私も少々怒ってますから」
満面の、だが普通の者なら見るだけで萎縮し、ガタガタと震えだして しまいそうな笑みを浮かべている。 そして、いつもは閉じている瞼を開き、辺りを見渡す。
「ふふふ、隠れても無駄ですよ。 この目にかかればギンがどこにいるかなんて一発ですからね」
どうやら、リンも実は私と同じ人種だったらしい。 しかし、あの目は一体?
「気になりますか?この目が」 「ちょっとね」
嵐の前の静けさというべきか、先ほどの憎悪はひとまず静まり返っており、 普段どおりの会話だ。もっとも、周囲の温度は已然、下がったままだ。 はっきり言って、ここだけ極寒の世界か、もしくは逆に地獄の業火の中かという感じだ。 そして、あくまで怒りをしまい込んでいるだけ。 あの女を見つけたら再び爆発することだろう。
「この目は魔力だけを見るという変った目なんです。 空気中みたいに魔力の濃度が本当に僅かなものなら見えないですが、 常人の魔力程度なら全て見通せまし、魔力の個人差なんかも 手に取るように分かります。 さて、ギンの魔力は・・・」
そういって、周り見回しある一点で止まる。
「真下?」 「というより、もしかしたらこれは地下かもしれません。 ここから真下に21、243メートルといった位置です」 「ふーん、方向は合ってるのね?」 「寸分の狂いもありません」 「じゃあ」
と、この怒りを元にして以前創った炎の剣や炎の竜をも上回る力を 創りだし、それを形にする。 限界まで圧縮した炎の槍。 あらゆる障害を焼き尽くし、撃ち破る絶対的な破壊の炎。 そして、その槍をリンが指差した床からほんの少し離れた位置の床へと 垂直に突き降ろす。 放たれた槍はその圧倒的な熱量で床を溶かし、焼き払いながら下へと落ちていく。 そうして出来た穴にリンと共に大きさを人一人掴まるのにちょうどいいくらいの 大きさに調整した竜の足に掴まり、穴の先へと下降する。 ふふふ、待ってなさい。
「なあ、すごく嫌な予感がするんだが?」 「奇遇だな。俺もだ」
そういって、二人そろって上を見る。
「上か」 「上だな」
なにかとてつもなく危険なものが来る予感を察知し、 この先に起こりうることを想像をする。 答えは1つ。 それが絶望的な答えだということはこの予感を感知したときから分かっている。 だが、それでも僅かな希望にしがみつきたかった。
「ふふふ、そろそろ気が変ったかい?」 「ああ、あんたか。 あまりこっちには近づかないほうがいいぞ。 間違いなく危険だから」 「危険? いったい、何がよ?」 「直ぐに分かるさ」
もう、音までしてきた。 その音は不吉な想像を現実だと認めさせるものだ。
「まあ、いいわ。 あなたの妹さん。 そろそろ捕まる頃じゃないかしら?」 「ああ、それなら平和でいいだが」 「そうも行かないか」
そして、何メートルもある高さの天井を何かが突き破って落ちてきた。 落ちてきた炎の槍が鳥かごの真横をかすめ、深々と地面に突き刺さり、沈んでいく。 そして、天井に出来た穴から二人の少女が竜に捕まりながらゆっくり 地面まで降りてきた。
「助けに来ましたよ。 感謝してください」 「ああ、あろがとう。 ただ、もう少し大人しく来てくれ」 「大丈夫お兄ちゃん?」 「あっ、ああ。大丈夫だ。 もう少しずれてれば今ごろ蒸発していただろうが大丈夫だ」 「良かった。 さて、ちゃんと着たわよ。 年増」
突然のことにぽかんと口を開いたままで固まっていた女が 私の言葉に気を取り戻し引きつった笑みで喋りだす。
「ふっふふふふ、散々私をコケにしてくれるわね」 「そんなことはどうでもいいわ。 お兄ちゃんに手を出した罪、その身を持って味わいなさい。 年増」 「一度ならず、二度までも・・・・。 いいでしょう。 貴方たちを手放すのは惜しいですが、 ここで共に死んでもらうことにしましょう」
そういって、女が指を鳴らしまるで何かを封印するかのような分厚い、 巨大な壁のような扉が開いていく。 僅かにあいた隙間から巨大な腕の先が姿を見せ、扉をこじ開けていく。 その大きさ、姿、威圧感。 どれをとっても今まで見たことのあるそれとは大違いだ。 あれは何万年もの歳月を過ごしたといわれる最高種たる竜の中でも 最長寿、最強を誇る伝説の存在。
―エルダードラゴン―
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■204 / ResNo.13) |
赤き竜と鉄の都第14話
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□投稿者/ マーク -(2005/04/29(Fri) 19:41:39)
| 『金色の竜』
「―嘘、なんでこんなのが」 「厳しいな」
ありえない。 あの巨大な体。金色に輝く鱗。 何よりその身に宿す魔力。 全てがあの化け物に当てはまる。 最高の種たる竜の中でも頂点に位置する最強の存在。 エルダードラゴン、またはその身の輝きから黄金竜とも呼ばれる 正真正銘の化け物だ。 だが、あれは本当の姿ではない。 翼はなく、なによりもその姿に違和感が付き纏う。
「黄金竜の・・・テク・・・ノス?」
いつの間にかあの女は既に姿を消していたが、そんなことに 構っていられる余裕はない。
『ホーホッホッホッ。 どうやら驚いているようね。 これこそが我らが英知の結晶よ』
あの癇に障る笑い声が周りの壁から発せられ、 この広大な空間に反響する。
「ふざけんなよ。 テクノスの技術も『腕』の技術も全て人から盗んでいったものじゃないか。 それが英知の結晶だって? 笑わせんな!!」 『ッフフ、そうね。確かにこれは貴方たちのおかげで完成したものだわ。 でも、これを生み出したのは他ならぬ私たち。 捕獲した黄金竜を素体に限界まで改造を施した我々の最高傑作よ。 ちょっとした都合で本物の竜と比べる機会がなかったけど、ちょうどいいわ。 この最高傑作の力を調べる相手をして貰うわよ』 「ちょっとした都合?」 『折角だから教えてあげる。 いかに我々の技術でもその機能を復元できなかった部位がある。 その部位が問題となって王国は買い取らなかったけど、 今となっては売らなくて正解だったわ。 そして、その部位とは―』 「翼か。 今の技術では個人単位での飛行を可能とする翼を創ることは まだ不可能だからな。 キメラみたいに他の翼を移植しても大きさや力が足りないから飛ぶことは 出来ない」 『察しがいいわね。ええ、その通りよ。 でもそんなものは関係ないわ。 翼があろうとなかろうとこの竜が最強なのは変わり無いのだから。 さあ、その力を見せてみなさい。 まずはそこの赤毛の小娘からよ!!』
その言葉に従い、テクノスは私へと顔を向け、灼熱の息吹を吐き出す。 後ろにはまだお兄ちゃんたちが捕ええられている。 しかし、デッドアライブの障壁ではこの炎は防げない。 瞬時にそう判断し、相殺するべく実体化させた使い魔をそのまま炎に変換、 高熱のブレスへとぶつける。 大きな爆発が生じ、爆風で体を持っていかれそうになるが耐える。 なんとかギリギリで防げたがそう何度も出来る芸当ではない。 もう一方の使い魔に乗り、黄金竜の周りを飛びながらちょっかいをかける。 幸い、ここは広いから飛び回って撹乱し、様子を見るにはちょうどいい。
「リン、早く!!」 「そうは言っても私の力ではこれは無理です」
どうやらご丁寧に特殊な金属だけでなく、結界まで張ってあるらしい。 私ならやれないことも無いけど今の状況では余裕が無いから そこまで力を調節出来ないで、お兄ちゃんたちまで危なくなりかねない。
「ユナ、右!!」 「クッ」
叩き落とすように振るわれた腕を紙一重で掻い潜り、顔の目前まで迫る。 至近距離から銃弾の嵐を浴びせて怯んだ隙に後退し様子を窺う。 煙が晴れ、竜は何も無かったかのように突っ立っている。
「この程度じゃ駄目か」
やはり、潰すにはサンダーボルトぐらいは必要だ。 下手をすれば連続で使用するか、バーストと併用するぐらいは しないと落とせないかもしれない。 だが、竜はそんな隙は与えてはくれない。 お兄ちゃんたちが動ければ何とかなるんだが―
『フフフ、そろそろ観念したら? 命乞いすれば助けてあげてもいいわよ』 「おあいにくさま。 まだ、負けたわけじゃないわ」 『そう、まあいいわ。 では貴方がまず死にな―』
―ザッーーーーーーーーー
突如、女の声が途絶え雑音だけが周りに響く。 そして、竜の動きは止まり、硬直する。 僅かな時間が経ち、右側にあった直ぐ近くのドアから、 見覚えのある少年が縛られた女を捕まえたまま現れ、 そのままこちらへと近づいてくる。
「あんた今まで何をしてたのよ」 「目ぼしいものは回収してついでだったから、 この通り首謀者も捕まえた。 『腕』もちゃんと回収してるし撤収してもいいよ?」 「そう。 でもこれを放って置ける?」
何故かテクノスは完全にその動きを止めている。 動かしていたものがいなくなったからなのか、それともこの女が 止めたからなのかは分からない。
「ああ、調べた時は冗談かと思ったが本当だったんだ。 なるほど、これは凄い。 で、ミスゴールドアイ。 これは君が止めているのかい?」 「まさか。これは私1人が止めようとしても大人しく止まるたまじゃないわ。 今動いていないのはコントロールが離れて自分の状況が 把握し切れていないから。 きっと、このまま暴走するでしょうね。 ざまあみなさい」
言い終わるが否や、竜は今までよりもさらに激しい攻撃を繰り広げてきた。 同時に何発も放たれる炎弾をかわし、レイスは女をいま出てきた扉の先に放り 扉を閉め、空いた両手に木の棒を構える。 その木の棒を剣の柄に見立て、構えを取り、まずは結界で守られた鳥篭へと あるはずの無い刃を神速と形容するに値するスピードで振るう。
「『見えざる刃は見えざるを断つために在りき。 故、見えざるを切るはこの刃の宿縁なりき』 なんてね」
すると鳥篭の格子は鋭利な刃物に切られた様にバラバラになって地面に落ち、 張られた結界も砕け散り、牢獄から二人が出てくる。
「ふー、やっと出られたぜ」 「全くだ」
なまった体をほぐすようにして体を伸ばし、武器を掴もうとして いまさらながら気付く。
「やばい、武器を奪われたままだ」 「これかい?」 「そうそう、それだ。って何でお前が持ってんだ?」 「いや、ちょっと色々探してたらついでに見つけてね。 そんなことより、さっさとこれを片してしまおう」
3冊のアーカイバを取り出し、その内二つを投げ渡し、 最後の一冊から一本の剣と腕を取り出す。 取り出した腕と剣を受け取り、三人は放たれた矢の如く竜へと突進する。 と来れば、私に役目は―
「リン。弱いところ分かる?」 「急所と言えるところなら魔力の流れが多いでしょうから判別可能です」 「オッケー」
大きな長身の銃、サンダーボルトを取り出し三人が抑えている竜へと 銃口を向ける。 そして、リンの目によって教えられた魔力の高い場所、体中の魔力が 集まる場所、つまり竜が持つ心臓へと狙いを絞り、竜の動きが止まるのを待つ。 ちょうど、レイスとギンが竜の両腕を押さえ、がら空きになった中心へと 大きく広がり、自らの身長よりも大きな大剣でほぼ垂直に切り下ろし、 竜の胸元に一本の傷を残し、竜が咆哮を上げ動きが僅かに止まった。
「いけ!!」
放たれた弾丸は黄金竜で持ってしても捉えられず、真っ直ぐにリンの言った 魔力の集まった心臓へと突き刺さり貫通・・・はしなかった。 だが、心臓に風穴をあけられ、銃弾の衝撃までは受けきれず、 その衝撃で後ろへと倒れかけながらも、その場に必死に踏みとどまるが そのおかげで大きな隙が出来た。 最後の仕上げといわんばかりに右腕をあの義手に交換していたギンは 正面が無防備になった瞬間、私の使い魔の背に乗って懐にもぐりこみ、 その背中を踏み台にして飛び掛り、その腕を突き立てる。 回転する矛は竜の表皮をえぐりながら突き進み、銃弾とは比べ物に ならないほどの風穴を身体のど真ん中に空け、 そのままの勢いで背中まで貫通した。 そして、そのまま地面へと叩きつけられるところを使い魔に拾わせる。 見れば、ギンの義手はその使命を全うしたらしく、煙を上げゆっくりと 回転数が減っていき、もう完全に動かなくなる。
「お疲れさん。後でちゃんと直してやる」
まあ、あの傷ではいくら竜とはいえ動くどころか生きているかさえ怪しい。 ひとまず、これで一件落着―
「ウォォォォォーーーーーーーーーー!!!!!」
―なっ!?
体に巨大な風穴を開けられ、最早瀕死の重傷であるはずの竜は尚も 立ち上がり、その咆哮を轟かせる。 そして、見た。 先ほどサンダーボルトで開けた筈の風穴もお兄ちゃんの剣で付いた傷跡も 綺麗に消えている。 そして、いまちょうどギンにあけられた風穴を埋めるようにして何かが 傷口を覆っていく。
「どう・・・なっているの?」 「分かりません。ですが、このままでは・・・」 「負けるな」
どんな致命傷を与えても直るなど反則だ。 一体何が傷口を覆ったのか? それが分からなければ対策の立てようも無い。 まずは、正体を暴かなくては。
「とりあえず、手当たり次第に攻撃して反応を見よう。 もしかしたら、あそこだけかもしれない」
それしかないだろう。 だが、勝てる見込みはかなり低くなった。 それでも、ここで諦めるわけには行かない。
「はぁぁーーー!!」
目前に迫り来る振り下ろされた竜の腕を紙一重で捌き、 両手に持った見えざる刃でその腕を幾度と無く切りつける。 そして、地面より引き抜かれた腕にまるで曲芸士の様に飛び乗り、 その腕を駆け上がって竜の急所、逆鱗へと走る。 腕を上りきり、首の真下にある鱗へと飛び剣を連続に振るう。 だが、竜は激しい悲鳴をあげるだけで、次の瞬間にはその傷を何かが 塞いでいく。 空中で振るわれた腕を剣を盾にして防ぐが、勢いは殺せず壁へと吹き飛ばされる。
「クッ、逆鱗も駄目か」
金髪の双剣士、レイスはぶつかる瞬間、壁を蹴ることで衝撃を吸収し、 地面へと降り立つ。 その間にも、ギンが、ユナがそしてレイヴァンが攻撃を加えるが 効果は無い。 どこに攻撃を与えても傷口は全て、何かが覆い治癒している。 試しに、金属の部分も攻撃してみたがそこもまた同じように 何かが覆い、その内部は完全に修復されている。
「はあ。もう、弾も少ないわね」
もう、何発も撃った愛銃の一つサンダーボルトを構えながら、 憂鬱にため息をつく。 何で回復しているか分からないが、体力的にも明らかに こちらの方が不利である。 今だって、全員既に息が上がりかけている。 これでは全滅を待つだけだ。 もう、目的は達成しているので逃げようと思えば逃げれるが、 こんなものを見てしまっては放っていくことは出来ない。 まあ、本当に危なくなったら撤退するつもりだ。 しかし、何か引っ掛る。 あの修復が何かに似ている。 一体・・・・・・何に。 !? まさか―
「リン。お願いもう一度傷口を見てて」 「ですが、もう何度も見てますよ。 これ以上は私も・・・」
リンも辛そうだ。 直接攻撃こそ参加していないが、このからくりを紐解くために その人が見るにあらざる世界を何度も見ているのだ。 疲労も大きい。 だが、もしも私の想像が正しければ・・・
「お願い。傷口の魔力を形に注意して」 「魔力の形・・・ですか?」
ちょうど、お兄ちゃんの剣が竜の胴をなぎ払ったところだ。 だいぶ深く切れたが、またも、何かが覆って傷口が塞がっていく。
「別に何も・・・」 「その先!!」 「え?」 「覆った内部の魔力の形を見て」 「なっ!? まさかこれは」
灯台下暗しというべきか。 目の前にそっくりの存在がいるというのにそれが特別だと考え 除外してきたせいだ。 最初はあの覆ったものが傷を治していると思った。 でも違う。 治しているのはあの竜自身だ。 その覆っているのは金属でありながらも細胞のように自己増殖を 持ちえる特殊な金属。 それが人で言う瘡蓋の役割を果たし、今まさに竜が己の持つ魔力で 仮初の肉を作り出し、自らの体を少しづつ修理しているのを 隠し、保護していたのだ。 その修復方法は私の使い魔や魔族、吸血鬼の治り方とよく似ている。 魔族や魔獣、死した存在の魂と契約を結び、失くした腕にそれらを 憑依させることで失った身体の変わりを果たさせる術は昔から存在する。 もっとも、それらは当の昔に失われた技術だし、魔族や魔獣との 契約などはあまりにも危険、死したものの魂の場合もそれらを従える力量が 無ければ魔力と生命力を全て吸い尽くされ、死ぬことさえある。 そして、全く異なる存在の魂を身体に埋め込むわけだから、拒否反応が おこり、様々な弊害が起こりうる。 そんなわけで義手などの技術が発達した現在ではもはや無用となった術だ。 全く、何故今まで気付かなかったのか。 だが、これでからくりは解けた。 仮初の身体はこの黄金竜の魔力か契約で構成されているのだろうが そうすると、まだまだ大量の魔力が残っているはずである。
魔力が切れるまで攻撃する?
―こちらが先に動けなくなる。
以前と同じように回復する前に全て吹き飛ばす?
―大きさが違いすぎる。
魔力自体を奪う?
―どうやって?
これからどうすれば・・・・
「ぐぁぁぁーー」 「お兄ちゃん!?」
思考に行き詰ったところで竜に吹き飛ばされ、飛んで来た兄を身体を 張って受け止める。 流石に普段の力じゃ無理だったので、魔力で強化してなんとか止められた。
「ぐっ、すまん。大丈夫か」 「私は平気。それよりあの正体が分かったんだけど、 アレを止めようと思ったら魔力を吸い取るしかないと思う」 「魔力? あれは魔力で傷を塞いでいるのか」 「多分」 「・・・・・・・・・・・・・」 「お兄ちゃん?」 「魔力を奪うなら、一つ手がある」
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■206 / ResNo.14) |
赤き竜と鉄の都第15話
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□投稿者/ マーク -(2005/05/01(Sun) 16:52:13)
| 『禁呪』
ギンとレイスが再び、竜へと襲い掛かる。 だが、先ほどのように激しい攻撃はせず、僅かに距離を空けながら 壁際へと追い込んでいる。 私もデッドアライブの援護と使い魔で竜を誘導している。 その間にもお兄ちゃんは用意を整えている。 ・ ・ ・ ・ ・ 『一つだけ方法がある。 だが、これは俺ではコントロールし切れんかも知れん。 俺の用意が完了したら何があろうと遠くに離れろ』 『奥の手ってこと?・・・・それって一体なんなの』 『かつてこの身に宿りしあの存在の残滓、それが今なお この身に残されている。 その力を使う』 『あの力を・・・・・大丈夫なの?』 『分からん。だが他に方法も無く、出し惜しみをしている余裕もない。 頼む。信じてくれ』 『・・・・分かった。お兄ちゃんを信じる。 でも絶対戻ってきてね』 『ああ』 ・ ・ ・ ・ ・ お兄ちゃんが信じられなくて何を信じろというのだ。 ならば、私はお兄ちゃんに任された仕事をこなすだけ。
「掛かってらっしゃい!!出来損ない」
私とギンが竜の左右に、レイスが正面に向かい、竜の背中がお兄ちゃんに 向く様にして竜の周りを囲って立ちはだかる。 二匹の使い魔を黄金竜へと襲い掛からせ私は詠唱を綴る。 出し惜しみなどしてられない。 私が持ちうる全ての力を出しつくしてでも絶対に お兄ちゃんの邪魔はさせない。
「離れて!!」
私の注意に素直に従い、全員が黄金竜から大きく一歩離れる。 それを確認して力を解き放つ。
「災厄より生まれし、大いなる災いの焔。 我が憎悪を受け、怒り狂え。 『フレアスパイラル』」
竜の足元から焔が吹き荒れ、螺旋を描いて竜の周りを覆い炎の渦が出来る。 竜は焔の渦の中に閉じ込められるが、それも僅かな時間。 もとより魔術、特に焔などに耐性がある竜族に対してアレが決定打に なりうるはずがない。 あくまで囮。 時間を稼ぐ意味で用いた。
「赤き竜王の名において、世界を焼くつくせし業火の刃よ。 その力、我が手に宿り、並み居るもの全てなぎ払い、 焼き尽くせ!! 『レーヴァティンッ』!!」
手に生まれた極限の炎。それを圧縮、固定し剣を形に成す。 投槍の要領で手に持った猛々しく燃える焔で創られた刃を撃ち出し、 剣は一直線に竜の頭の付近を狙う。 狙い違わず竜の額に突き刺さった剣は爆発的な燃焼を引き起こし、 顔中に広がり燃え続ける。 しかし、これもあまり効果は無い。 今だって顔中が燃えているのに黄金竜は平然としている。 やがて、竜が首を振るい顔中に燃え広がった炎を鬱陶しそうにふり払う。 そしてお返しといわんばかりに私へと首を向け、炎を収束させる。
―今だ!!
予想通りの反応に心の中で快哉をあげ、二匹の竜がその顔を 目掛けて突っ込む。 私と黄金竜の間に割って入ってきた邪魔な存在へと炎を吐く。 いくら竜が炎に強いと言ってもこれでは無事ではすまないだろう。 ―普通ならば。 炎は先ほどまでに比べ明らかに小さく、使い魔は意にも介さずその炎に飛び込み その身体を少々焦がす程度でその炎を抜けて、黄金竜の目前まで迫る。 先ほどから効く筈の無い炎を撃ちまくっていた理由はこれ。 この密閉空間でこれだけ多くの炎を僅かな間にこれほど使えば 一時的とはいえ酸素が不足する。 その上、竜の身体は私たちの何倍もの高さで、高ければ高いほど 空気中の酸素濃度は薄くなる。 さすがに、もとより高山地帯にも住まう竜族にとってはこの程度の空気の 気薄など気にならないだろうが、それが放つ炎は別だ。 酸素の足りない炎など、弱弱しい炎にしかならない。 そしてまさに目の前に迫った使い魔を払おうと腕を振るうが、近すぎる所為で うまくいかず軽く避けられる。 二匹の竜は腕を回くぐり顔へと飛び込み、竜の両目に双方が腕を突き刺す。
「グォォォォーーーーーーーーーーーー!!!!」
流石にこれには堪えたらしく、無我夢中に腕を振るい見えない敵に対応する。 目を貫かれた所為で竜にはこちらの様子は見えていない。 しかも、あの金属の『瘡蓋』のおかげで直ぐには治っても目は開かない。 そんな暴れ狂う竜にレイスが飛び込み、縦横無尽に振るわれる尾へ向け 二本の柄を束ね、一本の剣に見立て大きく振るう。 竜の図太い尾が見えざる巨剣により、二つに断ち切られ、 竜がさらなる悲鳴を上げる。 だが、やはりと言うべきか竜の尾はトカゲの尻尾の如く 徐々に生えてきている。 呆れるほどの生命力だ。
「ユナ!!」
お兄ちゃんの声に黙ってうなずく。 準備は出来た。 後はそこまでこいつを誘い込み、全員を連れて離脱する。 使い魔の一方にレイスたちを回収させ、竜へとデッドアライブを撃ちこむ。 これで私たちの方向が分かるだろう。 目が見えない今の状態なら誘導も比較的容易い。 目的の位置まで来たところで最後の一発に温存して置いたサンダーボルトを構え、 竜のその片足を狙う。 弾は見事に命中し、当然生じた痛みとその衝撃でバランスを崩し倒れこむが、 両腕も使って這うようにしてなお進む。 そんな黄金竜の様子を哀れに思い、今まさにすれ違うお兄ちゃんの顔に 視線を移す。 お兄ちゃんの顔にも深い悲しみと哀れみが現れている。 やがてお兄ちゃんの詠唱によって浮かび上がった巨大な円を二匹の竜が抜け、 円の内部に立ったお兄ちゃんがそのまま地面に剣を突き立てる。 それと同時に円で囲まれた空間が光を出し、輝きだす。 決して強い光ではない、穏やかな夜の光だ。
「暴食の罪、七つの大罪。 その魂を喰らい、糧とせよ。 異界より来たれし魂の支配者。 至高の王たる者の、 その礎となるがいい」
詠唱と共に徐々に輝く円を闇よりもなお暗い影が覆っていき、 その輝きを奪っていく。 それは月喰らい、月食の光景と似ていた。
「 喰らいつくせ!!『エクリプス』」
全ての輝きが闇に包まれ、異なる異界と化したその空間を覆っていた 暗い影は獲物を見つけた言わんばかりに鎌首を上げ、竜に纏わりついていく。 影は竜の身体を、補っていた仮初の肉体を魔力へと分解し、吸収していく。 その痛みに、なにより最も原始的な感情である恐怖に声を上げる。 陰から抜け出そうと暴れるが、底なし沼の如く竜はその場から抜け出せず、 消えたはずの傷が蘇ってくる。 ところどころの肉を失い、見るも無残な姿の竜にお兄ちゃんは 静かなる終わりを告げる。
「喰らえ」
幾重もの影が一斉に立ち上り、お兄ちゃんごとその空間を覆って行き、 ドーム状に覆われ完全に隔離される。 ドームは徐々に収縮をはじめ、ついにお兄ちゃん1人が収縮した 闇の中から現れ、消滅した。 そこにはもはや竜のいた痕跡すら残されていない。
「お兄ちゃん!?」 「来る・・・・な」
だが、闇から出てきた次の瞬間、お兄ちゃんが体を押さえ蹲る。 体内に入ってきた異物の感触に身を震わせ、その存在を無理やり押さえつける。 だが、押さえつければ押さえつけるほどその力は暴走を暴走し続け 身体中を何かが這い回る。 喰らった非常識な魂と魔力の強大さに翻弄されつづけ、なによりも 異常な力を用いた代償が身体を侵していく。 そして、さきほどまで黄金竜を蹂躙していた影がお兄ちゃんの身体から 溢れ出て来る。
「暴走? まさか・・・・魔王の・・・再臨?」 「お兄ちゃん!!」
いけない。 今のままではお兄ちゃんが危ない!! あの時と同じだ。 恐れていた事態になった。
「待て!! 暴走した王を止めるには1人では力不足だ」
レイスが駆け出そうとした私を引きとめようと手を伸ばすが、 それは後一歩で届かず私はお兄ちゃんの下へと駆け出した。
『もしもの時はお前が・・・』
お兄ちゃんが去り際に呟いた言葉。 お兄ちゃんはこの力の異常性、そしえ危険性に気付いていたのだろう。 だが、それでも私たちを守るために使った。 そして、抑えきれなかった私に止めるよう頼んだのだ。 それはつまり自分に引導を渡してくれという意味かもしれない。 でも、私はおにいちゃんを信じる。 お兄ちゃんならきっと約束を守って戻って来れる筈だ。 絶対に諦めてたまるか。 影は近づいてきた私に対して襲い掛かってくる。 幾重もの影が私の身体を覆っていき動きを止められる。
「お兄・・・ちゃん・・・・」 「ユナ!!戻れ」
もう、ギンたちの声もほとんど聞こえない。 影が私の身体を覆いつくし、お兄ちゃんを中心とした闇の中へと 引きずり込まれる。 真っ暗な闇の中、まるで水の中いるようでまとわりつく影を押しのけながら この中にいるはずのお兄ちゃんの姿を探す。 だが、一歩歩くごとに急激に力が抜けていき、そのまま意識が飛びそうになる。 気を奮い立たせ何とかこの闇の中で耐えるが少しずつ意識が朦朧としてくる なおも影が私に群がり、その魔力を奪っていく。 やがて、意識が落ち闇の中で倒れ付す。 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
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■207 / ResNo.15) |
赤き竜と鉄の都第16話
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□投稿者/ マーク -(2005/05/01(Sun) 16:52:59)
| 『始まりの日』
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 「緊張してるのか?」
ここは? どこか見覚えのある光景。
「うん。ちょっとね」 「7年、いやもう8年になるか。 久しぶりの我が家だ。 無理も無いな」 「でも、今年の夏休みとかにも帰ってきてたからそんなに 懐かしいわけではないん筈だけどね」
ああ、そうか。 今度はあの時の。 学園を卒業して家に戻ってきたとき。 あの運命の日だ。
「まあ、気分的なものもあるだろうな。 それに休みのときは戻ってきたと言う感じじゃなかったし これでやっと帰ってきたと言えるんだろうな」 「そういうもの?」 「そういうものだ」 「そっか」 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ―コンコン
「はーい、どなた?」
そういって懐かしい声と共にドアが開かれる。
「レイヴァン!! それにユナも!?」 「ただいま、お母さん」 「ええ、一体どうしたの?」 「どうって、俺たちもう卒業したんだけど。 ほら」
そういってお兄ちゃんと私は学園を卒業した証のペンダントを見せる。 お母さんはさらに驚き、確かめるようにしてペンダントを食い入るように眺める
「・・・本物ね。それにしてもユナも一緒に卒業してるなんて」
私も最初は年齢的に普通のクラスとは異なるクラスに入れられた。 ごく稀に親が高名な魔術師でその子供ということで入学させられたり、 ここの教師の子供といった理由でいままだ式を構築できなくても 異例として入学した者たちを集めたクラスだった。 学園は既に魔術を構築することの出来る人間をさらに磨くことが目的で 当然、普通の入学者はすでにそれを前提として教育を受ける。 私たちの場合はそこからやらなければならないのでどうしても通常のクラスより遅れる。 結果、1,2年もの間その辺りをみっちり教えられやっと普通のクラスに入った。 そのころには同級生の年齢は私より僅かに上なだけでそう違和感は無くなっていた。 兄弟ということで寮の部屋こそ一緒、というかルームメイトというやつだったが クラスが完全に違うというのははっきり言ってとても不満だった。 だが、何年か経ってお兄ちゃんたちの後を追うように進められる授業に 嫌気が差して来た頃、たまたま隣だった耳年増だった少女から 『ユナちゃん頭良いから飛び級出来るかもね』 と聞き、私は今まで以上に勉強し、次の年には晴れてお兄ちゃんと同じ学年まで 僅か1年で上りつめた。 その新学期で、お兄ちゃんがクラスに入ったら私がいたものだから、 凄くうろたえていたのを良く覚えている。
「夏にちゃんと伝えてくれてたら良かったのに」 「ちょっと驚かせたかったんだ」 「そう、まあいいわ。 ちょっと前に二人の卒業祝いを用意してたんだけど 早すぎるかなって思ったらちょうど良かったみたいね。 今日は二人の卒業祝いにパーティーにしましょう」 「お父さんは?」 「まだ、仕事よ。 夕方には帰ってくるでしょ」
手先が凄く器用で父は街の方で機械の技術者をやっている。 また、仕事ではないが壊れた機械や道具を買い取って 修理したりもしている。 だいたい、修理したら売ってしまうのだがそのおかげで 家にはお父さんの修理した奇妙なものが僅かに残っている。
「二人とも早く着替えてきなさい。 部屋は夏休みのときのままにしてあるわ」 「はーい」 「分かった」
懐かしの我が家。 懐かしい私の部屋だ。 お母さんの言うとおり部屋は昔のまま変ってない。 手に持っていた大きなカバンをベッドに置き、その中から 着替えを出す。 部屋着というわけで薄手のシャツを着込み、下はショートパンツと いった感じだ。 着替え終わったらカバンの中の荷物を部屋に仕舞っていく。
―コンコン
「はーい?」 「俺だ」 「お兄ちゃん? どうしたの?」 「入っていいか?」 「ちょっ、ちょっと待って!!」
慌ててカバンから取り出していた服や下着などをカバンに戻し、 軽く部屋を片付ける。
「もう、いいか?」 「いっ、いいよ」
そういってドアが開き、既に着替えたお兄ちゃんが部屋に入って来る。
「いったい、どうしたの?」 「んー、実はさっき母さんが言ってた卒業祝いって気にならないか?」 「気にならないと言えば嘘になるけどそれが?」 「多分、貰えるのは父さんが帰って来てからだろ? けど、帰ってくるくるまでまだ、だいぶ時間がある。 というわけで、先に一目見ておかないか?」 「えっ、でも」 「まあ、無理にとは言わないし、ユナがいいって言うなら俺も止めとく。 1人だけってのはずるいからな」 「・・・どこにあるかは分かるの?」 「夏に父さんが面白いものを買ってきたって言ってたから多分それだと思う。 と来れば、あるのは父さんの部屋だろ? どうする?」 「・・・・行く」 「良し。母さんは料理に忙しいとはいえ静かにしろよ」 「うん」
―キィィィ
「また、色々増えてるね」 「だな」
部屋を見渡し、目的のものを探す。 さすがにそんな簡単なところには置いてないか。
「まあ、父さんのことだからこの物置だろうな」
そういって、お兄ちゃんが部屋にあるクローゼットを開け、 中を探る。
「おっ、これか?」
奥から二つの箱を発見し、それを抱えて物置から離れる。 二つの箱の内、片方のふたを慎重に開け中を見る。 あったのは二丁の拳銃。 箱の中には他に簡単なメッセージカードが入っている。 さすがに中身は読まないが、その中に私の名前が 書かれていた。
「これがユナのか。 じゃあ、こっちが・・・・」
今度はもう一方の箱をあけ、中身を見る。 同じように簡単なカードが入っており、その下に 妙な棒が入っている。
「これが俺のか?」
私は今でも珍しい銃が二丁。 それに比べてわけの分からない棒が一本だけというのは さすがに不満に思うだろう。
「うっ、こんな小さいくせに妙に重いな」
そういって棒を両手で持ち上げ、食い入る様に眺め、いろいろ試す。 そして、棒を持ったまま上下に手を振ると棒が延びた。
「なんだ、これ?」
同じような動作で棒を振るとさらに伸び、一本の棒になった。 それを面白く思ったお兄ちゃんは今度はそれを槍に見立て、 突き出すと棒がさらなる変化を起こす。 棒の先が変化し、刃になり槍となった。 その様子に思い至ることが合ったのか今度はそれを横に払うと 剣になる。
「なるほど。だが、重さは変らないのか」 「なにそれ?」 「よく分からないが俺の思った形に変化してくれるらしい。 では、次は」
私が手に持った箱の中にある二丁の拳銃を眺め、その形に それを変える。 見事にそれは鎖で繋がれた二丁の拳銃と化し、お兄ちゃんの両手に納まる。
「分離は出来ないか。なら弾も・・・・」
ゆったりとした動作で銃口を上げ、壁に向け引き金をゆっくり絞る。
「お兄ちゃん!?」 「・・・・やっぱり駄目か。 この様子だと矢なんかも不可能だろうな」
二丁の銃を最初の棒へと戻し、箱に仕舞おうとしたところで 刻まれた文字に気付く。
「MOS。メモリーオブソウルか」
それがこの武器の名前らしい。 気になったので私も銃を手に取り眺める。
「デッドアライブ01、02」
名前からしてこの銃は姉妹銃なのだろう。 だが、銃に対する知識などないのでそれ以上は分からない。 でもこの銃から何かが感じられる。
「そろそろ戻るぞ。 ばれたら怒られる」 「分かってる」
慌てて銃を箱に仕舞い、物置の中へと戻して部屋を出て行く。
「まあ、とにかく。 二人の卒業を祝って」 「「「「完パーイ」」」」
―カチャン!
テーブルに所狭しと置かれた大量の料理を前に 全員向かい合って、グラスを当てる。 中身はワイン。 無礼講と言うことでお父さんが許可してくれた。
「しかし、この年で卒業してしまうとはな。 天才って言うのはユナのことを言うだろうな」 「そんな大げさだよ」 「でも、レイヴァンも飛び級と言えば飛び級でしょ。 これも凄いことなんじゃないの?」 「俺の場合はユナほど凄くないからな。 一年で一気に2,3年分飛ぶやつなんて滅多にいなかったな。 しかもこんなに若く」 「それでもお兄ちゃんも学年ではトップに近かったでしょ?」 「お前もな」 「ははは、そうだ。 お前たちに卒業祝いをやらなくちゃな。 ちょっと待ってろ」
そういって席を立ち、二階にお父さんの自室へと向かう。 きっと、デッドアライブとMOSだ。 ふと、顔をお兄ちゃんに向けると笑いながらお母さんと話している。 どうも、私の視線には気付いていないらしい。 ふと、身体に生じた妙な違和感に気付く。
「どうしたユナ? 顔が赤いぞ」 「あっ、ちょっと飲みすぎたかも・・・。 少し風に当たって来る」 「おい、ユナ」
「アツイ」
熱い。 身体中が暑い。 まるで自分の身体の中に炎が存在するみたいだ。 苦しい・・・
「ユナ? 本当に大丈夫か」
私を心配したお兄ちゃんが家から出てきた私を追ってきた。 すると、お兄ちゃんの姿を確認した瞬間、私の身体の中の 炎の熱さがさらに上昇した。 駄目・・・来ないで・・・
「ユナいったいどうし・・・・」
抑え切れない。 何かがわたしの中から現れてくる。
「あ!?」
それが現れた。 夜の闇よりなお暗い漆黒の身体。 赤く爛々と輝く真紅の瞳。 蝙蝠を思わせる巨大な翼、太い丸太のような太い腕、 あらゆる物を切り裂く鋭利な爪。 そして悪魔のような大きな二本の角を頭から伸ばし、 その口からは火の粉が吹き荒れる。
「なっ―」
突如現れた圧倒的な存在。 お兄ちゃんもその威圧感にたじろぎ、あとずさる。 だが、身体からほとんどの魔力が奪われ、力が入らずに 倒れこんだ私を見た瞬間、恐怖も忘れて私に駆け寄って来る。
「ユナーー!!」 「来ちゃ・・・・駄目」
残った力を振り絞り声を上げようとするが届かない。 私へと近づこうとしたお兄ちゃんをその存在は太い縄のような尾で 軽々と弾き飛ばす。 吹き飛ばされたお兄ちゃんは家のドアを突き破り 中まで転がされる。 その物音を聞きつけたお父さんとお母さんが玄関まで現れ、 私を竜、そしてお兄ちゃんの姿を見て硬直する。 そして、竜の口に光が集まり―
「グォォォーーーーーーゥ」
炎が放たれる。 炎は玄関へと着弾し、その爆風に当てられ二人も気絶する。
「お父さん・・・お母さん」
どんどん身体から魔力が奪われ、意識が飛びそうになるが必死に耐える。 そして、燃え上がる玄関から一つの影が飛び出してくる。
「うぉぉおーーーーーーーー!!」
一本の槍を構え、竜を目掛けて一直線に突撃してきた。 だが、竜の身体には刺さらず、その表皮に弾かれて止まったところで 大きく振るわれた腕に弾かれる。
「ぐあああっ」 「お兄ちゃん逃げてーーー!!」
力振り絞り、泣きながら叫ぶ。 このままだとお兄ちゃんが!!
「待っていろ・・・今助ける」
だが、私の叫びを無視しなおも竜へと挑む。 力の差は歴然で、もはや遊ばれているだけだ。 満身創痍になりながらも、槍から剣へと変えたMOSを 杖代わりにし、ふらふらと危なげに立ち上がる。
「・・・神でも悪魔でもいい。 力を貸しやがれ。 あいつを守れる力を―」
頭から血を流し、おぼつかない足取りで竜へと歩く。 そんな様子に竜はもう飽きたのか特大の炎を吐き出す。 炎がお兄ちゃんの元へと迫り、焼きつくさんとす。 ―お兄ちゃん!! もはや、声も上げれず自らよりも大きな炎の向かう先を見る。
「はぁぁーーーーーーーー!!」
だが、何かが乗り移ったかのように今までとは明らかに異なる動きで 炎を切り裂き、捉えきれぬほどのスピードを持ってして竜へと突っ込む。 そして振るわれる特大の剣と化したMOSを竜へと突き立て、 さらに水平に振りぬく。 竜が叫びを上げ、それと同時に今まで以上の圧倒的な脱力感に 意識を刈り取られる。 最後に見えたのは全く別人のような顔で狂ったように笑うお兄ちゃんと 無傷の竜の姿だった。 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 「あの時・・・・」
あの後目が覚めてみた光景は最早焼け落ちた我が家と 全身にやけどを負った両親の死体。 そして居間のあった場所に残された二丁の拳銃と 部屋に燃えずに残っていた私にカバンだけで、 お兄ちゃんの姿も竜の姿もどこにも無かった。 そして、お兄ちゃんを探すために私は旅に出て、 バルムンクたちに出会った。 そしてこの力のことも知った。
「お兄ちゃん。どこ?」
再び暗闇の中で目を覚まし、お兄ちゃんの姿を探して進む。 力が出ない。 魔力を食い尽くされ、急激な疲労感がこの身を襲う。 だが、それでも立ち止るわけには行かない。 当ての無い闇の中を進んでいき、やがてポツンと闇さえも 存在しない『無』としか形容できないよう妙な空間が見えてきた。 そこにあったのは悲痛な顔を上げ、立ち尽くすお兄ちゃんの姿。
「お兄ちゃん!!」
慌てて駆け寄ろうとするが闇とその空間の間に見えない壁がある。 その壁を叩き、お兄ちゃんを力の限り呼ぶ。 その叫びに気付き、ゆっくりお兄ちゃんが生気の無い顔を振り返る。
「ユナ、やっぱり駄目だったらしい。 頼む、俺を殺してくれ」 「なっ!?」
心のどこかでその答えを予想していた。 だが、信じたくなかった。 そして認めたくなかった。
「駄目なんだ。 俺では僅かな残滓ですら抑えきれないらしい。 頼む、まだ俺の意識が残っているうちに、 コイツを抑えられる内にやってくれ」
自嘲気味に笑い、覇気の無い声で喋る。 そんなの嫌だ!! 出来るはずが無い!!
「いや!! 絶対にいや!!」 「ユナ、俺はあの時死ぬはずだった。 そして今まで自己を持って生きてこれた。 だから、もういいんだ」 「死ぬはずだったから死んでも構わないなんて、 そんなはずないじゃない!!」
お兄ちゃんの瞳が僅かに揺らぐ。 だが、それでもお兄ちゃんは言葉を続ける。
「だが、俺がもたらした災厄は多くの人を悲しませた。 父さんも母さんも俺が・・・。 これは償いでもあるんだ」 「死んで償うなんてそんなの償いなんかじゃない!! ただの逃げよ!!」 「だが、最早俺は戻れない!! ならば、再び堕ちる前にお前の手で―」 「ふざけないで!!」
涙をこらえ、お兄ちゃんをきつく睨みつける。
「私に! 私に二度もお兄ちゃんを殺せって言うの!!」 「ユナ・・・・・」 「お願い・・・私を一人にしないで」 「・・・お前はもう一人じゃないだろう。 もう俺がいなくても・・・・」 「駄目だよ。 私にはお兄ちゃんがいなくちゃ駄目なの。 だから、お兄ちゃんが道を間違えたら引き戻してあげる。 もし、道から外れたら私も一緒についていく。 だから!だからずっと一緒にいて!!」 「・・・俺は・・・生きていいのか?」 「うん」
ゆっくりと、しかし確実にお兄ちゃんが私の元へと歩いてくる。
「俺は許されないことをした」 「私が許してあげる」 「・・・ユナ。 俺はお前の隣にいていいのか?」 「うん。 お兄ちゃん。 うっうう」
堪えきれずに涙があふれ出してくる。 私とお兄ちゃんを隔てていた壁を抜け、泣き崩れる私を 強く抱きしめる。
「悪い、ユナ」 「っく、お兄・・・ちゃん」 「生きて償え、か・・・その通りだな。 今まで、一人にしてすまなかったな」
今までとは違う、重く凄みのある声で辺りを覆う影と闇に命ずる。
「帰れ影よ。我が元へと。 我が声に従え」
闇がうごめき、お兄ちゃん元へと集まっていく。 周囲を覆う闇が集い、上から徐々にこの空間が崩壊していく。 闇が削られ穴が空き、上から光が差し込む。 そして、全ての闇が消えうせた。
「ユナ、レイヴァン!!」 「二人とも大丈夫ですか?」 「まさか、戻ってこれるとは。 大した男だ。 いや、大した兄妹だ」
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■208 / ResNo.16) |
赤き竜と鉄の都第17話
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□投稿者/ マーク -(2005/05/01(Sun) 16:53:59)
| 『脱出』
「二人とも調子はどうだい?」 「魔力不足で倒れそう」 「魔力が多くて破裂しそうだ」
あの影に魔力を奪われたおかげで足取りが危うい。 そして吸われた先であるお兄ちゃんは逆に多くて 飽和状態も陥っている。
「なるほど、僕にはそんな経験は無いが協団のほうでは 無理やり魔力を増やす方法は研究されている。 その話によると身体が耐え切れず、制御も出来なくて 総じて暴走するらしいね。 ともかく、この状態では戦闘は無理だな。 レイヴァン君の魔力をユナ嬢に上げれれば全て解決できるのだが」 「そんな方法あるのか?」 「簡単だよ。それは―」 「「却下ーーーーーーーーー!!」」
私とお兄ちゃんがそろって声を上げる。 そっ、そんなの出来るはずが無いじゃない。 その・・・お兄ちゃんが望めば構わないけど、 やっぱりこんなところでってのはちょっと。 しかも、そんな理由でだなんて絶対に嫌だ。 って、私なに考えてるんだろ。
「よく分からんが、嫌なら無理にやらせるにはいかないな」 「そうかい?まあ、本人がどうしても嫌だと言うなら 別にいいけど」 「ですが、お二人が動けない状況では脱出も困難ですね」 「そうね」
この地下から一階まで上がるだけとはいえかなりの距離がある。 しかも、誰もここまで来ないと言うことは入り口付近に 待ち伏せしてる可能性が高い。 残念だけど私もおにいちゃんも現状では唯のお荷物。 そのうえ、残りの3人も疲労困憊だ。 ああ、どうすれば。
「あっ、そうだ」 「何かいい考えでも思いついたの、お兄ちゃん?」 「いや、そういうわけではない。 あの黄金竜の再生の理由がな」 「理由?」 「そうだ。ほれ」
そういって、小さな竜が出てくる。 って、まさかこれって!?
「多分お前のだろ?」 「うん、魔族とかじゃなくて、こいつが傷を埋めてたんだ」
三匹目の使い魔。 あの魔王の戦いのときに不覚にもラインが途切れ逃げられた私の従者。 こいつはニールと違って比較的大人しいがそれでもアルがもっとも従順だ。 なにかに引かれて私から離れたところで捕まったのだろう。 これに魔力を注いで実体化させることによって仮初の肉体を生み出し、 それで傷口を埋めてたわけだ。 普通ならただの使い魔ではあの規模の修復は出来ない。 だが、私の使い魔ならそれこそ別だ。 こいつらは普通の使い的は比べ物になられない力を持ち、 その魂の規模も申し分ない。 なにせ、その正体は本物の竜そのものなのだから。 正確には死した幼竜の魂と契約を結んでいる。 ただ、幼竜と言っても竜に変わりは無く、従わせるなどほぼ不可能なこと。 当時、死した魂を使い魔にする術が生まれて直ぐは多くの魔術師たちが 最強の使い魔を求めて、幻想種と呼ばれる今でも数の少なくなった 超越種たちの魂を手に入れるためそれらが大量に虐殺された。 だが、その魂を従わせられたものは一握りにもみたず、 結局、この魔術もまた廃れていった。 そんなわけで竜の魂と竜の身体ならば相性もとても良いので、 拒否反応もまず起こらない。 まあ、こんなところで思わぬ収穫だ。
―ダダダダッ
「1,2,3・・・やれやれ、また増えたよ。 完全に包囲するつもりだね」 『オーホッホッホ、形勢逆転よ。 黄金竜が落とされたのは誤算だったけど、 最後に笑うのは私だったようね』
あの時、扉の向こうに放り込んだあの女の笑い声が 部屋中に響く。
「そういえば先ほど外に放り出してましたね」 「そうね、こいつを人質に脱出って手もあったのにね」 「これは、ちょっと判断をしくじったかな。 証拠は押さえたけど、ここから出られなければ意味が無いし」 「まあ、あそこで放っておいて死なれても困ったし、 ようは逃げ切れればいいさ」
全員ボロボロで、その内二人は完全な足手まといだと言うのに 随分と緊張感の無い会話が繰り広げられる。 あの女の声はあれ以降聞こえないが、突入する気配も無い。 多分、私たちの様子は把握できていないのだろう。 でも、出口を固められている現状はかなり厄介だ。
「ユナの魔力さえあれば天井の穴を通って逃げられないことも ないんだけどな」 「あいにく、少しも残ってないわ」 「はあ。仕方がありませんね」 「リン? もしかして何かいい手あるの?」 「ええ。 レイスさん、『腕』を出してください」 「いいけど、まさかこれを返すから見逃してくれ。 なんていう訳じゃないよね」 「当然です。ギン」
受け取った腕を今度はギンへと放る。 慌てて腕を掴み、なにか面白そうに笑う。
「リン、もしかして許可取ってるのか?」 「ええ。念のためにいざとなってら使えるように 一度だけですが許可は取っておきました」 「よし。 久しぶりに使えるぜ」 「何をする気?」 「ようは相手の戦意を喪失させるか、 ここから逃げ出せればいいんです。 彼の技師が生んだ義手の力、良く見ててください」
ギンが嬉々としてボロボロになった義手を外し、 『銀の腕』をはめ込む。 装着した『腕』の具合を確かめるようにして動かし、 その機能を確かめる。
「やっぱり、コイツは凄いな」 「では、ギン。 お願いしますよ?」 「任せとけ!!」
そういってギンが扉へと駆け出し、その丈夫そうな鋼鉄製の扉を 義手で殴り飛ばす。 その後ろに控えていたらしい兵を巻き込みながら拳の形に見事に 凹んだ扉が吹き飛ばされる。 そして、扉の横にいた兵がその様子に唖然としている間に 一発ずつ拳を叩き込み全員、昏倒させる。
「じゃあ、進みましょう」
「うあああ、来るなーー!!」 「効くか!!」
後ろにいる私たちまで覆うほどの規模で展開した障壁を盾に 銃を撃つ男たちに接近し、その拳をお見舞いする。 だいたいその一発で兵は倒れ付している。 今更ながら、なんというパワーだ。
「さーて、いろいろ試させてもらうぜ」
義手が変形し、筒状のものがせり出してくる。 それを向かってくる兵たちに向け、放つ。 巨大なエネルギーの塊が放出され、着弾点に強大な穴を開け その周りにいた兵を吹き飛ばす。 次はその腕を振るい真空の刃を生み出し、切り刻む。 特定の魔術式を道具に刻み込むことによって魔力を流すだけで その魔術を使用するということは魔術の発展の中でも 重視され続けてきたものだ。 魔術の最大の弱点である詠唱を短縮、もしくは不要とする、 そのために考えられたものだが、複数の魔術式を一つのものに 刻み込むというのはとても困難なのだ。 お互いの魔術式が干渉し合い、まともに動かなくなったり することもよくある。 そんなわけで、刻み込む魔術式の数は1から3が妥当。 私のデッドアライブやノーザンが良い例だ。 そして、それを超えれば、安定した機能は望めない。 だが、この男はそれをやっている。 正確にはその義手、魔法文明時に名を馳せた最高の義手。 備えられた式はその常識を完膚なきまでに打ち破り、 その数は今まで見ただけでも、10を超えている。 しかも、あるのは身体能力拡大、重量変化、形状変化、物質操作に 真空波、火炎弾、魔力障壁、雷撃、水刃、光剣etc, なるほど、ここまで問題になるわけだ。 実際に目で見て、その評価を大きく修正した。 しかし、このギンの暴れっぷりはどうもバカに刃物と言った感じで 少々、敵に同情したくなる。 が、それでも突っ込んでくる敵も敵なので好きにさせている。
「ねえ」 「はい、なんでしょう?」 「なんでさっきはこれを使わなかったの?」 「ああ、それはですね。 校長に『腕』を使うのは一度だけと制約で決められてるんです。 切り札はそれに合った場面で使わなければ切り札にはなりえませんので」 「まあ、確かに1度しか使えないなら温存してて良かったとは思うけど」
でも、あれば少しは楽だったんだろうな。 喋りながらも走る速度は緩めない。 ギンが作った道のおかげで何とか脱出できそうだ。
「みんな出口だ」
レイスが指し示す方向に向かって全員駆け出す。 訂正、1人を除いて全員駆け出す。 残っているのは最後まで暴れまわっているギンだ。
「ギンのバカ!ユナ」 「分かってる」
ええーい、とっとと来なさい!! もはや、敵にしか目が向いてないギンをこちらの世界に 呼び戻すため、なけなしに魔力で竜を出す。 ギンはそれに気付かず、ゆっくりと竜が近づいていき。
―ガブッ!!
「〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!????」
頭を押さえ、声にならぬ叫びを上げる。 本当だったら三匹まとめて噛み付かせたいくらいだ。 さすがに、これで私たちに気付き、腕の銃で追ってくる兵を 牽制しながら向かってくる。
「これを外せ!!」 「暴走してたギンが悪いんです。 しばらくそのままで反省してください」 「ごめん、それは無理」 「ええ!?」 「もう魔力も無いから」
そういって、ギンの頭に噛み付きながら引っ付いてきた竜が消える。 とたん、ギンの頭から帯びたただしい血が流れてくる。
「ぐお!?血が」 「その程度ならどうせ、直ぐ治るんですから我慢してください」
頭からだらだらと血を流しながら逃走する男とその仲間。 はっきり言ってこの男の仲間とカウントされたくなくなってきた。 ・・・・元から嫌だったけど。
「この先だ・・・・ったんだけど」 「凄い数だな」
建物の周りを覆う壁の出口である門に群がった人、人、人。 これを突破するのか。 先ほどまでの狭い通路と違って何人もの敵を同時に相手しなきゃ ならないし、言いたくないが足手まといにしかならない私たちを 守りながら戦うのはかなり厳しいだろう。 ああ、魔力があれば竜の背に乗って空を跳んでとんずら出来るんだけど。
「どうする?」 「道が無いなら作るまでだ」
そういって目に前の門とその隣の門のちょうど真ん中に当たる部分に 向け駆け出す。 道が無いなら作るまで?・・・まさか。
「うおら!!」
予想通りというべきか、周囲を覆っていた巨大な壁の一角を その拳で打ち貫き、外壁はガラガラと音を立てて崩れていく。 さすがにその行動には門に待ち構えていた兵も唖然としている。 私たちは慌ててギンの後を追い、崩れた塀から抜け出す。
「まっ、待てえ!!」
私たちが兵を抜ける様を呆然と見ていた兵がやっと再起動し、 統率も何もない動きで追ってくる。
「ユナ。仕上げにアレを」 「分かってる。 って今の私じゃ無理だから―」 「貸して」
レイスにノーザンを手渡し、その力が発動される。 崩れた壁の周囲から広範囲に私たちには効果が及ばない範囲で 霧を振りまき、足止めをする。 統率の取れていない兵たちは物の見事に混乱し、 ここまで追って来れなかった。
「ああ、やっと終わった」
心底疲れた声でギンが呟き、全員その場に座り込む。 でも、本当にやっと終わった。 あの女には結局、制裁を加えられなかったが 無断での技術流出や王国との繋がりの証拠も押さえたし これであの女は捕まるだろう。 腹の虫は収まらないが、ひとまずこれで我慢しよう。 しかし、アルテの頼まれごとのおかげでまた、 とんでもないことに巻き込まれたものだ。 既に分かれて三ヶ月が経とうとしている。 向こうはどうしているだろう? あの少女。 セリスと言ったかはおそらく私たちと同じだ。 ここまで多く集まると何かが起こる前触れなのかもしれない。 っと、そういえば。
「レイス」 「なんだい?」 「生き残ったら教えると言ったよね。 貴方は何者?」
あまり他人に教えるべきことではないのでギンたちが他の事に 気が行ってるのを確認し、お兄ちゃんを呼んで声のトーンを 落として聞く。
「教会所属:アーティファクト専門部署第十三課 『封ずる狗頭(シールパンドラ)』に所属。 通称は『氣公子』」 「そういうことじゃないことぐらい分かるでしょ」
レイスのいった内容は少々驚きのことだったが、 私が知りたいことの方が重要なので無視する。
「王のこと?」 「それ以外何があるのよ。 それほど知っていると言うことは貴方も王でしょ?」 「ふふふ、どうやら君はまだ使いこなせてないようだね」 「えっ!?」 「王なら相手が同じかどうかは分かるらしいよ」 「らしいって・・・・お前は違うのか?」 「ああ。 僕がこのことを知っているのは何代か前のある王が僕の先祖にあたる人物で 他の者たちの劣化を知り、自らも自身の使命を忘れることを防ぐため その知識を全て一冊の本に記し、子孫に残したんだ」 「じゃあ、あんたは」 「位置的には唯の協力者さ。 アーティファクトの収集もその使命のため。 納得してくれた?」 「一応は・・・」 「納得だが」 「なら、っと連絡か」
そういって懐に手を差し、何かの道具を取り出す。 教会での通信機器か何かだろう。
「なんだって? ・・・そうか分かった。 だが、そちらはどうする?」
何かあったのだろうか。 教会からの通信。 また王国に何か変化が?
「では、僕もそうするとしよう。 リューフとアンナにもよろしく言っておいてくれ では」 「何かあったか?」 「あまり良くない情報かな? 王国が国内のレジスタンス狩りに乗り出す気らしい」 「なっ!?」
レジスタンス狩りって、まさかクロアたちがドジったんじゃ。
「まあ、反乱の兆しありってことが王も気が立ってるみたいだしね」 「反乱? なんのこと?」 「知らないのかい? 王女が城を抜け出して行方をくらましたらしい。 しかも、噂では今の王国の方針に不満をもつ者を 集めてクーデターを起こすつもりだとか」 「えええ!?」
リリカルテ様が行方不明!? 一体何がどうなっているのやら。 その上、クーデターなんていくらなんでも・・・・ やらない・・・・か・・・な? どうだろう、余り会った事が無いとはいえ、 印象に残っているのは芯が強い人だったという記憶しかない。 あと、アルテから聞いた噂では結構無茶をする人らしい。 駄目だ。 本当のことに思えてきた。
「で、興味深いのがさっきのは僕の同僚からの連絡だったんだけど 王宮には魔族が住みついているらしい。 それもかなり高位のが」 「高位かどうかは知らないけど魔族とかかわりがあるのは 私たちも知っているわ」 「うん、でもね。 それは魔族ではないかもしれない」 「・・・何が言いたいの?」 「それは」 「それは何なんですか?」 「・・・・・・」 「・・・・・・・」 「・・・・・・・・リン?」
気がつけばリンが直ぐ近くまで来ていた。 先ほどまでリンと話していたギンはうつぶせに倒れ、 右腕についていた彼の義手はなくなっている。 左手に血が付着していてその血で何か文字が書かれている気がするが 気にしないでおこう。
「少々大事な話のようでしたが、王国がまた大変なことになると 聞こえてしまい、つい・・・すみません」 「ああっと、いいのよ。 リンの場合聞きたくて聞いたわけじゃないでしょ」 「まあ、それはそうですが。 それより、王国はレジスタンス、 つまり獣人を襲うつもりでしょうか?」 「多分ね。どうにか止めたいけど、どうにも・・・」 「そうですね、頼んでみましょうか?」 「へっ?」 「いえ、今回の報告の時に校長に頼んでレジスタンスと クーデターの支援、を頼んでみましょうか? と尋ねたのですが」 「そっ、そんなことして大丈夫なの?」 「校長も今の王国の現状に不満をもっていますし、 クーデターに成功すれば王国との関係も改善されるでしょう。 支援についても、校長なら反対しないと思います。 他の者にも王国とは既に小競り合いは起きているので 正当防衛ということで言い含められると思いますよ」 「でも、そうしたら王国の矛先がこっちにまで来るわよ」 「もとより、王国がアイゼンブルグを放っておく筈はありません。 それに意外と大変なんですよ。 王国の異種族差別で逃げてきた獣人やエルフが年々増加していて アイゼンブルグの人口がここ数年で特に跳ね上がってます。 おかげで仕事が無くて食うものに困り犯罪に手を染めるものも しばしばいて、治安が悪化していまし。 もし、これで王国全土の異種族がアイゼンブルグに亡命してきたら とてもじゃないですが保護仕切れませんよ。 それによって引き起こされかねない事態なんて考えたくもないです」 「そっか、言われてみればそうね。 アイゼンブルグもあくまで独立都市だから大きさ自体は そこまで大きいわけでもないもの」 「ええ。 だから、これは私たちの安全のためでもあるんです。 貴方は貴方のすべきことをしてください。 もう一度、王国を救ってください、赤き竜」 「あっ、知ってたんだ・・・」 「ええ、まあ。 なんとなくですけど。 では、また会える事を楽しみにしています。 いきますよ、ギン」
そういって、倒れているギンの左手を握り引きずっていく。 さすがにその痛みに耐え切れずにギンが立ち上がり抗議しながら 突如、こちらに振り向き私に向けて手を振って・・・ 違う。あいつがこんなことするがない。 良く見れば、親指だけを伸ばして後の指で拳を握り、 親指を下にして小さく振っている。 訳せば『地獄に落ちろ』ということだろう。 だが、私はそんなことはしない。 黙って僅かに回復した魔力で魔力弾を数発顔面に撃ち込み、 倒れたのを確認して仕舞う。 最悪の別れだが私たちならこんなものだろう。 リンのことはまあ、あまり期待せずに待っておくとしよう。 ああは言っても、国の存続にすら関わることだ。 そう簡単に頷くはずは無いだろう。 ・・・・・多分。
「仲がいいね」 「どこが?」 「ほら、喧嘩するほど仲が良いって言うじゃない」 「じゃあ、それは激しく間違いなく、正しくないわね」 「・・・・まあ、いいけど。 それで、魔族らしい存在が確認できたから 王国に対して教会も動くかもしれない。 まあ、ほぼ確実に僕を含めた4人はお祭りには 参加する予定さ」 「ついに王にも裁きが下るわけだな。 で、その魔族がどうしたの?」 「うん、実はね。 君たちの仇敵らしいよ」 「・・・それって本当?」 「まだ僕にも分からないさ。 でもこれだけの力が動いているんだ。 偶然とは考えにくい。 僕はこれから教会に戻るが、出来れば他の王を連れて 僕の元に訪れて欲しいんだが、頼めるかい?」 「分かったわ」 「では、また。 レイヴァン君と仲良くやりたまえ」 「なっ、何を!?」 「ははははは。 ではさらば、いやまた会おう」
お兄ちゃんと私以外誰もいなくなり、急に寂しくなって来た。 さてと。
「みんな行っちゃったね」 「俺たちも行くか」 「うん」
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