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■28 / 親記事)  少女の檻 序章 『 lost −雪−』
□投稿者/ 翠霞。 -(2004/11/08(Mon) 22:10:48)
     雪が降っていた。
     それは、数多の夢のようにも思えるほどに、儚く降り注ぐ。
     消えるからこそ、叶わないからこそ夢なのだと。夢と言う理想に淡い期待を抱かなくなったのはいったい何時からだっただろうか……決まっている。全ての幸せが崩れた、炎のあの日からだ。
     窓から外を見ていたユナ・アレイヤは、そんな止め処ない思考を頭にめぐらせていた。
     別に考え事をするために外を眺めたわけでも無く、雪が降っているその情景が特に好きだから眺めたというわけでもない。そのような感情の全てを……楽しいとか、嬉しいとか、喜びとか、笑うという……全てを、彼女は過去に置いてきていた。
     彼女には今、なさなければならない事があった。
     魔法学園に在籍する彼女は、成績も優秀、主席をいつもキープしているどころのレベルではなく、既に博士号などを習得している。
     
     稀代の焔術師 ユナ・アレイヤ

     そんな、二つ名で呼ばれる事もあるくらいに、彼女は有名な存在だった。
     ふと。彼女が窓から少しだけ視線をそらす。その、わずかな視点移動で視界の端に収めたのは、室内を暖める暖炉の炎。薪を火種に煌々と燃え上がるそれは、薄暗い室内に在って、酷く明るかった。

    「炎は……私に何を見せるのか」

     既に、窓へと移した視線のまま、そんな呟きをユナはもらした。
     誰も、その問いに答えるものなど無く、きっと、その問いの答えを知る者は問いを発した自身である事を知りながら。それでも、もらさずには、いられなかったその問い。
     深く心に根付いた問い。

    「……兄さん」

     ユナは、また視線を外へと戻した。問いを答えてくれるであろう、人物の名前を呟いて。誰よりも今、寄りかかって、その温もりを感じたい人の名前を。

    「もう、暖炉の温もりは嫌い……」

     見つめていた外の景色から、人の影が消えた。もう夜も深い。誰も出歩くような人物がいないような、そんな時間帯だ。
     暗闇の中、それでも主張するその純白の雪は、精霊にも似て幻想的な雰囲気を醸し出している。雪に吸収されたのか、世界には音も消え去り、深々と、ただ、静謐な夜が広がっていた。
     そんな、儚い雪のように。
     部屋から、忽然とユナの姿は消えていた。
     部屋の扉は開け放たれたまま。暖炉に灯っていた炎はその勢いの影すら無く消え去っていて、ただ、無人となった室内には、一枚のメモが床の上に置かれていた。

    『 明日へ 雪のような 明日へ 目指すことは 罪なのでしょうか? 』

     その白い紙には、そんな問いかけが。



     翌日の街に一つの噂が流れていた。

     学園主席 ユナ・アレイヤ 失踪 


     物語は始まる。

引用返信/返信

▽[全レス40件(ResNo.36-40 表示)]
■527 / ResNo.36)  Unknown
□投稿者/ Adultnt -(2006/11/19(Sun) 17:59:04)
http://lesbian-sex-game-nsti.blogspot.com
引用返信/返信
■528 / ResNo.37)  Unknown
□投稿者/ Adultfs -(2006/11/20(Mon) 05:08:47)
http://world-sex-record-1ximj.blogspot.com
引用返信/返信
■529 / ResNo.38)  Unknown
□投稿者/ Adultdt -(2006/11/20(Mon) 11:46:16)
http://play-sex-game-cpxu.blogspot.com
引用返信/返信
■530 / ResNo.39)  Unknown
□投稿者/ Teendc -(2006/11/21(Tue) 07:37:53)
http://defloration2.pornzonehost.com/first-sex-teen-time-virgin.html
引用返信/返信
■531 / ResNo.40)  Unknown
□投稿者/ teensnd -(2006/11/21(Tue) 07:41:25)
http://teenporns.pornzonehost.com/nude-teen-pic.html
引用返信/返信

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■45 / 親記事)  ★蒼天の紅い夜 外伝
□投稿者/ サム -(2004/11/14(Sun) 02:24:54)
    2004/11/14(Sun) 02:34:50 編集(投稿者)

     ◇ 蒼天の紅い夜 ◆


    心を閉ざそう。

    自分の心を守るために。

    心を閉ざそう。

    何も感じずにいるために。

    心を閉ざしたままでいよう。 冷たい氷の世界の中に,わたしが一人で居られるように。


    わたしの望む,未来の為に。





     ▼


    槍を振るう。

    途端渦巻く暴力的な氷雪,荒れ狂う空間。魔力の渦。
    わたしは鋭く周囲を睨み,逃れた敵を確認・追撃に移る。


     ▼

    敵は一人。
    他国の密偵と言う情報が,わたしの魔法駆動機関(ドライブエンジン)頭部装甲外殻(フルフェイス・シェル)のバイザーに片隅に表示されていた。

    冷静に思考の隅でその事実を捉えつつも,わたしは動きを止めない。
    足元に発生させたわたしの魔法――唯一使う事のできる"凍てつくココロ"を展開・行使。
    局所的に展開された圧縮氷雪空間は,わたしを地上3cmの場所に浮上・位置安定化させ,そのバランスを恒常的に維持する事で物理的制約に捕われない高速機動を可能にする。
    ―――闇を動く影を捉えた。

    一瞬だけ交錯から敵諜報員の姿を解析。
    体の部分部分をそれぞれパーツの違う魔鋼鎧で覆っている。


    ――シルエットから男性と断定。共有情報に追加,解析続行。
    了解(YES)

    人工精霊ニドの返答を思考の片隅で聞きながら,わたしは更に敵を追い詰める。

    "凍てつくココロ":左手収束・行使

    若干のタイムラグと同時に闇の中に氷色の球が生まれる。
    魔力を帯びたそのエネルギー体は,高速で回転する物理力の塊だ。
    本能の成すこの力。
    思い通りにならない事など何も無い。


    国境も近い山脈の麓,とある森の中。
    わたしは不法入国した他国の密偵の一人を追い詰めている。
    この先は崖,それも1000年前の戦争時に出来た高エネルギー収束攻撃の余波で出来たものだ。どんなレベルの魔法が駆動されたのかは知らないが,崖の底は見えない。

    チェックメイト。


     ▼


    森の中を高速で移動する二つの影は,追うものと追われるもの。
    片方は法を侵すもの,もう片方は法を守るもの。
    どちらも自国の利益の為に行動しており,どちらも自分の未来の為に行動している。

    立場こそ違えど両方の根底に共通するものは同じだった。


     ▼


    森が途切れる。
    わたしはバイザー部分だけを限定解除・肉眼で状況を確認。
    敵は追い詰められている事に気づいたらしく,現在攻撃態勢を整えている。

    わたしの魂の中にあるという生体魔力変換炉――それが敵の収斂する魔力を感じる。
    魔鋼(ミスリル)で体を覆う彼は,その腰に携えていた小剣を構えた。
    解放される魔力は剣型魔法駆動媒体(ARMS)を覆い,それを一振りの炎の長剣に変化させる。


    …感じる。
    敵は本気だ。他国に侵入するレベルの敵は,きっと軍の戦士よりも力を持っているに違いない。
    解放された魔力――その収束密度・制御レベル,どれを取っても一流の戦士だ。
    ならばわたしも本気で戦わなければ負ける。

    殺す。
    躊躇いはない。

     ▼

    ――解放・行使
    相対するわたしは――左手に収束させておいた氷色の球を解放し,右手の氷槍と合わせて再形成する。

    "凍てつくココロ":行使:再形成:長剣

    最も得意な武器の一つ,長剣。
    これを持つ覚悟とは――相手を葬ると言う決意の表明。


     ▼


    月光の下,二つの影は同時に動いた。

    接近し打ち合う紅と蒼。
    2合,3合と刃を交え,その度に迸る余剰魔力の緑光。

    打ち負け紅が離れ中距離魔法を連続投射するも,蒼はその攻撃の全てを一定範囲内で出現させた同数の盾で完全に拡散・無効化する。
    逆に蒼の反撃は,氷の槍の多数同時行使。
    生み出された計12の氷槍。紅の炎を使う男はそれを防ぎきれず半分以上をまともに食らい,吹き飛ばされた。

    その後を追う蒼。態勢を整えようと足掻く紅。


    崖の淵。
    蒼は高速で紅に接近・交差した。


    振りぬかれる蒼い剣。


    血飛沫が舞い,大地が濡れる。



     ▼

    剣が消失する。
    魔力周束帯は,行使者がそれを解けば形を失う。
    小さな蒼い影は倒れ伏す敵の亡骸を一瞥し,そして帰途につく。


    そのまま連なる森の中へと歩き去った。
    そして,二度と戻ってくる事は無い。

     ▼


    「…任務終了。SSKGH1506地点にて目標を撃破。回収班まわせ」
    『了解。ヴァルキリーA962は帰還し待機につけ』
    「了解。VA962,帰還する。交信終了(オーヴァー)

    歩きながら少女は装甲外殻を外した。

    目に浮かぶのは先程の光景。
    月明かりの下で行った決闘の光景。

    振りぬく自分の剣,舞う血飛沫,倒れた敵,血に塗れる大地。

    そして――血に濡れた氷の長剣(わたしのココロ)

    鋭い視線はいささかも衰えず,見据える前は暗き森。
    戻らなければならない。
    次ぎの任務へ備えるために。未来を切り開くために。

    例え―――


    わたし自身が血にまみれていたとしても。

    遠い遠い時の彼方に居るだろう,多くの同朋達の為に――。





    >>>END
引用返信/返信

▽[全レス1件(ResNo.1-1 表示)]
■46 / ResNo.1)  後書き
□投稿者/ サム -(2004/11/14(Sun) 02:30:35)
    どうも、サムです。

    >蒼天の紅い夜
    これ,急遽書き上げた外伝です。

    解説します。
    これは"蒼天編"以前の話と言う舞台設定です。
    "私"と出会っておらず,感情を凍らせたままのエルです。

    この頃の彼女が持っているのはただ一つ,EX達の未来を憂う心です。
    その未来を何とかしたいと思う気持ちが,心を凍らせて修羅の道へといざなっている…とまぁそんな感じで。

    急ごしらえのもので,いささかシリアスと言うかなんというか、遊びの部分は無いですが,まぁ以上です。

    そうそう,ルビ使ってみました。
    "蒼天編"の続編にも多数つかってます,その試験みたいな意味も込めてます。

    では,失礼しました。
引用返信/返信

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■11 / 親記事)  ★公開開始"蒼天編"
□投稿者/ サム -(2004/11/06(Sat) 10:49:57)

    ――闇を駆ける。
    複数の逃げる影を追って駆ける駆ける駆ける――

    追われる方と追う方。
    そのどちらもが生身の人間であることは暗い夜の街でも明確にわかる。
    道の両脇に点在する街灯によって,彼らの存在を明らかにしていた。


     ◇ 序章『暗闘』 ◆


    時折後ろを振り返る,集団――20台前後の若い連中だ――は,追跡者を振りきることが出来ないこの状況に心底おびえていた。

    たった一人の追跡者に。
    自分達は,"EX"であると言うのに。
    力を持つ者と証明するその単語は――また別の意味をも持っている。

    排除される者――そんな意味を。


     △   ▽


    自分達が優位である状況はたった一つ,集団であると言うその一点に尽きていた。
    それ以外の状況を好転させる要因は自分には見つけ出すことが出来ない。

    ――どうする?

    殿を駆ける少年は考え続ける。
    追跡者の視線を背中に受けながら。
    想像以上に辛い。

    プレッシャーに押されつつ,この集団のリーダーである彼は思考する。
    如何にこの場を逃れるかを。


    追跡者が通常の警察組織の人間だとするならば方法は容易だ。
    包囲される前に逃れることなど造作もないし,例え囲まれたとしても強行突破することも出来る。
    自分達はそこいらの魔法使いなど目じゃないほどの能力を持っているのだから。

    しかし。
    これが軍人相手だと立場が全く変わる。
    奴等はその一人一人が自分達と同等かそれ以上の能力を持っているのだから。
    それは基礎能力が同等かそれ以上,と言う意味だ。魔法まで使った戦闘など想像もしたくない。

    それに比べて,と愚にもつかない思いに捕らわれる。
    自分達は,生まれながらに周りから差別されてきた"排除される者"。
    生まれ持つその力故に。
    毎日が生きるか死ぬか,殺るか殺られるかの人生。
    そんな毎日が嫌で嫌で,そんな社会をどうにか覆したくて作ったこのグループ。
    得られたのはちっぽけな満足感と微かな安らぎ。
    そして底抜けの虚無。

    やってる事は変わらなかった。
    日々を他チームとの抗争に明け暮れ,生きるために強盗までやってきた。
    一人でやっていた頃と何も変わらない――むしろ増長したのか…。

    警察など相手にしないオレ達の能力。俺達を止めるものはないと目を逸らし続けていた現実世界。
    しかし,心の隅で何時かは必ず来ると思っていた終焉。

    俺達は終わりだ。
    奴等――王国軍が来たのだから。


    逃げ延びることは出来ない。
    ならば―――やるしかない…。

    そう,決断した。


     ▽  △


    少年は左手を握り締める。
    すると,その指に填められた三つの指輪が鈍く光りを発し始めた。
    疾走しながらのその動作と気配の変化は,すぐに周囲に伝わった。

    仲間達ももう逃げ切ることは出来ないと感じていたのだろう。
    リーダ―と共に,己の魔法駆動機関――「ドライブ・エンジン」を駆動させはじめる…!
    そして,凶悪に膨れ上がる後方からのプレッシャーに押しつぶされまいと少年は叫んだ。


    「いくぞてめぇら! 最後のパーティの始まりだァッ!!」


     ▽  △


    前方を疾走する彼等が立ち止まった。
    各々が,何処かで強奪したのだろう戦闘用の魔法駆動機関――ドライブ・エンジンを全開稼動させている。
    全身を覆う独特の装甲外殻が,追跡者――わたしへの敵対心をひしひしと伝えようとしているように感じる。


    事前の調査報告書から知ってはいたが,彼ら全員がEX――"排除される者"だ。
    生まれついての特殊能力持ちで,彼らは絶大な力を持つ。だから恐怖・排他の対象にも成り得る。

    しかし。
    彼らが"EXであるが故"に通常の魔法駆動機構(ドライブ・エンジン)は起動不可能のはず。
    戦闘において身体能力を増幅させる外殻装甲どころか,普段の生活で触れるちっぽけな駆動式すら稼動は困難なのだから。

    だが,彼等はそれを稼動させている。それどころか全開稼動まで持っていっている。
    即ち――

    (どこからか"あの"技術が漏れている,と言う事…?)

    もしくは,"彼らの後ろにいるだろう組織の中に" 駆動式を付け加える事の出来る優秀な技術者がいると言う事か。
    まぁ,どちらにしても。

    (彼等を拘束する事は――変わりはないか。)

    相対するために立ち止まった。
    彼らは既に戦闘態勢に入っている。数は8人。
    こちらも外殻無しでは少々のダメージを覚悟せねばならない人数だ。が――

    明日の事を考えると,無駄な怪我はしたくない。

    「装甲展開」
    『了解  駆動:装甲開放:ヴァルキリーヘルム』

    思考の片隅を占有する人工精霊が主の命令を受諾し,それに従って駆動式を稼動させる。
    呟きは魔力を誘導し,両耳につけられているピアスへと流れ込んだ。
    強制的に流し込む魔力は,ピアス型の特殊金属(ミスリル)に刻み込まれた起動式を作動させ,連鎖反応で魔法駆動式を起す。

    一瞬の出来事。
    その体を深蒼の鎧で包み,更に何時の間にかその右手には氷色の突撃槍(ランス)。
    戦闘準備,完了。


    苦い思いと共に,目の前の少年達を見つめる…


     ▽   △


    少年が呟く。

    「ヴァルキリー…マジかよ」

    小刻みに震える彼の様子は,すぐに周囲にも動揺を伝染させた。
    ヴァルキリーの名を聞いた彼らは,すぐそれの表す意味を思いあたる。
    戦乙女の名を冠するその装甲は,王国軍から実際戦地に派遣される魔導部隊が正式採用している物だ。
    あちらは防性の外殻とは言え,スペックが違う。

    勝ち目は薄い。

    …が

    「諦めるわけにはいかねェ…」

    ギリ,と奥歯をかみ締める。
    崇高な思想を持つ彼らのために。
    こんな自分達を受け入れてくれた彼らの為に――

    「負けるわけにはいかねぇんだよおおおおおお!!」

    戦いが,始まった――


     ▽   △


    漂う冷気の中,わたしは辺りを見まわす。

    倒れ伏す陰が四つ。
    戦いは数分と短時間で終わった。
    一方的に蹴散らすだけの,戦闘とも言えない戦闘――掃討戦か。

    わたしは,そのうちの一人…やむを得ず重症を負わせてしまった人達の応急処置を施すと,通信装置で軍・警察に連絡をとった。
    後10分もしないうちに応援が到着すはず。

    重傷者2名,軽傷者2名。
    残り半数は引き続き逃走している。
    彼等は,仲間を見捨てて逃げ出したのだ。

    (無理もない…か)

    でも,わたしはそんな彼等の判断を嘲笑う事は出来ない。
    もし同じ立場なら,そうしたと言う可能性も否定しないから。

    夜明けまで,そう時間はない。
    応援が到着次第,急いで戻らねば――
    不意に。
    フルフェイスのハードシェル(外殻)を外したい衝動に駆られた。

    「装甲解除」
    『了解  装甲解除(リバース)』

    魔力が渦巻き,体全体を覆っていた装甲――ヴァルキリーヘルムが元のピアスへと収束して行く。
    同時に,解放された青い長髪が背中を撫でた。

    蒼い瞳,蒼い髪。
    憂いを浮かべるその表情は月に照らされ

    いつまでも,月を見上げていた――


    >>続く
引用返信/返信

▽[全レス14件(ResNo.10-14 表示)]
■24 / ResNo.10)  ★"蒼天編"8話『吐露』
□投稿者/ サム -(2004/11/08(Mon) 17:07:35)
     ◇ 8話『吐露』 ◆


    なんで…?

    わたしを襲っているのは困惑と動揺。
    彼女――わたしの一番の友人――は,脚部にドライブ・エンジンを限定装備した姿ですぐそばに立ち――わたしの"魔法"を呆然と見ている。

    『警告  目標が移動中』

    ニドの言葉にわたしはハッと現実に復帰する。
    事態を収拾するのは後回し,いまは目標を拘束しなければ。
    でも,現状の安全が確保できない以上,"素人"の彼女を放って置くわけにもいかない。
    と、なると――

    「装甲解除。対象をそこの一般人に指定・防御結界で封印(シールド)」
    『  了解   プロセス開始』

    若干のタイムラグの後、ヴァルキリーヘルムA962が解除され,それは彼女の周り光の格子で囲んだ。

    「な,なに…!?」

    困惑する声。
    申し訳ないと言う思いが先に立ち,そして今までの関係が崩れる――そんな確かな予感に寂しさが増す。でも,彼女を傷つけるわけには行かない。それだけでも判ってもらうために。
    わたしは,何時もいっしょに行動する――してくれる彼女に優しく告げる。

    「…これからちょっとお仕事があるの。少しだけ,まっててね」
    「エル!? いったいなんなの!?」

    …ごめんね。

    インナーのみの軽装のわたし。
    対するのは4人のドライブエンジンを纏ったEX。

    二人一組で行動しているのだろう,気配の塊が二つ。
    そして背後には彼女の気配。

    早く終わらせよう。

    そう,思う――


     ▽   △


    私は成り行きに任せるしかなかった。
    完全なる傍観。
    余りの事態の急展開に,行動どころか思考もついていかない。
    エルは装甲を解除すると,それ私の周囲に展開してあっという間に封印(シールド)してしまった。
    申し訳なさそうに,困った笑顔でエルは笑う。

    「…これからちょっとお仕事があるの。少しだけ,待っててね」
    「エル!? 一体何なの!?」

    いつもの口調で,エルは私にそう告げる。
    でも。
    その声は何処か硬質で,悲しさと寂しさを含んでいる。

    なのに私には問いを発する事しか出来ない。

    そして。
    エルリス・ハーネットは,ヴァルキリーヘルムの下に着ていたインナースーツだけでEX達に立ち向かう。
    その光景に私は我に返った。次いでその光景に真っ青になるのが判る。

    「ロン!」
    『無理です  ヴァルキリーヘルムの防御結界を突破するにはあなたの魔力・能力では不可能』
    「でも,でも!」
    『仮にここから出れたとしても,場の状況は悪くなるものと推測します。』

    判ってる!
    でも,エルはたった一人でEX(異能の者)達に向かっていくつもりなんだ!

    「エル,聞こえてるんでしょ!? 一人でなんて無茶だ、私も――!」

    私の必死の叫びはエルに届き――でも。

    「いいの。」

    優しい響き。
    しかし突き放したような,声。
    私はその声に,はっきりとした拒絶を感じた。


     ▽   △

    「いいの。」

    エルリスは光の結界の中に閉じ込めた彼女に静かに笑いかけると,氷色のコンバットナイフを掴んだ。
    対人攻撃ナイフはエルリスの手の中で形を変え―― 一振りの槍と化す。
    その変異は迅速で,魔法を駆動したとも思えない形成速度だ――それは

    「わたしは…EX,だから。」

    エルリス・ハーネット自身の,魔法――


     ▽   △


    その言葉を聞く人間は,この場に五人。
    一人はエルリスの親しい友であり,後の四人は敵。

    過剰に反応したのは敵対している男達だった。

    「EX…あんたもそうだってのか!?」
    「なんで王国軍なんかに…」
    「犬なんかに成り下がりやがって!」

    口汚くののしる3人を,リーダーの男が手で制する。

    「あんた,なんで王国軍に居るんだ…」

    彼の言葉は静かに辺りに響く。
    対する青い髪の少女は――答えない。
    ただ,槍を構え間合いを詰める。

    「答える気はない,か」

    男の声はなぜか寂しげだ。
    彼の目に宿る一瞬の寂しさが,また苛烈な炎に塗り替えられる。

    「俺達は諦めねぇ」

    ゆっくりとした動作で,彼も武器――鋼のコンバットナイフを構え,

    「俺達を差別している奴等全員に思い知らせてやるんだ――どっちが強者で,どっちが弱者をな…」

    揺れる感情は憎悪,諦め,そして怒り。
    対するエルリスは,その感情に微塵も揺るがない。

    確信を持って彼女は彼等に敵対する――。

    「――あんたもわかるだろ? 俺達EXはどこに行っても異端だ。絶対に受け入れられる事はない…」

    その言葉に,エルリスは足を止める。

    「周囲の人間の意見や感情,意識。それらが全部――俺達を排除しようとする,される!」
    「だから」

    トーンダウンした,しかし凛とした一声。
    満月の下,その深緑の光に照らされ――

    「そう思っているからこそ――"わたし達"は誰からも受け入れられないのよ」

    澄んだ瞳で応えた。


     ▽   △


    「力故に恐れられる。力故に排除される。…でも,これは当然のこと。」

    穂先は依然彼に狙いを澄ましている。
    対する四人も,意識をエルリスから離さない――それが隙になる事を判っているからだ。

    「対等な条件下になければ,人は人を認めることは難しい。…自分以上,自分以下。そう思う意識が全ての差別の元になる。あなたも」

    エルリスは,初めて彼だけに視線を合わせた…ほんの一瞬だけ。

    「現に今,あなたも差別をしてるでしょう?」
    「……」

    すぐさまエルリスは視界と気配に集中する。
    しかし言葉はとめない。

    「わたし達はEX…これは変えられない事実。そしてまた,現代に生きる人間と言う事も事実。なら――」

    氷色の槍の穂先を心持下げ,攻撃態勢に入る。

    「この社会で,折り合いをつけて生きなければならないのも,また事実――」
    「受け入れる器のない社会など―――!」

    怒りと,悲しみと,憎しみの篭った悲痛な叫びが,周囲を貫いた。


     ▽   △


    「……」
    結界(シールド)の中で,私は全て聞いていた。
    その上で,私は彼等の会話に何も言う事が出来ない。
    その言い分は確かにそうであるし,有る一面では正しく…もし私が彼等と同じ立場だったら…同じ行動を取らなかったとも,言い切れない。

    差別される痛み。
    それは"私も知っている"のだから。



    >>続く
引用返信/返信
■27 / ResNo.11)  ★"蒼天編"9話『スレチガイ』
□投稿者/ サム -(2004/11/08(Mon) 20:47:08)
     ◇ 9話『スレチガイ』 ◆
     
    差別や偏見とは,何も能力が劣る方向だけへ働くものではない事は,私は経験的に知っていた。
    この街に来るまでの数年間…周囲よりも秀でた能力が,私を孤立させていたのだから――。
     
    それはもう、過ぎ去った過去の話。
    でも,まだ私に傷を残してもいる。


     ▽   △


    対峙する一人と四人は共に無言。
    似た出自と過去を持っていたとしても,選んだ道は駆け離れている。
    エルリスは槍を構え,対峙する男も武器を構える。

    先に動いたのはどちらだったのか。
    気づけば30mと言う距離を一瞬にして詰め,中央で二人は打ち合っていた――否。
    エルリスが男のコンバットナイフを粉砕・一方的に蹴散らし,その向こうに居る"後衛"(カバー)に向かって踏み込む。
    打ち合った場所から約20mを3歩で踏込み・槍の柄で突く――

    ガン,と金属の塊を突いたかのような硬く重い手応え。
    エルリスは慌てることなく距離を取り,突いた男を見ると…彼の眼前――そしてその周囲を金属の防壁が囲んでいる。

    「金属の結界――」

    攻撃に転じようとしているのだろうか,大小様々な金属球が周囲に出現する。

    「――魔力具象系の駆動式使い…」

    EXの中でもかなり特殊な能力だが,エルリスは特に慌てない。
    相手の能力が何であれ――彼女は勝たねばならないのだから。

    四人のEXの内,3人の特性は把握した。
    雷,衝,金。

    相性と,連携が危険なのは――雷か。
    向かって左,雷撃を操る男がこちらを狙い澄ましている――


    エルリスは迷うことなく走り出す。
    途端,頭上に魔力の渦を感じた。

    息をするように魔法を行使する――それがEX。
    だが,彼等はまだまだそれが出来ていない。
    ほんの瞬間の集中と,きっと心に念じなければ魔法を行使できないのだろうと予測する。


    それではわたしは倒せない――

    わたしは, 前後左右と上空から襲う雷撃・衝撃波を,"意識することなく"作り出した氷の壁で防ぎきり,消滅させた。


    深く,踏込む。

    その速度でもって.ドライブエンジンの装甲外殻に守られた彼の体――脇腹の部分を狙い,槍の横凪ぎでふっ飛ばした。
    倉庫の壁まで飛んだ男は,体折ってうつ伏せに倒れる。


    「…カハッ」

    呻きが,雷を操る男のこの場での最後の言葉になった。


     ▽  △


    それを圧倒的と言わずになんと言うのだろう。
    エルは,敵の繰り出した猛攻を難なく蹴散らし…あっという間に一人倒してしまった。 

    一対一の対人戦闘能力,判断・決断の早さ。
    どれを見ても私よりも優れている。

    何よりも…エルの槍――あれはただの槍じゃない。
    魔法で形成・維持している,魔力の氷槍だ。

    魔法をドライブ・エンジン無しで"行使"しているのが信じられない――

    行使と言う言葉。
    これは普通の魔法使いではまず使わない。普通,魔法は"駆動する"と言う。
    言葉通り,これは一定の法則と手続きに従って"動かしている"と言う意識が強いから。

    行使する,という言い回しは…文字通り"使う"事を意味している。
    でも,そこに篭められる意識は違う。
    魔法を使用する私達の使う"行使"とは,"それを当たり前の事として行う事"と言う意味。
    現実にそれを行えるのは,各国のトップクラスの魔法使い達に限られる。
    それと,近年その出生率が徐々に増加してきた"EX"達。
    卓越した者,そして超越した者達にのみ許される魔法駆動――それが行使,だという。

    エルの疾駆が起した突風が,私の場所まで吹きつけた。
    風はエルの敷いた結界が遮り私までは届かない…けれど,その風は,魔力を騒乱させている時に起こる現象だ。
    EX達の体内――いや,精神に有ると言う魔力変換炉。それが大気中の魔力を汲み上げ別系統の"力"に換える――そう聞いた事が有る。
    理屈はよくわからない。
    生身でドライブエンジンを搭載しているようなものなのかな,とぼんやり私は思った。


     ▽  △

     
    停滞せず動きつづける。

    エルリスの次の目標は衝撃波を放つ男。
    左右へのサイドステップで直線的な衝撃波群をかわしつつ,すばやく確実に接敵する。
    かわす事の出来ないタイミングの攻撃は,瞬時に生み出す氷の盾で無理無く打ち消し,あ,という間に槍の射程圏内に収めた。

    一瞬の交錯。
    その,瞬間の攻防の際に発生した余剰魔力の光が収まると,その男も倒れ伏し,沈黙していた。

    肩越しにナイフの男を振りかえったエルリスの瞳は,冷たい決意を秘めたような…醒めた眼差し。
    対する男の,苛烈な憎悪を篭めた瞳。

    そんな彼を見据え,エルリス・ハーネットは"応え"た。

    「わたしの…わたしたちEXのこれからの為に。あなた達は拘束させてもらうわ」

    今を切り捨てる覚悟,そして強烈な独善を篭めて――
    そう呟いた。


     ▽  △

     
    もう言葉は通わない。
    しっかりと私の耳にも届いたその言葉は,この場の誰の心にも突き刺さった。
    無論,私にも。
    エルのその発言は,普段の彼女からは絶対に想像も出来ない位辛辣で独善の過ぎる,刺――どころか毒すら内包しているような,そんな意味に捉える事が出来る。
    それが敵なら…その心境は推して知るまでも無い。

    鬼気の膨れ上がる様がわかる。
    目の前のナイフを砕かれた男,そして後方で機を狙っている不可思議な魔法を使う男。
    その両方を過剰に刺激していた。

    何で,なんでそんな事言うの…?

    私は…しかし問えない。
    戦いを見続ける事しか出来ない――



    >>続く
引用返信/返信
■31 / ResNo.12)  ★"蒼天編"10話『ココロとコトバ』
□投稿者/ サム -(2004/11/08(Mon) 23:14:48)
     ◇ 10話『ココロとコトバ』 ◆


    ――これで戦いは終わり。


    エルリスはもう,他の二人には目を向けなかった。
    …向ける事は出来なかった。


    先程の言葉に偽りは無い。
    わたしの目的――そのために,彼等のような社会に反するEX(能力者)や犯罪者を捕らえ続けよう。

    哀しい。虚しい。痛い。消えたい。心が張り裂けそうだよ…

    でも,もう停まるわけには行かない。
    そう決めたのは,わたし自身なのだから。
    月を見上げて,わたしは最後の魔法を放った。


     ▽   △

    その時のエルの表情,私は忘れないだろう。
    全ての悲しみを内包した,迷子の子供のような――それも一瞬。
    彼女は月を見上げ,まだ動ける残りの二人に背を向けて。

    何を想っていたのだろう…


     ▽   △

     
    轟!


    突如吹き荒れる吹雪。
    まるで真冬の北の山脈に迷い込んだかのような,信じられない暴風が吹き荒れた。

    嵐の中心――そこには一振りの槍が在る。

    槍はエルリスの魔法。彼女の心そのものだ。
    それを軸に半径30mの半球範囲のみで発生する限定現象――魔法"凍てつくココロ"

    エルリスが唯一名付けた,ただ一つの魔法。


     ▽   △

    吹雪が収まると,横たわる影が二つあった。
    どちらも息をしている事を確かめ,エルリスは先に倒した二人を引っ張って1箇所に集める。

    「封印移行(シールド・シフト)」
    『Yse  封印解除(シールドアウト):移行完了』

    私の封印が解除される。
    代わりに,倒れ伏している四人を囲み,完全な封印状態に移行した。
    私に使っていたときの状態は"防御結界"(シールド)だったみたいだ。
    先程の戦いから見て,エルのドライブ・エンジンは"拘束・保護"する"封印・結界"としての意味合いのほうが大きいのかもしれない,と気づいた。
    先程の猛吹雪――エルの起した魔法――も、彼女の敷いた結界が無ければ被害を受けていた事に思い至る。

    最初に言ったエルの言葉・・・「少しだけ待っててね」も果たされた約束だ。
    エルは,約束を守らない娘じゃない。


    沈黙が辺りを覆っていた。

    エルは二言三言ナイフの男と言葉を交わし,それで全てを終えたのだろうか。
    ゆっくりと,私の方に歩いてきた。


    「驚かせちゃった…よね」

    苦笑しながら,ピアス――エルのドライブ・エンジンだ――を触りつつ,困った笑顔で話し出した。

    「これ,わたしでも使える特注品なの。軍には私のほかにも何人かEXがいて…その人達がコレを使えるように技術部の人と魔導機構をいじって。…わたしって使える魔力が多いでしょう? 無理やり魔力を流す事で付け加えた細工(エーテル)を動かして,それで無理やりドライブエンジンを稼動させてるんだ。」

    強引だよね,と。やはり苦笑する。
    それは――何かを覆い隠そうとする仮面だと私は感じた。

    エルの言葉が途切れると,やはり沈黙が辺りを包む。
    すると,エルは表情を消してポツリと呟いた。


    「ごめんね」


        ▼


    「騙してたんだ。 魔法,使えないって」

    私は聞く事にする。
    エルは私から少し距離を取って,腕を広げて見せた。 
            

             ほら,わたしってこわいかな? …こわいよね

             
    そう言っているのが表情でわかる。笑っていても瞳の端に涙が浮いてるじゃない…
    私は,だから黙って聞く事にする。

    「わたしもあの人達と同じなんだ…。わたしは,EXだからって理由で差別される事を知ってる。それを憎んでもいる」

    実際にそうだったしね,と遠くを見ながら言う。
    エルは俯き,沖の水平線の上に浮かぶ月へと顔を向けた。

    「Exclusive…生まれつきの力故に,本当のEXは心が閉鎖的なの。…彼等はまだ人間的。ほんとうのEXは…」

    わたしなんだよ,と寂しく笑った。
    でも,と続ける。

    「わたし一人なら,孤独のまま憎みつづけたかもしれない…でもね,妹がいるんだ」

    初めて聞く。
    ちょっと恥ずかしそうに,エルは頬を緩める。

    「あの娘はさ。皆が一緒に笑って過ごせる時間が大好きで,わたしもあの娘と,そしてあの頃の皆と一緒にいれれば,ぜんぜん寂しくなんか無かった」

    例え差別されてたとしても,暖かい場所があったから。帰れる家があったから。
    懐かしむ表情で続ける。

    「でもあの日。突然住んでいた場所が燃えて,家族が死んで,隣のおばさんも,向かいのおじいさんも,皆殺されちゃった」

    生き残ったのは,EXだった私と妹だけだった。
    そう呟き,もう一言。

    「テロだったの」

    10年ほど前,この都市の近郊の街で起こった大規模テロ。
    その時の主犯格グループが,今のリヴァイアサンの前身の武装集団だったと言う。

    「誰も居なくなって,私と妹で街をさまよって…誰も,助けてくれなくて。」

    数日間。
    彼女は傷を負った妹を抱え,自身も背中に大きな傷を負いながら助けを求めていたが,誰一人手を差し伸べるものは居なかった,らしい。
    死に瀕した自分と妹。誰も手を差し伸べてくれない。
    ――EXと言う,それだけの理由で。

    結局,救援に駆けつけた部隊――エルの養父,ハーネット卿が率いていた――に救助され,一命を取りとめたと言う。

    「悔しくて,憎くて! でも,あの子が…」
    『だめだよ,姉さん…皆,自分の事でいっぱいなの…わかってあげよ? ね』

    その言葉で,わたしは誰彼憎むのは止めたの。
    そう,優しい表情で言う。想い出なのだろう…とても大切な。

    「だから,わたしは。わたし達を受け入れてくれる世界を…わたし達(EX)が困っていても助けてくれる,ほんのちょっとの余裕を作るために…。」

    EXが,社会の役立つと言う事を証明するために。
    今,社会を徐々に脅かしつつある"自分達の同朋"(EX)や,王国の敵と戦う決意をした。

    ――遠いかもしれない,辿りつけないかもしれない。
    でも,そんな未来を目指して。


    自己中心的,だよね。とエルは笑った。


    私は――そうは思わない。

    「良いんじゃないかな」

    自然と出た声は,エルを肯定する言葉だった。

     ▽  △

    驚いた表情で,ゆっくりとこちらを向くエルに向かって私は微笑んだ。
    いつもの笑顔で。

    「エルがそう考えてるなら,迷う事無いよ。決めたなら振り向くな!…今まで戦ってきた人達に,失礼じゃない?」

    そう言って,ニッと笑う。
    エルは自分を全部話してくれたのかもしれない。なら,私も出来うる限り応えなければ――。

    「居場所を作るためなんでしょ? 要はさ。 そのための戦いなら遠慮するこたーないよ。精一杯やれば良い。私も――エルと,友達と仲間と。みんな一緒に居れればって思うもの。」

    …だって,友達じゃない?

    そう言って,私は泣きそうなエルを抱きしめ。
    その頭を優しく撫でながら,その場を動かなかった。

    何時までも。何時までも――。



    月が見下ろす秋の街。
    変わったようで,やはり何も変わらないのは――いつもの事か。
    仮初の友情が新しい想い出に変わったのは,常ならぬ事ではあったが――


    優しく。
    月が,微笑んだ気がした。



    >>終章へ
引用返信/返信
■32 / ResNo.13)  ★"蒼天編"終章
□投稿者/ サム -(2004/11/08(Mon) 23:16:04)

     ◇ 終章 ◆


    その日。
    私とエルリス・ハーネットは,改めてその友情を交し合った。

    でも,そのすぐ後日彼女は学院を辞めた。
    …私はなんとなくそれを予感してはいたけど,何も言わずに去っていったエルを少々恨んだりもした。


    数日後,何の前触れも無く届いた1通手紙。
    それはエルからのものだった。

    内容は何やら暗号めいた文章構成だったが,この街のこの学院にきた理由が軍の潜入工作の一環と,養父であるハーネット卿の根回しによる束の間の休暇みたいだった,との事だった。

    ここでの半年の想い出は大切にします。
    これからも元気でやって行きます,だから…心配しないで。

    そう結んで,エルの手紙は終わっていた。


     ▽  △


    結局,あの日あの夜私がそこに行った事は,何か意味があったのだろうか。
    何も考えずに行った行動は,結果としてエルとの友情を深める事にはなったとは思うけれど,実際に私がした出来た事は…ただ,厳しい現実を見せつけられた事だけだったのだから。


    私は思う。
    一人戦うエルリス・ハーネットを。
    光明の見えない,道無き道を行く親友を。

    「何で,こう…一人でやろうとするかな。」

    道は長く険しい。
    エル一人で歩ききることは難しいんじゃないのかな?
    なら――私のする事は一つだ。

    「行くぞ我が道エリートコース! 夢は大きく果てしなくっ…てね。待ってなさい,エル」

    私は不敵に笑う。

    「今に追いついて,とびっきりのプレゼントをしてあげるから!」

    だから。






    「また何時か。…どっかで会おうね」






    今はまだ,サヨナラは言わない――





    >>>"蒼天編" END
引用返信/返信
■33 / ResNo.14)  後書き
□投稿者/ サム -(2004/11/08(Mon) 23:22:51)
     ◇ 後書き ◆

    こんにちは,こんばんは,おはようございます。サムです。

    此度は"蒼天編"に御付き合い頂きありがとうございました。
    楽しんでもらえたのか甚だ不安では有りますが,無事投稿しきれたのでとりあえずホっとする事にします。…トラブルは多々ありましたが(汗

    当初短編だったはずなのに,どうやりくりしてもあの容量にしか収まらなかったのですが,まぁそこは僕の修行不足だと思ってこれからも精進しようかと思ってます。

    感想にレス付けたときにも言ったのですが、"私"が誰なのか,とか"蒼天編"の蒼天とは?という疑問も有るでしょうけれど,実は投稿している作品中では明かされません。
    ご了承を(笑

    しかし,蒼天の由来くらいはあります。
    400万HIT記念のユウさんの投稿したエルリス・ハーネットを本家・リバーサイドホールにてグラニット様が掲載したときの紹介文に,"蒼天のエルリス"と。
    僕:「へぇ〜…蒼天か。」
    ここで,エルリス=蒼天が僕の中で決まりました。
    特にタイトルが決まらなかったと言うのも有るのですが,まぁ,蒼天編てのは良いかもと思いそのまま自分の中にGOサインを出し,決行にいたりました。

    まぁとりあえず。
    エルリス嬢を中心として,ユウさん作のオリジナルキャラを駆使したSS企画はまだまだ始まったばかり。先鋒は切らせていただきましたが,後から来る戦友たちにも期待しつつ,これにて"蒼天編"を閉幕したいと思います。


    最後に,企画発案者のグラニット様,プロデューサーの黒い鳩様,各種掲示板を用意してくださったKittKiste様,企画板で討論しあった戦友の皆様,そして読んでくださった全ての方々に深く感謝を。
    これからも関わっていくとは思いますが,ありがとうございました。

    それでは,また何処かで。

引用返信/返信

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■記事リスト / ▼下のスレッド / ▲上のスレッド
■2 / 親記事)  ★先行公開 ◆予告編◇
□投稿者/ サム -(2004/11/05(Fri) 12:54:45)

     ◇ 予告編 ◆

    "私" と エルリス・ハーネット が送るほのぼの(?)学園外ストーリー!


    エルも私も学校――王立総合学院に籍を置く女子学生で,歳も同じく18歳。
    同じ戦技科に学ぶ学友にして親友だ。

    日々を訓練と勉学で過ごしている将来のエリート!
    がんばれ私! 
    そして私よりもっとがんばれエルリス・ハーネット!
    寝坊して朝礼遅刻してばっかりしてる場合じゃないよ!
    一緒に罰を受ける私の身もちょっとはかんがえろー!


     △ エルリス・ハーネット  ▽

    ええと,私達の暮らす世界の成り立ち…これを読めば良いんですね? カサカサ(カンペを渡されてる

    私達現代人は,日常を送るにしても非日常を送るにしても共通しているところがあります。
    そのどちらも,魔法を切り離して考える事は出来ない,と言う事らしいですね。

    魔法,それは即ち技術。
    火を起すのも,ケータイの充電も,果ては爆弾のスイッチも全て魔力を介さなくてはならないのです。
    現代において,科学技術と共に複雑に絡み合いながら発展してきた魔法技術。
    そのニ柱で成立つ私達の現代社会――魔導文明。
    始まりは,おおよそ3000年ほど前。
    一人の"起源"と呼ばれる超天才賢者がもたらした,全く異質な法則系が魔法の発端だったらしいとの事。
    同時に考案した,現象を起すための3000数個の基礎駆動式,それを組み合わせた魔導機構。効果を増幅する特殊金属(ミスリル)と魔力反応流体金属(エーテル)により,魔法技術が確立しました。
    現存するすべての魔法技術の基礎は全てここにあります。

    時間と共に技術はより精錬されます。
    比例するように力は細分化され,その効果・精度を高めた。
    人間の活動領域が広がるにつれ技術も各地に分布し,特色のあるものへと更に進化しました。
    元を辿れば同じ技術。
    それらは時間の経過と共に世界的に広がっていきました。

    あ、これでいいんですか? …そうですか,では失礼しました。(ぺこり


     ◇ 本編序章(抜粋) ◆

    現在魔導暦3021年。
    季節は秋にさかかり,それでも私達は変わらず日々を過ごしてる。
    昨日も今日も,変わらない日常。
    きっと明日も変わらずに,私はエルを蹴りを越す朝を迎えるのだろうと少々苦笑。

    変わらない…でも,変わらずにはいられない,そんな日を迎える時が来る。
    そう,そんな小さな終わりを告げる日はすぐそこまで来ていた――



     ▽   △


    "おばあちゃん"から私が譲り受けた腕輪。

    魔法を使えないエルリス・ハーネットの秘密。

    私が,そしてエルリス・ハーネットが望むものは…!?



     ▽   △



    特別短編SS"蒼天編"

    coming soon...



引用返信/返信



■記事リスト / ▲上のスレッド
■3 / 親記事)  なんだか分からないSS
□投稿者/ 犬 -(2004/11/05(Fri) 14:41:47)
    2004/11/05(Fri) 14:44:01 編集(投稿者)

    誰が主人公で結局何なのかワケわかんねぇSSです。
    魔法バトル混在。こんな感じかなぁという試し書き(本家規定容量オーバーとも言う)。
    引き立て役のザコであるハズの主人公が目立ちまくり。ハーネット姉妹影薄い( ̄□ ̄;)!!
    最後が「からくり」のジョージみたくなっちまったのは失敗。
    魔法その他に関しての説明が中心になるように書いてますので、参考になれば幸い。
    ※世界地図と魔法遣いの境遇については妄想。


    ・・・・・・・・・・




    簡単なはずだったんだ。

    3日ほど張り込んで掛かった獲物は、たった2人でのん気に歩いてやがる芋娘。
    ハ、芋かどうかなんざ見ただけで分かったさ、なにせ髪も瞳も青いし、黒いタイトアンダーに白の薄衣だけなんて軽装で歩いてやがんだ、あのクソ寒い氷の海の田舎モンに決まってる。
    だから、簡単なはずだったんだ。
    あんなド田舎のヤツが魔法なんざ使えるわけがねぇ。使えても護身なんざ出来るわけがねェ。
    だってそうだろ?
    スノウなんて極北出身なら十中八九、属性は氷だ。つーかあのクソ寒い中じゃ氷の性質じゃなきゃ俺なら絶対暮らしていけねェ。
    で、あの娘はパッと見じゃ媒介を持ってなかった。媒介は装飾品だし霧散するマナを留めるモンだから目に見える場所に付けるモンだ。
    だから、田舎モンだし媒介も持ってねェから、魔法使えねェって考えたんだ。
    そうだろ?
    氷の属性なんて、俺に言わせれば汎用性がねェ属性ランクのトップランカーだ。極冠地方のクソ寒い場所ぐらいでしか使えねェ。
    いや、そうでなくったって魔法を使えるヤツならどんなヘタレでも自分の属性の媒介は絶対持つモンだ。これは掟に近い常識だ。
    だから、媒介を持ってねェこの小娘は魔法を使えねェはずだったんだ。
    だからよ、お人好しの学者を騙して奪った高ェ媒介使って、ちょいと魔法見せて脅してやって、金目のモン奪ってひん剥いてオシマイ。
    魔法を生業にするにゃそこそこの俺だがよ、それでもフツーのヤツよりよっぽどエーテル高ぇし制御出来るし媒介もあるし、そんじょそこらのヤツに負けるはずもねェんだ。
    そう、負けるハズがなかったんだ。

    それが、何だコレはよ。

    「セリスちゃん見て、強盗さん!これでわたしたちも遂に立派な旅芸人入りね!」

    「姉さん、わたしたち芸人じゃ………それに襲われたからって立派じゃないと思う」

    ありえねェ。ふざけてる。何がふざけてるって―――

    「くそっ!」

    エーテル出力を臨界まで上げる、細心の注意を払ってエーテルを制御。媒介から魔力を抽出して構成式の元に再構成。
    右腕に構成式が浮かび上がる。構成式は炎弾式。当たれば相当の火傷を起こす中位の式だ。
    双子らしい芋娘の姉が俺のエーテルを察知してエーテルを制御し始めるが、遅ェ。
    魔法遣い同士の戦いは読み合いだ、特にエーテルで劣る奴ァ、常に相手の一歩先を行かねェと何にも出来やしねェ。
    その点、この小娘は戦い慣れしてねェ。俺に劣るくせに今頃制御し始めちゃあなァ。
    俺は余裕で再構成を完了、全工程で3秒ほど、炎熱の砲弾を手加減無しで撃ち出す。


    が。

    あっさりと氷の壁に阻まれる。双子らしい芋娘の姉の方の魔法だ。

    「――――嘘だろ」

    信じられねェ。ありえねェ。ふざけてる。何がふざけてるって―――そう、魔力だ。
    ここは草ッ原のド真ん中だ。あるとしたら土か風か草木しかねェ。そりゃあ水だってあるだろうから氷だって無理じゃあねェが、高が知れてる。
    それに、あの小娘のエーテルは感覚的・構成速度的に言って俺より低いんだ、そこら辺から氷の魔力を集めてくるなんざ絶対無理だ。
    水を集めて氷に変換するなんてのもあのエーテルじゃ難しいだろう。体内の魔力使うにしたって一回ちょこっとだけが限度だ。



    でも、あの小娘は魔法を使いやがった。媒介も使わずに。何度も。俺に勝る速度で。しかも、氷のだ。



    「―――ありえねェ」

    そして今、俺は俺の渾身のエーテルで造り上げた魔法を悉く防がれている。
    しかも、俺はエーテルを使いまくって息が上がってきてるってのに、俺以上のエーテルを消費してるはずのあの小娘は余裕もいいトコだ。
    つーか、俺にエーテルで劣るクセになんで俺より速ェんだ?
    俺の持つ媒介はかなりの高純度、これに勝る媒介なんてそうはねェし、あってもエーテル差を覆せるほどのモンとは思えねェ。
    それに、そもそもあの小娘は媒介なんざ持ってねェ。
    なら、それにあの構成速度なら、体内の魔力を使ってるとしか思えねェが魔力の体内備蓄量なんて雀の涙、俺でもマッチ程度の火が出せりゃ上々だ。
    だが、なんだありゃ、あの氷壁はあの小娘よりデケェじゃねェか。
    ハ、どういうことだ?
    ありえねェ。ありえねェ。ありえねェ。
    常識を超えてる理論を超えてる人知を超えてる――――!

    「さて、強盗さん」

    圧倒するようなエーテルも何も感じねェ双子の小娘共の姉は、心底穏やかな口調で、まるでイタズラした子どもを叱るみてェに話しかけてきた。

    「貴方、ベルナルド・マイヤーは五日前の17日に雨の海沿いの街プラトーで、魔科学者ニール・パーカー宅から火の媒介を強奪した。相違無いですか?」

    ―――ああ、なんだ。そういうことか。
    こいつらは俺に狙われたんじゃなくて、俺を狙ってたわけか。引っ掛かったのは俺の方だ。
    クソ、だから追剥だの盗賊だの言わずに強盗って言ったのか。

    「間違いねェよ。ハッ、上手く逃げ遂せたと思ったんだがな………世知辛い世の中だよなァ」

    俺は悪態吐きながら地面を蹴る。
    本当に、こんな小娘に追いかけられるなんて、世の中マジで上手くいかねェもんだなァ。
    あークソッ、どうせ追っかけられるんなら、好かれて追っかけられてェってのに。

    「わたしたちが頼まれたのは媒介の奪還だけです、捕縛までは頼まれてません」

    「じゃあ、返せば見逃してくれるってか?」

    「と言うより、女の子二人じゃ男の人運べませんから」

    小娘は温和に微笑んだ。
    交渉のつもりかクソッタレ。ガキのクセしてなかなか肝が座ってやがる。

    「………チ、しょうがねェな」

    舌打ちして媒介を外しながら、妹の方へゆっくりと歩く。
    あぁ、しょうがねェ。
    真っ向勝負じゃ勝てそうにもねェ。

    「俺も捕まりたかねェからな。ホレ、あー………エリスちゃんだっけか?」

    「セリスです」

    「おう悪ィ、セリスちゃん。渡しゃいいんだろ?ホラよ、返すから逃がしてくれよ」

    媒介を持った右手を差し出す。
    姉妹揃って警戒するように見てたが、信用したのか妹がおずおずと媒介を受け取ろうと手を伸ばす。
    ハッ、肝座ってるクセに経験が足りねェというか甘ェというか。田舎モンだけあって人が好いなァ。

    「――――あっ!?」

    やっぱ小娘は小娘、気づくにゃ数瞬遅ェし筋力もねェ。
    俺は差し出された手を掴んで一気に引き寄せ、後ろに回って手首を捻り上げる。

    「セリスちゃ―――」

    「オイオイ待て待て。言わねェと分かんねェか?」

    姉が動く前にナイフを取り出し、姉にナイフを見せつける。本来すぐ殺せる首筋に付けるのがセオリーだが、まァいい。
    なんだかんだで姉の構成速度は俺に僅かに勝る程度、少なくとも姉が魔法を構成するより俺の腕の方が圧倒的に早ェ。

    「将来考えると勿体無ェがな。交渉だ、せっかくの綺麗な顔に傷残し」



    その瞬間。

    世界が、凍った気がした。




    「――――ゥッ!?」

    瞬間的に感じた、それだけで気絶しそうになるほど超越的なエーテルの奔流。
    最悪なまでの悪寒。魂まで凍りついてしまうほどの、真実、氷のような殺気。
    ゼロコンマの一瞬の怯みは死を確定するほどに遅すぎたらしく、気づいた時には、俺の右腕は凍っていた。

    「あ――――、が―――!?」

    俺の右腕の周りが凍って、動きを封じたわけじゃねェ。
    信じられないことに、指先から肩口に至る右腕そのものが凍っていやがった。

    「姉さん!」

    妹が叫ぶ。
    見ると、姉が頼りない足取りでフラフラしていて、ついにはフラッと倒れ―――

    「姉さんっ!!」

    俺の手から離れた妹が姉の方に駆け寄る。
    まさか―――姉がやった、のか。
    この距離で妹を傷つけずに俺の右腕だけ?一瞬で?生体の凍結なんていう難式を?
    まさか――――チィ、ともかく、よく分からねェが姉は御しきれねェバケモノらしい、甘ェのはこっちだったか―――!

    「ぐ―――!」

    エーテル出力を臨界へ、媒介より魔力を抽出、再構成、枯渇寸前までエーテルを放出し続け右腕を急速解凍。
    激痛のせいで散漫になった集中力のせいで制御が乱れる。右腕のいたる箇所が火傷と凍傷と壊死―――でも動く!
    俺は姉を助け起こしている妹の所へ走り、ナイフを―――

    ヒュゥッ!

    ―――振り下ろす前に、俺のこめかみ辺りの髪を切り裂き、音を空気を切り裂き、何か速すぎて見えねェものが通り過ぎて行った。

    「―――は?」

    「動かないで」

    妹は人差し指で俺を狙うかのように指し、言い放った。
    が、ハイソウデスカと止まるわけがねェ。
    俺は躊躇いもせずに右腕を―――

    ゴギャッ

    ―――腕が、ヤベェ方向にひん曲がった。

    「――――」

    ハハ、狂わんばかりに痛ェのに、悲鳴すら出ねェ。
    それも当然。
    なんせ今俺の目の前にいる妹のエーテルが、そりゃあもう信じられねェくらい馬鹿デケェ。

    「――――」

    ハ、どうしてこんな馬鹿デカイエーテルに今の今まで―――いや、あァ、デカ過ぎて感覚が麻痺して気づかなかっただけか。
    今自分の周囲にある魔力を、属性も式も全て無視して全魔力、エーテルに物言わせて強制的に固めて撃ち出す。確かに理論的にゃ可能だが、俺でも小虫に傷一つ付けられやしねェ。

    「てめぇ――――姉もそうだが、てめぇ本当に人間か――――?」

    妹はきゅっと唇を噛んで、俺を睨んだ。小虫すら慈しみそうな目のクセに、どこか死神のようなオッド・アイ。

    俺は青ざめるほどのエーテルに圧倒されて頭がクリアになったせいか、周りがよく見えるようになった。
    そうして見れば、俺の周りの地面は拳大の穴だらけだった。
    どうやら、エーテルがデカ過ぎて狙いが正確じゃねェらしい、数撃ちゃ当たる論理でやってくれたようだ。
    まったく、腕に当たったからまだマシだったが、当たり所が悪けりゃ即死だぞ?

    「動かないでください」

    妹はそう言い放った。
    ふと、ああやって人差し指を向けてるのが、静かの海の最新魔科学品の銃ってヤツに似てるなァなんて思った。
    しかし、妹はよく見りゃ腕は震えてるし顔は真っ青だ。それに、やっぱり綺麗な目ェしてる。ハ、この娘は人を殺せねェ。

    「――――オーケオーケ、分かりましたよお嬢さん」

    だが、妹思い姉思いの姉妹パワーにこれ以上立ち向かう気にゃならなかった。
    この娘は殺せねェが、だからといって引き鉄を引けねェわけじゃねェだろう。
    姉がヤバけりゃ絶対に引きやがる目だ。死ぬ死なないはその後の話。こういう手合いは相手にしたくねェ。

    俺は数歩下がって両手を、あァ右腕は半分死んでるから左腕だけ上げ、媒介を妹の足元に投げる。
    妹はさっきの件もあって目線を逸らさなかったが、媒介のない俺にもはや反撃の余地がないと思ったのか、媒介を拾い上げる。

    「――――ッカアァァ、痛ってぇ…………」

    マヒしてた激痛がぶり返してきて、俺は立ってられなくて座りこんだ。
    右腕を見る。火傷に凍傷に壊死に粉砕骨折。よくもまァやってくれたもんだ。右腕が死んでもおかしくはなかったな。
    ったく、こっちァ相手が芋臭いまでに純朴そうな可愛い娘ってコトで出来るだけ傷つけないように加減してたんだが。ふん、相手が悪かったな。

    妹は少し後ろめたいのか、まだ警戒してるのか、半々といった感じでこっちをちらちら見ながら、姉を介抱していた。

    「あー、大丈夫だ。今さら襲ったりしねェし、傷もそうヤベェもんでもねェ。それに、治療はわりと得意なんだ」

    虚勢を張ってみる。実際、ベッドルームならともかく今さら襲うつもりは毛頭ねェ。
    あと、確かに治療のイロハは心得てるが、正直、この右腕は当分使いものにならねェ。
    ヤベェなァ、逃亡生活にこれはいけねェ。

    「それより、姉さんは大丈夫か?」

    「あ、はい。………大丈夫だと思います」

    大丈夫じゃねェな。察するに………病気か、それに近いモンだな。
    よく分かんねェがこの姉妹はワケありだな。なるほど、極北の人間が雨の海まで出てきたのはそれが理由か。
    大方、嵐の大洋か静かの海に行く船に乗る条件として、あのドケチの学者に頼まれたってトコか。
    ったく、こんな腕の細ェ女の子二人に頼むなよあの腐れ野郎。

    「あの…………」

    妹が話しかけてきた。

    「どうして、こんなことを…………?」

    自然に、笑ってしまった。
    どォでもいいだろうに。それに、さっきまで何してたよ俺?
    あァ、まァ聞かれた以上は答えるもんだな。えーと、こんなことってアレか、媒介パクって追剥みたいなマネのことか。

    「そうだな………嬢ちゃんらは田舎で育ったんだろうから分かんねェかも知れねェが、
    都市部じゃあエーテルが高けりゃ魔法遣いであることを強要されんだよ、社会からな。
    おかげで他になりてェもんになれやしねェし、魔法遣いはほとんどボランティアの便利屋家業、万年貧困生活さ。
    それに、エーテルが高くても使えばバテるってのにヤツらは気にかけもしねェ。分かるか?魔法遣いってのは都市じゃ実質最下層の人間なのさ。
    ………最近、魔科学も発展してきたしな。街で暮らす分にゃ魔法遣いは不要な時代だ。教会が必死こいて平均的な魔法を超える魔科学は禁忌ってしてるが時間の問題、
    今はもう魔法遣いが尊敬と畏怖を集めることは無ェ」

    「だから………ですか?」

    「まァ、そうだな。俺だってやりたいことはあった。せっかくのエーテルって天賦の才を身勝手に使われるのもご免だ。
    だから、なんとか路銀稼いで、俺のコト誰も知らねェ遠い街に行ってエーテルひた隠しにすればってな」

    俺は立ち上がる。
    路銀は既に稼いである。他の街で生きるにあたってもう少し稼ぎたかったが仕方がねェ。

    「嬢ちゃんらもワケありだろ。気をつけろよ。人間ってのは色々あるからな。みんながみんな良い人じゃねェ。心底救えねェような腐ったヤツだってマジでいやがる」

    俺は背を向ける。
    あァ、しっかし、こんだけ器量の良さそうな娘なんだ、写真くらい撮っときたかったなァ。

    「あー………名前、ちゃんと教えといてもらえるか?」

    背を向けといて正解だったな。照れくせェ。つーか右腕の痛み堪えるのそろそろ限界だ。顔に出る。

    「………わたしはセリス・ハーネット。姉はエルリスです」

    「了解、覚えとくよ」

    「あの…………ベルナルド・マイヤーさん」

    歩き出そうとすると、また声をかけてきた。
    振り向かずになんだ、と言う。

    「あなたがしたかったことって…………」

    「また会ったら教えるよ」

    夢の段階で話すのは俺の主義じゃねェ。
    俺は根性で右腕を上げて振りつつ、歩いてく。

    「じゃあな、セリスちゃん。エルリス姉ちゃんと仲良くな」




    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



    しっかし。

    あァ、さて、どうするか。
    言っちまった以上、今度会うまでに形にしとかねェと俺自身に対してもカッコがつかねェ。
    とりあえず、そうすぐには会わねェような遠い街でも行ってみるか。

    右腕がヤバイが、まぁ大丈夫だろう。
    アレで女の子二人で旅してんだろうに、俺がへばってちゃそれこそカッコつかねェ。

    それにしても…………どうやら俺、セリスちゃんの目にやられちまったらしい。
    …………結婚してェ。
    そうだな、また会えて、俺が夢形にしてたらプロポーズでもすっかなァ。
    運命論者じゃねェけど、この広ェ世界でまた会えたらさすがに運命だろ。
    あ、ヤベ、俄然やる気出てきた。
    よし、世界に俺の名前轟かせてやる。

    そん時ゃ会いに来てくれよ。…………なぁ?



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