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■427 / 親記事)  戦いに呼ばれし者達
□投稿者/ パース -(2006/10/11(Wed) 21:59:28)
    2006/11/07(Tue) 06:23:26 編集(投稿者)
    2006/10/12(Thu) 13:53:55 編集(投稿者)
    11月7日タイトル変更
    (何で今さら・・・・)

    まえがき。

    ハイ、というわけで「前向きな死者と後ろ向きな生者」、昭和さんに頼まれて(←この辺責任のなすりつけ)続編を書くことにしましたが、ようやく世界観設定が完成しましたので本編というか続き、というかさらに前の話を書きました。

    モチーフは完全に北欧神話です。
    ゲルマン民族やヴァイキング達に伝わるあれです、散文エッダやニーゲルンゲンの指環やらで有名なあれです。
    が、武器ばかり登場していて有名どころの神サン(オーディンとかトールとかロキとか)は、名前だけしか出ません、そんでもって登場人物は最初に一気に書いちゃう以外はたぶん出しませんので(出ても精々ちょい役)覚悟してください(何の覚悟だよ)。

    ってか、本来がただの短編であったため、本編もさっさと終わらせましょうか、ってのが作者の考えなので、結構バタバタ人が死んじゃったりしますんでごめんなさい。

    ちなみにこの作品、戦乙女ことヴァルキリーがまんま悪役ですので、ヴァルキリープロファイルとか好きな人にはお奨めできないかも知れません、そのへんはご自分で判断下さいませませ。


    ロキパートでの主な登場人物

    千里塚 陽(せんりづか よう)18歳♂ 所持武器:レーヴァテイン(神剣)
    四ノ原 影美(しのはら えいみ)18歳♀ 所持武器:ロキの剣(魔剣)
    桐野 狼亜(きりの ろあ)15歳♀ 能力:フェンリル
    ゲイレルル 槍を持って進む者 能力:ヴァルキリー




引用返信/返信

▽[全レス26件(ResNo.22-26 表示)]
■538 / ResNo.22)  ロキ編 決戦
□投稿者/ パース -(2006/11/25(Sat) 22:33:31)
    「げほっ・・・・・・・・・げほげほっ・・・・・・・・!」


    目が覚めると同時、体中の痛みで思わず咳き込む。
    当たり前だ、影月の時にいくらか回復したものの、所詮「いくらか」だ、フェンリルにやられた傷全部が回復したわけじゃない。


    (・・・・・・・・・・・・・・・無銘刀・・・・・・・・・)


    頭の中で呼んでみるが、半ば予想通り返事はない。
    手元を見つめて武器を呼び出す、現れたのは最初の頃の黒い剣、『影月』ではない。


    (借りが出来ちゃったなぁ・・・・・・・・・・)


    あの時起こった出来事、それは、無銘刀が影美の魂の半分を吸い取り、そして無銘刀の中の誰かが影美の中に入り込み、ゲイレルルに連れて行かれる、ということだった。
    無銘刀に意識を集中する、その中に、影美の半身が入っている。
    そのせいかどうか知らないが、いつもよりも動きがよい気がする。


    「・・・・・・・・・よっ・・・・・・・っと・・・・・・・・・・・痛たた・・・・・・・・」


    体中が痛いが、何とか起きあがる。

    さっきから感じている、近づいてくる気配・・
    ゲイレルルが最後に言っていたことを思い出す。
    確か、「魂を返して欲しければ最後の神具の所持者を倒せ」だったか。


    「それって、持って行かれたのが私じゃなくても返してくれるのかな・・・・・・・・?」


    黒剣もとい無銘刀もとい魔剣ロキ、まぁ呼び名などどれでもいい、それを構える。
    そして、
    影美の対面に一人の少年が現れる。










    陽は、異空間の中を歩いている。
    足やら頭やら、フェンリルにやられたせいで体中が痛いが、歩けないほどではない。


    (これで、最後・・・・・・・・・次の相手さえ倒せば、ロアを助けることが出来る・・・・・・・・・)


    陽は、剣を握りしめた。
    それは、先ほど、フェンリルと戦っていたときの大剣ではない、戦いが終わって気がついたら元の普通の剣の形に戻っていた。


    どうやら、『炎神』になるためには何かしら条件があるらしい、その条件はわからない―――が、陽の気持ちは一つだった。


    (どんなことがあっても、必ず勝つ・・・・・・・・)


    それだけのために、陽は歩いている。
    最後の相手の気配・・も、段々と近くなっている。


    「待ってろ、ロア」


    見えた、最後の戦いの相手。
    自分と、同じくらいの背格好、年齢も同じくらいであろう少女。
    そして、決戦が始まった。










    二人とも、はっきり言って無茶苦茶にボロボロだった。
    服はあちこち破れ、体中傷だらけの血だらけ、そして泥まみれだった。


    「あたしは影美、四野原 影美、魔剣ロキの所持者・・・・・・・・あなたは?」


    影美が、まだ少し離れている相手に対して言った。


    「陽、千里塚 陽、神剣レヴァンテインの所持者だ」


    陽は、影美に声を返す。
    影美が剣を構えていることに気付き、陽も剣を構える。


    「へへ・・・・・・・・・最後が、君みたいなわりとまともそうな奴で良かったよ、あたしがこれまで相手にしてきたのってみんないきなり戦闘になったのばっかりだったから、変な狼にも襲われるし」
    「俺もまぁ、似たり寄ったりだな」


    二人の目に宿るモノ、それは決意。
    軽口を言いながらも、決して退かない、という意思の表れ。


    「あたしは、どうしてもヴァルキリーに取られた物を返してもらいたいから、だから戦う」
    「悪いけど、俺も命を賭けても手に入れなきゃなんない物だから、退くわけにはいかない」
    「同じだね・・・・・・・・なら、しかたないっか」
    「ああ」


    そして、会話がとぎれて、二人が同時に動いた。










    二人は同時に動いた。


    影美の姿が影の中に没し、陽の姿がかき消える。


    「!?」
    「!?」


    驚いたのは、二人一緒だった。
    陽は、先ほどまで影美がいた場所に出現する。
    一瞬で、影美との勝負を決めようとした陽だったが、そうはいかなかった。


    「そこっ!!」


    影美は、頭上に陽が現れた事に一瞬驚きを見せたものの、すぐさま攻撃を開始する。
    直後、陽の足下から、無数の影の茨が突き出し、陽にからみつこうとする。


    「くっ!!」


    陽は、思わず後ろに下がろうとしたが、その背後からも影の枝が突き出す。
    それを避けられないと踏んだ陽は、剣に力を込める。
    すると、剣が光を放ち、それによって枝はいともたやすく切り落とされる。
    さらに、数本の茨を切り飛ばしながら陽が地面、つまり影美が潜む影を貫こうとしたが、陽の剣が地面に突き立つのと、影から影美が脱出したのは、ほぼ同時だった。










    「っ!『影兵』、行きなさい!!」


    影美は、影から脱出するとすぐさまに、影兵を呼び出す、影美の周辺の影が動き出し、兵隊の姿を作り上げる、その数30ほど。
    そしてそれらは、一斉に陽目掛けて殺到した。


    (・・・・・・・・こいつ、強い)


    30ほどの影達はすぐさま陽に接近、攻撃を開始するが、一体が剣を振りかぶった瞬間に斬り裂かれ、別の一体がそれを横から切ろうとして真っ二つ、さらに別な一体が足払いで転ばされそこにさらに別の一体が、また別の一体がやられてゆく。
    どうやら影兵では勝負にならなそうだ。
    その上、先ほどの能力、飛んでもない移動能力、それから剣が光ったあとこちらの影をやすやすと切り飛ばしたあれ、どちらも強力ではっきり言ってこっちの方が分が悪い。
    影美の能力は小技中心だ、大技では向こうのが強い。


    (だったら・・・・・・・・)


    影美はある考えを持って影の中に自分を沈み込ませてゆく。










    (うっとおしい・・・・・・・・・!!)


    さらにまた一体、斬り裂きその黒い体が消滅してゆく。
    先ほどから、明らかな雑魚を相手にしていたが、それらを全て『力』を使うことなく倒していた。


    (だが・・・・・・・・次はどこから来る?)


    しかし、相手、影美の姿がどこにも見えないことには先ほどから気がついていた。
    兵隊の数は残り5体ほどだが、それらが動くたびに影が出来たり消えたりするため、影美の居場所が特定できない。


    (兵隊が全滅すると同時に出てくるか?別にいつでもいい、こっちはそれを突破するまでだ!)


    また一体を斬り倒す、残り4体、そいつらは陽を囲むように移動する。
    例えどれほど弱くとも、四方から一斉に攻撃されればどうしようもないことは確実なので、陽は右後ろに移動しようとしていた影に肉迫、これを斬る。
    残り3体、2体が同時に動き、それにわずかに遅れて1体が動いた。


    「邪魔だ!!」


    正面の2体を輪切りに、残る1体を斬ろうとして、


    (―――――!?)


    その姿を見失った。
    その姿を探す間もなく、


    (―――――後ろ!?)


    本能的に位置を察知、ほとんど何も考えずに切り払う。
    そして違和感。


    (本体はどこだ!?)


    さらに陽の背後、つまり先ほど敵の姿を見失った方角にまた一体の兵隊が現れる。


    (なんだ?いつでも背後に出せるなら初めからそれをやればいいのに・・・・・・・・・!?)


    それもまた一刀のもとに両断――――しようとして、それが罠だと気付いた。


    「残念!ハズレ!!」


    陽がその影を両断した直後、先ほど違和感を感じた影、それの中から影美が現れた。
    陽は影を斬るために腕を伸ばした状態、つまり隙だらけ、それに対し影美が剣を構えて突っ込もうとした。


    「レーヴァテイン!!」


    陽は『力』を解放、影美のさらに背後を取った。
    そして、










    (かかった!!)


    影美のすぐ後ろに陽が出現するのを、影美は影の中から・・・・・、見ていた。
    今、陽が背後を取った物、それは影美が影を操作できる限界まで似せて作り上げた偽物だったのだ。
    陽がどれだけ強くとも、『力』を使った直後ならば、確実な隙が出来る。
    陽が、影美そっくりの偽物を斬り裂いた、


    (―――――もらった!!!)


    瞬間、崩れ去った影美そっくりの影も含めた、影美が操作できる全ての影から、一斉に陽目掛けて刃が飛び出した。


    ―――ズドドッ!!


    「ぐうっ!!!」


    それらの刃は、確実に一瞬油断した陽の足を次々と貫いてゆく、これで陽は地面に縫いつけられた。
    影美が、確実に絶対のトドメを、さそうとしたその瞬間、陽が影の枝を掴んだ。


    「捕まえたぞ・・・・・・・・!」
    (・・・・・・ッ!しまっ!!)


    どれだけ、姿が見えなくとも、影美が操作している直後、その影の中には、影美自身がいる。
    陽が剣を地面に突き刺そうとし、影美が影から脱出しようとした、しかし今回は、陽の方がわずかに早かった。


    ―――ザシュッ!!


    初めて、影美の影から黒以外の色をした物が流れた、影美の血だった。


    「うぁっ!!!」


    影美は影から脱出しようとした直後を捕まり、右の肩に深々と剣を突きたてられた。
    影美は無理矢理陽と自分との間の影を操作し、壁を作り出し、それによって何とか距離を取った。
    十分な距離を取った直後、壁を解除すると、陽は動いていなかった。


    「・・・・・・・・ハァ・・・・・・・・ハァ・・・・・・・・痛ったいわね・・・・・!」
    「・・・・・・・・・・・・・・・・・クソッ・・・・・・・・・お互い様だ・・・・・・・!」


    影美はそれに向かって文句を言うと、陽は返事を返してきた。
    陽は両足を穴だらけにされ、影美は右腕、つまり利き手が使い物にならない。
    威力なら陽が上、しかしスピードは影美が勝る、『力』を使えば陽の方が早いが、その分反動で大きな隙が出来る、技の手数なら影美の方が圧倒的に多い。
    体格的な差はほとんど無い、陽は同年代に比べて少し背が低く筋力が無い、逆に影美は同年代女性よりは背もいくらか高く、筋力もある。


    どちらも、かなりの傷を負ってはいるが、ほぼ互角の戦いだった。


    「ったく・・・・・・・・・女に手を挙げるのに、全く躊躇しないなんて見上げた根性ね!」
    「足をズタズタにして動けなくするなんて、せこい手を使う奴に言われたくはないな」


    ついでに、口の言い合いも互角。
    しかし、どちらもここで止める気は、毛ほども無かった。


    「行くぞ!」
    「返り討ちにしてやるわ!」


    二人の激突が再度始まった。










    二人の激突は、既に5回を越えた。


    陽が突撃し、影美がこれを迎え撃ち、数回の交差の後、離れる。
    互いにもう手は出し尽くしていた。
    陽は単純に威力とスピードを瞬間的に上げるのみ、しかし反動が大きいため連続して出すことが出来ず、『力』で追いつめても能力が切れた瞬間手数で圧倒される。
    影美は手数こそあるものの、一発一発の威力は低い、そのため陽を極限まで追いつめてもその直前に『力』によって突破されてしまう。
    ようするに、どちらももはや『力』は決定打になっていなかった。


    残るは、双方共に、肉体と精神と技術。
    どちらがより長く、肉体を動かし続けていられるか。
    どちらがより強く、不屈の精神を持ち続けていられるか。
    どちらがより巧みに、相手の動きを読み、考えを看破し、相手より早く、一太刀でも多く傷付ける、その技術を持っているかどうか。
    これはもはや、そういう戦いだった。


    二人はどちらももうズタズタのボロボロ、その状態で対峙しているのはある意味滑稽ですらあった。
    これ以上、長く戦いが続けば、どのみち出血多量で二人とも死んでしまう。
    だからこそ、二人がそのとき考えたことは、全く同じものだった。
    すなわち、


    (次で・・・・・・・・!)
    (・・・・・・決める!)


    それは、決着の意志。










    そして二人は同時に動いた。
    影美は、これまでと違い、自分から陽目指し突き進む。
    陽は、これまた先ほどまでとは違い、不動のまま佇む。


    「はぁぁぁああああっ!!!」


    影美は、陽と自分との間に影の壁を作成、視界を塞ぐと同時、4つに分裂した。
    むろん、本体はただ一つである。


    そして、陽はそれでも動かないままだった。
    陽の剣は光っている、だがまだ『力』は使っていない。
    無行の位のまま、すぐ前に壁が出現したときも、さらに3つの影美がその壁の左右、上部から現れたときも、動かなかった。
    三体の影美、それらが左右と頭上から同時に剣を振り下ろす。
    それが当たる直前、ようやく陽は動いた。
    剣を前に突き出し、頭上からの一撃を受け止めると同時に半歩後ろに下がり、左右の攻撃を回避、力をわざと緩めると正面の影がたたらを踏んで前によろける、それを見送ってその後ろに蹴り、残りの2体に蹴りの体勢から回転斬り、3体まとめて斬り飛ばす、そしてその全てが偽物。
    それはわかっていた。


    陽の剣はいまだに光っている、いや、その輝きは先ほどからどんどん増していった。
    先ほどの壁が消失、その先にいた影美は剣をただ横に垂らしているだけ、ではない、こちらも剣に黒い影、それがどんどんと集まっていった。
    陽の剣は光を放ち、陽はそれと同時に駆け出す。
    影美の剣もまた黒い光、光を飲み込む闇が溢れ出し、それと同時に駆け出した。
    光がはじけ、闇が溢れ出す。
    二人の距離が狭まってゆく。


    ―――10メートル、
    ―――5メートル、
    ―――3メートル、
    ―――2メートル、
    ―――1メートル、


    「はぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああ!!!!!」
    「うぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおお!!!!!」


    二人の剣が正面からぶつかり合い、闇が爆ぜ、光が吹き荒れ、


    (――――――――――――――――――――――――――――!!!)
    (―――――――――――――――――――――――――――――ッ!)
    (―――――――――――――――――――――――――――――ァ!)




    ―――そして、何も見えなくなった。

引用返信/返信
■539 / ResNo.23)  ロキ編 幕間
□投稿者/ パース -(2006/11/25(Sat) 22:34:43)
    光で画面が一杯になった。


    明滅、暗転。
    光がないと、真っ暗で見えないように、光がありすぎても、物体を見ることは出来ない。
    画面には、何も映っていなかった。


    「・・・・・・・・・これは、また」
    「・・・・・・・・・何も見えん」


    ゲイレルル、ヘルフィヨトルは呟いた。


    「どうなったかわかるか?」
    「わかりません」


    光は、今も画面中に溢れかえり、動く物体を捉えることは出来ていなかった。


    「・・・・・・・・・まだか?」
    「もうそろそろかと・・・・・・・・来ました」


    ようやっと、光が薄れ始め、画面に何かが見え始めてくる。
    しばらく二人は、それをジーッと見ていたが、やがて、


    「・・・・・・・・・そんな・・・・・・・・・・・・・!」
    「・・・・・・・・・・・・・・失敗か・・・・・・・・・」


    光が薄れ、画面がクリアになり、そして見えた物、それは、


    二人の、陽と影美の体が剣を交えたままの状態で倒れ伏し、ピクリとも動かぬ場面であった。


    「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
    「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


    どちらも、全く動かず、一言も言葉を発しなかった。
    それは、まさに、ただの屍のようで。


    「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
    「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


    いつまで待っていても、二つの体は完全に停止したままだった。


    「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
    「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


    そして、10分が経過しても、全く二人の体が動かず、ただ時間のみが過ぎ去ったとき、ゲイレルルは首を横に振り。


    「終わりだ、今回の戦いに勝利者は無し、残った神具と今回の戦いで死んだ者の魂を持ち帰り、ヴァルハラへ帰還するぞ」
    「・・・・・・・・・・・・・・・・・はい」


    ヘルフィヨトルは、悲しげに瞳を伏せたが、やがて諦めたように頷いた。


    「わかりました、神具の回収に入ります」
    「うむ」
    「とは言いましても、先ほどのフェンリスヴォルグが暴れたことにより、大部分の神具は破壊され、それ以外はもう既に回収しているので、残っていることはあそこ」


    そういって、ヘルフィヨトルは画面を指さした。


    「レーヴァテインとロキだけです、私が行って今から取ってきます」
    「いや、お前はここにある物資をまとめて、先にヴァルハラへ行ってくれ」
    「なぜですか?」
    「なぁに、最後くらい、ヴァルキリーとして仕事をしたいのでな」
    「そうですか、わかりました」


    そして、ヘルフィヨトルは、スタスタとどこかへ歩み去っていった。
    残された、ゲイレルルは、


    「神剣レヴァンテイン、魔剣ロキ・・・・・・・・どちらもいずれは真の神々に匹敵する能力者になったであろうに、惜しいことをした」


    そう呟き、ゲイレルルの姿も、どこかへ消えていった。










    「フン、実に呆気ないものだったな」


    ゲイレルルのこの傲慢な物言いは、彼女が人間にその姿をさらすとき特有のものである。
    だがしかし、今はその姿を見る者もいない。
    ゲイレルル足下には、二つの屍が転がっている。


    ゲイレルルの仕事は、この二つの屍が持つ武器を回収し、魂をヴァルハラに運ぶのみ。
    ほんの数分で終わる、簡単な仕事だ。
    ゲイレルルは、二人の体を見下ろしながら、ふと、ある疑問を持った。


    (そういえば、この二人、何が決定打となって死んだのだ?)


    二つの体を見下ろす、あちこちがボロボロの血だらけで、最後に剣を交えた瞬間、失血死した可能性もある。
    あるいは、光で何も見なくなったあの時、両者が相打ちになった可能性もなくはない。


    「どちらにせよ、魂に聞けばいいだけの話か」


    そして、ゲイレルルは、その手に持つ槍を、片方の屍に向けて、振り下ろし、


    ―――ザクッ!


    (―――――――ッ!!!!!!???)


    槍は、そのまま屍を通り抜け、地面に突き立った。


    「行くよ!」
    「ああ!」


    瞬間、ゲイレルルの背後に現れた二つの存在、陽と影美が、同時にゲイレルルに襲い掛かった。

引用返信/返信
■540 / ResNo.24)  ロキ編 The last battle
□投稿者/ パース -(2006/11/25(Sat) 22:40:27)
    二人の剣が交わり、全てが暗転し、光に包まれ、何も見えなくなったそのとき、
    二人の意識は別なところに存在した。


    『止めろ』


    その言葉が、二人の頭の中に響いた。


    (なに!?)
    (え!?)


    それと同時に、自分たちの周囲が、これまでいた異空間ともさらに違う場所、それまでいた場所ではない「どこか」にいることに気付き、また自分の体が全く動かない、それどころか自分の体そのものが無くなっていることに連続して気付く。


    (え?ここ、どこ!?)
    (なんだ、一体、これは?)


    陽と影美が思った疑問、それぞれに答える声があった。


    『ここは、神剣レーヴァテインの中、意識のみが存在する場所にいる、君たちは今、意識体としてその中に入り込んだのさ』


    声に、姿はない。
    また、陽と影美も、それぞれの声は聞こえているのに、それぞれもう一方の姿を捉えることは出来なかった。


    (あなた、誰??)
    (お前は・・・・・・・・・まさか)


    『陽、君ならわかるだろう、僕は君が使っていた神剣レーヴァテイン、それの中に存在する人格さ、一度だけ、君とは意識を通い合わせたことがあるね』


    (あんたは、あの時、力を貸してくれた・・・・・・・・)
    (何を言っているの・・・・・・・・・?)


    『影美、君も知っているはずだ、君が持つ魔剣ロキにも、内在する人格があったのだから』


    (・・・・・・・・・・・何で・・・・・・知って!!)


    『君たちにはこれ以上戦ってもらうわけにはいかなかった、これから、その理由も含めて君たちには聞いてもらいたいことがある、少し、長い話になるけど、ここは外とは時間の流れる速さが大きく違うから、外のことは気にせずに聞いて欲しい』


    そして「神剣レーヴァテイン」、それに内在する人格による、長い話が始まった。










    初めは、全ての創世から。

    原初の神、氷の大巨人、「ユミル」。
    彼の体から始まりの神「オーディン」は生まれた。
    「オーディン」はやがて兄弟である「ロキ」らと共に「ユミル」を滅ぼす。
    「ユミル」の体はやがて大地となった、これが神々の世界「アースガルズ」となる。

    そして神々の世界の完成。

    「アースガルズ」は、「ユグドラシル」と繋がり、九つの世界を一つとした。
    「アースガルズ」には、様々な神々が集まった。
    やがて神々は夫婦となり、子をなして、神々の数は増えていった。
    「オーディン」、「ロキ」もまた、数々の神々の親となる。

    しかし、いずれくる未来があった。

    「オーディン」は、ある一つの未来、「ラグナロク」の到来を予見していた。
    「ラグナロク」は、決定された、回避出来ぬ未来、全ての終末。

    その時、「ラグナロク」の中心となる、ある一人の神がいた。

    「ロキ」はいつの時も変わらず、奔放であり続けた。
    しかしある時、彼はその賢さゆえに気がついてしまう。
    神が、絶対ではないことに。
    神が、全てではないことに。
    神が、完全ではないことに。
    自分たちが作る、神々の世界が、所詮は偽りであることに。

    「ロキ」は、その事実を神々に見せつけるために、もっとも美しき神、「祝福されし者」、全ての者の寵愛を受けた神「バルドル」をその知略をもって殺す。
    そしてロキは、神々の宴の席で、幾体もの神々を相手に、神々の欠如を、秩序の消滅を、全ての神の無能さを、嘲笑い、非難し、罵倒した。

    それによって「ロキ」は永遠の地獄に捕らえられる。
    「ロキ」は永劫の苦痛にさいなまれながら、泣き叫んだ。
    どうして、自分はただ誤りを指摘しただけなのに。
    どうして、自分はただ過ちを正しただけなのに。
    どうして、自分はただ真実を知らせたかっただけなのに。

    永劫にも近い苦痛の中で、「ロキ」はある結論に達する。

    自分の考えを受け入れて貰えぬのなら、今ある秩序など無意味だ。
    それならば全ての秩序を破壊し、新たなる秩序を作り出せばよい。

    そしてついに、「神々の黄昏」、「世界の終末」、「ラグナロク」が訪れる。
    巨人族と、冥府の亡者達は「ロキ」を先頭に「アースガルズ」へ攻め上る。
    「オーディン」は「フェンリル」に飲み込まれ、「フェンリル」は「オーディン」の息子、「ヴィーザル」により殺される。
    「トール」は「ヨルムンガント」を殺すものの、毒液を浴びて死んでしまう。
    「ロキ」もまた「ヘイムダル」と相打ちになり死ぬ。
    そして、最強の炎の巨人「スルト」は「ロキ」から渡された「レーヴァテイン」をもって「フレイ」を殺すが、「スルト」は戦いの傷により死を覚悟、自らの命を持って世界を消滅させる。

    そして、「ユグドラシル」は消滅し、わずかの神と人とを残して、世界は滅んだ。
    それは、遥か昔の話。










    長い話が、ようやく一区切り迎えた。


    (それで、全てが終わったその後も、フレイヤ達は魂の収集を続けている、と?)


    『その通りだ、まず、君たちに知っておいて欲しいこと、その一つ目は、「神は絶対ではない」ということだ、もし神が絶対であるなら、そもそもこんな事は起こらなかっただろうし、むやみな戦いも起こらなかっただろう』


    (それは・・・・・・・・・確かにその通りね)


    『次に二つ目、「世界は一つではない」ということ』


    (・・・・・・・・・一つ、じゃないのか?)


    『そもそも考えてみてくれ、スルトが放った炎によって「世界は滅んだ」んだよ?それなのにここには君たちが普通に生活する世界が存在している、これはおかしな事ではないかい?』


    (なるほど・・・・・・・・・・)


    『フレイヤ達は「ユグドラシル」が消滅した際に出来た、「世界と世界の隙間」に入り込み、そこを伝ってこの世界に降り立ったんだよ、多数の神具と共にね』


    (はた迷惑な・・・・・・・・・・・・)


    『そして、君たちに知っておいて欲しいこと、その最後、戦いを止めさせた理由でもあり実はこれが一番重要なことなんだが―――――』



    ―――――『「もし、君たち二人のうち、どちらか一人でも今の状態で死ねば、この世界は完全に消滅する」』



    (!?)
    (!?)


    一瞬、沈黙が落ちた。


    (な、何を言ってるんだ!?)
    (そうよ、なんで世界が消滅とか・・・・・・・!)


    『残念だが、これはれっきとした事実だ、まずは影美、君だが、君は今魂の半分を「魔剣ロキ」の中に取られているね』


    (え、ええ、そうよ・・・・・・・・それが、なに?)


    『もし、今影美が死ねば、その「魔剣ロキ」の中に入っている魂も大きく壊れ、しまいには「魔剣ロキ」自体が完全に消滅するだろう、もしそうなったら、僕は自分の力を抑えることが出来なくなり、その力はやがて使役者である陽をも破壊して世界に漏れ出す、そうなったら世界はもはや完全に燃え尽きるまで永遠の炎に包まれるだろう』


    (は・・・・・・・・?)
    (なん、で・・・・・・・・・?)


    『僕こと、「神剣レーヴァテイン」と僕の兄である「魔剣ロキ」とは、同じロキによって作り出された神具だ、そして、「魔剣ロキ」は、あまりにも力が強すぎる「神剣レーヴァテイン」の力を抑え、封印する役割も持っているんだよ』


    (・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!)
    (・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!)


    もはや、言葉にもならない。


    『そして、今の状態で陽が死ねば、の話だが、それは簡単だ、スルトの時と同じ、「魔剣ロキ」が「神剣レーヴァテイン」を抑える力を失っている今、「神剣レーヴァテイン」の力は止められない、同じく世界を焼き尽くして全てが消滅する』


    (なんで、私の剣が、レーヴァテインを抑えられないってのは?)


    『僕の兄でもあり、君の剣の中に内在した人格、あれそのものが封印だったんだよ』


    (!!!!!)


    『もう一度言う、「もし、君たち二人のうち、どちらか一人でも今の状態で死ねば、この世界は完全に消滅する」、と』










    全ての真実が語られたあと、レーヴァテインは、静かに語り出した。


    『君たちに、お願いが二つある』


    (・・・・・・・・・)
    (・・・・・・・・・)


    『これは、こんな事は君たちに頼める立場じゃないことはわかっているんだが、フレイヤ達を止めてくれ、彼女達にはこんな、終わってしまった物語を続けるような真似をこれ以上させたくないんだ』


    返事は、無い。


    『・・・・・・・・・・・・・・・すまない、君たちに、そんな余裕はないのだったな・・・・・・・・・、君たちには自分の身を守る以上の事を、している暇は――――』


    (ああいいよ、やってやるよ)
    (いいわ、やったげましょう)


    返事は、同時だった。


    『なぜ?君たちにメリットなど何もないのに・・・・・・』


    (メリットならある、あんたの言葉が正しいなら、「ヴァルハラの館」そこには魂が集められているんだろう?俺の目的はそこにいる女の子の魂を連れ帰る事だ、そのついでにそいつ、フレイヤって奴を倒してやるよ)
    (同じく、その「ヴァルハラの館」には、私の剣の中身も、一緒に行ったはずでしょ、それを見つけて剣の中に戻せば、少なくともどっちかが死んだだけで世界が滅ぶなんて言うことは起こらないでしょ)


    『・・・・・・・・・・ありがとう、それから、もう一つだけ、最後のお願いがある』


    (何だ?)
    (何よ?)


    『全ての戦いが終わったら、僕を、「神剣レーヴァテイン」を「魔剣ロキ」と共に、完全な眠りにつかせて欲しい、本当のことを言えば、僕はもう何かを壊す事なんて嫌なんだ』


    (ああ、その程度のことなら)
    (わかったわ)


    『ありがとう、これから君たちを元の場所に戻す、そこにはもうすぐヴァルキリーがやってくるはずだ、まずはそいつを倒して、「ヴァルハラの館」の鍵を手に入れて欲しい』


    その言葉が終わるか終わらないかのうちに、
    二人の意識は元いた場所へと戻された。










    (わかる?)
    (・・・・・・・・・ああ)


    どんな理屈なのか、陽と影美は剣を触れ合わせた状態で、お互いの考えが互いに聞こえる状態になっていた。


    『それは、僕を媒介にして二人の意識体が共鳴しているからだよ』


    よくわからないことを、レーヴァテインが言う。
    なにはともかく、声を出すことが出来ない状況下で、お互いの声が聞こえるのはいいことだ。
    今現在、陽と影美の二人は、影美の力により偽物を地面の上に作り出し、本体はレーヴァテインの力により光をねじ曲げて外からは見えないようにしていた。
    この状態になって、既に数分が経っていた。


    それにしても、と陽は思う。


    (本当に、ヴァルキリーに勝てるのか?)


    しばらくして、影美から返事があった。


    (んー・・・・・・なんとかなるっしょ)
    (そんなアバウトな・・・・・・・・・)
    (なーに言ってんのよ、私と、あんたのコンビなのよ?楽勝らくしょ・・・・・・・・・・っとと)


    影美が、フラッと、急によろける。
    陽は、腕を掴んで、体を支えてやった。


    (・・・・・・ありがと)
    (どういたしまして、そんな状態じゃ先が思いやられるな)
    (何よ!?あんたがぶっ刺してくれたおかげでしょうが!あんただって似たような状態のくせに!!)
    (お前よりはまだマシだ)
    (うー・・・・・・・・!)


    『二人とも、仲がよろしいのは良いことだが、どっちも限界が近いだろう?』


    (実は・・・・・・・・まぁ・・・・・・・・)
    (仲がよろしいとか言うなっての・・・・・・・・・でもきついものはきついかも)


    そもそも、二人共がついさっき死闘を演じていたのだ、その傷は全く治っていない。
    血もずいぶんと流してしまった、このまま時間だけが過ぎていけば、どうなるものか。


    『・・・・・・・・こういう手は、あんまり使いたくないけど、二人とも、神具の力を解放するんだ、そうすれば、いくらか傷は治る』


    (いや、そんなこと言っても私の場合、この剣の中に入ってる人格がどっかいっちゃってるから・・・・・・・・・)


    『その代わりに、中に入っているのは君自身だよ、やろうとすればいつでも解放できるはずさ』


    (そうなの?やってみる・・・・・・・・・)


    そしてしばらくすると、影美の黒剣は、巨大な湾曲刀へと変化した。


    (やった、できた・・・・・・・・!)
    (・・・・・・・・俺の場合は、どうすれば?)


    『うん、君の場合も大丈夫、今は「魔剣ロキ」がすぐ側にあるから、ある程度なら僕が制御できるよ』


    (よし・・・・・・・・!)


    そして、陽も神具の能力を全解放。
    真っ赤な刀身と波打つ刃の『炎神』が現れた。


    (ねぇねぇ、その剣、名前なんての?)
    (『炎神』だよ、そっちは?)
    (『影月』なんかこの曲がり方が月っぽいじゃん)
    (なるほど・・・・・・・・ッ!)


    『・・・・・・・・・二人とも、来たよ、僕はこれからレーヴァテインの力の制御に集中するから、返事しないと思うけど、頑張って』


    レーヴァテインの声が、頭に響くと同時、ついに、空間を割ってヴァルキリーが現れた。
    その特徴的な槍をみればわかる、『槍を持って進むもの』、ゲイレルルである。










    ゲイレルルは、しばらく周囲を見回したあと、二人の偽物に近づいた。


    (・・・・・・・・・・・・・準備は?)
    (・・・・・・・いつでもどうぞ)
    (おっけー)


    ゲイレルルが、そこにある偽物の内の片方に近づき、槍を振り上げた。


    (それじゃあ・・・・・・・・・・)


    ゲイレルルは槍を振り下ろし、その槍は、影美の作り上げた偽物を貫通し、地面に突き立つ。
    ゲイレルルの表情が驚きに染まった直後。


    「行くよ!!」
    「ああ!!」


    二人は駆け出した。










    「はぁっ!!」
    「らあっ!!」


    ―――キィン!


    さすがと言うべきか、不意を打ったにも関わらずゲイレルルは、二人の一撃を槍一本で同時に受け止めた。


    「なぜ・・・・・・・・・お前達が生きている?」
    「へへ・・・・・・・・・・・!私達に死なれると、困る人がいるらしいんで、ね!」
    「理由は色々だ!ともかく、俺達はこれ以上あんたらの遊びに付き合うつもりはない!!」


    一瞬、ゲイレルルが力をゆるめるが、それと同時に陽と影美は後ろに下がった。
    次の瞬間、とてつもない速度で振り回された槍が先ほどまで二人がいた位置を薙ぎ払った。


    「影美!下がれ!!」


    さらに、影美から見て、ゲイレルルと陽の姿が視界から消えるのはほとんど同時だった。
    陽とゲイレルルが同時に超高速移動をしたのだ。
    陽は、ゆっくりと流れる時間の中で普通に動く、それと同じように、ゲイレルルもまた緩やかな時間で普通に動いて見せた。
    ゲイレルルの狙いは、影美だったらしい、ゲイレルルは槍の穂先を影美に向け突進しようとしていたが、それの前に陽は体を滑り込ませる。


    (ってか!『炎神』の状態でこの能力がどのくらい続くのか、今まで一度もやってないからわかんねーぞ!!)


    残念ながら、返事はなし、そして悠長に待っていられるだけの時間もない。
    どうやら、解放していない状態よりは長く高速移動を続けることが出来るらしく、既に10秒以上動けている、あとは自分の力を信じるしかない。
    ゲイレルルの槍が、陽の頭目掛けて突き付けられる、陽はそれに刃先を合わせて槍を受け流す、陽はそのままゲイレルルに斬り掛かろうとしたが、槍の柄で受け止められる、陽はそれに力を込め、つばぜり合いに持って行こうとしたが、それより早く、ゲイレルルは槍をクルリと回転させた。
    そして、クルリと回転した槍の刃先は、陽の足下を狙っていた。


    (しまっ!足払い!!!)


    思わず、足を浮かせてしまい、続けてきた石突きによる一撃で、陽は為す術無く後ろに吹き飛ばされた。


    (やばい・・・・・・・やられる・・・・・・・・!!)


    陽が顔を上げると、ゲイレルルは、槍を振り上げ、今にも降り下ろそうとしていた。


    (死――――!?)


    ゲイレルルが槍を振り下ろすその直前、陽の体を黒いものが包み込み、影の中へ引きずり込んだ。


    (なんだ!?)


    ゲイレルルの一撃は、結局やってこなかった、陽は何が起こっているのか、事態を把握できずに、黒い影の中で、じーっと待つ。


    ゴポリ、と、ようやく陽は影の中から解放された。


    「ゲホッ!ゲホッ!」


    よくわからないが何か気持ちの悪い物が口の中に入った気がして思わず咳き込んだ陽の視界に入ってきたのは。


    (シッ、静かに!)


    人差し指を唇の前で立てる、まさに「静かに」の動作をした影美だった。
    影美は、剣を陽の剣に触れさせていた。


    (うん、君が強いのはよーくわかったよ?でもねぇ・・・・・・・・・・)


    影美が、顔をずずい、と近づけてきたため、陽は思わずのけぞる。
    ここで初めて、陽は高速移動の力が切れていることに気付いた。


    (あのねぇ?私達はいま、仲間でしょ?だったら勝手に先走るな!!!)
    (え?・・・・・・・・ゲフッ!!!)


    とんでもなく痛いボディーブローが陽にクリーンヒットした。
    影美が容赦の無い一撃を陽に送ったのだ。


    (確かにね、君は強いよ、1対1ではもう絶対にやりたくないって思うくらい速いし、今の君なら私より強いよ、でもね、言っておくけど今私が助けなかったら君は死んでたよ?)


    陽は、さっきまで自分がいた場所、ゲイレルルの方角を見て、そして驚愕した。
    そこでは、何百、いや、何千体という数の影の兵団が一斉にゲイレルルに襲いかかっていた。
    しかし、もっと凄いのはゲイレルルの方だった、たった一人に対して、襲いかかってくる数千の兵団を全て、一太刀貰う間も与えずに斬り倒しているのだ。


    ―――ズシャッ!!
    ―――バシュッ!!
    ―――ズドゴシャ!!!


    ほんの数秒の間に、10体以上の影がボロ屑となって吹き飛ぶ。
    ゲイレルルを囲む数千の影は、瞬く間に数を減らしてゆく。


    (相手がむちゃんこ強いなら、こっちは数で攻めろってね、ただし足止めが精一杯だけど)
    (なんで、そこまで・・・・・・・・・・・・)


    影美は、気楽そうにしているが、操っているその数は数千体だ、簡単なわけがない。
    そんなことまでして陽を助けるのは、どうしてなのか、そう問うた。


    (だから、仲間だからに決まってるでしょ)
    (仲間・・・・・・・・・・・・・・・・)
    (そう、同じ目的のために一緒に戦うからこそ仲間って言うのよ、勝手に一人で突っ込んで、勝手に死なれちゃたまんないわ、しかもその命には世界が懸かってると来てる)


    影美は、さらにずずい、と陽に顔を近づけた、唇をチョイっと出せばキスが出来てしまいそうなほど、ほとんどもうゼロ距離だ。


    (いい、よく聞いて!あいつが、あのゲイレルルが言ったのよ、「もし、我に勝てる奴がいるとすれば、それは我と同じ力を持つレーヴァテインの使役者のみ」ってね、つまり!君なら勝てるって事よ!!)


    そして、ドンっと、影美は陽を突き飛ばした。


    (いい?私は君を信じるよ、だから!君も私を信じて、あいつには私がこれからとびっきりの隙を作ってやるから、君はその隙にアイツを倒す!いい!?)
    (・・・・・・・・・・わかった)
    (よし!)


    影美は剣を構えて立ち上がった。
    陽もそれに習い、剣を構えて立ち上がった。










    ゲイレルルは、今、とても高揚していた。


    (これほどの戦いは、ずいぶんと長い間縁がなかったからな・・・・・・・・・・・!!)


    これまでも、魂収集のための戦いの中で、ヴァルキリーに反旗を翻した者はいたが、そのどれもが大した力も得ぬうちにヴァルキリーに戦いを挑み、まさに瞬殺で終わるようなもばかりだった。
    しかし、今回は話が違う。
    神具を解放状態まで持っていく者も珍しければ、持っている武器も揃って凶悪な物と来ている、これほどの戦い、楽しまずにいられようか。


    「さぁ!人間達よ、我を倒せばここから出ることは出来るぞ!!いつまで隠れているつもりだ!!さっさと姿を現せ!!!」


    向こうは、どちらも神具を解放状態にある、つまり2対1だ、それならばこちらもそろそろ全力で解放するべきだろうか。
    そう思い、解放することにした。
    ゲイレルルの周りには、もう既に残り千体ほどしか影の兵隊は残っていなかった。


    「神具・『ガゼルリヨートス』!!!『千烈ちれつ』全能力解放!!!」


    そして、ゲイレルルが、一振り、槍を振った、それだけで、
    千体近くいた影の全てが、一撃で消し飛んだ。


    「さあ、どうした!出てこんのか!?ならばこちらから・・・・・・・・・・・」


    それ以上言い終わるよりも先に、敵、人間の女が姿を現した。


    「レーヴァテインの所持者はどうした?怖じ気づいたか!!」


    そう言って、言い終わると同時に加速する。
    ゲイレルルの能力、それは、先も行ったとおり、加速。
    ただ、陽と違うのは、いくらでも加速状態を持続でき、また連続での発動も可能なこと。
    そして、『千裂』の能力は、これまた単純。


    ゲイレルルは、人間の女に向けて、高速で槍を振るった。
    その瞬間、幾重もの槍撃が、女だけではなく、その周辺の地面までをも粉々にして、吹き飛ばした。
    『千裂』、その名の通り、一度振るだけで、千の裂撃を刻み込む。


    「フン、この程度か!!」


    しかし、すぐにも、また別の女が現れる、それは瞬く間に、ゲイレルルを取り囲んだ。


    「また、同じ事を繰り返すつもりか!!!」


    そう言って、槍を一度、振るう。
    たったそれだけで女が作り出した偽物の影が、まとめて千体近く消し飛ぶ。
    そうして、全てを吹き飛ばそうとしたところで、


    「なっ!!」


    影が、そこかしこから溢れ出し、ゲイレルルを含んだ、この空間全てを、闇が埋め尽くそうとしていた。
    それは瞬く間に、視界の全てを埋め尽くし、なにも見えなくなる。


    「ちっ!!厄介な!!」


    ゲイレルルは、ただ闇雲に、全方向へ向けて『千裂』を放ち、影を消し去ろうとするが、『千裂』では影を払うことは出来なかった。
    結局ゲイレルルは影を払うことを諦め、何が起こっても対処できるように、全方位に警戒して、ただ時が過ぎるのを待つ。


    「ッ!!」


    敵の攻撃が来た、それも、足下から。
    多数の影が触手状にうねり、ゲイレルルの足に絡みつこうとする。
    ゲイレルルは影の茨を槍で全て切り払うが、すぐに新たな茨がゲイレルルの足に絡みつこうとする。


    「チッ!!」


    ゲイレルルは、影を払うことを諦め、大きく跳躍し、上空へ逃れる。
    その瞬間、ゲイレルルを覆い隠していた影は、全て下方へ移動し地面を覆い尽くす、そしてそれらの影は一斉に刃となってゲイレルルに襲いかかった。


    「初めからこれが狙いか!?」


    上空では、いくら速く動けようとも、そもそも身動きが取れない。
    無数の影で出来た枝や茨や刃が、全てゲイレルル目掛けて殺到する。
    しかし、ゲイレルルは、冷静に、槍を構え。


    「なめるなっ!!!」


    裂帛の気合いと共に数千の槍撃を地面を覆い尽くす影にに向けて解き放った。
    いくつもの枝が、刃が、ゲイレルルの槍に打ち砕かれ、消し飛ぶ。
    ゲイレルルの槍に撃ち抜かれた影は、次々と霧散してゆき、ついには地面が見えるまでに、吹き飛ばされた。


    「フン!この程度で我を追いつめられると思うな!!」


    そう言って、ゲイレルルは、地面に着地しようとして、地面が丸ごとグニャリと歪み、


    ―――完全にバランスを崩した。


    「なっ!!!!」


    次の瞬間、影を突き破って陽が現れる。


    「今ッ!!!」
    「ああ!!!」


    陽は、完全に体勢を崩したゲイレルルを、深く、完全に斬り裂いた。










    影美がとった戦法、それは相手の目を騙すことにあった、要するに、地面全てを影で覆い尽くし、その上に影で偽物の地面を作ったのだ、そしてゲイレルルが降りようとした場所のみを着地の直前に消滅させ、地面に着地する体勢だったゲイレルルは、完全にバランスを崩した、そういうことだった。


    ―――ザシュッ!!!


    陽の大剣が、完璧にゲイレルルを捉え、その胸を深々と斬り裂いた。


    「ガッ、ガフッ!!!」
    「やった!?」
    「まだだぁ!!!」
    「なっ!」


    ゲイレルルは確実な致命傷を負っていたが、その状態で動き、陽を吹き飛ばした。
    ゲイレルルは、槍を杖変わりにしながらも、なんとか立っていた。


    「ぐ、ゲホッ!まさか、まさかここまでやるとは!思いもしなかった!」
    「ここまでだ、ゲイレルル、諦めて「ヴァルハラの館」の鍵を寄越せ!そうすれば命までは取らない」
    「もう、これ以上、無意味な戦いは嫌でしょう?お願い、諦めて!」
    「ふ、ふふふふふ!我を倒すだけでなく、お前達はこれから「ヴァルハラの館」にまで攻め上ろうというのか?」


    ゲイレルルは、笑い、血を体中から噴き出しながらも、槍を構え直した。


    「ええ、その通りよ!だからこれ以上は止めて!!本当に死ぬわよ!?」


    しかし、ゲイレルルは、影美の静止など気にも止めず、言った。


    「ふふ、「ヴァルハラの館」には、我よりも強い者がまだまだいるぞ?それでもゆくか?」
    「ああ、返して貰わなきゃならない物があるからな」
    「ええ、ある人からの頼み事をかなえるためにも、絶対に」
    「そうか、よかろう、ならば我が全力を持って、貴様等がヴァルハラに行き着く資格があるのか、試してやろう」
    「!?」
    「!?」


    陽と影美は、ゲイレルルから放たれた、今まで感じたこともないほどの殺気に思わず、剣を構える。


    「ゆくぞ!我が最強奥義!!受けてみよ!!!」










    ゲイレルルは、体中から血を噴き出しながらも、槍を構え、大きく振りかぶった。
    陽と影美は、互いに、残る全ての力をそれぞれの剣に込め、待ち構えた。


    「『千裂』・『無閃槍技』!!!!!」


    ゲイレルルは、超加速化された状態で、一振りで千の槍撃を与える『千裂』を千回、全身全霊を賭けて解き放った。
    千かける千、百万の槍撃が、陽と影美目掛けて襲いかかる。
    陽と影美は、一瞬互いに見つめ合ったあと、


    「・・・・・・・・・」
    「・・・・・・・・・」


    ―――コクン。


    頷きあった。
    陽と影美は、剣を交差して、


    「「負けるかぁああああああああああ!!!!!!!!」」


    二つの力、陽の『炎神』に集う白い炎が、影美の『影月』に集う黒い影が、一つに集まっていく。
    そして、


    「「『炎神』、『影月』、『影炎双剣』!!!!!」」


    二つの力が、同時に、一つの巨大な力として、解き放たれた。
    百万の槍撃と、白と黒の炎と影とが、正面からぶつかり合った。


    「ハァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
    「おぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
    「やぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああ!!!!!」


    炎と影が、無限にも近しい槍と、正面から、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    そして、




    ―――――槍が、折れた。










    炎と影とが、槍を飲み込み、へし折り、その後ろのゲイレルルを消し飛ばして、そして、完全な静寂が訪れた。




    「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」




    「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」




    「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」




    「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」




    「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・勝った?」


    「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・たぶん」




    ――――やったぁ!!!!!!



    影美が、歓声と共に陽に抱きつき、陽はそれを支えることに失敗して、地面に倒れ込んだ。

引用返信/返信
■541 / ResNo.25)  ロキ編 それから
□投稿者/ パース -(2006/11/25(Sat) 22:41:32)
    そこは、某街の総合病院。
    とある集中治療室に一人の女の子がいた。


    ―――ピッ・・・・・・ピッ・・・・・・ピッ・・・・・・


    特有の連続した機械音が、その女の子の心臓がまだ動いていることを証明する。
    それを、二人の同年代の少年少女、兄と姉と言えば通じそうな二人が、じっと見つめていたが、やがて少女の方が病室の外へ出て行った。
    しばらくして、少年は女の子の側に歩み寄り、


    「ロア、待っていてくれ、必ず帰ってくるから」


    それだけ言って、軽く髪を撫でてやると、少年は病室をあとにした。
    病室の外には、先ほどの少女が、待っていた。


    「いいの?」
    「ああ、いいんだ・・・・・・・行こう」
    「そう」


    少年と少女が完全に立ち去り、病室には一定の機械音だけが残された。










    都市、連続破壊事件。


    これが、現在日本中を震撼させている謎の事件である。
    それは、いくつかの街で発生している完全に原因不明の建造物、建築物が次々と破壊している事件である。
    日本政府は、テロ攻撃の可能性を考慮し、国家非常事態宣言を達し、警察、自衛隊を常時配備してこの謎の破壊事件にあたらせるも、物的証拠や、原因の究明に繋がる物は発見できず、現在も原因の究明に全力を挙げている。

    また、某県某市においては、多数のビル群倒壊が発生し、死亡、重傷、行方不明、意識不明の重体等、多数の重軽傷者が出たため、その事件が起こる前日に行方不明となっていた10名の人間の安否はそれらの事件の陰に隠れ、世間的に有名になることはなかった。










    ―――ガチャリ。


    病院の屋上にあるドアを開ける、本来は飛び降り防止のために、鍵がかけられているはずなのだが、鍵は掛かっていなかった。
    むろん、偶然ではない。


    陽と影美が、そのドアを抜け、屋上の奥に進み出ると、そこには先客が二人いた。


    「もう、いいのかい?」
    「ああ、俺には元々別れを告げるような家族はいないんでな」
    「私は、家にちょっと書き置き残してきたから、たぶん大丈夫」
    「そっか・・・・・・・・一応、もう一回だけ確認させて貰うけど、本当に、いいんだね?これから先、戦いはもっと激しくなると思うよ」


    この男は、聖柄 罪(ひじりづか さい)、陽と影美の戦いが終わって数日後、二人に接触してきたのだった。


    (一緒に、戦ってくれる仲間を捜している、仲間になってくれないか?)


    と。


    「もちろん、とっくの昔に決意なら済ませたわ」
    「同じく、もう今さら、後には退けねぇよ」
    「そう、か、じゃあ、一緒に行こう、宰、来い」
    「・・・・・・・・・」


    もう一人の、やたらと無口な奴、こいつは終野 宰(おわりの つかさ)。
    察しているとは思うが、罪も、宰も、神具の所持者である。
    4人の目的は同じ、「フレイヤ達をこの世界から排除すること」そのために集った。


    「フレイヤを倒し、この世界から追い出すまで、私達の戦いは続く、それでも、きっと、一緒に戦ってくれる仲間はいるはずだから・・・・・・・・」


    影美が言った。


    「だから、行こう!!」


    4人の姿が消えて、屋上には風が一つ吹いた。

引用返信/返信
■542 / ResNo.26)  ロキ編 あとがき+いろいろ
□投稿者/ パース -(2006/11/25(Sat) 22:43:43)
    あとがき

    はい、どうもこんにちわ、こんばんわ、パースです。
    やっと終わったぜ!こんちくしょうめ!!(謎)
    最初に断っておきますが、この話の中で語られている「北欧神話をモチーフにした物語」、は所詮私、パース個人的な見解、様々な憶測や「こうだったらいいなぁ」的考えを加えた見方にすぎません。
    (例:「ロキがレーヴァテインを作り、それをスルトに渡した」という事柄に関しても、かなりの部分が人によって説、論が違うと思われます)
    これが「北欧神話」の全てだなんて語るつもりは全くありませんし、真実は全く違うかも知れませんので、その辺はご本人の判断に任せます。
    なお、「魔剣ロキ」に関しては、ロキが持っていた武器(剣)に特に名前が無いことから私が勝手に考えたものです。

    正直、「ロキ編 last battle」に関しては、ページ数無視ぶっちぎりで、今回の作品中は元より、今まで書いた全作品中でも一番長いんじゃねぇかと思います。
    でも書いてて楽しかったからまぁいいかな、と。

    うーん、そういえば、「『○○』全能力解放!」っていうセリフに関して、説明を入れたかったんだけど、いつの間にか忘れちゃってましたね、しょうがないのでこの場で説明しときます。
    『炎神』や、『影月』は、神具が、それの使役者の魂の形を具現化した物です、ナノで魂が強ければ強いほど、解放された剣も強くなると、そーいうことを言いたかったわけです。
    (元ネタがブリ○チなのは言うまでもなく・・・・・・・・orz)
    ってか、元ネタを上げだしたらキリがないかも知れない、フェンリルなんて「もの○け姫」の白い狼が元だし、『炎神』は、某都市シリーズの小説から、魂が強かったり弱かったりってのは漫画「ソ○ルイーター」から、etc,,,,
    でも、各キャラの性格や、名前に関してはオリジナルです。

    それにしても、ここ、リリースゼロで色々書き始めて半年以上経ちましたけど、初めてのシリーズ完結(いや、まだ続けるけど)もとい一区切り、いやはや、よくやったもんだ。
    私って性格上、戦闘シーンが大好きなんでしょうね、気がつけば作品の半分以上は誰かが殺し合ってます、しかも私の場合1対1が異常に長い、いつまで経っても決着が付かないというこの無茶苦茶な戦い・・・・・・・・・・・皆さんの反応はどうなんでしょ?
    さてと、とりあえず、私のひとりごとはこの辺で終わりとしますが、このページの下には色々と書きたかったりした物が放り込んでありますので、暇な方はついでに覗いていってください。



    小ネタ(ぇ


    「あなたが気にしているのは『レーヴァテイン』の事ですか?あなたが『こいつは凄い神具を持っているから説明も必要ないだろう』って適当なこと言っちゃった」
    「黙れ」
    「はい・・・・・・・・・」
    (ゲイレルルが陽に対して何の説明もしなかった理由。あまりにもシリアスな雰囲気だったため無かったことに)


    「そういえば、『ノートルダムの小箱』っていう神具が作中にあったよな?」
    「ありましたですね」
    「あれってどういう能力だったんだ?」
    「ただ敵の視界を奪って目を見え無くさせる力です」
    「・・・・・・・・・・・・しょぼ」
    (本当は、「相手に恐怖を与えて戦闘能力を奪う」という能力だったんですが、時間的都合上なかったことにしました)



    「無銘刀、あのさ、そもそもなんで北欧が話の元のハズなのにここ日本が舞台なの?」
    『むーん・・・・・・・・・それは・・・・・・・・・本当のことを言うとわしが作者に消されてしまうゆえ言うわけにはいかんな・・・・・・・・』
    「・・・・・・・・・(汗)」
    (何にも考えてないとかそんなこと言えません)



    「骨羅さん、骨羅さん」
    「なんだい、一端君?」
    「僕たち、一応二日目まで生き残ったんだよね、それなのに扱いがひどいのはどうしてなのかな」
    「それは作者が、私達をもっと活躍させようとしたものの時間がないからって消しちゃったからだよ」
    「・・・・・・・・・・」
    (もっと活躍させたかったこの二人)



    ロキ編の全登場人物
    +その他設定

    メイン

    千里塚 陽(せんりづか よう)♂ 所持武器:レーヴァテイン(神剣)『炎神』
    属性・炎 身長161cm 体重 46kg
    冷静沈着、というより誰に対しても警戒感を持っている。
    陰気、根暗、普通に育っていればただの引き籠もりになっていただけかも知れない。
    両親は、陽がまだ10才の頃に事故で他界。
    その後孤児を扱う施設に引き取られるものの、数年後、脱走。
    その後はバイトなどで食いぶちを稼ぎながら生活していた。
    幼少期のトラウマにより、人の死に対してひどく鈍感である、また人を殺すこと、さらに殺されることに対しても、それほどの抵抗、恐怖を感じていない。
    ただし、親しい者、ある程度以上に心を許せる者に対しては、普通以上の執着を持ち、それのためならば自己を犠牲にすることもためらわない。
    この戦いによって「桐野ロア」という大事な物をヴァルキリーに奪われる、それを取り返すために戦い続ける事を選んだ。


    レーヴァテイン
    そのあまりの威力の高さに「神の如き剣」、つまり神剣と呼ばれる。
    かつてのロキに作り出された神具のうちの一つ、「魔剣ロキ」とは兄弟分。
    いつもは、封印状態にあるため、使役者に対して何もしないのだが、魔剣ロキが(その中に存在する人格が)消滅、もしくはレーヴァテインに対して一切影響できなくなった場合、レーヴァテインに眠る人格が目覚め、「神の如き力」を使役者に与える。
    ただし、その本当の力は、「世界に終焉をもたらす力」であるため、今回の戦いにおいてはまだ全ての力を解放していない。
    かつてのラグナロクの折、炎の巨人スルトは、神剣レーヴァテインの真の力を引き出し、その命と引き替えに世界に終焉をもたらした。
    現在は、再び眠りについている。


    四ノ原 影美(しのはら えいみ)♀ 所持武器:ロキの剣(魔剣)『影月』
    属性・闇 身長160cm 体重 45kg
    明朗闊達、元気娘。
    活動的な服、ショートヘア、スタイルには全く自信が無い。
    母親とマンションで二人暮らし。
    子供の頃から天才的な運動能力を持つ、頭脳の方は・・・・・。
    ごく一般的、「善良」な市民、人が殺したり殺されたり、そんなことを認可できない日本人的考えを持ち、しかもそれを異常空間でやってのけるほどの精神力を併せ持つ。
    よく言えば善良であるが、悪く言えば子供的。
    自分が守りきれる者の幅をまだ知らない、例えそれを越えても、守りたいと思う、そんな存在。
    先天的、天才的戦闘の才能により、生還を果たす。
    「魔剣ロキ」の人格を返してもらうために、次なる戦いの場へおもむく。


    ロキ(魔剣)
    魔剣とは「何かと引き替えに莫大な力を与える剣」のこと、この魔剣ロキの代償は「魂」を任意に魔剣の中へ入れること。
    剣の中へ入れた魂は、剣が傷つくたびに代替してそれを受けるため、時間の経過と共に傷が多くなり、やがて消滅する。
    本来、かつてのラグナロクで魔剣ロキはロキと共に消滅したはずだったが、姿形を変えて、後の世に存在している。
    この剣の中に宿る人格は、比較的善良であり、わりかし何でも教えてくれる。
    この人格が一体何なのか、なぜ消滅せずに後の世に存在するのか、謎が多い。
    現在は、内部の人格のみがヴァルハラ(=神界)へ送られた、また剣の中には影美の魂があるため、影美にとってはもっとも扱いやすい武器となったが、しかしその分影美を傷付ける武器でもある。


    桐野 狼亜(きりの ろあ)♀ 所持神具:フェンリスヴォルグ
    無属性 身長150cm 体重38kg
    小柄、長髪、イメージとしてはゴスロリ・・・・・・・・・・(ぇ
    姉と叔父、叔母夫婦と一緒に住んでいる。
    純真無垢でもあり、思慮遠望でもある。
    陽を望んだことは事実であり、陽が強者であることを知ってもいた。
    どっちもほぼ勘であり、本能と呼べるものを持っていたのかも知れない。
    自分が生き残るために他者を犠牲に出来る人間であり、また自分以外の人間のために自分を犠牲にも出来る人間である。
    しかしそのことを知っている人は少ない。
    現在は、魂が存在しない肉体だけの状態で人間界のとある総合病院の集中治療室にいる。
    傷はほとんど完治したが、魂がないため、植物人間に近い状態となっている。


    フェンリル 『王狼』・蹂躙爪牙
    青っぽい狼。
    『ノートルダムの小箱』『風神スキンゲイル』『糸切刃ハーベリングス』『魔砕剣ダインスレイブ』を使った。
    かつて主神オーディンを飲み込んだ狼、とは別物。
    最初のフェンリルの息子、ハティのさらに息子、つまり最初の狼の孫に当たる。
    最初のフェンリルは「天と地とを飲み込む者」息子のスコールとハティはそれぞれ「太陽」と「月」を「飲み込む者」、であったため、全力でやって人一人を飲み込めなかったこのフェンリルは、実は大したことがなかったりする。
    陽と、解放状態のレーヴァテインにより焼かれ、この世界から完全に消滅した。



    その他

    頬屋 海瀬(ほおや うみせ)♂ 所持武器:グラナステッグ(氷刀)属性・氷
    最初に登場した兄弟の弟の方、「海」なのに弟、兄より強い。
    学校では兄弟共に野球部に所属、エースピッチャーとキャッチャーだった。
    氷の神具を使い、手数で陽を圧倒したが、レーヴァテインの能力を解放した陽により、斃される。

    頬屋 山瀬(ほおや やませ)♂ 所持武器:スキンゲイル(風刃)属性・風
    ちなみに、兄弟で野球を観戦しようと球場に行き、そこでほぼ同時に二個の神具を発見する。
    同じく最初に登場した兄弟の兄の方、風を操る神具を持ち、本当なら結構強くなれたのだが、最初の相手がいかんせんフェンリル、秒殺されてしまった。

    竿裏目 糸目(さおらめ いとめ)♂ 所持武器:ハーベリングス(糸切刃)
    ヤンキーというか不良というか。
    街の裏側でヤクザ絡みの危ない仕事を手掛け、この街におけるクスリ売りの元締め的存在だったが、仕事の最中に本人もジャンキーとなってしまう。
    影美と戦闘になり敗北、その後フェンリルに殺される。

    骨羅 鳴忌瑠(こつら めきる)♀ 所持武器:スカノボルグ(神骨)『死骨鳥』
    かつて、ガールスカウトに在籍していたことがある。
    サバイバル知識や、超基本的な戦闘知識を持っていたが、残念ながらほとんど活用できなかったようだ。
    陽との戦闘により死亡。

    三尾堂 一端(みおどう いったん)♂ 所持武器:ダインスレイブ(魔剣)
    本人は、現在売れっ子のアイドル。
    たまたま休みの日に、神具を見つけてしまったのが運の尽き、全てを失う。
    一人だけ相手を殺しており、色々と吹っ切れていた。
    フェンリルに喰われる。

    名も無き人1
    神具『ノートルダムの小箱』の所持者、戦いが始まってすぐにフェンリルに喰われた。

    名も無き人2
    もはや神具すら決めてない人、初日に御御堂一端によって殺される。

    聖柄 罪(ひじりづか さい)♂
    不明。

    終野 宰(おわりの つかさ)♂
    不明。



    ヴァルキリー

    ゲイレルル [Geirolul(Geirolul)]
    槍を持って進む者の意を持つ。
    神具『ガゼルリヨートス』の使い手。
    ヴァルキリーにおける「第三階位」、つまり全ヴァルキリーの中で3番目に偉い人。
    偉いわりに頭はそれほど良くない、戦闘が専門だったから。
    強さはヴァルキリーの中でも群を抜く。
    人間に対しては冷徹だが、同じヴァルキリー、特に自分と同期のヘルフィヨトルに対しては結構甘い。
    最後は、ガゼルリヨートスの力を全解放するものの、陽と影美の前に敗北する。


    ヘルフィヨトル [Herfiotur(herfiotur)] 
    軍勢の戒めの意を持つ。
    神具『ディアグノーシス』の所持者。
    神具『ディアグノーシス』は、作中まだ出てきていない。
    頭が良く、切れ者。
    落ち着いた雰囲気があり、物腰は丁寧。
    今回の魂を回収するために用意された戦いに疑問を持つ。
    比較的人間に対しても友好的。
    今は戦士の魂が集められる場所、「ヴァルハラ」にいる。

引用返信/返信

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■478 / 親記事)  オリジナル新作予告
□投稿者/ カムナビ -(2006/11/04(Sat) 16:50:44)
    遥かなる未来・・・

    「<大連合>の侵攻・・・だと?」
    「すでにエルベ大回廊周辺は征圧されています・・・確認された戦力は8万隻・・・最終的には30万隻程度にはなるかと。」

    宇宙を二分する<帝國>と<大連合>、その戦いの火蓋が切って落とされた

    『帝國全体が戦時防衛体制を整えるのに約3ヶ月・・・その間、君らには<大連合>の侵攻部隊を後退しつつ拘束し続けて欲しい。手段は問わない』
    「きついこといってくれますね・・・正面戦力でどんだけ不利か解ってます?」

    絶望的な戦力差の中、3ヶ月間の<大連合>侵攻部隊の足止めを命じられた帝國国防軍第3方面軍団<バルディッシュ・サード>

    「遊撃戦・・・ですか?確かにそれしか対抗する方法はないでしょうが・・・可能なのですか?」
    「やらんと、うちらは蹴散らされるだけやで?可能だからやるんでなくて、やらなきゃならんのや」

    そんな中補給戦に対して組織的なゲリラ戦を仕掛ける第3方面軍団。それにより、救援がくるまでの3ヶ月間を乗り切ると、思われたが・・・

    「救援が、こないって・・・どうゆうことです!!」
    「帝國行政府議会は戦争を望んでいない・・・そうゆうことか」

    政治の道具として、玉砕を求められる第3方面軍団。帝國より見捨てられた彼らは独自で生き残りをかけた脱出作戦を遂行しようとする。

    「後方を強襲!?それで・・・被害は?」
    「物的被害はとくには・・・ですが、後方に敵部隊のゲートを確認・・・我々第3方面軍団は約80個艦隊の部隊に包囲されていることになりますね」

    しかし、その前に<大連合>の対第3方面軍団包囲網が現れ、それに彼らはとらわれてしまう。

    「前方6万に敵艦影多数!!包囲網を構成してる艦隊と思われます!!」
    「そうか・・・さて、諸君、大博打の始まりだ」

    その包囲網を突破するために彼らはある奇策をもってその包囲網の突破を図る。果たして彼らは生き残ることができるか・・・?



    カムナビが描くオリジナルSF戦記シリーズ<ポラリスの御旗のもとに(仮)>第一章、熱いオヤジと、男(あと若干の女子)だけの血と汗の物語!!『バルディッシュ・サード奮闘録』!!来年初旬公開予定!!

    なお本作品は予告編であり、内容などは変更される可能性があります。ご了承ください
    ちなみに、もう一つの方が終わらないと連載できません(ぁ
引用返信/返信



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■316 / 親記事)  鉄都史論 01、崩壊からのエクソダス
□投稿者/ カムナビ -(2006/07/21(Fri) 18:16:23)
    (注)その時代のある人物の視点よりのアイゼンブルクの歴史を語りながらの似非小説となっております

    第一の視点:統一魔法王国情報総局長官

    統一魔法王国は死にたいであった。理由は様々ある。異民族の侵入とか、政治腐敗だとか、高度に発達しすぎた魔法技術の反乱だとか、挙げてみればきりが無い。所詮人間の作ったものであり、いかに発達していようとも、いずれは滅びる運命だったのだ。それが今まさにきそうになっているだけなのだろう。

    「だが、王や官僚すらそれに気付かぬか・・・・・落ちたものだ、栄光の統一魔法王国も。」

    彼は自分の前に提出されたいくつものレポートを見て、改めてそう評価を下した。
    単一では気付きにくい内容ではあるだろう。私ですらこの内容を観た時信じられないものであった。だが、検証を続ければ続けるほど、同じ結論に達する。

    どうやっても『統一魔法王国は数年以内に滅亡する』というデータが出てくる。

    「このレポートを提出すれば・・・・いや、無駄か。」

    中央では官僚と将軍達は金権政治に溺れ、王の金のかかる趣味のための王権の乱用により国庫はへり続けている。地方は地方で地方官吏たちが民の血税を吸い続けている。魔術師や神官たちも同様だ。すでにもうそれ以外に見えなくなっているのだろう。もちろん、私と同じように憂国の思いを持つ官僚や軍人、魔術師たちもいる。彼も所属している機関ででもすこし強引な手段を用いてでも政権をのっとるべきという意見もないわけではなかった。だが・・・

    「もう、遅すぎるのだ・・・・・この国は。」

    何もかも気付き、行動するのが遅すぎた。まもなくこの魔法王国全土が業火で焼かれ、その遺産は略奪され、この大陸も数十年、いや長ければ数百年の群雄割拠の暗黒時代へと突入するであろう。

    「だから・・・・残さねばならない、一人でも多くの民を、一つでも多くの技術を・・・・・そして、それをまとめるための血も。」

    策はある。このために機関は数多くの『同志』を募ってきた。上は傍流の王族から下は単なる平民まで、異種族にすら『同志』はいる。

    「<エクソダス>計画・・・・必ず成功させねばならん。」

    数年後、王国は彼の予想通り、各地であがった反乱により分裂、王都も戦略級殲滅魔術兵器により王と重臣、そして数百万の民を巻き込んで灰燼へと帰し、1000年近くにわたって、大陸を統一し、史上稀にみる繁栄を誇った統一魔法王国はその歴史を閉じた。
    彼自身も、すべての準備を終えたのち、必死に説得する部下に「ノーサンキュー」と返して、王都とともに散った。

    だが彼を含めて多くの人物が蒔いた種は今は弱弱しいが、確かに芽吹いた。
    大陸中央部、大陸最高峰トライデント山脈よりの雪解け水が流れる荒野の地に、数百年後<アイゼンブルグ>と呼ばれる小都市が形作られつつあった。

    (あとがき)
    ついカッとなってついやってしまった。今は反省している(マテヤ
    お久方ぶりです、テスト真っ最中の現実逃避の幻想を砂漠に見たMSNABILOOもといカムナビです(すいませんビルドルフLOVE(ぁ
    さて、予告なしの妙な新連載、いやイレギュラーの方もネタはあるんですがモチベーションがあがらないというか、むしろ一度設定から書き直すかと思っていたりとかしたりとかしないとか。というか神官と打つと真漢とでてくるうちのパソはどうなってるか小一時間(ry

    まぁゆったり連載のゴーイングマイウェイ設定話ですので期待せずに次をまってください。

    (黒い鳩さま用私信)
    件のものは5話くらいまで描いてから応募させてもらいます。まぁ色々細部の訂正とかありますので。

    おっと、チャーリーから連絡が入った、ウィドー1はこれよりサロンへ帰還する、オーヴァー(ェ
    では、さいならー
引用返信/返信

▽[全レス6件(ResNo.2-6 表示)]
■321 / ResNo.2)  鉄都史論 03、魑魅魍魎の宴
□投稿者/ カムナビ -(2006/07/26(Wed) 14:54:18)
    注)好評第三弾です(笑

    第三の視点:旧王国貴族出身特務情報将校&特務裁定官

    戦時の復興途上のこの街で、ここはある意味一番ミスマッチな部分だ。郊外にある白亜のホール内部には赤い絨毯が敷き詰められ、シャンデリアが煌々と光を放っている、それにあれは確かすでに製作のできる工房が文字通り消滅してしまった魔術楽器だろうか?たしか、父の書壇で刺し絵らしきものを観た憶えもなくもない。

    「まったく・・・やりすぎではないか?」

    まったくもってそう思う。いかにこれが政治というものだと解っていても、今のご時勢、こうゆうことに資金を割くべきではない・・・。いやその資金を得るための先行投資なのだというのはわかっているのだが。

    「しかし・・・・・」

    思わずその先を口に出そうになって、慌てて続きを飲み干す。観られては・・・いないな?下手な言葉は彼らに警戒心を抱かせかねない。私の任務はいかに彼らにそれを抱かせないようにすることなのだから。それでも、この仕事は毎度の事ながらあまり気分が乗らない。これならば、さっさと王国貴族の称号なんて捨てればよかった。まぁ、今更言っても遅いが・・・・・。とりあえず諦めとともに少し心の中で嘆息する。よし、今は自分の本分を果たすことにしよう。周りを見渡し、対象を探す。見つけた。こちらから近づいていくと相手も気付いた。

    「すいません、ヘル。・・・私、こうゆうもので・・・・」

    腹の探りあいの始まりだ。くそっ、いつか必ずやめてやる!

    舞台は反転し、暗闇の中ディスプレイに会場の様子が映し出されている。

    「ブラボー13、<スネーク・ヘッド>と接触を開始」
    「出だしは順調ね・・・・。監視を続けて」

    ホール自体の華びやかさとは無縁のホールの地下。関係者以外が立ち入ることの出来ないある空間。ディスプレイに、通信用の機材。それは相手の動きを常に監視し続けている。ふと、通信がつながる。要監視対象に対し監視を続けている即応部隊の一人からだ。

    『裁定官、<レイニィ・デイ>の従者の一人が動きました。追いますか?』
    「・・・・泳がせておきなさい、主人の手前騒ぎを起こすような真似はしないだろうけど・・・・いざとなったときの処理は確実に、ね」
    『ヤー』

    通信が切れる。それからしばしの時間が経つ。変化はとくに見られない。飽いたのか、裁定官と呼ばれた女性がふと呟く。

    「ねえ?今日は血がおいしそうな奴はいるの?」
    「・・・・・姐さん、今任務中ですよ?」
    「あら、私達にとっては当然の権利よ?ちゃんと仲間にならないように注意してるんだからひとりくらい味見したっていいじゃない」
    「・・・・・<スペード・クイーン>のお付のメイドさんくらいじゃないですか?姐さんのお眼鏡にかないそうなのは」
    「あっそ、じゃあいってこよ・・・」
    『緊急、状況発生!状況発生!判断要請!』

    吸血族らしい裁定官が試食(本人曰く)に出かけようとした瞬間、緊急を知らせるコールが鳴り響く。

    「ちェ・・・状況、知らせ」
    『報告、要監視対象<サンド・ストーム>の従者の一人が予備敵性行動。処置許可要請!』
    「予備、ね。処置を許可します。いいわね、処置よ?処理しないように気をつけなさい」
    『ヤーヴォール!!』

    人知れず闇夜の中で魑魅魍魎と戦うものが居れば、その反対に白日の下で言葉を使い、戦うものもいる。だが、どちらも日夜戦い続けていることでこの街は生き延び続けている。誰もねぎらってはくれないかもしれない。だけど彼らは確かにそこに存在し、今も戦っているのだ。

    あとがき
    どうもカムです。テスト終わりました。これで晴れて夏休み突入です。さてちょっとわかりにくい話ゆえにすこし説明を。
    舞台的には前の話から数年程度すぎてある程度、勢力が安定してきたころのお話。

    ・将校さんのお話
    斬りつけ、魔法を打ち合うだけが戦争ではない。そんなコンセプトのお話。もうちょっと話をつめるべきと思い、次の更新はこの続き的なお話にしようかと思ってます。いわゆる腹の探りあいです。アイゼンブルクは小国ですので、コート下のナイフを使う情報戦は必須です。その始まり的なお話にも当たります。なお、元貴族なのにも理由があって、外交的に舐められないための手段です。貴族は基本、貴族であたった方が話しやすいですし。ちなみに下の裁定官殿より個人的にはこっちの苦労人な将校さんのほうが好き(ぉ

    ・裁定官のお話
    上のお話の裏進行話。もっと血なまぐさい話でもよかったような気がするが、結局上みたいな感じで。ちなみに次回の更新でもうすこし出番があるかと。
    ちなみに登場設備は採算度外視設計ゆえにかなり割高。だからこうゆう場所に設置されているわけで。
    裁定官殿を気に入っていただけるとまた違う話を書くかもしれません。

    まぁ、こんな感じでどうでっしゃろ?では、また次回。
引用返信/返信
■324 / ResNo.3)  鉄都史論 04、生存というための手段
□投稿者/ カムナビ -(2006/07/29(Sat) 12:36:46)
    2006/07/29(Sat) 15:53:18 編集(投稿者)

    注)もうすでに注を入れる必要もないと思いますが、似非小説第4弾。3話と微妙にリンク中!!

    第四の視点:会場支配人&裁定官直属部隊のある執事

    さて、これからが本番だ。
    そう思うと、さすがに緊張するものだ。たとえ、それが何度も繰り返されていることでも。

    「会場にお集まりの皆様、そろそろ皆様のお楽しみのオークションの時間でございます」

    アナウンスが響き、ホールで人がざわめくような音がする。まもなくだろう。
    改めて目の前にいる数人の男たちに向かい合う。
    「準備はできているか?」
    「ヤー、万端であります。」
    「分析のほうは頼んだ・・・これに、我々の同胞数万の命がかかっているのだ。宜しく頼むぞ」
    「もちろんです・・・では、閣下も」
    「了解だ」

    覚悟は決まった。さぁ、この街のために、下衆となりにゆこう。



    ナイフ同士がぶつかり合い、鈍い金属音が響く。
    ホールの外部、人の入ってこない暗闇に包まれた通路。
    人が居ないはずのその場所で、2人の男が対峙している。
    一人は、バトラー。何故執事が?と思われるが、その手にはつや消しの塗られたナイフが握られている。
    もう一人もナイフ使いなのは変わらない。だが、全身黒尽くめ。
    性別も、よくわからない。だが・・・明らかに侵入者はこちらだろう。

    「いい加減、諦めません?」
    執事が提案する。返答は投げナイフ。
    彼はナイフを一閃させ、そのナイフをはじく。
    その間に黒尽くめが一気に接近、こちらとの勝負をきめようと距離をつめてくる。
    だが、その動きが突如鈍り、ナイフはナイフで受け止められてしまい、そのままはじかれる。

    「!?」
    何故という驚きだろう、しきりに周りを見る。すると、そこには幾つかの線のようなものが、虚空に浮かんでいる・・・これは、糸?
    「驚きましたか?ですが、ここは敵の領地ですよ?この程度は予想してくれませんと・・・とりあえず、顔を見せていただきます」
    やめろとでも言いたいのだろうか、暴れるが、彼は、気にせずその黒尽くめの面を剥ぎ取る。すると・・・

    「おや、これは予想外・・・でもない野郎ですな」
    顔自体もさほど、特徴の無い普通の男だ。
    さて、どうしたものか?
    「あら、終わった?」
    この声は・・・裁定官殿か。
    「何用ですか・・・裁定官殿」
    振り向くと・・・メイド?
    「あ、この服?たまにはこうゆうのもいいでしょいいでしょ?」
    うっふんと色々ポーズをとってみせる。ツッコミどころは色々あるが。
    「何の御用で?」
    もう一度、強調して、たずねる。
    「むー、乗り悪いなぁ・・・指揮官先頭は慣習・・・冗談よ、手助けしようかとおもって来たんだけど・・・無駄だったみたいね。はーい、侵入者さん?何か言うことあるかしら」
    すると、今までずっと沈黙を保っていた男が吐き出すように言い放つ。
    「くたばれ!!死の商人どもに媚び売る、売女め!!」
    おいおい・・・なんて陳腐な・・・ってまずい・・・!!
    強力な魔力の励起を感じて、顔を上げる。
    夜叉がいた。

    「うふふふ・・・言ってくれるわね。ちょっとお姉さん、キれちゃった。楽に死ねるとお・も・う・な・よ♪」
    口調こそ、明るいがはっきり言って少なくとも怒っているのは間違いない。
    その証拠に、強力な魔術の発動を示す多層分割式魔術式が彼女の腕に展開されている。
    男の方は気絶している。避けてくれるのを期待するのは無理か。さすがに、このままではまずい。
    意を決して、裁定官殿に言い放つ。

    「裁定官殿・・・命じられたのは、処置です」
    「なら、処理の格上げするわ。命令者は私なんだから、構わないでしょ?」
    やはり、そうくるか。だが、ここで折れては元も子もない。
    「指揮系統に混乱をもたらす命令を享受するわけにはいきません」
    「あなたを、抗命罪よ?それ・・・撤回する気は?」
    「ありません、上司の過ちを正すのは部下の役目で」
    しばし、じっと見つめられる。いつもはすっと吸い込まれるような黒い瞳だが、それが今はまるでこちらを飲み込もうとしようとしているように感じる。

    「あーあ、わかったわよ、私の負け。処置でいいわ。」
    ふっとその視線の圧力が消える。どうやらうまくいったようだ。
    「了解。では処置します」
    すでに先ほどから気絶している圧力で手早く男の腕を露出させると、そこに処置用のアンプルの入った注射器を注射する。これでとりあえずは、何とかなるだろう。あちらも余計な波は立てたくないだろう。

    処置を終えて、ふと見上げると、いまだにメイド服姿の裁定官殿が、「私不満です。」という感じでこちらを見ている。気まずい。何か話題は・・・。
    「しかし、よく我慢なさいましたな。」
    「単なる打算。あそこで、拒否したら、今はよくても後であんたたちがついてこなくなりそうだったからよ。」
    容赦なくそれだけいって切り捨てる。どうやら、よほど鬱憤は溜まっているようだ。このままだと、いつまた爆発するかわからない。やれやれ、仕方ない。こっちも処理しておくか。

    「裁定官殿・・・血いります?」
    ぴくんと耳が動く。よし脈有り。
    「ふ、ふん・・・そんなもので釣られるわけじゃないけど、どうしてもっていうなら吸ってあげるわ」
    はいはい、解りましたよ。我らが親愛なる上司、裁定官殿。

    その次の日、彼は増血剤点滴に半日ほどを費やしたという。



    宴もまもなく終わるだろう。
    彼は心の中で嘆息する。連絡では何度か侵入者がいつものようにいたようだが、どうやらうまく対処はできたようだな。

    「では、6万!!それより上の・・・6万5千。6万5千が出ました!!これより上のお客様はおりませんか!?]

    内心で思っていることなどおくびにも出さず、声を張り上げる。
    だが、何か考えずにはいられない。

    「では、6万5千で出品No.12魔法王国軍純正魔術兵装30セットは落札されました」

    そう、このオークションは美術品なんてものは対称にしていない。
    対象は人を傷つけ、殺すための兵器。
    この武器で幾人の人間が殺されるのか、それを考えるとこの思考をやめることなんてできない。

    「では、本日最後にして、本日の目玉出品No.13戦略級魔術兵器<崩落のギャラルホルン>、その制御基盤です!!」

    だが、これも我々の同胞を食わせていくために必要なことだ。
    そう、それは納得していかなければならない。

    「それでは、15万から始めましょう!!」

    ああ、だが、そのために殺しの手助けをしてもよいというのか?
    いや、違う。違うはずだ、私自身それを毛嫌いしていたというのに・・・。

    「17万、20万、おっと一気に30万がでました!!さぁ、それ以上の方はおりませんか!!」

    なれていく自分を感じる。少しずつおかしくなっていく自分を。
    結論のでない思考が続く。

    「おっと、35万、40万・・・55万が出ました!!では、55万で落札です!!」

    考えるのはやめよう。早く、この狂った世界から抜け出そう。
    いつもどおりの問題を先送りにした結論に至ると、心がすこし軽くなった。

    「では、本日のオークションはこれで終了です!!商品については、準備の後お渡しいたします!!では、また次回お会いしましょう!!」

    もう、二度と関わりたくない。
    心の中で相反する感情を抱きつつ、宴は終わる。
    あとは、部下の分析班が、このオークションでの分析結果を用いて、各勢力の現状を上層部に知らせることになるだろう。

    どんなに高潔な思想を語って、平和を語ろうと、飢えている者は、そんなものより、今日の食料を求めて争う。それが今の現状である。この街もその例外にはなりえない。食料を生産するためには、肥料や種が必要で、それを得るためには資金が必要だ。その資金を得る手段の一つがこれなのだろう。後世においてこれがどう判断されるのかはわからない。だが、ここではこれが必要だったのだ。


    あとがき
    どうも、執筆BGMは紅の牙、もうちょっと強く、砂塵の彼方への三曲でお送りしますカムナビです(ぇ ちなみに全部何のOPかわかった人はまじで尊敬します(何
    はい、見ての通りです。中盤が裁定官殿、○○疑惑です。終盤については読めばわかります。とりあえず感想のほうで質問されれば、説明もいたしますので。今日はここまで。次は歴史はある程度くだります。では、次回をお待ち下さい。
引用返信/返信
■326 / ResNo.4)  鉄都史論 05、川の流れは『緩やかに』
□投稿者/ カムナビ -(2006/08/02(Wed) 11:28:00)
    2006/08/02(Wed) 15:16:13 編集(投稿者)
    2006/08/02(Wed) 11:50:29 編集(投稿者)
    2006/08/02(Wed) 11:35:01 編集(投稿者)

    注)はい、どうも、件の小説もどきです。では第五弾ゆきます

    第五の視点:行政府・金融庁第2局局長

    「大運河・・・ねぇ」
    ぱらりと提示された資料に目を通す。
    ――現在の我らアイゼンブルクの領地域における農作物生産はすでに頭打ちであり、その一方で人口は伝統的な異種族開放政策のために、増える一方であります。一つの統計によればこのままのペースで人口が増え続け、農作物生産になんらかのブレイクスルーがなされない限り、50年後には自領域での食料自給率は30%以下まで落ち込む可能性がでてまいりました。(中略)そのため、この解決のために我々は王国領ライルフォート近辺よりリディスタを経由してアイゼンブルクにいたる大運河建設計画を提案いたします。――
    要約すれば、資料にはこんなことが書かれていた。
    「しかし、うちの部下や農業庁の連中はわかるがなんで君らが連名で私に提出するんだ?」
    彼は目の前にいる薄いブルーの制服―整備庁の職員―の集団(まぁ2〜3人だが)に問いかける。
    「まぁ・・・それは、聞いておられるでしょう1局と2・3局の対立を・・・」
    「ああ、そりゃな・・・」

    整備庁第1局と第2・3局の間には強い確執がある。
    なぜか?それは1局がアイゼンブルク内部の施設整備・建設を担当し、2・3局が外部の整備・建設を担当しているからだ。
    普通なら仕事内容は被りえないはずなのだが・・・アイゼンブルクの伝統的な内政充実政策が火種となった。
    1局が2・3局に対して、アイゼンブルク外延部の上下水道設備の建設を我々が請け負うといったことがすべての始まり。
    彼らにしてみれば、内部の延長である上下水道設備の整備にはもちは餅屋という理屈であったのだろう。
    だが2・3局は恐怖した。ただでさえ、自分達は内部重視の政策で仕事が少ないのだ、それを1局奪われたら?
    今後、2・3局の仕事がすべて奪われてしまうのではないだろうか?
    そうは、させるか。
    あとは上も下もてんやもんやの大騒ぎで、会議が沸騰し、一瞬即発の危機。
    最終的に仕事帰りの両者のグループが同じ酒場でかちあったことで、上司というリミッターが居ないことで、大乱闘に発達。
    幾人かの負傷者が出たところでさすがに、在位30年で典型的な協調主義者の現大公殿も動き、仲裁に入った。
    だが、いかにアイゼンブルクの全住民にとって神の言葉よりも効果のある大公の仲裁勅令といっても、すでにそうやすやすと確執は埋められないほどになっていた。
    ・・・それ以後、第1局と第2・3局の職員同士たちは同じ庁舎での職場でありながら、互いの事務室に通じる道にバリケードや警備を置いて、さながら冷戦真っ只中であるという。
    (・・・金のかかった問題だったらもっと楽に解決できるのだがなぁ)
    そう、これが単に献金のかかったそうゆうものだったらよかったのだ。首謀者を逮捕して、あとは組織浄化を行えばよい。
    だが発端となったことはともかく、それ以後は完全な職務遂行の誇りと誇りのぶつかり合い、こうゆうのは手がつけられないから難しい。
    さて、どう裁いたもんだか・・・派閥争いに巻き込まれるのは真っ平御免なんだがなぁ

    「んで、これはどっちからの提案なんだ?」
    「整備局1,2,3局からです」
    「ほう、なるほ・・・はぁ?」
    思わず、間抜けな声を出してしまった。
    なんだって?1、2、3局?おいおい、お前ら喧嘩真っ最中じゃねぇのかよ?
    「事実です・・・これを」
    3人が職員証を取り出して見せる・・・うん、確かに1,2,3局だ。しかも部長クラス、それなりのもんだろう。
    「一体・・・どうゆうことだ?」
    「どんなに戦争をと叫ぶものが多かろうと、平和をと叫ぶ者は消えない・・・そうゆうことです。」
    ・・・成る程、こいつらは現状を憂う主流じゃないハト派ってことか。
    感情論より理性を優先したか・・・そしてそれを全体にいきわたらせるための共同作業としての運河建設計画か。
    だが、部長クラスの決定とはいえ、各部署の局長クラスの許可がない限り、予算を回すことは・・・
    「局長クラスの捺印ならここにあります。」
    ・・・準備のよろしいことで。
    「わかった・・・整備計画の詳細と見積もりをまとめて、こちらに送ってくれ」
    そういうしかなかった。


    一月後の緊急予算会議にて、大運河建設計画、通称<ナイルの賜物計画>はアイゼンブルク第8次整備計画内部に予算を盛り込まれた。
    これが後に30年以上に及び、後世の建築家に絶賛される大運河建築計画の始まりだった。


    あとがき
    さて、時代が一気にとんで前の話から200年後くらいのお話です。このころになるとさすがに今の王国や帝國に通じる国家も完成して、アイゼンブルクも王国内の自治国的な存在として、組み込まれております。(まぁ王国は北部がまだほとんど開拓されず、帝國も今の版図よりかなり狭いですが)あと途中で何か聞き覚えのない町の名前が出てきますが、アイゼンブルクの西部の大河沿いにあるという設定だけの街です。名前も仮定です。
    さてはて、また魔法色が全然ないお話です(爆
    計4回ほどにわたってこのお話を続けるつもりです。
    次のテーマは・・・重機と外交ですかね?
    WW2前のドイツとソ連の戦車開発の蜜月について復習しつつ、次回へ続く(笑

    ではではー、次は土曜か日曜あたりを目安にー。ただ一度母方の実家にゆく可能性もなきにあらず・・・それと13日は夏の祭典へ行きますので、更新はなしの方向です。ご了承ください。
引用返信/返信
■328 / ResNo.5)  鉄都史論 06、機械獣達の雄叫び
□投稿者/ カムナビ -(2006/08/05(Sat) 13:44:05)
    注)はいはい、第六弾ですよ、ではでは

    第六の視点:<ナイルの賜物計画>所属獣人労働者

    それは大きな獣だった。
    木を根から削げ取り、土ごと喰らうものだった。
    それは小さな龍だった。
    ブレスは吐けないが、ひどく従順で人の思うままに動かすことが出来た。
    それは素早い荷馬車だった。
    獣や龍がだしたものを、考えられないほど積み込んで、あっという間に持ち去ってしまった。

    「しかし・・・すごいねぇ」
    目の前を走る獣や龍をみながら彼は興味深そうに自分の犬耳をぴくぴくさせる。
    「はっははは・・・大したもんだろう、わしらの作った獣達は」
    その声が聞こえたのか、背の低い男―たぶん、ドワーフ―が話しかけてきた。
    「おっちゃんが、作ったのか?」
    「おっちゃんではない。わしはまだそこまで年をとっとらんわ・・・」
    怒られた。
    まぁ、そこらへんはどうでもいいじゃないか、あれについて説明しておくれよ。
    「どうでもよくないのだが・・・まぁ、いい。あの獣達はなそれぞれ『ブルドーザー』『ユンボ』『コンボイ』と呼ばれとる」
    ・・・何語だい、それ?
    「知らん。お上から、そうゆう名前を貰ったに過ぎん。問題は中身だ・・・」
    専門的なこといわれても、俺わからんよ、おっちゃん。
    「ぬぅ・・・この語りたい衝動を遮ってくれるか、小僧。まぁいい・・・簡単に言えば、あれは機械仕掛けの獣達であって、『ブルドーザー』は大きく土を削り取り、『ユンボ』は岩を削り、掘り起こし、『コンボイ』は『ブルドーザー』や『ユンボ』の出した土や岩をたくさん積み込み、運び出すのだ!!あとわしはおっちゃんではない」
    うん、わかった・・・つまり、でっかい、俺たちってことかい?
    「うむ、確かにそうだな・・・だが、お前さんたちの仕事がなくなるというわけではないぞ。あれは、細かいところまで作業できるというわけではないのだからな」
    適材適所・・・ってやつかい?
    まぁ、こちらもとーちゃんやかーちゃんたちを食わせる仕事が尽きないのはいいけど。
    「ふむ・・・どうだ、小僧。ぬしもあれを運転できるようになってみないか?」
    へ?いや、そりゃ、興味はあるけど・・・俺にできるかな?俺魔力とか全然ないよ?
    「うむ、あれは魔力で動くわけではないのだ、大丈夫だろう。今、あれを運転できる者の数は、あれの数に比べてはるかに少ない・・・一人でも多くのあれを運転できる者がほしい。行政府から、特例資格者に対する優遇措置もでるらしいぞ」
    んー、どうして魔力なしで動くのかはよくわからないけど・・・そこまでいうのなら、やってみようかな、ありがとう、おっちゃん。
    「うむ、気にするな・・・だが、何度もいうが、私はおっちゃんではない!!」

    それらは機械の獣だった。
    オイルを血として、シリンダーを筋肉として動く獣だった。

    <ナイルの賜物計画>において生み出された最大の副産物、それが重機を始めとする機械化装備であり、それを動かす非魔力依存型内燃機関の開発といわれている。この機械技術は当時においてはさほど、注目を集めることがなかったものの、その利便性からアイゼンブルクではその後ポピュラーなものとして扱われていくこととなる。
    これがどのような発展をみせるのか・・・それについて語るときにはまだいたっていない。

    あとがき
    うむ、ちょこっと内容が少なかったかな・・・?
    やはり外交系のお話もいれるべきかと思ったけど・・・うーん、それ入れると絡ませるのが難しいということで外交は次回に回しましょう。
    さて、見ての通りのお話です・・・『コンボイ』は黄色いトラックと思ってください。名前からすると違うもの想像しそうですけど。
    ではまた次回お会いしましょう、グッドラック。
引用返信/返信
■461 / ResNo.6)   鉄都史論 07、謀略大陸
□投稿者/ カムナビ -(2006/10/29(Sun) 02:38:26)
    お久方ぶりです・・・実験で後期暇がないカムナビですぅ(ぁ

    第七の視点:<ナイルの賜物>計画交渉班

    「くそ、足元みやがって!!」
    部屋に入ったとたん、彼がそばにあったごみばこに激情をぶつける。
    「抑えてください」
    「わかっている、だがあんたは悔しくないのか!?人的・経済的支援も何もやっていない奴らが、いまさらリディスタ=デルトファーネルルートの追加だと!?ほとんどの作業をこっちにやらせておいてなにいってやがる!!」
    <ナイルの賜物>計画が着工して、20年・・・すでに王国領ライルフォートからアイゼンブルク領内への基本的な掘削作業は終了し、あとは細かい掘削作業と水門などの設備などを設置を行えば開通を行うだけという矢先・・・王国からの要請の形でリディスタ=デルトファーネルルート追加−直線距離でライルフォート=アイゼンブルク間の約70%ほどの距離−を打診してきたのだ。
    「王国もようやく水上運輸のコストパフォーマンスの良さが理解できたようですね・・・まぁ、それだけとは思いませんが」
    あくまで冷静に対処する。
    「何?」
    「本国では、今回の一件、王国側の謀略の可能性もあるという意見がでています」
    「謀略とは・・・穏やかではないな」
    自分が冷静なせいもあるのだろう。この軍人としてはひどく優秀な中佐殿−ローテシルト勲章(ミスリル銀製)を三度受勲−は話題が話題なだけにすでに自分を取り戻したらしい。
    「そうですね・・・疑うべき要因は大きく二つ。
    1つはご存知の通り通知のタイミングがあまりにおかしい点です。完成間際になって仕様を付け足すなんていかに王国がこの大陸西部ではそれなりの力をもつとはいえ、あまりに乱暴すぎます。国際信条から逸脱しすぎです」
    「ふむ、確かに・・・」
    うむとうなづく、さすがに冷静になれば頭の回転ははやいのだろう
    「第二に・・・失礼ですが中佐は、王国の諜報組織についてどの程度ご存知で」
    「さほど多く知っているわけではないが・・・王国監査官などか?」
    「では、昨年の武器密輸組織の一斉検挙劇覚えておられますか?」
    「ああ、久々のおおとり物だったな・・・私も市内警備に借り出されたので良く覚えている・・・だが、それが何のつながりがある?」
    さっさと核心を話せということなのだろう。少々いらいらしながらも煙管を取り出し彼はそれに火をつける
    「率直に申し上げます・・・その武装密輸組織は王国の監査官と通じていました」
    「なっ・・・!?」
    彼は煙管を落としてしまう。だが、その中佐を追い詰めるようにいう。
    まだ、おわりではありませんよ、と。
    「彼ら自体はさほどたいした技術の持ち出しができたわけではありませんが・・・彼らが王国に流した各種資料の中にとある資料が含まれていました」
    ぐびりとのどを鳴らす音が聞こえる。
    「ここ10年間のアイゼンブルク領内のアグリレポート、つまり食料自給率を含めた農業酪農関連の各種資料の写しです・・・あの資料の重要性はこの計画に携わっり、王国国内にある各種問題を専攻して研究したあなたならご存知ですよね?」
    沈黙で周りが包まれる・・・
    「なるほど・・・つまり、こうゆうことか。
    王国は、無理難題をあえて押し付けることで、それに対し反抗するであろうアイゼンブルクを、国内における反逆行為とでも題目つけて侵攻し、うちの技術・資産収奪をおこなうことで国内安定のスケープゴートにでもするつもり、というわけか」
    「王国国内の他の勢力・周辺国へのけん制もかねて・・・という面もあるようですが」
    「まぁ、確かに王国は国内にはいろいろあるしな・・・国力レベルでいえば持久戦に持ち込めばアイゼンブルクは落ちる。食料とかはネックだからな。
    いい手だ・・・血反吐を出したくなるほど手段としては汚いがな」
    「救いは、王国全体でこの動きをしているというわけではないということです・・・特に南部諸侯はこちらには友好的です」
    労働者の落としている金や運河完成後流通による経済効果のは計り知れませんしね、と続ける。
    「なら、打つ手はある、か・・・」
    「もちろんです・・・そこで、中佐、いえ大佐に1つお願いいたしたいことが」
    「いいだろう・・・聞こうか」
    ふん、汚いのは・・・こちらも一緒か・・・
    彼は目の前の年端もゆかぬ少女−アイゼンブルク王城府情報統制官−をみて彼は心の中で嘆いた

    こうして謀略の夜は更けていく・・・
    この後、双方の交渉の結果、リディスタ=デルトファーネル間の運河の建築は現状においては凍結されることなった。
    この背景において、この運河建設を強行に主張していた王国監査官が更迭されたということに当時交渉を成立させられなかったことゆえの更迭以上の因果関係があると思うものは皆無に近かった。



    お久方ぶりです、いわゆる情報戦・・・なんとなくイメージはハルノートと課っぽい感じですかね・・・
    というか忙しいので、また1月後くらいに。
    次はまた時間軸が大きく飛ぶかな・・・?
引用返信/返信

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■355 / 親記事)  誓いの物語 ♯001
□投稿者/ 昭和 -(2006/09/30(Sat) 15:29:29)
    2006/10/06(Fri) 10:04:39 編集(投稿者)



    誓いの物語






    「好きじゃ」
    「…は?」

    少年――ロバート=ルクセン、15歳――は、
    目の前の少女から突然言われたことに、目を丸くして驚き、
    その意味を理解し切れなかった。

    「何が?」
    「じゃから、そなたのことを好いておると、そう申しておる」
    「……」

    聞き返してみたが、どうやら、最初に聞いた意味で正しかったようだ。
    それでも、確認せずにはいられない。

    「俺のことが……好き?」
    「そうじゃ」
    「……」

    頷く少女。
    いかにもお嬢様、いや、お姫様といった服装をしており、顔は充分な美形。
    腰まで伸びる艶やかな金髪が、いっそうの美しさを引き立てている。

    冗談を言っているような雰囲気ではないし、何より、真顔で冗談を言うような
    性格でないことは、よくわかっていた。

    ロバートは、ポリポリと頭を掻いて。

    「寝言は寝て言うものだぞ?」
    「寝ているように見えるのか?」
    「見えない」
    「ええい、まどろっこしいヤツじゃ」

    一向に受け入れてもらえないことに対し、少女は業を煮やしたようだった。
    さらにストレートな言葉を口にする。

    「妾はそなたに、愛の告白をしたのじゃ。好きなのじゃ、ロビー」
    「……」

    『ロビー』というのは、彼女が好んで使うロバートの愛称である。
    今のところ、他に特筆して親しい者などいないロバートにとっては、
    唯一の愛称で呼んでくれる相手でもあった。

    そんな彼女から受けた、突然の告白。
    …いや、突然ではない。

    「ここに来て、右も左もわからぬ妾に、1番良くしてくれたのがそなたじゃった。
     今にして思えば、一目惚れだったのやもしれぬ」
    「……」

    2人が出会ったのは3年前。場所は、ブルボン王国の王都バリスの王宮の庭園。
    はっきり言ってしまえば、現在いる場所と同じところである。

    「聞けば、そなたも妾と同じく、人質として参ったそうではないか。
     だからというわけではなかろうが、そなたは妾に良くしてくれた。
     妾のほうも、他に頼れる人物などおるわけも無く、自然と惹かれていったのじゃ」

    他に、親しい者がいない理由。
    それは、2人が共に、この国では余所者。しかも、人質という立場にあるからだ。

    2人とも小国の出身で、他国の脅威に晒されて窮した挙句、王国の庇護を受けることとなった。
    その代償として、半ば強制的に王都へと連れてこられたのだ。

    もちろん、小国とはいえ王族だから、お付きの者がいるにせよ。
    それはあくまで家臣。友人と呼べる者は、お互いにお互いしかいなかったのである。

    かくして2人は、ヒマさえあれば、というか、基本的に勉学など以外の時間はヒマなため、
    1日中一緒にいることが多かった。

    「妾は申したぞ。さあ、返事を聞かせてくれ」
    「…ふぅ」

    真剣な瞳で言う彼女に、ロバートは息をひとつ吐き。
    もう1度、真意を尋ねてみる。

    「本気だな?」
    「無論じゃ。酔狂でこんなことが出来るほど、妾は肝が据わっておらぬぞ」
    「そうか」

    返答は変わらなかった。
    心の中では、「よく言うよ」と思いつつ、ようやく自分も真剣に考え始める。

    彼女の態度と言動を見ていただければ、ロバートの心境も、おわかりいただけるだろう。

    「気持ちは……まあ、うれしい」
    「うむ」

    曲がりなりにも、女の子からの告白だ。
    まったく知らない者からというわけではなく、よく知る相手、
    悪いどころか、少なからずよく思っている相手からのものだ。

    うれしく思わないはずは無い。
    無いのだが…

    問題がひとつ。

    「あのな…」
    「なんじゃ? はっきりせん男は嫌われるぞ」
    「おまえはまだ、10歳だぞ?」

    多少唐突ではあったが、2人が積み重ねてきた年月を見れば、
    納得できる流れではある。
    だがしかし、彼女の年齢というのが問題で…

    目の前にいる少女は、なんとも可憐ではあるが、まだまだお子様なのであった。
    彼の言葉を受けて、少し首を傾げて見上げてくる様子などは、
    まさしく年相応のかわいらしさ。

    「何か不都合でもあるのか?」
    「不都合って…」

    だから、彼女の言葉に、軽くめまいを覚える。

    「愛に年の差など関係ない。そう、本で読んだぞ」
    「ああ、そうですか…」

    脱力して頷くロバート。

    それは、確かに、見てくれとは相反して、置かれた境遇からか、
    精神年齢が異常に高いのはわかるが。(言葉遣いや知識、堂々とした態度など)

    こればかりは、鵜呑みにしていいものやら。
    それに、自分に幼女趣味があるわけでも…

    「して、返答やいかに? レディが勇気を出して告白したのじゃ。
     しかと答えるのが男というものではないのか?」
    「わかったわかった…」

    肉体は10歳でも、心はすでに大人、とでも言いたげに、少女は迫る。
    何か言ってやらねば引いてくれそうにない。

    ロバートはやれやれと肩をすくめる。

    「まあ……いま言ったとおりだよ」
    「はっきりせい。妾は好きだと申したのだから、
     そなたもはっきり口にするのが筋であろう」
    「はいはい…」

    嫌いなわけじゃないし、むしろ好いているわけであるし。
    慕ってくれるのは素直にうれしいし、5年後が楽しみだと思わないでもない。

    「好きだよ、エリザ」
    「うむっ」

    少女――エリザベート=ファン=ベルシュタイン、10歳――は、
    弾けんばかりの笑みを浮かべ、頷いた。

    (問題があるとすれば、エリザの年齢と…)

    もちろん、何も波風が立たないというわけでもない。

    (俺たちが、違う国の王族だということだな)

    年齢も大きな問題だが、もっと大きな問題があった。

    おいそれと、本人同士がいいからと言って、
    勝手に結婚できるような間柄ではないのだ。
    さらには、王国が許してくれるかどうか。

    おそるおそる、ロバートがそのことを指摘すると。

    「構うまい」

    と、エリザベートは一蹴した。

    「戦でも何でも良い。
     要は、そなたが手柄を立て、王国で取り立てられればよいのじゃ。
     そうなれば、もはや人質などと蔑まれなくて済むし、
     社会的地位を確立でき、相応の親も充分納得する。
     どうじゃ、一石二鳥であろう?」
    「……」

    得意げにこう言うものだから。
    さすがに、何も言い返せなかった。

    (そう簡単に行くかっ!)

    そう声に出せたら、どれだけ良かったか。

    「…はあ」
    「期待しておるぞ、ロビー」
    「はいはい…」
    「うむっ」

    満面の笑みで飛びついてきたエリザベートを受け止める。

    まだ、幼さが前面に出てくる様子であるが。
    どこか、満更でもないと思っている自分が、そこにいた。







    <あとがきという名の言い訳>

    パースさんに触発されて書いた。
    反省はしていない。(爆)

    ってなわけで、やっちゃいました完全オリジナル。
    『黒と金と・・・』をほったらかして何やってんだか・・・
    いやね。詰まってるんでね、あっちはね・・・(汗)

    ちなみに、勢いで書いたものなので、どこまで続くのかわかりません。(え?
    ノリでなんとなく書いたものなので、深い展開を期待しないでください(爆!)
引用返信/返信

▽[全レス13件(ResNo.9-13 表示)]
■380 / ResNo.9)  誓いの物語 ♯009
□投稿者/ 昭和 -(2006/10/08(Sun) 16:04:32)



    イング王国が帝国と和議を結び、同盟したというニュースは、
    王都でも駆け巡り、人々を震撼させた。

    驚いたブルボン首脳は、少し前に遠征軍から届いた、ルクセテリアで起こった異変と併せ、
    御前会議で対応を協議する。

    「各北方方面軍に、海岸線まで進出し、イングの襲来に備えよと下命いたせ。
     火事場泥棒のごとき卑劣なイングを、我が王国領に上陸させてはいかん」
    「はっ」

    「東部戦線は、引き続き、帝国軍への警戒を厳にせよ」
    「ははっ」

    とはいえ、指示を出しているのは宰相のシャルダン卿で、
    国王ルーイ6世は、玉座に腰を落とし、悠然と眺めているだけである。

    良く言えば、家臣の意見を尊重し、自由にやらせている。
    悪く言えば、家臣に任せ切りで、自分は何もしない。

    シャルダン卿が非常に優秀なので、それでも、ブルボンは安泰なのであった。
    …少なくとも、今までは。

    「して、陛下」
    「なんじゃ?」

    会議の途中、シャルダン卿から声をかけられた国王は、
    意外そうに聞き返した。

    「おぬしにすべて任せると、そう言うたであろう?」
    「はい。しかし、国王は陛下であらせられますゆえ、内政ならともかく、
     軍事面では、陛下のご裁断を仰ぎたく」
    「わかった。何に対してじゃ?」

    内政における最高責任者は、システム上、宰相になる。
    もちろん国王の鶴の一声が効かないわけではないが、必ずしも、
    いちいち了解を取る必要は無い。

    しかし、軍の統帥権はあくまで国王にあるため、国王に知らせる必要がある。
    だから、今回の遠征計画も、ロバートを伴って国王の判断を仰いだのだ。

    「遠征軍から、追加の派兵を求める書状が参っております。
     いかがいたしましょうや?」
    「それは、必要なことなのか?」
    「行動を起こした帝国軍の規模が、予想以上に強大だったこと。
     ルクセテリアで起こった反乱のことも含めますと、必要かと存じます」
    「ふむ…。ならば、よきにはからえ」

    国王は了解した。
    だが。

    「しかし、予備兵力がありません」
    「なんじゃと?」

    意外な落とし穴があった。

    「イングの動きが誤算でした。かの国が本腰で攻めてきた場合のことを考えますと、
     現状の兵力配置を崩すわけにはいかないのです。
     かといって、新たに編成している物理的、時間的余裕もありません」
    「むむむ…」
    「イングさえ動かなければ、すぐにでも、数千規模の援軍を派遣できるのですが…
     私の読みが浅はかでございました。どうかご処断を」
    「たわけ。緊急事態だからこそ、おぬしの力が必要なのじゃ」
    「はは…」

    国王の、シャルダン卿に対する信頼は揺ぎ無い。
    彼に代わって頭に立てる人物というのも、皆無なのだ。

    「じゃが、このままではベルシュタッドが危ない。
     頼ってきたものを見捨てるとあっては、我が国の名折れじゃ。
     なんとかならんのか?」
    「そうですね…」

    シャルダン卿は、手元に持っている資料を、パラパラとめくり。
    う〜んと考え込んで。

    「数百程度ならば、どうにか揃えられそうではありますが…
     すぐに集まるのはそれが限界です」
    「むう…。それだけでは、とても戦力にはならんのう…。
     あいわかった。新たな兵の編成を急げ」
    「は」
    「遠征軍には、兵の準備が整うまで、なんとか耐えてもらうしかあるまい。
     ベルシュタッドは気の毒じゃな。預かっている公女になんと申すか…」

    国力随一のブルボン王国も、人や物資が無尽蔵に出てくるわけではない。
    帝国のみが相手ならばともかく、イングまで敵に回ったとなると、
    これまでの戦略や補給計画なども、イチから見直さなければならないのだ。

    今回は、時間的にも物理的にも、充分な支援が出来そうに無い。

    「ロバートには、辛い戦となるのう…」
    「そうですな…」

    先日、決意に満ちた顔で出陣の許しを請いに来た、まだ15歳の少年。
    初陣でいきなりこれとは、同情する。

    結局、御前会議で決まったことは、なにひとつ、
    遠征軍にとって直接助けになるようなことは無かった。

    そして、1週間後…





    「姫様っ!」
    「何事じゃ、騒々しい」

    興奮気味の侍女が、息せき切って飛び込んできた。
    読書の最中だったエリザベートは、視線を本から上げて、
    怪訝そうな目を向ける。

    「遠征軍が……ロバート様が……はあはあっ」
    「…!」

    息が切れているため、言葉が途切れがちになる。
    エリザベートは、思わず立ち上がった。

    「ロビーがどうしたのじゃ!」
    「しょ、少々お待ちを……はあはあ……」

    侍女は、どうにか呼吸を正して。

    「勝利を得たそうにございます!」
    「そうかっ!」

    喜ばしいことを、笑顔で報告した。
    エリザベートにも、パ〜ッと笑みが浮かんでいく。

    「こちらの損耗も激しかったそうにございますが、見事、帝国軍を撃退したと!」
    「うむっ」

    満足そうに頷くエリザベート。

    「さすがはロビー、さすが妾の惚れた男じゃ!」

    これ以上の喜びは無い。
    上手くすれば、本当に、取り立ててもらえるかもしれないのだ。

    しかし、彼女たちは知らなかった。

    これは、あくまで、表向きの戦況報告であり。
    国王やシャルダン卿にしか報告されなかった、秘匿された情報があることを。

    その第一が、勝つには勝ったが、ブルボン軍も全軍にわたる手酷い被害を被ったこと。
    手っ取り早く言えば、勝利などとんでもない、良くて引き分け程度だったということ。

    そして第二に…

    遠征軍が帝国軍と戦い、ブルボン正規軍がイングを警戒して動けないその間に、
    彼女の故国ベルシュタッドは、無残に陥落したということ…





    その後…
    死傷者5千名以上という、手痛い損害を受けた遠征軍は、進退窮まった。

    前面および横合いからは、ベルシュタッドを落とした帝国軍の脅威があり。
    背後にはルクセテリアのレジスタンス勢力。ならびにイング王国の魔の手が、
    いつ伸びてきてもおかしくは無い。

    そこに、5千名もの損耗である。
    5分の1超もの被害を受けたわけで、普通ならば、
    後方の部隊と交代するところである。

    だが、それは出来なかった。

    帝国軍の脅威が引き続き存在し、レジスタンスを一掃するまでは、
    と国王の許可が下りなかったこと。
    交代に赴くための部隊が、イングの介入によって、なかなか揃えられなかったことなど。

    悪条件がいくつか重なって、どうにもならない情況が続く。

    さすがに3ヶ月も経つと、ぼちぼち遠征軍への兵力物資の補給が開始されるが、
    この頃、反ブルボンのレジスタンス蜂起は、ルクセン全土へと拡大していた。
    こんなに潜んでいたのかと思わせるほどの件数、規模で、対処は困難を極めた。

    その上、密かな帝国の援助を受けたレジスタンスは攻勢は強め、
    ブルボンの補給部隊を、ゲリラ戦法でたびたび襲った。

    実体が把握できず、神出鬼没なため、彼らを捕捉、撃滅するのは非常に難しい。
    それは都市部でも、田舎でも、同じであった。

    幸い、帝国の侵攻は、ベルシュタッドを落としたことでとりあえずは満足したのか、
    大きな動きに出てくることは無くなり。
    イング王国も、たまに船団を率いて出張ってくるが、上陸するようなことは一切無く。

    それでも、頻繁な牽制は欠かさないので、大いに悩まされることになった。
    対帝国の東部戦線、対イングの北部戦線ともに身動きできず、
    膠着状態に陥ってしまう。

    かくして、ロバートたち遠征軍は、思いのほか長期滞在を強いられる羽目になり。
    ルクセン全土を完全に平定するまで、5年もの歳月を要することになる。

    無論、その間、王都への帰還は叶わなかった。

引用返信/返信
■381 / ResNo.10)  誓いの物語 ♯010
□投稿者/ 昭和 -(2006/10/09(Mon) 14:47:55)



    ブルボン王国が、帝国の動きを封じるため、北部の小国軍を助けるために
    軍を発して、およそ5年の時が過ぎた。

    ブルボン側の見通しの甘さも手伝い、ベルシュタッドを落とした帝国は、
    飛ぶ鳥をも落とす勢いさらにでルクセン、
    ブルボンにも攻勢を仕掛けてくるかと思われたが、ある時点を境にして、
    鳴りを潜めることになった。

    なぜかというと、帝国のさらに東側にある国々で政変が起き、
    西側だけではなく、東側にも注意を向ける必要が出てきたからだ。

    また、手を結んだはずのイング王国との折り合いもつかず、
    半ば喧嘩別れする形で、同盟は有名無実化したのである。
    100年、袂を分けていた相手とは、やはり上手くいかなかったようだ。

    かくして、強大な軍を有する帝国といえども、迂闊に動けない状況へと追いこまれ。
    ブルボン王国、ならびにロバートたちにとっては、不幸中の幸いだった。

    そのロバートであるが、ルクセン領内各地で武装蜂起したレジスタンスへの対応に苦慮。
    一時期には、当座の物資にも事欠くほどの窮地に立たされたが、
    イングと帝国が手切れしたことで補給線が確保され、帝国への警戒を、
    多少は緩めることが出来たおかげで、少しずつ戦線を拡大。

    このほど、ようやく全土を平定し、周囲も尽力した結果、国情も安定。
    ブルボン王都バリスへの報告の途上にあった。

    「………」

    20歳になったロバートは、馬上にて、表情に影を落としていた。

    小国の国土を平定するのに、5年もの時間がかかってしまったことは元より。
    固く誓ったのに果たせなかった約束が、心に重くのしかかっていたのだ。

    (エリザ…)

    脳裏に浮かぶ、花のような笑みを見せる少女。
    あの笑顔を見るのは、もはや叶わぬのではないか。

    帰るべき故国を失った彼女は、今も、バリスの王宮にいる。

    守ってもらうために服属したのだ。
    その約束を破ってしまう格好になったので、人質という枷は取れ、
    今は食客という立場で、つつがなく過ごしているというが…

    (大きくなったんだろうな…)

    彼女もいまや15歳。
    幼い頃でああだったから、さぞかし美しく成長したのだと思う。
    引く手数多ではないのか。

    (いやいや……俺がそんなことを考える資格は無い。
     むしろ、失礼に当たる…)

    今は昔。

    幼いときの約束ほど、当てにならないものは無い。
    例え覚えていたとしても、故国滅亡の責任の一端は、むしろ全責任が自分にはある。
    …とロバートは思っている。

    そんな憎き相手のことなど、今はなんとも思っていないのではないか。
    むしろ、心の底から恨み、顔すら見たくないと思っているのではないか。
    殺してやりたいとすら思っているのではないか。

    はたまた、故国が滅びたショックで、心を患っているかもしれない。
    表面的には明るく振舞っているとの情報は、王都からの手紙によって知りえているが、
    心の奥底まではわからない。

    「…はぁぁ」

    深いため息が漏れる。

    国王への報告と、あることの許しを得るために王都へ行くわけだから、
    エリザと顔を合わせなくてもいいかもしれない。

    だが、そういうわけにもいくまい。
    彼女にとっては迷惑以外の何者でもないかもしれないが、自分には、
    彼女に頭を下げる必要が、責めを負う義務があるのだから。

    「…若。いやいや」
    「アレクシス」

    そんなロバートに馬を寄せ、声をかける男。
    強力な右腕となったアレクシスだ。

    「『陛下』…と、お呼びしなくてはいけませんでしたな」
    「構わないさ」

    彼は苦笑すると、わざとらしく頭を下げた。
    ロバートも苦笑を浮かべる。

    「俺のほうが、まだ慣れてない」
    「左様で」

    ロバートが『陛下』。

    ルクセン王国は、5年前の混乱以降、国王が不在という状況が続いていた。
    このほど国内を平定したので、付き従う家臣たちは、亡き父王の後を継ぎ、
    ルクセンの王位に就くよう促した。

    自然な流れではあるが、ルクセンは今も、ブルボンの麾下にある。
    勝手に王位を継ぐわけにはいかず、その許可を得ることも、今回の王都行きの目的である。

    まだ正式に即位したわけではないが、気の早い家臣たちは、早くもそう呼んでいるのだ。

    「それで、なんだ?」
    「無礼はお許しあれ。…エリザベート殿のことを、お考えでしたか?」
    「……」

    顔色を見れば一目瞭然だった。
    それほど、露骨に顔に出た。

    「陛下…。今さら何を言っても、慰めにはならないやもしれませぬが…
     あのときは、ああするのが最善だったのです。ああするしかなかったのです」
    「……」
    「下手をすれば、我々すら全滅し、ルクセンは帝国の蹂躙を受けていた。
     陛下はそれを防ぎ、時間がかかったとはいえ、外敵の侵入を許さず、
     すべからく国内を平定されたのですぞ」
    「……」
    「これを立派な行いと言わずしてなんと言いいまするか。
     あの決断は『英断』であり、後の世に語り継がれることでありましょう」
    「……」
    「陛下…」

    ロバートは何も言わず、ただただ虚空を見つめていた。
    彼はしばらく、そのまま無言であってが

    「…アレクシス」
    「はっ」

    やがて、呟くように、口を開いた。

    「もう、覚悟を決めたよ。
     どう言い繕おうが、俺が、エリザとの約束を破ってしまったことに変わりは無い。
     結果、ベルシュタッドが滅んでしまったことも、また然りだ」
    「陛下…」
    「許してくれないかもしれない。もしかしたら、酷い罵りを受けるかもしれない。
     だが、俺はそれを受け入れなくてはならない」

    悲しい決意。

    「彼女が俺を殴りたいというなら、殴られよう。
     殺したいというなら、殺されよう」
    「陛下! 何を申されます!」
    「いいんだ。何をされても文句は言えない。
     それだけの権利が彼女にはある。俺は、甘んじて受けなくてはならない」
    「陛下…」
    「それが、俺に出来る、精一杯の償いだ…」

    こうまで言われてしまうと、アレクシスも、何も言い返せなかった。
    ロバートの深い悲しみをたたえた瞳に、何も言えなかった。

引用返信/返信
■382 / ResNo.11)  誓いの物語 ♯011
□投稿者/ 昭和 -(2006/10/10(Tue) 15:01:31)



    バリスに到着したロバートは、さっそく国王ルーイ6世に謁見した。
    ルクセンの平定報告と、即位の許可を求める。

    時間がかかりすぎだと言われたが、充分な援助を出来なかった国の責任もある。
    概ね、好意的に受け止められたようだった。

    ルーイ6世は報告を受け入れ、即位を許した。

    「ふぅ…」
    「とりあえずは、良かったですな」
    「ああ」

    謁見を終え、王の間から出てきたロバートは、ホッと息をついた。
    すぐさま室外で控えていたアレクシスが歩み寄り、会話を交わす。

    「これで正式に、陛下はルクセンの国王ですぞ。
     帰国した暁には、即位式を盛大にやらなければ」
    「いや」
    「陛下?」

    喜々として述べるアレクシスを、ロバートは留めさせる。

    「戦が終わったばかりだ。そんな余裕は、国にも民にもあるまい。
     簡素なもので……この際だから、やらなくてもいい」
    「しかし、それでは、内外に対する威厳が…」
    「そんなもの必要ない。
     俺個人だけへの侮辱で済んで、それで民が幸せになるなら、それでいい。
     わかったな?」
    「は…」

    しぶしぶ受け入れるアレクシスだが、内心では、
    ご立派ですぞと泣いていた。

    「それに…」
    「は?」
    「無事に帰国できるかどうか、わからないしな…」
    「陛下…」

    ロバートの言葉の意味は、すぐにわかった。
    これは本気で、死ねと言われれば死んでしまうだろう、と。

    「さて……審判を受けに行ってくるよ」

    自嘲する笑みを浮かべ、ロバートは、
    現在エリザが使用している部屋へと向かった。




    伝え聞いた彼女の部屋の前。
    当時とは変わっている部屋のドアの前で、ノックするのをためらった。

    「……いかんな」

    覚悟を決めているとはいえ、いざ前にすると、自分を抑えることが出来ない。
    そんな女々しい自分が恨めしい。

    「すー、はー……。よし…」

    深呼吸し、どうにか心を落ち着け。
    ノックしようと右手を上げた、そのとき――

    「ロバートーッ!!」

    「ッ…!?」

    突然、横合いから大声で呼ばれた。

    少し変わったような気もするが、忘れもしない。
    懐かしいあの声。

    ロバートは、おそるおそる、声をかけられた左方向へと顔を向ける。

    「エ……エリザ……?」
    「やはりロバートじゃ。久しぶりじゃな」
    「あ、うん……」

    10mほど先に立っているのは、とても美しい美少女だった。
    少女らしいかわいらしさに加え、女王とでも呼んでしまいそうな気品を併せ持つ、
    絶世可憐な美少女。

    ロバートは思わず固まってしまった。

    室内に居るものと思っていたから、よもや先に声をかけられるとは思わず。
    また、美しく成長した彼女の姿に、見惚れてしまったことも確かだった。

    「どうじゃ。妾も大きくなったであろう? もう子供ではないぞ」
    「あ、ああ…」

    エリザは、成長した自分を見せびらかすように、その場でくるっと1回転。
    長いスカートがふわっと、艶やかな金髪がふぁさっと勢いでたなびき、
    窓から差し込む光が反射して、美しさに拍車をかけた。

    自分のせいで、亡国の姫となってしまった少女。
    いや、今では、『姫』だという扱いでもない。
    ただ、ブルボン王国の保護を受けているという、1人の少女でしかない。

    すべては、自分の責任。

    「……」

    彼女の成長振りに驚き、見惚れてしまったことを加味しても、
    ロバートは何も言えなかった。

    「うん? どうしたのじゃ?」
    「う………その……」

    見る限り、エリザは容姿こそ成長したものの、中身は何も変わっていないように思えた。
    当時のままに、気さくに声をかけてきてはいるが…

    心の中では、なんと思っているのか。
    殺したいほど、憎いと思っているのではないのか。

    しかも、彼女が最初に、自分を呼んだ呼称。

    (今、エリザは『ロバート』って…)

    5年前には呼んでくれていた愛称ではなかった。
    当時は、そう呼ぶことの無いほど、しょっちゅう呼ばれたものだったが…

    それがどうだ。
    言葉、口調こそ優しいものの、やはり本当は、もうなんとも思っていないのではないか。

    そんな葛藤が、ロバートの思考を停止させ、全身を硬直させていた。

    「まあ、立ち話もなんじゃ。入るが良い」
    「あ、ああ…」

    エリザは飄々と歩み寄ってくると、ロバートの隣に立って、ドアを開け。
    さっさと室内へと入っていってしまった。
    彼女の行動に驚きつつ、ロバートも室内へと入り、ドアを閉めた。

    「何か飲むか?」
    「い、いや…」
    「そうか? 妾は紅茶でも淹れるか」
    「……」

    楽しそうな様子でお茶の用意をしているエリザ。
    ロバートは立ち尽くしたまま、その後ろ姿を見ていた。

    「何をしておる。突っ立っていないで、座ったらどうじゃ。
     5年前は遠慮などしなかったであろう」
    「……」

    お茶を入れたカップを手に、エリザはソファーへと腰を下ろした。
    迷ったロバートだが、彼女の対面に座る。

    が、目を合わせることなど出来やしない。
    この状況でそんなことが出来る人間がいたら、訊いてみたいものだ。

    あなたの神経はおかしいんじゃないか、と。

    「うむ、美味い」
    「……」
    「黙ったままで、どうした。何か言うてみい」
    「……」
    「はあ、5年たっても変わらんな。変なヤツじゃ」
    「……」

    エリザはカップを置いて、やれやれと肩をすくめてから。

    「馬鹿者っ!」
    「っ…」

    いきなり大声。
    ビクッと反応するロバート。

    女性特有の甲高い声ではあるが、幼い頃よりは、幾分か音程が下がり。
    高くもあり、それでいて不快感を感じさせない、凛々しくも美しい声。
    そんな声が轟く。

    「妾の国が滅んだのは、そなたのせいじゃ!」
    「………」

    ああ、やはり…

    覚悟していたとはいえ、まだまだ足りなかったらしい。
    全身の血の気が引いていくのを感じた。

    「ベルシュタッドも、共に守って見せると申したではないか!
     あの言葉はウソだったのか? 妾は失望し、絶望したのじゃぞ!」
    「……」
    「妾の帰るところは、もう無いのじゃ…。
     身寄りも無い。皆、帝国軍に捕らえられ、殺されたそうじゃ」
    「……」

    すでに知れ渡っている事実ではあるが、改めて言われると、とても重い。
    なによりエリザ自身の口から語られたことで、それは何倍にも増している。

    「どう責任を取るつもりなのじゃ!」
    「……」
    「何とか申せっ!」
    「……」

    どうしても、何も言えないロバート。

    5年前の、不服そうにぷく〜っと頬を膨らませていた様子と重なってしまうが、
    今はそうではない。本当の本気で、エリザは怒っている。

    無理もない。

    それだけのことをしたのだ。
    怒られて当然なのだ。

    これぐらいで済んでいることを、感謝するべきなのかもしれない。

    「エ…エリザ。俺は……」

    とにかく、謝罪だけでもしなければ。
    謝って済む問題ではないにせよ、誠意だけは、見せねばならない。

    「俺が……俺の判断が原因で、君の国が滅んだことに間違いは無い。
     大きなことを言っておきながら、約束を守れなくて、本当に、申し訳ないっ!」

    土下座をする勢いで頭を下げる。

    「詫びても詫びきれるものではないが……
     俺に出来ることならなんでもする! なんでもするから、言ってくれっ!」

    腹を切るつもりで言ったのに。

    「…ふふっ」
    「っ! え゛……」

    いざ謝りだしたら、エリザの反応はどうだ。
    笑い出したではないか。
    それも、心の底からおかしそうに、爆笑である。

    顔を上げたロバートが見たのも、やはり、笑みを浮かべたエリザだった。

    「エリザ……?」
    「ふふふ、本気にしたか?」
    「え…?」
    「冗談じゃ。妾は怒ってなどおらぬし、そなたの責任を問うつもりも無い。安心せい」
    「………」

    冗談…?
    何がだ…と、ロバートには、すぐに理解できなかった。

    「ふふふ。妾の演技力もたいしたものじゃな」
    「どうして…」
    「なに。罵って欲しそうな顔をしておったから、その通りにしてやったまでのこと」
    「……」

    まったくもってわからない。
    エリザの本心は、いったい…

    混乱するロバートを、ジロリと、眉間にしわを寄せたエリザが睨む。

    「そなたは妾のことを、どういう目で見ていたのじゃ?
     我が国が滅んだからといって、そなたの責任を追及するような、
     そのようなあさましい女じゃと思っておったのか?
     だとしたら訂正せい。妾はそんな女ではないぞ」

    「………」

    責任を問わない…?
    ベルシュタッドが滅んだのは、間接的にせよ、自分の決断が原因なのにか…?

    「事の経緯は、妾も伝え聞いた。
     そなたがあのとき、あれしか取り得る道が無かったことも理解した。
     結果、確かに妾の国は滅んだが、最終的には、帝国も撤退した。
     どこに責められる余地があるのじゃ」

    「だ、だけど……おまえの国は……」
    「わからんヤツじゃな」

    業を煮やして立ち上がるエリザ。
    スタスタと歩いて、ロバートの隣へとやってくる。

    「実はじゃな。後から分かったことではあるが。
     帝国軍の侵攻は電撃的で、あれから援軍を送っても、とても間に合わなかったそうじゃ。
     しかも、そなたの国と同様、裏切り者が多数出て、半ば内部から崩壊したらしい」
    「……」

    ロバートには初耳なことだった。

    内乱中であり、また、エリザとの関係を気にしたアレクシスあたりによって、
    余計なことは耳に入れないほうがいいと判断され、
    意図的にロバートには伝えられなかったのかもしれない。

    恐るべきは、帝国の侵攻速度と、水面下での内部工作のすさまじさである。

    「そなたが、ベルシュタッドのために出来ることは、最初から無かったのじゃ。
     強いて責任の所在を明らかにするのならば、帝国の戦力と作戦を見抜けなかった、
     ブルボンの上層部じゃ。そなたに非は無い。
     むしろ、そんな状況下でルクセンを防衛し、国内を平定したそなたは、
     褒められて然るべきであろう」
    「………」
    「それは妾とて、確かに、故国が滅びて、何も思わなかったわけではない。
     しかし、あそこで滅びるというのは、天命だったのじゃろう」
    「………」
    「じゃから、そなたが責任を感じることは、一切ないのじゃ」
    「エリザ…」

    エリザの顔を見上げるロバート。

    彼女は笑っていた。
    顔つきこそだいぶ大人びたが、子供の頃、そのままの笑顔で笑っていた。

    「妾は、そなたのことを誇りとすら思うぞ」
    「え…」
    「繰り返すが、厳しい状況の中、帝国軍を追い払い。
     内乱状態に陥った国を平定し、立派に統治しておるではないか。
     王都で安穏と暮らし、したくても何も出来ない妾とは大違いじゃ」

    エリザをそんな状況にしてしまったのは、他ならぬ自分なのに。
    それこそ、感情に任せるまま罵倒し、何をしても構わないというのに。

    エリザは、笑っている。

    「さすがは妾の惚れた男。うれしい限りじゃ」
    「………」

    ロバートは数秒間、エリザの笑顔を見つめて。

    「俺は……いいのか……?」

    ついに堪えきれなくなる。
    彼の目から、一筋の涙が零れ落ちた。

    「許されても、いいのか…?」
    「許すも許さぬもなかろう。罪になるようなことなど、はじめから無いのじゃ」
    「エリザっ…!」
    「ああ、大の男が人前で涙を見せるでない。うつけが」

    エリザは手を伸ばし、ロバートの涙を拭う。

    「苦労したんじゃな…。顔を見ればわかるぞ」
    「……」
    「確信して声をかけたが、少なからず疑念を持たざるを得なかったほどじゃ」

    5年という歳月の重み。
    そして、人間、環境が変われば、顔つきもそれなりに変化する。
    その環境が厳しければ厳しいほど、顔にも出るというものだろう。

    彼の置かれた環境がどのようなものであったかは、もはや説明するまでも無い。

    「ロバート…」

    エリザは、ロバートの頭に腕を回し、抱き込んで。
    やさしく、慈愛に満ちた言葉を贈る。

    「ご苦労じゃったな」
    「……う」

    今度こそロバートは堪えきれなくなった。
    懐かしいエリザのぬくもりに包まれながら、生まれて初めて、声を出して泣いた。

引用返信/返信
■426 / ResNo.12)  誓いの物語 ♯012(終)
□投稿者/ 昭和 -(2006/10/11(Wed) 15:18:02)




    「落ち着いたか?」
    「…ああ」

    しばらくして。
    ロバートの気持ちは落ち着いたらしく、嗚咽する声は聞こえなくなった。

    「みっともないところを見せちゃったな…」
    「なに、妾は気にしないぞ。
     むしろ妾の前では、裏表の無い、本当のそなたを見せてくれるとうれしい」
    「そうか…」

    そう言ってくれると、こちらとしてもうれしい。

    翼を休める場所というか、弱音を吐ける相手というか…
    5年間、重いものを背負ってきただけに。
    自分が先頭に立って、励まなければならない立場だっただけに。

    そのありがたみがよくわかった。
    じかに感じられるぬくもりが心地よい。

    今、はっきりとわかった。理解した。

    自分にはこのぬくもりが、温かさが、エリザが必要だ。
    人質として連れてこられたにもかかわらず、その後もがんばれたのは、
    常に、エリザが隣にいてくれたからだ。

    遠征している最中も、エリザが側にいてくれたら、
    どんなに心強かったことだろう。

    (…ん? じかに?)

    ふと我に返った。

    自分は今、どんな状況に置かれている?
    エリザに頭を抱き締められている。

    すなわち、座っているのと立っているのとの違いで、自分の顔は今、
    エリザの胸に埋まっている。

    (こ、この状況は…)

    非常にまずい。
    このぬくもり、やわらかさ、いい匂いは、つまり、エリザの…

    「おわっ!?」
    「なんじゃ、突然」

    どうにもまずい。
    ロバートは思わず飛びずさって、ソファーへとひっくり返った。

    エリザは、それほど力を入れて抱き留めていたというわけではなかったようだ。
    それが幸いしたのだが、急に振り解かれて、不機嫌そうな顔になる。

    「いや、その…」
    「なんじゃ。はっきり言うてみたらどうじゃ」
    「あ〜…」

    なんと言ったものだろう。
    説明するにも困るが、このお姫様は、5年前とまるで変わっていない。
    余計に困ってしまった。

    「ロバート?」
    「ああもうっ」
    「あ…」

    もう、こうするしかあるまい。
    立ち上がったロバートは、エリザの身体を抱き締めた。

    今度は逆に、エリザがロバートの胸に顔を埋める。

    「役割が逆だろっ」
    「…うむ」

    ロバートは、気恥ずかしさをごまかす意味も含めて、必要以上に声を出した。

    エリザは多少、納得しかねる部分もあったようだが。
    すぐに、自らからも腕を回して、うっとりと身体を預けた。

    「5年は……長かったぞ」
    「すまん…」

    グサリと突き刺さる言葉。
    謝るしか、行動のとりようが無い。

    この5年間、個人的なものでは、2人の間に交流は無かった。

    手紙のやり取りくらいは出来そうだが、
    ロバートは、約束を破ってしまったことで、連絡を取りづらくなってしまい。
    エリザは、戦陣にいるロバートに対して遠慮をしてしまい。

    なので、文字通り、5年ぶりとなる交わりだったのだ。

    「そなた、また背が伸びたな」
    「ああ、そうかもしれない。もう止まったけどな」
    「たわけが…。せっかく追いついたと思ったのに、これでは形無しではないか」
    「いや、自分じゃどうにもならないだろ…」

    当時、ロバートはやや遅い成長期の真っ只中にあった。
    エリザも成長中であったにせよ、5歳という年齢差は、如何ともしがたかったのだ。

    が、彼女も成長期を経て、大きく成長を遂げている。
    それでも、ロバートの背丈に追いついたというわけではなかったが、
    正しい男女差というところだろう。

    「でも、おまえも大きくなったじゃないか。見違えたぞ」
    「うむ」

    ロバートは20歳。エリザは15歳になった。
    もう子供だと言われる年齢ではない。

    「それに、おまえはまだ、伸びる余地があるかもしれないぞ?」
    「うむ、今に見て……いや、これでよい」
    「…?」

    年齢的なことを考えると、ロバートがこれ以上、背が伸びることは無いだろう。
    だが、エリザにとってみれば、まだまだ可能性を秘めている。

    乗ってくるかと思いきや、エリザは否定した。

    「ん? 大きくなりたくはないのか?」
    「今のままで良い。これ以上、伸びたら…」
    「伸びたら?」
    「……」

    エリザは言葉を途中で切り、ロバートの背中に回している腕に、
    ほんの少し力を込めて。
    ボリュームも少しだけ下げて、囁くように続きを言った。

    「そなたの胸に抱かれることが、出来なくなってしまう」
    「……」

    再び返事に窮する。

    確かにエリザの言うとおり、今のバランスがちょうど良いように思えるが。
    本当に、なんと返したものか。

    「…なあ、ロバート」
    「なんだ? いや、ちょっと待ってくれ」
    「…?」

    抱き合ったまま、会話が再開されるものの。
    ロバートが制止を要求。首を傾げ、顔を上げるエリザ。

    「なんじゃ?」
    「いや、まあ、なんだ……」

    照れくさそうにそっぽを向くロバート。
    だが、覚悟を決めて、見つめ返しながら尋ねる。

    「『ロビー』とは……もう、呼んでくれないのか?」
    「あ…」

    そう、そうなのだ。
    気になっていたのだが、もう、愛称を使ってはくれないのか?

    たった今、自分を呼ぶときもそのままだった。

    「どうして、ロビーと呼んでくれないんだ?」
    「それは、じゃな…」

    今度はエリザが照れる番だった。
    ほのかに赤くなって、視線を逸らす。

    「妾たちも、もう子供ではないのだから……その、なんじゃ。
     そう呼ぶのはやめたほうがいいかと思ってじゃな…。
     こ、子供っぽくはないか?」
    「……」

    どんな理由があるのかと思ったら。
    ロバートは一瞬だけ、驚いたかのように目を丸くして。

    「な、なんとか申せ」
    「…くははっ」
    「!! わ、笑ったな!」

    堪えきれずに吹き出した。

    当然、エリザは激昂する。
    赤くなっていた顔が、さらに赤くなった。

    「無礼者! 正直に申したのに、なんじゃその反応は!」
    「い、いやすまん、悪かった」

    笑ってしまったのは確かに失礼だ。
    真摯に謝って、どうにか機嫌を直してもらう。

    (そうだよな…。エリザも、そういうことを考える大人になったんだよな…)

    脳裏に蘇る、5年前の記憶と見比べながら。
    立派な成長振りを喜ぶのと同時に、一抹の寂しさを感じた。

    つくづく、常に一緒にいて、一緒に成長できたら、どんなに良かったかと思う。

    「エリザ。構わないから、昔のように呼んでくれよ」
    「…よいのか? 子供だと思ったりしないか?」
    「しないよ」
    「…わかった。……ロビー」
    「ああ、エリザ」
    「…うむ。実は妾も、そう呼びたかった」

    エリザをもってしても、恥ずかしさには勝てなかったようだ。
    気恥ずかしそうに、遠慮がちにそう呼ぶ姿も、それでもうれしそうに頷く姿も、
    とてつもない破壊力を秘めているものだ。

    「……エリザ」
    「なんじゃ、ロビー?」

    ロバートも、その魅力には勝てない。
    いや、今に始まったことではなく、昔からのことだ。

    「5年前の誓いは守れなかったが…」
    「じゃから言うたではないか。それはもう、気にせずともよいと」
    「いや、そうじゃなくて。
     その……新たな誓いを、立てさせてはもらえないだろうか」
    「新たな誓い?」

    後から思い返してみると、クサい上に、よくもこんなことを堂々と言えたものだと、
    そんなふうに考えてしまうことを、このときは自然と、スラスラと言えたのだ。

    「俺は……今度こそ、誓いを守る。
     痛恨の極みでベルシュタッドは守れなかったが、おまえは、エリザだけは、
     俺が生涯を賭けて守る。絶対だ」

    「ロビー…」

    相手の名を呟くことしか出来ない。
    それほど衝撃的で、思いも寄らぬ、うれしい言葉だった。

    「誓わせて……もらえるか?」
    「もちろんじゃ」

    だから、にっこりと微笑んで、頷いた。

    「良かった…。断られたら、これからの人生における目標を見失うところだったよ」
    「何を申すか。国主として、そなたには、ルクセンの民を導くという仕事があろう」
    「そうなんだけど…」
    「まったく、うつけめ」

    意地悪そうに言うエリザだったが、内心はうれしくてたまらない。
    一国と自分を天秤にかけるような物言いで、本来ならば、国王として失格な言動であるが、
    それだけ、自分のことを想ってくれているということなのだ。

    「それに、妾が否定するとでも思ったのか?」

    なんてことはない。
    最初から、決まりきっていたことだ。

    「妾は5年前すでに、そなたに妾のすべてを託したつもりじゃ。
     そなたの申し出を断ることなど、絶対にありえん」
    「そうか、ありがとう…」
    「これ。男が1日に2回も涙を見せるでない」
    「す、すまん」
    「さて」

    ゆっくり身体を離す2人。

    「茶を淹れなおすとするか。積もる話もあるし、ゆっくり話をしたいぞ。
     先ほど淹れたものはとっくに冷めているだろうし、そなたの分も用意せねばな。
     先ほどのそなたは、茶どころではなかったようじゃからの」
    「はは…」

    茶を淹れなおしに向かうエリザを、ロバートは苦笑しながら見送る。
    確かにその通り。ものの見事に、心情を読まれていたようだ。

    お茶を淹れてもらい、しばし、談笑する。
    思い思いに、それぞれの5年間を語り合った。

    「王都には、どれぐらいいられるのじゃ?」
    「んー。国元も心配だし、あまり長くはいられないな。
     まあ他にやることもあるから、2、3日というところか」
    「2、3日か…。
     3日たったら、また、そなたと離れなければならんのじゃな…」
    「……」

    ロバートはルクセンの国王。
    平定したとはいえ、まだまだ不安分子が渦巻いている。
    また、それが無くとも、王都バリスでのうのうと暮らせる立場ではないのだ。

    一方、祖国を失くしたエリザは、他に行くところが無い。
    バリスを離れるわけにはいかない。

    「寂しいの…」
    「エリザ…」

    せっかく再会できたというのに。
    また、離れ離れになってしまうのか。

    寂しそうな、悲しそうなエリザの声、表情に、たまらなくなったロバートは。

    「…なあ、エリザ」
    「ん?」

    一大決心を固めた。

    「おまえさえ良ければ……だが」
    「うむ」
    「一緒に、来ないか?」
    「なんじゃと?」

    反射的に聞き返すエリザ。
    聡明な彼女をもってしても、瞬時に、ロバートの意図を飲み込むことは出来なかった。

    「どういう意味じゃ?」
    「ああ、普段は鋭いくせに鈍いな…。
     いや、俺が卑怯なだけか…。わかった、はっきり言う」
    「わけがわからんぞ、ロビー」

    エリザの眉間にしわが寄る。
    直後、そのしわは解消され、逆に、驚きに染まることに。

    「エリザ」
    「う、うむ」

    真正面から見つめられ、少し怯んだ。

    「俺と一緒に、ルクセテリアへ来てくれないか。
     もちろん、俺の后として」
    「な……き、后!?」
    「王国が許してくれるかわからないが…
     俺は、おまえを后として迎えたい。どうだろうか?」
    「あ……う……」

    エリザは混乱状態。
    回転の早い頭脳が、このときばかりはあちこちで断線を起こし、ショートしていた。

    「エリザ?」
    「…す、すまぬ。少し我を失ってしまったようじゃ…」

    はー、はー、と自分を落ち着かせるようにして深呼吸し。
    早くなった心臓の鼓動も、なんとかセーブして。

    「なんだ。5年前には、おまえから言い出してきたことだぞ」
    「と、突然すぎるのじゃ! ムードというものを考慮せい!」
    「はいはい、次は善処するよ」

    もはや開き直ったロバート。
    平然と先を続けた。

    「それで、答えは?」
    「5年前から決まっておる!」

    エリザは、対抗するように、努めて冷静を装って。
    満面の笑みを浮かべ、わずかに涙を潤ませながら。

    「妾でよければ…いや、妾以外に、そのセリフを使うことは許さぬ!」
    「使わないよ」
    「うむっ。愛しておるのじゃロビー!」

    将来、自分の人生を回想することがあったとすれば。

    このときの笑みが、泣き笑いの表情ではあるが、人生で1番の笑顔であったと、
    確信を持って言えることだろう。





    2人の前には、乗り越えるべき山が、いくつも立ちはだかっていることだろう。
    …だがしかし。

    例えその山がどんなに高くても、どんなに険しくても。
    2人であれば乗り越えていける。どこまでも行ける。

    そう、信じて――

    誓いを立てようではないか。
    未来永劫保たれし、決して破れることの無い…

    2人の、誓いを。





    ――誓いの物語 完?









    <あとがきという名の言い訳>

    不完全燃焼で終了です。(え?

    本当は、5年間の出来事とか、2人のその後とか、大陸の趨勢とか、
    気になることが山積みなので、書いてみたいところなんですけど…

    いかんせん、ネタと時間がありません。
    練りこみも全然足らないところですし、書くのは厳しいかなーと…
    書くにしても、まずは、『黒と金と…』ほうを終わらせてからですかね…

    何はともあれ、こんな駄作に付き合っていただいた皆様。
    どうもありがとうございました。

引用返信/返信
■444 / ResNo.13)  外伝『エリザの5年間』
□投稿者/ 昭和 -(2006/10/18(Wed) 18:10:13)
    2006/10/19(Thu) 16:54:13 編集(投稿者)


    外伝 エリザの5年間





    帝国軍の、北部小国軍への侵攻を阻止するため、派遣された遠征軍。
    彼らが大勝利を収めたと報告されて、はや1ヶ月が経過していた。

    もちろん本当の情報を知る上層部は、それを受けての対応を迫られ、
    援軍などの準備を整えている最中。
    だが、他の多くの者たちは、そういった情報はまるで知らされていなかった。

    「のう、リース」
    「なんでございましょう姫様?」

    自室にて、窓際に立って外を眺めながら、侍女を呼ぶエリザ。
    彼女も侍女もまた、大多数の者のうちの1人である。

    「先の戦には、勝利したはずじゃな」
    「はい。そのようにお聞きいたしました」
    「だったらなぜ、もう1ヶ月も経つというのに、戻ってこぬのじゃ?」

    戦闘には勝利した。
    勝ったというからには、帝国軍を壊滅させ、追い払ったのではないのか。

    普通ならば、早々に凱旋帰国、という手筈になるところが、
    いまだ音沙汰が無いばかりか、帰ってくる気配すら感じられない。

    「それに、祝勝気分になっても良いものじゃが…あ、いや、
     世間はそのような風潮で溢れているらしい。
     じゃが、王国の上層は、上に行けば行くほど、例えば宰相殿や陛下などは、
     そんな空気は微塵も出しておらぬ」

    戦勝の報告は、真っ先に上がっているはずだ。
    なのに、祝う雰囲気どころか、なにやらピリピリしているような空気を感じるのだ。
    少なくともエリザはそう感じた。

    「そう…でございましょうか?」

    しかし、この侍女が首を傾げたように、一見は祝勝ムードになっている。
    あくまでエリザ個人が、かすかに違和感を覚えたに過ぎず、
    確たる証拠があるわけでもない。

    「難しいことに、なっておらねばよいのじゃが…」
    「姫様、失礼ながら、それは心配のし過ぎというものにございます」
    「そうかのう?」

    エリザは外を眺めたままで、直接に表情を窺うことは出来ない。
    が、反射して窓に映る顔は見える。

    侍女は、エリザの眉間にしわが寄ったのを見て、努めて冷静に、明るく声をかけた。

    「まだ1ヶ月ではございませぬか。
     きっとロバート様がたは、戦後の処置などでお忙しいのでしょう」
    「戦後処理に、1ヶ月もかかるものなのか?」
    「さあ、それは私にはなんとも…。
     今回は多数の国が絡んでいることですから、その分、複雑なのかもしれません」
    「むぅ、そういうものなのか…」

    知識は色々と仕入れているエリザだが、もちろん、実践した経験は無い。
    ましてや、専門外である戦争の事後処理のことなど、知る由も無かった。

    だからこのときは、そういうことなのかと、納得することも出来たのだが…

    さらに1ヶ月が過ぎ、2ヶ月が過ぎた。
    軍の派遣からは3ヶ月が経とうとしている。

    現在になっても、遠征軍が帰還するといった情報は無いし、気配も無い。

    「これは絶対、何かが起きておるのじゃ…」

    1ヶ月経過の時点で疑っていたエリザ。
    この時点になると、もう、疑惑は確信に変わった。

    だが、情報はまったく得られない。

    「直接、宰相殿や陛下にお聞きしてみるしかあるまい」

    このままでは埒が明かないと判断したエリザは、周囲が止めるのも振り切って、
    直接に尋ねてみることにした。
    まずは、王国ナンバー2、宰相シャルダン卿の部屋へと訪れる。

    「おや、エリザベート殿。どうかなさいましたか?」

    部屋の前で彼女を出迎えたのは、ちょうど中から出てきた、秘書官の1人だった。

    「宰相殿に尋ねたいことがある。取り次いでいただけぬか?」

    エリザは堂々と、とても10歳とは思えないような態度で、面会を申し込んだ。
    秘書官もそれはわかっているので、たいして驚きもせずに応じる。

    「宰相閣下に? 今日はお忙しいので、また後日――」

    そう言いかけると。

    「構わぬ」
    「さ、宰相閣下!」
    「宰相殿」

    急にドアが開いて、中から顔を覗かせた宰相本人が、許可を出したのだ。
    秘書官は驚いて慌てふためき、エリザには喜色が浮かぶ。

    「入るが良い、エリザベート殿」
    「うむ。感謝するぞ宰相殿」

    「お、お待ちを!」

    エリザを招き入れ、さっさとドアを閉めようとする宰相。
    ドアに手をかけて、秘書官は大慌てで阻止した。

    「なんだ?」
    「きょ、今日はお忙しいはず。書類も溜まっておりますし、スケジュールも…
     畏れながら、ご会談なされている時間などありません!」

    ここ最近、宰相の忙しさは、特に増している。

    現実問題として、頭の痛い遠征軍のことがあり、対帝国のことや、
    帝国と同盟したイングへの対処など、解決するべき課題が山積みなのだ。
    秘書官が言ったことも当然なのだが

    「30分程度ならば構わぬ。その分、私の睡眠時間が減るだけだ」
    「し、しかし、ただでさえ閣下はお忙しい身の上。
     少ない休息を、さらに削るようなことになっては…」
    「しつこいぞ。下がれっ!」
    「は、はい!」

    宰相は彼を一喝。
    問答無用で下がらせると、ドアを閉め、エリザに座るように薦める。

    「よろしいのか?」
    「なに。それほどヤワには出来ておらんよ」

    ソファーに腰を下ろしたエリザは、確認するように尋ねたが、
    宰相は笑い飛ばした。

    「これしきで倒れていては、宰相など務まらん」
    「左様か。だが、くれぐれも、ご自愛なされるよう」
    「うむ、そうしよう」

    宰相も対面に座って、場は整った。

    「それで、何用かな?」
    「宰相殿にお聞きしたことがあるのじゃ。率直に申し上げる」
    「遠征した軍勢のことかな?」
    「…! どうしておわかりに」
    「わかるさ」

    訊きたかったことをズバリ言い当てられたエリザは、目を丸くする。
    はっはと笑う宰相。

    「そなたの顔に出ておるぞ。まあ考えてみれば、そなたはロバートとは
     仲が良いようだから、心配するのも当然と言えば当然か」
    「もちろん、ロビー…ロバートのこともあるのじゃが……
     妾が訊きたいのは、それを含めて、今どうなっているのかということじゃ」

    子供らしく、ポッと顔を赤らめるエリザだったが、
    すぐに真顔に戻って、訊きたかったことを口に出した。

    「勝ったというのに戻ってこぬのは、いささかおかしいのではないか?
     帝国がまだ動きを見せているというなら話は別じゃが、そんなこともないのじゃろう?
     戦後処理があるのはわかるが、あまりに時間がかかりすぎておる。3ヶ月じゃぞ?
     何かがあったとしか考えられぬ。
     じゃが、そのようなことは、どこからも伝わってこぬので…」

    「私のところに、直接、訊きに来たということか」
    「ご慧眼じゃ」

    宰相の言葉に頷くエリザ。
    その瞳は、宰相をジッと見据えている。

    「宰相殿、教えて欲しい。
     遠征軍の現状はどうなっておるのじゃ? 我が祖国、ベルシュタッドはどうなったのじゃ?
     教えてたもれ。この通りじゃ」

    「………」

    エリザは精一杯に訴えて、頭を下げた。
    これを受けた宰相は、しばらく無言でいたが

    「わかった」

    やがて、小さく首肯した。

    「教えていただけるのか?」
    「ああ。聡明なそなたのことだから、ここで言い繕っても、いずれはわかることだ。
     ならば、この場で知らせたほうが良かろう」
    「……」

    エリザは喜んだが、内心では、とても複雑な思いに支配されている。

    確かに、教えてもらえるのはうれしい。
    うれしいが、この言いようでは、彼女が踏んでいたように「何かが起こっている」と、
    宰相自ら認めたようなものだからだ。

    「むしろ、もっと早くに訊きに来るかと思っていた。
     3ヶ月か。遅いくらいだったな」
    「宰相殿…」
    「ああすまぬ。これから申そう」

    ひとこと謝った宰相。
    衝撃の事実を、語って聞かせた。

    「え…?」

    みるみる、エリザの顔は蒼白となっていく。

    「ベルシュタッドは……滅んだ……?」
    「帝国軍の侵攻は、当方が予想した以上にすさまじいものだった。
     わずか数日で首都にまで達し、公国内部に多数の裏切り者が出たこともあって、
     呆気なく陥落したそうだ」
    「……」
    「ベルシュタイン大公以下、政府要人はすべて、帝国に捕らえられるか、
     殺害された模様だ。お悔やみ申し上げる」
    「……」

    エリザには言葉も無い。
    視線を伏せ、ただただ、衝撃に支配されている。

    重苦しい沈黙が続いた後。

    「ロビーは…?」

    ハッと顔を上げて、涙が滲む瞳を向ける。

    「ロビーは、何をしておったのじゃ…?
     あやつは、妾の国も、共に守ってくれると申しておった…」
    「そうか。そのような約束をしていたのか」

    震える声で尋ねる。
    宰相はひとつ大きく頷き、目を閉じた。

    「残念だが、彼ら遠征軍の力を持ってしても、帝国軍を防ぐことは出来なかったのだ」
    「どうしてじゃ…? 戦には勝利したと…」
    「直接ぶつかった戦闘には勝った。いや、敗北寸前の痛み分けといったところか。
     損耗が激しく、自国、ルクセン領を守ることで精一杯だった。
     それとは別に、帝国軍は別働隊を有していて、それがベルシュタッドへ雪崩れ込んだ」
    「……」
    「また、ルクセテリアでは、帝国軍に呼応して、大規模な反乱が起こったとの
     情報もあってな。イングが帝国に付いたりと、八方塞がりだったのだ。
     こんなことを申せた義理ではないが、彼を責めないでやってくれ。
     ロバートは初陣であり、非常に厳しい情勢の中で良くやった」
    「……」

    エリザは再び固まっている。
    そんな中、いったん席を立った宰相は、自分の机まで言って何かを取り、
    エリザの目の前へと置いた。

    「詳細は、これを読んでくれ。検討もすでに済んでいる」
    「……」

    おそるおそる、おぼつかない様子で、置かれた書類に手を伸ばすエリザ。
    宰相は、彼女に向かって頭を下げた。

    「すまぬ。当方の見込みが甘すぎたようだ。
     もう少し情勢を見極め、充分に検討してから、軍を興すべきだった。
     責任はすべて、この私にある。申し訳ない」

    「………」

    無言だったエリザは、不意に視線を合わせると。

    「宰相殿に謝ってもらっても、我が国は、死んだ人間は戻らんのじゃ…」
    「すまぬ…」

    蚊の鳴くような声で、呟くように一言。
    ずしりと響く、重い言葉だった。






    「姫様っ!?」

    自室に戻ったエリザは、そのまま有無を言わさず、驚く侍女を追い払って。
    自分のベッドへ飛び込んだ。

    「…っ」

    嗚咽する声が聞こえてくる。

    「父様……母様……」

    ほとんどの要人が捕縛、殺害された。
    ということは、大公の一族などは、その筆頭だということだろう。
    つまり、もう、この世には…

    「うぅぅ…っ…」

    嗚咽がさらに激しくなる。

    今は、故国を滅ぼした帝国に対する怒りも、約束を違えたロバートに対する怒りも無く。
    ただただ、愛する肉親を喪った悲しみだけが、彼女の中にあった。

    「うっ……うあぁあぁあっ……!」

    こんなに泣いたのは、生まれ出でたそのとき以来ではないか。
    のちにそう思うほど、エリザは声を上げて泣いた。






    数時間後。

    「……?」

    日が暮れるまで泣いたエリザは、不意に何かに気付いた。
    分厚い書籍状になった書類が、目と鼻の先に落ちている。

    宰相からもらった、今回のあらましの詳細報告書。

    「……読んでみるか」

    むっくりと身体を起こし、手を伸ばした。
    続けて、ベッドサイドに置いてある明かりにも火を灯し、準備を整える。

    こうなった以上、現実は現実として、受け入れねばならない。

    現実から逃げたり、責任を転嫁したりすることは卑怯者のすることだと思うし、
    彼女自身、そんな人間ではない、そんな人間にはなりたくないと思っている。

    楽になるのは簡単なのに、エリザはあえて、茨の道を選択した。
    吹っ切れたというより、絶望の境地にあったことがその要因だろう。

    「……」

    彼女は、食い入るように、一言一句見逃すまいと、報告書に没頭する。

    途中、侍女が食事だと呼びに来たが、無視した。
    いや、無視したわけではなく、集中していたために気付かなかったのだ。

    夜空に星がきらめくようになっても、その意欲は衰えない。
    むしろ精強になっていく。

    「せめて……真実を……」

    今さら、どうにもなりはしないが。
    ならばせめて、本当のことを、真実を知りたい。

    宰相が言ったように、ロバートは、本当に責められはしないのか?
    ベルシュタッドは、本当に、滅ぶべくして滅んだのか?
    何か、他に取りうる道があったのではないか?

    「………」

    悲しみや怒りを忘れるよう、狂ったかのように読み進める。

    びっしりと記載された、数十ページにも及ぶ報告書。
    すべてを読み終える頃には、日付が変わっていた。

    「……」

    パタンと、報告書を閉じるエリザ。
    読み終えた感想や、いかに。





    その後エリザは、三日三晩、誰とも会わず誰とも話さずに、
    食事も睡眠もロクに取らないで、報告書の解析に没頭した。

    1度読んだだけでは把握できないことも、繰り返し読むことで、見えなかったことも見えてくる。
    そんな作業を続けたのだ。

    そして、4日目の朝、ようやくひとつの結論に達する。

    「姫様っ!」

    4日ぶりに開いた部屋のドア。
    心配して泣きそうになった侍女が、開いた途端に飛び込んでくる。

    「ああ、リース…」
    「姫様! こんなにおやつれになられて……ああっ、目の下にはクマも……」

    頬はこけ、睡眠不足が祟り、目の下には明確なドス黒いクマ。
    侍女が騒ぎ立てる中、エリザ自身は、さっぱりとした爽快感、満足感で一杯だった。

    「妾は……悟ったのじゃ……」
    「な、何をでございますか? ああそんなことより、早くお休みに――」
    「………」
    「姫様ぁっ!?」

    謎の一言を残して、エリザは夢の世界へと落ちていった。
    そのあと、彼女は丸1日、こんこんと眠り続けたという。





    エリザが宰相と面会して、真実を知ってから、2週間が経過した。

    無理をしたことで体調を崩し、療養していたエリザ。
    このほど全快して、再び宰相との面会を申し込んだ。

    前回のような押し掛けではなく、きちんと正式な段取りを踏んだ上での面会だ。
    宰相も了承し、今日この後、面会は行なわれる。

    両者ともに、それなりの覚悟を持って臨んだ会談になる。

    エリザにしてみれば、怒りや非難を表明して当然。
    宰相側は、それに見合う保証や謝罪をしなくてはならないことになる。

    どれも、相応の覚悟が伴うことであろう。

    「宰相殿、失礼する」
    「ああ」

    部屋へと通され、堂々と入って行くエリザ。
    前と同じように、ソファーへと腰を下ろし、宰相も対面に座った。

    「もう身体のほうはいいのかな?」
    「充分に癒えたようじゃ。宰相殿には、薬を送っていただいたとか。
     おかげでこの通り元気になった。助かったのじゃ」
    「なに、礼には及ばぬ」

    高熱を出して寝込んだエリザ。
    それはいけないと、宰相が贈った薬が効いて、病状が改善したという。

    まずはそんな雑談から入って。
    お茶を淹れてきた秘書官が去ったあと、これからが本番だ。

    「改めて…。以下の言葉は、国王陛下のお言葉だと思われたい」
    「承る」

    宰相は、懐から預かっていた封筒を取り出し、封を切る。
    中身は、国王からの書簡であろう。

    「こたびの戦で、我がほうの力およばず、ベルシュタッドが滅んだことはまことに遺憾であり、
     痛恨の極みである。ブルボン王国国王ルーイ6世は、深く哀悼の意を表するとともに、
     ベルシュタイン公の遺児エリザベート殿には、謝罪すると同時に、今後についても
     保証するものとする。…以上だ」

    「謝罪を受け入れよう」
    「すまぬ」

    代読とはいえ、国王による正式な謝罪である。
    これを受け入れなければ、いかに庇護国であろうと、外交問題になるところだ。
    エリザは頷いた。

    前回の会談から間があったため、宰相から国王へ、
    エリザが真実を知ったと伝わったのだろう。
    ブルボン側から、何かしらの正式な回答があることは、予測の範囲内だった。

    「こう言うのもなんだが、それでいいのかね?」

    あまりに呆気なくエリザが頷いたものだから、
    宰相のほうが戸惑ってしまったようだ。

    「何がじゃ?」
    「…いや、失礼した。今の質問は忘れて欲しい」

    本人がいいと言っているのだから、無理に蒸し返すこともあるまい。
    そう思って、宰相は撤回した。

    「ただし、尋ねたいことがある」
    「なにかな?」
    「『今後についても保証する』とのことじゃが、これは、どこまで含まれるのであろうか?
     そちらの落ち度で我が国は滅んだわけじゃから、当然、
     晴れて再興するとなった暁には、充分な手は貸していただけるのであろうな?」
    「もちろんだ」

    ベルシュタッド公国は消滅したが、まだエリザが残っている。
    直系の血筋を持つエリザが健在なので、まだ再興の望みは残されているのだ。

    「当方としても、ベルシュタッドを奪われたままにしておくつもりは無い。
     いずれ必ず、奪還のための軍を向けることになるだろう。
     そのときには、そなたにもひと働きしてもらうことにはなるがな」
    「そのときが楽しみじゃ」

    王国にとっても、エリザの存在は重要である。
    ベルシュタッド奪還においては、旗頭的な役割を担える唯一の人物であるし、
    そのあとの統治にも、何かと重要であろう。

    賢いエリザには、これだけのやりとりでもそこまで読めてしまう。
    だが、政治的な意味を多分に含んだ文言ではあったが、強く抗議できる立場ではないし、
    抗議して見放されてしまっては、そこで一巻の終わり。
    王国の手を借りなければ、ベルシュタッドの再興も無い。

    エリザは、努めて冷静を装った。
    いや、このときの彼女の感情を、動かすほどのことではなかった。

    「そなたからは、何か無いのかな?」
    「…では」

    宰相から促されて、エリザは口を開く。

    「報告書は読ませていただいた。
     穴が開くほど読み、よく吟味した結果」
    「うむ」
    「妾は、誰の責任も追及しないことに決めた」
    「…ほう」

    これには、少なからず、衝撃を受けたようだ。
    滅多なことでは動じない宰相の顔に、ありありとそのあとが見て取れる。

    「報告書を読み、確かめれば確かめるほど、今回の一件、
     如何ともしがたいということがわかったのじゃ。
     ロビーがああするしかなかったということも、ベルシュタッドが滅んだということも、
     あの時点ではすべて必然。避けられぬ事態だったのじゃ」

    晴れ晴れとした顔で告げるエリザ。
    三日三晩、ほとんど徹夜で考え達した結論だけに、重みがある。

    「強いて言うなら、これは天命。天に逆らうことは出来ぬ」
    「そうか…。強いな、そなたは」

    この年で、こんなことを言えるとは。

    エリザの精神年齢がおそろしく高いことは認識しているが、ここまでとは思わなかった。
    祖国を失い、家族まで喪って、ここまで言える人物はそういない。

    宰相は素直に感心し、感動すら覚えたのだが。

    「妾は、強くなどない」

    エリザ自身は否定する。

    「ただ周りに流され、すべて後付けの結論に過ぎぬ。
     あとからならば、なんとでも言えるのじゃ。じゃが…」
    「…?」
    「例え誰かが悪いとなったときとて、一方的に誰かが悪いと決め付けるのは、
     良くないと思っただけのこと。あちらにはあちらなりの理由があって、
     こちらにも理由がある。運悪く片方が失敗したわけだが、
     ただ罵るだけでは何も解決せぬ。そんな人間には、妾はなりたくない」

    「…そうか」

    頷くことしか出来ない宰相。
    この年にして早くも、大気の片鱗を見たような気さえする。

    (もしかしたら王国は、とんでもない者に、手を貸しているのかもしれぬ。
     将来、王国と並ぶ、いや、それ以上となりうる人物に…)

    冗談ではなく、本当にそう感じた。

    「本当のところは、王都にいるだけで何も出来ない妾には、
     そんなことを言う資格は無いと思っているのも、一因なのじゃがな」

    どちらが本音で、どちらが建前なのかはわからないが。
    両方とも、エリザの本心であることは間違いなかろう。

    「じゃから、ロビーには、胸を張って帰ってきてもらいたいと思っている」
    「うむ…」

    ベルシュタッドの人間からは、相当のバッシングを受けるであろうロバート。
    下手をしたら、王国内部からすら、彼の決断を非難する声は上がるかもしれない。

    しかし、こうして擁護する、称える声があるのだ。
    それも、もっとも親しいものからというなら、効果は覿面だろう。

    (ロバートよ。早くケリをつけて戻って来い)

    宰相は心から、そう思った。





    やがて、真実が明るみとなり。
    王国は自らの不備を認めた上で、新たに、帝国との対決姿勢を打ち出して行くことになる。





    時は、誰にも平等に訪れ、過ぎて行く。

    「ロビー…」

    エリザは王宮の屋上に出て、ロバートがいるであろう、北の空を眺めていた。

    ルクセンの内乱は次第に拡大し、レジスタンス勢力も勢いを増しているという。
    王国も徐々にではあるが、援軍を送っているにせよ、完全に鎮圧するには、
    かなりの時間を要することになろう。

    再び会えるのは、いつになるのだろうか。

    「妾は、おぬしのことを責めたりはせぬ。じゃから、がんばるのじゃ」

    手すりにかけている両手に、ギュッと力がこもる。

    責任を問うつもりは無い。
    とにかく、早く会いたい。会って、そのことを伝えたい。

    「ロビー……辛かろう」

    彼のことだから、約束を守れなかったこと、気に病んでいるのだろう。
    そんな彼のことを思うと、逆に、自分のほうが居た堪れなくなる。

    「待っておるからな」

    自分から会いに行ける立場ではないし、会いに行ける場所でもない。
    ただ、帰還するのを待つのみだ。

    「出来れば、婆と呼ばれる年になる前までに帰ってきて欲しいぞ。
     それから一緒になったとて、楽しみが少ないからな」

    無理やり作った笑みと、笑い声は、不意に吹いた強い風に吹かれて。
    その想いは、再会が果たされるそのときまで、続いて行く。





    それから、5年が経過。

    ルクセンの平定がなり、その報告のために、ロバートが戻ってくると聞いたエリザ。
    当日を今か今かと待ち焦がれ。

    「何をしておるのじゃ、あの者は」

    廊下の角に隠れたエリザは、覗き見るようにして、廊下の先を窺う。
    そこにいるのは、1人の年若い男性。

    先ほどから、ドアをノックしそうになってはやめて、唸ったり、
    またノックしようと手を上げたり、非常に怪しい動きを見せている。

    会うのは5年ぶりになるが、一目でわかった。
    面影は残っている。

    「ふふ。ひとつ驚かせてみるか」

    ニヤリと、意地悪そうな笑みを浮かべたエリザは。
    彼に気付かれないように、コソコソと接近して。

    「ロバートーッ!」

    彼に向けて、大声を発した。





引用返信/返信

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■記事リスト / ▲上のスレッド
■272 / 親記事)  ツクラレシセカイ(前書き)
□投稿者/ パース -(2006/05/17(Wed) 21:10:51)
    これが小説初投稿になりますが、本編の前に前書き、というかいきなり言い訳、つーか謝罪です(爆
    ごめんなさい、素人でほとんど小説なんて書いたことがないこのパースの文章ですので、たぶんあっちこっち変になってると思います。
    ごめんなさい、序章は本編とほとんど繋がりがありません、ただの伏線です(ぁ
    ごめんなさい、最初エルリスをエルエスだと思ってました(何

    3回もあやまりゃ十分だろ(ぇ

    そんなわけで、それでもいいなら本編「ツクラレシセカイ」をよろしくお願いします〜。

引用返信/返信

▽[全レス17件(ResNo.13-17 表示)]
■301 / ResNo.13)  ツクラレシセカイ(シーン2-8)
□投稿者/ パース -(2006/07/02(Sun) 13:27:26)
    2006/07/02(Sun) 20:11:52 編集(投稿者)

    ――――ゴゥン!!!

    「クッ!!」


    クライスはチカブムが放つ巨槍の一撃を何とか回避する。


    「うごぉぉぁぁああああああああああ!!!!!」


    チカブムが正気を失った瞳で絶叫しながら巨槍を振り回す。
    槍が振るわれるたびに黒い波が放たれ、壁や床が破損していく。
    その槍はまるで目標を狙ってはいないのだが、これまで以上のパワーと速度でむやみやたらと振り回されるために、うかつに近づくことが出来ない。


    「なんで、何でこんな事になっちゃったの!!?」
    「知るか!!ミコト、お前一体何をやらかした!!!」
    「あたしだって知らないっての!!いきなりこんな風になっちゃったんだからしょうがないじゃない!!」

    「うごおおおおおあああぎゃあああああああああああ!!!!!」


    チカブムがまた意味のない絶叫を上げながら巨槍の一撃を放つ。
    これまでは両手を使いようやく振り回していたその巨槍を、片手でやすやすと振り回しながら。

    ――――ズゴォオン!!
    ――――ガギャァン!!

    その度にまた、黒い波の影響で壁や床、天井の一部が崩壊する。
    唯一の救いは、チカブムの狙いがまるで見当はずれで、辺り構わず振り回しているだけということ。


    「ハァッ!!」

    ―――ザシュキィンッ!!!

    ミコトが神速の居合い切りを放つ、しかし、本来なら大木ですら一撃で両断するその一撃が生んだ傷はごくわずか、軽く血が出るだけ。
    そしてその血もすぐに止まってしまう。


    「何なのよ!!この硬さは!もはやこれは人間じゃないって!!!」
    「知ってる!!こいつはもう人間じゃない!!」


    ミコトが悲鳴混じりの声を上げる。
    そりゃそうだ、誰だって刀で全力で切られたら人間は簡単に死ぬ。
    どれだけ斬っても小さな傷が出来るだけで、なおかつその傷がすぐに治るなんてのは普通じゃありえない。
    そして、チカブムは現在、まさしく普通ではなかった。

    目は焦点を失い、どこを見るともなく虚ろだ。
    口からはこの世の全ての絶望を集めたかのような絶叫を上げ続けている。
    先ほどまで以上のパワーで巨槍を振り回し。
    そしてその肉体は黒ずみ、とても人間とは思えぬ硬度と回復力を持っている。


    本気で、何でこんな状況になってしまったのか、


    時間を少しさかのぼることにしよう。




    ◆  ◇  ◆






    「痛ッ・・・・・・・・・・・イタタタタ・・・・・・・・・・」
    「大丈夫か?エルリス」
    「何とかね〜、ちょっと頭打ったけど」
    「まぁ、何ともないならいいんだが」
    「うん、それにしてもクライスがあんなドジ踏むなんて珍しいね〜」
    「いや、あの武器がまさかあんな力を持っているとは思いもしなくて・・・・・・・な」


    クライスはばつが悪そうに言う。
    あの時、クライスがエルリスをかばった時。
    クライスは、二人まとめて吹き飛ばされたあと、すぐにミコト達の援護に向かおうとした。
    しかし直後に発生した床の崩壊(紫ローブを倒したあれだ)に巻き込まれ、二人は運悪く一つ下の階に落ちてしまったのだ。


    「どうしよっか?」
    「とりあえず、上の階に戻る方法を考えなきゃならないな」


    相変わらず聞こえてくる剣戟と悲鳴を背に、二人が何か上の階に上る方法は無いかと探し出した時、


    「ぬぐあああああああああああああああ!!!!!」


    グランツの絶叫が聞こえた。
    グランツが敵にやられたのだと、確信せざるおえないような絶叫だった。

    さらにすぐさま、グランツの心配をする暇なく2度目の崩壊が発生した、今度は前回の比ではなく黒い波がいくつも下の階へ抜けていき、各階層が次々と崩壊していき、それの中にチカブムとミコトがいるのを見つけた。


    「「ミコト!!」」


    クライスはすぐさま下の階へ飛び降りた、
    そしてエルリスもすぐにそれを追って一つ下の階へ飛び降りる。



    ―――そして、それ・・が見えた



    エルリスが穴から飛び降りたとき見えたモノ。
    エルリスが今降り立った階よりもさらに二つ下の階層。
    最初にチカブムと戦闘した階層から五つ下の階層(地下何階?)。
    初めは、黒い波が破壊した空間が、光の届かないほどに下の階まで続いているのかと思った。
    しかし、それは違った。



    ――――巨大な闇の塊



    全ての光を飲み込み、全てを無に返すような、邪悪な存在。
    全ての存在を否定するような、その存在。
    人が決して踏み入れてはいけないような、禁忌。

    (何よ・・・・・・・・・・・・・・あれ・・・・・・・)

    そして、エルリスの真後ろから声がかかる。


    「エルリス!」
    「えっ!?」


    エルリスの後ろにいたのはクライスだった。


    「あ、クライス・・・・・・・・そだ!ミコトは!?」
    「ここにいるよ」


    クライスのすぐ後ろからミコトが現れる。


    「あたしらがこんなすぐ近くに来るまで気付かなかったなんて、エルリスも相当あれが気になるみたいだね」
    「も、って事はミコトも?」
    「ああ、あたしだけじゃなくてクライスもだけどね、あれはヤバイ、なんか知らないけどめちゃくちゃヤバイ」
    「あれがなんなのかはわからないが・・・・・・・・・・間違いなく危険なモノだ」
    「うん、あの黒い塊、あれはなんか凄く嫌な感じがする・・・・・・・って、そういえば、チカブムは一体どこに行ったの?」
    「ああ・・・・・・アイツは・・・・・ね」


    ミコトが一瞬嫌そうな顔をした後、言う



    あれ・・ん中」




    ◆  ◇  ◆




    ミコトの話によると、こういう事が起こったらしい。

    先ほど、ミコトとチカブムが床の崩壊で落下した時、ミコトは偶然刀の鞘が引っ掛かり、二つの階層を落ちたところで止まっていた。
    しかし、チカブムは本人が持っている巨槍が原因であるだけに、止まることなくさらに三階層破壊して落ちていったのだが、そこで、いきなり変化が訪れた。
    それまで、下に下に向かっていた黒い波が急に方向を変え、チカブム本人に向かい始めたのだ。
    しかし黒い波はチカブムの体を破壊することなく、収束し始め最終的にチカブムを飲み込んだのだ。
    そして気がつけば、黒い波は塊となり、あの状態なのだという。


    それから三人は、細心の注意を払いながら、その黒い塊に触れないようにして、黒い塊の側に降り立った。

    側に近づいたことで、さらにはっきりとわかるようになった。
    それは直径が人間二人分ぐらいの完全な球形をしていて、そして



    ――――時々、ドクン・・・と脈打っていた



    「なによ・・・・・コレ・・・・・・気味が悪い・・・・・・・」


    生理的に嫌悪感がする。
    とてもではないがコレの側に長くいたくない。
    というか、見てるだけで吐き気がしてくる。
    だが、チカブムがどうなったかわからない以上、調べない訳にはいかない。


    「で、どうやって調べるか?」
    「触ってみるとか・・・・・?」
    「い、いや、それはちょっと・・・・・・・」
    「何か投げてみるか」
    「そうね」


    とりあえず、三人で石を投げ入れてみることにした。


    「それじゃ、せーのっ、で行くぞ?」
    「「うん」」
    「「「せー・・・・・・・・っっ!!???」」」



    ドクン・・・



    三人が石を投げ入れようとした直前、その黒い塊は一際大きく脈打った。

    三人が全力で警戒したとき(それまでも十分警戒していたが)、それはドクンドクンとそれまで以上の速度で脈打ち始める。


    「みんな、何がどうなってるのかわからないが・・・・・・来るぞ・・・


    クライスが長剣を構え、言う。
    エルリスとミコトもそれぞれの武器を構える。


    ―――ドクン、ドクン、ドクン・・・・・・・・・


    ―――ドク、ドク、ドク、ドク・・・・・・・・・

    ―――ドクドクドクドクドク・・・・・・・・・・・

    それの脈動が最高潮まで達したとき、黒い塊は縮小を始め、


    「うごおぉぉぉおぉおおおおおおおおお!!!!!」


    黒い波を突き破り、チカブムが現れた。


    「なんだ、結局相手はあんたかい!さっきまで十分暴れたでしょ!いい加減くたばりな!!」

    ミコトが一気に接近し、鎧も破壊され、がら空きの胴に居合い切りを放ち、そして、

    ―――ガキィンッ!!

    その、ただの肉体にほとんど受け止められる。




    ◆  ◇  ◆




    ここで、一番最初の部分に辿り着く。

    この後、何度かミコトとクライスが接近戦を挑むが、やたらと硬い肉体と、傷つけてもすぐ回復する肉体、そしてやたらめったらとふりまわされる巨槍の黒い波に近づくのがやっとという状況だった。

    そして、エルリスは、何も出来ず、ただ状況に流されるだけだった。



    (私って、何をやってるんだろう・・・・・・・全然役に立って無いじゃない)

    エルリスは自分が何も出来ないことを悔やんでいた。

    (せめて二人のサポートくらい出来ればいいんだけど、あれ相手じゃ絶対に無理だし・・・・・)

    チカブムがまた黒い波を無茶苦茶に解き放つ。
    エルリスは姿勢を低くして黒い波を回避する。
    エルリスが回避した黒い波は周囲に吹き荒れ、壁や床を破壊する。

    (って、こんなところでウジウジ悩んでる場合じゃないっての!!)

    ミコトが再度居合い切りを放ち、クライスもチカブムの胴体に波状攻撃を喰らわせる。
    しかし、硬質化した肉体と、修復能力の前にそれほどのダメージを与えられない。

    (このままじゃ、三人揃ってやられちゃう、だったら、その前に何かできることを見つけなくちゃ!)

    エルリスは自分にも何か出来ることはないかと模索し始めたとき、チカブムがまた黒い波を解き放つ。
    エルリスはそれを回避して、

    ―――ガッ!

    何かに足を引っかけてコケた。

    (痛たた・・・・・・・何よ!?もう・・・・・・)

    そこにあったそれ・・

    (これなら・・・・・・もしかしたら・・・・よし!)


    エルリスはそれを構え、走り出した。




    ◆  ◇  ◆




    「ミコト!クライス!一瞬だけこいつを止めるから、その間に決めて!!」

    エルリスが拾ったモノ、おそらく床の崩壊に巻き込まれて落ちてきたと思われるモノ、それは最初にチカブムが現れたとき持っていた二本の槍、「精霊槍」とは別のもう一本だった。
    チカブムの装備していた物の内、「精霊槍」と「大殺陣」、そして鎧にはかなり特殊な能力が付加されていた、ならば、

    (使い方はわかんないけど、これにもきっと何かあるはず!!)

    全力でチカブムに向かって疾走する。


    「ハァッ!!」


    チカブムが巨槍を持っているほうの腕にエルリスは全力で斬り掛かる。

    ―――ザシュッ!

    かなり切れ味のよい槍なのか、手首の半分ほどまで斬ることに成功する。
    しかし、修復能力のために斬れた先から次々と回復していく。


    「早く!今の内に!!」
    「ああ!」「まかせな!」


    ミコトがチカブムの懐に入り込み、神速の居合い切りを放つ。
    さらにクライスが連撃を放つ。

    ―――ズバッ!ザシュザシュ!


    「うごぅあああああああ!ぎゃああああああああ!!!」


    狂ったように暴れまくるチカブムにも痛覚は残っているのかさらに絶叫する。
    片手一本を受け止めているだけなのにエルリスは押されつつあったエルリスはそれ以上の力で押される。


    「早く!もう保ちそうにないから!!」
    「わかってる!今度こそこれで終わりだ!!」

    そのままの位置から、ミコトが刀を構え直し、


    「ハァァァアアアアアアア!!!」


    居合い切りを放つ、それも、二連、三連撃。


    「うごぉぉぁぁああ・・・・・・・!!」


    ついに、チカブムがその動きを止め、ゆっくりと崩れ落ちる。


    「やった・・・・!」
    「ようやく終わったな」


    ミコトが刀を鞘に戻し、クライスも剣をしまう。
    そんな中、エルリスは、自身が持つ槍に目をやった。




    ◆  ◇  ◆




    槍は、かすかに光を放っていた、その光は何かを示唆するように鳴動する。
    その光はエルリスにこう教えていた、


    (まだ、戦いは終わってない・・ ・・・・・・・・・・・・・・!!?)


    エルリスは、槍をゆっくりと構える。


    「「エルリス?」」


    そして、それに合わせるかのようなタイミングで死んだと思っていたチカブムが起きあがり、巨槍を大きく構える。


    「やらせない!!」


    エルリスの持つ槍がひときわ大きな光を放ち、投げ放つ


    ――ズッバァアアアアン!!!

    雷光の一撃ライトニングストライク

    エルリスが投げ放った槍は、まさに雷光となってチカブムに迫り、貫いた。


    胸に大穴を空けたチカブムは、今度こそ、完全に、動きを止め、崩れ落ちた。


    ようやく、本当に戦いが終わった。




    ◆  ◇  ◆




    クルコス砦における戦闘結果報告:

    依頼任務、「クルコス砦の盗賊討伐」達成報告。
    頭領のチカブム(本名不明)の死亡を確認したため、任務の完了を報告します。

    本任務では、頭領のチカブムを失うと同時に残っていた盗賊達が降伏したため、最終的に56人の盗賊を捕縛、残りは死亡したか逃走したものと見られます。

    戦闘終了後、砦内に残っていた財宝は、近隣の村々に戻しました。

    なお、盗賊の頭領チカブムが所持していた物品の内、謎の能力を保有していた巨大な槍は戦闘参加者、グランツ・ライアガストが破壊(無理をしたためその後怪我の病状が悪化)、魔導皮膜を施された鎧は戦闘中に破壊、風の魔力が込められた槍と、雷の魔力が込められた槍は回収。

    こちら側の被害:Aランクチーム「グレイブラバーズ」参加者数10人中10人が死亡し壊滅。
    Bランクチーム「グレアム騎士団」参加人数30人中死亡者数8人、重軽傷者20人とかなりの被害を受けた模様(うち団長のグレアム・バーストンは重傷者に含まれる)。
    Aランクチーム「ノーザンライト」参加人数4人中1名重傷残りの3名は軽傷(うち2人はサンドリーズギルド未所属)被害は軽微。
    どこのチームにも所属していないフリーのハンター「アレス・リードロード」「リリア・ティルミット」、2名とも軽傷のみ。
    なお、参加者のほとんどが「紫ローブの男」を見ましたが、この人物はサンドリーズギルドの加入者ではなかったため、この人物に関する詳細は不明。


    以上を持って報告を終了します。

    報告者:クライス・クライン




    ◆  ◇  ◆
引用返信/返信
■302 / ResNo.14)  ツクラレシセカイ(間章)
□投稿者/ パース -(2006/07/02(Sun) 13:31:13)
    2006/09/17(Sun) 13:05:29 編集(投稿者)

    ――クルコス砦――


    全ての戦いが終わり、静寂と屍のみが残された場所。
    動く者は屍を喰らうネズミやトカゲなどの小動物だけ。

    いや、一つだけ動くモノがあった。

    砦の最奥部の一室、最も大きな戦いが繰り広げられ、あちこちが破壊された場所。
    黒い波が破壊した、その場所。

    紫ローブの男だった。

    いや、正確にはこの表現はもう正しくない。
    なぜなら、その男が着ていた紫ローブは黒い波によりボロボロになっていて、ローブとしての機能を果たしていないからだ。

    紫色のローブを纏っていた男は長身に、浅黒い肌と引き締まった肉体、それから普通の人よりいくらか長い腕をしていた。
    そして整った顔立ちに、細くナイフのようにとがった印象を与える眼をしている。

    男はゆっくりと歩いていき、2度目の黒い波による破壊が起こった場所へ辿り着く。

    そして、男は崩壊した穴の縁に足をかけると、一切の躊躇いなく飛び降りる。

    信じられないことに、男は5階層分の穴を飛び降りたというのに、何事もなくあっさりと着地する。

    そして男はそこにあったモノの側へ歩み寄っていった。

    それは、チカブムの死体。

    男はチカブムだった物に近づくと、チカブムが完全に死んでいることを確認する。
    そしておもむろに左手を左の耳に添える、そこにはピアスのような小型の装飾品があった。



    「―――『Z』から『白』へ、実験体T-1646の死亡を確認、任務完了、これより帰還する」


    男がそう言うとそのピアスから返答が帰ってくる。


    『ヒヒヒヒヒッ、りょーかい〜ご苦労様〜ちゃっちゃと残り物を回収して帰ってらっさい、『ZERO』が君の帰りを楽しみに待ってるよ〜』
    「了解しました」
    『ヒヒヒッ・・・・・・そ、そんなにかしこまんなくていいよ〜?僕と君は立場上は同格なんだからね〜、むしろ君の方が実戦部隊なぶん上位?』
    「そうはいきません、あなたがいなければ俺はこんなところにいなかったはずですから、立場上どうあれあなたは俺にとっていつまでも上官です」
    『さいですか〜、ま、どうでもいいから〜さっさと帰ってきてね〜、通信切るよ〜』


    ぶつり、と音を立てて通信は終了する。

    男が耳にしていた物は一種の魔導具で、それに付いている宝石が媒介となり、全く同様の形をしたもう一個のピアスと通信することが出来た。


    男はしばらくそうしたまま突っ立っていた。
    しかし、ふと思い立ったようにチカブムの頭部の側へ移動する。
    もう二度と決して動くことのないその体に向かって男は声を掛けた。



    「少しの間、ほんのわずかな時間であったとしても、たとえそれがかりそめの自由であっても・・・・・・・お前は自分の望むことが出来て、好き勝手に暴れて、それで、お前は楽しかったか?」



    死体は決して答えはしない。

    男はかがみ込むと、チカブムのまぶたを閉じてやる。

    男はゆっくりと歩き出し、砦を後にする。



    ―――後には、ただ屍と静寂だけが取り残された。




    ◆  ◇  ◆




    ――世界のどこか――

    「ヒヒヒヒヒッ「俺はこんなところにいなかった」ね、ヒーヒヒヒッ!それは遠回しにこんなところにはいたくないっていってるんだろうねぇ〜、どうせここ以外じゃ生きられないのにザジ君も言うようになったモンだねぇ〜ヒヒヒッ!」


    世界のどこかにある、とある一室にて、男は笑う。
    その男は、まさしく『白』と呼ぶのがふさわしい格好をしていた。
    髪の毛は全て真っ白、白髪頭になるほどの年には見えないので、染めているのかもしれない。
    肌はかなり白く、ともすれば病人に間違われるだろう。
    白い、瓶底メガネに白いブーツ、そしてトドメはその白衣。
    まさしく、完全なまでに『白』だった。
    男は独り言を呟く、


    「ヒヒヒッ実験体T-1646、自分ではチカブムとか名乗ってたみたいだね〜『砕牙』を奪取してここを脱走、その後だいたい予定通り、アイツには暴れるしか脳がないからねぇ・・・・・・ヒヒヒヒヒヒヒ」

    予定通り・・・・に脱走して、予定通り・・・・に暴れて、予定通り・・・・に暴走して、予定通り・・・・に死んじゃったね」


    チカブムと呼ばれた存在に「自由」というモノは無かった。
    全てがこの凶人に与えられ、全てがこの凶人に奪われた存在。
    それが「実験体T-1646」の運命だった。


    「ヒヒヒッ、それにしてもザジ君この間までは口答えすることすら珍しかったのにねぇ、少しは成長したのかにゃ〜、クヒヒヒヒヒヒヒヒ!」


    何が面白かったのか、その男は一人で爆笑し始める。

    正確には、ザジというのは、紫色が好きなあの暗殺者の名前ではない。

    「彼」は初め、暗殺者の一族に生を受けた。
    そこでは名前という物は無く、全員が番号で呼ばれた。
    「彼」はそこで鬼童と呼ばれるほどの「殺し」の天才だった。
    若干、十数歳の子供に対して、大人が十人がかりでも勝つことが出来なかったのだ。

    そして、そこに、白衣の男が現れた。

    男の目的はその「彼」の確保のみ、そしてその目的は達成された。
    「彼」を守ろうとした数百人の暗殺者達は皆殺しにされ、一族は滅んだ。

    わずかばかり生き残った一族と「彼」はそのまま白い男の組織に組み込まれた。

    男は、「彼」に、番号じゃ呼びにくいから、ということでザジという名前を与えた。


    「ヒヒヒッ、ザジ君は僕のことを恐れているんだろうねぇ・・・・・・ザジ君の仲間、邪魔だったからみんな殺しちゃったし、ヒヒヒ・・・・・」

    「・・・・・・・・・・でもね、ザジ君、それは正しいんだよ、僕を恐れる、それは間違いなく『ZERO』と同調することが出来る証拠だ、だから君はここで驚くほど長く生き延びている」

    「さてと、いつまでもザジ君のことをかまってる場合じゃなかったね、他にもやることはいっぱいあるんだ、精々みんなには死ぬ気で頑張って貰うとしますか、ヒッヒッヒ!!」




    凶人は、高らかに笑う。




    観賞<了>


引用返信/返信
■345 / ResNo.15)  ツクラレシセカイ(シーン3-1)
□投稿者/ パース -(2006/09/11(Mon) 20:15:03)
    前書き
    お久しぶりですこんにちわ、もしくわこんばんわ、最近ご無沙汰しっぱなしのパースです。
    2〜3ヶ月以上もさぼってましたが、久々に続編を書いてみました。
    なんか久々すぎて自分で書いた物の設定とかほとんど忘れてしまいました(汗
    惰性だ・・・・・怠惰だ・・・・・マズいなぁ・・・・・
    シルフェで書いてる方も全然進んでないし・・・・・・
    ナンダカナァ・・・・・・・・・・・orz
    本編を始める前にシーン3の登場人物だけ、書いておきます。

    登場人物:
    (説明不要)
    クライス
    エルリス
    セリス
    (オリジナル)
    アドレミシア(ギルドのNo.3)
    ルイスル(↑の片腕)
    バルデルロッド(魔法使い)
    エルテイ(弓矢使い)

    シーン3ではクライスが活躍します(予定だけどー)(ぉぃ





    ◆  ◇  ◆


    ――サンドリーズギルドアウルスエリア本部 最上階の一室――



    サンドリーズギルドの最上階には、サンドリーズギルドの関係者、特に組織の運営などを担当する者達が使っている部屋が並んでいる。
    今、その中のある一室に、4人の人間がいた。
    正面の机で、数枚の報告書を読んでいる人物、
    大陸中で4ヶ所あるサンドリーズギルド本部の中で3番目のアウルスエリア本部長、要するにサンドリーズギルドのナンバースリー、
    アドレミシア・サンドリーズ。
    穏和な顔にメガネを掛け、アッシュブロンドの髪を後ろで一つにまとめている、どちらかと言えば秘書のような見た目である。

    そして、アドレミシアの横に立つ、一見すると学者のようにしか見えない人物、
    マッドロウ・ルイスル。
    白衣に眼鏡、禿頭と来ればもはや学者にしか見えないのだが、彼はそのずば抜けた知能、特に策謀能力から、アドレミシアの片腕として重宝されている。

    それから、部屋の壁に背を預けて、中空を見つめている男、
    アウルスエリアでは・・一番の魔法使い、
    バルデルロッド。
    彼はやたらと装飾の激しい、派手で華美な杖を傍らに置いている。

    最後に、部屋の中央でアドレミシアの正面に立つ男、青髪に青い瞳の剣士、
    クライス・クライン。
    それがこの部屋に集う4人である。



    「ふむ、それじゃあこの間の盗賊攻略戦についてはとりあえずこれでお終いって事ね?」
    書類を読み終えたアドレミシアが口を開く。
    「ああ、事後処理も含めて全ての作業は終えてきた」
    クライスは特に感情を込めずに事実だけを報告する。
    「予想外に大きな被害を受けたものの盗賊達はちゃんと壊滅したみたいだから、ひとまずは良しとしましょうか、ルイ、ロッド問題はないわね?」
    「ああ」
    「はい」
    ルイスルとバルデルロッドが同意する。

    「さてと、それじゃあここに書かれていない事・・・・・・・・・・・を話してもらおうかしら」
    クライスは少し顔をしかめる。
    「今回の仕事に参加したグレアムの配下達何人かから話は聞いてるわ、この盗賊団の頭領チカブムという男一人にかなりの被害を受けた、とね、彼についての話を聞かせてちょうだい」
    一瞬、クライスは考えるような仕草をしたあと言った、
    「盗賊の頭、チカブムという男はもともとからかなりの強者だったようだが、こいつが持っていた謎の武器、というよりあれはもはや兵器か、それによってかなりの被害を受けた」
    「謎の、兵器?」
    「ああ、兵器としか言いようのないとんでもない威力を誇る武器だった、残念ながらそいつは戦闘中に壊れていたらしく回収は出来なかったが」
    「ふむ、まぁいいわ、続けて」
    「それから、その兵器によって奴をしばらく見失った直後、謎の、謎のとしか言いようがない黒い物体にチカブムは包まれ、普通では考えられない筋肉の硬質化、異常再生能力、理性の喪失、といったわけのわからない状態になり、こいつにかなり苦戦させられたな、そして、それらから考えられることは」
    クライスは一拍おいてから言った。
    「おそらく、これらの件にはダークマターが関係している」
    クライスは断言した。
    クライスの言葉にバルデルロッドはあからさまに嫌そうな顔をし、ルイスルとアドレミシアはまたか、という顔をした。
    「チカブム本人の異常な肉体強化に関しては謎だが、奴の持っていた数々の強力な武装は明らかに正規のルートを通したものじゃない、確実に奴ら・・が関与している」

    「そう・・・・・・・」
    アドレミシアはクライスの言葉に納得したようなしてないような呟きを漏らした。
    「ダークマター、ここ最近急速に勢力を拡大している異常者集団ですな」
    ルイスルが補足説明を始める。
    「彼らの活動は誘拐、暗殺、諜報に略奪行為、破壊工作等々と、何でも有りの外道集団、犯罪組織が動けば裏にダークマターがいると言われるほどに最近の彼らの動向は目に余るものがあります」
    「俺が聞いた噂じゃ、村一つが奴らによって一人残さず消されたって話を聞いたことがあるぜ、はっ、あながち嘘じゃあ無いのかもな」
    バルデルロッドが感想を述べる
    二人の話を聞いた後、アドレミシアは真剣な表情で話し始めた。
    「ここ最近、奴ら、ダークマターは以前にも増してかなり頻繁に活動しているわ、いままでは我々に依頼があれば傭兵を派遣してその先で何度か戦闘になったことがある程度だったからいいものを・・・・・・・・・・」
    アドレミシアは少し言いづらそうな顔をしたあと、言った。
    「実は彼らについてよくない話がもう一つあるの」
    アドレミシアの言葉に他の三人は困惑の表情を浮かべる。
    「よくない話・・・・・ですか」
    「ええ、この間、といってもつい先月、西の町サハグラスにあるサンドリーズギルドの本部長が彼らによって暗殺されたわ」
    この言葉にアドレミシア以外の三人は驚愕の表情になる。
    「ついに彼らは私達に対して本気で攻撃を仕掛けてきたってわけ」
    「それは、間違いない話なのですか?」
    「ええ、私なりに調べてみたけど、間違いないみたい。」
    少し間を開けてアドレミシアは続ける。
    「サハグラスの本部長は町の商工会と何かの会談中に侵入した何者かによって殺されていたわ、護衛のギルド員が、それもかなりの上級メンバーが10人以上いたようだけれど、全員仲良く体をバラバラにされて殺されていたわ、もちろん商工会のメンバーは言うまでもなく、ね」
    アドレミシアの言葉に、クライスは引っかかりを覚えた。
    (全員仲良く、バラバラに・・・・・・?)
    「その、バラバラにってのは、どのくらいバラバラだったんだ?」
    興味本位からか、バルデルロッドが聞く。
    「完膚無きまで、完全に・・・・・一人分の肉体が3〜40個の肉片に別れていたわ」
    まさかそこまでとは思っていなかったらしいバルデルロッドはウッと顔を引きつらせる。
    (まさか・・・・・・あの時の砦の紫ローブ・・・・・・・・奴が・・・・・・?)
    クライスはコルクス砦で共に戦った紫ローブの事を考える。
    (だが奴はチカブムの一撃で死んだはず・・・・・・・・・・・だがアイツの殺し方は簡単に真似できるものでは・・・・・・・)
    いくら考えてみたところで、結論は出ない。

    「さてと、今日ここに集まってもらったのは他でもないわ、このダークマターに関する件よ」
    アドレミシアは、ようやく本題に入った、クライスはバルデルロッドがいる時点でただの事後報告が目的ではないだろうと思っていたので、それほど驚きはない。
    「このままダークマターの好きにさせていたら、大陸中が大変なことになるのは目に見えているわ、だからそうなる前に手を打っておく必要があるわ」
    その場の全員が頷く。
    「それであなた達3人にはそれぞれに別の任務を与えるわ、これは普通の一般任務とは重要度が違うから、失敗は許されない、だからあなた達にお願いするの」
    「おーけーおーけー」
    「わかりました」
    「ああ」
    三者三様の受け答えで意志を表明する。
    「まずはルイスル、あなたには一番楽な仕事、東の大都市ホーリィライトのギルドに行って、この手紙を渡してきてちょうだい」
    アドレミシアは一枚の封筒をルイスルに手渡した。
    「中身は現在こちらでわかっている限りのダークマターの実態、対抗策を練る必要があること、とか色々よ、確実にお願いね」
    「了解しました」
    ルイスルが丁寧に礼をし、部屋を退室していった。

    「次、バルデルロッド」
    「へーい」
    「あなたには一番難度の高い任務にあたってもらうわ」
    「ほっほー一番難度の高い任務ですとな、それは俺に対する信頼の証と受け取ってもよろしいでしょうか?」
    「残念ながら違うわ」
    バルデルロッドは軽く落ち込んだようだ。
    「あなたをこの任務にあてるわけは、あなたが一番この任務を楽に完遂できるから、向き不向きの問題よ」
    「わかりましたよ、それで内容は?」
    「西の港町、サハグラスに行ってちょうだい、現在この町とは音信不通な状態になっているわ」
    「あれ?さっき先月起こった暗殺のことを調べに行ったようなことを言ってませんでしたか?」
    「ええ、その後の話よ、状況がどう動くか調べるために何度か使いの者をやっているのだけれど、先週から使いと連絡が取れなくなってるの」
    「なるほど、それで俺様の出番、というわけですね」
    「ええ、お願い、サハグラスが今どうなっているか、調べてきて」
    「わっかりましたー、それでは不肖このバルデルロッド、敬愛するアドレミシア様のために行って参りますー」
    そして、バルデルロッドも姿を消し、残るはクライスとアドレミシアのみになった。

    「それで、俺には一体どんな任務を与える気なんだ?」
    「あなたには一番危険度の高い任務を与えるわ」
    「危険度の高い、ね」
    「ええ、あなたには北部、オルトナエリアにある小さな村、カトレアに向かってもらうわ」
    「なぜそれが一番危険度の高い任務だと?」
    「今、そこではダークマターと関係がある集団が暗躍しているらしいわ」
    「・・・・・・なるほど」
    「でもひとつ安心材料があるわ」
    「?」
    「今、その任務には他にも一人参加者がいるわ」
    「誰だ?」
    「エルテイ・ステンバック、チーム「ノーザンライト」所属、あなたの仲間ね」







    あとがき

    どうも、ここまで読んでくれた人、ありがとう
    久々だったせいか、かなりいい加減になってるところがあったりするような気がします(汗
    今回はシーン3序章ということで、短いのは許して下さいorz
    ま、まぁとにかく、シーン3、舞台は一路北方の村カトレアへと移ります。
    たぶん次回から出てくる新キャラとか、敵キャラとか、暗躍する敵組織とか、色々含めて
    時々さぼったりすると思いますが、この不甲斐ない作者共々、よろしくお願いします。


引用返信/返信
■348 / ResNo.16)  ツクラレシセカイ(シーン3-2)
□投稿者/ パース -(2006/09/16(Sat) 11:17:41)
    2006/09/16(Sat) 20:37:33 編集(投稿者)

    ――乗り合い馬車の中――


    ガタンゴトン、と馬車は揺れ、中に乗っている十人前後の乗客達の体を揺さぶる。
    その中に、精悍な顔立ちをしての腰に長剣を差したが青髪の青年が、クライスがいた。
    「俺は、だな」
    クライスは唐突にひとりごとを始める。
    「この任務が非常に危険な可能性を秘めているとアドレミシアから聞いていたんだ、ああ聞いていたとも、だからな、だからだぞ、俺一人で行ってさっさと任務を終えてくるつもりだったのにお前達を連れて来たくなかったのに何でいるんだよエルリス!セリス!!」
    「うわっ!!」
    「きゃあっ!」
    ひとりごとの最中にいきなりうしろを振り返って怒鳴ったクライスに、不意を付かれたエルリスとセリスは仰天して同じく大声を出してしまう。
    二人はローブを目深にかぶって顔や髪が見えないようにしてクライスの背後の席に座っていたのだが、クライスに簡単に見破られてしまった。
    「あ、あははは・・・・・ぐ、偶然だね?」
    「セリス、嘘がバレバレだぞ?」
    「うっ・・・・・うう・・・・・だってクライスがどこに行くのか興味があったんだもん」
    「だもん、じゃない!ったく・・・・・エルリスも、危険だから付いて来るなっていったろう」
    「いやー・・・・・あはははは・・・・・セリス一人を行かせるのは危険かなーと思いまして」
    セリスと同じで、クライスの昔の仲間、とやらが気になって付いてきましたー、なんて絶対に言えない。
    「ったく・・・・・なんで二人とも付いて来るんだよ・・・・・・・・・・」
    クライスは頭を抱えてしまった。

    さて、クライスが少し落ち込んでいる間に、エルリス達がここに来るまでの出来事を説明しておこうか、それでは回想、スタート。




    ◆  ◇  ◆



    ――辺境の村『ゲート』――


    その日の晩、クライスは帰ってくるなりグランツのところに用があるといって出かけてしまった。
    グランツは現在、前の盗賊討伐戦でのダメージがひどく、自宅療養中だ、エルリスもしばらく会っていない。
    「んーそういえばしばらく会ってないし、お見舞いも兼ねて私達も行っちゃおうか」
    「そうだねーあのおっちゃんも私達のことを見れば元気になるかな?」
    そんなことを言って、エルリスとセリスの二人はクライスからかなり遅れてグランツの元に向かったのだった。



    ――グランツの家――


    グランツは体中のあちこちに包帯を巻きながら陽の当たる窓の側のベッドの上で体を起こしていた、そしてクライスは椅子に座ってその正面にいて、二人とも深刻な表情を浮かべていた。
    「そうか、あの盗賊の頭、チカブムという男・・・・・・ダークマターと何か繋がりがあったんじゃな・・・・・・・・・それならあの異常な威力の武器、たしか『大殺陣』じゃったか、あんな物があったのも頷ける」
    「ああ、他にもいくつかわかったことはあるが、それより、体の方は大丈夫か?」
    「ガハハハハ、まだまだ、若いもんに心配されるほど鈍ってはおらん!」
    「戦闘は?」
    「・・・・・・・・・・・・・・・・すまん、まだ無理じゃ」
    「そうか・・・・・」
    「なんじゃ、また厄介事か?」
    「ああ、悪いことは続く物、とは言ったモノだな、さっそくそのダークマター関係の仕事だ、オルトナの方、カトレアまで出向かなければならないらしい」
    「オルトナ、か・・・・・・そういえば、今はエルテイの奴がおらんかったか?」
    「ああ、よりにもよってその厄介事にかなり関わっているらしい」
    「なんじゃと!・・・・・・・よりによって全員がばらけているこの時期に厄介事が起こるか・・・・・せめて彼女・・がいればのぉ・・・・・・・・」
    「それは言っても仕方のないことだ」
    「ラグナは今西におる、リーンの奴は東から動こうとしないじゃろうし、エルテイの奴は逆にあちこち移動しまくる、彼女に至っては今どこにいるのかわからん、そしてお主がここにいる限り、ワシはここから動けん」
    「それも仕方のないことだろう、あいつらはあいつらなりの考えがあって、行動しているはずだ」
    「しかしのう、あいつらにもし万が一のことでもあったらと思うと、な」
    「その点は大丈夫だろ、俺達の中・・・・で一番弱いのはお前だろ、グランツ」
    「当たり前じゃ、ワシは本来ただの鍛冶屋、後方支援が専門じゃわい」
    「そうだったな、とにもかくにも、お前はしばらくしっかりと療養してろ、俺が帰ってきたらまた働いてもらうからな」
    「ああ、まかせろい」
    「とりあえずは、エルテイと合流して、さっさと仕事を片してくるよ」
    クライスは立ち上がり、それじゃあな、と言ってグランツの家を出て行った。



    ――グランツの家、の外(窓の下)――


    エルリスとセリスの二人はずっと窓の下にうずくまって二人の話を聞いていた。
    本当はグランツを驚かせるためにコッソリと移動しただけなのだが、ずいぶんと大変な話を聞いてしまった。
    (お姉ちゃんどうしよう!大変な話を聞いちゃったよ!!)
    (とりあえず移動しましょうセリス、このままだといつ見つかるかわかったもんじゃないわ)
    (そうだね)
    二人はゴソゴソと芋虫のようにしてグランツに見つからないように移動した。



    「いやークライスには「チーム」の仲間がいるのは知ってたけど、いままでグランツ以外に会ったこと無かったから、完璧に忘れてたわ・・・・・」
    「エルテイって人と合流するとか何とか言ってたけど、何するのかな?」
    「さぁ・・・・でもクライス、何にも言ってなかったわよ・・・・・?」
    「きっと私達に秘密で出て行くつもりなんじゃない?」
    「うーん、クライスのことだからそれはあり得る・・・・・」
    「どうしよっかー?このままじゃ私達置いてかれちゃうよ」
    「でも、クライスがそうした方がいいって決めたことなんだったら・・・・・」
    その時、セリスはある意味エルリスに一番効果的なセリフを口にした。
    「っていうか「彼女」って誰なんだろうねー?」
    「ッ!!!」
    「ねぇお姉ちゃん、気にならない?」
    「う・・・・・・・うう・・・・・・・・」
    (気にならないって言ったらそれは嘘になるけど、でもだからってわざわざ付いて行く必要は・・・・・)
    「どこにいるのかわからないとか言ってたけど、もしかしたら会いに行くのかも知れないよね?」
    「うううううう・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
    「ねぇねぇ、お姉ちゃん、ついて行ってみようよー」
    「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・セリス」
    「うに?」
    「クライスに気付かれないようにコッソリと付いていきましょう」
    「やった!」

    ちなみに、この会話中、セリスには一切悪意はない・・・・・・・・・・・・と思う。




    ◆  ◇  ◆



    ――回想終了。


    「全く・・・・・つーかここに来るまで尾行に気付かなかった俺も俺なんだが」
    「そうだよ、ここまで来ちゃったら引き返すのも大変だよ、ね?ね?」
    「えーと、迷惑は掛けないようにするし、セリスが面倒を起こさないようにしっかりと見張ってるから!」
    「お姉ちゃん、私のせいにばっかりしないでよ〜」
    「あのなぁ・・・・・・」
    「それにほら、危険があってもクライスが守ってくれるでしょ?」
    「そうだよ、男なんだから女の子二人を守るくらい簡単だよよね?ね?」
    数秒、間があったあと、
    「・・・・・・・ハァー・・・・・・・・わかったよ・・・・・・・」
    クライスは深い溜め息と共に許可の声を出した。
    「やったぁー!」
    「その、クライス、ホントにごめんね?」
    「いや、もういいよ」

    ようやく許可されて、エルリスとセリスは今度こそ普通にクライスの前に座った。

    「それで、クライスが行こうとしてる場所ってどんなところなの?」
    「カトレアの町、オルトナエリアにある山間の小村だ『ゲート』よりはいくらか大きいと言う程度の小さな町だよ、産業も興業も特に有名なところはない」
    「そんな町に、一体何をしに行くの?」
    「今その町の片隅になんだか訳のわからない集団が居着いているらしい、俺の目的はそいつらの調査と場合によってはそいつらを排除すること、だ」
    「ふーん・・・・・」
    「ま、もっとも、調査の方は先にこの任務に取りかかっている奴がほとんど終えていると思うけどな」
    「先に取りかかっている人・・・・・・クライスのチームメンバーだね」
    「ああ、エルテイ・ステンバック、弓矢使いアーチャーだ」
    「ねぇ、クライス」
    「ん?」
    「私は、いや、セリスもだけど、クライスのチームメンバーの事をほとんど知らないんだけど」
    「そうだよー、勝手に話を進めないでー」
    「ああ、そうだったな・・・・・じゃあこの際だから俺のチーム『ノーザンライト』のことを説明しておこうか」
    「その前に、クライス、そもそもなんで『ノーザンライト』なの?ノーザンライトってオーロラって意味だよね・・・・・」
    クライスはかなり嫌そうな顔をした。
    「いや、それはだな・・・・・・名前を付けたのは俺じゃないからだ、俺だったらそんな小っ恥ずかしい名前は絶対に付けない」
    「えーと、じゃあこのチームの名前を付けた人は?」
    「それは・・・・・・・・・・・・・と、とにかく、チームの解説をするぞ」
    なぜかクライスは非常に言いにくそうにしていた。
    不審だ。



    ラグナロックス・ファーレット 魔術師マジシャン 大陸でも最高峰の魔術師で魔術師としては最高位の証であるグランドマジシャンの称号を持つ。

    エルテイ・ステンバック 弓矢使いアーチャー 弓の名手にしてエルフ族の青年、あだ名は銀光の射手。

    リーンウィル・フォレスト 罠師トリッカー 彼の領域の中に入ってしまった者は例え1個師団クラスの戦力でも全滅するといわれる天才罠師。

    グランツ・ライアガスト 鍛冶屋ブラックスミス あれでも実はその道では有名な知る人ぞ知る天才鍛冶屋、暗黒大陸の技術をも身につけているとか。



    クライスの話を聞き終えたとき、エルリスは絶句していた。
    「そして、今の四人に俺を加えて、チーム『ノーザンライト』の全メンバーは紹介終了だ」
    「え、いやちょっと待って、クライスに関する説明がないんですけど?」
    「クライス・クライン 俺 剣士 以上、その他のことはだいたい知ってるだろう?」
    「そんな身も蓋もない・・・・・・・」
    クライスは自分のことになるとずいぶんつっけんどんだった。

    乗り合い馬車はゆっくりと進む。




    ◆  ◇  ◆



    ――カトレアにほど近い山道――


    夕闇に沈む山道をいま、3つ、いや4つの影がうごめいていた。

    その影達は、動きを見ていると二つの勢力があることに気付く、
    一つは先頭の影、まだ若い青年が木々の合間を駆け抜け、一目散に逃げようとしている姿
    そしてもう一つは残る三つの影、二つが今にも青年に追いつきそうな距離に迫り、もう一つは常に付かず離れずの距離を保っている。

    そして、ついに二つの影が青年に追いつき、懐から取り出した刃でこれにトドメを刺そうとした瞬間、

    ―――ビュン!!

    どこからともなく飛んできた矢が影の持つナイフを撃ち抜いた。

    「「!!」」

    ナイフを揃って撃ち抜かれた二つの影は矢が飛んできた方角を見ようとして。

    ―――ビュン、ビュン!!

    二人とも矢に足を撃ち抜かれ地面に倒れ伏した。

    他の影から逃げるように先頭を走っていた青年は、その矢が飛んできた方角に一人の弓を構える人物がいることに気付き、
    「ひいっ!助けてくれ!!」
    と、言った。
    「ええ、今助けますから―――ッ!走れ!!!」
    「え・・・・・・・・・!?」
    しかし突如として怒鳴られたことに一瞬驚いて動きを止めた青年はその直後、

    ―――グボアッ!!

    背後の地面を盛り上げて出現した土人形ゴーレムによって叩き潰された。

    「チッ・・・・・・・・・人形遣いドールマスターですか・・・・・・!」

    弓矢を構え直そうとする青年の周囲に、新たに2体のゴーレムが現れる。

    ―――バスッ!バスッ!

    弓矢遣いの青年は2本の矢をそれぞれのゴーレムに放つが、2体のゴーレムはまるでダメージなど無いかのように動き、青年に接近する。

    (術者を倒さなければいけませんね・・・・・・・それから、先に倒した二人の方は・・・・・・)

    そちらの方を見ると、そっちにも一体のゴーレムが出現していた。

    (仲間の回収、もしくは口封じは既に終わったと見て違いないですね・・・・・)
    (術者は・・・・・・・ここから見える位置にいるわけありませんね・・・・・ならば!)

    青年は背中の矢筒とは別に、懐から二本の銀色の矢を取り出した。

    青年はそれを弓につがえ、集中する。

    (emeth・・・・・・こいうった土人形は弱点がわかりやすくて楽ですね・・・・・・見えた!)

    ―――バシュッ!バシュッ!

    普通ならゴーレムの中でも特にガードが堅く、またそれの制作者以外には見つけられないように何種類もの魔術防壁を施しているはずのEMETHのEの文字を、青年の銀矢は正確に撃ち抜いた。
    そして、それを撃ち抜かれた2体のゴーレムは、ただのつちくれと化し、崩れ落ちた。



    2体のゴーレムを倒した時点で、既に戦闘は終了していた。
    「まんまと逃がしましたか・・・・・」
    人形遣いらしき術者とその他のゴーレム達は既に影も形も無くなっており、他の二人の追っ手は既に事切れていた。
    そして、追っ手から逃れようとして、ゴーレムに叩き潰された青年は、
    「あ・・・・・・・う・・・・・・・・・妹・・・・・・を・・・・・・助け・・・・・・・・」
    それだけ言って、ピクリともしなくなった。
    「ッ・・・・・・・・・・」
    助けるのが間に合わなかった。

    弓矢を背中に背負い直した青年―――エルテイ・ステンバックは彼を助けられなかった事にひどい憤りを感じる。

    「クソッ・・・・・・・『ダークマター』・・・・・何が目的だ・・・・・・・!」

    エルテイの怒りの声は空しく消えていった。

引用返信/返信
■439 / ResNo.17)  ツクラレシセカイ(シーン3-3)
□投稿者/ パース -(2006/10/15(Sun) 20:00:31)
    ――カトレアの町――



    アウルスエリアから馬車に揺られること七日、一旦オルトナの町に寄ってからカトレアの町に向かったので、本来よりもさらに時間がかかってしまった。

    「ふぅ・・・・・・・・カトレアってずいぶんとのどかなところだね〜」
    「ああ、良くいえば平和なところだが、悪くいえば田舎町ってところだな」

    乗り合い馬車から降り立ったセリスとクライスは、カトレアの町の感想を述べる。
    乗り合い馬車はこの町で終点なので、そのまま引き返していく、馬車駅から回りを見渡すと、そこには一面の小麦畑が広がっていた。

    「さすがに大陸一の食料生産地、オルトナエリアなだけはあるな」
    「そうねー」
    「それじゃ、とりあえず町の方に行ってみるか」
    「ええ」

    クライス、エルリス、セリスの三人はゆったりとした足取りで馬車駅を離れ、カトレアの町の中心街へと歩いていった。



    「なんていうか・・・・・・ずいぶんと人が少ないね・・・・・・」

    時刻はまだ昼前、エルリス達は町の大通りにいるのだが、そこはずいぶんと閑散としていた。
    店はほとんどが閉まっていて、人通りも本当にまばら、普通の町なら聞こえてくるはずの人々の歓声や子供達の笑い声なども聞こえてこない。
    まぁなんというか、これ以上ないくらいに廃れてしまっている町だった。

    「これはのどかっていうレベルじゃないな・・・・・・・」
    「うん・・・・・・」
    「とりあえず、聞き込みから始めてみるかエルリス、セリスと一緒にあっちの方の店屋を頼む」
    「了解〜」

    ざっと見える範囲では、商店が2軒と、酒場が1軒、それに宿屋が1軒だけ開いていたが、そのどれもが、全く繁盛してるようには見えない。
    大通りですらこれなのだ、ここ以外の場所は一体どうなっているのだろうか。
    クライスはすぐ側にあった一軒の商店の主人に話を聞いてみた。

    「ご主人、ちょっと話を聞いてもいいか?」
    「ん?、ああ、お客さんかい、これは珍しいのぅ、わしで答えられることなら、どんぞ」

    その店の主人は禿頭の50代くらいの男だった。

    「この町は、いつもこんな感じなのか?」
    「いんや、こんなに人が少なくなったのはここ最近のことだよ、2ヶ月くらい前まではまーだ人がたくさんいたんだけっどもね」
    「なにか心当たりのようなものはありますか・・・・?」
    「そだなー、やっぱりあれだなー、この町の北の方にある大昔のでっかい遺跡に何か変な奴らが集まってきてからだろうなー、若い女の子とかみいーんないなくなっちまった」
    「北の遺跡、ですか・・・・・・」
    「ああ、あそこにはなんでも大昔の怪物が封印されてるっちゅー噂があってのぅ、町のモンは誰も近寄らんかったんじゃが・・・・・・」
    「そうですか・・・・・・ありがとうございました」

    クライスは店の店主にお礼を言って、立ち去ろうとして、もう一つ聞いてみた。

    「ところで、ご主人」
    「なんじゃ?」
    「あなた、スポーツかなにかやってらっしゃいますか?」
    「ん?・・・・・・・・・・・お、おお、わしはこれでも昔剣術の使い手としてそれなりに名を馳せたことがあっての、今もすこしやっておる」
    「そうですか」

    クライスはその店から立ち去り、エルリス達と合流した。

    「収穫はどうだった?」
    「とりあえず、この町がおかしな事になってることだけはよくわかった」
    「こっちの方でも、前はここまでひどくはなかったとか、北の遺跡に変な奴らがいるとか、そんな話を聞いたよ」
    「ああ、それは俺も聞いた・・・・・この任務けっこう大変なことになりそうだな・・・・・」

    クライス達は、ひとまず宿泊する場所を確保するために、大通りで唯一開いていた宿屋に足を運んだ。
    そこも、他と同じで、客がいる様子は全くなく、宿屋の中にある小さな食堂も、奥にコックが一人いるだけだった。

    「あらぁ〜いらっしゃい、お客さんなんてずいぶん久しぶりだわ〜」

    体格のよい、というか恰幅のよい女主人らしき人物がクライス達に近づいてきた。

    「旅人さん?それとも旅の商人かしら?あら、こっちは可愛いお嬢さん達ね」

    クライスに声をかけ、さらに入ってきたエルリス達にも笑顔で声をかける女主人。

    「ええと、はい、あちこちの街を回って色々な場所を旅しています」

    この町でおかしな事が起こってるから調査をしに来ました、なんて言ったら警戒されてまともな会話すら出来ないだろうから、そういうことにすると決めていた。
    すると女主人は破顔してエルリスの方をバシバシ叩きながら言ってきた。

    「そうかいそうかい、若いのに頑張るねぇ!ところでこの色男はなんだい?お嬢ちゃんの恋人さんかい?」
    「い、いえっ!あの、そういうんじゃありません!!」
    「あはははは!そうかい、ま、頑張りなよ!」

    そう言うと女主人は会談の方へと歩いていった。

    「ここに泊まるつもりだろう?どうせここいらで宿屋を開いてるのはここだけだからね、安くしとくよ!」
    「ああ、はい、それじゃ二人部屋一つと一人部屋一つ空いてますか?」
    「空いてるよ、案内するから付いてきな」
    「その前に一つ聞きたいことがあるんだが」

    階段を上ろうとする女主人に向かってクライスが問いかけた。

    「なんだい?」
    「この宿屋に、耳の長い、弓矢をいつも背負ってる男が泊まってないか?」
    「いや、知らないねぇ」

    女主人は考える素振りすらせず即答して階段を上っていった。

    「・・・・・・・・・・」
    「どうしたの?早くいこ」
    「ああ」

    クライスは何か不審げにしていたが、結局は階段を上っていった。





    ◆  ◇  ◆





    そして、夜、クライスは何かの気配を感じて目を覚ました。

    (・・・・・・・・・・・やはり、この町は何かあるな)

    音を立てずにベッドから抜け出し、ベッドに立て掛けてある剣を取る。
    そして音を立てずに窓際へと移動していった。

    (数は・・・・・・・外だけでも9か10、その上屋内にもいくらかいるな・・・・・・・)

    クライスは口に出さず心の中で数を数えていく。

    (1,2,3,4・・・・・・・13,14,15・・・・・・・・・45,46,47・・・・・・・)

    そしてクライスがそろそろか、と思った瞬間。

    (121,122,123・・・・・来た!)


    ―――ガシャーン!!
    ―――ボグッ!!!


    クライスの部屋の窓を突き破って現れた何者かは、その直後にクライスの剣にぶち当たって地面へと跳ね返って落下していった。

    さらに二人目が窓から侵入すると同時、入り口の扉を突き破って二人、何者かが侵入してきた。
    窓から入ってきた侵入者は、窓枠に足をかけたところを払って一人目と同じように落下していった。

    (まだいる、エルリス達は無事か?)

    クライスは長剣を抜き放ち、一人を袈裟斬りに、続く一人に斬った一人を蹴飛ばして足止め、その隙に廊下へと飛び出した。

    (一人、部屋の中に二人ずつとすると、屋内に合わせて五人か?)

    廊下には一人だけ剣を持った何者かがいたが、剣を構える間を与えずに斬り倒す。

    「んな!?え?キャー!!?」
    「うわー!だれー!?」

    直後に、エルリス達の部屋から悲鳴が上がった、ようやく目を覚ましたらしい。

    (だが、悲鳴を上げてるって事は、まだ部屋にいるって事だな)

    全速力で部屋へと踏み入る。
    そこには、六人、侵入者が四人とエルリス、セリスが体を縛られて今にも連れ去られようとしていた。
    そのうち、手前の二人がこちらに気付く、さらに先ほど足止めだけで放っておいたもう一人の侵入者がクライスの後ろから現れる。

    「うむー!ふはひふー、はふへへー(クライスー、助けてー!)」

    口に何かを詰め込まれたエルリスが叫んだ。

    「先に行け、あたしらはこっちを片付けてから行く」

    侵入者の一人がそう言うと窓際の二人がエルリスとセリスを背負って窓から飛び出した。
    これで部屋の中にはクライスの他侵入者が三人残ったことになる。

    「チッ・・・・・・さっさと片付けさせて貰うぞ」

    こいつらが何者なのか、クライスには既に見当が付いていた、先ほど仲間に指示した声、間違いない。

    部屋に残る侵入者三人の内、真後ろの一人にクライスは振り返りざまに斬りかかる。
    これは予想通り受け止められた、そこでもう一回斬りかかる振りをして足払いをかける。

    「がっ!?」

    その侵入者は驚きの声を上げてひっくり返るがそのまま放置、そこで振り返ると、ちょうど残る二人が飛び込んできたところだった。

    「!?」

    振り返るときの勢いのままに剣をなぎ払う、左側の侵入者は切り払うが、もう一人に受け止められる、これで残り二人。

    「それで、これはなんのつもりだ?女将さん」

    クライスがかけた声に一瞬剣を交差している相手が驚いていた。

    「・・・・・いつ気がついたんだい?」

    いま、クライスと剣を交えてる相手、それはこの宿屋の女主人であった、さらにクライスに足払いをかけられた相手、そっちは宿屋のコックだった。

    「怪しいとは思っていたが、ついさっき仲間に声をかけたときに確信したよ」
    「そうかい、だけど、わかったところでどうにもならないよ!」

    女主人がさらに力を込め、それと同時に後ろのコックもこちらに近づいてくる。
    しかしクライスは、

    「ふっ!!」

    かけ声と同時に前と後ろ、同時に足払いをかけた。

    「なっ!」
    「おわっ!!」

    ―――ゴツッ!

    二人は、ものの見事に空中で頭からぶつかり合った。

    「すまんな、時間がないんだ」

    そしてクライスは二人を無視して、窓から飛び降りた。





    ◆  ◇  ◆





    夜のカトレアの街、その大通りをエルリスとセリスを担いだ二人に加え、さらに六人もの人影が走っていた。

    ―――バリン!

    その物音を聞き、その隊列のうちの一人が後ろを振り返る。

    「奴ら、足止めに失敗したのか!三人はあの青髪の男を抑えろ!残りは俺と来い!」
    「ハイ」
    「はっ」

    そこにいた、合計で七人もの人影のうち、返事を返したのは、わずかに二人だけだった。
    そして三人が後ろに戻っていき、残る四人はそのまま町の郊外に向けて走って行った。





    ◆  ◇  ◆





    クライスは侵入してきた敵がなんであるか、ある程度だがわかってきた。
    最初に宿屋で襲撃してきた敵の五人のうち、人間だったのは二人だけだった。
    それ以外の三人は全て人形、もしくはそれに類する何か、魔力で動く意志のない存在であった。

    そして、今クライスの前に立つ3つの影も、そのうち2つの動きが単調すぎることからそれは人形であることがわかる。

    「邪魔だって、言ってるだろ!」

    一瞬にして、人形の二体が斬り倒される。
    続いてやって来たもう一人、そちらの方は動き方から見て人間のようだ。

    「ハァッ!!」

    ―――ガキィーン!!

    クライスの長剣とそいつの剣とが交差し、大きな音を立てる。

    「・・・・・・・・お客さん、少ーしばかり、ここで足止めさせてもらうだよ・・・・・・・・・!!」
    「ッ!あんたは・・・・・・・・!」

    クライスと切り結んでいる相手、それは昼頃、クライスが街のことについて尋ねた露天商の老人であった。

    (ちっ、こうなると、街そのものが丸ごとどうにかなっているとしか、思えないな)

    この老人、予想通りいくらか剣の覚えがあるようで、人形のように簡単に斬られてはくれなかった。

    ―――ガキィン!
    ―――キン!
    ―――ガン!

    「ほほほ、お客さん、やるでねぇが!」
    「こっちとしては、それほどあんたに時間をかけてられないんだがな!」
    「いっぱいかけてもらうだよ!」

    リーチは短いものの、背が低い老人はクライスの懐に入り込みやすく、ヘタをすればクライスがやられかねない状況だった。

    (くっ、これ以上は、時間をかけられないな・・・・・・・・しかたない!)

    クライスはその場から大きく後ろに跳んだ。

    「ほ、どうしただ?あの娘さん達を諦めっか?」
    「いや、そこをさっさ通させてもらうことにした」
    「ほ?」

    クライスは長剣を右手に、腰に差した短剣を左手に、二刀流と言うにはお粗末だが、擬似的な二刀流になりきる。

    「・・・・・・・・・・・・・・ハァッ!!」
    「早い!?」

    瞬く間に両者の距離を零にしたクライス、それに驚いた老人は思わず剣を突き出す、クライスはそれを左の剣で受け止め、一気に右手剣でなぎ払った。

    「ぐおっ!!」

    老人は直前で後ろに跳び下がったせいか傷は浅い、だがここを突破するには十分だ。

    「じゃあな!」
    「っ待て!」

    クライスは傷を抑えてうずくまる老人を無視し、大通りを駆け出した。





    ◆  ◇  ◆





    「・・・・・・・・・・!あちらに向かった三人が突破されたようです!」
    「役立たずどもが・・・・・・!」
    「ここは私が受け持ちます、あなたはその二人の娘を遺跡に運んでください」
    「ああ、任せた」

    そして、エルリス達を運んでいた四人の内、一人だけがそこに残り、残る三人はそのまま走って行った。



    一人残されたそいつは、大通りに佇む。
    そして遠くに、こちらに向かう人影を見つけると、懐から杖を取り出し、構えた。

    「予想より早い・・・・・・・・!」

    そして杖を振り下ろした

    「『召喚』!」

    すると、四体の土人形ゴーレム、これまでの人型ではない大型の、それを見た人間がすぐに恐怖を覚えるような凶暴な奴が出現した。

    「すー・・・・・・・・はー・・・・・・・・・すー・・・・・・・・・・・・行きますっ!」

    杖を前方に突き出す、すると三体のゴーレムがその人影目掛けて突進していった。





    ◆  ◇  ◆





    「・・・・・・・・・人形遣いドールマスターか、厄介な・・・・・・!」

    クライスが大通りを走っていると、たった一人で待ちかまえる敵がいた、それはつまり相当自分の力に自信があるということだと判断してはいたが。
    ゴーレムが四体、普通の相手じゃない。

    (どうする?全部相手にするほどの余裕はない、人形遣いは術者にそれほどの能力がないが、それは本人もわかっているだろう)

    前方にいるゴーレム四体のうち、三体がこちらに突き進んできた。

    ―――ブオンッ!
    ―――ズドゴッ!

    ゴーレムの巨大な拳が飛んできて、地面を陥没させる。
    クライスはそれを跳んで回避し、その腕の上を駆け上り、

    ―――ガキッ!

    ゴーレムの頭を斬ってみたが、予想通り全くダメージがない。

    「ちっ!」

    肩を蹴って別のゴーレムの頭へ、そこからさらに跳躍しもう一体のゴーレムを飛び越える、その場からすぐさま駆け出し術者を目指して駆け抜ける。

    「行け!」

    術者のそばのゴーレムが動き出す。
    さらに後ろの三体もクライス目掛けて動き出した。

    (四体を同時に操るのか・・・・・・かなりの術者だな)

    並の人形遣いなら1〜2体を同時に操るのが普通だ、それが四体となるとかなりの技術を要する。

    (だが、どれだけゴーレムの扱いがうまくとも、術者本人さえ抑えてしまえば!)

    目の前に迫った最後の一体のゴーレムが拳を振り下ろすが、その隙間を縫うように走り抜け、ようやく術者までの道が開けた。

    (しばらく、眠ってろ!!)

    クライスはあっという間に術者との距離を縮め、剣を振りかぶる。

    ―――ガキン!
    ―――ガッ!
    ―――キン!

    クライスの剣を杖で受け止め、さらに突き出してくる、それをクライスが避け、長剣で斬りかかるが回避される。

    ―――これは、予想外だ。

    (術者が、並の戦士より強いのかよ!!)

    「ふっ!!」

    杖を棒術の要領で突き出し、薙ぐ、クライスは突きを回避し、薙ぎ払いを剣で受け止める、さらに右足の蹴りと杖の突きが同時にクライスを襲う。

    「くっ!」

    思わず、後ろに数歩下がってしまう、すると、

    ―――ズドゴ!
    ―――ズドゴ!
    ―――ボゴン!

    4体ものゴーレムが一斉に殴りかかってくる、それを回避し、前に出るとすかさず術者の杖がクライスを狙う。

    (・・・・・・・・こ、これは、まずい!)

    この状況を招いたのは自分とはいえ、挟み撃ちを喰らう格好になってしまった。

    (どちらか一方でも、さっさと片付けなきゃならんが、このままだと・・・・・・・・!?)

    しかしその直後、思わぬ援護がクライスを救うことになる。

    ―――キラン
    ―――ズドッ!ガスッ!!

    どこからともなく、銀色の矢が二本飛んできて、ゴーレム二体に突き立ち、すると、そのゴーレムはただの土の塊と化して崩れ落ちていく。

    「ちっ、また奴か!撤退します!」

    人形遣いの術者が、そう叫び、残る二体のゴーレムが、術者を守るように移動する。
    さらにもう一体ゴーレムに銀矢が突き立ち、土塊へ。

    「な、待て!」

    慌ててクライスがその術者を止めようとするが、しかし最後のゴーレムに銀の矢が突き立ち、土塊と化したとき、そこに術者の姿はなかった。

    「・・・・・・・ちっ!」

    クライスが舌打ちし、その場にそのまま佇んでいると、一人の男がクライスの元に歩み寄ってきた。

    「久しぶりだね、クライス」
    「とりあえず、状況から説明してくれるか?」

    その男は、先ほど銀の矢を放ってクライスを助けた人物、エルテイだった。


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