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■64 / 4階層)  空の青『バイト編』そのB
□投稿者/ 黒い鳩 -(2004/11/20(Sat) 23:26:01)
    2004/11/21(Sun) 09:34:21 編集(管理者)

    「ウルォォオオーーン」
    「オオォォーーン」

    大型の獣人達が私達を追いかけてくる……
    追いかけられる私達にはたまった物じゃないけど、今の所追っ手は4〜5人、もっとも獣化している連中は匹で数えた方が良いのかも…
    ただ彼らは私達を本気で追っているわけでは無いようだ… 森の中で足を取られながら進む私達を追いかけるのだから十分もしない間に追いついても良い筈… だとしたら…
    獣の習性を考えると…私達を弱らせているという事?
    どうしよう…このままじゃ食べられる事はなくても、捕まって捕虜なんて事になるかも…
    でもそれはセリスにとって致命的なことになりかねない……
    やはり、応戦する以外には無いみたいね…
    私達は足を止め、身構える…セリスも緊張が伝わったのだろう警戒してきょろきょろ見回している…

    「姉様、もう逃げないの?」
    「このままじゃどの道追いつかれるわ…それより体力が無くなってから対峙するほうが怖い」
    「うん、そうだね……」

    私の言葉にセリスも表情を引き締めたようだけど…
    でも、安全になったと言うわけじゃない…
    獣人の警備隊がどれくらいの連度なのか分からないし、たとえ弱くても数で不利だ…
    まあ、その辺も望み薄だけど……

    「セリス、出来るだけ自分で逃げて…私がフォロー出来るとは限らないし」
    「ううん、姉様、ボクも手伝う…原因はボクにもある訳だし……」
    「はあ、あのね…セリス、あなたは戦う方法を知らないでしょう?」
    「知ってるよ、このヨーヨーがあれば…」
    「ヨーヨーで戦える分けないでしょう!」
    「戦えるもん!」
    「あのね…」
    「るぅ! 姉様にも見せてあげるんだから!」
    「…」

    はあ、この意固地なとこ誰に似たのかしら…(汗)
    私はセリスの将来が心配になった…

    そうしている間にも獣人たちは私達の周囲に陣取り様子を伺っている……
    獣人には二種類のタイプがある……
    簡単に言うと人間と獣の中間みたいな容姿をした者と、人から獣の姿に変われるものだ……
    戦闘力は一部の例外を除いて後者の方が高い…
    そして、私達の目の前にいるのは後者の方だ…
    森の中を跳ね回りながら私達に近づいてくる…
    突然周囲が静かになる…
    私はまだそれほど気配が読めるほうではないけれど痛いほどの静けさに私達が囲まれている事を察する…
    私は緊張し冷や汗をたらしながらも身構える…
    剣を引き抜こうとしたその時…

    「人間よ、何故われらが領域を侵犯した?」

    そう声を発しながら体格のいい狼男が私達の正面から現れる…
    狼男は威風堂々としていて、落ち着いている…
    変身後の獣人は血を好むとかって聞いた気もするけど…
    これは認識を改めないといけないわね…

    「私達はバイトでカロン草を取りにきただけ、もしそれが気に入らないなら返すわ」

    私がカロン草を高く掲げそれを地面に置く、セリスは勿体無がっているけど背に腹は帰られない。
    隊長らしき狼男はそれをしげしげと眺めていたけど、どうも納得していないみたい…
    カロン草を取りに行くわけでもなく私達に向き直る…

    「ならば聞く、お前達が携えている武器は魔科学兵器ではないのか? それを携えて国境にやって来るという事がどういう事か分かっているのか?」
    「それは…」

    どうも私の剣だけじゃなくセリスのヨーヨーの事も言っているみたいね…
    魔科学兵器は神殿の忠告を無視する形で国家や武器商人によって作り出されている…
    それを所持できるのは兵士や傭兵、そして貴族という事になってくる…
    私達の所はいわゆる没落貴族、だから蔵にこういったものがあるんだけど…

    これを持っての国境侵犯は戦争の引き金になりかねない…
    狼男はそう言っているのね…

    「では、私達はどうすれば良いと言うの?」
    「おとなしく一緒に来てもらおう」
    「その場合は私達をどうするつもり?」
    「刑は魔科学兵器を没収の上三ヶ月間の拘束…そんな所だな」

    魔化学兵器の没収は痛いけど…それより問題なのは三ヶ月間なんて長い間拘束されればセリスの魔力が暴走しちゃう…
    条件は飲めそうに無い、でも現状は…かなり不味いわね、そう私が考え込んでいるうちにヒュンという音が聞こえた…
    とっさに視線を上げるとセリスがカロン草をヨーヨーを使って回収する所だった…

    「隊長さん、あなたのいう事も分かるけど、逃げ切れれば証拠は残らないよね、ボクは…ボクはこんな所で立ち止まってはいられないんだ!」
    「そうね、こんな所で終われない、終わらせないわ!」

    不思議と狼男に対するプレッシャーは感じなくなっている… 私はセリスとうなずき合うとエレメンタルブレードを抜き放つ!

    「ほう、良い目をしている…ならば相応の態度で挑まねばなるまいな…」

    狼男は周囲の兵たちに何か命令をしたみたい…もっとも、片手を軽く振っただけだから良く分からないけど…
    私は呼気を整え周囲の気配を読み始める…
    命に教わった事がこんな所で役に立つなんてね…
    周囲のざわめきが消えていく…気配が息を殺しているのが分かる…
    マナは万物の基礎を成す第一条件…
    そのマナの動きを捉える事が気配を読む極意となる…だったっけ…
    今でも良く分かっている訳じゃないけど…心を澄ませば見えてくる…

    右後方!

    私は体を捻りながらエレメンタルブレードを振りぬく…
    心の動きに合わせほぼ自動でエレメントクリスタルに送り込まれる氷の魔力が剣の軌道に氷の粒を形成する…
    私に攻撃しようとしていた猿の獣人は氷の粒を目潰しに喰らい体制を崩す…
    私はその獣人を蹴り飛ばしエレメンタルブレードを構えなおした…

    「シャァー!」
    「くっ、セリス!」

    私がセリスから離れた所を見計らってセリスに狐の獣人が迫る…
    私はあわてて戻ろうとしたけど、猿獣人が私の邪魔をする様に立ちふさがる…

    セリスは狐獣人が迫ってきているというのに驚いた顔を見せない…
    狐獣人はセリスに向かって飛びかかろうとしている…
    セリスがヨーヨーの糸で結界の様なものを作り出している事は見て取れるものの、あれでは獣人を抑えておくことは出来ないわね…

    私が出来るサポートは…
    猿獣人と戦いながら詠唱を開始する…

    全ての終わりを運ぶ者、凍れる世界の主よ…その息吹もて顕現せしその力を示せ

    私が呪文の詠唱を終了し狐獣人に放とうとした時…
    セリスの結界が輝きを放つ…
    そして、飛び掛って来た狐獣人を吹き飛ばした…
    猿獣人も一瞬その事に気を取られたらしい、私はその隙にあわせて呪文を発動させる…

    「フリージング!」

    瞬間、猿獣人は体表面の水分を凍りつかせた…
    この呪文ご大層な呪文の割に効果はそれほど大きくない、でも回復するまで半日くらいはかかる…全身に低温火傷を負わせることも出来るけど…
    獣人は毛が多いから難しいのよね…

    兎も角、猿獣人を行動不能に追い込んだ私はセリスに合流する。

    「セリス…いつの間にあんなことできる様になたの?」
    「えへへ…練習してるうちにね…魔力の通し方次第で色々できるみたいだって気付いたんだ♪」
    「凄いわね(汗)」

    セリスはこういう事が上手いとは思っていたけど…これは一種の天才なのかも…
    戦闘中だというのに私は思わず感心してしまった…

    「さあ、ここを通してください、無駄な怪我人が出ますよ…」

    私は狼男に向かって脅しの言葉を言う…
    でも考えてみればこれくらいの事で怯む兵士はあんまりいないわよね…
    予想通り狼男も私達に向かって身構えただけ…

    不味い…この狼男隊長だけあってさっきの奴等より強い…
    私達は身構えていたけど、徐々に押されているのがわかった…
    緊張がくずれた時が私達の最後…

    「フッ…」
    「なんですか! いきなり!」

    そう、突然狼男は筋肉を弛緩させると私達に背中を向けた…
    まるで争うつもりは無いと言っているみたいに…

    「いやなに、お前達があまりにバカ正直だからな…」
    「バカ正直って(汗)」
    「第一にお前達は助かるチャンスがあった、魔化学兵器を捨てて行けば我々はお前達を追う事はしなかっただろう、
     スパイ容疑はあっても来てからの動きはある程度見ているからな」
    「なっ!」
    「第二に実力的に勝る訳でもないのにお前達は俺の部下達を殺していない」
    「…」
    「な? バカ正直のアマちゃんだろ?」
    「ぐぐぐ(怒)」
    「そのバカ正直さに免じて今回だけは見逃してやる、二度と中途半端な覚悟で来るんじゃな無いぞ」

    私達はバカにされていると感じながらも見逃して貰えるのだからとぐっと我慢していた…
    でも、私もセリスも限界が近い…仲間の兵士を背負っていく狼男を私達は睨みつけていた…

    翌日どうにか町に戻る事ができた私達は大変驚かれていた、奥地まで行って戻ってきた人間はあまり多くないみたい…
    因みにカロン草はかなり痛んでいたらしくバイト料は半値しかえられなかったけど、とりあえず列車に乗るには十分だったので良しとしておく事にした。

    え?
    あの後どうやって町に戻ったのか?
    それは…恥ずかしい限りなんだけど…
    また迷ってたらあの狼男に無理やり町の所までつれてかれちゃったの(汗)
    あの時の屈辱は忘れられないわ(怒)
    セリスと二人でいつかギャフンといわせてやると誓った位に!

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