Release 0シルフェニアRiverside Hole

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■14 / 親階層)  捜し、求めるもの
□投稿者/ ルーン -(2004/11/06(Sat) 23:57:59)
     パチパチ……
     火にくべた小枝がはじける音がする。
     空はもう夕闇に染まり、仕事をして外出していた人も家路に着く時刻である。
     そんな時刻に、まだ少女といって差し支えない年頃の少女が、ただ一人で森の開けた場所にいた。
     こんな時刻に、少女がこんな所に居る所を見れば、旅人か……それとも人には言えない事情の持ち主か。
     だがどちらにしろ、まだ幼い少女が一人で居ていい場所でも時刻でもない。
     近隣に都市が在るとは言え、旅人や商隊を狙う盗賊が何時現れても不思議ではないのだ。
     ただその少女には、そんな事を恐れている節は見当たらなかった。

     そんな少女は、歳の頃は十五六歳、真紅の髪に真紅の瞳を持つ美少女とも言っても過言ではない容姿だった。
     少女の名を『ユナ・アレイヤ』と言った。
     ある特定の人たちには、畏怖と羨望でもって名前を呼ばれる。
     曰く、15歳にして炎系統の全ての魔法を習得した天才少女。
     曰く、炎に愛された少女などなど、彼女を取り巻く評価は様々である。
     本来ならば魔法学園を卒業後は、王宮に仕官するのが当然であり、又、学園の者達も事実そう思っていた。
     だが彼女は、王宮からの仕官の話を謝絶し、故郷に帰った。
     だが故郷にいざ帰ってみれば、一つの問題が発生していた。
     その為にユナは、旅に出ることを決心したのである。

     パチパチ……
     「火は……嫌い……」
     焚き火の炎をじっと見つめていたユナが、突然ポツリと漏らした。
     「だって、私のお母さんとお父さんを殺したから……。でも……、炎は好き。だって、義兄ちゃんとの絆の証だから」
     相反したことを口にしながら、ユナは此処ではない何処かを見つめている様子だった。

     そんな時である。
     ガサガサ―――
     木々が擦れる音と共に、十数人の見るからに盗賊と言った格好をしている男たちがユナの前に姿を現したのは。
     「お、本当に女の一人旅じゃねぇか」
     盗賊の頭目らしき人物が傍らにいた手下にそう言った。
     「へへへ、だから言ったでしょう? 女で一人旅をしている絶好の得物がいるって」
     どうやら、この手下がユナを見かけて仲間達に報告したらしい。
     「ああ、しかもかなりの上玉だな。こりゃあ、売ればかなりの儲けになるな。お手柄だぜ」
     頭目の褒め言葉に手下は、低頭することで応えた。
     「ですがお頭、売っちまう前に、まずは俺達で楽しみませんか?」
     別の手下が、ユナを見ながら進言した。
     「あん? そうだな……売値は下がっちまうが、そん位の役得はあってもいいかもな」
     頭目はユナの全身を舐めるように見回すと、ゴクリと唾を飲み込みながら言った。
     まだ多少幼さは残るが、ユナは間違いなく美少女であり、体付きもそう悪くなかった。その為、盗賊達の欲情を掻き立てるには十分だった。
     その言葉を聞いた手下たちは、顔満面に喜色の表情を浮かべると、卑猥な笑い声を口々に上げた。
     そして盗賊達は、ユナに恐怖を与えるかのように、態とゆっくりと近づいてきた。
     そんな状況にも関わらず、ユナは依然として焚き火の炎を眺めていた。
     そんなユナの様子を盗賊達は、自分達に恐怖してまともに動けないのか、それとも現実を拒否していると都合のいいように解釈した。
     じりじりとユナに近づいた盗賊の一人が、もう我慢が出来ないとでも言うように、ユナに向かって飛び掛った。

     そして、それが起こった。
     ユナに飛び掛った盗賊が、突然何もない空中で弾かれたかと思った瞬間に、炎に包まれたのだ。
     炎に包まれた盗賊は、微かに焦げ臭い匂いを放ちながらも、ピクピクと動いている辺り、どうやらかろうじて生きてはいるらしい。
     「な、何だ!? 今のは!?」
     異常な事態を目撃した盗賊達は、突然な事に動揺をし始めた。
     「うろたえるなッ! バカが一人犠牲になっただけだ!!」
     流石は頭目と言ったところであろうか。たったそれだけの言葉で、仲間の動揺を押さえ込んでしまった。
     「そうか……てめぇ、魔法使いだな? ちっ、どおりで女が一人で旅なんかしているはずだ」
     目の前の異常な出来事を魔法によるものと即座に推測した頭目は、忌々しそうに口にした。
     その頭目の言葉によって新たに手下達に動揺が走るが、たったひと睨みしただけでそれも押さえ込んでしまった。
     「だがよ、聞いた事があるぜ? 魔法使いが使う魔法はよぉ、呪文を詠唱しなくちゃならねぇ。でもって、あんたがさっきから俺達の方も向かないのは、呪文の詠唱をしているからじゃねぇのか? ってことわだ、俺達が周りを取り囲んで、一斉に襲い掛かれば対処しきれねぇよな」
     ゛くっくっく"と最後に嘲りの笑みを浮かべる頭目。
     そんな頭目の余裕の態度を見て取ってか、手下達も再び喜色の笑みを浮かべながら、ユナを囲む為に散った。

     今度は一斉に飛び掛る為に、頭目の合図を待ちながら慎重に摺り足でユナへとにじり寄って行く。
     頭目はさっと手を挙げ、そして挙げた手を振り下ろした。
     頭目の合図に、手下達は一斉にユナへと襲い掛かった。
     そして頭目はこの先に起こる未来図を予測してか、口を嫌らしく歪めた。
     ユナにしてみれば、絶望的な全方位からの一斉攻撃に対抗手段はないかと思われた。
     事実、ユナの顔には緊張と恐怖の色が浮かんでいた。

     しかし―――

     どがぁぁぁぁ……ん

     耳を覆いたくなるような爆音が辺りに響いた。
     ユナへと襲い掛かった盗賊達は、またもや空中で壁が在るかのごとく阻まれ、その身に炎を纏いながら吹き飛ばされた。
     それは木に登り、木の上からユナを狙おうとしていた盗賊も例外ではなかった。
     ユナへと襲い掛かった全ての盗賊が吹き飛ばされ、焦げ臭い匂いを放ちながら、ピクピクと細かい痙攣を繰り返した。
     「な……に……?」
     あまりな出来事に唖然とした声を出すしかない頭目。
     盗賊達で五体満足で残っているのは、ユナへと襲い掛からなかった頭目ただ一人だけだった。
     そんな頭目へと、視線を向ける者がいた。
     ユナである。
     しかしユナの表情には、先程まで浮かんでいた緊張や恐怖の色はなかった。
    ただただ、冷ややかな視線だった。
     「教えてあげる」
     「何・・・・・・?」
     突然のユナの声に、訳が分からずに戸惑いの声を上げる。
     「何故、こんな結果になったか分からないのでしょう? だから教えてあげるって言ったの」
     いっそう晴れやかと言っても過言ではない顔をしながら、数歩頭目の方へと近づく。
     「答えは簡単なのよね。私が立っている爪先の地面をよく見てみなさい」
     その声に釣られるよにして、盗賊の頭目はユナの爪先がある地面を注意ぶかく探った。
     すると―――
     「何だ……それは……?」
     ユナが爪先で指し示した地面の先には、何やら文字らしきものが描かれていた。
     文字を目で追ってみれば、焚き火を中心として、半径2.5mの円形状にびっしりと書き込まれていた。
     「これはね、魔方陣って言うの。魔法には大きく分けて二種類の使い方があるの。一つ目は貴方が言ったとおりの、呪文を詠唱して発動するタイプの魔法。もう一つが、魔方陣によって発動する魔法。どちらも一長一短の特徴があるけどね。こういう野営時には効力が持続して、自動的に展開する魔法陣型の魔法が便利だけどね」
     まるで教師が生徒に教えるような態度で話すユナ。
     「なっ!」
     自分が知らなかった魔法の事実に、思わず驚きの声を上げる。
     それも無理はない。
     所詮は魔法を聞き齧った程度の素人と、炎限定とは言え、魔法を極めたエキスパートとの差である。
     「で、何で態々こんな事を一々説明してあげるかと言うと・・・・・・」
     そう言ってユナは、両方の手に炎を宿らせた。
     「これから死んで逝く、貴方達への冥土の土産ってやつね」
     ニッコリと笑いながら事も無げに簡単に言い放ったが、これは事実上の死刑宣告であった。
     ユナが笑顔で言って来た事も重なり、事態が上手く飲み込めなかった頭目だったが、漸くユナが言った言葉を理解したのか、その顔が紛れもない恐怖で歪んだ。
     「まっ・・・・・・」
     慌てて命乞いをしようとしたのも既に遅く、ユナが放った炎の魔法は、頭目と虫の息の手下達を無常にも飲み込んだ。
     「命乞いなんて無様だよ。貴方達は私を襲ったんだから、殺される覚悟ぐらいしておきなさいよね」
     消し炭の一欠けらも残さずに燃え尽きた盗賊達に、同情の一欠けらも見せないで言い切った。
     ユナはふと星が輝く夜空を見上げた。
     「義兄ちゃん、義兄ちゃんは今どこにいるの?」
     先程、盗賊達を無慈に焼き殺したユナの表情とは違い、その瞳は儚く憂いを帯びた瞳だった。

     ユナの義兄は、ユナの魔法学院の入学費や授業料、生活費などその他もろもろを稼ぐ為に、大都市へと出稼ぎに赴いたのだ。
     無事ユナが学院を卒業した事もあって、出稼ぎ先から生まれ故郷へと帰郷しようとした義兄が、一つのハプニングを起こしたのだ。
     故郷に行商へ来るはずの商隊に乗せて貰わずに、徒歩で帰ると言い出したのだ。
     何でも、景色を眺めながらのんびり歩いて帰りたいと言うのが理由らしかった。
     商隊の方も、直線距離で20kmと比較的近くだった為に、特に止めなかったらしい。
     義兄は剣の腕は確かだ。
     その為に、帰郷の途中で盗賊等に襲われて殺されたとはユナは微塵も思っていなかった。
     それなのに何を心配する必要があるかと言えば、ユナの義兄は方向音痴なのだ。
     それも、生まれてからずっと暮らしてきた筈の故郷で道に迷うほどの。
     ちなみに出稼ぎ先は、住み込みであった為に迷う事は殆どなかったらしい。
     そして帰郷してその事を知ったユナは、その日の内に今度は義兄探しの旅に出る羽目になり、現在の状況にいたったのである。
     「義兄ちゃん……」
     寂しさが混ざった声音でポツリとそう漏らすと、ユナは明日に備えて寝袋へと潜り込んだ。




     その頃の義兄はと言えば―――

     空さえも見えないほど木々が生い茂った森の中、一人の男がポツンと立っていた。
     「此処は……一体何処だ……?」
     義妹の心配の通り、確りと道に迷っていた。



     現在の義兄の位置―――
     故郷から直線距離で96km
     果たして義兄は、無事自力で帰郷できるのか!?



     ―――続く……のか?
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