Release 0シルフェニアRiverside Hole

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■182 / 7階層)  捜し、求めるもの 第三幕 そのC
□投稿者/ ルーン -(2005/04/11(Mon) 20:25:40)
     豪華で無駄にデカイ扉を前に、私は一度キリへと顔を向けた。
     「ねぇキリ、お願いがあるんだけど……」
     「ナンダ? 主ヨ」
     「うん。吸血鬼と戦闘になった場合、キリは手を出さないで欲しいの。アイツは、私の手で直接制裁を加えたいから」
     「……了解シタ。主ノ好キニスレバイイ」
     キリは私のお願いに少し不満の表情をしたが、結局は私の願いを聞き入れてくれた。
     これは私がキリの主であり、私の実力を信頼してくれているからだろう。
     そう思うと、少し嬉しかった。
     そして私は、吸血鬼が住まう屋敷の扉を開く為に、ドアノブへと手を掛けた。
     見た目に反して扉は意外に軽く、比較的簡単に開いた。
     そして、私の目に飛び込んできた物は―――



     屋敷の外見に勝るとも劣らない豪華な、けれども悪趣味でも成金趣味でもない、そんな内装と調度品の数々だった。
     玄関ホールは大理石で出来ていて、二階へと続く階段や手摺もおそらく大理石だろう。
     天上からぶら下がっているシャンデリアも芸術品と言っても差し支えない。
     床にはこれが決まりなのか、赤い絨毯が敷かれている。
     壁には風景画や抽象画が飾られ、廊下には台の上にツボが置かれている。
     おそらく、この絵一枚やツボ一つでも、捨て値で売っても、数年は暮らせる売値になるだろう。
     そんな風に屋敷の中を観察していたら、玄関ホールにある正面階段の上段に、何時の間にか一人の男が立っていた。
     年齢は二十代半ばほど。
     髪は何かで固めているのか、短髪をオールバック風に撫で付けている。
     そして服装―――これがバカらしくて、可笑しかった。
     いかにも御伽噺や絵本にでも出てきそうな、典型的な吸血鬼の格好をしていた。
     簡単に言えば、ほぼ黒尽くめの服装に、黒に裏地が赤のマントを着ていたのだ。
     こんな格好の吸血鬼など、私がまだ5〜6歳の頃に見た演劇に出てくる吸血鬼役の人以来だ。
     まさか素であんな格好をする奴が居るなんて……、バカじゃないの?
     もしかしたら、絶滅寸前の天然記念動物以上に稀な存在かもしれないわね……。
     それにしても、まさかこんな所でコスプレパーティーをしている訳でもないでしょうに。
     そうなると、こんな所に居るからには、奴が噂の先祖還りをした吸血鬼と言う事になるわね。
     そうすると……まさかアレ? アイツ、まずは形から入る口?
     稀に居るのよね〜。まずは形から入る奴。
     魔法使いになるにしても、どこでどう言った情報を得たのか勘違いしたのか、ローブに身を包んで、樫の木の杖をまずは揃える奴。
     何で魔法使いになるのにローブに樫の木の杖が必要なのかしら?
     ローブなんて動きづらいだけだし、樫の木の杖なんて何の役にも立たないじゃない。
     ん? そうでもないか。硬い樫の木の杖は十分武器になるし、呪文の詠唱をし易くなるって言う人も居るしね。
     要はアレね。呪文の詠唱時に集中力が増し、より魔法の威力が強くなるのね。
     けど……、何で態々顔に化粧までしているのかしら?
     ああ、間違いないわね。あいつは唯単に形から入る口の奴だわ。
     だって、昔見た役者さんと同じ服装に化粧まで一緒だもの。
     と其処まで観察して、感想を思い浮かべたところで、その話題の中心の吸血鬼がいきなり拍手をした。
     パン、パン、パン、パン。
     大理石の玄関ホールに響く拍手の音。
     奴は芝居がかった仕草で拍手をし、鷹揚な口調で私に話し掛けてきた。
     「ようこそお嬢さん、我屋敷へ。私はこの屋敷の主、ランス・ディストールと申します。職業はまあ、真祖の吸血鬼をやっております」
     優雅に一礼するランス。
     でも、私は思う。吸血鬼は種族であって、断じて職業ではない!
     第一、喋り方や仕草に至るまで、全てが芝居がかっている。
     よほど練習でもしたのだろうか? でもそんな事は、まあいい。
     私にとって重要な事は、この勘違い吸血鬼の仕草や格好ではなく、お義兄ちゃんの事を聞く事なのだから。
     「ふむ、隣に控えている狼はペットですかな? ご安心ください。とう屋敷は、ペットも可ですので」
     そのランスの言葉に、キリの巨躯がピクリと反応した。
     天狼族としての誇りを持っているキリにとって、ランスのあの”ペット”発言は怒りを覚える物だったらしい。
     もっとも、私の前とだけあって、勝手に攻撃はしないようだけれども……。
     私が事前に言っていた事も関係あるかもしれない。
     その代わり、視線で『アイツハ徹底的ニ痛メツケロ』って訴えかけてきてるけど。
     まあ、それも仕方がないか。キリ曰く、キリは私の従者であって、ペットではないもの。
     私にとってもキリは頼れる相棒であって、ペットでは断じてない。
     何だかこれ以上ランスと話していても、私達の怒りが増えるだけかもしれない。
     そう感じた私は、聞きたい事を単刀直入に聞いてみる事にした。
     「ねえ、ちょっと聞きたい事があるんだけど?」
     ランスは天上を見上げると、顔に手を当てて、嘆くフリをする。
     「ああ、なんと云う事だ。名前も名乗らずに、しかも不法侵入をしておきながらこの不遜な態度。嘆かわしい。最近の人間は、何処に礼節と言う物を忘れて行ってしまったのでしょうか? 普通ならそんな人物は、問答無用で叩き出されるものです。ですが、貴女は非常に運が良い。幸いにも私は寛大な心の持ち主ですので、許して差し上げましょう。それで、私に聞きたい事とは何かな? 可愛らしくも無礼なお嬢さん」
     本当に一々芝居がかった奴だ。まともに相手をしていたら夜が明ける。
     私は懐から大事に仕舞ってあったお義兄ちゃんの写真を取り出し、ランスの方へと突きつけた。
     「約二週間前ぐらいに、この写真に写っている男の人を見かけませんでしたか? 私のお義兄ちゃんなんです。多分この霧の森の中心部分まで迷い込んできたと思うのですが……」
     私が突き出した写真を興味なさ気に見るランス。
     だが、次の瞬間には食い入るように写真を見つめ、その顔が徐々に強張り出すと、顔も赤くなって行った。
     そんな様子を見た私は、きっとお義兄ちゃんがこの吸血鬼に何かしたのだろうと推測した。
     そしてそれは、ランスが次に発した言葉によって肯定された。
     「こ、この男は!? あの時の……あの時の男か!? おのれぇ〜、あの男の所為で、あの男の所為で、我配下の魔物たちは全滅した! よりにもよってあの男の妹だと〜? 今一度あの男に会ったら、血祭りにする予定だったが、予定変更だ! この女を惨たらしく殺してやる! そして、この女の首をあの男の眼前に突き出して、精神的にも肉体的にも苦しめて殺してくれるわ!!」
     自ら真祖の吸血鬼と名乗っているランスには、どうやら唯の人間であるお義兄ちゃんに恐怖心を覚えた事が、屈辱として心の中で燻っていたみたい。
     そこに現れたのが妹と名乗る私である。
     今、目の前のランスは、二つの感情に支配されているようだった。
     即ち、狂気、あるいは狂喜。
     二つのキョウキが入り混じりあい、ランスの顔は醜く歪んでいた。
     一方の私と言えば、顔を俯かせ、体を細かく震わせていた。
    キョウキに支配されているランスに恐れを抱いたのではない。
     私の心もまた、ある感情によって支配されていた。
     即ち、怒り。
     私の傍らに居たキリでさえ、怯ますほどの怒り。
     私らを殺すと言ったこと。
     けれども何よりも、そう、何よりも大切な、そして大好きなお義兄ちゃんを殺すと言った事に対する怒り。
     ユナ・アレイヤにとって、あの日から、運命のあの日から、最も私に近い人物で、私にとっては自分の命よりも大切な存在。
     そのお義兄ちゃんを殺すと宣言した吸血鬼を、私が許せるはずが無い。見逃すはずが無い。
     私は俯かせていた顔をそっと上げて、ランスを睨み付けた。
     その表情は、地獄の幽鬼さえも裸足で逃げ出すであろうほど、怒りに支配されていただろう。
     そして、ランスもまた、狂喜に支配された顔を私へと向けた。
     交じり合う怒りと狂喜。
     私は懐から素早く二丁の魔装銃を取り出し、その引き金を躊躇する事無く引いた。
     こうして、私とランスの怒りと狂喜の二種類の感情に支配された者達の戦闘の火蓋は切って落とされた。



     私が手にしている二丁の魔装銃。
     右手に握る『デット・アライブ-01』には、水撃弾と水のE・Cがセットされている。
     そして左手に握られている『デット・アライヴ-02』には、魔力弾とこちらも水のE・Cがセットされている。
     通常なら、どちらか片方の銃には通常弾を装弾させるのだが、相手は吸血鬼。
     本来吸血鬼には、魔力の篭っていない攻撃では決定打にはならない。
     その為に弱点の水で攻めるか、魔力の篭っている弾丸で攻撃するしかないのだ。
     例外と言えば、退魔の力を持つといわれている銀の弾丸ぐらいだろう。
     もっとも、私はそんな弾丸は持っていないので、意味が無いのだが……。

     結果、二丁の銃から発射された弾丸は、水撃の牙となってランスへと襲い掛かった。
     もちろん、『デット・アライブ-01』の威力を増幅させる特殊能力は使用している。
     戦闘では、切り札は最後に出す物だとか、最強の一撃は最初には出さない物だとかいろいろ言われているが、私はそうは思わない。
     何故なら、切り札や最強の一撃を最後の頼みの綱として放っても、万が一にも交わされたり防がれたりして、効かなかった場合はどうする?
     その時点で、その人物の命運は尽きた言えるではないか。
     だが、序盤や最初の一撃ならば、動揺はあるけれども、立て直す事も逃げ出すにしても都合がいい。
     もっとも、それらは人の考え方によって千差万別だし、その場の臨機応変だろうけども……。
     私の場合、今回は切り札とも言える一撃を最初の一撃に持ってきただけ。
     それは私が表面上はどうあれ、内面は冷静だと言う証でもある。
     戦闘で一番大切なことは何か?
     それは、仲間が居ればチームワークも大切だろうが、そのチームワークを生かす為にも絶対に必要な事が一つある。
     それは冷静さだ。
     どんな状況でも、どんな場面に出くわしても冷静さが求められる。
     敵の特性や攻撃方法などを見抜くためにも。
     怒りや憎しみなどの感情に囚われて、冷静さを失っては、普段出来る事も出来なくなるし、攻撃なども自然と粗く単調になってしまう。
     だから冷静さは必要なのだ。
     そして私は今、表面上はどうあれ、内面では多分、冷静だろう。
     冷静にと努めていても、人の感情はそう感嘆に割り切れる物ではないものだから。

     私が放った弾丸は、確かにランスへと中ったはずだ。
     ランスが居た階段はボロボロだし、弾丸が巻き起こした威力の余波によって、あのシャンデリアは無残にも砕け散り、
     その破片がキラキラと綺麗に輝きながら、宙を舞っていた。
     ならば何故だ? 何故あのランスと名乗った吸血鬼は、外傷が殆ど見受けられない。
     魔力防御値が、私が思ったよりも遥かに高かったのか?
     だがおかしい。いくら魔力防御値が高くても、吸血鬼にとって水は弱点のはずだ。
     人間に例えるならば、熱湯か濃硫酸をかけられる様なもの。
     少なくても火傷の痕か、皮膚が焼け爛れていなければおかしい。
     なのに、あの吸血鬼にはそれらしい物は見当たらない。
     衣服が濡れているので、直撃したには間違いない。
     ならば何故だ? 何故、あの程度ですんでいる? それとも何か、私の知らない秘術でも使って防いだのか?
     けど、そんな動作は見られなかった。
     それならば、吸血鬼特有の秘術かそれに類する何かか……、吸血鬼のことに関しては、謎が多いからそれは考えられる事象の一つだろう。
     ならば、私がする事は一つ。
     攻撃を防いだ方法を知る為に、情報を集めること。
     そしてそれは、これからの戦いによって明かしていかなくてはならない。
     其処まで考えた所で、私に向かってランスが放った衝撃波が襲い掛かってきた。
     私はそれを左にジャンプする事で交わし、牽制の射撃を放つと、奥の通路へと駆け込んでいった。

     私を追って通路に入ったランスは、私の後姿を確認すると、両手を上に挙げ、勢い良く振り下ろした。
     そして振り下ろされた腕からは、衝撃波が放たれ、通路を削りながら私に迫って来た!
     恐らく魔力による衝撃波なのだろう。そう推測しながら私は、二丁の魔装銃の引き金を引いた。
     ダンダン!!
     二丁の魔装銃から放たれた弾丸は、ランスが放った衝撃波にぶつかり、相殺した。
     だが次の瞬間、私は思わず声をあげ、目を見張った。
     「なっ!?」
     ランスは放った衝撃波が相殺されると見るや否や、もう次の瞬間には、次の衝撃波を放つ為に腕を振り下ろす動作に入っていた。
     「くっ!」
     ここでまた相殺してもいいのだが、こちらの銃の弾丸にもE・Cにも限度がある。
     一々相殺していては、弾切れやエネルギーがすぐに尽きてしまう。
     ランスの魔力切れを狙うのも手だが、ランスの魔力量がどれほど有るのかも分からないのでは、それは危険と言える手段だ。
     素早く周囲に視線を巡らせてみれば、ちょうど左前方に少し内側に開かれたドアを見つけた。
     私はその半開きのドアに体当たりをして押し開けながら、転がりこむように飛び込んだ。
     そしてちょうど私が飛び込んだ瞬間に、ランスが放った衝撃波が部屋の前を通り過ぎていった。
     衝撃波が廊下を削りながら遠ざかって行く音を聞きながら、私は素早く体勢を整えて、視線を部屋へと巡らせた。
     部屋に視線を向ける間も、二丁の魔装銃の銃口は油断無く、ついさっき私が飛び込んで来たドアへと向ける。
     「ちっ……失敗したかな?」
     部屋を一通り見渡した私の口から、思わずそんな言葉が漏れた。
     この部屋への出入り口は、庭へと面している窓を除けば、私が入って来たドアのみ。
     これは覚悟していたけれども、問題はこの部屋の広さにあった。
     せいぜいこの部屋の広さは、5〜6メートルの正方形程度。
     この程度の広さの部屋では、吸血鬼にとっては一足の間合いしか取れない。
     そしてそれは、銃による攻撃よりも、近距離からの格闘戦の方が有利と言う事になる。
     銃による攻撃を狙うなら、この部屋への唯一の出入り口である、ドアからの進入時に攻撃するしかない。
     一瞬でその結論に至った私は、ランスが部屋に侵入して来るタイミングを見逃すまいと、全神経をドアへと集中させた。
     ……チャリ
     ドアへと全神経を集中させていた私の耳に、そんな何かを踏みしめる音が聞こえて来た。
     「……いったいどこから?」
     不審に思った私が耳を済ませていると―――
     ……チャリ
     再び私の耳に、何かを踏みしめる音が聞こえて来た。
     銃口はドアへと向けたまま、音が聞こえて来た方に視線を向けてみると―――
     「……隣の部屋!? まさか!!」
     私がある一つの結論に至って、銃口を隣の部屋へと向けようとするが、それよりも一瞬早く、この部屋と隣の部屋を隔てている壁が吹き飛んだ!
     「痛っ!!」
     衝撃波と共に飛んでくる壁の破片。その幾つかが体に当たり、私の口から苦痛の声が漏れた。
     私は衝撃波によって部屋の反対側の壁まで飛ばされ、壁に叩き付けられた。
     「かはっ……」
     背中を壁に強く打ち付けられ、肺から息が漏れた。
     ジャリ……
     砂を踏みしめる足音。その足音のした方を、体のあっちこっちが痛むのを堪えながら、私は睨み付ける。
     そして壁が衝撃波によって崩され、立ち込める煙の中から、ランスが姿を現せた。
     ランスは血を流している私を見つけると、嬉しそうに口の端を吊り上げた。
     「おやおや、怪我をしたのですか? 大丈夫ですか? 辛いならば、今すぐ楽にしてあげますが?」
     私はそのランスの言葉に、ギリっと歯を噛み締める。
     迂闊だった。
     確かに部屋への出入り口は一箇所だけだったが、無ければ作れば良いだけの話である。
     ランスは莫迦丸出しの格好をしているが、どうやら本当の莫迦ではなかったらしい。
     私よりも遥かにこの屋敷に詳しいランスなのだ。
     私が飛び込んだ部屋が、どのような部屋なのかも当然熟知している筈である。
     そんなランスだからこそ、私が狙っていた事も予測の内の一つに在ったのだろう。
     私からしてみれば、奇襲を仕掛けるつもりが、逆に奇襲を仕掛けられたようなものだ。
     「では、覚悟はよろしいですか?」
     そう言うとランスは、私が身構えるよりも早く、私の目の前へと移動していた。
     とてもではないが、身を交わす時間は無い。そんな私に出来る事はただ一つ。
     魔力で身体機能をアップさせて、ランスの攻撃に耐える事のみ。
     「フンッ!」
     そして私が体中に魔力を巡らせた次の瞬間、ランスの拳が私のお腹へとめり込んでいた。
     「グウエエエエッ!!」
     その衝撃に、まだ消化されきっていなかった食べ物を吐いた。
     「ラッ!」
     二発目は右の脇腹に。
     「ガッ!」
     「ウオラッ!!」
     三発目は左の脇腹に。
     「ガハッ!!」
     内臓がやられたのか、私の口から血が飛び出るのが見て取れた。
     「ダッ!」
     止めのつもりか、ランスの攻撃は先ほどまでの攻撃とは違い、大振りになった。
     私はダメージの所為で震える足に鞭打ち、ランスの大振りの攻撃を交わすと、ランスの顔面へと向かって右腕を思いっきり振り抜いた。
     ゴツッ……という鈍い音がした。
     そして私の手には確かな手応え。
     私は息も次がせず、二丁の魔装銃をランスへと向け、引き金を引いた。
     私はランスがダメージを受けたかも確認せずに、部屋の入り口へと向かった。
     ドアの所まで辿り着いた私は、水煙がたつ中、ランスの姿を確認せずに爆炎の魔法を部屋に叩き込んだ。

     一歩歩くごとに、私の体の全身に鈍痛が走る。
     あの爆炎でランスがどうなったかは知らないが、直ぐに追って来ないのをみると、ある程度のダメージは加えたらしい。
     床に座り込んだ私は、治癒魔法をかけた。
     最も完治とはいかずに、ある程度のダメージは残った。
     内臓へのダメージや、骨折などの大怪我は、直ぐには治せないのだ。
     そして今は、治癒にかける時間もさほど無い。
     何せ何時ランスが追い付いて来るかも分からないのだから。
     だが一つだけ、直ぐに考えなければならない事があった。
     先ほどランスへと振るった右腕……
     その右腕が握っている『デット・アライブ-01』の銃身には、血の跡が染み付いていた。
     少なくとも私の物ではない。
     確かに私は全身傷だらけだったし、血も吐いたが、『デット・アライブ-01』の銃身には血は付かなかった筈である。
     となると……考えられるのはただ一つ。
     これがランスの血という事だ。
     冷静に考えなければ駄目!
     冷静に対処していれば、あの時の衝撃波やランスの攻撃にも、『デット・アライブ-02』の特殊能力を使う事を思い至った筈なのだから。
     今思い返せば莫迦らしいが、『デット・アライブ-02』の特殊能力である魔力壁を発動させれば、無傷とまではいかなくとも、此処までの傷を負わなくとも済んだはずなのだ。
     私は深呼吸を何度か繰り返し、息を落ち着かせ、高まった鼓動を落ち着かせた。その時―――
     「ガアァァァァァァッ!!」
     何かの叫び声が私の耳を打った。
     この憤怒に満ちた叫び声……間違いなくランスの物だろう。
     「グガアァァァァァァッ!!」
     更に近づいて来る叫び声。
     私は床から腰を上げ、しゃがみ込んで息を殺して待った。
     破壊音と共に叫び声も近づいて来る。
     ―――今だ!!
     タイミングを見計らった私は、廊下の曲がり角から身を躍らせ、二丁の魔装銃を構えた。
     ランスとの距離はざっと2メートル。
     ランスの全身を素早く観察する。
     ランスが着ていた服は所々焼き爛れていたが、特に目立った火傷の跡は見当たらない。
     しかし視線を顔へと向けてみれば、その額には、乾いた血がクッキリとこびり付いていた。
     それを目にした私は、残り少なくなっていたマガジンの残弾を全てランスへと叩き込んだ。
     弾丸の威力に押されて、ランスの体勢が崩れたのを見逃さずに、私はランスへ向かって跳躍し、着地と共に回し蹴りを叩き込んだ。
     相手の骨を折る鈍い感触を感じた私は、吹き飛んだランスには目もくれずに、その場を走って後にした。

     間違いない。
     先ほどの攻撃といい、『デット・アライブ-01』に付いていた血の跡といい、最早間違いなかった。
     私は空のマガジンを、先ほどまで使っていた魔力弾ではなく、”通常弾のマガジン”に変えながら確信していた。
     あの自称真祖の吸血鬼は、確かに真祖の吸血鬼と言ってい良いほどの魔力と耐魔力、再生能力やパワーなどを持ってはいたが、
     それ以上にやっかいだったのが、実は”人間としての特性”も持っていた事だ。
     人間には、水自体は何もダメージを与えられない。
     しかし、魔力弾や魔法による水の攻撃ともなれば、ダメージは受ける筈である。
     だが、吸血鬼事態は耐魔力は強い。
     だが本来吸血鬼は、水は弱点の一つのはずだ。
     しかしあの自称真祖の吸血鬼には、それらのダメージを受けた形跡は無かった。
     そして『デット・アライブ-01』で殴り付けた額にこそ血の跡は在ったが、傷自体は見当たらなかった。
     と言う事は、傷が再生したと見るべきである。
     つまりどう言う事かと言えば、あの自称真祖の吸血鬼は、吸血鬼としての能力を持ちながら、先祖還りの為か人間としての特性も持っている為に、本来吸血鬼の弱点である水が、弱点にならなかったのだ。
     簡単に言えば、”吸血鬼と人間の良い所取り”の反則吸血鬼だったのだ。
     もしかしたら、日光の光さえも弱点にならないのかもしれない。
     だがしかし、物理攻撃は効いている。それは先ほどの蹴りと『デット・アライブ-01』が証明している。
     問題は相手の再生能力の高さだ。
     だがそれも、連続して攻撃を叩き込めばいい。
     流石に一瞬にして再生と言う事は無い筈だ。
     もし一瞬で再生できれば、あの部屋から逃げた私を直ぐに追いかけて来た筈なのだから。
     だがしかし、普通に『デット・アライブ』を撃っても無駄だろう。
     私達魔法使いもそうだが、接近戦に備えての魔力による防御壁……と言うよりも、簡単に言えば物理防御壁を戦闘中には張るからだ。
     おそらく先ほどの一撃が入ったのは、相手が油断して物理防御壁を張っていなかったのだろう。

     ちなみに、魔力防御壁と言うのも勿論ある。
     こちらはその名の通り、魔法に対する防御壁である。
     魔力防御壁と物理防御壁とを一緒に張ったらどうなんだと言う意見も当然あるにはあったが、何故か両方を張ると防御力が半減する。
     原因は未だに不明で、魔力不足という意見や詠唱に問題があるのでは無いかと言う意見など様々である。
     現在の魔法研究家や魔法使いは、両方の防御壁を効率よく展開する為の詠唱や技術、理論等を研究している物も多い。
     かく言う私も、何故か『デット・アライブ-02』の特殊能力がその性質を持っていた為に、研究はしているのだが、ハッキリした原因は未だに不明。
     それでも研究を重ねる結果、『デット・アライブ-02』に使われている特殊金属が、何らかの影響を与えているのではないかと言う推察に至った。
     現在はそれを証明する為に、『デット・アライブ-02』に使われている特殊金属を解析中である。
     それが終了したら、今度は『デット・アライブ-01』の特殊能力を解析したいと思っている。

     思考が少しずれたが、勿論この物理防御壁とて完璧ではない。使う者の魔力によって防御力は上下するし、そしてこの物理防御壁を破る方法がいくつかあるからだ。
     まず一つ目は、その物理防御壁よりも強力な物理攻撃を加えるか、それに類ずるぐらいの手数で勝負するかだ。
     二つ目が、相手との力量差も関係するが、物理防御壁の解呪スペルを展開して相殺すること。
     そして三つ目が、解呪スペルを腕なり剣になり込めて、直接物理防御壁に叩き込むこと。
     私としては、三つ目が一番良い。
     攻撃しながら解呪できるし、一つ目よりも手間も力もいらないからだ。
     もっとも、三つ目にも欠点は在る。
     銃や弓などの使用者から高速で離れてしまう物には、解呪スペルを込められないのだ。
     だから三つ目を選択すると言うことは、必然的に接近戦になるという事である。
     だがしかし……私がいくら体を魔法で強化しようとも、吸血鬼としてのタフさに再生能力を持っている相手には、些か決定打に欠ける物がある。
     何か、何か私の攻撃力をアップさせられる武器でも在れば話は別なのだが……
     ナックルか手甲、剣でも何でも良い。それこそ硬い棒でも構わない。何か無いだろうか?
     そう思って周りを見渡すが、目に映るのは壷や絵画ばかりで、当然そんなに都合よく在る訳が無かった。
     「……ん? 硬い物?」
     適当な物が見つからなかった私は、しかしふと思いついた物が在った。
     「……在るじゃない。とても硬くて武器になりそうな物が……」
     そう言って私は口元に笑みを浮かべた。
     私の視線の先には、二丁の装飾銃が映っていた。
     情報と武器は揃った。後は私が有利に戦える筈の広い場所、私がこの屋敷で知る限り一番広い場所―――
     玄関ホールへと向かって駆け出した。



     階段を上り廊下を走り、また階段を下り廊下を走る。
     今私は、玄関ホールへと向かって走っている。
     方向感覚はお義兄ちゃんと違って自信はあるから大丈夫だろう。
     そうやって走っている内に、玄関ホールが見えてきた。
     私が走っきた通路を抜ければ、前方には先ほど私が入り込んだ通路。
     玄関の前には、キリが行儀良く座り込んでいた。
     こんな時になんだが、キリの忠誠心というか、義理堅さには感心する。
     私が一人で玄関ホールに戻って来たのを不審に思ったのか、キリは目であの吸血鬼はどうしたと尋ねてきた。
     私もそれに目で、これから決着をつけると答えた。
     キリもそれで納得したのか、特に他には尋ねてこなかった。
     出会ってから、まだ数日しか経っていないが、キリとは既にアイコンタクトで意思の疎通ができるまでになっていた。

     ゾクリ!
     キリとのアイコンタクトを終えた瞬間に、私の背筋に寒気が走った。
     と同時に、私が何かを考えるよりも速く、私の体は勝手に正面階段の方へと大きく跳びずさっていた。
     そして、つい先ほどまで私が居た場所を、今までで一番大きな衝撃波が襲った。
     直撃は避けた筈なのに、私の全身には衝撃波の威力によって、いくつもの切り傷などができた。
     痛みに顔を顰める時間も惜しい私は、右手で床を強く叩くと、衝撃波の威力も利用して、前転するような形で素早く体勢を整えた。
     そして視線を先ほど私が来た廊下に移してみれば、そこには先ほどよりも怒りに顔を歪めたランスが立っていた。
     私は両脇のホルスターから二丁の『デット・アライブ』を取り出すと、ゆっくりとランスへと向かって体を向けた。
     そんな私の態度に不信を持ったのか、ランスが私に向かって口を開いた。
     「何だ、もう鬼ごっこは終わりか? ならば私のこの爪で! この牙で! 貴様を引き裂いて、貴様の血を! 肉を! 全てを喰らってやろう!!」
     そう吼えるランスは、あの芝居がかった態度は見られなかった。
     これがランスの本当の姿なのか、それとも吸血鬼としての本能に目覚めたのかは、私には判断出来なかった。
     「……そうね。もう終わりにしましょうか。ここで貴方を殺してあげる」
     「何? 私を殺すだと? 先ほどまで私から逃げ回っていた奴の口にするような言葉ではないな」
     ランスはそう言って、私に向かって嘲笑を浮かべた。
     「ねえ、知っているかしら? 素人が人を殺すのに一番簡単な方法を?」
     「なんだと? ……」
     私の突然の質問にランスは、怪訝な表情をした。
     私はそんなランスに構わずに、言葉を続ける。
     「絞殺? 銃殺? 刺殺? それとも斬殺? 答えは全てNO! その全てに何らかの技量か力を必要とする! ならば何か!? 答えは簡単。それは撲殺! 何か硬いものか重たい物で思いっきり殴りつける。それだけで人は簡単に死ぬ! 撲殺こそが最も簡単で、時間もかからない殺し方……貴方もそうは思わない?」
     「それがどうしたと言うのだ!?」
     ランスの苛立った声を聞いて、私は続けた。
     「どうしたって? 大有りよ。これから私は、貴方を撲殺するんだから」
     そして私は、口元に歪んだ笑みを浮かべた。
     もしここで、私―――「ユナ・アレイヤ」と言う人物をよく知る者がこの笑みを見ていたら、その人物は一目散に脇目も振らずに逃げ出すことだろう。
     何故ならばこの歪んだ笑みは、私が本当に怒っていて、何か報復なりを考えた時の笑みなのだから。
     巻き込まれないように、逃げ出すのが常識となっている。
     「ふん、私を。この真祖の吸血鬼たる、この私を撲殺するだと? やれるものならやってみるがいい!!」
     その言葉に―――私の笑みは更に歪んだ……
     私はランスへと向かって走った。
     二丁の銃の引き金には指は掛かっていない。
     グリップを強く握り締めている。
     これから、この硬い二丁の『デット・アライブ』で撲殺するのだから。
     引き金を引くのは勝利を確実にする時。
    ランスはまた衝撃波を撃とうとするが、私は速度を緩めずに……それどころか、逆に走る速度を速めた。
     この私の行動は意外だったのか、ランスに戸惑いが生まれた。
     このまま衝撃波を撃っては、自分にも被害が出ると思ったからだろう。
     そしてランスは、私を迎え撃つために拳を握った。
     愚か……愚かなことだ。例え自分に被害が出ようとも、それは致命傷には程遠い怪我だっただろう。
     それを嫌った為に、ランスは勝機を逃した。
     あのまま衝撃波を撃っていれば、私の方がダメージは大きかった筈。
     悪ければ、その一撃だけで私は死んでいたかもしれないのだ。
     それなのに、ランスは撃たなかった。自分が傷つくのが嫌だったのだろう。
     だがしかし、戦いに置いて。特に生死を賭けた戦いに置いて、それは余りにも愚かな事だ。
     勝負には勝機と言う物がある。そしてランスにとって、先ほどの衝撃波を放つ事が勝機だった。
     ランスが勝機を逃したことで、逆に私に勝機が訪れた。
     戦いとは、この勝機をいかに掴み、相手の勝機を潰すかで決まる。
     肉薄してきた私に対して、ランスは右のストレートを放つ。
     私はランスの懐に潜り込む事でそれを交わすと、ランスの伸びきった右肘に向かって、下から掬い上げるように『デット・アライブ-01』を振るった。
     バキッ! と言う鈍い音と共に、ランスの右肘が本来とはありえない方に折れ曲がった。
     私は次に『デット・アライブ-02』を右脇腹に、振り上げたままの『デット・アライブ-01』を体の捻りも加えて、ランスの顎へと叩きつけた。
     そしてそこからはもう、簡単な流れ作業だった。
     二丁の『デット・アライブ』を次々にランス目掛けて叩き込んでいく。
     玄関ホールはただ、『デット・アライブ』がランスの骨を砕き、肉を潰す音と、ランスの口から漏れる苦痛の声しかしなかった。
     数十度目の打撃、そこでランスの足が崩れ落ちそうになるのを見た私は。ランスの右太ももに『デット・アライブ-01』を押し付けて引き金を引いた。
     元々の威力が、馬鹿げているとしか思えないほどの威力の『デット・アライブ』。
     それを銃口を押し付けられて発砲したのだ。例えタフな吸血鬼でも、これには一たまりも無かったのだろう。
     ランスの右足は、根元から粉々になって吹き飛んでいた。
     飛び散る骨や肉の破片、噴出す血を浴びながらも私は、淡々と作業をこなすが如く、『デット・アライブ』の引き金を三度引いた。
     それによってランスの両手足は吹き飛び、四肢を失ったランスの姿は、まるで達磨のようだった。
     最早ランスの無事な部分を探すのが難しいほどに、ランスは私の手によって破壊されていた。
     私は眉一つ動かす事無く、ランスを見下ろしていたが、懐から五個のE・Cを取り出した。
     取り出した五個のE・Cは、炎に水、雷、土、風の五種類。
     それをランスを中心に、私から見て炎のE・Cをランスの頭上に、土を右上に、雷を右下、水を左下、風を左上へと、五方星になるように置いた。
     「五行相生の理において、火は土を、土は金を、金は水を、水は木を、木は火に流れる! 五行相剋の理において、火は金を、金は木を、木は土を、土は水を、水は火を剋する! 五行の理に従い、今こそその力を開放せよ!」
     ユナがそう言葉を紡いだ瞬間、五個のE・Cは、パキーンと言う澄んだ音と共に砕け散った。
     しかし、砕け散った五つのE・Cから光が放たれた。
     赤、黄、青、茶、緑、五色の光は五方星の中心いるランスへと集まり、そして五色の色が混ざり合う。
     その瞬間、眩い光が玄関ホールを満たした。

     光が収まり少し経ってから、私はそっと目を開いた。
     そして目を開いた私の目に映ったのは、五個のE・Cが在った内側―――
     つまりは、先ほどまでランスが居た筈の場所が、ごっそりと消滅していた。
     深さは深いところで二メートルほど。半円形に穴が穿って在った。
     「主ヨ、先ホドノ光ハ何ダ?」
     何時の間にか、キリが私の傍らまで来ていた。
     そして私は、キリの疑問に答える為に口を開いた。
     「さっきのは、五個のE・Cを使った私の隠し玉。五種類のE・Cの力を解放する事によって、全てを消滅させる光を生み出す技。別に五種類のE・Cを使わなくても、五種類の魔法を同時に発動させれば同じ現象が起きるはずよ。もっとも、そんな事は無理でしょうけどね。人には得て不得手があるし、五種類を一つに混ぜ合わせるのはとんでもなく難しいもの。私にだってそんな事は不可能よ。今回のは、E・Cだから出来たよなもの。そのE・Cだって、高価だから経済的に見ても損ね。一回の使用で、確実に五個のE・Cが壊れるもの。それに、威力や範囲は、使用するE・Cの魔力量や品質によっても変わるし……。まったく、怒りに任せてじゃなければ、理性が止めるような技よ。それと、この技は私のオリジナルだから、他の人は知らない筈よ。もともとE・Cが余っていた時に、五属性の五行相生や五行相剋の実験をしている時に偶然開発した技術だもの」
     私は五個のE・Cを損失した事に、少しばかり後悔しながらも、心はスッキリしていたので、良しとした。
     「ソウカ……。デハ、コレカラ如何スルノダ?」
     そのキリの言葉に私は、
     「そうね……、今日は此処に泊まりましょう。流石にお風呂ぐらいあるでしょう」
     そう言って私は、ランスの血や骨や肉がこびり付いている自分の姿を見下ろした。

     ランスの床に飛び散った血や骨や肉を、私の魔法で焼き尽くしてから、私とキリは、今晩泊まる部屋と浴場を探す為に歩き出した。



     その頃、義兄は―――

     「ふぅ〜、極楽極楽♪ やっぱり温泉は気持ち良いな〜♪」
     白乳色の温泉に肩まで浸かりながら、気持ち良さそうな声をあげる義兄。
     その顔は、そんなに温泉が気持ちが良いのか、緩みまくっている。

     「ん〜、良いお湯だった。さてと、温泉からあがったらやっぱりこれだよな〜」
     そういって義兄はフルーツ牛乳を売店で買うと、腰に手をやり、一気に飲み始めた。
     「ごくごくごく、うんぐうんぐうんぐ……ぷはー、美味い!」
     まるで何かをやり遂げたような、満足そうな表情をしている義兄。
     「やっぱり、温泉とフルーツ牛乳の相性は抜群だね〜。温泉とフルーツ牛乳をこの国に 持ち込んでくれた、東方の方には感謝しなければね。
     ああ、それと、温泉掘りを援助してくださった、当時の国王にも感謝感謝♪」

     そして義兄は着替えを済ませると、温泉宿を出た。
     と、そこで何を思ったのか、くるりと180度向きを変えると、一度は出た宿に再び入り直した。
     「あれ? お客さん、何かお忘れ物ですか?」
     つい先ほど出た義兄が直ぐに戻ってきたので、受付嬢はそう思って尋ねた。
     「いや、そうじゃない。ちょっと聞きたい事があってね」
     「聞きたい事ですか?」
     そう言って受付嬢は、首を傾げた。
     「ああ、実は『フランペルッシェ』って、此処からどっちの方角にあるのか聞きたくてね」
     「『フランペルッシュ』ですか? それでしたら、この宿から北北東の方角に、だいたい直線距離で74qに行った所にありますね」
     受付嬢は、地図で確認しながら義兄に告げた。
     「そうか。ありがとう」
     義兄は礼を言って、再び温泉宿を後にした。

     「さてと、早く帰らないとユナに怒られるな」
     そう口に出しながら苦笑する義兄は、”南南西の方角”に向かって歩き出した。



     温泉宿―――

     義兄が温泉宿を去ってから二時間ほど経った頃、ふと片付け忘れた地図が目に入った受付嬢。
     地図を見た受付嬢は、ふと思う事があった。
     それは―――
     「って、ああああぁぁぁーーー!! しまったぁーーー!! さっきのお客さん、もしかして『フランペルッシュ』じゃなくて、『フランペルッシェ』って聞いたの?! もしそうだったら、全く逆方向の町を教えちゃったぁーーー!?」
     自分の聞き間違えに気が付いた受付嬢は、思いっきり大声を上げていた。
     突然の大声に周囲の客や、温泉宿の従業員が怪訝そうに受付嬢の方を振り返った。
     しかし、幸か不幸か、義兄は教えられた方角とは全くの逆方向に歩いていったので、 奇しくも正しい『フランペルッシェ』の方角へと歩いていったのだが、その事は無論、受付嬢が知る由は無かった。



     現在の義兄の位置―――
     故郷から直線距離で83km
     果たして義兄は、無事自力で帰郷できるのか!?



     次回予告―――

     次回予告はまたまた俺っチ、マオ様がやるのだー!
     ではー、いくぜぇー!
     次回、『捜し、求めるもの』
     主を失った屋敷ー、ユナは屋敷を探索するー。
     そして、温泉に入る為にー、再び旅立つー。
     そこで捜し求めていたー、義兄の手掛かりを得るかもなー?
     予定は予定であって、未定なのだぁー!
     そこんところー、宜しく―!!
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