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■25 / 1階層)  捜し、求めるもの 第二幕 前編
□投稿者/ ルーン -(2004/11/08(Mon) 18:54:53)
    2004/11/08(Mon) 18:58:45 編集(投稿者)

     地方都市『ミルス』
     『ミルス』は地方都市にしては大きい方で、王都への交通路の拠点として発展してきた経緯がある。
     人口はおよそ12万人程ではあるが、王都へ行商へ行く商人たちが多く立ち寄る為に、人口密度は遥かに多く感じられた。

     商隊が多く立ち寄ると言う事は、町にとっては大いに潤う事になる。
     商隊が運んできた荷は勿論、各地の情報に商隊を護衛する傭兵が町に落とすお金。
     だが一方で、多く商隊が立ち寄ると言う事は、それによって問題も多く生じていた。
     まずは傭兵同士のいざこざ。傭兵には血の気の多い者も少なくない為に、些細な事でいざこざが起こるのだ。
     荷を運んできた商隊を狙う、山賊や盗賊などと言ったやからまでも『ミルス』の近隣に出没する事になった。
     これは、町が潤うに比例するようにして、近隣の秩序が乱れてきたことを示唆する。
     もちろん、これを黙って見ているだけでは、『ミルス』そのものに商隊が立ち寄らなくなる。
     そうなれば町の死活問題に繋がる為に、『ミルス』は町の運営資金から独自に傭兵団を雇って、山賊や盗賊を討伐していった。
     しかし、山族や盗賊もこれに対して武装を強化した。
     こうして、町の秩序を守る物と町の秩序を乱す者のイタチゴッコが始まったのだった。

     しかし最近になって、これに少し変化が起き始めていた。
     幾つものグループに別れていた山賊や盗賊達が手を組み、一つの大盗賊団を結成したのだ。
     盗賊団の名は『赤竜団』。『赤竜団』を結成してからは、盗賊達の手口なども大きく変わり始めた。
     今まではバラバラだった襲撃も纏まりが出て、また手口も巧妙になり、より凶暴性を増した。
     これによって徐々に、『ミルス』だけでは対処できなくなり始めていた。

     そんな折である。
     『赤竜団』の一員を捕らえて問い詰めたところ、驚愕の事実が判明した。
     その捕らえた盗賊が語るには、『赤竜団』の首領はあの『ユナ・アレイヤ』だと言うのだ。
     始めは町の役人も鼻で笑ったが、状況が一変する出来事が起きた。
     その噂の首領自らが、『ミルス』へと襲撃を仕掛けたのだ。
     そして確かにその首領は、町の人達が噂で聞いた通りの真紅の髪に真紅の瞳を持ち、そして強大な炎系魔法を行使した。
     幸いにも死者は出なかったものの、これによって傭兵団には多くの負傷者が出る事になり、最早町の秩序を守るだけで精一杯の活動しか執れなくなった。
     そんな『ミルス』へ対して『ユナ・アレイヤ』が要求した事は、主に四つの事だった。

     一つ目は、『ミルス』へ向かう商隊、または『ミルス』から出発する商隊に手を出さない代わりに、一ヶ月ごとに『赤竜団』へと上納金を渡すこと。
     二つ目は、『赤竜団』に対して手出しはしないこと。
     三つ目は、『赤竜団』の団員が無条件に『ミルス』への出入りを認めること。
     四つ目は、『赤竜団』の要請ややる事には逆らわないこと。
     期限は一週間以内に決めること。
     期限が過ぎれば、町を焼き尽くすとの一文が最後に書かれていた。

     当然の事だが、このような事は町としては呑める訳がない。
     これを呑めば、事実上『ミルス』が『赤竜団』の属国になるようなものだからだ。
     否、事実、属国そのものである。
     そこで町の責任者は、王都へと救援の要請を出す事に決めた。
     『赤竜団』の首領『ユナ・アレイヤ』討伐の人員の要請を―――

     そして今日は、『赤竜団』が決めた期限の最終日の前日。
     この頃には、町はシーンっと静まり返り、家々の扉は硬く閉ざされていた。

     そんな『ミルス』の城壁へと近づく二つの人影があった。
     二人とも頭からすっぽりと外套を被っている為に顔や性別は分からないが、体格から言って一人は中肉中背の男。
     もう一人が小柄な男と言った処であろうか。

     そんな二人に対して、城門を守っている二人の衛兵は緊張した面持ちで片方は槍を構え、もう一人は緊急を知らせる為の笛を口へと運んだ。
     「止まれ! 何者か!? 名前とこの町へ来た目的を言え!!」
     普段ならばこのような物言いは言わないのだが、今日が期限の日だけありピリピリしていたのか、高圧的な態度だった。しかし、そんな衛兵の態度に対して特に気分を害した様子もなく、背の高い方の男が一歩前に出て口を開いた。
     「そんなにピリピリしないで下さい。何も貴方方に害そうという訳ではないのですから」
     そんな事に対しても衛兵は過敏に反応し、槍を男へと突き出した。
     男はそんな衛兵の反応に軽く肩を竦めると、懐へと手を入れ、丸められた書状を衛兵に突き出すように見せた。
     そんな男の態度に訝しげな視線を向けながらも、突き出された書状へと目を向けた。
     「なっ!」
     衛兵は目を見開き、男へと顔を向けると、数歩飛び退くように後ずさり声を上擦らせた。
     「も、申し訳ありませんでした! まさか王都からの使者とは知らずに、とんだご無礼を働きました!!」
     その衛兵の言葉に、笛を口にしていた男も唖然と口を開けた。その拍子に笛が地面に落ちたが、気にする者は居なかった。
     そんな衛兵たちの態度に苦笑を漏らしながらも、外套の男は丁寧な物腰で衛兵へと話し掛けた。
     「いえ、お気になさらずに。貴方方の役目を考えれば当然の事です。それでは、町の責任者方の所まで案内を願えますか?」
     外套の男の言葉に頷くと、
     「かいもーん! 王都よりの使者の方方がいらしゃった! かいもーん!!」
     衛兵の言葉に、閉ざされていた城門が開かれていった。
     そして、王都より来訪した二人の外套の使者は、『ミルス』へと足を踏み入れた。

     豪華な部屋。けれども、決して悪趣味と言う訳ではなく、綺麗に纏められた部屋。
     それが『ミルス』の最高責任者『カリス・マーべリック』の執務室だった。
     今その執務室には、四人の人間がいた。
     一人は40代後半の品の良い服に見を包んだカリス。
     もう一人が、この『ミルス』の法と秩序を守る庸兵団団長『グレン・リックベル』だった。グレンは30代前半ぐらいで、傭兵らしく鎧と剣を身に着けたままだった。
     二人に共通する点は、疲れきっている雰囲気が漂っている事だろう。
     それも無理はない。今この二人の方には、『ミルス』の命運をかかっていたのだから。
     そして、残り二人の人影は、先程王都から来たと言う使者だった。
     仮にも『ミルス』の町の最高権力者の前だと言うのに、一人……背の小さい男は顔を覆ったフードを取りもしていなかった。
     一応、もう一人の中肉中背の男の方はフードは取っていた。
     だが、カリスとグランの両人は、そんな事を気にも止めていなかった。いや、正確には、気にする余裕もなかったのかもしれない。

     書状から目を上げたカリスは、傍らに控えていたグレンに読み終えた書状を渡した。
     グレンも書状に目を通すが、その顔が徐々に変わっていった。
     そして―――

     「何だ、これは!?」
     執務室を揺るがすほどの怒声が鳴り響いた。
     カリスはそれを予想していたのか、咎めもせずに王都から来た使者へと顔を向けた。
     「これは、一体どう云うことですかな?」
     丁寧な物言いだが、その言葉には不満の色が混ざっていた。
     見れば、怒声を上げたグレンも睨みつけるように二人を見ていた。
     「なに……とは? 全てはそこに書いてあるとおりですが」
     王都から来た使者―――『レオン・ディスカ』は口調が変わらぬまま聞き返した。
     「どうもこうありません。『赤竜団』の首領『ユナ・アレイヤ』は、偽者の為に救援は送れないと書かれてある」
     カリスは座っていた椅子に深く座りなおして、指を組んで疲れた口調で言った。
     「それが王都からの返事です。もっとも、今『ミルス』が危機に陥っているのも事実。ですから、私たち二人が派遣されたのですよ」
     レオンは相変わらずにこやかな表情を顔に浮かべながら答える。
     「たった二人で、一体何ができるんだ? 俺達庸兵団は、その王都が言う偽者の『ユナ・アレイヤ』に半壊させられたんだぞ? それなのに、お前さんたち二人に一体何ができるんだ?」
     グレンはバカにした態度も隠そうともせずに、レオン達に聞いてきた。
     グレンは自分の配下の庸兵団に、絶対の自信を持っていた。それがたった一人の魔法使いに半壊させられたのだ。
     なのに、首領の『ユナ・アレイヤ』が偽者と決め付けて、送ってきた人員はたったの二人。グレンにとっては、いや、カリスにとっても、相手を甘く見ているとしか取れなかったのだ。
     だがそんな二人の心情を見越してか、レオンはほんわかした態度を崩さなかった。
     「私達に何ができるかですか? ああ、こんな格好では説得力はありませんか。ですが安心してください。私はこれでも一応は、王国近衛騎士団の一員ですから」
     「な、なんですと!?」
     「なんだと!? お前がか!?」
     そして、そのレオンが告げた事は、二人に大きな衝撃を与えた。
     王国の近衛騎士団と言ったら、剣の腕は勿論、礼儀作法も完璧ではなくてはならない王国一のエリート集団。
     つまりは、近衛騎士団の一員になれると言う事は、紛れもなく王国でもトップクラスの剣の達人と言うことである。
     「まさか……そちらの方も……?」
     恐る恐ると言う感じでカリスは、レオンの隣に座っていた小柄な男に尋ねた。
     「いや、この人は近衛騎士団の一員ではありません。ですが―――」
     チラリと視線を送るレオン。
     自己紹介しろ……と言う事だろう。
     それに気付いたのか、小柄な男は懐から六方星を象ったペンダントを出して見せた。
     「それは……まさか!? 国立魔法学園主席卒業生の証、『六方星のペンダント』!? まさか、この目で実物を見れるとは……」
     「なぁ、カリス。そんなにそれは凄いのか? 確か、『六方星のペンダント』って言ったか?」
     いまいち分かっていないのか、グレンが渋面のままカリスに尋ねた。
     「凄いなんて話ではない! 『六方星のペンダント』は我が国最高峰の魔法学園を主席で卒業した証だ! 一年にたった一人にしか与えられない称号だぞ!? 分かり易く言えば、宮廷魔法使いクラスの魔法の実力者だ。いや、もしかしたら……」
     宮廷魔法使い本人と言おうとした所で、緊張の余りゴクリと唾を飲み込んだ。

     国立魔法学園は王国最高峰の魔法学園で、その卒業生には三種類のペンダントが贈られる。
     一つ目は、主席に贈られる『六方星のペンダント』。
     二つ目は、次席から十位にまで贈られる『正五方星のペンダント』。
     三つ目が、上記以外の卒業生に贈られる『逆五方星のペンダント』。

     そして今、目の前居る者が所持しているのは、『六方星のペンダント』。
     それはつまり、この国において、最高位クラスの魔法使いと言う証だ。と同時に、宮廷魔法使いの可能性が非常に高い。
     これまでの王国の歴史において、『六方星のペンダント』を所持している者は、極一部の者を除いて宮廷魔法使いになっているのだ。
     ここ数十年の間では、『ユナ・アレイヤ』のみである。

     そして、その小柄の男が口を開いた。
     「私の名は『レイヤ・アナユー』」
     口のマスクでくぐもっていたが、それは何処か女の声にも聞こえた。
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