Release 0シルフェニアRiverside Hole

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■48 / 4階層)  捜し、求めるもの 第三幕 その@
□投稿者/ ルーン -(2004/11/15(Mon) 22:58:32)
     「確か……こっちのはず何だけど……」
     ユナは地図とコンパスを片手に、周りを見渡した。
     「お義兄ちゃんが最後に目撃された場所か……」
     ユナは地図へと目を落とし、数日前のことを思い出した。



     「ああ、もう。今日もお義兄ちゃんの行方の手掛かりはなしかぁ」
     はぁ、とユナは溜息を一吐き。
     義兄を捜し求めて、どれ位の時が経ったであろうか。
     一ヶ月二ヶ月ですまないはずだ。
     ユナは、最近は時が流れるのを早く感じる。
     それも、義兄の身が大丈夫か分からない上に、行方の手掛かり一つ見つからない所為だろう。
     そんな現状に気持ちばかりが焦り、成果が一向に実に結ばない現実にも、ユナは少し参っていた。
     と、ユナは首を振り、弱気になっている自分を戒めた。
     「今日の聞き込みは、日も暮れてきたしここまでね。宿にでも戻ろう」
     そう言ってユナは、ここニ日ほど利用している宿へと足を向けた。

     ざわざわと五月蝿い店内。
     ユナが泊まっている宿は、二階が宿屋。一階が酒場兼食堂となっている。
     その為か、夕暮れ時ともなると酒を飲む為に、多くの客が店へと足を運ぶのだ。
     そんな店内は、客の注文取りに料理や酒を運ぶウエイトレスが、忙しそうに動き回っていた。
     ユナは店内を見渡し、カウンター前の席が空いているのを見付けると、席へと向かった。

     「マスター、ビーフシチューセット一つに、オレンジジュース頂戴」
     「おう、少し待ってな。カウンター席にビーフシチューセット一つに、オレンジジュース注文入ったぞー!」
     ユナにマスターと呼ばれた30歳後半ぐらいの男は、厨房に向かって叫んだ。
     「は〜い。カウンター席にビーフシチューセット一つに、オレンジジュースですね〜。少々お待ちくださ〜い」
     厨房から、元気が良い返事が返ってくる事、約五分。厨房からウエイトレスの一人が出てきて、
     「お待たせしました〜。ビーフシチューセットにオレンジジュースです。ごゆっくりどうぞ〜」
     にこやかに笑いながら、湯気を上げる料理をユナの前へと置いた。
     「ありがとう」
     ユナが礼を言うと、ウエイトレスはお辞儀をしてから、仕事へと戻っていった。



     「で、兄貴は見付かったのか?」
     マスターはユナが食事を終えた頃を見計らって尋ねた。
     ユナは情報収集の一環で、マスターにも義兄の事を聞いたのだ。
     その事を聞いたマスターは、ユナが滞在している期間、酒場と宿屋の目立つ所に義兄の写真を貼り付けて、情報収集の手助けすると申し出てくれたのだ。
     その申し出をユナはマスタ―に感謝し、快く受け入れた。
     「そうか、今日もダメだったか……。すまないな、こっちもダメだった」
     ユナが首を振るのを見て、マスターもまた力の無い声で答えた。
     ユナは、明日も情報が何も無かったのなら、明後日にはこの町を出て行こうと決めていた。
     そして、その事をマスターに言おうと口を開こうとした、まさにその時だった―――
     「あの―――……」
     「ん? この兄ちゃん、どっかで見た気がするな……。はて? 何処だったか……」
     突然ユナの隣の席に座っていた商人風の男が、カウンターの横の壁に貼ってあった義兄の写真を見てそう口にした。
     その言葉にユナは勢いよく振り向き、そして―――
     「何処!? いったい何処でお義兄ちゃんを見かけたの!? さっさと言いなさい! ほら、早く!!」
     男の服の襟首を掴み、グッと持ち上げて、前後に激しく揺さぶった。
     「ぐぇ、ちょ、ちょっと、ぐえ、くる、苦しい。くる、くる……しい……」
     襟を強く捕まれ、前後に激しく揺さぶられた男は、息が出来ないのか、顔を真っ赤にしながら苦しそうにうめいた。
     「なに? 何言ってるのか聞こえないわよ? ハッキリ喋りなさいよ!」
     更に強く男を揺さぶる。普段のユナならばこんな失態はしないのだろうが、やっと掴んだ義兄の手掛かりの為か、普段の冷静さは微塵も無かった。
     それに慌てたのがマスターだった。
     「ちょ、ちょっとユナちゃん! そんなに強く襟を掴んで揺さぶってたら、喋るに喋れないって!!」
     マスターのその言葉に、ハッと気がついて、ユナは男の襟を放した。
     急に襟を放された男は、ドスンっと床に尻餅を付いた。
     「ぜーは―、ぜーはー、し、死ぬかと思った……」
     床に尻餅を付いたまま息を整え、
     「な、なんなんだ、いきなり……」
     少しは落ち着いたのか、ユナを怨めしそうに見つめ、ゆっくりと椅子に腰を降ろした。
     「すみません。ずっと捜していた義兄の事を知っているみたいのでしたので、つい……」
     自分のやった事を自覚して、申し訳無さそうに男に謝った。
     「大丈夫か? まぁ、この娘にも悪気があった訳では無いんだ。ずっと捜していた義兄の情報をお前さんが持っているって知って、ついかっとなっちまただけなんだ。許してやってくれ」
     そう言ってマスターがフォローした。
     それを聞いた商人風の男は、
     「まぁ、そんな事情じゃ仕方がないな。でも、今度からは気を付けるんだよ、お嬢ちゃん」
     そう笑って許した。
     そんな男にユナは、もう一度頭を下げた。

     「っで、お義兄ちゃんのコトなんですけど……」
     先程の事もあってか、少し聞きづらそうに男に尋ねる。
     「ああ、そうだったな。ん〜、あれは確か……そうそう、思い出した! 霧の森に入って行くのを見かけたんだった!!」
     男はぽんっと手を叩いた。
     「霧の森……? それは何処にあるんですか?」
     聞いた事の無い地名に、ユナは首を傾げた。
     「この町から、ざっと三日ほど北に行った所だな。けど、行かない方が良いと思うぜ?」
     「何故ですか? 何か理由でもあるんですか?」
     ユナの問い掛けに男は、「ああ」と頷き、
     「あそこには、真祖のヴァンパイアが居るって言う噂なんだ。それだけじゃなく、魔物も多く生息している、危険地帯なんだよ」
     その危険地帯という言葉に、ユナはピクリと反応した。
     「そんな危険地帯なら、どうしてお義兄ちゃんが森に入って行くのを止めてくれなかったんですか!?」
     「とは言ってもだな、あそこは魔物が多く生息しているから、剣士とかには絶好の修行場なんだよ。もっともそれだけに、熟練者でも二の足を踏むんだけどな。それで何故止めなかったと聞かれれば、あの兄ちゃん、迷う素振りも見せずに森に入っていったからな……。そんな修行者の一人かと思ったんだが……」
     思わず怒鳴り声を出したユナに、男はすまなさそうに言った。
     「〜〜〜っ!!」
     それを聞いたユナは、思わず頭を抱え込んだ。
     迷う素振りも見せなかったのではなく、迷っていたからこそ、森に入っていったのだと理解していしまったから。
     「いえ、怒鳴ったりしてすみません。おじさんには関係のない事でした。全てお義兄ちゃんが悪いんですから……」
     「で、どうするんだい? ユナちゃん」
     頭を抱え込んだユナを不思議そうに見つめながら、マスターがユナに尋ねた。
     「そうですね……、明日の午前中にでも旅の準備を整えて、午後には出発します」
     「そうか……、気を付けろよ」
     「はい、マスター。おじさん、情報ありがとうございます」
     「いやいや、大して役に立てなくてすまなかったね。お嬢ちゃん」
     ペコリと頭を下げたユナに、男は慌てたように言った。
     「それじゃあ明日は早そうなので、この辺で失礼します」
     「ああ、お休み」
     二階の自分の部屋へと帰っていくユナに、マスターの声が届いた。

     そして翌日。午前中に準備を整えたユナは、予定通り午後には町を出て、物語は冒頭へと戻る。



     「あ、あれね、きっと。何かお義兄ちゃんの情報があればいいんだけど……」
     そう言ってユナは、森へと足を踏み入れた。
     ユナを見つめる、金色に輝く一対の目に見られながら。
     そしてそれにユナは、結局は気付く事はなかった。



     次回予告―――

     次回予告はまたまた俺っチ、マオ様がやるのだー!
     予定ではー、今回も三部作になるそうだー!
     今回からはー、短く刻みたいそうだー。
     どうなるかはー、俺っチには分からないがなー。
     ちなみに仲間が増えるのはー、次回だそうだー。
     前回のはー、見事に外れたなー。
     懲りずに今回もいくぜぇー!
     次回、『捜し、求めるもの』
     金色に光る双眸ー、そは巨躯なる狼かもなー?
     予定は予定であって、未定なのだぁー!
     そこんところー、宜しく―!!
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