Release 0シルフェニアRiverside Hole

HOME HELP 新着記事 ツリー表示 スレッド表示 トピック表示 検索 過去ログ

■219 / 9階層)  捜し、求めるもの 第五幕 前編
□投稿者/ ルーン -(2005/06/17(Fri) 21:51:24)
     「う〜ん、いったいどの宿に泊まろうかな〜。どうせなら、料理が美味しくて東方風の宿が良いな〜」
     旅館街をぶらぶらと歩き回りながら、ユナは泊まる宿を探していた。
     折角温泉が目当てで来たのだからと、ユナはどうせなら旅館も東方風の建物が良いと探し歩いているのだ。
     歩き回っている内に幾つか候補は見つけたのだが、なかなかこれだ! と気に入ったところが見つからなかった。
     そうこうしている内にいい加減疲れてきたので、諦めて妥協しようとしたその時―――
     「見つけた……」
     ポツリとユナが漏らした。
     ユナの視線の先には、これぞ東方風といいたげな木造の建物が在った。
     ユナは直感でこれ以上の宿はないと思い、
     「キリ、あの宿にするわ。行くわよ」
     ずっと傍らを歩き続けていた従者のキリに声をかけて、その宿へと足を向けた―――



     がらがらがら……
     「いらっしゃいませ〜」
     宿に入ったユナに、元気な声が掛けられた。
     声のしたほうを見れば、ここの従業員らしき女性がユナの方へ、小走りで向っていた。
     「お待たせしました。ようこそ風花へ。受付はこちらとなりますので、靴を脱いでこちらに履き替えてお上がりください」
     と其処まで言ったところで、仲居はキリに気がついたのか、一瞬その動きを止めた。
     「……えっと、少々お待ちください」
     顔を引き攣らせながらも、プロ根性なのか、何とか笑顔を浮かべて奥へと戻っていった。
     ”そう言えば東方の風習では、家に上がるときは靴を脱ぐんだっけ”などと考えていると、その手に布らしき物を持って、仲居が姿を現せた。
     「お待たせして、申し訳ありません。そちらの犬……ですか? そちらの方は、足を拭いてから上がってください」
     犬と言う言葉にキリは不満そうに鼻を鳴らし、ユナは苦笑を浮かべた。
     「この子は犬じゃなくて、一応狼よ」
     それを聞いた仲居は、何度も頭を下げたが、ユナは別に気にしていないと言って、キリの足を拭いて上がらせた。
     ユナ自身も靴を脱ぎ、スリッパに履き替えると、仲居の先導に従って後をついて行く。
     「ご宿泊ですか? それとも入浴のみですか?」
     カウンターに案内した仲居が宿帳片手にユナに尋ねてきた。
     「へ〜、入浴のみでもいいんだ。……でも折角だから、ゆっくり温泉に浸かりたいから、宿泊でお願い」
     「かしこ参りました〜、ご宿泊ですね。それとお部屋の方はいかが致しますか? そちらの方もいらっしゃいますと、相部屋ではなく個室か離れのどちらかになってしまいますが」
     「そうね……個室と離れの違いって何?」
     「そうですね〜……個室と離れの違いは、個室よりも離れの方が広いのと、最大の違いは離れには離れ専用の温泉が在る事でしょうか。それと、お値段の方が離れの方が非常にお高い事でしょうかね」
     「専用の温泉が在るの!? 高いってどのくらい……?」
     専用の温泉と聞いて、ユナは離れに興味を持ったのか、値段を尋ねる。
     そんなユナに仲居は眉を寄せ、「お高いでよ〜」っと言いながら、料金表をユナに見せた。
     一瞬眉を寄せた仲居を不審に思ったが、その料金表を見て納得した。
     とてもではないが、普通の二十歳未満の女の子には払えそうに無い金額だった。
     と言うか、一般家庭の人でも二の足を踏む値段だった。
     簡単に言えば、ゆうに四人家族の半月分の生活費に相当していた。
     だが幸いと言うべきか、ユナはあらゆる意味で普通ではないので、金銭的にも余裕があったので、専用の温泉に惹かれて離れを選んだ。
     「じゃあ、離れでお願いします」
     「え!? 離れですか!? ご宿泊金は前払いになりますが……」
     驚愕の表情を浮かべる仲居に、ユナは黙って宿泊費を差し出した。
     「ど、どうも……ではこちらにご記入をお願いします」
     今だ呆然としながらも、しっかり仕事をしている辺り、流石はプロだろう。
     「ではユナ・アレイヤ様、どうぞこちらへ。離れへとご案内させて頂きます」
     宿帳に名前を記入し終わったユナは、仲居の先導の後について、離れへと案内された。



     「どうぞ、こちらが離れになります。御用の祭は、カウンターか仲居に仰ってください。あとお食事の方は、時間になりましたら此方の方へと運ばせて頂きますので」
     深々とお辞儀をした仲居は、静かに戸を閉めると、自分の仕事へと帰って行った。
     「それにしても、広くて奇麗な部屋ね……。それに、この何だか不思議な匂い……これがレンの言っていた畳の匂いなのかしら?」
     学園での一番の親友であり、本人は否定していたが、東方贔屓な親友が語っていた東方の知識を思い返す。
     「そう言えば……一面畳だけの部屋を作るとか言っていたけど、結局作ったのかな? 今度遊びにでも行ってみようかな〜」
     学園を卒業してから、一度も会っていない事を思い出し、ふと親友の顔を見たくなったユナ。
     「あ! あと、東方の庭園もこちらと違った意味で、奇麗だとか言っていたわね。……そうね、温泉は取り敢えずは後回しにして、庭園を見てみますか」
     ユナは外の風景を遮っている障子を静かに開けた。
     そして―――
     目の前の風景に、思わず息を呑んだ。
     計算され尽くしたような、それでいて自然そのままの様に生い茂る木々の姿。
     アクセントにか岩も置かれているが、これも不自然な物ではなく、すんなりと受け入れられた。
     灯籠や池も不自然ではなく、そこに在る方が自然だと思わせる配置。
     そんな一種幻想的な庭に、ユナは目を見開き、息をするのも忘れて見入った。
     暫くして、「ほふぅー」と言う息を抜く音と共に、ユナは意識を取り戻した。
     「レンから聞いてはいたけど、まさかこれほどの物とはね……恐れ入ったわ」
     「確カニ、コレハ奇麗ダ。我カラ見テモ、不思議ト自然トノ調和ガ取レテイル。我ガ今マデ見テキタ人間ガ作ッタ庭園ノ中デモ、最モ美シイク自然ニ近イ物ヲ感ジル」
     キリの言葉にユナは一瞬驚いたような顔を見せたが、
     「そうね。確かレンが言っていたわ。東方の庭園は、こっちとは違って、自然との調和を目指して作られてるんですって。これを見れば、その話が本当の事だと納得できるわね」
     「ナルホドナ。ソレデ納得デキタ。我ガ今マデ見テキタ庭園ハ、人間ガ楽シム為ダケニ作ラレテイテ、自然トノ調和ナド無カッタカラナ」
     「以前レンが買った浮世絵もそうだけど、東方は独自の文化を築いていて、何か見ているこちらの心に何かを訴える感じがするのよね」
     そこまで言ったところで、ふと虚空を見上げるユナ。
     「そう言えば以前お義兄ちゃんが、『スシ〜、テンプラ〜、オンセン〜、ゲイシャガール』これが東方の基本だとか何とか言っていたような気が……」
     むむむと眉根をよせ、考え込む。
     「でも、スシ〜、テンプラ〜、オンセン〜は知ってるけど、最後のゲイシャガールはいったい何なのかしら? 前にレンに聞いた時には、レンは『あはははははっ、ゲイシャガールを基本って、ユナの義兄ちゃん最高だな!』とか言って何故か爆笑していたし。まあ、レンの爆笑なんて珍しい物が見れたのは良かったけど……」
     あのレンの反応からして、『ゲイシャガール』とはそんなに笑いを誘うものなのかと気になるユナだったが、誰かに聞くのも憚る為に、今まですっかり忘れていた。
     忘れていたのだが、一旦『ゲイシャガール』の事を思い出すと、非常に気になる。
     『ゲイシャガール』の事を仲居に聞こうか聞くまいか、腕を組み散々悩むユナ。
     と、その時―――
     「何、この魔力!?」
     声を荒げ、勢い良く顔を上げる。
     「コノ奇妙ナ魔力ニ、主モ気ガ付イタカ」
     「ええ、勿論よ。でも何かしら、この魔力……。人間の魔力のような気がするけど……そうじゃないような……」
     今まで感じた事の無い奇妙な魔力に、ユナは戸惑いを覚えた。
     それはどうやらキリも同じらしく、魔力の発生点であろう方角を険しい顔を向けている。
     「コノ感ジ……ダガ、ソンナ事ガアリ得ルノカ?」
     ポツリと漏らしたキリの声は、何やら考え込んでいるユナには聞こえず、
     「でも、それだけじゃない。……もう一つ、異常な魔力を感じるわ。でも、これって……」
     更なる異常な魔力を感じたユナは、唖然と漏らしたその声には、畏怖は滲んでいた。
     「(この異常な魔力……一つは唯の人間じゃないとしても、問題なのはもう一つの魔力の持ち主の方。この魔力の持ち主……間違いない、私よりも潜在的な魔力は圧倒的に上だわ)」
     ぶるりと体を震わせ、両の腕で体を抱きしめる。
     だがここで、一つの違和感を覚えた。
     「(でも変ね。何かしらこの違和感……まるで魔力を垂れ流してるみたい―――っ!! まさか!? もしかして魔力をコントロール出来ていない!? そんな……嘘でしょう?! こんな莫大な魔力をコントロール出来てないなんて!? これじゃあ、いつ暴走してもおかしくないじゃない!! もしかして本人は、この魔力に気付いていない? それとも、制御できないだけ? ……どちらにしても危険か。そうすると―――)」
     ある一つの可能性に思い至り、ユナは顔を強張らせた。
     こんな異常とも言える巨大な魔力が暴走したら、只では済まない。
     暴走した魔力の持ち主自身の命の危険は勿論、巻き込まれる周囲の被害は尋常ではないだろう。
     「ドウスル、主ヨ……」
     キリのその問い掛けに、ユナは数瞬考える素振りを見せたが、
     「確かめるわ。こんな異常な魔力、不確定要素以外の何モノでもないもの。本人は勿論の事、万が一にも暴走なんかされたら、周囲の被害が尋常じゃなくなるしね」
     どの様な人柄かは知らないが、どの道、この様な暴走の危険を孕んだ魔力の持ち主を放っては置けない。
     決意を秘めた目でキリを見据えると、ユナは離れを後にする。
     いったいどの様にして接触したものかと頭を悩ませながら、ユナはこの異常な魔力の持ち主達がいるであろう、風花のフロントへと向った。



     フロントが近づくにつれ、何か言い争いと言うか、悲痛な声が聞こえてきた。
     ユナは息を潜め、物陰からこっそりと声の主を窺う事にした。
     まず目に付いたのが、見覚えのある仲居。
     そして、同じ年頃の二人の少女の姿。
     「(……間違いない。あの異常な魔力の持ち主は、あの子達ね。直接見れば、あの違和感の正体もはっきりすると思ったんだけど……ダメね。直接見ても、普通の人間とは違う魔力だと言うのは分かるけど、何が違うのかが分からない。獣人や魔族の血を引いてる訳でも無さそうだし……。そうすると、私が知らないモノの血を引いてるのか、何かが憑いてるのか……。結局は、今の私では分からないか)」
     顔ははっきりとは見えないが、一人は水色に近い青い髪の女。
     もう一人は、緑と言うよりも、翠色の髪の女。
     年齢は後姿からでは判断しづらいが、二人の共通する雰囲気や仕種から、恐らくは姉妹ではないかとユナは判断した。
     さて……と、どうやってあの二人に接触したものかと、考え込むユナに、姉妹の声が聞こえてきた。

     「えぇー!! 本当に空き部屋が一つも無いの!?」
     「申し訳ありません。遂先ほど、満室になりまして……」
     悲痛な声をあげる客へと、申し訳無さそうに頭を下げる仲居。
     「るぅ〜。姉様、どうしよう? もう時間が時間だし、どこも満室っぽいよ?」
     「どうしようって……セリス、何暢気に言ってるの?! このままじゃ、折角温泉に浸かりに来たのに、野宿よ、野宿!!」
     「でも姉様、部屋が空いていないのなら、どうする事も出来ないよ?」
     「うっ、確かにそうだけど……。でも、何とかしようって気にならない?」
     セリスの現実的な答えに、一瞬言葉を詰まらせる姉。
     そんな姉を見かねてか、仲居が助け舟を出した。
     「それでは、他のお客様……女性客にですが、相部屋を頼んでみますか?」
     その仲居の言葉に姉妹は目を輝かせ、声を揃えて「お願いします」と頼んだ。

     「う〜ん、これぞ天の助けって奴かしら。兎も角、あの姉妹に接触する機会が巡って来た訳ね」
     物陰からこっそりと様子を窺っていたユナは、この偶然に興じる事にした。

     「仲居さん、騒がしいようですが、どうかしました?」
     ひょっこりと姿を現したユナとキリに驚きながらも、ユナ達が宿泊している場所と人数を思い出し、まずはユナに頼んでみる事にする仲居。
     「実はですね、こちらのお客様方が今晩泊まる所が無いと申されまして。ですが当館も生憎と満室でして……そこで出来ればアレイヤ様、この方々と相部屋……と言う事にはしては貰えないでしょうか?」
     ユナは事情を知っているにも拘らず、腕を組み、考える素振りを見せる。
     そんなユナに縋るような三組の視線が突き刺さり―――ユナは幾分か頬を引き攣らせた。
     「私は別に構いませんが……私はこの子と一緒ですが、そちらは大丈夫なの?」
     ちらりとキリに視線を向けるユナ。
     そんなユナの視線を追って、初めてキリの存在に気が付いたのか、ビクリと体を震わす姉妹。
     ユナは姉妹の反応から、怖がっているのかと思ったが、姉妹の反応はユナの想像を超えていた。
     突然セリスが目を輝かせ、
     「姉様、この子可愛い〜♪ この子の名前は何て言うの? 性別は? 雄? それとも雌? ねえねえ、触っても大丈夫?」
     いまにもキリに抱きつきそうな勢いで、ユナに矢継ぎ早に質問を浴びせる。
     そんな妹に態度に、姉はユナに恐縮なそうな顔を向けるが、キリに興味があるのは、ちらりちらりと視線をキリに送っている事から窺い知れた。
     「えっと、名前はキリって言うわ。性別は雄。噛み付いたりしないから、触っても大丈夫。ちなみに、犬じゃなくて狼だから」
     セリスの質問に答えながらも、ついでに狼だと付け加えて置く。
     「貴方キリって言うの? ボクはセリス。宜しく、キリ」
     セリスはキリの首に抱きつくと、頬をグリグリとキリに擦り付ける。
     キリはキリで、この行為は不快に感じなかったのか、特に嫌がる素振りも見せずに、大人しくしている。
     「すみません、何だかいろいろとご迷惑を掛けて。私はエルリス・ハーネットと言います。で、あっちのが双子の妹の『セリス・ハーネット!! 宜しく〜』……です」
     セリスの大声に、眉間をピクピクと痙攣させながらも、何とか笑顔のまま自己紹介を終えた。
     そんなエルリスに、姉妹でも兄妹でも、どっちかが苦労するんだな〜と考え深げに納得するユナ。
     「……っと、私はユナ。ユナ・アレイヤよ。こちらこそ宜しく。エルリス、セリス」
     そう返したユナの口元は、自然と微かに緩まっていた。
記事引用 削除キー/

前の記事(元になった記事) 次の記事(この記事の返信)
←捜し、求めるもの 第四幕 /ルーン →捜し、求めるもの 第五幕 中篇 /ルーン
 
上記関連ツリー

Nomal 捜し、求めるもの / ルーン (04/11/06(Sat) 23:57) #14
Nomal 捜し、求めるもの 第二幕 前編 / ルーン (04/11/08(Mon) 18:54) #25
  └Nomal 捜し、求めるもの 第二幕 中編 / ルーン (04/11/10(Wed) 00:51) #38
    └Nomal 捜し、求めるもの 第二幕 後編 / ルーン (04/11/11(Thu) 23:58) #42
      └Nomal 捜し、求めるもの 第三幕 その@ / ルーン (04/11/15(Mon) 22:58) #48
        └Nomal 捜し、求めるもの 第三幕 そのA / ルーン (04/11/20(Sat) 11:45) #61
          └Nomal 捜し、求めるもの 第三幕 そのB / ルーン (04/12/11(Sat) 01:38) #96
            └Nomal 捜し、求めるもの 第三幕 そのC / ルーン (05/04/11(Mon) 20:25) #182
              └Nomal 捜し、求めるもの 第四幕 / ルーン (05/05/01(Sun) 22:07) #209
                └Nomal 捜し、求めるもの 第五幕 前編 / ルーン (05/06/17(Fri) 21:51) #219 ←Now
                  └Nomal 捜し、求めるもの 第五幕 中篇 / ルーン (05/07/20(Wed) 18:33) #220
                    └Nomal 捜し、求めるもの 第五幕 後編 / ルーン (05/07/30(Sat) 15:21) #221
                      └Nomal 捜し、求めるもの 第六幕 / ルーン (05/09/27(Tue) 21:30) #226

All 上記ツリーを一括表示 / 上記ツリーをトピック表示
 
上記の記事へ返信

Pass/

HOME HELP 新着記事 ツリー表示 スレッド表示 トピック表示 検索 過去ログ

- Child Tree -