Release 0シルフェニアRiverside Hole

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■38 / 2階層)  捜し、求めるもの 第二幕 中編
□投稿者/ ルーン -(2004/11/10(Wed) 00:51:41)
    2004/11/11(Thu) 23:35:47 編集(投稿者)

     山岳にある砦。其処が『赤竜団』のアジトだった。
     見れば其処は、守るに易く、攻めるに難しい場所だった。
     外見は朽ちかけた砦なのだが、見れば所々に修復や補強を施した後が見受けられた。
     さらに砦の周りには、木でできた柵が囲っており、攻めづらさを増していた。
     そんな砦へと近づく幾つもの人影。
     その総数は37名。その中には、近衛騎士団レオンと『六方星のペンダント』の所持者レイヤ・アナユー、庸兵団団長グレンの姿もあった。
     彼らは戦える者達を引き連れて、『赤竜団』のアジトへと奇襲を仕掛けに来たのだ。
     だがしかし、不安の色も拭えなかった。
     此方の戦力が37名なのに対して、相手は未確認ながら、最低でも300名は確認されている。
     しかもその数を倒したとしても、町をたった一人で襲撃した『ユナ・アレイヤ』も控えて居る。
     いくら王宮からそいつが偽者だと言われても、彼女の力は嫌と言うほど自分達の身をもって体験したのだ。
     その恐怖心はそう簡単には拭える物ではなかった。
     よって、彼らの実際戦力としてあてにできる人数は、その数よりも少ないと言ってもいい。

     「おい、本気で正面から攻め込むつもりか?」
     小声でグレンは、こちらに背を向けて砦の様子を窺っているレオンへと尋ねた。
     「ええ、戦力差が結構ありますからね。戦い難い裏門などよりは、広い空間がある正面の方が、まだ私達の力を発揮できます」
     レオンは、周辺地理を詳しく調べた後に、正面からの突撃が一番適していると判断したのだ。 そしてそれはグレンらも納得したはずなのだが、いざ突撃となると、やはり少し怖気づいた様子だった。
     そしてそんな怖気づいている彼らに対して、レイヤが冷たく言い放った。
     「怖気づいたのか? それならば、居るだけ邪魔だから帰れ」
     「っ! なんだと!? 誰が怖気づくか!! 俺達は命を掛けて戦ってこその傭兵だぞ!? この程度で誰が怖気づくかよ!!」
     「ならばいい。後は冷静になって、何時も通りに戦え」
     そのレイヤの一言に、自分達が冷静さを失って、多少ならずとも恐怖に縛られていた事を自覚する傭兵達。
     「ちっ……、礼は言わないぜ」
     「何の事だ?」
     素直でない物言いのグレンに対して、レイヤもすっ呆けて返した。
     一同が程よくリラックスしたのを見計らって、レオンが口を開いた。
     「それにしても、何故こんな場所に砦が在ったのでしょうか?」
     「さあな。詳しい事は知らねぇが、何でも200年以上も前に建てられた物らしいぜ」
     「それでは、内部の事は誰も知らないのですか?」
     「ああ、そうなるな。けどよ、首領ってからには、天辺か一番奥に居るって相場が決まってるぜ?」
     ニヤリと笑って、レオンが最も知りたかったであろう事を言った。
     「確かに。それに、その辺の下っ端を捕まえて聞けば済むだろう」
     「そうですね……それでは皆さん、準備の方は宜しいですか?」
     レイヤの意見に納得したレオンは、最終確認の為にこの場に居る全員を見渡した。
     それに各々が頷くのを確認すると、静かにレイヤへと頷いて見せた。
     レイヤはレオンの合図に従って、懐から二丁の魔装銃を取り出した。
     右手に持つ銀色に鈍く光る魔装銃の名は、『デット・アライブ-01』。
     左手に持つ黒光りする魔装銃の名は、『デット・アライヴ-02』。
     名前から分かるとおり、同じ時期に制作された兄弟銃とも、姉妹銃とも呼べる魔装銃だった。
     それに目を見開いたのは傭兵達だった。
     魔装銃本体もそうだが、魔装銃が魔装銃と呼ばれる所以である、エレメントクリスタル
    ―――通称E・Cと呼ばれる物は、恐ろしく高価な物としても有名だった。
     それを魔装銃本体を二丁も持っている事もそうだが、魔装銃を二丁も持っているという事は、E・Cも複数所持していると見るべきである。
     傭兵たちは、それを驚愕の表情で見つめる物や、羨ましそうに、口から涎を垂らしている者まで居た。
     それに気が付いたグレンがギロリと睨みつけると、慌てて表情を取り繕ったが、相変わらず羨ましそうな視線だけは途切れなかった。
     そんな傭兵達の視線を感じていないのか無視しているのか、レイヤは魔装銃本体にE・Cをセットして、上空に向けて数発発砲した。
     魔装銃から発砲された弾丸は、照明弾。
     その名の通り、夜空に白く輝く複数の花を咲かせた。
     照明弾によって、暗く見づらかった砦の全容がはっきりと映し出された。
     レイヤは素早くマガジンを取り出し、別のマガジンへと換装する。

     魔装銃の最大の利点は、汎用性に優れている事だ。
     状況に合わせて適切な弾丸とE・Cをセットする事によって、多大な戦果を上げる事ができるのだ。
     もっともその為には、その状況に合わせる分の弾丸とE・Cが必要になるのが、欠点かもしれない。
     先述にも述べたが、魔装銃本体は勿論、弾丸やE・Cも非常に高価なので、それだけの数を所持できるのは、大金持ちか軍属の高官位である。

     レイヤは二丁の『デット・アライブ』を頑丈そうな城門と、城門に辿り着くまでに邪魔になりそうな柵に照準を合わせた。
     砦の外の異変に気が付いたのか、複数の盗賊が様子を探りに城壁から外の様子を窺う様が見られた。
     レイヤはそれらを取り合えず無視をし、セットしてあったE・Cを起動。
     そして、発砲。
     レイヤが換装したマガジンは炸裂弾。

     ドガァァァァァ……ン……

     炸裂弾は轟音を発しながら、紅蓮の炎を着弾点周辺に撒き散らした。
     通常の炸裂弾だけなら、ここまでの威力はない。
     威力を向上させているのは、先程セットした炎の属性を持つE・C。
     炸裂弾本来の威力と、E・Cによって付加された炎によって、威力が通常よりも数段UPしているのだ。

     ダンダンダンダン……

     そんな轟音に構わず、レイヤは次々と『デット・アライブ』のトリガーを引く。
     『デット・アライブ』のマガジンの弾がなくなる頃には、辺り周辺は様変わりしていた。
     炸裂弾によって一つ残らず吹き飛ばされたのか、行く手を遮っていた柵は一つも見当たらず、また頑丈で在ったであろう城門は大きくひしゃげ、力なく砦内部えと倒れ込んでいた。
     様子を見に来ていた盗賊達の姿が見えないのは、他のと一緒に吹き飛ばされたのか、それとも慌てて逃げたのかのどちらかだろう。
     そんな周辺の有様にもレイヤは関心を寄せずに、慣れた手つきで『デット・アライブ』のマガジンを変え、E・Cを外した。
     傭兵達が魔装銃の威力に顔の表情を強張らせてい内に、続々と砦の内部から盗賊達が姿を現せた。
     その数はざっと200名。
     「では、あの人達を手早く片付けて、さっさと偽者の『ユナ・アレイヤ』の姿を見に行きましょう」
     目の前の盗賊達の人数など目に入っていないかのような態度でレオンが言った。
     それにレイヤは微かに頷くだけで答え、傭兵達はまだ気の抜けた顔で返事を返した。

     流石と言うべきであろうか。戦闘に入った途端に表情を一変させ、傭兵達はまさしく獅子奮迅の活躍をしてのけた。
     その中でも特に目立って奮迅しているのは、やはりと言うべきか、庸兵団団長のグレンだった。
     グレンは両手にバスターソードを握り締め、それを片手剣を扱うかのごとく軽々と振り回してのけた。
     グレンの剣が振るわれる度に、盗賊達からは苦痛の悲鳴と共に、血飛沫が舞った。
     グレンに負けるものかと云う如く、傭兵達も剣を振るった。
     その力量差は歴然で、一方的に傭兵達が盗賊達を駆逐して行った。

     そして、獅子奮迅の活躍をするグレンの更に上を行くのが、当然の事ながら近衛騎士団の一員であるレオンだった。
     レオンの剣技は、グレンとは対照的だった。
     グレンの剣技が力による物だとしたら、レオンの剣技は優雅に舞い踊る舞いその物だろう。
     盗賊達は見えない何かに魅せられるかの様に、自分からレオンの舞の中に入り込み、切られていった。
     レオンは優雅に舞い、そして返り血を浴びる事無く、次々と盗賊達を血祭りに挙げて行った。

     だがしかし、もっとも残虐なのはレイヤだろう。
     レイヤの指がトリガーを引く度に、最低でも一人の盗賊が死んでいった。
     時には、重なり合ったニ三人を同時に打ち抜いていった。
     レイヤが持つ『デット・アライブ』は、厚さ十五cmのコンクリートを貫通できるほどの威力を誇っている。
     そんな銃を、レイヤはその小柄な体で、片手で二丁も操っている姿は、まさに異様とも言えた。
     そんな威力の銃に人間が撃ち抜かれたならば、当然ただでは済まない。
     弾丸が当たった場所はごっそりと持っていかれ、手に当たれば手を、足に当たれば足を簡単に吹き飛ばした。
     その余りの威力とスプラッタ劇に、恐怖心に駆られた者達が数名その場を逃げ出そうと するが、その者達は優先的に撃ち殺されていった。

     戦闘開始から僅か数十分で、外に居た盗賊達を全て片付けたレオン達は、数人の傭兵を外に残して、砦内部へと足を踏み入れた。

     「此処か?」
     グレンが砦内部でも、最も凝った作りをしている扉を前にして口を開いた。
     「中に居た奴から聞いた話ではそうだ」
     レイヤはそう言うが、その話を聞いた奴は最早この世の者ではない。
     「此処でこうしていても始まりません。取り敢えずは中に入って確かめましょう」
     レオンが言うと、その場に居た者達は一同に頷いた。
     現在この場に居るのは、レオンにレイヤ、グレンの部下の傭兵三人だけである。
     他の者たちは、砦内部に居る盗賊の残党狩りを開始していた。

     ぐっと扉に当てた手に力を込め、グレンは扉を開いた。
     キィィィ……と云う扉軋んだ音と共に、扉が開かれた。

     扉が開いた部屋の中は、意外に広々としていた。
     縦横共に十五mほどの広さを有し、天上までの高さも三mほどはある、ゆったりとした石造りの部屋だった。
     その部屋の丁度真ん中辺りにその女の姿は在った。
     年の頃は、どう見ても30代前半にしか見えなかった。が、美人かと言われれば、10人中7は美人と答えるだろう。
     その女の姿を見た途端に、部屋に入ってきた全員の動きが凍り付いたように止まった。
     それを見た女は、自分に恐怖したのだろうと勝手に思い込み、その口元に笑みを浮かべた。
     だがしかし、それは自分の思い過ごしだと云う事を直ぐに理解した。

     「あん? ……前は暗くてよく判らなかったが、明るい所でよく見てみれば年増じゃねぇか。確か『ユナ・フレイヤ』は、まだ二十代前だって聞いた事があるが……」
     「え? 俺が聞いたところでは、実は300歳を軽く越す婆だって聞きましたよ?」
     「嘘を言うな。俺が聞いた話だと、まともに見れないような醜悪な顔だって聞いたぜ?」
     「俺は、ゴリラも真っ青なゴッツイ大女だって聞いたが?」
     「いやいや、俺が聞いたところでは、口からは火は吐き、腕には鱗が生え、足は四つもあり、竜のような尻尾があるって話だったが……」
     首を捻りながらそう呟いたグレンに続くように、他の傭兵達も次々に好き勝手な事を言い始めた。
     噂には尾ひれ背びれが付く物である。付く物ではあるのだが……後者に行くほど、話の内容が悪くなるのは何故だろうか?
     しかも最後のは、最早人間でもなかった。
     レオンがふと見てみれば、好き勝手に言われた女の顔は赤く染まっていた。
     それが羞恥心から来る物なのか、または無視された事から来る怒りなのかは判断は出来なかった。
     更に自分の傍らを見てみれば、レイヤが蹲り、プルプルと小刻みに震えていた。
     ふむ、とレオンは一つ頷くと、そっと三mほどレイヤから離れた。
     そのレオンの不可思議な行動に気が付いた者は、誰一人居なかった。
     そして遂に怒りがが頂点に来たのか、女が怒鳴った。
     「いい加減におしッ! このユナ・アレイヤ様を此処までコケにしてくれたんだ! 楽に死ねると思うんじゃないよッ!?」
     そしてその身から溢れ出す膨大な魔力。
     その魔力に居竦まったのか、傭兵達の体がピシリと岩のように固まった。
     その様子を満足そうに見た女だったが、それでも平然として一人離れた場所に居る男と、蹲っている外套の小男の姿が目に入った。
     「ふん、それでいいんだよ。あんた達なんかが、このユナ・フレイヤ様に逆らおうって事事態が、どだい無謀を通り越して無茶な話なんだよ。それより気に入らないねぇ……。そっちの私の魔力に怯えて蹲っている小男は良いとして、そっちの一人離れた所に居るお前の態度が許せないね。お前も他の男ども同様に、素直に怯えて見せたらどうだい?」
     挑発的な物言いをする女。
     だが、女が言った『私の魔力に怯えて蹲っている小男』に反応した人物が居た。
     小男と呼ばれたレイヤである。レイヤは女の言葉にピクリと反応し、そのまま動きが止まった。
     「ふん、まぁいいわ。このユナ・アレイヤ様直々にあの世に送ってあげるわ」
     女がそう言って魔力を手に込め様とした時に、ユラリとレイヤが立ち上がった。
     それに気を取られたのか、女は魔力を込めるのを止め、怪訝な表情でレイヤを見た。怯えていた奴が今更何をする? と考えたのだ。
     だがそんな女を無視して、レイヤは何事かを繰り返し呟いていた。
     そんなレイヤを見て、次に女が言い放った言葉が引き金を引いた。
     「はん、私の魔力の強大さを前にして、恐怖の余り頭が可笑しくなっちまったのかい?」
     その瞬間に、何かかプツリと切れる音を確かにレイヤは耳にした。そしてレイヤは、その口を覆っていたマスクを毟り取る様に剥がし、
     「殺す、殺す殺す、絶対に殺す! 私を馬鹿にしたお前を殺す! 私の名前を語ったお前殺す! そして何よりも、お前の所為でお義兄ちゃんを探す時間を無駄にさせたのは許せないから殺す! 楽に死ねると思うなよ! この年増!!」
     先程女が放った魔力を上回る魔力を放った。その衝撃に外套が外れ、真紅の目と真紅の髪が露になった。
     そしてその余りの魔力の量と密度に、放たれた魔力は物理的衝撃波を伴い、近くに居たグレン達は吹き飛ばされた。
     それを事前に知っていて一人離れたであろうレオンは、グレン達の無事を確かめる為に、グレン達が吹き飛ばされた場所へと足を向けた。
     「なっ! なんだいこの魔力は!? こんなの……ま、まさか!?」
     何かに気が付いたのか、傲慢な態度を崩さなかった女が初めてうろたえた。

     「大丈夫ですか? グレンさんに皆さん」
     相変わらずのほんわか口調を崩さないまま、レオンは無事を尋ねた。
     「あ、ああ。しかしどうなってんだ? っていうか、あいつ女だったのか?」
     ヨロヨロと立ち上がるグレン達を確認しながら、レオンはやや呆れた口調で、
     「本当に気付いてなかったんですか? あの人の名前は『レイヤ・アナユー』ではありません。あの人の本当の名前は、『ユナ・アレイヤ』です。彼女こそが、本物の『ユナ・アレイヤ』なんですよ」
     もっとも、偽名のセンスはどうかと思いますがね。と言うレオンの言葉は聞こえなかった。
     何故ならばグレンは、いや、グレンの部下達もだが、自分達が先程口にしたユナの噂を思い出したからだ。
     それは即ち、本人が居る目の前で、本人の悪口を言った事に他ならない。
     その事実にグレンは、怒りに燃えるユナの姿を視界に納め一言、
     「俺ら……死んだかもな……」
     力なく呟いた。
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