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■61 / 5階層)  捜し、求めるもの 第三幕 そのA
□投稿者/ ルーン -(2004/11/20(Sat) 11:45:48)
     欝蒼とした森の中をユナはひたすら歩き続けた。
     呼吸をするたびに感じる木々の匂い。
     感じる草木の匂いは、今までに感じた事のない程濃い物だった。
     周囲は木々が生い茂り、光が射さなく薄暗い。
     薄暗い森の中は、普通ならば、唯それだけで人の恐怖心を煽る。
     だがそんな事は微塵も感じさせず、ユナは森の中を歩いていった。
     今ユナが居る場所は、森の中でも入り口付近。
     森は霧の森と呼ばれているが、霧が何時も立ち込めているのは、森の中心部分。
     噂の真祖の吸血鬼が居るとされている場所だけである。
     その森の中心部も、何故か先には進めない。何時の間にか、霧の外へと出てしまうのだ。
     それは吸血鬼による魔術とか何とか言われているが、原因はハッキリとは分かっていない。
     中には稀に霧の中を進める者も居たが、その大部分は二度と霧の外へとは帰ってこずにいる。
     また帰って来れた者も、『吸血鬼、真祖の吸血鬼が出た』としか語ろうとはしなかった。
     ユナが目指しているのは、そんな森の中心部分。噂の真祖の吸血鬼が居るとされている場所である。
     迷う事に関しては、最早神業的とも言って良い義兄である。ユナは義兄ならどうせ迷って、その噂の真祖の吸血鬼の住処まで迷ったに違いないと睨んだのである。
     ユナは脇にぶら下げている、二丁の魔装銃をそっと撫でた。
     今、『デット・アライブ-01』には魔力弾が。そして『デット・アライヴ-02』には、通常弾が装填されている。そしてE・Cは、二丁とも風のE・Cがセットされていた。
     何故風のE・Cかと言えば、周囲が木々に囲まれているからである。
     ユナと一番相性が良いE・Cは、勿論炎のE・Cなのだが、もし炎のE・Cをセットして使用したならば、森が火事になる危険性が非常に高い。
     その為に今のユナは、森に比較的被害を与えないE・Cと、魔法しか使用できない状態だった。
     最大の武器である炎系の魔法や弾丸、E・Cを使用できないのは確かに痛いが、それを補うだけの知識と武器をユナは持っていた。
     本来なら、魔装銃のどちらかには水のE・Cをセットしておきたかったのだが、それはもしもの時には、対吸血鬼戦の切り札的な存在になる為に温存しておきたかった。
     それは吸血鬼の弱点に、流れる水には弱いと言う事柄があるからだ。
     その他にも幾つかの弱点はあるのだが、今のユナには水と云う弱点が一番突き易かった。
     その為に、吸血鬼の根城に着くまでは、水のE・Cを温存いておく事に決めたのだ。

     ドォォォ……ン……
     『デット・アライヴ』独特の発射音が森に響いた。
     そして森の大地に倒れ伏す一体の魔獣。
     ユナは辺りに魔獣などの気配が無いのを確認すると、
     「ふぅ、本当に魔獣が多いわね、この森は」
     そう溜息を漏らしながら、ユナは素早く『デット・アライヴ-02』の残弾を確認した。
     残弾が心細いのか、ユナは肩に掛けていたバックの中から、箱に入っている通常弾を取り出し、弾倉へと装填した。
     もちろん腰のポーチや、ベルトや外套の内ポケットにもE・Cや様々な種類の弾丸が詰まった弾倉もあるのだが、それらは戦闘時や緊急時の時に素早く入れ替える為である。
     普段は、こうしてバックの中からE・Cや弾倉、それにバラの弾丸を取り出して補充している。
     弾丸を補充し終えた『デット・アライヴ-02』を、脇に吊るしてあるホルスターへと仕舞った。
     弾丸が入っている箱を素早くバックへと片付けて、肩に掛けるとユナは足早にその場を後にした。
     これは、先程撃ち殺した魔獣が流している血の匂いに惹きつけられて、集まってくる他の魔獣との遭遇する危険性を少なくする為だった。

     歩き疲れたユナは森の開けた場所が見付かると、簡単な魔法陣を描き、そこで休憩する事にした。
     水筒から水をコップへと注ぎ、バックの中から保存食を取り出し食べ始めた。
     火を使わないのは、万が一にも火事を起こさない為と、この場で野宿をする気も無かったので、火の後始末をする手間を省く為だった。
     簡素な食事は直ぐに終わり、ユナは食後の休憩をしていた。
     休憩といっても魔道書を読むなどして、自分を高める事に費やしていた。
     15歳と云う年齢で炎系魔法を極めたのは、ユナ自身の才能と暇な時間を有意義に過ごしてからである。
     学園を卒業した今も、それは変わりなかった。
     パラパラ……とユナが魔道書のページをめくる音だけが静かな森に鳴り響いていた。
     そんな時だった―――
     ザン……
     と云う何かが草木を踏む音に、ユナが音のした方へ目を向けてみると、其処には一体の白狼が佇んでいた。
     それも唯の白狼ではない。
     全長が3〜4mはあろうかと云う、巨大な体躯を持った白狼だった。
     その体は新雪の様な真っ白な毛に覆われ、その双眸は金色に輝いていた。
     その金色に輝く瞳もどこか知性を感じさせ、一見しただけで魔獣とは別格の物と感じさせた。
     それだけではなく、その白狼は何処か高貴ささえも感じさせた。

     「汝ハ何者ダ?」
     「はい?」
     突然口を開いたと思えば、人語を目の前の白狼が喋った為に、思わず間抜けな言葉が口を出た。
     そんなユナには構わずに、白狼は淡々とした口調で話し掛けてきた。
     「汝ノ身カラ、強大ナ魔力ヲ感ジル。汝ハ何者ダ?」
     その言葉にユナは首を傾げ、考える事数瞬。
     「あ〜、何で狼が喋れるかは一先ず置いといて、他人に聞く前にまずは自己紹介しなさいよ」
     「フム、中々面白イ娘ダ。我名ハ『アナベル・キリ・フォロス・スタッド』。誇リ高キ天狼族ガ最後ノ一頭ダ」
     「ちょっと待って! 今、天狼族って言った!?」
     目の前の白狼から、聞き捨てならない言葉を耳にしたユナは、思わず聞き返した。
     そんなユナの反応に、白狼は面白そうに顔を歪め、
     「ホウ、マダ年端モイカヌ人間ノ娘ガ、我等ノ事ヲ知ッテイヨウトハナ。然リ、我ハ天狼族ガ最後ノ一頭ナリ」
     「まさか……そんな……。でも、確かに人語を理解するなんて天狼族でもないと……」
     ユナは唖然と自らを天狼族と名乗った白狼を見据えた。

     天狼族―――
     それは、遥か古より存在していたとされる種族。
     その期限は、古代魔法文明が存在していた頃には、既に確認されている。
     一説には、人類が発祥する遥か以前からこの大地に生息していたとされる。
     その身は最も精霊に近い種と言われている。
     もっともここ数百年は、人前に現れる機会も殆どなく、幻の種族。
     或いは、既に絶滅した種族と言われていた。
     そして今、目の前に居る白狼の言葉を信じるならば、彼(彼女)こそが最後の一頭だと云う事になる。

     「ソレデ、我ハ名乗ッタノダカラ、次ハ汝ノ番デハナイノカ?」
     ユナの心情を知ってか知らずか、天狼は淡々とした口調を崩さないまま言ってきた。
     その天狼の言葉にユナは、はっとなり、
     「そ、そうね。私は『ユナ・アレイヤ』。見ての通りの人間族よ。貴方が言う魔力は、私が魔法使いだからかしらね」
     「ナルホドナ。汝ハ魔法使イカ。我ガ知ッテイル多クノ魔法使イタチノ中デモ、汝ハカナリノ魔力ヲ持ッテイル」
     「それで? どうして私の前に姿を現したの? 天狼族は、もう絶滅している物かと思っていたんだけど……」
     「我領域ニ、大イナル魔力ヲ持ツ者ガ近ヅイテクル気配を感ジタ。ソレヲ確カメニ来テ ミレバ、汝ダッタト云ウ訳ダ。汝コソ、何故我領域に近ヅイタ?」
     「私は、行方不明だったお義兄ちゃんがこの森に入って行くのを見かけた人が居たから、お義兄ちゃんの行方を知る手掛かりがあるかも知れないと思って入ったの。まさか最早伝説の存在と化した天狼族が存在して、その天狼族の領域だとは知らなかったわ」
     「兄ダト?」
     「そうよ。今から二週間くらい前なんだけど、貴方誰か見かけなかった?」
     「フム、確カニソノクライ前ニ、コノ森ノ中心。霧ノ森ヘト入ッテイク人間ヲ見カケタナ」
     天狼のその言葉に、ユナは”やっぱり”と一言呟いて、魔法陣を消すと森の奥へと足を向けた。
     「待テ。汝モ霧ノ森ヘト入ルツモリカ?」
     天狼に呼び止められたユナは振り向き、
     「そうだけど。もしかして邪魔する気?」
     邪魔をするならば容赦はしない。そう言葉の中に含ませていた。
     「イヤ、邪魔ハセヌ。唯、アノ霧ハ人ヲ惑ワス。霧ノ中心ヘトハ、汝デモ入レヌダロウ」
     その言葉にユナは眉を顰め、
     「だったら何故、お義兄ちゃんは入れたの?」
     それに天狼は首を振り、
     「分カラヌ。人間ノ中ニモ稀ニ、アノ霧ガ効カヌ者ガ存在スル。アノ霧ハ、人ノ方向感覚ヲ狂ワス働キガアルノダガナ」
     その天狼の言葉にユナはピーンときた。
     霧が方向感覚を狂わせて、もともと方向感覚が皆無だった義兄の方向感覚を正したのだろうと。
     とすれば、他に霧の中へと進めた人間も、恐らくは全員が方向音痴だったのだろう。そうユナは推測した。
     が、逆に言えば、方向感覚が確りしているユナには、霧を突破できない事を意味していた。
     「どうすればあの霧を突破できるの?」
     ユナはそれを解決できそうな人物。すなわち、天狼へと尋ねた。
     「人間ガ意識シテ突破スルノハ不可能ダ。モットモ、我ガ道案内スレバ話ハ別ダロウガナ」
     それはつまり、人間ならば突破は不可能だが、天狼ならば突破は可能ということになる。
     「貴方が霧の森の中心へ案内してくれるの?」
     「否。我ハ我ノ主ノ命令シカ受ケヌ。汝ガ我ノ主二ナリタイノナラバ、汝ガ我ノ主二相応シイカハ、我ト汝ガ戦ッテ決メル事ニナルガドウスル?」
     「つまり早い話が、貴方と戦って私が勝てば、私が貴方の主になって、霧の森の中心へと案内してくれると言う訳ね?」
     「ソウダ。ダガ、汝ガ我ニ負ケタ時ハ、汝ハ我ガ血肉トナッテモラウガ?」
     天狼が頷いたのを確認したユナは、ゆっくりと脇に吊るしてあるホルスターから二丁の 『デット・アライヴ』を手に取り、慎重に天狼との間合いをとった。
     「上等。それが義兄ちゃんの足取りを掴むのに必要な戦いならば、避けては通れないわね。いいわ、戦いましょう」
     ユナの言葉に天狼は天へと向かって一度吼え、そして戦いの幕は上がった。

     まず先手を打ったのはユナだった。
     身体強化の魔法を自身へと素早くかけた。
     そして『デット・アライヴ‐02』のトリガーを続けて三度引く。
     薄暗い静かな森に銃声が鳴り響いた。
     放たれた弾丸は、天狼へと向かって一直線に飛んでいく。
     しかし天狼も黙って突っ立っている訳ではない。
     天狼は飛んでくる弾丸が見えているかのように、僅かに体をずらすだけで避けた。
     「まさか、弾丸が見えてる?!」
     ユナは僅かに顔を顰めながらも、こちらに向かって突進してくる天狼に『デット・アライブ-01』で牽制する。
     天狼は足元に穿った弾痕を避けるようにユナへと向かって跳躍した。
     ユナは天狼の影を目で追いながら、銃口を天狼の影へと合わせて発砲。
     「ちっ!」
     放たれた弾丸が天狼に中らずに、木の枝をむなしくへし折ったのを見て、思わず舌打ちした。
     天狼はユナの背後へと音も無く着地し、ユナが振り向くよりも早くユナの脇を駆け抜けた。
     「つぅ!?」
     天狼がユナの脇を駆け抜けるの同時に、ユナは脇腹に激痛を感じ、苦痛の声を上げた。
     ユナが脇腹に手を当ててみれば、手はユナの血でベットリと染まっていた。
     だが幸いにも傷は浅いのか、出血自体はそう酷くは無かった。
     もしかしたら、天狼が手加減しただけかもしれないが。
     その時に天狼が声を発した。
     「ドウシタ? 汝ノ力ハソノ程度カ?」
     それをユナは挑発と受け取った。
     二丁の『デット・アライヴ』にセットしてあったE・Cを起動。
     ついでに『デット・アライブ-01』の特殊能力を発動して、弾丸の威力を高めた。
     狙いをこちらの様子を伺っている天狼に瞬時に合わせて発破。
     風を纏った弾丸は、周囲の木々を薙ぎ払いながら天狼へと突き進んだ。
     「ナニ!?」
     流石にこれは予想外だったのか、天狼の体が一瞬硬直した。
     だが硬直したのはホンの一瞬。グッと四肢に力を込めると、次の瞬間には天狼の体は天へと飛翔した。
     しかし弾丸は避けられても、風まではいかんともしがたかった。
     猛烈な風に煽られて、天狼は体勢を崩した。
     「もらった!!」
     体勢を崩した天狼へとユナは、『デット・アライヴ‐02』の残弾全てを叩き込んだ。
     だが次の瞬間、ユナは己の目を疑った。
     避けられるはずの無い体制だった天狼が、急激な方向転換をし、弾丸を避けたのだ。
     だが天狼はそれだけでは止まらずに、何も無い空中で加速。ユナへと上空から襲い掛かって来た。
     天狼の強靭な前足の爪が翻り、ユナへと死の鎌となって襲い掛かった。
     ユナはそれを無理矢理体を捻りながら、体を前へと投げ出すことで交わした。
     だが交わしきれなかったのか、背中から焼けるような痛みが走った。
     苦痛の悲鳴を唇を噛み締めて堪えながら、ゴロゴロと転がる。
     仰向けで体が止まると、何かが体を上から押さえ込んだ。
     苦痛で思わず閉じていた瞼を開くと、天狼の巨体が覆いかぶさるように自分の四肢の自由を奪っているのが見て取れた。
     「……コレデ終ワリカ?」
     天狼の声が聞こえてくるが、ユナは無視した。
     正確には、ユナは天狼の背後に見える木々を見ていた。
     「……っ! なるほどね。さっきの異常な方向転換や加速は、アレを利用したのね」
     ユナの視線の先には、へし折れた木の枝が数本見て取れた。
     ユナにはへし折った覚えの無い枝である。
     つまり天狼は、日の光も通さないほどに覆い茂った木々の枝を足場に利用したのだ。
     「ソウダ。ダガ、ソレガ分カッタカラト言ッテ、今ノ状況ハ覆セマイ。汝ハ我ガ血肉トナル」
     天狼はユナを捕食せんと、その口を大きく開けた。
     しかし、天狼の口が後少しでユナへと届きそうな時に、天狼は動きを止めた。
     ユナの目や顔には、これから殺されると言う恐怖が見て取れなかったからだ。
     「ナゼダ? 今カラ食イ殺サレヨウトスル時ニ、ナゼ汝ノ顔ニハ恐怖心ガ無イ?」
     不思議に思った天狼は、知らずの内にユナへと訪ねていた。
     「何故ですって? そんなの決まっているでしょう。まだ勝負は付いていないからよ!」
     「ナニ!?」
     苦痛を堪えた声と共に、ユナは行動を開始していた。
     ユナの両腕は、天狼の前足によって動きを封じ込められている。
     だが、手首は動いた。ユナにはそれだけ動ければ十分だった。
     ユナは『デット・アライブ-01』の銃口を天狼へではなく、地面へと向けた。
     そんなユナの行動を天狼が慰ぶかしげに見ていたが、特に何もしなかった。
     ユナがどうするかに興味を覚えたからだ。
     ユナは全身を強化していたのを、足へと集中させた。
     そしてE・Cを起動し、『デット・アライブ-01』の特殊能力を発動。
     その次の瞬間にはトリガーを引いていた。
     森に響く発砲音と共に、暴風が吹き荒れた。
     「つぅぅぅっ!!」
     ユナの口から漏れた苦痛の声は、暴風によって掻き消された。
     威力を高められた風のE・Cの力が地面へとぶつかり、行き場を無くした力が無秩序に荒れ狂ったのだ。
     風はユナの身を天狼ごと持ち上げた。
     これには天狼も流石に体勢を崩し、飛び跳ねるようにユナから離れた。
     そしてそれは、ユナが待ち望んだ瞬間だった。
     『デット・アライブ-01』を左手に持ち替え、天狼へと発砲した。
     流石の天狼も、着地の瞬間は交わしようが無かった。
     放たれた弾丸を腹部にまともに喰らい、その巨躯が吹き飛ばされた。
     ユナは荒れ狂う暴風の中、素早く体勢を整えて、吹き飛ばされた天狼へと走った。
     一足、二足、魔法で強化されたユナの足は、とんでもないスピードで天狼へと迫った。
     天狼は少しふら付きながらも、自力で立ち上がった。
     だが、立ち上がって天狼が目にしたのは、もう目の前へと迫っているユナの姿だった。
     ユナの右足が霞み、
     「飛べ、犬っころ!」
     次の瞬間には、天狼はユナの言ったとおりに飛んだ。
     ユナに蹴り飛ばされた天狼は、大人が両腕でやっと囲えるほどの太さの木にぶつかり、それをへし折った。
     蹴り飛ばされた天狼の勢いはそれだけでは収まらずに、二本目の木へと衝突。
     木にめり込むようにして、漸く止まる。
     天狼の体はズルリと力なく木から滑り落ち、大地へと横たわった。
     ユナは一歩一歩ゆっくりと天狼へと歩み寄り、『デット・アライブ-01』を天狼の腹部へと狙いを定めた。
     左手で『デット・アライブ-01』の照準を合わせたまま、
     「乙女の柔肌を傷つけた罪を思い知りなさい!」
     躊躇なく、数回発砲。
     「ガハッ!!」
     銃弾を近距離でまともに受けた天狼は、ビクンビクン、と力なく痙攣を繰り返した。
     天狼の柔軟な毛皮と強靭な筋肉を持ってしても、腹部にこれだけのダメージを受ければ、その衝撃全てを無効には出来なかった。
     痙攣する天狼を余所に、ユナも力なく地面へと座り込んでしまった。
     戦闘が終わった事で、忘れていた痛みが戻ったのだ。
     脇腹の傷に背中の傷。そして―――
     「良かった。どうやら骨は砕けてないみたい。これなら直に治せる」
     だら〜んと力なく垂れ下がっている、右腕の状態をチェックし終えたユナは、ホッとした口調だった。
     それでも、絶えず襲い掛かって来る痛みに、ユナの額からは脂汗がとめど無く流れていた。
     ユナの右腕は今、手首、肘、肩と全部の間接が脱臼していた。
     これは、肉体の強化もなしに、しかもあのように無茶な体勢から『デット・アライブ-01』を撃った事が原因だった。
     いくらユナでも、片手撃ちの『デット・アライブ』には無理がある。
     それを可能にしていたのが、射撃の時の体勢と肉体の強化だった。
     だが先程は、直に天狼へと攻撃する為に、肉体の強化は足だけだった。
     ようするにユナは、右腕一本を犠牲にするつもりで天狼に勝ちに行ったのだ。
     せめて体勢だけでも整っていれば、筋を痛めるだけで済んだだろう。
     現に肉体強化を施していない時に撃った左腕は、筋を痛めただけで、脱臼などはしていなかった。
     ユナは自力で外れた骨を嵌め直すと、自分に治癒魔法を施し始めた。

     「……ココハ……?」
     気を失っていた天狼が気が付いたのは、もう夕暮れ時だった。
     天狼は自分の体の状態をチェックしたが、何処も異常は見当たらなかった。
     これには天狼も首を捻った。
     自分は間違いなく、腹部に何らかのダメージを負っているはずだったからだ。
     いくら治癒能力が高い天狼でも、こんな短期間で完全に治る程度のダメージではなかったはずだった。
     だがその答えも直に分かった。
     「気が付いた? 感謝しなさいよ。貴方の怪我も態々治したんだから」
     焚き火の向うから、ユナの声が聞こえて来た。
     その声に天狼は辺りを見渡した。
     場所は先程ユナと出会った森の開けた場所だった。
     見ればユナは着替えたのか、服装が先程とは変わっており、二丁の『デット・アライブ』の整備をしていた。
     「何故ダ? 何故、我マデ治療シタ?」
     「何故って……、それは貴方が死んだり動けなかったら、霧の森の中心へ案内してくれる人がいなくなるじゃない。それに貴方に勝ったって事は、私は貴方の主になるんでしょう? それなのに見捨てて置けないでしょう」
     その言葉に天狼は目を瞬かせて、”クッククク”と口の中で笑った。
     「本当ニ面白イ娘ダ。娘ヨ、今一度聞コウ。汝、我主ニナルカ?」
     「ええ、ここまで苦労したんだから、もちろん」
     天狼は厳かな声で続けた。
     「デワ娘ヨ、今一度聞コウ。汝ノ名ハ?」
     「私の名は『ユナ・アレイヤ』」
     「承知シタ。汝、『ユナ・アレイヤ』を我、『アナベル・キリ・フォロス・スタッド』ノ主ト認メル。コレカラ宜シク頼ム、主ヨ」
     「ええ、でも、『アナベル・キリ・フォロス・スタッド』って長いわね。いちいち呼ぶのに不便だわ。省略して、『キリ』って呼んでいい?」
     「構ワン。主ガ呼ビヤスイヨウニ呼ベバ良イ」
     そのユナの言葉に、キリは特に気分を害した様子もなく告げた。
     「そっ。それじゃ改めて宜しくね、キリ」
     「承知。コチラコソ頼ム。主ヨ」
     そうして日は暮れ、森は夜の帳がおりた。



     次回予告―――

     次回予告はお馴染み俺っチ、マオ様がやるのだー!
     予定ではー、残すところは後一部だそうだー!
     全然短く刻めなかったなー、作者には学習能力がないのかー?
     まぁ予告どおりー、仲間は増えたなー。
     でも勝手にー、天狼なんて設定作っていいのかー?
     しかも天狼はー、刀の設定に在ったなー。
     でも、懲りずに今回もいくぜぇー!
     次回、『捜し、求めるもの』
     霧を抜ければ洋館ー、其処には真祖の吸血鬼が居るかもなー?
     予定は予定であって、未定なのだぁー!
     そこんところー、宜しく―!!
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