Release 0シルフェニアRiverside Hole

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■96 / 6階層)  捜し、求めるもの 第三幕 そのB
□投稿者/ ルーン -(2004/12/11(Sat) 01:38:49)
     深い、深い霧が森中に立ち込めていた。
     視界は悪く、3メートル先は最早真っ白で何も見えない。
     頼れるのは僅かな視界と、自分の傍らを歩く相棒のみ。
     相棒も視界の悪さは同じだが、相棒は鼻が利く。
     魔物、魔獣の類は、相棒の鼻からは決して逃れられない。
     よって―――

     ビュッ、ビューッ。
     風切り音と共に、地面に倒れる無数の魔物、あるいは魔獣。
     相棒は優秀な狩人だった。
     襲い掛かって来る魔物の数、方向を素早く察知し、それを私に伝える。
     私はそろに一片の疑いも持たずに、銃口を向けて発砲。
     あるいは呪文を唱え、放つ。
     マズルフラッシュが閃く度に、あるいは魔法が放たれる度に、確実に一つの命は失われる。
     命を奪う事に躊躇はしない。戸惑いもしない。
     そんな事を殺し合いの現場でして居たら、自分の命が奪われるから。
     だから、罪悪感や後悔を感じるのは、全てが終わってからすればいい。
     奪った命の罪は背負い、それを私が生涯その業を忘れなければいい。
     そう、私は思う。

     とても極最近組んだパーティーだとは思えないコンビネーションで、私たちは敵を殲滅していく。
     クェーーーッ!
     空から魔物の奇声が響いた。
     それと共に私に向かってくる殺気。
     どうやら私を狙っているらしい。
     でも無駄だ。
     そんな事を許すほど私は弱くはないし、何よりも私の相棒がそんな事は許さないからだ。
     軽い跳躍。それだけで相棒は宙へと舞った。
     相棒の真っ白な毛に覆われた右腕が唸った。
     それをまともに受けた魔物は吹き飛び、体が木に勢いよく激突し、その肉が爆ぜた。
     相棒はクルリと宙で回転し、軽やかに地面へと着地した。
     「ウォォォオオオン!!」
     相棒が天へと向かって吼えた。
     それに恐れをなしたのか、残っていた魔物たちも直に逃げ出して行った。
     それなら最初から吼えれば良いじゃないかと始めは思ったが、相棒―――天狼族最後の生き残りであり、私の従者であるキリ曰く、
     「アル程度此方ノ力ヲ示シテカラデハナクッテハ、効カヌ」だそうだ。
     要するに、相手に此方の実力を示した処で、脅かしをかけているのだそうだ。
     もっとも、自分の縄張りにいた魔物たちは、キリの姿を見ただけで逃げ出すらしい。
     キリの縄張りに生息していた魔物たちは、今襲ってきた魔物たちとは違い、キリの強さを熟知しているらしかった。



     「ねぇキリ、後どのくらいで吸血鬼が居るって言う屋敷に着くの?」
     既に数日間霧の森の中を歩いているにも拘らずに、一向に森を抜けられない事に少しイラツキを覚えた私は、隣を歩いているキリに訪ねた。
     今私の頭の中は、自分でも危険と認識できる考えが浮かんでいた。
     それはこの鬱陶しい霧の森を、私の魔法で吹き飛ばしてやろうかと云う考えだ。
     何せ森中に立ち込める霧の所為で視界が悪い上に、湿気が多くて鬱陶しい事この上ないからだ。
     そんな私の危険な考えを知ってか知らずか、キリは何時もの淡々とした口調で返してきた。
     「アト数時間程ダ。ソレデコノ霧ノ森ハ抜ケル」
     そのキリの言葉を聞いた私は、ほっと胸を撫で下ろした。
     もし後一日以上掛かるなんて言葉を聞いたら、私の心身の健康の為にも、この鬱陶しい霧の森を本当に吹き飛ばしただろう。
     その時は勿論、自然保護とか森林破壊とか言った物は無視する。それ以上に、私の心身の健康が重要だ。
     それに、ばれなければどんな犯罪も犯罪ではない。と昔の人は言っていた。
     昔の人はいい事を言うと思う。けど、あの宿屋のマスター達には、私がこの森に入っている事を知っている訳で、そうすると私の仕業とばれてしまう……。
     それは不味い。非常に悪い。私は賞金首にはなりたくないし、そもそも犯罪を犯すとしたら、完全犯罪をやるのが私の主義だ。
     実際、今まで幾つもの完全犯罪を成功させてきた。その私が、たかが森林破壊程度の犯罪で賞金首になるなど、目も当てられない。
     第一、賞金首になる事よりも、自然保護団体に目を付けられるのは、ある意味もっと性質が悪い。
     彼らのしつこさと言ったら、もしも賞金首ハンターになったら、あのしつこさで直にでも賞金首ハンターの上位ランクに入れるだろう。
     以前に何度か彼らの運動を見た事があるのだ。
     アレを自分で体験したいと思う輩は皆無だと思う。私自身も遠慮したいし……
     でも、そうすると私が今抱えるこのストレスはどうしよう? どうやってこのストレスを発散させよう? 
     決めた。吸血鬼にぶつけよう。そもそもこんな所に居を構えている吸血鬼が悪い。うん、私がそう決めた。
     私がそんな考えに没頭していたその時、キリが思い出したように切り出した。
     「ソウ言エバ、吸血鬼ノ事ニ関シテ話シテオク事ガアル」
     私はその言葉にキリの顔を見た。
     キリは不必要な事は言わない。そんなキリが切り出すのだから、今私たちが向かっている吸血鬼に対して、重要な事なのだろう。
     「今向カッテイル吸血鬼ハ、主ガ思ッテイル真祖ノ吸血鬼デハナイ。奴自身ハ真祖ノ吸血鬼ダトホザイテハイルガ、実際ハ先祖還リ、モシクハ帰先遺伝ト呼バレテイル現象ニヨッテ、力ガ限リナク真祖ノ吸血鬼ニ近イダケノ吸血鬼ノ末裔ダ。ダカラ、吸血鬼ノ弱点ガソノママ当テ嵌マルトハ限ラナイ。ソノ点ハ注意シテオイテモ損ハナイダロウ」
     そのキリの言葉に私は頷いた。
     唯でさえ、吸血鬼に関しては情報が少ない。その中でも比較的有名な弱点が幾つがあるが、本物の吸血鬼とは違い、先祖還りではその弱点も当て嵌まるか前例が無いだけ不明だった。
     キリの言葉を、頭の隅に留めて置く価値はあるだろう。そう私は判断した。
     天を見上げてみれば、僅かに木々の隙間から覗く空は、もう夕暮れだった。
     どうやら、吸血鬼とのご対面は夜になりそうだ。
     私はぺロリと唇を舐め、霧の森を抜ける為に足を踏み出した。



     霧の森を抜けてみれば、また森が続いていた。
     違う点といえば、霧が発生していない事だけだろう。
     微かに違和感を感じるが、雰囲気もキリと出会った森と似ている。
     当然であろう。そもそも同じ森なのだから。異常なのは、常時霧が発生している部分だけだ。
     そう、まるで森の中心部を守る様に、人の侵入を拒んでいる。
     キリの話では、森の中心部半径数キロに渡り、あの人を惑わす霧は発生しないのだそうだ。
     私はそれをまるで、ドーナツか台風の目みたいだと思った。
     日も落ち始め、周りは闇に閉ざされ始めている。
     吸血鬼が居るという屋敷に向かうにあたっては、通常なら最悪の時間帯だろう。
     吸血鬼は本来夜に行動し、また吸血鬼の最大の弱点である日光にも縁が無いのだから。
     だが私にとっては、夜でなくては困る。
     何故なら恐らく、いや、確実にここに迷い込んだであろうお義兄ちゃんの手掛かりを、その吸血鬼が握っている可能性があるからだ。
     話し合いにしろ、力ずくにしろ、吸血鬼に会う為には夜の方が確実だ。
     全く、私も十分トラブルメーカーだとは思うが、お義兄ちゃんは私以上のトラブルメーカーだと思う。
     流石に兄弟と言ったところだろうか。もっとも、いくらお義兄ちゃんと似ているのが嬉しいとは言っても、こんな所は似たくは無かった。
     まあ、方向音痴が似なかっただけマシかな……。
     と、お義兄ちゃんに対して失礼な事を考えた所で、溜息を吐いた。
     もしも、もしも吸血鬼がお義兄ちゃんを傷付けるような事をしていたのであれば―――
     この世の地獄を吸血鬼にプレゼントしようと思う。もちろん、受け取りの拒否は認めない。
     と、そこでふと気が付いてみれば、キリが立ち止まっていた。
     疑問に思ってキリの視線の先を追ってみれば―――私は目に飛び込んできた光景に硬直した。
     だが私はそれも当然だと思う。
     目の前にいくら考え事をしていたとは言え、気が付いてみれば巨大な屋敷が建っていたのだ。
     これを驚くなと言う方が無理がある。
     私の目に映る屋敷は、兎に角大きく、美しかった。
     白を基調とした外壁。赤い屋根。手入れの行き届いた綺麗な庭。
     そのどれもが、嘗て訪れた王城とまでは行かないまでも、大貴族並の荘厳さと威容さを誇る屋敷だった。
     「……何よ、これ……」
     思わず口に出た言葉。
     だがしかし、目に映る光景は明らかに異様だった。
     こんな巨大な屋敷を、少しぐらい考え事をしていたことぐらいで見落とすバカはいない。
     だが、現実に私はその屋敷を見落としていた。
     まるで、狸か狐に化かされた気分。それほどの異様さ。異常さ。
     視線を巡らし、今までに感じてきた事全てを思い出しながら思考を始める。
     考えろ、考えろ。
     私はこの森に入ってから何を見、何を感じた?
     普通の森と違った所で、思い出す事は主に三つ。
     天狼族最後の生き残りのキリ。
     人を惑わす、常に発生し続ける異常で異様な霧。
     そして―――霧の森を抜けた所で感じた微かな違和感。
     まて、違和感? 何故、唯の森で違和感を感じる?
     私は注意深く視線を辺りに巡らせた。
     そして感じたのは―――魔力。
     微かにだが魔力を感じる。
     屋敷全体から、いや、視界に納まる範囲全てから微かに魔力を感じる―――
     私がこの森に入ってから感じた違和感、その違和感の正体がこの魔力だったのか?
     私は素早く、そして正確に空間に蔓延する魔力から、発動されている魔法の種類を認識。
     そして解析する。
     結果―――
     在る物を無いと認識させる幻術。
     それが違和感の正体。だがしかし、術者は私の目をも誤魔化すほどの高度な幻術を作り出していたと言うのか?
     ありえない! 私は思わず否定する。
     森に入ってからと言えば、森の中心部分にあたる。
     キリの話では、霧が発生していない森の中心部分は、半径数キロにもなる。
     恐らく、その全てに魔力を行き渡らせ、これほど高度な幻術を常時発動させ続けている。
     そんな事は、今の魔道技術では不可能だ。
     そもそも、私は魔法使い。
     それも学園をトップで卒業し、炎系魔法を極めている程の使い手だ。
     その私に、違和感を感じさせる程度にしか認識させない幻術。
     信じられなかった。
     一般的に、魔法使い相手に幻術を仕掛ける場合は、相手よりも遥かに魔力が高いか、技術面で圧倒している必要がある。
     それは、魔法使いが対魔力が高い事に由縁している。
     対魔力が高いと言う事は、それだけで相手から放たれた魔法ダメージを軽減し、幻術などにも掛かり難くなる。
     対魔力は、魔力にあるていど比例している。
     つまりは、魔力が非常に高い私は、比例して対魔力も非常に高い。その為に、魔法での攻撃、幻術などにも高い耐性を持っている。
     その私に、違和感を感じる程度にしか認識させない。
     それも違和感を感じていたとは言え、目の前に突然このような屋敷が映らなければ、特に気にも止めない程度の違和感。
     それはつまり、この幻術を操っている者は、私よりも遥かに魔力が高いか、技術面で優れている事になる。
     私はその事実に戦慄を覚えた。私が魔法で戦慄を覚えるほどの相手。
     そんな相手は、嘗て見た王国の宮廷魔法使いの中にも、片手で数えられる程度しか居なかった。
     私が戦慄を覚えたのを感じたのか、キリが話し掛けてきた。
     「主ヨ、言ッテハイナカッタガ、コノ屋敷ト人ヲ惑ワス霧、ソシテ幻術ハ、主達ノ言ウ、古代魔法文明期ノ者達ノ手ニヨル物ダ。吸血鬼ノ仕業デハナイ」
     キリの話した内容によれば、あの人を遠ざける全ての技術は、古代魔法文明期の人達の仕業と云う事だ。
     あの霧もそうだが、この幻術の魔道技術も凄い。何よりも、遥か昔に建てられた屋敷が現存するのも凄い。
     何せ、古代魔法文明期の遺物は、現存数が極端に少ないからだ。
     これほどまでに完璧な形で稼動している、魔道システムに屋敷は、世界遺産並の指定を受けるだろう。
     もっとも、私には興味ないけど。
     私が興味あるのは、炎系魔法技術とお義兄ちゃんの事だけだし。
     そんな、世の学者や研究者連中が聞いたら、泣いて怒り出しそうな事を私は思った。
     けれども私は改めて、古代魔法文明期の魔道技術の高さを思い知らされた。
     だがしかし、つまりは何? 私は感じなくてもいい戦慄を、吸血鬼に感じたと言うわけ?
     そのアホらしさに無償に腹が立って、キリの後頭部を殴りつけた。
     そんな私にキリは、非難がましい視線を私に向けてくるが無視。
     そんな大事な事を言わなかったキリが悪い。
     私はズカズカと足音を立てながら、屋敷の玄関へと向かった。



     豪華で無駄にデカイ扉を前に、私は一度キリへと顔を向けた。
     「ねぇキリ、お願いがあるんだけど……」
     「ナンダ? 主ヨ」
     「うん。吸血鬼と戦闘になった場合、キリは手を出さないで欲しいの。アイツは、私の手で直接制裁を加えたいから」
     「……了解シタ。主ノ好キニスレデイイ」
     キリは私のお願いに少し不満の表情をしたが、結局は私の願いを聞き入れてくれた。
     これは私がキリの主であり、私の実力を信頼してくれているからだろう。
     そう思うと、少し嬉しかった。
     そして私は、吸血鬼が住まう屋敷の扉を開く為に、ドアノブへと手を掛けた。
     見た目に反して扉は意外に軽く、比較的簡単に開いた。
     そして、私の目に飛び込んできた物は―――



     次回予告―――

     次回予告はお馴染み俺っチ、マオ様がやるのだー!
     『予定ではー、残すところは後一部だそうだー!』
     とか前回の予告で言っていたなー、大嘘吐きの作者だなー。
     でも、懲りずに今回もいくぜぇー!
     次回、『捜し、求めるもの』
     いよいよー、吸血鬼とのご対面だー!
     繰り広げられる戦闘はー、結構凄いかもなー?
     その頃義兄はー、一体何してるー?
     予定は予定であって、未定なのだぁー!
     そこんところー、宜しく―!!
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