Release 0シルフェニアRiverside Hole

HOME HELP 新着記事 ツリー表示 スレッド表示 トピック表示 検索 過去ログ

■221 / 11階層)  捜し、求めるもの 第五幕 後編
□投稿者/ ルーン -(2005/07/30(Sat) 15:21:40)
     「んー、やっぱり直ぐには無理か……」
     エルリスとセリスに、魔力の隠蔽と制御の仕方とコツを教えたユナだったが、そんな事が簡単にできるはずも無く、当然思ったような成果はあがらなかった。
     「やっぱり直ぐには無理よね……」
     初めての試みに疲れたのか、肩で息を切らせながらエルリスは力なく声に出していた。
     そんな姉の弱気の声を聞いて、セリスは明るい声を出す。
     「姉様、諦めたらダメだよ! 諦めたら其処で終わりなんだよ!? ボクは絶対に諦めないからね!!」
     セリスは立ち上がり、握った拳を天に掲げた。
     そんな微妙に熱血している実の双子の妹を目にして、頬を軽く引き攣らせながらも、再びやる気が湧いてくるのを感じたエルリスは、声に出さずにセリスに感謝した。
     そんな二人の様子を黙って見ていたユナは、ふと眉を顰める。
     「あれ?」
     不思議そうな声を出したかと思うと、セリスの体が突然グラリと揺らぎ倒れ込む。
     それをある程度予期していたユナは、倒れ込むセリスの体を優しく抱きとめた。
     「セリス!?」
     突然倒れ込んだセリスに、エルリスは慌てて駆け寄った。
     ユナは支えていた体をそっと床に横たえると、セリスの状態をチェックする。
     「……大丈夫。慣れない事をしたから、疲れが体にでただけ。少し休めば直ぐに良くなるわ」
     その言葉にほっと胸を撫で下ろしたエルリスは、セリスの顔を覗き込んだ。
     「無理しちゃダメじゃない、セリス。無理して体でも壊したら、元も子もないでしょう?」
     「うん、ごめんなさい姉様。ユナも体を支えてくれてありがとう」
     「別に気にしなくても良いわ。私も少し無理をさせすぎたし。……そうね。セリスが立てる様になったら、温泉にでも入りましょうか。この離れには、専用の露天風呂が在るしね」
     エルリスとセリスはその言葉にパアっと顔を輝かせた。
     そにな二人の様子にユナは、二人の魔力の隠蔽と制御をどうしようかと考え込んだ。



     「うわぁー、これが露天風呂!? 岩だよ岩! 姉様、岩のお風呂だよ!! 景色もバッチリだよ!!」
     歓声をあげるセリスに、エルリスも目を見張った。
     だが一方で、室内ではなく室外というお風呂に戸惑ってもいた。
     (うーん、最低限の塀はあるけど……)
     グルリと周囲を見渡し、遮るものが心もとない塀だけとあって、
     「これって、周囲から覗かれないかしら?」
     ポツリと不安を口にした。
     それを耳にしたユナが、安心させるために声をかける。
     「大丈夫よ。一応周囲の土地はここの宿の物みたいだし、あの塀にも魔科学が使われているみたいだしね。効果は塀の外側と内側の歪曲。内側からだと分からないでしょうけど、外側からこっちを覗こうとしても空間が歪曲している為に、こっちの風景は覗けない仕組みね。あと……どうやら侵入者防止用のトラップと、警報機も設置されているわね。これだけあったら、普通なら誰も覗こうとしないわよ」
     ユナの言葉にホッと胸を撫で下ろすエルリスだったが、ふと気になった事をユナに訊いてみる事にした。
     「キャハハハハ♪」
     「でも、覗こうとする人が普通じゃなかったら?」
     「それも大丈夫。キリに撃滅してもらうし、念入りに私も魔法で抹殺するから」
     「わぁ〜い♪」
     「……それは心強いわね。でもユナって、魔法だけじゃなく魔科学にも詳しいのね。私達とあまり年齢は変わらないのに凄いわ」
     ユナの物騒な物言いを奇麗に聞き流し、魔科学にも精通しているユナの博識さに、エルリスは感嘆の息を漏らした。
     「うーん。まあ、私も魔科学の結晶を持っているし、魔科学の基本は魔法と科学の融合だからね。どちらか片方にでも精通していれば、そこそこ魔科学にも通用するのよ。もっとも、私の場合は魔科学にも興味を持っていたから、ある程度の知識は学んだんだけどね」
     「アハハハハハ♪」
     「………………」
     「………………」
     「それいけ〜♪」
     楽しそうにはしゃぐセリスの声に、シリアスな雰囲気をぶち壊され、思わず黙り込む二人。
     ギン! とセリスを睨みつけ、しばらく黙るように言おうと、セリスの方へ振り向くエルリスだったが、ピシリと石像のように固まった。
     ギギギっと戸が軋むような音を立てながら、そっとユナの方を振り向いてみれば、ユナは驚きに目を見開いていた。
     その事から、どうやらアレは幻像ではないのだと、諦めにも似た境地で納得したエルリスは、スーッと大きく息を吹き込んだ。
     「セーリースー!! お風呂で泳いだらダメでしょうがぁー!!」
     「るぅ!?」
     ビックリしたセリスが、乗っていたキリの背中からずれ落ちて、温泉へとダイブした。
     エルリスはジャバジャバと温泉をかき分け、セリスの首根っこを引っ掴むと、説教するために温泉からあがらせる。
     エルリスの説教が聞こえる中、ユナとキリの間には嫌な沈黙が下りていた。
     「キリ?」
     ビクリ! ユナの静かな呼び声に、キリは尻尾を力なく垂らしながらも、ユナの下へと近づいた。
     気のせいか微妙に視線を逸らしつつ、主であるユナの顔色を窺っている。
     「まあ、貴方が誰を背に乗せて泳ごうと勝手だけど、温泉で泳いじゃダメでしょう!!」
     怒鳴り声と共に、腰と捻りの入った豪快なアッパーカットが、キリの顎を捉えた。



     「ふぅ〜、やっぱり温泉はお風呂と違って、また格別に気持ちが良いわ」
     「まったくね。温泉に入るのは初めてだけど、こんなに気持ちが良いものなんて……はぁー、幸せだわ」
     「うぅぅ……」
     「………………」
     気持ち良さそうに声を出すユナとエルリスとは対照的に、セリスは涙目でキリに寄りかかり、キリは器用にセリスを支えながらも、前足でぶたれた顎を抑えていた。
     「全く、どうしようもない奴らだなー」
     「あら、貴方もそう思う……? って、貴方誰よ!?」
     突然の第三者の声に、ユナは警戒態勢をとった。
     「待ってユナ! 大丈夫、彼女はマオ。まあ、一応? セリスの使い魔よ」
     「そうだぞー、俺っチの名前はマオって言うんだー。宜しくなー」
     ひょこりとエルリスの背から飛び出てきたのは、瞳の色が金色の子猫で、毛色がセリスの髪の色と同じ水色などといった、自然界ではありえない生物だった。
     「使い魔? 魔力も碌に制御できていないのに? いえ、それよりもこの感じは何処かで―――」
     「マサカ、人工精霊トハナ。モットモ、主ガ知ッテイルアノ人工精霊トハ、マタ違う雰囲気ヲ感ジルガナ」
     考え込むユナに、キリは目の前の使い魔の正体を口にした。
     「人工精霊? ……言われていれば確かにそんな感じだけど……キリの言うとおり、アノ人工精霊とはまた違った雰囲気よね」
     人工精霊などといった希少な存在を目にして、少し困惑気味な声を出した。
     そして、以前とある事情で人工精霊と接触する機会があったのだが、その時の人工精霊とはまた違った雰囲気を感じるのだ。
     あの時の人工精霊よりも遥かに人間くさく、また、非生物から生物状の形態をとっている事も、ユナの興味を惹く一因となった。
     更に詳しい事を聞こうと、ユナはエルリスの方へと振り向いた。
     「? 二人ともどうしたの? そんなぽか〜んとて」
     ユナが振り替えてみれば、エルリスにセリスは、ぽか〜んと口を大きく開けて、目を見開いてキリを凝視していた。
     「ゆ、ゆゆゆゆゆ、ユナ?! 喋った?! 今、狼が喋ったわよね?! いったいなんで!?」
     「うわ〜姉様、凄いね。キリって喋れるんだよ。頭良いんだね!」
     混乱するエルリスとは対照的に、セリスは瞳をランランと輝かせ、熱い視線をキリへと送っている。
     「ちょっとセリス! なんで貴方って子はこう―――ああ、もう! ユナ、どういう事か説明してくれるんでしょうね?!」
     今にもキリへと飛び掛らんばかりのセリスの首根っこを抑え、エルリスはユナへと詰め寄った。
     そのエルリスの様子に、ふと考え込む様子を見せたユナは、ポンッと手を打って、
     「ああ、そう言えば、キリが喋れるって話してなかったわね」
     そんな暢気な発言に、エルリスはずるりとすべった。
     「うう、セリスだけでも手一杯なのに、ユナもどこか天然が入ってるのね」
     天然を相手にする苦労さを、嫌と言うほど身に染みて理解しているエルリスは、さめざめと泣いた。



     「―――っと言う訳で、キリと私は一緒に旅をしているのよ。それとキリが精霊の気配に敏感なのは、天狼族っていう種族が、精霊に最も近い種族の一つと言われているから、その事が関係しているんでしょうね。ちなみに、他に精霊に近い種族と言われているのが、森の精霊とも呼ばれているエルフ族と、大地の精霊と呼ばれるドワーフ族が有名ね。
    ああ、一応言っておくけど、キリにもエルリスに融合しちゃってる精霊をどうこうできないわよ」
     その言葉にエルリスはがっくりと肩を落とすが、精霊の事もある程度聞けたのでよしとすることにした。
     「天狼族ね……そんな種族がいたなんて世界は広いわね」
     「こっちも驚いてるんだけどね。まさか二度も人工精霊にお目にかかれるなんてね」
     「二度!? ユナ貴方、他にも人工精霊に会ったことがあるの!?」
     「……ええ、うん。まあ……ね」
     驚くエルリスに、ユナは言葉を濁して返した。
     こちらを依然と見つめるエルリスの視線から逃れるために、ユナはセリスの方へと視線を向ける。
     ユナにつられてセリスへと視線を向けたエルリスは、知らず笑みを浮かべていた。
     セリスは温泉にプカプカと浮いているキリに張り付いて、遊んでいる最中だった。
     マオは何が楽しいのか、キリの顔をその小さな手でペチペチと笑いながら叩いている。
     キリはそんな二人に対して、されるがままにのんびりと温泉を満喫していたが、セリスはともかく、マオの方を迷惑そうに睨んでいた。
     そんな一人と二匹? の様子を和やかな気持ちで見守っていたユナとエルリスだったが、事件はそんな時に起こった。



     いい加減我慢の限界が来たのか、目の前をちょろちょをするマオへと、キリは唸り声を上げる。
     しかしマオはそんなキリの様子を気にした素振りもみせずに、キリへと纏わりついている。
     そして再びキリの顔の直ぐ前を通過したその時―――
     キリが大きく口を開け、パクリと閉じた。
     ユナにエルリス、そしてセリスは、目にした光景に声をなくす。
     キリはそんな三人にはお構い無しに、口の中のモノをモグモグと咀嚼すると、ゴクリと飲み込んだ。
     「………………」
     「………………」
     「………………」
     シーンと静まり返る露天風呂。
     そんな中、セリスはプルプルと体を震わせ、
     「あ、あ゙あ゙、あ゙あ゙あ゙あ゙―――ま、マオが、マオが食べられちゃった〜〜〜?!」
     大声をあげたセリスは、頭が混乱しながらもマオを助けようと、キリの顎へと手を掛けると何とか開かせようと両の腕へと力を込める。
     だがしかし、いくらセリスが両腕に力を込めてもキリの顎はびくともしない。
     そしてついにセリスは力尽き、ふにゃふにゃとその場に力なく腰をおろした。
     「ね、姉様……」
     自分一人では無理だと悟ったセリスは、援軍を求めるべく姉へと振り返った。
     だがそこでセリスが見たものは―――
     「ユナ、夕日が奇麗ね」
     「ええ、とても奇麗な夕日ね」
     そう言って、どこか空ろな瞳で西の空を見つめる二人。
     「姉様! ユナ! 今は夕日なんて見えないよッ?!」
     まだ茜色にもなっていない空を目にしながら、セリスは現実逃避をしている二人に怒鳴った。
     「セリス、そんなに騒いでどうしたの?」
     「そうよ。別にそんなに騒ぐような出来事も起こってないし」
     あくまで無かったことにする二人。
     そんな二人の態度に、セリスは拳をぎゅっと強く握り締める。
     「ねぇユナ、今晩のご飯なんだろうね?」
     「さあ? でも、普段は食べられない東方の料理を食べたいわね」
     「東方の? ああ、それは興味あるわね。でも、こっちで東方の料理って食べられるの?」
     その言葉にユナは首を捻り、
     「さあ? こっちでは手に入らない食材や調味料もあるでしょうしね。……どうなんだろう?」
     「それは夕食のお楽しみって事ね」
     「……姉様、ユナ? いくらボクでもそろそろ怒るよ?」
     我慢の限界なのか、満面の笑顔でドスの効いた声をだすセリス。
     そんなセリスに流石に身の危険を感じたのか、二人は黙って見詰め合った。
     「う〜ん、もう夕飯の話は終わりかー? 俺っチとしても気になるところだからー、もっと続けて欲しいぞー」
     「マオもやっぱりそう思うわよね?」
     「うんうん、こっちの料理か東方の料理がでるかは、やっぱり一番の関心ごとよね」
     エルリスとユナは、突然の第三者の声にも特に気にした様子も無く、夕食のことに華を咲かせていた。
     一方取り残される形となったセリスは、口をパクパクとさせて、割り込んできた声の主を凝視していた。
     「な、なんでマオがそこにいるのーーーー!?」
     セリスが指差す先には、今ごろは肉片となってキリの胃袋に納まっているはずのマオの姿だった。
     しかもマオの姿には傷一つ無く、それどころか汚れも微塵すらない。
     「なんだー、俺っチがいたら悪いのかー?」
     暢気にそう返してくるマオに、セリスは深呼吸を繰り返して息を整える。
     「だ、だって! マオってば、さっき食べらちゃったはずじゃなかったの!?」
     「なんだ、そんなことかー。俺っチは不死身なのさー」
     「え? でも……確かに不死身でもないと説明がつかないけど……。姉様、ユナ、これってどういうこと?」
     「どういうことって……どういうこと?」
     セリスに振られたエルリスは、頭を捻ってユナへと振った。
     そんな姉妹にユナは苦笑を漏らしながらも、丁寧に説明する事にする。
     「簡単な話よ。人工精霊は、魔力によって形付けられて存在しているモノなの。だから、主人と人工精霊自身の魔力が空っぽにでもならない限り、死ぬ事はないのよ」
     「へ〜、そうなんだ」
     「ボク、初めて知ったよ」
     感心する二人だが、ユナは冷たい視線をエルリスに向ける。
     「私は当然その事を知っていて、エルリスは現実逃避のふりをしているんだとばかり思っていたんだけどね……」
     「え? あ、あは、あははははは」
     セリスにも冷たい目を向けられたエルリスは、乾いた笑いしかだせなかった―――
     「あれ? でも姉様はその事を知らなかったのに、どうしてマオが復活した時に驚かなかったの?」
     「ああ、そう言えばそうね。どうして?」
     不思議そうに自分を見つめる二人に、エルリスはキョトンと、
     「え? だって、『憎まれっ子世に憚る』って言うでしょう?」
     そんな事を真顔で言うエルリスに、セリスとユナは、頬が引き攣るのを感じた。



     「っで、温泉から出た後はこれよ!!」
     ユナは手にした物体を天に掲げる。
     温泉から出た三人は、バスタオルを体に巻き付けるというだけの艶やかな姿だった。
     そんな姿のまま、ユナは胸を張って手にした物をずずっと二人に見せる。
     「牛乳……?」
     「ちっがーうっ!! フルーツ牛乳よ!! 温泉から出た後は、これを飲むのが決まりなのよ!!」
     ポツリと漏らしたセリスに素早く訂正を入れつつも、熱く語るユナ。
     「いい? 温泉から出たらフルーツ牛乳。百歩譲ってコーヒー牛乳か、普通の牛乳を飲むのが東方の決まりごとなのよ!!」
     「へ〜、それも知らなかったわ。ユナ、それっていったい誰から聞いたの?」
     「お義兄ちゃんよ!」
     問うエルリスに、即答するユナ。
     「ねえねえ、飲み方にももしかして決まりってあるの?」
     その問いにユナは重々しく頷くと、
     「もちろんよ。私がお手本を見せてあげるわ」
     セリスに向って実演してみせる。
     ユナは左手を腰に当て、右手に持ったフルーツ牛乳を飲み始めた。
     「うぐ、んぐ、ごくごく………………ぷはーっ!! く〜、やっぱり温泉上がりのフルーツ牛乳は最高ね!」
     上機嫌のユナの様子を見て、見よう見まねでエルリスとセリスも腰に片手を当てて、フルーツ牛乳を飲み始める。
     「ん、ごくごく、んぐんぐ………………ぷはーっ!!」
     フルーツ牛乳を飲み終えたエルリスとセリスは黙って見詰め合うと、満面の笑顔で互いに親指を突きたてた。
     どうやら二人とも、温泉上がりの一杯が気に入ったようである。



     「ふぅ〜。美味しかったね、姉様」
     「ええ、もうお腹一杯よ」
     「東方の料理もなかなか」
     三者三様で、夕飯の感想を漏らす。
     「あ〜、そうそう。忘れるところだったわ」
     ユナは自分の荷物をごそごそと漁り、二つの品物を取り出した。
     「ユナ、それは?」
     エルリスがユナが取り出した品物をまじまじと観察する。
     一つは腕輪だが、細かな彫金が施されており、全体的には上品な仕上がりの物だった。
     もう一つはペンダントだが、こちらは中央に淡く赤く輝く宝石が嵌め込まれている。
     「簡単に言えば、魔力を封印する腕輪と、魔力を隠蔽するペンダントよ」
     「あげるわ」と言って、腕輪をセリスに、ペンダントをエルリスに放ってよこす。
     「でも……高価な物じゃないの?」
     「ああ、大丈夫大丈夫。それ二つとも、私と親友の手作りだから。そんなにお金掛かってないのよ。第一作った目的が、少し興味があったから実物をマネて作っただけだし」
     気にするなと手をひらひら振るユナに、エルリスは気になった事を尋ねた。
     「マネてってなに? オリジナルが在るって言うこと?」
     「まあ、ね。イメージは悪いけど、腕輪の方は罪人用の手錠を参考にしたものよ。ペンダントの方は、遺跡などに使われている技術の応用よ」
     「ざ、罪人……」
     腕輪を貰ったセリスは、不穏な言葉に頬を引き攣らせる。
     「そっ。魔法使いが犯人の時には、魔法を封じなければダメでしょう? その時に使用するのが、封印の魔方陣を書き込んだ手錠なんだけど、それだと見た目もアレだから。私と親友とでデザインを変えて作ったのが、その腕輪という訳よ。っで、ペンダントの方は、古代魔法文明期の遺跡では、魔力を隠蔽したトラップなどが結構あるのよ。その魔力を隠蔽する技術を解析して作ったのが、そのペンダントなんだけど……考えてみれば私も親友も、魔力を隠蔽するマジックアイテムなんて必要ないのよね。だからそれは、私が持っていても意味が無いのよ。ああ、それと二つとも私と親友が調子に乗って作った物だから、一般に出回っている同じ効力を持つマジックアイテムよりも、無駄に性能は良いから。その辺の心配は無用よ」
     そう言って欠伸を噛み殺したユナは、布団へと潜り込んだ。
     「じゃ、お休み」
     「ありがとう、ユナ」
     「ユナ、ありがとう。これで自分で魔力を制御できるまで、少しは安心できる」
     ユナは二人の感謝の声を耳にしながら、眠りへと落ちていった。



     「それじゃ、此処でお別れだね」
     「ええ、そうね。っと、後これも渡しておくわ」
     ユナは懐から一枚の折りたたまれた紙を取り出すと、エルリスへと渡す。
     「ユナ、これは?」
     エルリスが紙を開いてみれば、そこには文字と模様がびっしりと書き込まれていた。
     「それは、魔方陣よ。その紙に書かれたとおりに地面にでも書けば、エルリスたちの魔力なら問題なく、効力は発揮されるから。ちなみに効力は、外部との魔力の隠蔽と封印。それに、賊などを自動的に排除してくれるわ。制御法なども、そこに書いてあるから、よく目を通してから使ってね」
     「へ〜、そんな便利な魔法もあるんだ。姉様、でもこれで、魔法陣の中なら気にする事無く魔力の制御や隠蔽の訓練ができるね」
     セリスのその言葉にはっとしてユナを見れば、ユナは黙って頷いた。
     「ふぅ、本当にユナには世話になりっぱなしね。本当にありがとう」
     「ユナ、また今度会ったら、いろいろ教えてね?」
     「別に良いわよ。私も貴方たちと出会えて楽しかったしね」
     「それじゃあユナ、これ以上話していても別れが長引くだけだし、私たちは行くわね。貴方と出会えて良かったわ。ユナ、キリも元気でね」
     「じゃあね〜、ユナにキリ。今度会ったらまた遊ぼうね〜」
     「ええ、それじゃあまたね、二人とも。……あと、マオもね」
     忘れるなと言わんばかりに目の前に現れたマオに、苦笑する。
     「おうー! またなー」
     マオはその小さな手を元気にふり、歩き出していた二人の後を追った。
     ユナはそんな三人を見送ると、踵を返して宿へと向った。



     「あれ? アレイヤ様、何かお忘れ物ですか?」
     突然戻ってきたユナに、仲居は困惑の眼差しを向ける。
     そんな仲居にユナは首を振り、
     「ちょっと訊きたい事があるの。この人だけど、ここに来なかった?」
     ユナは懐から義兄の写真を取り出すと、仲居に見せる。
     仲居は暫く考え込んでいたが、突然その顔が引き攣ると、ユナに深々と頭を下げた。
     「ご、ごめんなさい! 確かにその人は此処に来ました! っで、道を尋ねられので答えたんですけど、全く逆の『フランペルッシュ』の方角を教えちゃったんです〜〜〜」
     その言葉にユナはガシッと仲居の手を掴む。
     「ひっ!」
     何らかの報復が来ると思い、目を硬く閉じる仲居の耳に、予想を裏切る声が聞こえた。
     「ありがとう! ナイスよ! よく反対の方角を教えてくれたわ! これは少ないけれど御礼よ!!」
     感謝の言葉と共に、手に何かを握らせられる感触に、おそるおそるそっと目を開けた仲居は、目を見開いた。
     手の中には、とてもチップとは思えない金額のお金が握らせられていた。



     「キリ、お義兄ちゃんの事だから、逆方向の『フランペルッシェ』に向っているはずよ! 急ぐわよ!!」
     ユナはキリの背に跨り、声を張り上げた。
     キリもユナの気迫に押されてか、何時も以上のスピードで大地を疾走する。
     本来なら例の屋敷の転送装置を使ってもよいのだが、義兄が途中で万が一にも方向転換をした場合を想定して、足取りを追いながら追跡する事にしたのだ。
     「お義兄ちゃん、今度こそ捕まえるからねー!」



     その頃、義兄は―――

     「あーる晴れた〜日の下がり〜荷馬車に揺られ〜っと」
     盗賊から助けた荷馬車に乗せてもらい、一路故郷へと向う義兄。
     「ユナは元気かな〜。早くユナに会いたいな……」
     懐から出したユナの写真を、義兄は優しい目で見る。
     だがこの時義兄は知らなかった。
     その義妹が、自分を探して町を出ている事を―――



     現在の義兄の位置―――
     故郷から直線距離で27km
     果たして義兄は、無事自力で帰郷できるのか!?



     次回予告―――

     次回予告はまたまた俺っチ、マオ様がやるのだー!
     今回は、俺っチの魅力が全開だったなー。
     ではー、いくぜぇー!
     次回、『捜し、求めるもの』
     ユナは義兄の足取りを辿ってー、故郷に辿り着いたー。
     義兄は無事故郷に辿り着けたのかー?
     そしてユナはー、果して義兄との再会は適うのかー?
     予定は予定であって、未定なのだぁー!
     そこんところー、宜しく―!!
記事引用 削除キー/

前の記事(元になった記事) 次の記事(この記事の返信)
←捜し、求めるもの 第五幕 中篇 /ルーン →捜し、求めるもの 第六幕 /ルーン
 
上記関連ツリー

Nomal 捜し、求めるもの / ルーン (04/11/06(Sat) 23:57) #14
Nomal 捜し、求めるもの 第二幕 前編 / ルーン (04/11/08(Mon) 18:54) #25
  └Nomal 捜し、求めるもの 第二幕 中編 / ルーン (04/11/10(Wed) 00:51) #38
    └Nomal 捜し、求めるもの 第二幕 後編 / ルーン (04/11/11(Thu) 23:58) #42
      └Nomal 捜し、求めるもの 第三幕 その@ / ルーン (04/11/15(Mon) 22:58) #48
        └Nomal 捜し、求めるもの 第三幕 そのA / ルーン (04/11/20(Sat) 11:45) #61
          └Nomal 捜し、求めるもの 第三幕 そのB / ルーン (04/12/11(Sat) 01:38) #96
            └Nomal 捜し、求めるもの 第三幕 そのC / ルーン (05/04/11(Mon) 20:25) #182
              └Nomal 捜し、求めるもの 第四幕 / ルーン (05/05/01(Sun) 22:07) #209
                └Nomal 捜し、求めるもの 第五幕 前編 / ルーン (05/06/17(Fri) 21:51) #219
                  └Nomal 捜し、求めるもの 第五幕 中篇 / ルーン (05/07/20(Wed) 18:33) #220
                    └Nomal 捜し、求めるもの 第五幕 後編 / ルーン (05/07/30(Sat) 15:21) #221 ←Now
                      └Nomal 捜し、求めるもの 第六幕 / ルーン (05/09/27(Tue) 21:30) #226

All 上記ツリーを一括表示 / 上記ツリーをトピック表示
 
上記の記事へ返信

Pass/

HOME HELP 新着記事 ツリー表示 スレッド表示 トピック表示 検索 過去ログ

- Child Tree -