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■355 / 親階層)  誓いの物語 ♯001
□投稿者/ 昭和 -(2006/09/30(Sat) 15:29:29)
    2006/10/06(Fri) 10:04:39 編集(投稿者)



    誓いの物語






    「好きじゃ」
    「…は?」

    少年――ロバート=ルクセン、15歳――は、
    目の前の少女から突然言われたことに、目を丸くして驚き、
    その意味を理解し切れなかった。

    「何が?」
    「じゃから、そなたのことを好いておると、そう申しておる」
    「……」

    聞き返してみたが、どうやら、最初に聞いた意味で正しかったようだ。
    それでも、確認せずにはいられない。

    「俺のことが……好き?」
    「そうじゃ」
    「……」

    頷く少女。
    いかにもお嬢様、いや、お姫様といった服装をしており、顔は充分な美形。
    腰まで伸びる艶やかな金髪が、いっそうの美しさを引き立てている。

    冗談を言っているような雰囲気ではないし、何より、真顔で冗談を言うような
    性格でないことは、よくわかっていた。

    ロバートは、ポリポリと頭を掻いて。

    「寝言は寝て言うものだぞ?」
    「寝ているように見えるのか?」
    「見えない」
    「ええい、まどろっこしいヤツじゃ」

    一向に受け入れてもらえないことに対し、少女は業を煮やしたようだった。
    さらにストレートな言葉を口にする。

    「妾はそなたに、愛の告白をしたのじゃ。好きなのじゃ、ロビー」
    「……」

    『ロビー』というのは、彼女が好んで使うロバートの愛称である。
    今のところ、他に特筆して親しい者などいないロバートにとっては、
    唯一の愛称で呼んでくれる相手でもあった。

    そんな彼女から受けた、突然の告白。
    …いや、突然ではない。

    「ここに来て、右も左もわからぬ妾に、1番良くしてくれたのがそなたじゃった。
     今にして思えば、一目惚れだったのやもしれぬ」
    「……」

    2人が出会ったのは3年前。場所は、ブルボン王国の王都バリスの王宮の庭園。
    はっきり言ってしまえば、現在いる場所と同じところである。

    「聞けば、そなたも妾と同じく、人質として参ったそうではないか。
     だからというわけではなかろうが、そなたは妾に良くしてくれた。
     妾のほうも、他に頼れる人物などおるわけも無く、自然と惹かれていったのじゃ」

    他に、親しい者がいない理由。
    それは、2人が共に、この国では余所者。しかも、人質という立場にあるからだ。

    2人とも小国の出身で、他国の脅威に晒されて窮した挙句、王国の庇護を受けることとなった。
    その代償として、半ば強制的に王都へと連れてこられたのだ。

    もちろん、小国とはいえ王族だから、お付きの者がいるにせよ。
    それはあくまで家臣。友人と呼べる者は、お互いにお互いしかいなかったのである。

    かくして2人は、ヒマさえあれば、というか、基本的に勉学など以外の時間はヒマなため、
    1日中一緒にいることが多かった。

    「妾は申したぞ。さあ、返事を聞かせてくれ」
    「…ふぅ」

    真剣な瞳で言う彼女に、ロバートは息をひとつ吐き。
    もう1度、真意を尋ねてみる。

    「本気だな?」
    「無論じゃ。酔狂でこんなことが出来るほど、妾は肝が据わっておらぬぞ」
    「そうか」

    返答は変わらなかった。
    心の中では、「よく言うよ」と思いつつ、ようやく自分も真剣に考え始める。

    彼女の態度と言動を見ていただければ、ロバートの心境も、おわかりいただけるだろう。

    「気持ちは……まあ、うれしい」
    「うむ」

    曲がりなりにも、女の子からの告白だ。
    まったく知らない者からというわけではなく、よく知る相手、
    悪いどころか、少なからずよく思っている相手からのものだ。

    うれしく思わないはずは無い。
    無いのだが…

    問題がひとつ。

    「あのな…」
    「なんじゃ? はっきりせん男は嫌われるぞ」
    「おまえはまだ、10歳だぞ?」

    多少唐突ではあったが、2人が積み重ねてきた年月を見れば、
    納得できる流れではある。
    だがしかし、彼女の年齢というのが問題で…

    目の前にいる少女は、なんとも可憐ではあるが、まだまだお子様なのであった。
    彼の言葉を受けて、少し首を傾げて見上げてくる様子などは、
    まさしく年相応のかわいらしさ。

    「何か不都合でもあるのか?」
    「不都合って…」

    だから、彼女の言葉に、軽くめまいを覚える。

    「愛に年の差など関係ない。そう、本で読んだぞ」
    「ああ、そうですか…」

    脱力して頷くロバート。

    それは、確かに、見てくれとは相反して、置かれた境遇からか、
    精神年齢が異常に高いのはわかるが。(言葉遣いや知識、堂々とした態度など)

    こればかりは、鵜呑みにしていいものやら。
    それに、自分に幼女趣味があるわけでも…

    「して、返答やいかに? レディが勇気を出して告白したのじゃ。
     しかと答えるのが男というものではないのか?」
    「わかったわかった…」

    肉体は10歳でも、心はすでに大人、とでも言いたげに、少女は迫る。
    何か言ってやらねば引いてくれそうにない。

    ロバートはやれやれと肩をすくめる。

    「まあ……いま言ったとおりだよ」
    「はっきりせい。妾は好きだと申したのだから、
     そなたもはっきり口にするのが筋であろう」
    「はいはい…」

    嫌いなわけじゃないし、むしろ好いているわけであるし。
    慕ってくれるのは素直にうれしいし、5年後が楽しみだと思わないでもない。

    「好きだよ、エリザ」
    「うむっ」

    少女――エリザベート=ファン=ベルシュタイン、10歳――は、
    弾けんばかりの笑みを浮かべ、頷いた。

    (問題があるとすれば、エリザの年齢と…)

    もちろん、何も波風が立たないというわけでもない。

    (俺たちが、違う国の王族だということだな)

    年齢も大きな問題だが、もっと大きな問題があった。

    おいそれと、本人同士がいいからと言って、
    勝手に結婚できるような間柄ではないのだ。
    さらには、王国が許してくれるかどうか。

    おそるおそる、ロバートがそのことを指摘すると。

    「構うまい」

    と、エリザベートは一蹴した。

    「戦でも何でも良い。
     要は、そなたが手柄を立て、王国で取り立てられればよいのじゃ。
     そうなれば、もはや人質などと蔑まれなくて済むし、
     社会的地位を確立でき、相応の親も充分納得する。
     どうじゃ、一石二鳥であろう?」
    「……」

    得意げにこう言うものだから。
    さすがに、何も言い返せなかった。

    (そう簡単に行くかっ!)

    そう声に出せたら、どれだけ良かったか。

    「…はあ」
    「期待しておるぞ、ロビー」
    「はいはい…」
    「うむっ」

    満面の笑みで飛びついてきたエリザベートを受け止める。

    まだ、幼さが前面に出てくる様子であるが。
    どこか、満更でもないと思っている自分が、そこにいた。







    <あとがきという名の言い訳>

    パースさんに触発されて書いた。
    反省はしていない。(爆)

    ってなわけで、やっちゃいました完全オリジナル。
    『黒と金と・・・』をほったらかして何やってんだか・・・
    いやね。詰まってるんでね、あっちはね・・・(汗)

    ちなみに、勢いで書いたものなので、どこまで続くのかわかりません。(え?
    ノリでなんとなく書いたものなので、深い展開を期待しないでください(爆!)
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