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■375 / 6階層)  誓いの物語 ♯007
□投稿者/ 昭和 -(2006/10/06(Fri) 09:43:08)



    2時間も駆けると、元々が小国なため、ルクセテリアの入口へと差し掛かる。
    近づくに連れ、明らかな異常が認められてきた。

    「北の空が、赤い…?」
    「これは…」

    前方に視界が開けたところで、地平線上の空が、赤く染まっているのを確認した。
    その周辺が、なにやら黒いぼうっとした影に覆われているのも見える。

    夕焼けではない。
    まだそんな時間ではないし、第一、西ではなく北の空だ。ありえない。

    続けて、風の異常。

    「…なんだか焦げ臭くないか?」
    「そう、ですな。風が吹き抜けていくたびに、少しずつ…」

    現在の風向きは、北。
    ルクセテリアがある方向…

    「……」
    「若…」

    これ以上ない物証だ。
    疑念が確信へ変わっていく。

    「っ…」

    「若! 追うぞ!」
    「はっ」

    1人で駆け出していったロバートの後を、急いで追う。
    あの伝令が報告したとおりだとすれば、単騎で行かせるのは危険すぎる。

    なにせ、国王が暗殺されたというのだから。
    街、および城内の混乱状況は、火を見るより明らかなのだ。

    賊が出ないとは限らない。
    むしろ出くわすかもしれない。

    そもそも、何者による仕業であろうか?

    時期が時期だけに、帝国の手によるものだと考えるのが、もっとも自然だろう。
    潜入した工作員によって、街中の複数箇所に放火され、生じた火事によって
    城内外が混乱しているところで、国王を暗殺したものと思われる。

    「父上ーっ!」

    叫びながら馬を走らせる。

    順調に行けば、早ければ明日の昼前には、3年ぶりに再会できるはずであった。
    それが、よもや、こんな形になろうとは。

    町に近づいて行くに連れ、はっきりとしていく輪郭。
    もう城門などが見えるほどだが、そのため、伝令の言っていたことは真実だと、
    そう考えるほかに手段が無いことも事実である。

    街にはいまだに火がくすぶっているのか、黒煙がそこら中から上がっていた。

    「父上、いま参りま――っ!!」

    城門が大きくなってきた。
    くぐるのは間近だという、そのとき。

    風切り音がすぐ脇を通り抜けていき、ロバートは驚いて馬を止めた。

    「矢…?」

    はっきりと見えたわけではない。
    だが、自分の顔のすぐ横を通り抜けていったものは、そのような形状をしていた。

    「ブルボン軍が来たぞ!」
    「それ、やっちまえ!」
    「おーっ!」

    「!!」

    同時に、城門の上に複数の人間が現れる。
    彼らはそう声を上げると、弓矢を引き絞って、自分に狙いを定めている。

    「っ…。ハイっ!」

    ロバートはすぐに馬首を返した。

    冗談ではない。
    援軍にやってきたのに、なぜ攻撃を受けねばならないのか。

    「なんだ……いったい何がどうなってるんだよっ!」

    半ば泣きわめきながら、命からがら来た道を戻る。

    「若!」
    「ご無事で!」

    程なく、追ってきたアレクシスたちと合流。
    様子がおかしいことを尋ねてきたので、たった今、見聞きしてきたことを説明した。

    「なんですとっ!?」

    無論、アレクシスは仰天する。

    「攻撃を受けたですと? 援軍に来た我々に攻撃…?」
    「なあ、アレクシス。ルクセテリアは……ルクセンは、どうしちゃったんだ……」
    「……」

    唐突なありえない事態に、アレクシスも、とんと考えあぐねたが。
    頭の片隅に残っていた情報を引き出すことに成功した。

    「そういえば…」
    「アレクシス?」
    「ロナルド国王が、ブルボン王国に与すると決定なされて以降、国内各地には、
     その決定を良しとしない連中がのさぼり始めたと、風の便りに聞いたことが…」
    「なんだそれは……俺は初耳だぞ……」
    「それがしも、噂を耳にしただけでございますれば…」

    人質に来て、国元の情報が手に入ることは少ない。
    手紙のやり取りをしていても、人質に行っている相手に対して、
    わざわざ不安にさせるようなことを書いてよこすだろうか。

    「まさか…」

    そしてたどり着く、ひとつの仮説。

    「その連中が徒党を組んで、テロを、いや、クーデターでも起こしたとでもいうのか…」
    「ありえない話ではありません。むしろ、タイミングが良すぎまする。
     きゃつらは帝国と手を結び、水面下で積極的に準備を整えていたという可能性も…」
    「〜〜〜っ…」

    なんということだ。
    この大事なときに……いや、今だからこそ、起こった出来事か。

    ヤツラも今だから、帝国と手を結び、大それた手に出たのではないか。

    「許せんっ! そんな連中は根絶やしにしてくれる!」
    「お待ちあれ若!」

    これが若さか。
    怒りに任せて暴走しそうになるロバートを、アレクシスらが必死に押し留める。

    「帝国軍が迫っていることをお忘れか! 冷静になりなされ!」
    「…そうだった」

    現実的な脅威が、刻一刻と迫っている。
    ショックなのはわかるが、対応を誤ってはいけない。

    「とりあえず軍列に戻り、ナポレ将軍とも再度、協議せねばなりますまい」
    「…わかった」

    そうして、軍列へと戻る一行。
    報告を聞いたナポレ将軍は、大いに驚き、そして苦慮した。

    「ううむ……。まさか、そんなことになっていようとは……参りましたな」
    「いかがいたしましょうや?」

    意見を交わしているのは、将軍とアレクシスだ。

    将軍の幕僚たちはさすがに分をわきまえているのか、話に割り込んだりはしないし、
    本来は意見を取りまとめるべき立場のロバートも、やはりショックが大きいのか、
    戻ってきた後は魂の抜け殻のようになっていた。

    「レジスタンス、とでも言うべきか…。アレクシス殿。その話は確かなんでしょうな?」
    「なんとも言えませぬが、噂があったことだけは確かなようでござる」
    「ううむ……由々しき事態じゃ…」

    協議は、日が落ち、野営に入っても続けられた。
    そうして、出た結論は。

    「とりあえず、王都には報告しておこう」

    根本的な解決には程遠い。

    「ルクセテリアで休養を取り補給を受ける予定であったが、まるでダメになった。
     無視して進むことも出来ようが、背後からの奇襲を受ける恐れが出てくる。
     かといって、潜伏しているであろうレジスタンスを、すべて見つけて殲滅すること
     など不可能だ」
    「は…」

    取り得る選択肢の幅が、非常に狭いのだ。

    「我らだけでは手に負えん。追加派兵の必要さえ出てくるやもしれぬ」
    「は。して、我が軍はいかがいたしましょうや?」
    「少なくとも、帝国軍に遅れを取るわけにはいかん。
     遅かれ早かれ兵には伝播する。どうしても浮き出しだってしまうだろう。
     そんなところを急襲されでもしたら、一気に敗北、全滅だ。
     先に国境まで進出して態勢を整え、陣を張るべきだと思うが」
    「同感です」

    といっても、ルクセテリアを放置しておくわけにもいかない。
    前後に敵を置くという、最大の愚策だけは避けなければ。

    「ルクセテリアには2千の兵を残していく。
     レジスタンスの規模は、多くても精々数百であろうから、多すぎるくらいであろう」

    ルクセテリアに対しては、ナポレ将軍はこう提案した。
    包囲しておけば、少なくとも、向かっては来られない。

    「外部との出入り口を徹底的に封鎖して閉じ込めておき、
     帝国軍とのけりをつけてしかるのち、突入するなり懐柔するなり、
     適切な策を採ればよかろう。
     我らはルクセテリアだけを見ているわけではない。まずは帝国への対処じゃ」

    現時点では、将軍の案が最善だと思われた。
    ルクセテリアだけではなく、ベルシュタッド公国のことも考えなくてはならないのだ。

    「いかがかな、ロバート殿?」
    「よろしいかと存じます」
    「うむ。では、これでいこう」

    ロバートは同意し、頷いて。
    翌日、ルクセテリアに2千を配置して包囲したブルボン軍は、
    残り全軍を率いて帝国との国境を目指し、進軍を再開した。

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