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■371 / 4階層)  誓いの物語 ♯005
□投稿者/ 昭和 -(2006/10/04(Wed) 16:19:28)




    王宮の2階テラスからは、壮観な眺めを見ることが出来た。
    眼下に広がる広場に、これから出撃する兵たちが、整然と並んでいるのだ。

    その数、およそ2万5千。
    大軍だ。

    「陛下。兵たちにお言葉を」
    「うむ」

    シャルダン卿に促され、ブルボン王国国王ルーイ6世は、二歩三歩と歩み出て。
    居並ぶ将兵たちに向け、言葉を述べた。

    「我がブルボンの精強なる兵士諸君。時は来た!
     こともあろうに、ビスマルク帝国は、北部の国々へ侵略を開始しようとしている。
     親愛なる彼らからの要請を受け、我が王国は、ここに討伐軍を発する」

    国王はここで1度言葉を切り、周囲を見回した。
    皆の視線が自分に集中し、聞き入っていることを確認すると、演説を再開させる。

    「帝国、何するものぞ。我が軍は、卑劣なる帝国ごとき一捻りであると確信しておる。
     蹴散らしてまいれ! 以上じゃ」

    オーッ! と一斉に歓声が上がる。
    国王は満足して手を振り返すと、内部へと引っ込んでいった。

    代わってシャルダン卿がこの場を取り仕切ることになり、
    いくつかの通例儀式をこなして、いよいよ出陣のときとなった。

    「ロバート」
    「はっ!」

    ほぼ真下にいる、精悍な若武者に声をかける。
    真新しい鎧に身を包んだロバートだ。

    有能な将軍が何人か揃っているとはいえ、今回の総大将はロバートだ。
    シャルダン卿の意外なほどの理解と、ゴリ押しがあったからに他ならない。

    「期待しておるぞ」
    「ははっ、承知つかまつりました!」

    恭しく膝を折り、頭を下げるロバート。

    「では若、参りましょうぞ」
    「ああ」

    隣にいる傳役アレクシスにそう言われ、ロバートは颯爽と立ち上がる。
    そして

    「出陣だっ!」
    「オーッ!」

    号令一番。
    彼の合図ひとつで、ブルボン軍2万5千は、王都を進発した。





    「ロビー…」

    その様子を、エリザベートは、自室から見ていた。
    部屋の位置が、広場をちょうど見ることの出来るアングルなので、
    窓際に立って、今まさに広場から出て行く様を、窓に手を当てつつ見送る。

    「無事に戻ってくるのじゃぞ…」

    本当は、間近まで行って、直接言ってあげたかった。
    だが、もちろん女子供が入っていける場所、空気ではなく、泣く泣く断念したのだ。

    とはいえ、言うべきことはすでに言ってあるし、気持ちの整理もつけている。
    なのに心がこうもざわめいて仕方が無いのは、単に、自分が幼いせいなのだろうか。
    それとも…?

    エリザベートにはわからなかった。

    「姫様」
    「…ん」

    侍女の1人が、彼女の背後から声をかける。
    国元から一緒にやってきた、もっとも信任の厚い侍女だ。

    一緒にやってきたものと、現地のものとの違いは、エリザベートに対する呼称でわかる。

    付き従ってきた侍女は、あくまでベルシュタイン公が主君であり、ベルシュタッド公国の家臣。
    だから彼女のことは主君の娘、『姫様』と呼ぶ。

    一方、現地採用の侍女は、ブルボン王国に仕える者だ。
    姫様といえばブルボンの王女ということになり、決してそのようには呼ばない。
    たいていは名前に様付けで呼んでいる。

    「そのようなお顔をなされていては、ロバート様の決意と武勇も鈍ろうというもの。
     元気を出されませ」
    「……今の妾は、そんなに酷い顔をしておるか?」
    「はい」
    「…そうか」

    振り返って尋ねるエリザベートだったが、侍女の言葉はもっともだった。
    無理やり表情を作ろうとしてみるが、上手くいかない。

    「むぅ…」
    「姫様、そう難しくお考えになられることもありますまい。
     姫様はロバート様に、ご武運があるよう、お祈りすると約束されたのでしょう?」
    「うむ」
    「ならば、他のことなどお気になさらず、ロバート様のことだけお考えになられませ。
     おそれながら、雑念が入りますと、お祈りの効果も薄れてしまうのではないかと」
    「…確かにそうじゃな」

    ひとつふたつと頷いたエリザベート。
    彼女の中でも、踏ん切りがついたようだ。

    「妾がこんなではいかんな。そなたの言う通りじゃ」
    「畏れ入ります」
    「うむ」

    再び、視線を窓の外、広場へと移す。
    すでに先頭を行ったロバートの姿は無いが、続く兵士が続々と行進して城から出て行く。

    「妾もがんばるから、ロビーはもっとがんばるのじゃぞ」

    こう言うエリザベートの顔には、笑みがあった。

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