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■120 / 20階層)  天日星の暖房器具〜外A
□投稿者/ べんぞ〜 -(2005/01/09(Sun) 05:01:05)
    〜外伝2〜

     『赤い世界』
    ユナが、常に見続けている不思議で、残酷な世界。
    これを見続けるのは、血塗られた家の長子としての罪の象徴であった。
    ユナには、普通の人と見えているものが違う。
    ユナの見る視界は、普通の人より赤みがかかっており、
    行く先々の場所で、そこで死んでいった人の姿も見える。
    調子がよいとき、つまり魔力が高いときほどこれは鮮明に映り、逆に調子が悪いときは鮮明には見えない。
    ユナは幼少の頃から、少しずつこの赤い世界を見てきた。
    初めは怖かったし、不安でもあった。
    しかし、こんなことは相談できなかったので、ユナはじっと耐えた。


     ユナが7歳頃、義兄がアレイヤ家の家族の一員に加わった。
    当時のユナは、あまり活気が無く、感情を表に出すことは少なかった。
    だけど、家族が増えることはユナにとってもうれしいことだった。
    特に両親の体調があまりすぐれず、一緒にいられる時間も短くて、寂しい思いをしていたのだからなおさらだった。
    この際、何故、血も全くつながっていない人間が、家族になったかなんてどうでもよかった。
    遊んでくれる、自分を見てくれる人がいればそれでよかった。
    でも、本当は知っていた。義兄は、私の兄じゃなくて、ただの護衛だということを。
    自分は両親が思っているほど無知じゃない。アレイヤの家の宿命については熟知していた。

     義兄がやってきてから1年後、ユナの両親は死去する。
    ユナは護衛を従えて、毎日のように祈っていたが、効果が無かったみたいだ。



     その後すぐに、ユナの提案でユナは学園都市にある魔術学園に入った。
    当時14歳の義兄は、何故自分の半分くらいしか生きていないような年頃の娘が、そんなことを言い出すのか疑問を感じていたが、アレイヤ家の特別な家柄だからかと、納得し、ユナに言われたように願書等を取り寄せた。義兄は、その手の事務には詳しく、段取りがよかった。
     魔術学園は、魔法を学べる最高の学校として有名で、入学するには厳しい試験を突破しなければならなかった。
    しかし、ユナは持ち前の高い魔力をもってすれば、試験はお遊戯そのものだった。
     
     
     ユナが学園に行っている間、義兄は厳しい鍛錬をしていた。
    すでに常人よりすぐれた実力者ではあったが、将来、義兄が相手にするはずの者は自分より遥かに強いはずなので、休む事は許されなかった。


     アレイヤ家は、両親が早死にした関係と、子宝に恵まれなかったため、ユナしか血を引くものがいない。
    家を存続させたいと考えていた両親は、一つの考えにたどり着く。
    『長男』を偽装しよう・・・と。
    もっとも、この発想は、アレイヤとハーネットの呪いを考えると意味を成さない。
    しかし、すでに伝承は廃れており、両親は死期を悟っていて急いでいたので、これはとても魅力的なアイデアだった。
    アレイヤが数千年前は王家だったこともあり、その廃れないわずかな人脈で、義兄を探し当てた。
    その一家は、他ならぬアレイヤの望みであったので、躊躇せず義兄を差し出した。
    義兄もアレイヤに尽くすことは最上の喜びと教えられ、自らが死ぬこともいとわない、騎士の精神に従い、要望を快諾した。
    義兄は、文武において、ものすごく優秀だった。12歳にして大学を卒業し、その傍らで魔術学園も卒業していた。アレイヤの身代わりとしては、なんとかカモフラージュできそうな気もしていた。
     

     義兄は、ユナはそんなことを知らないと思っていた。
    しかし、ある日、ユナが義兄にこう言ったのだ。
    「努力したって無駄ですよ。騎士殿。あなたでは身代わりはできない。だって、この『デッド・アライブ』を使えなければ、アレイヤの長子とは認められないのですから。」
     ユナの顔は、怖いくらい無表情だった。
    「・・・・・・。」
     義兄は言葉を失った。
    「戦地には、私が赴きます。隠しても無駄ですよ。親とハーネットとの協議の内容は、すでに聞いていますから。父は隠すのが下手でしかたら、すぐにその内容が書かれている書類を見つけました。」
    「さすがだな・・・。」
    「ええ。ですから、あなたはそんな事しなくていいです。それに、家の顔に泥を塗るような行為は認められません。」
     ユナは、まだ10歳である。しかし、その言葉は義兄より長いときを生きてきた者のような雰囲気を醸し出していた。
    「しかし・・・それでは、私の面目がありません。」
    「あなたの面目なんて興味ないです。今の主人は私ですよ。だったら、私の意見に従ったらどうですか?」
    「・・・。」
     なんとか主を説得しようとした義兄は、すぐに手がつまり押し黙った。自分より年下のユナが、とても敵わない存在に見えた。
    「だから・・・その・・・義兄殿は・・・」
     と、思ったら、突如ユナが顔を真っ赤にしてあたふたし始めた。
    アレイヤに仕えて、はや2年。ユナのこんな表情を見たのは初めてだった。
    常に顔色を伺って暮らしてきた、騎士には主人の言わんとしていることがすぐに分かった。
    「そうだな・・・俺は、おまえの兄貴だもんな。」
     内心は、心臓がはちきれんばかりにバクバクしていた。よりによって、いきなり主人を『おまえ』と言ったのである。しかし、それを聞いて、ユナは目を散歩を心待ちにする子犬のように輝やかせた。
    「今度からは、ユナのいる時間には鍛錬や家事をしないで、遊ぶか。」
     義兄は笑顔で提案した。
    「うん。だけどね・・・私もこれからは家事の手伝いをするって決めたの。だって、同じ兄妹なのに不公平でしょ。」
     ユナも笑顔だった。義兄が見た、ユナの初めての笑顔だった。
     この時のユナは、あまえたいと思っていた。そんな自分に、騎士が愛想がつかさないか不安だったが、義兄はそれを自ら受け止めてくれた。喜びのあまりアレイヤの長子としての現実を忘れたこの一瞬、魔力がとても弱った。だけど、見えた世界は虹のような輝かしい世界だった。
    ユナの表情が豊かになるまでそんなに時間はかからなかった。幼児化したのではないかと思う節もあるが、それは今まで押し殺してきた感情を爆発させているからだと、義兄はそれを笑顔でそれを受け止めている。


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