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■144 / 8階層)  〜第8節〜<長子の実力>
□投稿者/ べんぞ〜 -(2005/02/04(Fri) 13:52:45)
    2005/02/04(Fri) 20:43:48 編集(投稿者)

    〜第8節〜
    <長子の実力>


     闇が深くなり、満月がくっきり映る屋上で、エルリスとユナは対峙していた。
    ユナは魔法銃を構え、エルリスは宝剣を携えていた。
    8000年間続く仕来りに従い、死闘が行われようとしている・・・。

     両者は互いに一歩も動かない。
    先に動いた方がかなり不利な状況に追い込まれるからだ。
    そのまま、半刻が過ぎようとしていた。
    そんな時、いつまでも動かない2人にイライラした、今までは善良な観客のように見つめたいた月が、
    闇に包まれる屋上を照らし、あたりを一瞬だけ明かりに包んだ。
    静寂は一瞬にして消えた・・・。
    先に動いたのはユナだった。
    ユナは銃に弾を詰め、一気に火球を放った。
    エルリスは横に跳躍し、宝剣をかざし、凍てつく氷柱をユナに向けて放った。
    ユナはそれを小さな火球でなんなく相殺し、加えて追撃に魔法銃からの攻撃を加えた。
    エルリスは、これを宝剣で堪えたが、そのあまりの威力に宝剣はもたず崩れ散った。
    宝剣を失ったエルリスの周りから、急速に魔力が無くなっていく。
    勝敗は一瞬でついた。
    ユナは、自分の立っていた位置から一歩も動かず、汗も流していない。
    一方エルリスは、体中を火傷し、一歩も動けない状態に追い込まれた。
    でも、彼女にはまだ切り札があった。
    「氷の精霊よ。私に乗り移りなさい!」
     その言葉に反応するように、エルリスに氷の精霊が乗り移る。
    いや・・・乗り移らなかった。もはや朽ちるだけのエルリスなど見捨てて、精霊はどこぞへと消えていた。
    万策尽きた・・・。ユナは、静かにエルリスに余裕の表情で近づき、
    嫌味ったらしく、『フッ』と笑った。
    この少女がここまでいやなやつであっただろうか?
    すると、ユナの顔がグニャグニャに歪み、あの男の顔が出てきた。
    「ははははっっっ!!!エルリス。君では妹どころか、私にも勝てんのだよ。」
     もはや説明不要のこの男は、馬鹿笑いしていた。
    エルリスは悔しかった。この男の前だけでは絶対、地に手をつきたくなかったのに・・・



     
     エルリスは目を覚ました。
    「ここは・・・。」
     いや・・・場所よりも深刻なのは、目をあけた瞬間にさっきまで馬鹿笑いしていた男の顔が、
    目の前に飛び込んできたことだ。
    「おお〜気がついたか。」
     レイヴァンは笑って言った。
    「・・・・・・。なんで、あんたがここに居るのよ?」
     エルリスは怪訝そうに言う。
    「そう、トゲトゲするなよ。仲直りしよぜ。こうしてうなされる君に膝枕して看病してやってるわけだしね。」
     義兄は、屈託の無い笑顔で言った。本気のようだ。だが・・・
    「そのおかげで、もっと酷い夢を見たわよ!!!あんなのありえないわ。」
     やりかたには大きな問題があった。
    「私のさわやかな朝を返してよ!」
     エルリスは、数『多い』楽しみの一つを奪われたので、ご立腹である。
    「これでも夜の見張りだってしてやったんだぜ?どんな夢を見たかは知らないが、感謝されても怒られる筋合いは無いぜ。」
    「見張りはともかく・・・普通に怒るに決まってるでしょ!」
     エルリスの意見はもっともである。
    「私の神々しい寝姿をただで見れるわけ無いでしょ!!」
     言い回しはともかく。



     セリスとユナは仲良く朝食を調達していた。
    『全く・・・人の気を知らないんだから・・・。』
     仲の良い2人を見て、エルリスはうれしいような悲しいような表情をしていた。
    まぁ、二人はいいとして・・・エルリスにとって、レイヴァンと2人で見張りに徹している今の立場は悲しいものでしかなかった。
    『よもや・・・ご飯を作れないと言う欠点がこんな形で仇となろうとは。』
     自らの怠慢を深く反省していた。
     ユナとレイヴァンは、追っ手を振り払いエルフの住むという森へやってきた。
    普段はもっとも危険なところだが、義兄のシックスセンスによると一番安全な所だったらしい。
    そして、そのまま森を徘徊してたところ、衰弱したエルリスと気を失っているセリスに出会ったのだ。
    どうやらエルリスは、無意識にここへたどり着いたようだ。おそらく独断と偏見がここへ呼び寄せたのだろう。



    「「できたよぉ〜!!!」」
     ユナとセリスの合作の昼に食す朝食が出来上がった。
    ユナから大凡事情を聞いたセリスは、ユナのレイヴァンとエルリスの仲直り記念と言うことで、
    サニーサイドアップ〜セリスすぺしゃる〜を作っていた。もっとも、レイヴァンはともかくエルリスにその気は無い。
    サニーサイドアップ〜セリスすぺしゃる〜は、表面がどこもカラッとした目玉焼きである。
    両面焼きのターンオーバーでは無いのに、この芸当をやってのけているのは、まさに神技であった。
     セリスすぺしゃるが大絶賛されていることをエルリスは、まるで自分のことであるように喜んだ。



     朝食の後、ユナと義兄は2人で話していた。
    「なぁ、ユナ。本当にあいつらと行動を共にするのか?2人だけの方が動きやすいと思うぞ。」
     レイヴァンは、まじめな顔で言っている。
    「ん?だって、その方が心強いじゃない。エルリスがいた方が戦力的には助かる筈だよ。」
     ユナは屈託無い笑顔で言っている。
    そもそもレイヴァンには彼女と仲直りする気は無かった。
    仲直りはユナの提案で、レイヴァンもしぶしぶ形だけ仲直りしただけである。
    超出血大サービスとはいえ、あろうことかエルリスに膝枕をしてやるなんて、鳥肌が立つほどいやだった。
    しかし、そのくらいしないとダメだろうと義兄のシックスセンスがそう言いはったのだ。
     ユナは、エルリスの魔力の低さにはうすうす感づいている節があるが、
    相変わらずハーネット家の『長子』だと思っている。
    エルリスが戦力にならないことをユナに告げても良かったが、
    戦力と言う言葉は彼女にとって建前でしかない事は容易に理解できたし、
    ユナの望む、エルリスらと仲良く共に行動する事を実現させるには、不要な情報は伝えるべきではないとレイヴァンは判断した。
     それに自分といてもあまり見せることのない、朝食のときの明るい表情のユナを見てふと思う。
    『本当に戦いをしたくなかったのは、エルリスではなくユナだったのかもしれない・・・。』
     レイヴァンは、あの日戦いが起きなかったことは本当はすばらしいことだったのではないかと思いはじめていた。
    もし決闘をしていたら、元気で明るいユナは、幼い頃の悲しい瞳をしたユナに戻っていたかもしれない。
     



    「ところで、兄さん。」
    「ああ・・・分かっている。」
     周りは、明らかに何者かに囲まれていた。
    すぐにエルリスとセリスもここへやって来た。敵は強い・・・そう彼らには伝わった。
    おそらくエルリスやレイヴァンが8人に増えてもこれでは勝ち目が無かった。
    「セリス・・・私の後ろから離れないでね。」
     エルリスはセリスを庇うように、エレメンタルブレードを構える。エレメントクリスタルには冷気の魔力がすでにチャージされている。
    「まずいな・・・ユナ。場合によってはお前だけでも・・・」
     そこまで言って、レイヴァンは目を見開いた。
    的に、標的になるような位置へ移動し、ユナはこう言ったのだ。
    「すみません。私達はあなた達に敵対するつもりは無いです。でも・・・今すぐここを出て行くことは出来ません。
    自分達も追われている身です。迷惑かもしれませんが、もうしばらく置いてください。」
     レイヴァンは悪寒がした。口調、表情、共に幼い頃のユナのものであった。
    ユナの言葉に対し、すぐさま謎の相手から返事が返ってきた。
    「無駄だ。我々の地を踏んだ時点で貴様らは、消えてもらわなければならない。」
     そこに感情は無かった。それがあたりまえであるかのだった。 
    「分かりました。では、私も出来る限りの抵抗をさせて頂きます。もし、命を落としても運命だと思って諦めてください。
    慈悲を与えるほど・・・ゆとりがありませんから・・・」
     そう言うと、姿の見えなかった敵、数名のバンパイアとユナの戦いがはじまった。
    ユナはデッド・アライヴを使うことなく、自らの力だけで敵をなぎ倒していく。
    ユナは、宝具を使用しなくても古代魔法を放つことができていた。人間でこのような芸当ができる者はそうはいない。
    いや、ユナただ一人かもしれない。
    バンパイアはどれをとってもレイヴァンはもちろん、宝剣エレメンタルブレードを手にしたエルリスより強かった。
    だけど、それらはユナには手も足も出なかった。
    どんどん一箇所に積まれてゆく動けないバンパイア達。
    中には、もはや命は助からないだろうものも含まれていた。


     戦いは数分で終わった。ユナもけしてゆとりがあったわけでは無い。
    だが、結果は無傷での生還となった。
    エルリスは目の前の惨状を見て驚愕した。これは夢で想像していたユナよりも遥かに強い。
    彼女の全ての攻撃は、夢の中に出てきたユナのデッド・アライヴの威力を凌駕していた。
    レイヴァンも目を丸くしている。まさか、自分の義妹がここまで強いとは想像もしていなかったのだろう。
    それ以上に、過去の恐怖がよみがえっていた。
    あの夜、エルリスを影打ちするつもりでいたが、彼女の言うとおり、全く意味が無かったようだ。
     戦い終わったユナをこの中の誰もが向いいれることが出来なかった。足が震えていたのだ。
    戦う運命にある少女が、自分の空想を遥かに超える強大な存在であったこと、
    守るべき少女にとって、自分の力など赤子の手をひねるようなものだったこと、
    そして・・・目の前の惨劇。
    ユナはそんな彼らを見て少し寂しそうに見つめていた。
    『エルリスなら・・・』
    それは、同じ気持ちを共有できるであろうエルリスへの彼女の淡い叫びでもあった。
    レイヴァンにはそれが出来ない事はよく知っていた。むしろだから兄さんは信頼できるのだ。
    レイヴァンはけしてユナを特別な人として認めることはしない。
    昔、ユナとレイヴァンが二人だけの約束事をした時以来、
    ユナを自分と同じ普通の人間として見てくれていたのである。
    だから、今の今まで特別な力の存在を認めはしなかったし、ユナだって見せてこなかった。
     場の空気は、勝利の歓喜に沸くことも無く、時間が止まったように寒かった。


    「え?」
     セリスは彼女に近づいていて、ガシッと抱きついた。
    呆然としていたユナはセリスの動きを全く見ておらず、完全な不意打ちだった。
    思わず体が強張った。
    「ありがとうユナちゃん。助かったよ。」
     セリスの発した何気ない一言が、凍った氷柱のように冷たく堅かった場を春のように溶かした。
     いつの間にかレイヴァンとエルリスが
    「どうだ、俺様の最愛の妹の実力は。」
    「うるさい・・・。」
     などとやり取りを始めていた。ユナにはどこか微笑ましい情景に見えた。
     

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