Release 0シルフェニアRiverside Hole

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■85 / 11階層)  〜第11節〜<憑依>
□投稿者/ べんぞ〜 -(2004/11/29(Mon) 00:14:17)
    2005/02/06(Sun) 22:02:50 編集(投稿者)

    〜第11節〜
    <憑依>


     翌朝、ヴァンパイアの森に異変が起きる。
    ヴァンパイアの聖地、セーラエルが人間の奇襲を受けたのだ。
    セーラエルは、エルリスたちの立ち入り禁止区域に指定されている場所で、なにやら大切なものがあるらしい。
    盗賊など並大抵の集団であれば、ユナに戦力の大半を持っていかれたヴァンパイア達であっても、聖地に侵入させるような事はない。
    しかし、今回は相手が違った。
    通達によれば、エルリスたちの住むエインフェリア王国の上層部の軍隊による奇襲のだという。
     王国はフェルト家、メルフィート家、フィーネル家の3つの家が、代わる代わる国を治めていて、
    現在は、フェルト家のディシール・ネレム・フェルト女王が国を治めていることになっている。
    そして、ここへ攻め込んできたのは、メルフィート家とフィーネル家の頭首の連合である。
    エインフェリア王国のほとんど全ての戦力といってよい。


     洗濯物を干していた、エルリスとセリスはヴァンパイア達の援護の要請に従い、すぐさま現場に向かった。
    「セリス!あなたは戻りなさい!!」
    「いやあ!だって、私もお世話になってるんだもん。ヴァンパイアさんにお返しもいるよ。」
    「あんたの分は、私がやるから戻りなさい!!」
    「ダメ。私だって役に立つよ。お姉ちゃんにまかせっきりに出来ないよ。」
    「う〜〜〜。」
     セリスもエルリスの静止を振り切り、現場へ急ぐ。
    エルリストセリスがたどり着いた頃には、現場にはすでにユナとその義兄が戦っていた。
    ヴァンパイア劣勢の状況はひっくり返り、戦いはすでにヴァンパイア側の優位に進んでいた。
    しかし、ヴァンパイアはもう殆んどが2人を後方支援する程度の力しかなく、遠距離魔法で応戦していた。
    二人の戦いは見事なものだった。
    ユナは、敵の猛攻をものともせず中央から敵陣を崩していた。
    レイヴァンも、あのへらへらした態度(←エルリス曰く)からは信じられないほど、武術に長けており、
    使う魔法も、全系統をその場で最も効率よいだろう方法で使っていた。
    その威力も、剣士でありながら魔法使いの最高レベルに達している。
    しばし呆然としていたが、エルリスも宝剣『エレメンタルブレード』を構え、敵陣へとすぐさま突っ込んだ。
    宝剣から繰り出される氷の魔法は、どれも古代魔法と呼ばれる現在の魔法使いでも殆ど使いこなせない大魔法級で、
    その威力は、たとえ王国の騎士といえども振り切れるものではなかった。
    一方、セリスは水の魔法で辺りの消火作業を始めた。
    戦いこそしなかったが、水魔法は希少でもあり、たしかに非常に役に立つ支援だった。
    戦いは、一気にケリがつきそうだった。



    「皆、下がっておれ!!」
    「くくく・・・やはりこの程度では落ちませんか・・・。」
     突然の号令の元、王国兵が下がると後ろから全身を鎧で包んだ40過ぎの男と、
    見たところは、へらへらしていて軟そうな20代の男が現れた。
    それは、王国のものならば誰もが知っている人物たちであった。
     ここに登場したのは、メルフィート家とフィーネル家の頭首である。
    「ふむ・・・。よもや人間がヴァンパイアに力を貸しているとは思わなかった。」
     40過ぎの男はヒゲをさすりながら、興味深そうにエルリスたちを見た。
    その男の手には、至高の宝槍(ほうそう)『ティルナログ』が握られていた。
    ティルナログは、王国の各家が持つ最高の宝の一つで、フィーネル家に伝わるものである。
    これは、ユナの持つデッドアライブと、
    エルリスが持つエレメンタルブレードと同じタイプの宝具(ほうぐ)で、
    その家の主を選定する能力だけでなく、ずば抜けた魔力を装備者に与える魔術兵器の類である。
    「よもや、ワシが出ることとなるとはな・・・。」
    「くくく・・・ルード様がお相手になるような者はいますまい。」
    「ヘンリーよ。相手を侮るな。おまえはただ目的を果たせばよいのだ。」
    「手柄を私に下さるというのですか?」
    「ふん。この際手柄などどうでも良い。面白い戦いが出来そうだからな。
    ・・・・・・。ゆくぞ!」
     ルードは一気にエルリスへと突っ込み、その槍から雷系の魔法を繰り出した。
    「!?」
     エルリスは咄嗟によけ、すぐさま体制を整えた。
    ルードは、直ちに追撃を放ち、エルリスも宝剣から氷柱をだして防御した。
    「天界の雷『バリガン』か・・・。随分強力な魔法だな・・・」
     レイヴァンは、2人の戦いを見て、一瞬、驚いたような仕草を見せた。
    敵は、エルリスよりも強いと判断したからだ。
    大魔法は、神位、皇位、帝位、爵位、閣位、と5段階に分かれている。
    天界の雷『バリガン』は、大魔法の中でも帝位に属する魔法であり、
    エルリスがよく使う、巨大な氷柱を出現させるという、爵位大魔法である、
    冷堺(れいかい)の大魔法『エリアルキャリバー』とは、格が違う。
    『エリアルキャリバー』は、そのありあまる巨大な氷柱で敵を粉砕、または自己防衛するという
    万能で高性能な大魔法であるが、『バリガン』の雷の一閃を耐えられるような強度を誇ってはいない。
    魔法の質で負けている以上、エルリスには確実に援護が必要であった。
    しかし・・・、
    ルードの特攻につられるように、全軍が一気に攻めてきたので、レイヴァンもユナもエルリスの援護に回れなかった。
    レイヴァンは、一人で十人もの兵士と対峙しており、気を抜くと自分がやられる様な状態であったし、
    ユナに関してはセリスを守りながら戦い、魔法の照準を合わせる間が無く、援護すればだれを飛ばしてしまうかわから無い状態だった。
    「見たことの無い剣を使うようだな・・・。それもワシと同じ宝具の類か。」
    「私も驚いてるわ。王家って本当に強いのね。」
    「あたりまえじゃ。強さ無くして、国は守れぬわ!」
     ルードの猛攻は続く。必殺の帝位大魔法『バリガン』を主軸に、エルリスの防御を打ち崩す。
    エルリスは防戦一方であった。彼女は出現させた氷柱で、一瞬雷撃の動きを止め、
    氷柱が壊れる前に、その場から退くというので手がいっぱいで、反撃の暇は無かった。
     そんな時、バリガンの一撃がエルリスを素通りし、セリスに向った。
    「セリス!!!危ない!!!!!」
    「!?」
     ユナもその言葉にすぐさま反応したが、その時にはすでに間に合わなかった。
    しかし、不幸中の幸いにしてセリスはしゃがんでいたので命中しなかった。
    「セリスちゃん!」
     ユナが急いで駆け寄る。セリスは動かなかったが、どうやら気を失っているだけのようだ。
    「・・・。」
    「むう・・・。手元がずれてしまったか・・・。」
     ルードは、自らの槍を咎めるように見つめると、構えなおし、エルリスと再び対峙した。
    対峙した瞬間、ルードは今までとは違う戦慄を覚えた。
    今のエルリスは、今まで自分の戦ってきた相手とは様子が違った。
     その冷酷な瞳は、殺気で満ちていた。
    「何が起こったのだ・・・。」
     ルードは、得体の知れないエルリスに警戒心を強め、距離をとった。
    しかし・・・それは大きな、命を失う選択ミスだった。
    「なっ!?」
     ルードは一瞬にして動けなくなった。そこには大きな結界が作られていた。
    「結界だと・・・。いつのまに・・・。」
     ルードが見逃すのは仕方が無い。何故ならば、ルードが着地した後に張られたものだからだ。
    『あなたは・・・もう逃げられない・・・。』
     その声はエルリスのものではなかった。
    それを見てレイヴァンは舌打ちをした。
    「ちっ・・・。まさか精霊に取り付かれやがったのか・・・?」
    『あなたの前に、一つの水がある。
    それはあなたの心を凍らせ、身を支配され、知を飲み込まれても、あなたでは手に入れられない水。
    あなたは、夢を失い、希望を捨て、そして痛みを忘れた。だけどあなたには手に入らない水。』
     呪文のように言葉が囁かれると、ルードを縛る結界が青白く光り始める。
    『だけど・・・それでも・・・あなたには、手に入れなければならない水。
    それが、あなたの生きる理由だから・・・。』
     囁きと共に、ルードの頭上に、エリアルキャリバーのそれを超える大きさの
    先がとがった氷柱が現れる・・・。
    『だから・・・、あなたは・・・もう逃げられない・・・。』
     最後の囁きが終わると、
     氷柱はルードが肉片になるまで押しつぶした。




     あたりは静まり返った。
    最強と信じたルードのあまりに残酷な死に方は、兵士の士気を打ち砕いた。
    今は、全く動かず、エルリスは立ち尽くす。
    冷徹な氷の女王。
    それが今のエルリスに相応しい称号であったといえる。
    「助けてください!!」
     一人のヴァンパイアの声で、エルリスを除く全員がそっちを見た。
    ヘンリーの片腕に、まだ年齢にして一桁と思われる眠った幼い少女が抱えられていた。
    「くくく・・・。おっと、動かないで下さいよ。動くと、大切な真祖さまが死んでしまいますよ。」
    「クッ・・・。」
     ヴァンパイアたちは、人質をとられ悔しそうにしていた。
    ヘンリーは人質を取ってはいたが、その顔に余裕は無かった。
    「あれは?」
     レイヴァンは、近くにいたヴァンパイアに尋ねた。
    「真祖様だ。我々ヴァンパイアの生みの親だ・・・。」
    「あれが?」
     レイヴァンには信じられなかった。だが・・・ヴァンパイア達の様子を見ると、どうやら嘘ではないようだ。
    「では、みなさん。引き上げますよ。」
     目的を達成したヘンリーとその兵士達は、ルードの屍を置いて、その場を逃げるように立ち去った。


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