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■93 / 14階層)  〜第13節〜<黒幕>
□投稿者/ べんぞ〜 -(2004/12/09(Thu) 01:14:15)
    2005/02/09(Wed) 00:53:53 編集(投稿者)

    〜第13節〜
    <黒幕>


     真祖救出へ向けてヴァンパイアの森を早朝に出発したエルリスとレイヴァンは、
    翌日の昼前に王都『デルトファーネル』にたどり着いた。
    通常ならこの距離を移動するのに3日はかかるが、野宿による6時間の睡眠時間を入れても延べ30時間しかかからなかった。
    急ぎすぎても体調を壊すだけで、メリットは無いのだが、セリスのことが心配だというエルリスの主張で、
    急いで王都へ向かうこととなった。
     2人は、正体を隠すため全身をローブで包み込んでいるが、この辺りの修行僧に多く見られる格好なので
    特別に周囲から怪しまれることは無かった。
    「相手は誰なのかハッキリしている。
    まずは、王都にあるヘンリーの住む『メルフィート』家の別荘にあたる城を調べるのが確実だろう。
    王都の城は全て昼間は一般開放している。だからその間に中に忍び込み、夜になるまで城内で待とう。
    行動を移すのはそれからだ。」
     王都の喫茶店で食事をしながら、エルリスとレイヴァンは作戦を立てることにした。
    レイヴァンは、ヘンリーが真祖を連れて行ったことから、ヘンリーの居住地区を中心に調べることを提案した。
    「そうね。だけど、もしヘンリーの城に居なかったら問題よ。どうするの?」
     エルリスはレイヴァンの作戦の意図に賛同しつつも、ヘンリーの城へ行くことには反対した。
    「すでに身柄を移されているとか、別の隠れ家を用意している場合か・・・。」
     レイヴァンは、アゴに手を当てて頷いた。
     エルリスは、特にその仕草を気に留めることなく、優雅に紅茶を飲んでいた。
    「ええ・・・それも考えられるわね。」
    「それも?」
     あまりにゆっくりしているエルリスに、レイヴァンは流石に違和感を感じた。
    どこかいつものエルリスとは様子が違った。
    出発前、いや少なくとも野宿するまでは、エルリスはじたばたしていた。
    ところが、今のエルリスは何故か非常に落ち着いている。
    「だけど、ハズレ。
    だけど、今回の黒幕はエインフェリア王国女王『ディシール・ネレム・フェルト女王』よ。
    そして、フェルト家の城の中を調べるのが最も得策だわ。」
     エルリスは、最初からレイヴァンの話しを聞いていなかったようにさらっと言ってのけた。
    レイヴァンは目を丸くして驚いた。
    「まさか、女王陛下が・・・。」
    「間違いないわ。」
    「信じられん・・・あんな温厚な女王陛下が、あのような暴挙に出るなんて・・・。」
     レイヴァンは、本当に『ありえない』という表情をして頭を抱えた。
    「あら?詳しいようね。知り合いなの?」
     その様子をエルリスは不思議そうに見つめた。
    「えっ・・・いや・・・噂で聞いただけだ。」
     レイヴァンは、一瞬取り乱したが、すぐにいつもの調子に戻った。
    「ふ〜ん・・・。なら、あてには出来ないわね。黒幕は女王よ。」
    「待て、エルリス。なにを根拠に・・・。」
     エルリスは、再度断言に対し、レイヴァンは反論した。
    「私の独断と偏見よ。」
    「こんな大事な時にそれは無いだろ!」
    「しっ!静かに。何処で聞かれてるか分からないのよ。」
     エルリスは、ついつい声を荒げてしまったレイヴァンの口を抑えて抗議した。
    「・・・すまない・・・。」
     レイヴァンは素直に謝った。だが、納得したわけではない。
    「それに、私はふざけてないわ。既に確証があるから。」
    「はぁ?」
     エルリスは観念したように打ち明けた。
    「方法はいえないわ。だけど、真祖は王都の中心にそびえ立つ城、
    女王の住む、フェルト家の城の中に幽閉されているわ。」 
    「・・・信じていいのだな・・・。」
    「ええ。」
     レイヴァンは、真剣なエルリスの表情を見て、そこに嘘が無いことを感じた。 
    「だが、女王に敵対するということがどういうことなのか分かっているのか?
    そこまでして、ヴァンパイアの真祖を救う義理は無い筈だ。
    セリスを守るのであれば、むしろヴァンパイアに反逆してあちらを倒した方が確実だ。
    それにセイブ・ザ・クイーンのシルヴィス・エアハートは、かなりの強敵だ。
    彼女一人でも苦戦は免れないし、そのうえ何人の兵士がいるか分からない。」
     レイヴァンは、王国との戦いは躊躇していた。
    「反逆の心配は無用よ。母国とはすでに敵対しているわ。
    それに、私は相手が誰であろうと、悪いことをする人に容赦はしない。」
    「無鉄砲だな・・・。」
     レイヴァンは、ため息のような声で言った。


     説得を諦めたレイヴァンは、観念したように躊躇するもう一つの理由を打ち明けた。
    「知っていると思うが、王国は現在ビフロスト連邦との戦争の真っ最中なのだ。
    王国政府の努力で、民には戦争の犠牲を強いていないから、実感が無いかもしれないが、
    実際は、本当に危険な状態にある。いつ敗北してもおかしくない。
    もし、仮に俺達が女王を殺し、王国を壊滅させてしまったら、
    国のみんな連邦に殺されてしまうかもしれない・・・。」
    「ホントに、詳しいわね。どこで知ったの?」
    「俺は、もともと王都で騎士になるはずだった男だからさ。」
     レイヴァンは、さらりと打ち明けた。ユナに対する気持ちも強いが、騎士としての魂を失ったわけではない。
    エルリスは、レイヴァンの事情を理解し、説得を諦めた。
    「・・・いいわ。貴方が行かないなら私だけでも行く。あなたはじっとしていればいいわ。」
     エルリスは、一人で戦う道を選んだ。
    「待て、エルリス!」
     レイヴァンは、手を広げて進路を遮断した。
    「冗談を言うな。君だけではこの作戦は無理だ。
    ここで君に死なれると後味が悪いから、俺も行こう。」
     レイヴァンは、手を下ろし笑顔で言った。
    「全く、君は強いな・・・。俺には・・・出来ない。」
    「私が強い?冗談はよして欲しいわ。妹一人満足に守れない私が?」
    「ああ・・・強いさ。何があっても自分を通せるのだから。
    だが、これで俺はユナの気持ちを裏切ることになるかもしれない・・・。」
     レイヴァンは、空を見上げて言った。


     昼食を済ますと、エルリスとレイヴァンは剣の稽古をすることにした。
    互いの力量を確かめた方が良いという判断からだ。
    練習用の木刀を武器や購入し、場所は人の少ない広場を選んだ。
     エルリスの攻撃は、素早く無駄な動きが無かった。
    エルリス自体の力量はたいしたことが無いと思っていたレイヴァンにとって、驚かされることでいっぱいだった。
    彼女は、一級の剣士だった。
    しかし、レイヴァンにはまだゆとりがあった。彼は、知る人ぞ知る天才である。
    いかにエルリスが無駄な動きが無くても、それを見切れ、またかわすことも容易にできた。 
    「驚いたな・・・。まさかエルリスにこんなかくし芸があったとは。」
    「それはこっちの台詞よ。私の剣筋が見切られるなんて思いもしなかったわ。」
     




     昨夜、ユナやレイヴァンと別れたあと、エルリスは自身の体内に住む氷の精霊を呼び出した。
    エルリスから、精霊を呼ぶことは恐らく今回が初めてのケースであっただろう。
    「分かっているわね。あなたに偵察をしてもらうわ。イヤとは言わせないわよ。」
    「はぁ〜面倒だな。要するに、真祖の場所を特定すればいいのだろう?
    あいつの魔力は桁外れに高いからな。態々王都まで行かなくても場所はハッキリとわかるさ。」
    「だったら、さらわれる前に対処して欲しいものだわ。」
    「そこまでサービスする気は無い。」
    「で、どこよ。」
    「そうだな・・・・・・。」
     フリードは、王都の中心を指差しながら、フェルト家の王城だと言った。

     

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