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■81 / 9階層)  〜第9節〜<老いたヴァンパイア>
□投稿者/ べんぞ〜 -(2004/11/27(Sat) 15:50:30)
    2005/02/04(Fri) 21:07:21 編集(投稿者)

    〜第9節〜
    <老いたヴァンパイア>



     ヴァンパイア達は戦い後、さほど時間を空けずに休戦交渉を提案してきた。
    エルリスたちにとって、突発的な戦闘でしかなかったこの戦いは、
    何故かヴァンパイア達にはとっては領土をめぐる戦争と捉えていた。
    なぜそのような誤解が生じているのかはよく分らないが、戦いは本意ではないので、
    休戦交渉の件を受け入れると、すぐさま森の奥に構えていた神殿に導かれた。
    つくりは洞穴のようであるが、素材は大理石で固められており、暗い中にも所々淡い光が燈っていた。
    本来であれば、敵の本拠地と思われる場所にのこのこついてゆくのは、
    敵の策略や、だまし討ちのことを考えるとあまり賢い選択ではないのだが、
    ユナがのこのくっついて行ってしまったので、仕方無しに他の三人も付いてゆくことにした。
    幸い、この判断は良い方向へすすみ、
    ヴァンパイア達もユナたちに対する警戒心をやや緩和させることに役立った。
     

     神殿の奥には、ロード・オブ・ヴァンパイアと称される年老いたヴァンパイアが待っていた。
    エルリスたちが交渉の席に座ると、そのヴァンパイアは挨拶抜きで単刀直入に聞いてきた。
    「そなたらの目的は何なのじゃ?それだけの戦力を携えて、まさか観光ということもあるまい。」
     年老いたヴァンパイアは、自力では満足に歩けそうもないくらい衰弱しているというのに、
    声はハッキリとしていて、威圧感さえあった。
     エルリスがそれに答えた。
    「ええ。私たちをこの森に匿ってほしいの。よく分からないやつらに狙われて困って逃げてきたのよ。」
    「よく分からないやつらとは?」
    「だから分からないのよ。特徴としては、かなり熟練の魔法使いがたくさんいる組織のような感じで、統率は取れていたわ。
    私の見立てでは、そこらのチンピラじゃない、かなり本格的な組織よ。」
     エルリスは、淡々と答えた。
    それを聞いて年老いたヴァンパイアは何か思い出したようなしぐさをすると、
    ゆったりと聞いてきた。
    「その魔力の雰囲気から察するに、そなたらはアレイヤとハーネットの者じゃな。」
     エルリスは答えない。相手の様子を伺うことにしたからだ。しかし・・・
    「なんで分かったんですか?」
     などと、ユナが馬鹿正直に聞き返したので、目論見は外れた。
    「なるほど・・・。状況は理解した。」
    「「「「へ?」」」」
     自分たちが理解できていないのに、理解されてもどうしようもないので、エルリス一斉に聞き返してしまった。
    「2日ほど前、満月の夜を迎えておる。そして組織が動き出した。
    わしが生きてきたここ1万4千年の間で、過去に一度、同じような出来事が起きていてな。」
     年老いたヴァンパイアは、懐かしいような、悲しいような表情を浮かべていた。
    「それは一体?」
     レイヴァンが老いたヴァンパイアに尋ねた。
    「・・・・・・。その前に、一言・・・言わせてもらおう。」
     しかし、年老いたヴァンパイアはレイヴァンの質問には答えず、少し考えてから別のことを話し出した。
    「そもそもこの森は、
    大昔に人間とヴァンパイアとの間で不可侵の条約が締結された際に、
    ヴァンパイアの領土とされた場所じゃ。知っておったのか?」
     4人は首を横にふるふると振った。
    「なるほど・・・ここ1500年ほどで2度も同じような事件が起こったところを見ると、
    人間界ではその事は忘れられておるということじゃな。」
    「1500年前?」
     エルリスが首をかしげる。一体このヴァンパイアは何歳なんだろうか。
    「そうじゃ。それがそこの青年への回答の話でもある。
    1500年前に、アレイヤ家とハーネット家の長子にあたる人物が2人で逃げてきたのじゃ。
    ただ・・・そなたらと違うところは、彼らは自分達に逃げるようにやって来た。
    両家の宿命というものから逃げるためじゃった。今回の訪問もこれに関することじゃろ?」
    「そうです。」
     と、レイヴァンは答えた。
    「ご先祖様は、何から逃げてこられたのですか?」
     今まで黙ったままだったセリスが口を挟んできた。セリスはハーネットとアレイヤの宿命のことを知らない。
    何から逃げてきたのかが、全く理解できなかった。
    「それは・・・」
    「止めて下さい!!」
     年老いたヴァンパイアが口を出そうとしたとき、
    ユナは悲鳴のような声で制止した。むしろエルリスが静止したかった内容だったが、何故かユナが先に制止した。
    「「「・・・。」」」
     年老いたヴァンパイアを除き、三人は目を見開いて驚いた。
    「ああ、そうじゃな。
    そなた・・・ユナ・アレイヤは、彼らを理解できるようじゃな・・・。」
    「理解って?」
     エルリスがたまらず口を挟んだ。なにか話が一気に分からなくなった感じだ。
    「わしの見立てでは、
    エルリス・ハーネットはさほど魔力を持っておらんようじゃな。
    そなたでは、おそらく一生分るまい。」
    「そんなの分らないじゃない?」
     エルリスはムッとして突っかかった。
    もちろん魔力が少ないことを見抜かれたのも癪だが、
    試しもしないで、しかも何についてか説明されないまま、ただ『分らない』などと言われたもんだから、機嫌を悪くした。
    「ふぉふぉふぉ・・・威勢はよいが、種としての限界じゃよ。
    あきらめるがよい。
    まぁ、ユナ・アレイヤよ。これだけは言っておこう。
    老婆心と思って聞き流してもかまわぬ。
    『力とは魔力の絶対量だけではなく、むしろその使い方、使い道こそが本当のつよさ』
    じゃよ。」
    「本当の強さ・・・。」
     ユナは、何かこの言葉に魅力を感じるのか、ただ祈るように聞いていた。
    その隣で、エルリスはブスッとしている。レイヴァンも首をかしげ、セリスにいたっては居眠りをはじめていた。
    「さて・・・交渉の件じゃが・・・そなたらを客人として招くのでよいな?」
     突然話を戻されて、エルリス達は戸惑いつつも首を縦に振った。
    「ならば、交渉成立じゃ。」
    「え?しかし、私達がいると迷惑をかけるかもしれないですよ?」
     セリスが控えめに尋ねる。
    「大丈夫じゃよ。相手は『命』の組織じゃ。礼儀はわきまえておる。
    わしらが何をしても問題はない。
    それより、頼みを聞いてもらえぬか?」
    「え?頼みとは??」
     完全にペースを握られたエルリスは、『命』について聞きたかったが、今はただ聞き返すことしかできなかった。
    「実は、ヴァンパイアの主力がそなたらにやられてしまって、
    守りが手薄になってしまったのじゃ。
    ここにいる間、警備などを手伝ってもらいたい。」
     これには思い当たる節しかないので、エルリス達は了解することとなった。
    「それと、次から言う場所は近づかないでもらいたい。」
     この件についても、理由は分らなかったが、悪い気はしないので了承することにした。

     
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