Release 0シルフェニアRiverside Hole

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■50 / 6階層)  〜第7節〜<旅の始まり>
□投稿者/ べんぞ〜 -(2004/11/17(Wed) 04:45:20)
    2005/02/04(Fri) 12:55:05 編集(投稿者)

    〜第7節〜
    <旅の始まり>

    『あいつはよく知っている。私たちのことも調べつくしてある。
    私たちの親ですら気がつかなかった真実・・・そして未だに、未知の監視役ですら知らないことを。』
     エルリスは、セリスがつかまった事を知り、急いで帰路についていた。
    もしも真実がばれれば、命が無いのは自分ではなく、セリスの方である。
    『私も彼も願いは同じ・・・妹を守ること・・・。
    だから、私は今この立場に身を置き、あいつは常に影からユナを守っている。』
     レイヴァンもエルリスも、同じだった。ただ、お互いの立場は違った。
    エルリスのレイヴァンもこの8000年も続く両家の戦い慣習は、
    どのような戦い方であれ、どちらかが一方の家の長子が死ねば型がつくと思っていた。
    だから、レイヴァンは、あの満月の夜・・・屋上の影で私を影打ちしようと待ち構えていた。




    「研究に出かけたの。どういう風の吹き回しかしら。」
    「そうなんだよ〜。いままで私をおいてどこかへ行っちゃうなんて無かったのにぃ〜。」
     宿命の決闘日から数えること3日前。ユナがエルリスにレイヴァンが出かけたことを告げてきた。
    あの重度のシスコンであるレイヴァンが、ユナを置いて出かけるなんてめずらしいと正直に思った。
    でも、どちらかというと決闘日を3日後に控えているというのに、平然と話しかけてくるユナの神経におどろいた。
    「さびし〜よぉ〜〜〜〜。ひどいよぉ〜〜〜。(え〜〜ん)」
     この超重度のブラコンのユナは、こうなると誰にも手がつけられない。
    同情なんかしたら、このあと永遠とユナに付き合わされることは明白だった。
    それならば、いっその事、より大きなショックを与えて突き放した方がいい。
    「ユナ。あまりレイヴァンさんを困らせてはダメだよ。」
     あいつに向かって、さん付けなのは鳥肌が立つくらいいやだったけれど、もう一息の辛抱。
    「あの人は、きっと恋人ができたから、ユナから離れたかったのよ。
    そうやって一々付きまとっているユナがいたら、きっと大切な恋路を邪魔されると思ったのね。」
     ユナの顔が面白いくらいハッキリと固まった。かなりショックだったようだ。
    「あ・・・う・・・・・・。」
     


     今回の会話はそれで終わった。そして、決闘日翌日までエルリスとユナは一言も互いに会話していない。
    ユナとの会話はエルリスにとってどうでもいいものが多い。しかし、正直、あのレイヴァンの行動は謎だ。
    どこか不吉なものを、エルリスの第六感は感じ取っていた。
    「調べる必要はあるわね。」



     エルリスは、その日早退して、ユナの言う隣町までエアシューターを飛ばして行ってみた。



    レイヴァンが研究していることといえば、古代の戦争についてだったと思う。
    8000年前に起こっていたという、血で血を洗う悪夢のような戦争と聞いている。
    あの、お調子者がなんであんな暗い話しを研究しているのか、正直そのギャップに驚いてはいるのだけれど、
    以前、研究室を覗いた時の彼の表情は、別人のように真剣だった。



    「ふう・・・。ここね。」
     エルリスはユナから聞かされたレイヴァンのいる町に着いた。
    詳細な場所を教えてくれなかったらしく、町のどこにいるかは分からないが、それほど広くないのですぐに見つけられると思う。
    「すみません。この男を知りませんか?」
     エルリスは、この町で一番大きな資料館に訪ねてみた。現場検証しようにも古代大戦時の名残など探し出せるわけではない。
    レイヴァンがいる可能性があるとすれば資料館くらいだろう。
    この町で古代大戦に関する記述がある可能性があるのはここくらいだと思う。
    「いいえ。見ていないです。よろしければアナウンスを流しましょうか?」
     静かにしておくことが大切な資料館にも関わらず、呼び出しのアナウンスするサービスがあるのはどうかとおもうが、
    あえてここは流すことにした。
    「いえ。では、質問を変えます。ここに8000年前の古代大戦の資料はありますか?」
    「ないですよ。私も以前に探したことがあるのですが、この町にはどこを探してもその資料は無いんですよ。
    あるとすれば、隣町くらいですね。」
     チェックメイトだ。間違いなくレイヴァンはここへは来ていない。



     それから、エルリスがレイヴァンの行く先を探し出すのにそれほど時間がかからなかった。



    『アルス・ユークリッド』おそらくこの名を知っているのは、レイヴァンを除けばユナとエルリスだけだろう。
    レイヴァンが、アレイヤ家の養子として現われる前に名づけられていた本当の名前。
    ユークリッド家の勇者として、昔から受け継がれた名前である。
    レイヴァンはお調子者でへらへらしているが、その実力は勇者の名にふさわしいものである。
    全ての系統の現代魔法を全て習得し、剣術も超一流。その他、槍や弓にも精通している。
    エルリスには古代魔法といわれる、現代魔法より強力な失われた魔法を操る術があるが、
    もし仮に古代魔法が使えなかったとしたら、レイヴァンとエルリスではかなりの実力差が出ることであろう。



     エルリスは、自分の町の隠れ家的宿舎で、『アルス・ユークリッド』の名前をみつけた。
    この宿舎を拠点にしてなにやら動いているのは明白だ。
    エルリスは、宿命の相手であるアレイヤ家の情報をほぼ全て握っている。
    戦いをスムーズに終わらせるためには、情報が必要不可欠だったからだ。
    調査方法は、もっぱらユナを酔わせて聞き出すとか、家にお邪魔した時に家捜しするといった方法ではあったが、
    エルリスの明晰な頭脳にかかれば、それだけでも十分な情報を得ることができた。
    むしろ露骨に探せばレイヴァンやユナが警戒しただろう。
    情報から推測するに、レイヴァンが『アルス・ユークリッド』の名を冠するということは、
    ユナの守護者という本来の役目を果たす心構えでいるということだ。




     私があの場に行けば、間違いなく破れ、死ぬことになっただろう。
    それでも、自分は屋上へ行くべきだったと思う。
    『もともと私がユナに勝てる見込みなんて無かったし、私が死んでもセリスは守れる。』
    『だから・・・彼は、私に潔く『死ね』と無言で言っている。』 



     その日、エルリスはセリスに最後の別れを告げ、戦地に赴く予定であった。
    セリスと別れるのは、本当についらいことだった。
    だから別れの挨拶をしようとしたとき、精神的に衰弱し、自分の体の抵抗力は著しく下がった。
    それが、悲劇を招いた。
    自分の体に巣食う氷の精霊『フリード』は、この期を逃さず一気に体を侵食し始めたのだ。
    それにすぐに気がついたエルリスは、咄嗟に体の体温を上げることで、精霊の動きを鈍化させた。



    「う〜〜〜〜〜〜〜(ゴホゴホ)」
    「お姉ちゃん大丈夫?」
     エルリスは、風邪を引いて寝込んでいた。
    「うん・・・明日には直ると思うよ・・・私の独断と偏見がそう言ってるわ。」
     エルリスは、すでに精霊の侵食を食い止めることに成功していた。脅威は去ったといってよい。
    しかし、精霊の侵食は防げたが、ウイルスの進入を許してしまい、結局風邪を引いてしまったのだ。
    「独断と偏見・・・。」
     セリスが、笑顔で汗をたらしている。そんな表情がエルリスにはおかしく思えた。
    「そうよ。そして、明日にはきっと元気に登校してやる!(えっへん)」
     エルリスはVサインをして見せた。
    「もう・・・無理しないでよ・・・。」
    「分かってるわよ。」
     部屋は、セリスの愛情でいっぱいの暖かい空気で包まれていた。
    エルリスは、この空気にあまえていたかった。



    「姉さん!!」
     セリスは姉が来たことをうれしくも悲しい複雑な表情で迎えた。
    セリスは結界に閉じ込められているだけで、特に外傷は無いようだ。
    それは、エルリスにとってはうれしい材料だった。
     一方、セリスの方は気が気でなかった。
    相手は、かなりの戦闘のエキスパートが5人。
    いくら最強と信じている姉であっても、勝てるような人数ではない。
    「セリス。待っててもう少しで開放されると思うから。」
     セリスに少し微笑みを返すと、すぐにこわばった顔に変わり、
    にらみつけるようにエキスパートたちを睨んだ。
    「一応聞くわ。貴方たちの用件は何?」
     エルリスは落ち着いていた。それが、セリスには不可解だった。
    「おまえの死だ。」
     相手は冷たく言い放った。『命を貰い受ける』とかそういう次元の話ではないようだ。
    「私が死ねば、セリスは無傷で開放してくれるのかしら?」
     エルリスは相手の言葉を予測していたように、冷静に受け答えをしている。
    「もちろんだ。そういう命令なのでな。」
     相手は信用できそうだった。この組織を運営している人物も、きっと一途なのだろう。
    『・・・・・・・・・。』
    『・・・・・・・・・。』
    『・・・・・・・・・。』
    「いいわ。一思いにやりなさい。」




    『あの日は、セリスと別れられなくて躊躇してしまった。
    もう逢えないという悲しみで、私は精神的に追い詰められ、
    あろう事か、自らが契約した氷の精霊に隙を衝かれた。
     でも・・・私の願いは、癪だけどレイヴァンと同じ・・・。
    そのためには、命なんて惜しくない筈。
    だから、あの日、自分は潔く殺されるべきだった。
    風邪なんてこれから死ぬものには関係ないし、
    レイヴァンの不意打ちだって、正当な『長子』であるユナには必要ない。
    セリスを巻き込んでしまったのは、おそらく掟を破った自分への罰。
    だけど、願わくは・・・
     

    きっと幸せになってね、私の大切な妹・・・いや・・・


    ・・・・・・・・・姉さん。』



    「いやぁああああ!!!」
     スペシャリストの反応は一瞬だった。
    本来であれば間違いなくエルリスの首は飛ばされていただろう。
    だけど、セリスの動きはスペシャリストを凌駕していた。
    悲鳴と共にセリスからあふれ出した膨大な魔力は、
    結界を貫き、部屋中を濃い魔力の渦で満たし、全ての魔法を打ち消した。
    スペシャリストの放った光球は、生まれた次の一瞬で消されたのだ。
    しかし、濃い魔力の渦は、人畜無害なものなどではない。
    これを浴びた人間は、水の中で溺れ続けるような錯覚に陥る。
    スペシャリスト5人も、セリスですらも例外なく地に伏せもがき苦しんでいる。
    その中、一瞬の好機と見たエルリスは、セリスを抱え、ベランダから飛び降りた。
    本当は、この中で一番苦しかったはずなのに。


     

     その後、エルリスはエルフの住むという森の中に逃げ込む。
    セリスを肩に背負ったまま・・・ついには、気を失ってしまった。
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