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■147 / 12階層)  〜第12節〜<氷の精霊と憑依>
□投稿者/ べんぞ〜 -(2005/02/06(Sun) 22:33:08)
    〜第12節〜
    <氷の精霊と憑依>



     その日の夕方、ロード・オブ・ヴァンパイアの神殿で、真祖の救出計画が練られた。
    出席者は、あの老いたヴァンパイアと数名の頭のよさそうなヴァンパイア、
    ユナ、レイヴァンだった。セリスは気分を悪くして今は眠っている。
    エルリスは、幸いギリギリの所で自我を回復させたのだったが、会議に出るほどの余力が無かった。



     戦争の多いこの世界では、死闘が行われるのは珍しくないないのであろう。
    エインフェリア王国とビフロスト連邦は数年前から戦争状態に陥っている。
    ただ・・・、エルリス達は戦いの無い世界で生きてきた。王国に住んでいる限りは戦わずに住む人が多い。
    それは、女王が極力王国民に被害が及ばないように気を使っているからだ。
    しかし、そうであっても人の死を知らないわけじゃない。
    ユナの両親は、ユナがまだ魔術学園に入学する前の、エルリスの近所に住んでいた時期に病気で死んでいる。
    病気が進行してくると、ユナの両親は魔術病院に入院し、最後まで生きようと努力していた。
    ユナは、毎日のようにレイヴァンに付き従って見舞いに来ていた。
    告別式のとき、死んだ両親は、きちんと正装され、
    丁寧に棺おけに入れられていたのをエルリスは覚えている。
    しかし、今回のルードの件は、エルリスにとってもショックな出来事であった。

    『結界魔法』

     老いたヴァンパイアによると、魔法が確立される前のおよそ9000年程前は、
    結界魔法が主流であって、特に一対多数の戦いにおいては主力だったらしい。
    今でこそ結界は、自分を守ったり、弱い相手を捕らえたり、保存することに使われるが、
    本来の結界魔法とは、結界を張った後、呪文を唱えることで魔法が放たれるというものだった。
    その詠唱の複雑さから、現代では滅んでしまった魔法体系だという。
    あの老ヴァンパイアでさえ、既に使えなくなっているほどだ。
    ただ、エルリスには、あの時の呪文は複雑ではなく・・・まるで自分の生き様を描いているように、
    さらに・・・自分に対する『ごめんなさい』という意思が込められているように感じられた。


    「お前が、気に病むことは無い。」
     考え事をしているエルリスの背後から、声が聞こえた。エルリスはこの声の主をよく知っている。
    「あら?あなたが表に出てくるなんて珍しいじゃない。」
     フンと、はなを鳴らすような態度でエルリスは背後の声に答えた。
    そこには、エルリスに取り付いている精霊フリードが立っていた。
    「まあな。あまり落ち込まれても、こちらとしてはいい気分はしないんでな。」
    「へぇ〜?心配してくれるなんてもっと珍しいわね。明日は大雪かしら?もしかして雷雨?」
     エルリスは皮肉をこめて言う。それを無視してフリードは続ける。
    「あの結界魔法の名は『氷縛結界』という。」
    「ふ〜ん。そう。それで?」
     エルリスは、あの結界の事に興味はあったが、あえて興味なさそうに返した。
    誰とも話したくない気分だったからだ。
    精霊に憑依されている事実がこんなにも不快にもったことは無い。
    セリスがルードの雷に打たれたと思った時、エルリスは本心状態になり隙だらけになっていた。
    あの時、フリードが出てこなければ、殺されていたのは自分だろうし、
    精霊に憑依され体を完全に奪われてしまっても文句は言えなかっただろう。
    「・・・。」
     精霊はエルリスの態度に圧されてしまうように言葉を詰まらせた。
    「それにしても、余計なことをしてくれたわね。あんなの私だけで勝てたわよ。
    それも、あんな後味の悪い戦いじゃなくて、もっとスマートな戦い方でね。」
     エルリスは、また皮肉をこめて言う。今度は精霊も反応した。
    「なるほど・・・。君が落ち込んでいる原因というのはルードの死か。」
    「!?」
    「理解できないな。殺そうとしてきたものを殺すことになんのためらいがあるだ?」
     精霊は、あたまを左右に振ってやれやれという仕草をしている。
    「別にあの人の死を私は悲しまない。だけど・・・やり方には限度ってものがあるわ。」
    「限度ね・・・。さてさて、どのような殺し方が限度内だったというのだ?
    結果的には、どれれも同じだったと思うが。」
    「・・・。」
    「俺も理解は出来ないが予想ならつく。ハッキリと相手の死を見せるなということだろう。
    葬式にしてもそうだ。人間は、死んだ人間を見ようとしない。直に棺おけに入れたがる。
    しかも、他人の死の間際を本当に見た人間なんて、そう多くは居ないだろう。
    道端に死体が置いてあったぐらいで取り乱すような輩だからな。
    普通は自分の見えないところでひっそりと死ぬものだと・・・。
    要するに、お前らにとって死というものはタブーであったのだろう?」
    「何が言いたいのかしら?」
     エルリスは精霊の言葉を無視した。
    それを精霊は肯定との意思と判断した。
    「なるほど・・・。まぁそういうことなら考えてやらんことも無い。以後は『スマート』に行うとしよう。
    だが、勘違いされては困るな。関与していないといわれれば嘘だが、あれは俺の技じゃない。」
    「何ですって?」
    「つまり、あれは別の者がお前の体を利用して発動したものだということだ。」
     エルリスは鳥肌が立った。
    この精霊以外にも自分の自由を奪う手段をもっているものがいるという事実は信じがたいが、
    どうも嘘を言っているようにも感じられなかった。
    「だれよ、それは?」
     エルリスは精霊の胸倉を掴んで問いただした。
    「やれやれ・・・、そこまで答える理由は無いな。」
     精霊は答える気が無いようだ。エルリスはさらに突っかかる。
    「どうしてよ。将来はあんたが乗っ取る筈の体でしょ?
    将来の自分の体をいいように使われて、ムカつかないの?」
     エルリスは口調を強くして叫んだ。それを静かな目で精霊は見て、
    「あまりいい気はしない。だが、俺にとってはあのまま死なれた方が困る。」
    「今回は、どちらにせよ殺すか殺されるかの戦いだったのだ。過ぎたことは忘れることだな。」
     エルリスはまだまだ言いたいことがあったが、精霊はそう言い残すと闇の中へと消えた。
      


     しばらくして、神妙な場を荒らすようにユナが泣きながら走ってきた。
    本当に間が悪いというか空気の読めない少女である。そこが魅力でもあるのだけれど。
    「エルリスぅ〜〜〜〜(涙)」
    「はぁ・・・。」
     どうせろくな事じゃないだろうと思い、エルリスはため息をついた。
    『また、何かにつき合わされるのか・・・。』
    「兄さんが、私じゃなくてエルリスと王都へ真祖を奪還しにいくとか言うんだよ!!」
    「はぁ?」
     いきなりそんなことを言われてもエルリスには意味が分からなかった。
    「つまりだ。戦力を割けないヴァンパイアの代わりに俺達が真祖様を奪還しに行く。」
    「それでだよ。私が私と兄さんで行く!って言ったのに・・・
    兄さんがエルリスと行くって勝手に約束しちゃったんだよ!!」
    「はぁ・・・」
     エルリスは考えた。そして・・・
    「ええ。その方がいいでしょ?」
     などと言った。
    「え〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!」
     ユナの絶叫が響く。
    「だって、だって、強い人が行った方が確実だよ。」
     ユナは抵抗をする。
    「ええ、だから私とそこのやつで行くんじゃない。」
    「私のほうが・・・。」
    「じゃあ、私とユナで行くの?それじゃ疲弊しきったヴァンパイアの守りが乏しいわね。」
    「だから・・・エルリスが残って・・・。」
    「それはダメだな。エルリスとセリスでは疲弊しきったヴァンパイアの守りが乏しいな。」
    「う〜〜〜〜〜〜。」
    「「それに、私/俺の、独断と偏見/シックスセンスが、これが最善だと言い切っているわ/ぞ。」」
     連携の追い討ちについにユナはイヤイヤモードに突入した。
    「いやいや〜。やっぱ、兄さんはエルリスのことが好きなんだ。私なんかどうでもいいんだ(え〜ん)」
    「ちょっと待ってよ。そんな迷惑な解釈しないでよ。」
    「だってだって・・・兄さんエルリスに膝枕してたし!
    私だってしてもらったこと無いのに〜〜〜!!(プンぷん)」
     そう言えば、そんな迷惑な話もあった。
     ユナはイヤイヤモード第弐形態、だだっこモードに突入した。
    戦況を冷静に見極めたレイヴァンは、ここで最終決戦兵器を投入した。
    「ユナ・・・。外へユナを出してしまえば、命とか言うものが仕切る組織に狙われることになる。
    だが、俺ならまだ狙われる可能性は低い。だから、俺達が行くのだ。
    俺は、ユナの命のことを第一に想っている。」
     などと、ドラマ顔負けの笑顔で言ってきた。
    「ハイ・・・兄さん・・・・・・(じ〜〜ん)」
     よくよく考えれば、エルリスが外へ出ることも危険なのだが、
    ユナはレイヴァンの言葉に思考力がぶっとんで空想の世界へ突入したので、気がつけなかった。



     ユナが夢見状態で引き上げた後、エルリスはレイヴァンに尋ねた。
    「恩でも売りたいの?」
    「そのつもりは無い。」
     レイヴァンは何でもない口調で答えた。
    「ユナ、私とセリスのこと知らないみたいじゃない。」
    「ああ。教えてないからな。」
     レイヴァンは何でもない口調で答えた。
    「なぜ?」
    「ユナには知らせない方がいいと思うからだ。その方が、きっとあいつには幸せだ。」
    「妹思いなのね。」
     エルリスが、呆れていった。
    「そういうおまえも、その方が良かったのだろう?」
    「ええ・・・。これでセリスは安全だわ。外へ出すのは論外として、中にいても危険だわ。
    あのヴァンパイアだってどこまで信用していいか分からないし・・・。でも、ユナがいれば守れるわ。」
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