Release 0シルフェニアRiverside Hole

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■286 / 4階層)  ツクラレシセカイ(シーン2-4)
□投稿者/ パース -(2006/06/12(Mon) 23:41:14)
    2006/06/16(Fri) 07:01:32 編集(投稿者)

    ――コルクス砦裏門――


    裏門のすぐ側にエルリス他Bチーム47人はいた。

    突入開始までほんの数分、といった時にクライスが言った

    「砦に突入する前に、絶対にしておかなければならない事がある」
    「なに?」

    「砦の内部では戦闘が続くだろう、そういうときはしっかりと陣形を組んでいた方が良い、四人の時はそれほど気にする必要はないと思っていたが、六人になるとさすがに、考えないわけにはいかなくなった、それで訊くんだが、アレス、リリア、お前達は何が出来る?」

    「俺は、それなりに剣を使えるぜ、とは言っても・・・・アンタと、アンタにはたぶん勝てないだろうが、な」

    そういってアレスが指さしたのは、クライスとミコトだった。

    「なぜ、俺とミコトには勝てないと思うんだ?」
    「それは、リリアに聞いてくれ、俺からは何とも言えねー」
    「じゃあ、リリア、あんたは何が出来るんだ?」

    「・・・・・・・・・」

    しかしリリアは口を閉ざしたままだった。

    「すまねぇ、こいつけっこう無口だからよ、やっぱり代わりに俺が言うわ、こいつはな―――」

    アレスがリリアのことを話そうとした直前。

    「アレス!勝手に人の説明を開始するんじゃないよ!!」

    リリアの雰囲気が一変して、いきなりアレスを蹴飛ばした、そして目の色が変わっていた、いや、これは形容詞的な意味ではなくて、本当に『碧色』の目が『黒色』になっていた。

    唖然としているエルリス達に向かってリリアは、

    「すまないね、この馬鹿が手間をかけちまって、アタイはリリア・ティルミット、これは知ってるっけ?アタイが持ってるのは碧色の目、『覧眼』って言うんだ、剣の腕前はアタイの方が上だよ」

    呆然としているエルリス達を無視して、リリアは次々と聞いてもいないことを喋っている。

    「表の人格はね、『覧眼』使えるんだけどそれ以外はからっきしだからね、アタイがこういう服とか着て前に出てやんないと何も出来ないって言う根暗でさー!良い体してるんだからもったいないったらありゃしない―――」
    「この服って言えばさー、この前酒場にいたあのエロオヤジ、そんな服着て誘ってるんだろ?とか言いやがって、ふざけんなっての、もちろんその日の内にボコボコにして転がしてやったけどね、その時の顔ったらさ―――」

    「いや、イヤイヤイヤ、ちょっと待て、ちょっと待て!」

    ここでようやくクライスが止めに入る。

    「なんだい?別に殺したわけじゃないんだからいいじゃないか!」
    「そういうことを聞いてるんじゃない!アレス!説明してくれ!!」

    さっきリリアに蹴飛ばされたアレスを見ると、やっぱりか・・・・・といった感じの顔をして寝転がっていた。

    「時間がないから、手短に言っちゃっていいか?」
    「頼む」

    「リリアはな、二重人格の特殊能力者で、表の人格の時は『覧眼』の使い手でそれ以外は何も出来ない極度の人見知り、裏の人格の時はそれなりの剣の使い手でもあるが、それ以外はただのお喋りだ」

    「『覧眼』ってのは何だ?」
    「『相手がどの程度強いかわかる眼』ってところだ」
    「それでさっきは俺とミコトには勝てないだろうって言ったのか」
    「そー言うこと」

    クライスがわかったようなわからないような曖昧な顔をしているといきなり

    「私が・・・・・先ほど見た感じでは・・・・・・」

    「うわっ!」

    さっきまでのハイテンションからいきなり氷点下の声に変わったリリアが声を出した、眼が『碧色』だ、いつの間にかまた性格が『入れ替わって』いたらしい。

    「この中で・・・・今の状態で・・・・・・一番強いのがクライスさん・・・・・あなたでした・・・・・それから・・・・ミコトさん・・・・・・その次にアレス・・・・・・そして私・・・・・・次に・・・・・そこの髭の人・・・・・・・最後が・・・・・・あなたでした・・・・」

    そういってリリアはエルリスを指さした。

    「わ・・・・私!?」

    (見も知らない相手からいきなり一番弱いって言われるなんて・・・・・)

    内心かなりのショックを受けていたエルリスだったが、それを無視してリリアは続ける。

    「この中・・・・・ここにいる47人の中で・・・・・今の状態でもクライスさんが・・・・一番強い・・・・・・・・・でも・・・・・・・・・クライスさん・・・・・あなたが・・・・・・本気を出したら・・・・・・・・・・・・」

    リリアがその先を言おうとしたとき

    「おい!!作戦開始の時間だぞ!あんたら早くしてくれ!!」

    グレアムが大声で文句を言ってきた。

    「あ、ああ!すまない!話はおしまいだ、出発するぞ、隊列は走りながら言う!」

    クライスがそう言ったので、話はお終いだった。

    ――結局、リリアがその先なんと言おうとしたのかは、わからなかった。


    ◆  ◇  ◆


    全員が息を潜めながら、裏門の前に走り出す。

    ――ドン、ズドォン・・・・

    ――ズバーン・・・・・

    遠方からBチームが陽動として放っているであろう魔法による破壊音が響いてくる、裏門の前には既に誰もいない、おそらく先ほどから続いている魔法攻撃のためにどこかへ駆り出されているのだろう。


    集団の先頭にいるグレアムが全員に向かって、突入の開始を告げる。

    「よし、いくぞ!!」

    グレアムの号令に彼の部下である30人の騎士達が一斉に砦への突入を開始する。

    エルリス達もそれに遅れないよう走り出す。

    まず、グレアムの部下の騎士達が数人裏門から突入する、それに続いてグレアムと残りの騎士達が十数人、さらにその後に続いて、エルリス達が扉をくぐり抜ける。

    ちなみに、隊列は戦闘が開始される直前に決めた順番で、クライスを先頭にして、グランツ、真ん中にリリアを挟んで右側にエルリス、左側にアレス、そして最後にミコトの順番である。


    裏門をくぐり抜けると、既にグレアム以下多数の騎士達が、慌てふためく十人前後の盗賊と戦っていた、彼らはおそらくBチームの魔法攻撃に恐れをなして逃げようとしていた者達だろう、まともな装備さえしていなかった。

    そしてここは圧倒的な人数差、瞬く間に十人ほどいた盗賊達は地に伏していた。

    ここでグレアムが振り返り、他の仲間達に呼びかける。

    「よし、被害はないな・・・・・・ここから先は乱戦も予想される、何人かに別れてしまった場合は各自の判断で動け!無理はするなよ!」

    それだけ言うと、彼は砦の内部へ一気に突撃していった、そしてそれを追って数人の騎士達が駆けだしていく。


    それを見ながら、ミコトがぼやく。

    「各自の判断で動けって、ずいぶんいい加減な命令ね・・・・」

    「グレアム騎士団は、なんというか猪突猛進する奴が多い・・・・・というよりリーダーが他の誰よりも先頭を突っ切っていくタイプだからな、それゆえに人望はあるが、あまり統率力に期待は出来ない」

    「そんなこと言ってる間に、みんなに置いてかれちゃったけど、いいの?」

    周りを見ると、いつの間にか「グレイブラバーズ」の10人もいなくなっていた(紫ローブはエルリス達の後方にたたずんでいたが)。

    「ああ、問題はない、今回は盗賊の頭目を倒せばボーナスが出るそうだからな、みんなあせってるんだろう、だがあせっても周りが見えなくなるだけだ、それよりも―――。」

    いきなりクライスが腰のショートソードを抜きざまに投げ放つ。

    「うぎゃあ!」

    見ると、先ほど騎士達に叩きのめされた盗賊達の中で割と無傷な奴が一人、そこから這い出して逃げようとしていた、そしてそのちょうどその鼻先にショートソードが突き刺さったのだ。

    「こういう方法を取った方が楽だろうな」

    そう言ってクライスは腰から先ほどのショートソードとは別の、大剣と言っても良いほど巨大なロングソードを抜き放つ。

    「こういう盗賊砦には、かなりの数の抜け穴や抜け道、隠し通路があるもんだろう」

    その長剣を盗賊の鼻先に突き付けてにっこり営業スマイルで一言、



    「さっさと道を教えろ」



    なんというか、クライスの顔は、笑顔とは思えないほど、めちゃくちゃ怖かった。


    ◆  ◇  ◆


    砦の内部を走り抜ける一団があった、Aランクチーム「グレイブラバーズ」の面々である。

    彼らは『墓泥棒(Grave robbers)』の名の通り、決して正面から攻めることはせず、他の者達を殺し合わせ、その死体からなにもかもを奪う、そういうやり方で勝ち残ってきた連中だった。

    彼らは、他の者が苦労して手に入れた者を横から奪い取り、楽をして利益を得る、そうやって生き延びてきた、いつもどおりに戦いは他の者に任せ、自分たちは美味しいところを奪うべく、砦にある宝物庫を探索していた、それが、今回ばかりは全ての間違いだったと気付きもせずに。



    「グレイブラバーズ」のマスター、ウィリアム・リビトーはこれまでの勘と経験から、いくつかの小通路を通り、地下へとたどり着いていた。

    彼は確信していた。

    (―――間違いなく、宝物庫はここにあるな)

    何となくだが、そんな宝の「臭い」がするのだ、リビトーは的確に宝の臭いを感じ取ることが出来た、彼とその部下の十人は慎重に進み、罠を回避しながら、進む。

    やがてひとつの扉の前にたどり着いた、巨大な鉄の扉、古めかしいいかにもといった感じの、風格漂う扉である。

    ―――ニヤリ

    自然、笑みがこぼれる。

    罠がないことを確認し、持ち前の鍵開け技術を使って扉を開け、宝物庫の中に入る、期待に胸をふくらませながら、そして―――


    「最初に宝物庫を狙うたぁ、ずいぶんな趣味をお持ちのようだな、今回のお客さん方は」


    確かにそこにはたくさんの金銀財宝があった、しかしそれらお宝の上に、一人の男が悠然と立っていた。

    「貴様何者だ!?」

    「おいおい、人んちの庭を散々荒らしておいて、しまいにゃ俺の財宝を奪おうとした奴らが、この俺様に向かって『何者だ』だとぉ?」

    つまり、この目の前に悠然と構える男こそが、この盗賊団の頭目、

    「貴様がチカブムか!」

    「おうよぉ!この砦は俺様のモンだ、俺の目的は誰にも邪魔させねぇ・・・・邪魔する奴は、フハハハハハハハハ、皆殺しだ!」

    そう言ってチカブムは宝の山から飛び降りる、しかし特に武器を持っている様子はない。

    「ハッ、所詮はただの盗賊、素手で何をするつもりだ!」

    リビトーと彼の部下数名は懐から投げナイフを取り出し、間をおかずに投げ放つ、それに対しチカブムが行った動作は、わずかに片腕を振るうのみ。

    しかしそれだけで数本のナイフは全てはたき落とされた。

    「くっ、こいつは我らだけで仕留めるぞ!Aランクの意地、見せてやれ!」

    そう言ってリビトーは腰から長剣を抜き放つ、しかしチカブムは

    「フハハハハハハ!なんだ、お前達はこの程度か、つまらん!」

    そして、背後にあった金塊のひとつを投げ放つ、凄まじい速度で、だ。

    「なっ!!!」

    リビトーは危うく回避するが、すぐ後ろにいた部下の一人が金塊にぶち当たり―――



    壁を突き破り通路を吹き飛んで、向こうの壁にぶち当たって止まった。



    チカブムが放ったのは戦車砲でも爆弾でもない、ただの金塊だ。

    「このバケモンが!仲間の仇だ!!」

    そう言って手斧で斬りかかった部下の一人は、しかし

    「フハハハ、そうだ、その調子でやって来い!」

    そう叫んだチカブムに――



    頭を掴み上げられて投げ上げられた、「大の大人」が、「数十メートル」、だ。

    投げられた部下は、そのまま地面に叩きつけられ、ぴくりとも動かない。



    「くそっ!!全員で一斉に掛かれ!必ず殺すんだ!!!」


    既に腰が引けて逃げだそうとしている部下に向かってそう言い放ち、自身も決死の覚悟で剣を構えて突進する。

    「フハハハハハハ!!そろそろ時間だ、他の者達も相手をしなければならんのでな!我が愛槍『大殺陣』、貴様らの冥土の土産だ、取っておけ!!!」

    そう言い放ち、両の手を組み合わせ、何かを呟いた瞬間――――



    何もない空間から、巨大な槍『大殺陣』が現れた。



    それを両手で構えたチカブムは、

    「フハハハ、さらばだ愚か者どもよ!」

    ただ一度、回転するように全力で振るった。

    そうすると、チカブムは何もなかったかのように、槍を手放し、宝物庫から出て行った。



    あとには、九つの死体、否、全て合わせれば九人分になるであろう分の粉々になった人間の死体だけが財宝とともに残された。



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