Release 0シルフェニアRiverside Hole

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■301 / 8階層)  ツクラレシセカイ(シーン2-8)
□投稿者/ パース -(2006/07/02(Sun) 13:27:26)
    2006/07/02(Sun) 20:11:52 編集(投稿者)

    ――――ゴゥン!!!

    「クッ!!」


    クライスはチカブムが放つ巨槍の一撃を何とか回避する。


    「うごぉぉぁぁああああああああああ!!!!!」


    チカブムが正気を失った瞳で絶叫しながら巨槍を振り回す。
    槍が振るわれるたびに黒い波が放たれ、壁や床が破損していく。
    その槍はまるで目標を狙ってはいないのだが、これまで以上のパワーと速度でむやみやたらと振り回されるために、うかつに近づくことが出来ない。


    「なんで、何でこんな事になっちゃったの!!?」
    「知るか!!ミコト、お前一体何をやらかした!!!」
    「あたしだって知らないっての!!いきなりこんな風になっちゃったんだからしょうがないじゃない!!」

    「うごおおおおおあああぎゃあああああああああああ!!!!!」


    チカブムがまた意味のない絶叫を上げながら巨槍の一撃を放つ。
    これまでは両手を使いようやく振り回していたその巨槍を、片手でやすやすと振り回しながら。

    ――――ズゴォオン!!
    ――――ガギャァン!!

    その度にまた、黒い波の影響で壁や床、天井の一部が崩壊する。
    唯一の救いは、チカブムの狙いがまるで見当はずれで、辺り構わず振り回しているだけということ。


    「ハァッ!!」

    ―――ザシュキィンッ!!!

    ミコトが神速の居合い切りを放つ、しかし、本来なら大木ですら一撃で両断するその一撃が生んだ傷はごくわずか、軽く血が出るだけ。
    そしてその血もすぐに止まってしまう。


    「何なのよ!!この硬さは!もはやこれは人間じゃないって!!!」
    「知ってる!!こいつはもう人間じゃない!!」


    ミコトが悲鳴混じりの声を上げる。
    そりゃそうだ、誰だって刀で全力で切られたら人間は簡単に死ぬ。
    どれだけ斬っても小さな傷が出来るだけで、なおかつその傷がすぐに治るなんてのは普通じゃありえない。
    そして、チカブムは現在、まさしく普通ではなかった。

    目は焦点を失い、どこを見るともなく虚ろだ。
    口からはこの世の全ての絶望を集めたかのような絶叫を上げ続けている。
    先ほどまで以上のパワーで巨槍を振り回し。
    そしてその肉体は黒ずみ、とても人間とは思えぬ硬度と回復力を持っている。


    本気で、何でこんな状況になってしまったのか、


    時間を少しさかのぼることにしよう。




    ◆  ◇  ◆






    「痛ッ・・・・・・・・・・・イタタタタ・・・・・・・・・・」
    「大丈夫か?エルリス」
    「何とかね〜、ちょっと頭打ったけど」
    「まぁ、何ともないならいいんだが」
    「うん、それにしてもクライスがあんなドジ踏むなんて珍しいね〜」
    「いや、あの武器がまさかあんな力を持っているとは思いもしなくて・・・・・・・な」


    クライスはばつが悪そうに言う。
    あの時、クライスがエルリスをかばった時。
    クライスは、二人まとめて吹き飛ばされたあと、すぐにミコト達の援護に向かおうとした。
    しかし直後に発生した床の崩壊(紫ローブを倒したあれだ)に巻き込まれ、二人は運悪く一つ下の階に落ちてしまったのだ。


    「どうしよっか?」
    「とりあえず、上の階に戻る方法を考えなきゃならないな」


    相変わらず聞こえてくる剣戟と悲鳴を背に、二人が何か上の階に上る方法は無いかと探し出した時、


    「ぬぐあああああああああああああああ!!!!!」


    グランツの絶叫が聞こえた。
    グランツが敵にやられたのだと、確信せざるおえないような絶叫だった。

    さらにすぐさま、グランツの心配をする暇なく2度目の崩壊が発生した、今度は前回の比ではなく黒い波がいくつも下の階へ抜けていき、各階層が次々と崩壊していき、それの中にチカブムとミコトがいるのを見つけた。


    「「ミコト!!」」


    クライスはすぐさま下の階へ飛び降りた、
    そしてエルリスもすぐにそれを追って一つ下の階へ飛び降りる。



    ―――そして、それ・・が見えた



    エルリスが穴から飛び降りたとき見えたモノ。
    エルリスが今降り立った階よりもさらに二つ下の階層。
    最初にチカブムと戦闘した階層から五つ下の階層(地下何階?)。
    初めは、黒い波が破壊した空間が、光の届かないほどに下の階まで続いているのかと思った。
    しかし、それは違った。



    ――――巨大な闇の塊



    全ての光を飲み込み、全てを無に返すような、邪悪な存在。
    全ての存在を否定するような、その存在。
    人が決して踏み入れてはいけないような、禁忌。

    (何よ・・・・・・・・・・・・・・あれ・・・・・・・)

    そして、エルリスの真後ろから声がかかる。


    「エルリス!」
    「えっ!?」


    エルリスの後ろにいたのはクライスだった。


    「あ、クライス・・・・・・・・そだ!ミコトは!?」
    「ここにいるよ」


    クライスのすぐ後ろからミコトが現れる。


    「あたしらがこんなすぐ近くに来るまで気付かなかったなんて、エルリスも相当あれが気になるみたいだね」
    「も、って事はミコトも?」
    「ああ、あたしだけじゃなくてクライスもだけどね、あれはヤバイ、なんか知らないけどめちゃくちゃヤバイ」
    「あれがなんなのかはわからないが・・・・・・・・・・間違いなく危険なモノだ」
    「うん、あの黒い塊、あれはなんか凄く嫌な感じがする・・・・・・・って、そういえば、チカブムは一体どこに行ったの?」
    「ああ・・・・・・アイツは・・・・・ね」


    ミコトが一瞬嫌そうな顔をした後、言う



    あれ・・ん中」




    ◆  ◇  ◆




    ミコトの話によると、こういう事が起こったらしい。

    先ほど、ミコトとチカブムが床の崩壊で落下した時、ミコトは偶然刀の鞘が引っ掛かり、二つの階層を落ちたところで止まっていた。
    しかし、チカブムは本人が持っている巨槍が原因であるだけに、止まることなくさらに三階層破壊して落ちていったのだが、そこで、いきなり変化が訪れた。
    それまで、下に下に向かっていた黒い波が急に方向を変え、チカブム本人に向かい始めたのだ。
    しかし黒い波はチカブムの体を破壊することなく、収束し始め最終的にチカブムを飲み込んだのだ。
    そして気がつけば、黒い波は塊となり、あの状態なのだという。


    それから三人は、細心の注意を払いながら、その黒い塊に触れないようにして、黒い塊の側に降り立った。

    側に近づいたことで、さらにはっきりとわかるようになった。
    それは直径が人間二人分ぐらいの完全な球形をしていて、そして



    ――――時々、ドクン・・・と脈打っていた



    「なによ・・・・・コレ・・・・・・気味が悪い・・・・・・・」


    生理的に嫌悪感がする。
    とてもではないがコレの側に長くいたくない。
    というか、見てるだけで吐き気がしてくる。
    だが、チカブムがどうなったかわからない以上、調べない訳にはいかない。


    「で、どうやって調べるか?」
    「触ってみるとか・・・・・?」
    「い、いや、それはちょっと・・・・・・・」
    「何か投げてみるか」
    「そうね」


    とりあえず、三人で石を投げ入れてみることにした。


    「それじゃ、せーのっ、で行くぞ?」
    「「うん」」
    「「「せー・・・・・・・・っっ!!???」」」



    ドクン・・・



    三人が石を投げ入れようとした直前、その黒い塊は一際大きく脈打った。

    三人が全力で警戒したとき(それまでも十分警戒していたが)、それはドクンドクンとそれまで以上の速度で脈打ち始める。


    「みんな、何がどうなってるのかわからないが・・・・・・来るぞ・・・


    クライスが長剣を構え、言う。
    エルリスとミコトもそれぞれの武器を構える。


    ―――ドクン、ドクン、ドクン・・・・・・・・・


    ―――ドク、ドク、ドク、ドク・・・・・・・・・

    ―――ドクドクドクドクドク・・・・・・・・・・・

    それの脈動が最高潮まで達したとき、黒い塊は縮小を始め、


    「うごおぉぉぉおぉおおおおおおおおお!!!!!」


    黒い波を突き破り、チカブムが現れた。


    「なんだ、結局相手はあんたかい!さっきまで十分暴れたでしょ!いい加減くたばりな!!」

    ミコトが一気に接近し、鎧も破壊され、がら空きの胴に居合い切りを放ち、そして、

    ―――ガキィンッ!!

    その、ただの肉体にほとんど受け止められる。




    ◆  ◇  ◆




    ここで、一番最初の部分に辿り着く。

    この後、何度かミコトとクライスが接近戦を挑むが、やたらと硬い肉体と、傷つけてもすぐ回復する肉体、そしてやたらめったらとふりまわされる巨槍の黒い波に近づくのがやっとという状況だった。

    そして、エルリスは、何も出来ず、ただ状況に流されるだけだった。



    (私って、何をやってるんだろう・・・・・・・全然役に立って無いじゃない)

    エルリスは自分が何も出来ないことを悔やんでいた。

    (せめて二人のサポートくらい出来ればいいんだけど、あれ相手じゃ絶対に無理だし・・・・・)

    チカブムがまた黒い波を無茶苦茶に解き放つ。
    エルリスは姿勢を低くして黒い波を回避する。
    エルリスが回避した黒い波は周囲に吹き荒れ、壁や床を破壊する。

    (って、こんなところでウジウジ悩んでる場合じゃないっての!!)

    ミコトが再度居合い切りを放ち、クライスもチカブムの胴体に波状攻撃を喰らわせる。
    しかし、硬質化した肉体と、修復能力の前にそれほどのダメージを与えられない。

    (このままじゃ、三人揃ってやられちゃう、だったら、その前に何かできることを見つけなくちゃ!)

    エルリスは自分にも何か出来ることはないかと模索し始めたとき、チカブムがまた黒い波を解き放つ。
    エルリスはそれを回避して、

    ―――ガッ!

    何かに足を引っかけてコケた。

    (痛たた・・・・・・・何よ!?もう・・・・・・)

    そこにあったそれ・・

    (これなら・・・・・・もしかしたら・・・・よし!)


    エルリスはそれを構え、走り出した。




    ◆  ◇  ◆




    「ミコト!クライス!一瞬だけこいつを止めるから、その間に決めて!!」

    エルリスが拾ったモノ、おそらく床の崩壊に巻き込まれて落ちてきたと思われるモノ、それは最初にチカブムが現れたとき持っていた二本の槍、「精霊槍」とは別のもう一本だった。
    チカブムの装備していた物の内、「精霊槍」と「大殺陣」、そして鎧にはかなり特殊な能力が付加されていた、ならば、

    (使い方はわかんないけど、これにもきっと何かあるはず!!)

    全力でチカブムに向かって疾走する。


    「ハァッ!!」


    チカブムが巨槍を持っているほうの腕にエルリスは全力で斬り掛かる。

    ―――ザシュッ!

    かなり切れ味のよい槍なのか、手首の半分ほどまで斬ることに成功する。
    しかし、修復能力のために斬れた先から次々と回復していく。


    「早く!今の内に!!」
    「ああ!」「まかせな!」


    ミコトがチカブムの懐に入り込み、神速の居合い切りを放つ。
    さらにクライスが連撃を放つ。

    ―――ズバッ!ザシュザシュ!


    「うごぅあああああああ!ぎゃああああああああ!!!」


    狂ったように暴れまくるチカブムにも痛覚は残っているのかさらに絶叫する。
    片手一本を受け止めているだけなのにエルリスは押されつつあったエルリスはそれ以上の力で押される。


    「早く!もう保ちそうにないから!!」
    「わかってる!今度こそこれで終わりだ!!」

    そのままの位置から、ミコトが刀を構え直し、


    「ハァァァアアアアアアア!!!」


    居合い切りを放つ、それも、二連、三連撃。


    「うごぉぉぁぁああ・・・・・・・!!」


    ついに、チカブムがその動きを止め、ゆっくりと崩れ落ちる。


    「やった・・・・!」
    「ようやく終わったな」


    ミコトが刀を鞘に戻し、クライスも剣をしまう。
    そんな中、エルリスは、自身が持つ槍に目をやった。




    ◆  ◇  ◆




    槍は、かすかに光を放っていた、その光は何かを示唆するように鳴動する。
    その光はエルリスにこう教えていた、


    (まだ、戦いは終わってない・・ ・・・・・・・・・・・・・・!!?)


    エルリスは、槍をゆっくりと構える。


    「「エルリス?」」


    そして、それに合わせるかのようなタイミングで死んだと思っていたチカブムが起きあがり、巨槍を大きく構える。


    「やらせない!!」


    エルリスの持つ槍がひときわ大きな光を放ち、投げ放つ


    ――ズッバァアアアアン!!!

    雷光の一撃ライトニングストライク

    エルリスが投げ放った槍は、まさに雷光となってチカブムに迫り、貫いた。


    胸に大穴を空けたチカブムは、今度こそ、完全に、動きを止め、崩れ落ちた。


    ようやく、本当に戦いが終わった。




    ◆  ◇  ◆




    クルコス砦における戦闘結果報告:

    依頼任務、「クルコス砦の盗賊討伐」達成報告。
    頭領のチカブム(本名不明)の死亡を確認したため、任務の完了を報告します。

    本任務では、頭領のチカブムを失うと同時に残っていた盗賊達が降伏したため、最終的に56人の盗賊を捕縛、残りは死亡したか逃走したものと見られます。

    戦闘終了後、砦内に残っていた財宝は、近隣の村々に戻しました。

    なお、盗賊の頭領チカブムが所持していた物品の内、謎の能力を保有していた巨大な槍は戦闘参加者、グランツ・ライアガストが破壊(無理をしたためその後怪我の病状が悪化)、魔導皮膜を施された鎧は戦闘中に破壊、風の魔力が込められた槍と、雷の魔力が込められた槍は回収。

    こちら側の被害:Aランクチーム「グレイブラバーズ」参加者数10人中10人が死亡し壊滅。
    Bランクチーム「グレアム騎士団」参加人数30人中死亡者数8人、重軽傷者20人とかなりの被害を受けた模様(うち団長のグレアム・バーストンは重傷者に含まれる)。
    Aランクチーム「ノーザンライト」参加人数4人中1名重傷残りの3名は軽傷(うち2人はサンドリーズギルド未所属)被害は軽微。
    どこのチームにも所属していないフリーのハンター「アレス・リードロード」「リリア・ティルミット」、2名とも軽傷のみ。
    なお、参加者のほとんどが「紫ローブの男」を見ましたが、この人物はサンドリーズギルドの加入者ではなかったため、この人物に関する詳細は不明。


    以上を持って報告を終了します。

    報告者:クライス・クライン




    ◆  ◇  ◆
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