Release 0シルフェニアRiverside Hole

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■348 / 2階層)  ツクラレシセカイ(シーン3-2)
□投稿者/ パース -(2006/09/16(Sat) 11:17:41)
    2006/09/16(Sat) 20:37:33 編集(投稿者)

    ――乗り合い馬車の中――


    ガタンゴトン、と馬車は揺れ、中に乗っている十人前後の乗客達の体を揺さぶる。
    その中に、精悍な顔立ちをしての腰に長剣を差したが青髪の青年が、クライスがいた。
    「俺は、だな」
    クライスは唐突にひとりごとを始める。
    「この任務が非常に危険な可能性を秘めているとアドレミシアから聞いていたんだ、ああ聞いていたとも、だからな、だからだぞ、俺一人で行ってさっさと任務を終えてくるつもりだったのにお前達を連れて来たくなかったのに何でいるんだよエルリス!セリス!!」
    「うわっ!!」
    「きゃあっ!」
    ひとりごとの最中にいきなりうしろを振り返って怒鳴ったクライスに、不意を付かれたエルリスとセリスは仰天して同じく大声を出してしまう。
    二人はローブを目深にかぶって顔や髪が見えないようにしてクライスの背後の席に座っていたのだが、クライスに簡単に見破られてしまった。
    「あ、あははは・・・・・ぐ、偶然だね?」
    「セリス、嘘がバレバレだぞ?」
    「うっ・・・・・うう・・・・・だってクライスがどこに行くのか興味があったんだもん」
    「だもん、じゃない!ったく・・・・・エルリスも、危険だから付いて来るなっていったろう」
    「いやー・・・・・あはははは・・・・・セリス一人を行かせるのは危険かなーと思いまして」
    セリスと同じで、クライスの昔の仲間、とやらが気になって付いてきましたー、なんて絶対に言えない。
    「ったく・・・・・なんで二人とも付いて来るんだよ・・・・・・・・・・」
    クライスは頭を抱えてしまった。

    さて、クライスが少し落ち込んでいる間に、エルリス達がここに来るまでの出来事を説明しておこうか、それでは回想、スタート。




    ◆  ◇  ◆



    ――辺境の村『ゲート』――


    その日の晩、クライスは帰ってくるなりグランツのところに用があるといって出かけてしまった。
    グランツは現在、前の盗賊討伐戦でのダメージがひどく、自宅療養中だ、エルリスもしばらく会っていない。
    「んーそういえばしばらく会ってないし、お見舞いも兼ねて私達も行っちゃおうか」
    「そうだねーあのおっちゃんも私達のことを見れば元気になるかな?」
    そんなことを言って、エルリスとセリスの二人はクライスからかなり遅れてグランツの元に向かったのだった。



    ――グランツの家――


    グランツは体中のあちこちに包帯を巻きながら陽の当たる窓の側のベッドの上で体を起こしていた、そしてクライスは椅子に座ってその正面にいて、二人とも深刻な表情を浮かべていた。
    「そうか、あの盗賊の頭、チカブムという男・・・・・・ダークマターと何か繋がりがあったんじゃな・・・・・・・・・それならあの異常な威力の武器、たしか『大殺陣』じゃったか、あんな物があったのも頷ける」
    「ああ、他にもいくつかわかったことはあるが、それより、体の方は大丈夫か?」
    「ガハハハハ、まだまだ、若いもんに心配されるほど鈍ってはおらん!」
    「戦闘は?」
    「・・・・・・・・・・・・・・・・すまん、まだ無理じゃ」
    「そうか・・・・・」
    「なんじゃ、また厄介事か?」
    「ああ、悪いことは続く物、とは言ったモノだな、さっそくそのダークマター関係の仕事だ、オルトナの方、カトレアまで出向かなければならないらしい」
    「オルトナ、か・・・・・・そういえば、今はエルテイの奴がおらんかったか?」
    「ああ、よりにもよってその厄介事にかなり関わっているらしい」
    「なんじゃと!・・・・・・・よりによって全員がばらけているこの時期に厄介事が起こるか・・・・・せめて彼女・・がいればのぉ・・・・・・・・」
    「それは言っても仕方のないことだ」
    「ラグナは今西におる、リーンの奴は東から動こうとしないじゃろうし、エルテイの奴は逆にあちこち移動しまくる、彼女に至っては今どこにいるのかわからん、そしてお主がここにいる限り、ワシはここから動けん」
    「それも仕方のないことだろう、あいつらはあいつらなりの考えがあって、行動しているはずだ」
    「しかしのう、あいつらにもし万が一のことでもあったらと思うと、な」
    「その点は大丈夫だろ、俺達の中・・・・で一番弱いのはお前だろ、グランツ」
    「当たり前じゃ、ワシは本来ただの鍛冶屋、後方支援が専門じゃわい」
    「そうだったな、とにもかくにも、お前はしばらくしっかりと療養してろ、俺が帰ってきたらまた働いてもらうからな」
    「ああ、まかせろい」
    「とりあえずは、エルテイと合流して、さっさと仕事を片してくるよ」
    クライスは立ち上がり、それじゃあな、と言ってグランツの家を出て行った。



    ――グランツの家、の外(窓の下)――


    エルリスとセリスの二人はずっと窓の下にうずくまって二人の話を聞いていた。
    本当はグランツを驚かせるためにコッソリと移動しただけなのだが、ずいぶんと大変な話を聞いてしまった。
    (お姉ちゃんどうしよう!大変な話を聞いちゃったよ!!)
    (とりあえず移動しましょうセリス、このままだといつ見つかるかわかったもんじゃないわ)
    (そうだね)
    二人はゴソゴソと芋虫のようにしてグランツに見つからないように移動した。



    「いやークライスには「チーム」の仲間がいるのは知ってたけど、いままでグランツ以外に会ったこと無かったから、完璧に忘れてたわ・・・・・」
    「エルテイって人と合流するとか何とか言ってたけど、何するのかな?」
    「さぁ・・・・でもクライス、何にも言ってなかったわよ・・・・・?」
    「きっと私達に秘密で出て行くつもりなんじゃない?」
    「うーん、クライスのことだからそれはあり得る・・・・・」
    「どうしよっかー?このままじゃ私達置いてかれちゃうよ」
    「でも、クライスがそうした方がいいって決めたことなんだったら・・・・・」
    その時、セリスはある意味エルリスに一番効果的なセリフを口にした。
    「っていうか「彼女」って誰なんだろうねー?」
    「ッ!!!」
    「ねぇお姉ちゃん、気にならない?」
    「う・・・・・・・うう・・・・・・・・」
    (気にならないって言ったらそれは嘘になるけど、でもだからってわざわざ付いて行く必要は・・・・・)
    「どこにいるのかわからないとか言ってたけど、もしかしたら会いに行くのかも知れないよね?」
    「うううううう・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
    「ねぇねぇ、お姉ちゃん、ついて行ってみようよー」
    「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・セリス」
    「うに?」
    「クライスに気付かれないようにコッソリと付いていきましょう」
    「やった!」

    ちなみに、この会話中、セリスには一切悪意はない・・・・・・・・・・・・と思う。




    ◆  ◇  ◆



    ――回想終了。


    「全く・・・・・つーかここに来るまで尾行に気付かなかった俺も俺なんだが」
    「そうだよ、ここまで来ちゃったら引き返すのも大変だよ、ね?ね?」
    「えーと、迷惑は掛けないようにするし、セリスが面倒を起こさないようにしっかりと見張ってるから!」
    「お姉ちゃん、私のせいにばっかりしないでよ〜」
    「あのなぁ・・・・・・」
    「それにほら、危険があってもクライスが守ってくれるでしょ?」
    「そうだよ、男なんだから女の子二人を守るくらい簡単だよよね?ね?」
    数秒、間があったあと、
    「・・・・・・・ハァー・・・・・・・・わかったよ・・・・・・・」
    クライスは深い溜め息と共に許可の声を出した。
    「やったぁー!」
    「その、クライス、ホントにごめんね?」
    「いや、もういいよ」

    ようやく許可されて、エルリスとセリスは今度こそ普通にクライスの前に座った。

    「それで、クライスが行こうとしてる場所ってどんなところなの?」
    「カトレアの町、オルトナエリアにある山間の小村だ『ゲート』よりはいくらか大きいと言う程度の小さな町だよ、産業も興業も特に有名なところはない」
    「そんな町に、一体何をしに行くの?」
    「今その町の片隅になんだか訳のわからない集団が居着いているらしい、俺の目的はそいつらの調査と場合によってはそいつらを排除すること、だ」
    「ふーん・・・・・」
    「ま、もっとも、調査の方は先にこの任務に取りかかっている奴がほとんど終えていると思うけどな」
    「先に取りかかっている人・・・・・・クライスのチームメンバーだね」
    「ああ、エルテイ・ステンバック、弓矢使いアーチャーだ」
    「ねぇ、クライス」
    「ん?」
    「私は、いや、セリスもだけど、クライスのチームメンバーの事をほとんど知らないんだけど」
    「そうだよー、勝手に話を進めないでー」
    「ああ、そうだったな・・・・・じゃあこの際だから俺のチーム『ノーザンライト』のことを説明しておこうか」
    「その前に、クライス、そもそもなんで『ノーザンライト』なの?ノーザンライトってオーロラって意味だよね・・・・・」
    クライスはかなり嫌そうな顔をした。
    「いや、それはだな・・・・・・名前を付けたのは俺じゃないからだ、俺だったらそんな小っ恥ずかしい名前は絶対に付けない」
    「えーと、じゃあこのチームの名前を付けた人は?」
    「それは・・・・・・・・・・・・・と、とにかく、チームの解説をするぞ」
    なぜかクライスは非常に言いにくそうにしていた。
    不審だ。



    ラグナロックス・ファーレット 魔術師マジシャン 大陸でも最高峰の魔術師で魔術師としては最高位の証であるグランドマジシャンの称号を持つ。

    エルテイ・ステンバック 弓矢使いアーチャー 弓の名手にしてエルフ族の青年、あだ名は銀光の射手。

    リーンウィル・フォレスト 罠師トリッカー 彼の領域の中に入ってしまった者は例え1個師団クラスの戦力でも全滅するといわれる天才罠師。

    グランツ・ライアガスト 鍛冶屋ブラックスミス あれでも実はその道では有名な知る人ぞ知る天才鍛冶屋、暗黒大陸の技術をも身につけているとか。



    クライスの話を聞き終えたとき、エルリスは絶句していた。
    「そして、今の四人に俺を加えて、チーム『ノーザンライト』の全メンバーは紹介終了だ」
    「え、いやちょっと待って、クライスに関する説明がないんですけど?」
    「クライス・クライン 俺 剣士 以上、その他のことはだいたい知ってるだろう?」
    「そんな身も蓋もない・・・・・・・」
    クライスは自分のことになるとずいぶんつっけんどんだった。

    乗り合い馬車はゆっくりと進む。




    ◆  ◇  ◆



    ――カトレアにほど近い山道――


    夕闇に沈む山道をいま、3つ、いや4つの影がうごめいていた。

    その影達は、動きを見ていると二つの勢力があることに気付く、
    一つは先頭の影、まだ若い青年が木々の合間を駆け抜け、一目散に逃げようとしている姿
    そしてもう一つは残る三つの影、二つが今にも青年に追いつきそうな距離に迫り、もう一つは常に付かず離れずの距離を保っている。

    そして、ついに二つの影が青年に追いつき、懐から取り出した刃でこれにトドメを刺そうとした瞬間、

    ―――ビュン!!

    どこからともなく飛んできた矢が影の持つナイフを撃ち抜いた。

    「「!!」」

    ナイフを揃って撃ち抜かれた二つの影は矢が飛んできた方角を見ようとして。

    ―――ビュン、ビュン!!

    二人とも矢に足を撃ち抜かれ地面に倒れ伏した。

    他の影から逃げるように先頭を走っていた青年は、その矢が飛んできた方角に一人の弓を構える人物がいることに気付き、
    「ひいっ!助けてくれ!!」
    と、言った。
    「ええ、今助けますから―――ッ!走れ!!!」
    「え・・・・・・・・・!?」
    しかし突如として怒鳴られたことに一瞬驚いて動きを止めた青年はその直後、

    ―――グボアッ!!

    背後の地面を盛り上げて出現した土人形ゴーレムによって叩き潰された。

    「チッ・・・・・・・・・人形遣いドールマスターですか・・・・・・!」

    弓矢を構え直そうとする青年の周囲に、新たに2体のゴーレムが現れる。

    ―――バスッ!バスッ!

    弓矢遣いの青年は2本の矢をそれぞれのゴーレムに放つが、2体のゴーレムはまるでダメージなど無いかのように動き、青年に接近する。

    (術者を倒さなければいけませんね・・・・・・・それから、先に倒した二人の方は・・・・・・)

    そちらの方を見ると、そっちにも一体のゴーレムが出現していた。

    (仲間の回収、もしくは口封じは既に終わったと見て違いないですね・・・・・)
    (術者は・・・・・・・ここから見える位置にいるわけありませんね・・・・・ならば!)

    青年は背中の矢筒とは別に、懐から二本の銀色の矢を取り出した。

    青年はそれを弓につがえ、集中する。

    (emeth・・・・・・こいうった土人形は弱点がわかりやすくて楽ですね・・・・・・見えた!)

    ―――バシュッ!バシュッ!

    普通ならゴーレムの中でも特にガードが堅く、またそれの制作者以外には見つけられないように何種類もの魔術防壁を施しているはずのEMETHのEの文字を、青年の銀矢は正確に撃ち抜いた。
    そして、それを撃ち抜かれた2体のゴーレムは、ただのつちくれと化し、崩れ落ちた。



    2体のゴーレムを倒した時点で、既に戦闘は終了していた。
    「まんまと逃がしましたか・・・・・」
    人形遣いらしき術者とその他のゴーレム達は既に影も形も無くなっており、他の二人の追っ手は既に事切れていた。
    そして、追っ手から逃れようとして、ゴーレムに叩き潰された青年は、
    「あ・・・・・・・う・・・・・・・・・妹・・・・・・を・・・・・・助け・・・・・・・・」
    それだけ言って、ピクリともしなくなった。
    「ッ・・・・・・・・・・」
    助けるのが間に合わなかった。

    弓矢を背中に背負い直した青年―――エルテイ・ステンバックは彼を助けられなかった事にひどい憤りを感じる。

    「クソッ・・・・・・・『ダークマター』・・・・・何が目的だ・・・・・・・!」

    エルテイの怒りの声は空しく消えていった。

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