Release 0シルフェニアRiverside Hole

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■189 / 2階層)  赤き竜と鉄の都第3話
□投稿者/ マーク -(2005/04/20(Wed) 20:04:27)
    『銀の腕』








    「銀の腕?」
    「はい。アイゼンブルグの所有する世界最高のあの義手です」
    「その銀の腕が盗まれた、ねえ・・・」
    「さらに言えばこのギンの造ったレプリカも共に盗まれました。
     そのレプリカについていた発信機の反応を追っていたのですが
     心当たりはありませんか?」
    「レプリカ・・・あっ」

    慌ててアーカイバを出し、それを取り出しリンに渡す。

    「0式ですね。やっぱり」
    「わっ、私は犯人じゃないわよ」
    「分かってます。それは別の者に奪われた代物ですから」

    そうリンが微笑み、ユナはほっとする。
    リンは先ほどからまぶたを開けず、目を開いていない。
    だが、まるでそれ以上のものまで見えている用に振舞っていて、
    うっすらと目を開けているのではないかと思ったが、流石にそれは無いだろう。
    つまり、このリンという少女が盲目なのはおそらく確かだろう
    だが、それならば先ほど避けたのは一体?

    「ですがこれで確定しました。
     どうやら、私たちの早とちりだったようですね。
     一応、私は止めたのですがこのおバカの代わりに謝ります。
     どうもすみません」
    「別にいいわよ。話を聞かなかったのはこっちも同じだし。
     喧嘩両成敗ってことでいいでしょ?」
    「はい。ありがとうございます」
    「うう〜ん」

    話が一区切りついたところで都合よくギンが目覚めて起き上がる。

    「っつ〜、どうなったんだ?
     というかなんで俺は縛られてるんだ?」
    「・・・おはよ」
    「っげ、テメー」
    「ギンのおバカ。だから止めたのに。
     ちょっとは反省してください」
    「リン。ということは・・・
     っち、外れか」

    ―ムカッ!!

    「それよりも言うことがあるでしょ?」
    「ああ〜。人違いだった。忘れてくれ」
    「それで済むかー!!
     よくもお兄ちゃんの手紙をー!!」
    「兄!?
     ブラコンってやつか」
    「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!」

    もはや声にならぬ怒りの叫びを発しながらユナは憤怒の形相でギンに掴みかかり、
    首をガクンガクン揺さぶる。

    「リン・・・助け・・・て・・・く・・れ」
    「はあ、自業自得です。
     もっとやってくれていいですよ」

    ―ガク
    目覚めて早々、ギンは再び夢の世界へと戻っていった。




    「というか、手紙が破れたのは俺の所為だが
     燃やしたのはお前だろう?」
    「はあ、そもそもギンがあんな真似するからでしょう」

    なんとか意識を取り戻したギンとリンの会話を黙って聞きながら睨みつける。
    あの戦いの際、破かれた手紙を見た瞬間に完全に暴走してしまったため、
    あの爆発の炎で手紙の残骸まで綺麗サッパリ燃えてしまった。
    しかも、いても立ってもいられず急いでこの街まで来たため、
    宿についたら、ゆっくり見ようと思って開いてすらなかったのだ。
    せっかくの手がかりが・・・・

    「盗人に持ち合わせる情けなんてない。
     それみこっちの方が手っ取り早くて確実だからな。
     第一、だがこの女があの状況で普通に尋ねても
     素直に聞いてくれたとは思えんぞ」
    「煩い、黙れ」

    ユナはなんとか爆発しないように抑えているが、抑えきれぬ怒りが声に
    刺々しいと表現するのも生易しいほど恐ろしいくらいに現れている。
    こいつさえ、こいつさえいなければ・・・・・。
    だが、今ここで殺しても面倒なだけだし、
    簡単に終わってしまっては私の怒りも収まらない。
    ミコトもいたぶるなら生かさず殺さずが基本だと言っていた。

    「とにかく。私は被害者なんだから、誠意を見せなさい」
    「例えば?」
    「そうね、あんたこの都市の人間でしょ?
     アイゼンブルグを一通り案内しなさい。
     いっとくけど、これはお願いではなく命令よ」
    「なんで俺がそんなことを。第一俺は忙しいと言って―」
    「いいですよ?どうせ、一通り周る予定でしたし」
    「おい、リン!!」
    「そのかわり、貴方も私たちを少しだけ手伝ってくれませんか?
     こちらも人手は足りませんし」
    「つまり、私も腕探しを手伝えと?」
    「はい」

    どうする?
    お兄ちゃんを探すだけならそんなの手間がかかるだけだ。
    だが、本来の目的はアイゼンブルグの調査。
    ならば土地勘があり、なおかつそんな貴重品の捜索を任されている者たちなら
    それなりに情報はあるだろうからどちらかといえば都合はいい。
    いや、お兄ちゃんの事にしても単独で動けない分動きは鈍くなるが
    そのかわり情報は手に入りやすくなる。

    「分かった。契約成立ね。
     私はユナ・アレイヤよ」
    「はい、ではとりあえずこの街を回りましょう。
     ついて来て下さい」
    「その前に―」
    「はい?」
    「コイツを好きにしていいだよね?」
    「あっ、はい。好きなだけどうぞ」
    「リン!?」
    「じゃあ、地獄に行って貰いましょうか」







    「アイゼンブルグは都市というにはあまりにも大きすぎ、
     大きく東西南北の4つの地区に分かれています。
     ここはアイゼンブルグの東区で他国との交易も盛んな地区です。
     おかげで街の活気が良く、他国からの旅人も多いのですが、
     どちらかといえば流通は南区の方が多く、職人たちも他の地区のほうが多いので
     あまり特別なもののない地区になっています」
    「ふーん」

    東の地区を周りながらすれ違う人ごみに目を向ける。
    噂には聞いていたが本当に豊かなところだ。
    最近の王国内じゃ滅多に見られない動物の特徴を色濃く受け継いだ獣人。
    所謂半獣の者たちも数多く見られる。

    「なるほど。確かに活気もいいし、獣人みたいな異種族とも仲良くやってる。
     王国の領土内の光景とはとても思えないわ」
    「そうですね。
     王国から逃げてきてこの都市に保護を頼んだ者も数多くいますし、
     流石に王も独立した都市の中までは手を出してきません。
     ただ、残念ながら良い眼で見られてないのは確かです」

    そう、独立都市であるアイゼンブルグを王国は快く思っていない。
    独立したとはいえ、もともと王国の領土。
    さらに、この都市の技術は王国からすれば喉から手が出るほど
    手に入れたいものだろう。
    その結果、王国もこの都市を国内に取り込もうと考えている。
    逆にアイゼンブルグは同盟は結んでいるが技術提供などは基本的に一切せず、
    特に鉄鋼業の技術の独占し続けている。
    おかげで、王国の技術力はお世辞にも高いとは言えず、
    この街の産業に頼っているため関係が悪くするわけにはいかないから
    大きな動きもなく、今まで静かに過ごしてきた。
    テクノスなどはかなりの技術力がなければ実現は不可能な代物だ。
    やはり、王国だけで造れるとは思えない。
    可能性としては一部の者が行った意図的な技術の流出。
    探るのはそれを行った者が誰かだ。
    もしかしたら、お兄ちゃんもそれを探っているのかも。
    なら、やはり向かった先が分からない以上、他の仕事を片付けながら
    探したほうが効率的だ。
    手紙を燃やすことになった原因にあらためて殺意が沸いてきた。
    だが、ここで殺してはさらに調査が難航する。
    くっ、お兄ちゃんが無事見つかったら今までの無礼を
    さらに三倍にして返してやる。
    覚悟しなさい。

    そういえば―

    「ねえ、リンって目見えてないでしょ」
    「そうですね。私の目は生まれつきこの世界の光景を
     映していませんでしたので盲目といっていいと思います」
    「何か妙な言い方ね。
     でも、見えてないならどうやって弾を避けたの?」
    「ああ、そいつは―」
    「あんたのは聞いてない」
    「こいつっ」

    途中で口を出してきたギンを一刀両断で切り捨てる。
    そう簡単に許せるもんか。
    しかし、あの拷問を受けてこれほど元気なんて意外とタフな男だ。
    まあ、見た感じではげっそりして今にも倒れそうにフラフラしてるけど。

    「私は目が見えないですけど、コレのおかげで色々と別のものが
     分かるんです」

    そういって、左手を耳に持っていきイヤリングを触る。

    「ちょっとした魔法具の一種です。
     正確には付加魔術と魔科学を用いて作られた感覚の補助増幅器で、
     その恩恵で気配や音、魔力の動きなどで周囲を把握しています。
     少なくとも、視覚に頼らない分、周囲360度の把握能力と
     先読みについては随一と自負してます」
    「なるほど目が見えない分、他の感覚で補ってるわけね」
    「さらに言えば、これもギンの作品です」
    「ふーん、腕だけはいいんだ」

    と、後ろを歩くギンに冷ややかな視線を送る。

    「だけってのは何だ。他にも取り柄はある」
    「そうですよ。
     バカだし性格も最悪ですけど戦闘に関しては結構な腕ですよ。
     神様ももう一つくらい取り柄がないと可哀想過ぎると思って
     くださったのでしょうね」
    「・・・リン。お前はフォローしてるのか、追い討ちかけてるのかどっちなんだ?」
    「どっちもです」

    りんの微笑と共に掛けられた追い討ちでギンが力無く下を向く。
    どうやら悪いやつじゃないみたいだし少しくらいは許して―

    「まあ、口だけで考え無しなやつよりはマシだ」

    ―プツッ!!

    一瞬頭に浮かんだ気の迷いとも言える考えを速攻で打消し、
    振り返らずにギンの腹に躊躇なく肘鉄を食らわせる。

    「ゴフッ」
    「食え」

    そして使い魔が実体化し、頭に勢い良く噛み付く。

    「ーーーーーー!?」

    往来の中、妙な叫びを上げる男を無視し、
    アイゼンブルグの街を歩いていく。







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