Release 0シルフェニアRiverside Hole

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■206 / 14階層)  赤き竜と鉄の都第15話
□投稿者/ マーク -(2005/05/01(Sun) 16:52:13)
    『禁呪』







    ギンとレイスが再び、竜へと襲い掛かる。
    だが、先ほどのように激しい攻撃はせず、僅かに距離を空けながら
    壁際へと追い込んでいる。
    私もデッドアライブの援護と使い魔で竜を誘導している。
    その間にもお兄ちゃんは用意を整えている。





    『一つだけ方法がある。
     だが、これは俺ではコントロールし切れんかも知れん。
     俺の用意が完了したら何があろうと遠くに離れろ』
    『奥の手ってこと?・・・・それって一体なんなの』
    『かつてこの身に宿りしあの存在の残滓、それが今なお
     この身に残されている。
     その力を使う』
    『あの力を・・・・・大丈夫なの?』
    『分からん。だが他に方法も無く、出し惜しみをしている余裕もない。
     頼む。信じてくれ』
    『・・・・分かった。お兄ちゃんを信じる。
     でも絶対戻ってきてね』
    『ああ』





    お兄ちゃんが信じられなくて何を信じろというのだ。
    ならば、私はお兄ちゃんに任された仕事をこなすだけ。

    「掛かってらっしゃい!!出来損ない」

    私とギンが竜の左右に、レイスが正面に向かい、竜の背中がお兄ちゃんに
    向く様にして竜の周りを囲って立ちはだかる。
    二匹の使い魔を黄金竜へと襲い掛からせ私は詠唱を綴る。
    出し惜しみなどしてられない。
    私が持ちうる全ての力を出しつくしてでも絶対に
    お兄ちゃんの邪魔はさせない。

    「離れて!!」

    私の注意に素直に従い、全員が黄金竜から大きく一歩離れる。
    それを確認して力を解き放つ。

    「災厄より生まれし、大いなる災いの焔。
     我が憎悪を受け、怒り狂え。
     『フレアスパイラル』」

    竜の足元から焔が吹き荒れ、螺旋を描いて竜の周りを覆い炎の渦が出来る。
    竜は焔の渦の中に閉じ込められるが、それも僅かな時間。
    もとより魔術、特に焔などに耐性がある竜族に対してアレが決定打に
    なりうるはずがない。
    あくまで囮。
    時間を稼ぐ意味で用いた。

    「赤き竜王の名において、世界を焼くつくせし業火の刃よ。
     その力、我が手に宿り、並み居るもの全てなぎ払い、
     焼き尽くせ!!
     『レーヴァティンッ』!!」

    手に生まれた極限の炎。それを圧縮、固定し剣を形に成す。
    投槍の要領で手に持った猛々しく燃える焔で創られた刃を撃ち出し、
    剣は一直線に竜の頭の付近を狙う。
    狙い違わず竜の額に突き刺さった剣は爆発的な燃焼を引き起こし、
    顔中に広がり燃え続ける。
    しかし、これもあまり効果は無い。
    今だって顔中が燃えているのに黄金竜は平然としている。
    やがて、竜が首を振るい顔中に燃え広がった炎を鬱陶しそうにふり払う。
    そしてお返しといわんばかりに私へと首を向け、炎を収束させる。

    ―今だ!!

    予想通りの反応に心の中で快哉をあげ、二匹の竜がその顔を
    目掛けて突っ込む。
    私と黄金竜の間に割って入ってきた邪魔な存在へと炎を吐く。
    いくら竜が炎に強いと言ってもこれでは無事ではすまないだろう。
    ―普通ならば。
    炎は先ほどまでに比べ明らかに小さく、使い魔は意にも介さずその炎に飛び込み
    その身体を少々焦がす程度でその炎を抜けて、黄金竜の目前まで迫る。
    先ほどから効く筈の無い炎を撃ちまくっていた理由はこれ。
    この密閉空間でこれだけ多くの炎を僅かな間にこれほど使えば
    一時的とはいえ酸素が不足する。
    その上、竜の身体は私たちの何倍もの高さで、高ければ高いほど
    空気中の酸素濃度は薄くなる。
    さすがに、もとより高山地帯にも住まう竜族にとってはこの程度の空気の
    気薄など気にならないだろうが、それが放つ炎は別だ。
    酸素の足りない炎など、弱弱しい炎にしかならない。
    そしてまさに目の前に迫った使い魔を払おうと腕を振るうが、近すぎる所為で
    うまくいかず軽く避けられる。
    二匹の竜は腕を回くぐり顔へと飛び込み、竜の両目に双方が腕を突き刺す。

    「グォォォォーーーーーーーーーーーー!!!!」

    流石にこれには堪えたらしく、無我夢中に腕を振るい見えない敵に対応する。
    目を貫かれた所為で竜にはこちらの様子は見えていない。
    しかも、あの金属の『瘡蓋』のおかげで直ぐには治っても目は開かない。
    そんな暴れ狂う竜にレイスが飛び込み、縦横無尽に振るわれる尾へ向け
    二本の柄を束ね、一本の剣に見立て大きく振るう。
    竜の図太い尾が見えざる巨剣により、二つに断ち切られ、
    竜がさらなる悲鳴を上げる。
    だが、やはりと言うべきか竜の尾はトカゲの尻尾の如く
    徐々に生えてきている。
    呆れるほどの生命力だ。

    「ユナ!!」

    お兄ちゃんの声に黙ってうなずく。
    準備は出来た。
    後はそこまでこいつを誘い込み、全員を連れて離脱する。
    使い魔の一方にレイスたちを回収させ、竜へとデッドアライブを撃ちこむ。
    これで私たちの方向が分かるだろう。
    目が見えない今の状態なら誘導も比較的容易い。
    目的の位置まで来たところで最後の一発に温存して置いたサンダーボルトを構え、
    竜のその片足を狙う。
    弾は見事に命中し、当然生じた痛みとその衝撃でバランスを崩し倒れこむが、
    両腕も使って這うようにしてなお進む。
    そんな黄金竜の様子を哀れに思い、今まさにすれ違うお兄ちゃんの顔に
    視線を移す。
    お兄ちゃんの顔にも深い悲しみと哀れみが現れている。
    やがてお兄ちゃんの詠唱によって浮かび上がった巨大な円を二匹の竜が抜け、
    円の内部に立ったお兄ちゃんがそのまま地面に剣を突き立てる。
    それと同時に円で囲まれた空間が光を出し、輝きだす。
    決して強い光ではない、穏やかな夜の光だ。

    「暴食の罪、七つの大罪。
     その魂を喰らい、糧とせよ。
     異界より来たれし魂の支配者。
     至高の王たる者の、
     その礎となるがいい」

    詠唱と共に徐々に輝く円を闇よりもなお暗い影が覆っていき、
    その輝きを奪っていく。
    それは月喰らい、月食の光景と似ていた。

    「 喰らいつくせ!!『エクリプス』」

    全ての輝きが闇に包まれ、異なる異界と化したその空間を覆っていた
    暗い影は獲物を見つけた言わんばかりに鎌首を上げ、竜に纏わりついていく。
    影は竜の身体を、補っていた仮初の肉体を魔力へと分解し、吸収していく。
    その痛みに、なにより最も原始的な感情である恐怖に声を上げる。
    陰から抜け出そうと暴れるが、底なし沼の如く竜はその場から抜け出せず、
    消えたはずの傷が蘇ってくる。
    ところどころの肉を失い、見るも無残な姿の竜にお兄ちゃんは
    静かなる終わりを告げる。

    「喰らえ」

    幾重もの影が一斉に立ち上り、お兄ちゃんごとその空間を覆って行き、
    ドーム状に覆われ完全に隔離される。
    ドームは徐々に収縮をはじめ、ついにお兄ちゃん1人が収縮した
    闇の中から現れ、消滅した。
    そこにはもはや竜のいた痕跡すら残されていない。

    「お兄ちゃん!?」
    「来る・・・・な」

    だが、闇から出てきた次の瞬間、お兄ちゃんが体を押さえ蹲る。
    体内に入ってきた異物の感触に身を震わせ、その存在を無理やり押さえつける。
    だが、押さえつければ押さえつけるほどその力は暴走を暴走し続け
    身体中を何かが這い回る。
    喰らった非常識な魂と魔力の強大さに翻弄されつづけ、なによりも
    異常な力を用いた代償が身体を侵していく。
    そして、さきほどまで黄金竜を蹂躙していた影がお兄ちゃんの身体から
    溢れ出て来る。

    「暴走?
     まさか・・・・魔王の・・・再臨?」
    「お兄ちゃん!!」

    いけない。
    今のままではお兄ちゃんが危ない!!
    あの時と同じだ。
    恐れていた事態になった。

    「待て!!
     暴走した王を止めるには1人では力不足だ」

    レイスが駆け出そうとした私を引きとめようと手を伸ばすが、
    それは後一歩で届かず私はお兄ちゃんの下へと駆け出した。

    『もしもの時はお前が・・・』

    お兄ちゃんが去り際に呟いた言葉。
    お兄ちゃんはこの力の異常性、そしえ危険性に気付いていたのだろう。
    だが、それでも私たちを守るために使った。
    そして、抑えきれなかった私に止めるよう頼んだのだ。
    それはつまり自分に引導を渡してくれという意味かもしれない。
    でも、私はおにいちゃんを信じる。
    お兄ちゃんならきっと約束を守って戻って来れる筈だ。
    絶対に諦めてたまるか。
    影は近づいてきた私に対して襲い掛かってくる。
    幾重もの影が私の身体を覆っていき動きを止められる。

    「お兄・・・ちゃん・・・・」
    「ユナ!!戻れ」

    もう、ギンたちの声もほとんど聞こえない。
    影が私の身体を覆いつくし、お兄ちゃんを中心とした闇の中へと
    引きずり込まれる。
    真っ暗な闇の中、まるで水の中いるようでまとわりつく影を押しのけながら
    この中にいるはずのお兄ちゃんの姿を探す。
    だが、一歩歩くごとに急激に力が抜けていき、そのまま意識が飛びそうになる。
    気を奮い立たせ何とかこの闇の中で耐えるが少しずつ意識が朦朧としてくる
    なおも影が私に群がり、その魔力を奪っていく。
    やがて、意識が落ち闇の中で倒れ付す。








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