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■204 / 13階層)  赤き竜と鉄の都第14話
□投稿者/ マーク -(2005/04/29(Fri) 19:41:39)
    『金色の竜』








    「―嘘、なんでこんなのが」
    「厳しいな」

    ありえない。
    あの巨大な体。金色に輝く鱗。
    何よりその身に宿す魔力。
    全てがあの化け物に当てはまる。
    最高の種たる竜の中でも頂点に位置する最強の存在。
    エルダードラゴン、またはその身の輝きから黄金竜とも呼ばれる
    正真正銘の化け物だ。
    だが、あれは本当の姿ではない。
    翼はなく、なによりもその姿に違和感が付き纏う。

    「黄金竜の・・・テク・・・ノス?」

    いつの間にかあの女は既に姿を消していたが、そんなことに
    構っていられる余裕はない。

    『ホーホッホッホッ。
     どうやら驚いているようね。
     これこそが我らが英知の結晶よ』

    あの癇に障る笑い声が周りの壁から発せられ、
    この広大な空間に反響する。

    「ふざけんなよ。
     テクノスの技術も『腕』の技術も全て人から盗んでいったものじゃないか。
     それが英知の結晶だって?
     笑わせんな!!」
    『ッフフ、そうね。確かにこれは貴方たちのおかげで完成したものだわ。
     でも、これを生み出したのは他ならぬ私たち。
     捕獲した黄金竜を素体に限界まで改造を施した我々の最高傑作よ。
     ちょっとした都合で本物の竜と比べる機会がなかったけど、ちょうどいいわ。
     この最高傑作の力を調べる相手をして貰うわよ』
    「ちょっとした都合?」
    『折角だから教えてあげる。
     いかに我々の技術でもその機能を復元できなかった部位がある。
     その部位が問題となって王国は買い取らなかったけど、
     今となっては売らなくて正解だったわ。
     そして、その部位とは―』
    「翼か。
     今の技術では個人単位での飛行を可能とする翼を創ることは
     まだ不可能だからな。
     キメラみたいに他の翼を移植しても大きさや力が足りないから飛ぶことは
     出来ない」
    『察しがいいわね。ええ、その通りよ。
     でもそんなものは関係ないわ。
     翼があろうとなかろうとこの竜が最強なのは変わり無いのだから。
     さあ、その力を見せてみなさい。
     まずはそこの赤毛の小娘からよ!!』

    その言葉に従い、テクノスは私へと顔を向け、灼熱の息吹を吐き出す。
    後ろにはまだお兄ちゃんたちが捕ええられている。
    しかし、デッドアライブの障壁ではこの炎は防げない。
    瞬時にそう判断し、相殺するべく実体化させた使い魔をそのまま炎に変換、
    高熱のブレスへとぶつける。
    大きな爆発が生じ、爆風で体を持っていかれそうになるが耐える。
    なんとかギリギリで防げたがそう何度も出来る芸当ではない。
    もう一方の使い魔に乗り、黄金竜の周りを飛びながらちょっかいをかける。
    幸い、ここは広いから飛び回って撹乱し、様子を見るにはちょうどいい。

    「リン、早く!!」
    「そうは言っても私の力ではこれは無理です」

    どうやらご丁寧に特殊な金属だけでなく、結界まで張ってあるらしい。
    私ならやれないことも無いけど今の状況では余裕が無いから
    そこまで力を調節出来ないで、お兄ちゃんたちまで危なくなりかねない。

    「ユナ、右!!」
    「クッ」

    叩き落とすように振るわれた腕を紙一重で掻い潜り、顔の目前まで迫る。
    至近距離から銃弾の嵐を浴びせて怯んだ隙に後退し様子を窺う。
    煙が晴れ、竜は何も無かったかのように突っ立っている。

    「この程度じゃ駄目か」

    やはり、潰すにはサンダーボルトぐらいは必要だ。
    下手をすれば連続で使用するか、バーストと併用するぐらいは
    しないと落とせないかもしれない。
    だが、竜はそんな隙は与えてはくれない。
    お兄ちゃんたちが動ければ何とかなるんだが―

    『フフフ、そろそろ観念したら?
     命乞いすれば助けてあげてもいいわよ』
    「おあいにくさま。
     まだ、負けたわけじゃないわ」
    『そう、まあいいわ。
     では貴方がまず死にな―』

    ―ザッーーーーーーーーー

    突如、女の声が途絶え雑音だけが周りに響く。
    そして、竜の動きは止まり、硬直する。
    僅かな時間が経ち、右側にあった直ぐ近くのドアから、
    見覚えのある少年が縛られた女を捕まえたまま現れ、
    そのままこちらへと近づいてくる。

    「あんた今まで何をしてたのよ」
    「目ぼしいものは回収してついでだったから、
     この通り首謀者も捕まえた。
     『腕』もちゃんと回収してるし撤収してもいいよ?」
    「そう。
     でもこれを放って置ける?」

    何故かテクノスは完全にその動きを止めている。
    動かしていたものがいなくなったからなのか、それともこの女が
    止めたからなのかは分からない。

    「ああ、調べた時は冗談かと思ったが本当だったんだ。
     なるほど、これは凄い。
     で、ミスゴールドアイ。
     これは君が止めているのかい?」
    「まさか。これは私1人が止めようとしても大人しく止まるたまじゃないわ。
     今動いていないのはコントロールが離れて自分の状況が
     把握し切れていないから。
     きっと、このまま暴走するでしょうね。
     ざまあみなさい」

    言い終わるが否や、竜は今までよりもさらに激しい攻撃を繰り広げてきた。
    同時に何発も放たれる炎弾をかわし、レイスは女をいま出てきた扉の先に放り
    扉を閉め、空いた両手に木の棒を構える。
    その木の棒を剣の柄に見立て、構えを取り、まずは結界で守られた鳥篭へと
    あるはずの無い刃を神速と形容するに値するスピードで振るう。

    「『見えざる刃は見えざるを断つために在りき。
     故、見えざるを切るはこの刃の宿縁なりき』
     なんてね」

    すると鳥篭の格子は鋭利な刃物に切られた様にバラバラになって地面に落ち、
    張られた結界も砕け散り、牢獄から二人が出てくる。

    「ふー、やっと出られたぜ」
    「全くだ」

    なまった体をほぐすようにして体を伸ばし、武器を掴もうとして
    いまさらながら気付く。

    「やばい、武器を奪われたままだ」
    「これかい?」
    「そうそう、それだ。って何でお前が持ってんだ?」
    「いや、ちょっと色々探してたらついでに見つけてね。
     そんなことより、さっさとこれを片してしまおう」

    3冊のアーカイバを取り出し、その内二つを投げ渡し、
    最後の一冊から一本の剣と腕を取り出す。
    取り出した腕と剣を受け取り、三人は放たれた矢の如く竜へと突進する。
    と来れば、私に役目は―

    「リン。弱いところ分かる?」
    「急所と言えるところなら魔力の流れが多いでしょうから判別可能です」
    「オッケー」

    大きな長身の銃、サンダーボルトを取り出し三人が抑えている竜へと
    銃口を向ける。
    そして、リンの目によって教えられた魔力の高い場所、体中の魔力が
    集まる場所、つまり竜が持つ心臓へと狙いを絞り、竜の動きが止まるのを待つ。
    ちょうど、レイスとギンが竜の両腕を押さえ、がら空きになった中心へと
    大きく広がり、自らの身長よりも大きな大剣でほぼ垂直に切り下ろし、
    竜の胸元に一本の傷を残し、竜が咆哮を上げ動きが僅かに止まった。

    「いけ!!」

    放たれた弾丸は黄金竜で持ってしても捉えられず、真っ直ぐにリンの言った
    魔力の集まった心臓へと突き刺さり貫通・・・はしなかった。
    だが、心臓に風穴をあけられ、銃弾の衝撃までは受けきれず、
    その衝撃で後ろへと倒れかけながらも、その場に必死に踏みとどまるが
    そのおかげで大きな隙が出来た。
    最後の仕上げといわんばかりに右腕をあの義手に交換していたギンは
    正面が無防備になった瞬間、私の使い魔の背に乗って懐にもぐりこみ、
    その背中を踏み台にして飛び掛り、その腕を突き立てる。
    回転する矛は竜の表皮をえぐりながら突き進み、銃弾とは比べ物に
    ならないほどの風穴を身体のど真ん中に空け、
    そのままの勢いで背中まで貫通した。
    そして、そのまま地面へと叩きつけられるところを使い魔に拾わせる。
    見れば、ギンの義手はその使命を全うしたらしく、煙を上げゆっくりと
    回転数が減っていき、もう完全に動かなくなる。

    「お疲れさん。後でちゃんと直してやる」

    まあ、あの傷ではいくら竜とはいえ動くどころか生きているかさえ怪しい。
    ひとまず、これで一件落着―

    「ウォォォォォーーーーーーーーーー!!!!!」

    ―なっ!?

    体に巨大な風穴を開けられ、最早瀕死の重傷であるはずの竜は尚も
    立ち上がり、その咆哮を轟かせる。
    そして、見た。
    先ほどサンダーボルトで開けた筈の風穴もお兄ちゃんの剣で付いた傷跡も
    綺麗に消えている。
    そして、いまちょうどギンにあけられた風穴を埋めるようにして何かが
    傷口を覆っていく。

    「どう・・・なっているの?」
    「分かりません。ですが、このままでは・・・」
    「負けるな」

    どんな致命傷を与えても直るなど反則だ。
    一体何が傷口を覆ったのか?
    それが分からなければ対策の立てようも無い。
    まずは、正体を暴かなくては。

    「とりあえず、手当たり次第に攻撃して反応を見よう。
     もしかしたら、あそこだけかもしれない」

    それしかないだろう。
    だが、勝てる見込みはかなり低くなった。
    それでも、ここで諦めるわけには行かない。










    「はぁぁーーー!!」

    目前に迫り来る振り下ろされた竜の腕を紙一重で捌き、
    両手に持った見えざる刃でその腕を幾度と無く切りつける。
    そして、地面より引き抜かれた腕にまるで曲芸士の様に飛び乗り、
    その腕を駆け上がって竜の急所、逆鱗へと走る。
    腕を上りきり、首の真下にある鱗へと飛び剣を連続に振るう。
    だが、竜は激しい悲鳴をあげるだけで、次の瞬間にはその傷を何かが
    塞いでいく。
    空中で振るわれた腕を剣を盾にして防ぐが、勢いは殺せず壁へと吹き飛ばされる。

    「クッ、逆鱗も駄目か」

    金髪の双剣士、レイスはぶつかる瞬間、壁を蹴ることで衝撃を吸収し、
    地面へと降り立つ。
    その間にも、ギンが、ユナがそしてレイヴァンが攻撃を加えるが
    効果は無い。
    どこに攻撃を与えても傷口は全て、何かが覆い治癒している。
    試しに、金属の部分も攻撃してみたがそこもまた同じように
    何かが覆い、その内部は完全に修復されている。

    「はあ。もう、弾も少ないわね」

    もう、何発も撃った愛銃の一つサンダーボルトを構えながら、
    憂鬱にため息をつく。
    何で回復しているか分からないが、体力的にも明らかに
    こちらの方が不利である。
    今だって、全員既に息が上がりかけている。
    これでは全滅を待つだけだ。
    もう、目的は達成しているので逃げようと思えば逃げれるが、
    こんなものを見てしまっては放っていくことは出来ない。
    まあ、本当に危なくなったら撤退するつもりだ。
    しかし、何か引っ掛る。
    あの修復が何かに似ている。
    一体・・・・・・何に。
    !?
    まさか―

    「リン。お願いもう一度傷口を見てて」
    「ですが、もう何度も見てますよ。
     これ以上は私も・・・」

    リンも辛そうだ。
    直接攻撃こそ参加していないが、このからくりを紐解くために
    その人が見るにあらざる世界を何度も見ているのだ。
    疲労も大きい。
    だが、もしも私の想像が正しければ・・・

    「お願い。傷口の魔力を形に注意して」
    「魔力の形・・・ですか?」

    ちょうど、お兄ちゃんの剣が竜の胴をなぎ払ったところだ。
    だいぶ深く切れたが、またも、何かが覆って傷口が塞がっていく。

    「別に何も・・・」
    「その先!!」
    「え?」
    「覆った内部の魔力の形を見て」
    「なっ!?
     まさかこれは」

    灯台下暗しというべきか。
    目の前にそっくりの存在がいるというのにそれが特別だと考え
    除外してきたせいだ。
    最初はあの覆ったものが傷を治していると思った。
    でも違う。
    治しているのはあの竜自身だ。
    その覆っているのは金属でありながらも細胞のように自己増殖を
    持ちえる特殊な金属。
    それが人で言う瘡蓋の役割を果たし、今まさに竜が己の持つ魔力で
    仮初の肉を作り出し、自らの体を少しづつ修理しているのを
    隠し、保護していたのだ。
    その修復方法は私の使い魔や魔族、吸血鬼の治り方とよく似ている。
    魔族や魔獣、死した存在の魂と契約を結び、失くした腕にそれらを
    憑依させることで失った身体の変わりを果たさせる術は昔から存在する。
    もっとも、それらは当の昔に失われた技術だし、魔族や魔獣との
    契約などはあまりにも危険、死したものの魂の場合もそれらを従える力量が
    無ければ魔力と生命力を全て吸い尽くされ、死ぬことさえある。
    そして、全く異なる存在の魂を身体に埋め込むわけだから、拒否反応が
    おこり、様々な弊害が起こりうる。
    そんなわけで義手などの技術が発達した現在ではもはや無用となった術だ。
    全く、何故今まで気付かなかったのか。
    だが、これでからくりは解けた。
    仮初の身体はこの黄金竜の魔力か契約で構成されているのだろうが
    そうすると、まだまだ大量の魔力が残っているはずである。

    魔力が切れるまで攻撃する?

    ―こちらが先に動けなくなる。

    以前と同じように回復する前に全て吹き飛ばす?

    ―大きさが違いすぎる。

    魔力自体を奪う?

    ―どうやって?

    これからどうすれば・・・・

    「ぐぁぁぁーー」
    「お兄ちゃん!?」

    思考に行き詰ったところで竜に吹き飛ばされ、飛んで来た兄を身体を
    張って受け止める。
    流石に普段の力じゃ無理だったので、魔力で強化してなんとか止められた。

    「ぐっ、すまん。大丈夫か」
    「私は平気。それよりあの正体が分かったんだけど、
     アレを止めようと思ったら魔力を吸い取るしかないと思う」
    「魔力?
     あれは魔力で傷を塞いでいるのか」
    「多分」
    「・・・・・・・・・・・・・」
    「お兄ちゃん?」
    「魔力を奪うなら、一つ手がある」









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