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■193 / 5階層)  赤き竜と鉄の都第6話
□投稿者/ マーク -(2005/04/24(Sun) 02:42:45)
    2005/04/24(Sun) 03:11:34 編集(投稿者)

    『約束』


    あれは何時の事だっただろうか?
    私がまだ小さかったころ、初めて炎の上位魔術を試した際
    魔力を全て持ってかれて寝込んだときだ。

    「だから言っただろう。お前にはまだ早いと」

    お兄ちゃん?

    「だって・・・」
    「だっても何もない。いいか、無理はするな」

    ああ、そうかこれは夢だ。
    まだ、幸せだった過去の記憶だ。

    「分かってる。でも私はコレしか出来ないから」

    私に適正があったのは炎だけ。
    あとは特別といえるような才能は無かった。
    そう剣も他の属性の魔術にも。
    だから私は無理をしてでも炎を極めようとした。
    その結果がコレ。
    魔術の使いすぎによる魔力不足で倒れてしまった。
    ―お兄ちゃんと一緒にいたかった。
    ―お兄ちゃんの役に立てるようになりたかった。
    ―お兄ちゃんの隣に立ちたかった。
    ただ、そのために努力を重ねてたのに逆に迷惑を掛けてしまった。
    それがとてもとても悲しかった。

    「お兄ちゃんごめんね」
    「気にするな。
     妹を助けるのは兄の仕事だ。
     だからお前はそんなに急ぐな」

    ありがとう。でも違うよ。
    私はお兄ちゃんを助けられる人になりたい。
    だから、たとえ転んでも走り続けなくちゃいけない。
    お兄ちゃんの隣にいるために。

    「約束してやる、危なくなったら絶対に助けに来てやるからな」

    大嘘つき。










    「ん・・・」

    ここはいったい

    「ッツ!」

    クッ、やばい。
    右手が完全にイッテル。
    両足もやばいけど、落ちる直前に使い魔に掴まり
    ブレーキを掛けて受身を取ったおかげか、怪我はマシだ。
    落ちた瞬間パニックに陥って使い魔のことを激突寸前まで
    気付かなかったのはあまりにも間抜け過ぎるが、仕方が無い。
    足の方は折れてないが直ぐには動けそうに無い。
    一応、治癒呪文というか回復力を高める魔術を掛けてるが
    魔術は精神も使う。
    この状態ではいつものような効果は期待できず時間がかかる。

    ―ザッ

    「グルルル」
    「なっ!?」

    なんて間が悪い。
    こんな状況で最早いないと思っていた魔物に会うなんて。
    何とか動く左手を動かしデッドアライブを握り、銃口を向ける。

    (来るな!!)

    こんな状態ではまともに撃てるとは思えない。
    撃てば反動でかなりの激痛に襲われるだろう。
    その上、都合は悪いことに銃弾は0。
    撃てるのは魔力弾のみでこの魔獣を倒せるかどうか怪しい。
    だが、魔獣は銃を恐れることなくゆっくりと歩み寄ってくる。
    ―おかしい。
    本来、獲物を見つけたらそのまま飛び掛ってくるのが普通だ。
    だが魔獣はそんな様子もなく目の前で立ち止まり、
    服を咥えて首を大きく振るい、私を背中へと乗せる。

    「ッタ〜」

    もう少し丁寧にやりなさい!!
    と、魔獣を叱り付けたくなった。
    しかし、わざわざ動けない獲物を運ぶなんて何のつもりだろう?
    しかも先ほどから殺気は微塵も感じられない。

    「・・・・・何のつもり?」

    落ちないよう左手で体を掴みながら返答はあまり期待せず、獣に喋りかける。
    魔獣や獣人は知能が高く、人語を理解するだけなら出来る者も多い。
    が、獣は一瞬、立ち止まるだけでそのまま特に変わった行動も起こさず
    今までどおり道を行く。
    洞窟内のさらに奥へと進む魔獣に掴まりながら、少しでも体を休める。
    まあ、この状態では何もできないし、様子を見よう。










    「リン。どうだ?」
    「音は二つ。両方とも移動してます」
    「一つはユナとしてもう一つは?」
    「分かりません。逃げているのか助けられているのか」
    「少なくとも生きてはいるんだな」
    「はい」

    ユナの落ちた先、遥か下へと続く穴を見て一瞬嫌な想像をし、
    すぐさま頭を振ってその考えを打ち消す。
    飛べる使い魔がいるんだ。よっぽど大丈夫なはずだ。
    そう、自分に言い聞かし、螺旋の崖を下る。

    「ったく、本当に間抜けな奴だ」
    「ふふふ」
    「なっ、なんだ?」
    「いえ、あんなに仲が悪そうだったのにやっぱり心配なんですね」
    「うっ。たっ、ただ化けて出られたら厄介なだけだ」
    「はいはい」
    「・・・・お前も結構性格悪いよな」
    「そうですか?」
    「はあ。いくぞ」










    「ねえ。まだかかるの?」

    魔獣は全く意に返さず、黙々と歩く。
    別に答えなど当てにしていないが、こんな状況では喋って気を紛らわせたい。
    先ほど落ちた際にランタンが壊れたから場所も状況も分からない。
    せめて、周りが見えれば落ち着くのだが・・・・

    「あっ」

    光だ。
    本当に僅かだけど進む先に明かりが見える。
    もしかして出口だろうか?
    だが、どんなところであろうとこんな暗い場所よりはマシだ。
    暗い道を抜け、大きな空間に出る。
    出口ではなかったが、高い天井から光が降り注いで、
    周りを明るく照らしている。
    が、この場所は・・・

    「お墓?」

    壁に行くに連れて盛り上がっている広い空間の丘のような両端からそこらの壁から
    削り取ったような粗い墓石が規則正しく並び、その数は百を軽く超えている。
    しかし、この大量の墓は一体誰のものなのか?
    普通に考えればここの発掘に携わった犠牲者だろうが、
    こんなところに立てる必要はない。
    むしろ、運び出して山の上か周りにでも建ててやるべきだろう。
    じゃあ、一体誰の?

    「グルルルル」
    「どうしたの?」

    突然魔獣が唸り出し、首を振ってある方向を示す。
    示す方向を見るが別になにもない。
    魔獣も僅かに威圧するような唸り声を上げ、視線を戻す。
    だが、僅かに何者かの視線を感じた。
    視線の先は魔獣が向いていた方向とピッタリ一致する。
    ・・・確認しよう。
    もし、何かいたら危険だ。
    意識を集中させ、使い魔とのラインに魔力を集める。
    注がれた魔力で体を作り出し、白き竜が実体化する。
    普段よりも小さめな竜は翼を羽ばたかせ上昇し、注がれる視線の元、
    高い壁に向け炎を浴びせる。
    壁の周囲が煙に包まれ、竜の姿も隠す。

    「ギェェーーーーー」

    竜が悲鳴と共に煙から飛び出し、体に纏った炎を払い空中で姿勢を直す。
    煙が晴れ、それは姿を現した。
    まるで蜥蜴のような平らな胴と這うようにして壁にへばり付く長い手足。
    背中には翼が生え、不恰好な竜のようだ。
    尾からは巨大すぎる蛇が三本生え、各々が別の意志を持って動いている。
    そして全体が赤い鱗で覆われ、あの炎の中、焦げ目一つ付いていない。
    そして、普段よりも小さいとはいえ竜とほぼ同じ大きさ。
    本来ならば存在するはずが無い生き物。
    あれは自然に生まれてくる存在ではない。
    魔科学に魅入られたものが生み出した異端なるもの、キメラだ。

    「なんでキメラがここに!?」

    赤いキメラは張り付いていた壁を離れ、背中の不恰好な翼で降りてくる。
    慌てて、竜を向かわせ迎撃させる。
    今の状態では竜一匹を操るのがせいぜい。
    しかも、意識が乱れて魔力のラインも不安定で竜はその力を出し切れていない。
    さらに、体が言うことを聞かず援護も出来ない。

    (負けないでよね)

    竜が敗れれば次に狙われるのは自分たちだ。
    まさに最後の砦。
    負けるわけには行かない。
    竜とキメラの肉弾戦は一進一退の攻防を見せている。
    お互いに何度か爪が相手の体を襲っているが、致命傷にはなっていない。
    あまり余裕は無いがあの程度の傷なら今の魔力でも再生できる。
    ならば、このまま押し切る。
    キメラが大降りで腕を振るうが竜はそれを捌き、その背中へと爪を突き立てる。
    だが、それを尾の蛇が鞭のようにしなり、竜を弾く。
    姿勢を直して向き直るが、キメラの姿はいない。
    竜がバランスを崩した瞬間、キメラの体が周囲の景色と同化したのだ。
    最初も同じようにして隠れていたのだろう。
    使われている体から判断すればカメレオンか何かの保護色。
    だが、姿が見えないのは厄介だ。
    一体どこに?
    竜もまた羽ばたきながら、首を動かし周囲を見渡し警戒する。

    (羽ばたき?)

    そうだ。姿が見えなくても翼を動かせば音がする。
    だが、音は唯一つ、竜のものだけ、つまりやつは飛んではいない。
    ならば、来るのは!!

    「上!!」

    言うと同時にキメラが保護色を解除し、竜を目掛けて天井から落ちてくる。
    竜も上を向き、迎え撃つべく爪を構える。

    ―ドッ!!

    竜の爪はキメラの翼をもぎ取り、キメラの爪は竜の胸元を貫いていた。
    竜は貫かれた胸元から少しづつ崩壊し、光の粒子となって散った。
    そして、揚力を失ったキメラが大きな音を立て落ちてくる。
    痛む体を鞭打って、魔獣から降り、左手に銃を構える。

    (立つな!!)

    最早立つのもやっとの状態で戦うなど自殺行為のようなものだ。
    だが、舞い上がる土煙の仲からその巨体が現れる。

    「ウグアアァゥーーーーーー!!」

    その姿を見た瞬間、弾けれる様にして魔獣が飛び出し、キメラへと向かう。
    向かってくる魔獣へと口をむけ、口内に炎が溢れる。
    魔獣は一度、私から射線をずらすためか右に動くが、その動きに合わせて
    キメラも首を動かし炎弾を吐く。
    せまり来る炎弾に魔獣はまずは加速して突っ込み、
    十分引き付けたところで消えた。
    保護色などではなく、圧倒的な速さによって一瞬で視界から消えたのだ。
    炎弾が陰になっていたキメラからすれば完全に消えたように見えただろう。
    その一瞬の隙を突き、魔獣が背中に回り、
    残ったもう一方の翼の付け根へと噛み付く。
    背中からきた激痛にキメラは咆哮を上げる。
    暴れ周り、尾の蛇が魔獣を締め上げ喰らい付く。

    「グアアゥーーーーーーーーー!!!!」

    一際大きな咆哮と共に魔獣が翼の付け根を背中の肉ごと食い破り

    「オオオォォーーーーーーーーーーン」

    ついに力尽き粒子となって消滅した。
    魔たる存在である魔獣の最後の瞬間。
    魔獣が消えた瞬間、痛みも忘れ、デッドアライブの引き金を引く。
    だが、それらの銃弾はキメラの鱗に弾かれ届かない。
    飛んでくる銃弾を無視し、キメラの口から炎が放たれる。

    「―嘘つき」

    助けてくれるって言ったのに・・・。
    放たれた炎弾は真っ直ぐ、こちらに向かい。

    ―ッドォォオーーーーーン!!

    耳を突く轟音。
    人間など簡単に焼き尽くす炎が爆発し、周囲を焼き尽くす。
    だが、その炎の中に一つの影があった。

    「嘘つきとは心外だな。ちゃんと間に合っただろ」
    「あっ」

    まるで御伽噺の英雄のような登場。
    自身の身長よりもさらに巨大な盾を前に出し、
    ユナを庇う様にして飛び出してきた。

    「悪いな。心配掛けて」
    「お兄・・・ちゃん?」




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