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■194 / 6階層)  赤き竜と鉄の都第7話
□投稿者/ マーク -(2005/04/24(Sun) 02:43:54)
    『兄』





    「人の妹に手を出しやがって、覚悟しろよ蜥蜴」

    そういって、炎を払うようにして盾を振るうと溶けるように盾が形を崩し、
    一本の剣に変わった。
    兄が持つ、特殊な金属で作られた形状変化の武器MOS、
    メモリーオブソウルだ。
    剣のみならず、武器ならばどのような形にも変化する。
    ただし、弓の矢や、銃の弾のような物に変化は出来るが撃つことは出来ない。
    また、双剣のように二本にする場合は何か鎖のようなもので繋いだ形で
    分離させることは出来ず一つに繋げなければならない。
    あとは、使用者のイメージが重要となるため、真に使いこなせる者でも
    実際に見たことのある剣の形を重視する必要がある。
    だが、慣れれば剣ではなくこのような盾にも出来る優秀な武器だ。
    キメラは炎の中から現れた男の殺気に怯み、逃げるようにして再び姿を隠した。

    「気をつけてね。
     保護色で姿を見ることはできないけど音は消せないはずだから」
    「ああ、分かった」

    兄はこちらを振り返ることもせず、周囲に気を配る。
    静かだ。
    何の音もせず、ただ静かに時間が過ぎる。
    やがて、

    ―ボシュッ

    「ヌン!!」

    遥か上の壁から小さな炎弾が放たれ、それを剣で払い落とす。
    そして、剣を長い鎖でつながれた双剣に変え、その内の一本を炎弾が
    放たれた辺りに渾身の力で投擲する。
    短剣は一直線に壁へと当たり、深々と突き刺さる。
    どうやらキメラは既にその場から離れていたらしい。
    そして短剣が外れたのを嘲笑うかのようにして再び小型の炎弾が放たれた。
    それを手に持った方の剣で炎を防ぎ、長い鎖を勢い良く引き、
    剣を回収、再び投擲。
    そのやり取りが繰り返され、炎弾をかわしながら鬼ごっこが続く。
    しかし、あの巨体では剣が刺さったとしても威力は
    全くと言っていいほど無いだろう。
    そんな圧倒的に不利な状況でありながら、男の顔に焦りも不安も無く、
    僅かに口を動かすだけで、平然としていた。
    向こうは焦れてきたのだろう。
    先程よりも炎弾のペースが速くなり、どんどん放たれる。
    だが、それらを全て防ぎ、放たれた大量の炎弾からキメラのおおよその位置を
    さらに絞り込んでいく。

    ―カチャン

    「コレで終わりだ!!」

    短剣が壁に当たる直前何かに突き刺さり、軋む様な音のする。
    鎖で繋がれた先の剣をへ向け、構築した魔術を放つ。

    「ディスチャージ!!」

    声と共に高圧電流が金属の鎖を駆け巡る。
    一本の鎖で繋がれた剣がキメラの皮膚を貫き、体内へと電流を流し込む。
    キメラは力なく壁から落ち、地面へと落下する。
    盾と短剣を一本の剣に戻し、落下したキメラ目掛けて走る。
    盾から戻した剣を今度は巨大な大剣へと変え、倒れたキメラへと
    振り下ろす。

    ―ズンッ!!

    大きく振るわれた大剣はキメラの首を両断し、首が地面に落ちる。
    振るわれた腕を屈んで避け、首を失ってなお動くキメラに再び剣を振るう。
    体勢を立て直し、突き出された爪が届くよりも速く腕を絶ち、
    そのままの勢いでもう一方の腕も断ち斬る。
    そして、両腕を失い最後の足掻きと言わんばかりにこの体を動かす
    もう一つの頭である尾にいる三匹の蛇を渾身の力を籠めて振るった剣で
    まとめて断ち切り、ついにキメラが動きを止め、崩れ落ちた。
    そして死んだキメラの屍を悲しそうな目で見ながら、
    こちらに歩いてくる。

    「大丈夫か?」
    「うん。なんとか大丈夫」
    「・・・それのどこが大丈夫だ?
     右腕を見せてみろ」

    兄にそう指摘され、素直に右腕を見せる。
    右腕に触れ、折れた腕に触れた手のひらへ力を集まる。
    少しずつ痛みが引き、ついに気にならないほどになった。
    治療の魔術ヒールだ。
    治療の魔術は地味だし、回復の魔術と似ているが実はかなりの技術を要求される。
    本来、治癒能力を高める回復と違い、傷ついた体を文字通り治すこの力は
    意外と高位の魔術に位置する。

    「動かしてみろ」

    右手でこぶしを握り、肘を曲げ伸ばしする。
    完治とはいえないが十分すぎるほどだ。

    「よし。大丈夫そうだな」
    「ありが・・・と」

    (あれ・・・・)

    「ユナ!?」
    「・・・・・・スー」
    「・・・寝ただけか。無理も無いな」

    そういって安らかな寝息を立てるユナを背中におぶり、どこか休ませるに
    良い場所はないかと辺りを見回したところで―

    「ユナ!!大丈・・・夫・・・か?」
    「えーと、誰ですか」

    ユナが入った入り口から一組の男女が走りこんできた。

    「いや、おまえ達こそ誰だ?
     妹の知り合いか?」
    「妹!?
     じゃあ、あんたが噂の男か」
    「噂が何か分からんが説明を頼めるか?
     ご覧の通りユナは眠ってしまってるし」
    「はあ・・・・・」

















    ―ウィーーーー!!

    ―ガガガガガッ!!

    ―カンッカンッカン!!


    五月蝿い。
    一体誰だ?
    久々の安眠を妨害を邪魔するやつは。
    瞼を開け、半分寝ぼけたまま周りを見ようとし―

    「おっ、起きたか」
    「えっ!?」

    現在の状況に気付いた。
    いつもより格段に高い目線に、体に感じる広い背中。
    何か懐かしいと思ったらまさかこの年でこれは!!

    「ちょっ、ちょっと。おっ降ろして!!」
    「うわ!!暴れるな」

    二人っきりならともかく誰かいる状況では行くらなんでも恥ずかしすぎる。
    何とか兄の背中から降りようと必死に抵抗するがビクともしない。
    その際に、兄の背中にやわらかい物が何度も当たっているがそんなことを
    気にしてる余裕も無い。

    「普段では考えられない対応だな」
    「そうですか?」

    と、暴れる私とそれを背負う兄を物珍しそうに眺めるギンとリン。
    悪かったわね、普段と違って!!

    「とにかく降ろして!!」
    「だが、足はまだ完治していないんだ。
     そんな状態では立つのも大変だろう?
     それで悪化させたら元も子もない。
     大人しくしていろ」
    「うっ、ならせめて他の方法にして」
    「他か。では」

    そういって、今度は器用に背負っていた私を前にもって行き、
    両手で抱きかかえるようにする。

    「へっ!? こっ、これは!?」
    「世間一般でお姫様抱っこといわれるものだが?」
    「そういうことじゃなくて!!
     ほっ、他は無いの!?」
    「無いな」
    「なっ!!」

    きっぱりと言い張り、もはや聞く耳持たずとユナの抗議を無視する。
    実はというとレイヴァンとしてもあのままおんぶというのは少し抵抗があった。
    なにせ、背中にやわらかい物が常に当たってどころか押し付けられていたのだ。
    他に人がいるということもあって何とか踏みとどまれたが、
    実は意外と危なかったのである。
    やがて、疲れたのか諦めたのかユナの抗議の声も小さくなり静かになった。
    そして、レイヴァンからとどめに一言が放たれる。

    「では譲歩してこれとおんぶ、どっちが良い?」
    「・・・こっちでいい」
    「良し。人間素直が一番だ」

    恥ずかしさで真っ赤になったユナは兄の顔を見上げながら、
    どことなく嬉しそうでもあった。

    「そういえば、なんかうるさくて起きちゃったんだけど、
     何の音?」
    「アレだ」

    そういって、首を動かし目でその方向を指す。
    指した方向は立ち並ぶ大量のお墓だった。

    「お墓?」
    「ああ。せめて弔ってやろうと思ってな」
    「何を?」
    「キメラたちだ。あれもまた犠牲になったものだからな」
    「じゃあ、ここのお墓は全部・・・」
    「ここにいた大量のキメラの墓だ。
     一週間掛けて全て掃討したと思ったのだが
     取り逃しがいたらしい」

    そっか、ここで噂になった魔物の異常発生は間違いだったんだ。
    どこかが、キメラを処分するためか、はたまた何かの意図があって
    ここに放置して言ったのだろう。
    じゃあ、あの子も・・・

    「ねえ、お願いがあるんだけど」
    「ん」
    「もう一つお墓を作ってくれない。
     助けてくれた子がいたの。
     遺体は無いけど形だけでも弔って上げたい」
    「ああ、いいさ。というわけで頼む」

    そういって、レイヴァンがギンへと振り向き、簡単に言い放つ。
    見れば、銀の右手には最初にの激突した時の奇妙な義手が付けられている。
    さっきの音はコレの回る音と岩を砕く音だったのか。

    「ああ、畜生!!
     お前ら兄妹そろって良い性格してやがるぜ!!」
    「まあ、怪我人の頼みですし仕方ありませんよ」

    そういいながらも、リンに動く気配は無い。
    どうやら、彼女もギン1人にやらせる気らしい。
    ギンは怒りの矛先をそこらの壁に向けるようにして、
    荒々しく壁から大きめの岩を削りだしていく。

    「最高の義手をこんな土木工事に使うなんて彼の技師も草葉の陰で
     泣いてるでしょうね」
    「だったら手伝えーーー!!」

    ああ、駄目だ。
    頬が緩む。
    お兄ちゃんがいるだけでこんなにも違ってくるなんて
    やっぱり私にはお兄ちゃんが必要なんだ。
    改めて沿う実感しお兄ちゃんお体に回した腕の力を強める。

    「ユナ?」
    「ゴメンなさい。ちょっとだけこのままでいさせて」
    「・・・ああ。こんなんで良ければ好きなだけ良いぞ」
    「ありがと」





    形だけ作ったお墓に向け静かに祈る。
    魔獣に対しては少々おかしなことかも知れないが仕方が無い。

    「ありがとう、助けてくれて。
     お兄ちゃんたちもありがとう」
    「どういたしましてってな」
    「俺にも言いやがれ」
    「仕方ないわね。アリガト」
    「心がこもってねえ!!」

    お兄ちゃんにやっと再会できて心が軽くなったのか、
    なんか今ならこいつも少しぐらいは許せる気がする。
    っと、アレ?
    一瞬、足に少し力が入りづらくなり、バランスを崩して倒れかける。

    「だから、言っただろう」

    そして、お兄ちゃんが倒れかけた私を支えそのまま抱きかかえ
    そのまま持ち上げる。

    「やっぱりコレ?」
    「コレだ」

    先ほどと同様にまたもお姫様抱っこというやつだ。
    結構恥ずかしいんだよねこれ。
    まあ、ちょっとだけ嬉しいけど。

    「それにしても」
    「ん?」
    「どうして助けてくれたのかなって思ったの」

    命を掛けて救ってもらっといてなんだけど、
    どうしてそこまでしてこの魔獣は私を助けようとしたんだろう?
    本当、あの魔獣は一体なんだったんだろう?

    「恩返しじゃないのかな?」
    「恩返し。でも身に覚えが・・・って誰!?」

    突如背中からかけられた聞きなれぬ声に対してお兄ちゃんが距離を置く。
    今まで、全く気配がしなかった。
    青で統一された服を着こなし、金の髪がどこか高貴な感じを与えている。
    小柄で年は自分と同じぐらいか下手すれば下かもしれないといった程度だ。

    「やあ、久しぶりだね。
     それにしても二人とも相変わらずだな」
    「「誰(だ)?」」

    多少違ったが私のとおにいちゃんの声がハモった。
    知り合いにこんな男はいただろうか?
    必死に記憶を探るが全然出てこない。
    兄も同様に、同じように頭を抱えて必死に思い出そうとしている。
    そんな私たちの様子に呆れようにして、男がため息をつく。

    「やれやれ、覚えてないのか。
     結構ショックだな。
     これで思い出してくれると嬉しいんだけど・・・
     とりあえずボクの名前はレイス・クロフォードさ」



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