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■201 / 10階層)  赤き竜と鉄の都第11話
□投稿者/ マーク -(2005/04/27(Wed) 20:10:06)
    『奪還』








    夜も明け、空に明るい日差しが上り、辺りを明るく照らす。
    身体をほぐし、心を落ち着かせる。

    「さて、始めるか?」
    「いいよ」

    構えを取り、お互いに向き合う。
    下手に動けず、にらみ合いが続き硬直状態に陥りながらも
    じりじりと、円を描くようにして両者とも移動している。
    そして僅かな、本当に僅かな隙をつき、硬直を破り相手目掛けて駆け出す。
    近づき、間合いに入ったところで膝蹴りをくらわすが、
    それを冷静に手の平で受け流し、カウンターに反対の手で掌底が放たれる。

    「ーーーーッ」
    「甘いぞ」

    軽く後ろに吹き飛ばされ、お互いの距離が空く。
    地に足をつけ、踏ん張り態勢を整えようとしたところで
    さらなる追撃が襲い掛かる。
    繰り出される連撃を逸らし、弾き、受け止める。
    その連撃の合間を縫って蹴りを繰り出すが届かない。
    お互いに技を打ち合うが全て決定打にはならない。
    そして、勝負を終えるに十分な速さである必殺の一撃が
    繰り出される。

    ―ここだ!!

    その渾身の一撃を見切り、手の平で拳を逸らして回避する。
    そして私もさらに踏み込み、相手が踏み込んできた勢いをプラスした
    一撃を鳩尾へと食らわす。
    必殺の一撃をかわされた上でのカウンターだ。
    普通ならここで決まる。
    ―普通ならば。
    まるでその攻撃を予期していたかのように私の一撃を空いた方の手で
    わたしの拳を包み込むようにして押さえつけ止めている。
    読まれてた。
    そういうことだろう。
    おそらく、先ほどの一撃もかわされると想定してさらなる一撃を
    用意していたのだ。
    そして押さえ込んだ腕を引き、もう一方の手で私の身体を掴み、
    勢いよく投げる。

    ―ポスン

    激突する瞬間、手を引き威力を弱めてくれたため怪我などは無い。
    しかし、傷が完治してやっぱり歯が立たないか。

    「もう、傷はよさそうだな」
    「うん、けどやっぱりまた負けちゃった」
    「そういうな。
     魔術で負けて、肉弾戦でも負けたら俺の存在意義が無くなりかねん」
    「でも、魔術はお兄ちゃんのほうが数は多いよ」
    「それでもだ。
     お前はもともとは接近戦のタイプじゃないだろう」
    「でも、やっぱり悔しい」

    あれから結局二週間近く私の所為で動けなかったがそうやく傷も治った。
    回復の魔術を使えばもっと早く治ったが、どちらにしろ色々と準備がいるし、
    何でも回復魔術に頼っていると普段からある治癒力が低下するから
    重傷や緊急のとき以外はあまり魔術に頼らない方がいいらしい。
    そんなわけで自然に治癒するのを待ってたわけだが、
    一応ほぼ完治したとはいえその治り具合を知るためとリハビリをかねて
    数日前からこの組み手をやっているが、全く歯が立たない。

    「まあ、これで傷はもう大丈夫だな」
    「うん、心配かけてゴメンナサイ」
    「それはあいつらにも言ってやれ。
     最後に挨拶していくか」
    「そうだね」






    全員で坑道の中を進み、あの墓場に出る。
    広大な空間に広がる大量の墓碑を前にして、みな祈るようにして頭を下げる。

    「さてと、行くか」
    「ええ。あの子の敵は絶対にとって上げる」
    「散々、時間食わせやがって、待ってろよ」
    「もう時間もありませんし、さっさと終わらしてしまいましょう」
    「・・・・詳しい場所は知ってるの君たち?」

    ―ピクッ

    この山から出ようと歩き出したところでレイスから声がかけられ
    4人の動きがいっせいに止まる。
    そしてほぼ同時に後ろに振り向き、レイスを見る。

    「あー、あんたはこれからどうするんだ?」
    「はあ、知らないって素直の言えばいいのに。
     しょうがない。
     どうせボクもそこのアーティファクトを回収しようと持ってたし
     ついてってあげるよ」
    「・・・・・まさか、私たちに暴れさせて火事場泥棒でもやるつもり?」
    「もう少し、マシな言い方をして欲しいけど、まあその通りだね。
     でも、出来る限り君たちの手伝いはしてあげるよ。
     ようはギブアンドテイクさ」
    「利害が一致している間は味方ってことね。
     それで十分だわ。
     とっとと案内しなさい」
    「人使いが荒いね」










    「なあ」
    「なによ?」
    「この組み合わせは何だ?」
    「何か変?」
    「普通、図体のでかい俺とレイヴァンで二人、
     小柄なお前とリンとレイスで三人に分けるだろ」
    「そんな大差ないじゃない。
     文句があるなら降りれば?
     これは私の使い魔なんだから」
    「うっ、分かった」

    まあ、確かに言い分はもっともかもしれない。
    この中で一番大きいのはギン、次にお兄ちゃん。
    その次はレイスで、リンがさらにその次。、
    腹立たしいことに私が実は一番小さい。
    そんなわけで向こうはかなりきつそうだから文句も言いたいだろうが、
    これは私に使い魔なんだからそれに乗せてもらっていると
    言うのに文句を言われる筋合いはない。
    無論、これ以上、文句を言ってきたら問答無用で叩き落す気だ。

    「ちょっと、ギン!!
     もう少し前に行ってください」

    向こうは竜の背中に三人もまたがった状態だ。
    おかげで、前からレイス、ギン、リンの順で三人がピッタリと
    くっついている。

    「きゃっ」

    と、不意にバランスを崩したのか、リンが倒れかけ無我夢中で
    ギンの背中に抱きつく。

    「ごっ、ごめんなさい、ギン」
    「いや、別にこっちも得したし気にしてないぞ」
    「得?」


    見ればギンの顔がどことなく緩んでいる。
    ・・・最悪。
    その迂闊な発言に疑問を抱き、怪訝な顔をしていたが、
    何かを悟ったらしく、悪魔を思わせるような邪悪そうな笑みのままで、
    肋骨の辺りを力強く締め上げる。

    ―ミシッミシミシ

    「ガッ!?」
    「・・・得ってなんのことですか?」
    「おっ折れる。りん離してくれ!!」
    「ちゃんと、質問に答ええてくださいね?」

    そういいながらリン抱きしめている腕の力をさらに強め、
    ギンの体からあまり聞きたくない擬音が聞こえてくる。

    「わっ、悪かった。
     だが、わざとじゃないぞ!?
     大体、抱きついてきてたのはお前の方だ」
    「なるほど、、君さっきまでボクに抱きついてよね?
     それはつまり、そういうことなのかい?」
    「なにぃぃぃ!?」

    そう、さきほどリンがバランスを崩したのは竜が少々揺れたからで
    ギンもレイスも多少バランスを崩していた。
    そしてその際、反射的にレイスの体を掴んだわけだが。

    「あいにく、ボクは女の子にしか興味がないんだけどな」
    「おい、待てこら!?」
    「お兄ちゃんも気をつけてね。
     1人になったら危険だから」
    「ああ。だが、お前も気をつけろ。
     もしかしたら男女問わずでただの年下趣味という可能性もある」
    「確かに、僕はギン君より年下だと思うけどね」
    「ギン、そうだったのですか。
     だから今まで私を―」
    「いい加減にしやがれーーーーーーー!!!」

    ―ボキッ

    ギンの咆哮と共にどこか悲しそうな顔をしたリンが腕につい力を入れすぎ、
    ギンの肋骨の辺りから嫌な音が聞こえ、そのまま眠りについた。







    「それにしても、これがユナ嬢の使い魔か。
     はっきり言って非常識なものだね」

    結局、気絶したギンは上に載せておくのは狭くて嫌だ、
    という二人の意見を尊重し、竜の腕に握らせた。
    おかげで、もっともでかいのが消えたので背に乗っている二人は
    随分とのんびりしている。

    「何が言いたいの?」
    「いや、流石は王の力だ。
     人知を超えている」
    「なっ!?」

    何でコイツが王のことを?

    「っと、ここで降りてくれ。
     これ以上進むと見つかってしまう」 

    とりあえず、レイスの言うことに従い竜に降りるよう促す。
    下の森の中に降りて竜を霊体化させる。

    「こっちだ」
    「ねえ、どうして王のことを知っているの?
     貴方も王の1人なの?」
    「さあ?それはお互い生き残れたら教えてあげるよ。
     どうせ、君らにはそれらの知は残されてないんだろ?」

    間違いない。
    この男は王の秘密を知っている。
    だが、これから大きな戦いがあるというのに
    仲間割れなど愚の骨頂だ。
    力づくで聞き出すわけには行かない。
    だが、一体こいつは何者?






    「ほら、見えるだろう?
     彼らの極秘の研究施設の一つで、
     あれこそが僕たちの目的地だ」

    そういって、降りてまずギンを叩き起こし、散々歩いてきた先にあった
    ひっそりと佇む建物を指差して語る。
    館というにも城というにも何かが違う。
    はっきり言ってこれは砦というのが相応しい。
    なにかとてつもない存在から身を守るために作られた強固な要塞だ。
    巨大な壁で周囲を覆い、ちょうど4つの門が規則正しく並んでいる。
    そしてその入り口や、内部には大量の警備員が見張り、正面突破はかなり厳しい。
    屋上には四方になにやら奇妙な大筒が4つ置かれている。
    だが、あれは危険なものだ。
    おそらく竜さえ仕留められるであろうオーパーツの模倣品。
    空中からの進入も不可能だ。

    「見ての通り地上はおろか空からの進入も想定された強固な砦さ。
     はっきり言って進入するだけでもかなり難しい」
    「あの大筒は?」
    「ああ、あれか。
     あれはとあるオーパーツをコピーした劣化品らしく、
     防衛用ということでコードネームは『サキモリ』。
     コピーといえでもあれの一回り小さい携帯用、と言っていいかどうかは
     大きさ的に怪しいけど、その『キリビト』という兵器を持ってして
     テクノス用に竜を捕獲したらしい。
     だから、少なくとも竜を落とすくらいの威力はあると
     覚悟しておいたほうが良いね」
    「じゃあ、ユナの竜による奇襲は却下か」
    「現状では正面からの奇襲が不可能なのは確かだよ」

    つまり、あの『サキモリ』とやらさえ破壊できれば可能なんだけど、
    近づけば間違いなくお陀仏だ。
    かといって遠距離からの狙撃は―

    「遠距離からの攻撃は駄目なのか?」

    ああ、言っちゃった。
    やっぱり、分かってなかったか。

    「ギン。この距離からの狙撃でアレを沈黙させられると思います?」
    「確かに遠いけど、当てるだけなら・・・・て、ああ、そういうことか」

    どうやら分かったらしい。
    だが、機械技師がそれで本当に大丈夫なのか?

    「確かに的は大きいですけど、沈黙させるには重要な部分を
     撃ち抜く必要があります」
    「加えて言えばここから狙撃して、それで止まらなければすぐさま
     この辺りを狙ってくるだろう。
     それが運良く避けられたとしてもそんな派手なことになったら
     襲撃の可能性ありということで警戒が厳しくなり奇襲も出来なくなる」
    「そんなわけでそれは不可能だな」
    「なら―」
    「言っとくけど魔術はさらに無理だから。
     君だって魔力喰らいや魔力封じの素材ぐらい嫌って程知ってるだろ?」

    というか、これは竜の報復を想定しての装備だろう。
    そんな簡単には行くはずも無い。
    なにか、想定外の存在があればやってやれないこともないと思うけど。
    あっ、そういえば。
    コイツの・・・これならうまくいくかも。
    でも、僅かな欠陥がある。
    それが後にどう繋がっていくかは見当もつかない。

    「一つ作戦を考えたけど」
    「へえ、どんな?」
    「まず、1人だけ先発者を出す」
    「なっ!?」
    「囮・・・ということですか?」

    流石にこれにはギンとリンも絶句する。
    仕方があるまい。
    1人だけで進入させるなどある意味、死ねというようなものだ。
    もっとも、殺させるつもりは毛頭も無い。

    「別に死にに行けと言ってるわけではないし、囮になれとも言ってない。
     ただ、内部に進入してあの大筒の動力か動力とコイツを繋ぐ
     ラインなんかを破壊してもらう。
     その際にレイスの持ってるあの外套をつかえば、気付かれずに進入できる。
     そして動力が無ければあれはただの大筒だからどうにでも出来る。
     あとは内部の情報を探ってもらって、そのまま腕を回収してもらえれば
    理想的だけど、向こうもそれほどバカじゃないだろうから、
    腕の保管場所には見張りがあるか、鍵でもかかってるでしょうね。
     でもその間に突っ込めば私たちが陽動になるから
    先に入った者の危険も減るし、動きやすくなる。
     私はこれが一番確実だと思うけど」
    「なるほどな。
     だが、この作戦では先発者が全ての鍵を握る。
     誰にするつもりだ?」
    「多分、これが出来るのはただ1人。
     他の役目があるから私もリンも駄目。
     ギンも、そしてお兄ちゃんでも外套は多分使いこなせない。
     だから、先発者は元々その持ち主である―」
    「僕、という事になるわけだ。
     中を探ると言うのは願ったりな仕事だから僕は全然構わないけど、
     僕を信用していいのかどうか判断に困る。
     ユナ嬢が少々渋っているのはそんなところかな」
    「何故、俺では駄目なんだ?」
    「簡単さ。これは魔力の流れは防いでくれるけど
     異端な力の流れは隠せない。
     たとえ、これを着ても君はこの世界では異質として映る。
     そうだろう?」

    やっぱり、レイスは私の、そしてお兄ちゃんのことも知っている。
    本当に信用していいのか?

    「分かった。
     この作戦で行こう。
     俺はコイツを信じる」
    「えっ!?」
    「どうしたユナ?
     そんな鳩が豆鉄砲を食らった様な顔をして」
    「いいの?文字通り、こいつに命を預けることになるんだよ?」
    「構わんさ。
     それにいざとなったらお前の命は俺が守る。
     だから心配するな」
    「お兄ちゃん・・・」
    「そういうわけだが、ユナ嬢は?」
    「お兄ちゃんが賛成なら反対する必要は無いわ」
    「君たちは?」
    「まあ、お前はなんとなく信じていい気がするから、俺は構わん」
    「右に同じくです」
    「これはかなり期待されているようだね。
     では期待を裏切らないようにするとしよう」




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