Release 0シルフェニアRiverside Hole

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■388 / 3階層)  蒼天の始まり 第3話
□投稿者/ マーク -(2006/10/11(Wed) 13:57:50)
    初戦


    スノウライトと私たちが向かう街、レムリアはそれほで離れてはおらず、
    人通りも少ないから盗族なんかも出ない。ただ、その道で唯一の難所がある。
    夜になると魔物が出るといわれる森だ。森自体はそんなに広いわけでもなく、
    朝早くに入れば道さえ分かれば、日が落ちる前には十分、出られるほどだ。
    私たちは今、そこにいた。空には、きれいな月が見える。
    つまり夜である。無論、この森に魔物が出るということは知っている。
    言いたくは無いが迷ったのだ。
    森の道を知らなかったのだが、スノウへ来る人はみな、ここを通ってるわけだから
    人の通れそうな道を通れば大丈夫だろうと、安易な考えに至り、途中で道をそれ、
    迷ってしまった。元の道には戻れたのだが、日が落ちたので道の脇で休んでいる。
    倉庫に有った、魔除けのお香を持ってきて正解だった。
    まあ、お香と言ってもそれほど強力なやつではないから寝るときはセリスと交代で
    見張る予定だ。
    あと数日で、満月になる。それまでにはレムリアには着かなくてはならない。
    魔力がもっとも高まる満月の日は魔術を使う者にとって歓迎すべきものだが、
    セリスの場合、満月の日は限界まで膨れ上がった魔力が暴走しかける日である。
    逆に新月の日は私のほうに問題があるのだけど。

    「ねえ、お姉ちゃん」
    「なに?」
    「向こうに行ったらどうするの?」
    セリスも長く育った街から離れて不安なのだろう。
    これから自分がどうなるか分からないのだ、不安でないはずが無い。
    「実はね、ちょっと人を探すつもりなの」
    「人?もしかして・・・」
    「・・・たぶん、セリスの考えている人じゃないわ。
    私が探すのは・・・とりあえず、エルフかな」
    「エルフって、もしかして精霊について?」
    「そうよ」
    世界樹のあるという森に住み他種族と関わらず過ごし、
    精霊魔法と呼ばれる魔術を駆使する世界樹の守護者。それが彼らだ。
    「けど、あんまり当てにしないほうがいいよ」
    「えっ、なんで!?」
    「だって、精霊を使役するなんて、普通は無理だもん。
    いくらエルフが特別でも、その種族の人すべてが使えるなんておかしいよ」
    うっ、確かに精霊を使役するなんて普通は無理だ。
    それは他ならぬ私がよく知っていることだ。
    つまり、エルフが全員使えるということなら、精霊魔法とは精霊の使役では無く
    何か似て非なるものということになるだろうし、
    一部の人のみが使えるとしたら、普通に考えて、使えるのは彼らの中でもおそらく
    上位の者、ハイ・エルフといわれる者たちだろう。
    大きな街なら森から出て来たエルフやハーフエルフぐらいならいるだろうと考えていたが
    これは予想外である。
    かといって、エルフの森を探すなんてそれこそ雲をつかむような話だし。

    「どうするの?」
    「う〜ん、一応、1つ当ては、無いことも無いんだけど・・・」
    「なにか、問題あるの?」
    「信憑性に欠けるのよ、ただの噂話だから。」
    「ふーん、でも他にはないんでしょ。で誰なの?」
    「バルムンクよ」
    「バルムンクって、あの?」
    「そう、魔王殺しの勇者シンクレアのリーダー、バルムンクよ」
    シンクレアというのは王国では知らぬ者はないという、3年前に一度だけ現れた謎の冒険者たちの名である。
    その当時、魔王と呼ばれる存在が突如現れ、その配下の魔族に王城を占拠され、
    王国内が大混乱に陥った。
    そんな中、颯爽と現れ王城の魔族を倒し、王女ディシール・ネレム・フェルトを
    救った英雄たちである。
    その後、北の山の魔王を倒し再び、消えていったといわれている。
    彼らを見た人はほとんどおらず、シンクレアのメンバーの素性は全て謎に包まれている。
    バルムンクはそのリーダーで、蒼き空ともいわれる双剣士だ。
    「噂じゃあ、バルムンクって精霊を使っていたらしいの。
    もしかしたらハイ・エルフなのかもよ」
    「噂って誰から聞いたの?」
    「・・・・・・ミコトよ」
    ミコトが嘘つくようには見えないけど、その話を聞いたのセリスの誕生日だったから、
    酔ってたし、ミコトがデマを聞いたかも知れないから、自信はない。
    でも、そんな噂を知ってるなんてミコトって冒険者なのかな?
    「ミコトが嘘をつく様には見えないし、エルフの森よりはまだ、マシだよね。
    ・・・うん、探してみよ」
    「えっ!?」
    「どうしたの?」
    「あっ、ゴメン、ただの噂だし、そんな関単に賛成するなんて思わなかったから」
    「うん。でも、他に当ては無いんでしょ?エルフの森を探すって言うのなら
    反対したかもしれないけど、シンクレアなら王国内だけで済むでしょ。
    何よりシンクレアの正体について知りたいもん」
    「そっか、まあ確かに興味あるわね」
    この前言ってたスノウライトの北の山って魔王との戦いの場所だそうなのよね。
    街にはほとんど被害は無かったんだけどその後、街は魔王の堕ちた山なんていってるし、国のほうも調査が来ている。
    あれ??でも、魔王とシンクレアの出来事はお父さんが死んでから起きたことだから
    お父さんが知ってるはずは無いんだけど、ならどうして・・・

    ―ザワザワザワ
    風に揺られた葉が音を立てる。
    だが、その音に紛れたナニカを私の中のモノは感じ取っていた。
    「どうしたの?」
    「なにかいる。気を付けて」
    剣を構え、周りの気配を探る。
    セリスも倉庫で見つけた丸いあの武器「エターナル・メビウス(セリス命名)」を付け、私の方に背を向けて周りに注意を向ける。
    風に揺られた葉の音が止む。
    ―来る!!

    ―ダンッ!!バサバサバサッ!!

    周りの木々から、一斉に普通より大きな赤黒い猿が飛び降りてきた。
    数は4匹。私とセリスで2匹づつだ。

    セリスが降りてきた一体の猿にすぐさまにメビウスを飛ばす。
    不意打ちを悟られ、空中で姿勢を変えられるはずも無く猿の頭に当たり、
    骨の砕ける鈍い音と共に地に落ちて動かなくなった。
    もう一匹は仲間が死んでも気にした様子もなく、丸腰のセリスに飛び掛った。
    だが、セリスは手を払い、指についているメビウスの糸を伸ばして、
    向かってきた猿に糸を絡める。そして、魔力を通し切り裂いた。

    私は一度、後ろへ下がり、飛び掛って来た猿の爪を避ける。
    敵が多ければ、出来る限り複数を同時に相手せず、一体一体、
    別々に倒していく。
    ミコトにも言われれてたことだ。

    不意打ちが避けられ、着地の際に動きが止まったその一瞬を狙って、
    先ほどから詠唱していた冷気の魔術で、2匹を狙った。
    一匹は足を完全に凍らされ動きを止めたが、自由な腕を動かしてもがくが、
    すぐには動けそうには無かった。
    もう一匹は当たりが浅かったらしく、全身に冷気を浴びながらも向かってきた。
    両手で剣を握り、向かってきた猿に対して振るう。
    肉を切り裂く感触と共に猿の猿の身体が
    その動きを止め、地に落ちた。
    ちょうど、冷気で動きが鈍っていたため、私には傷ひとつ無かった。
    そして、動けない猿は氷が融けるや否や、すぐさま逃げていった。

    「はぁあ〜〜〜」
    お互いに戦いが終わり、セリスは気が抜けたらしく地面に座り込んだ。
    初めての実戦で、お互い傷ひとつ無いのは上出来だろう。
    けど、いつまでもここにいる訳には行かなくなった。
    「セリス、ここから離れよ。他の獣が血の臭いで向かってくるかもしれないから」
    「え!?わ、分かった」
    セリスが立ち上がり自分の荷物を片付けているときに私は違和感に気付いた。
    まだ、もう一人の私が警鐘を鳴らしていたのだ!!
    慌ててセリスの方を見るとセリスの側の木の上には先ほどと同じ猿が一匹いた。
    「セリス、上!!!」
    だが、セリスが慌てて上を向くと同時に猿が飛び降りた。
    間に合わない!!


    そいつは別に速いわけでも、力が強いわけでもなかった。ただ、賢かった。
    人の持つ武器の弱点も知っていた。人がどんな時に油断するかも分かっていた。
    そうやって猿は人を狩り続けていた。
    今回も同じだった、仲間が襲い、疲れ、油断したところを狙う。

    飛び道具の女を狙う。
    もう一人は、片方が死ねば取り乱す。そして、また隠れて襲えばいい。
    剣の女がこちらに気付いた。けど、襲うにはもう十分だ。
    下の女が見上げると同時に飛び降りた。


    ―ブシャッ

    一つの命を刈り取る音を聞きながら、私はソレに
    注意を払い、セリスの元へ駆け寄った。
    「セリス、大丈夫?」
    「うん、あの子が助けてくれたから。」
    そう、セリスは無事だった。猿がセリスに飛び掛ってきたとき茂みからソレが現れ、
    猿を噛み殺したのだ。
    闇に溶け込むような漆黒の毛と燃えるような真紅の瞳をした犬のような獣。
    普通の犬にしては大きすぎるから、おそらく魔獣の類だろう。
    魔犬はこちらを一瞥するとそのまま、咥えていた猿の死体を茂みに投げ捨てた。
    私は剣を構えながら、呪文の詠唱をする。
    はっきりいって魔犬が猿を殺したときのの動きを見た限り、私もセリスも対応できない
    だろう。なら・・・
    「待って、お姉ちゃん。闘う気は無いみたいだよ。」
    「えっ!?」
    魔犬を見ると先ほどの威厳も威圧も全く感じられず、ただ、眠そうに欠伸をして座り込んでいた。私の中のモノも、もう警鐘を鳴らしていない。
    確かに戦意は無いようだ。
    構えを解き、剣を鞘へ戻す。
    セリスは魔犬に近づき、その頭を撫で、魔犬はされるがままになっていた。
    なんか、ソレをみてたら、魔犬がただの大きな犬に見えてきた。

    ともかく、こうして私とセリスの初めての実戦は終了した。
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