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■402 / 17階層)  蒼天の始まり 第7話、C
□投稿者/ マーク -(2006/10/11(Wed) 14:18:02)



    『番犬』





    頭痛い。えーと確か昨日はああ、そうだ。
    シリウスを紹介してもらったんだ。
    もう、悪い冗談か悪夢にしか思えない。
    ・・・夢。ああ、そうか。
    何も言わなかったミコトに対する罪悪感から見てしまった悪夢なんだわこれは。
    うん、良く考えればミコトが王国の英雄なんてそんなことあるはずがないもの。
    「全部口に出てるわよ。それで、あたしが何ですって?」
    ・・・どうやら現実逃避も許されないみたい。



    「おはよう・・・」
    「おはよう、シリウスに会わせてやったというのに昨日までとはえらい違いだな」
    間違いない、ベアは分かっててやっている。
    そりゃ、私もミコトが強いのは分かってはいるが、
    こんな身近なところにいたら憧れも理想もあったもんじゃないと思う。
    せめて、知り合いじゃなかったら・・・
    「エルリス。あなた、さっきからかなり失礼」
    「えっ!?ああ。ゴメン」
    「まいいけど、セリスは?」
    「ショックで寝込んでる」
    「・・・そう。姉妹そろって本当に失礼よね。で私に何のよう?」
    とりあえず、嘘ではないと思うがカマ掛けてみよう。
    いや、別に信じてないわけではないというか、信じたくないというか・・・
    「ねえ、バルムンクが精霊使いって本当?」
    「!?何でそのことを!?」
    本当、みたい。噂しか聞いてないならこんな反応は出来ないと思う。
    つまり、本当にバルムンクと一緒にいたのだ。
    にしても、ミコト・・・・・・
    「前に酔払って話してたよ」
    「・・・・・・・・やっちゃった」
    「ははは。で、その話本当なんだよね?」
    「ええ。まあ、そうだけど?」
    やった!!これで何とかなるかもしれない。
    「じゃあ、バルムンクに会わせてくれない?」
    「無理」
    ミコトが間髪いれず即答する。
    「なんでよ!?」
    「だって行方知らないもの」
    「・・・はあ!?」
    「いや、実はね。
    私が行方知ってるのはサラだけで、他の奴は行方を知らないの」
    「なんで?」
    やっぱり、偽者なんじゃ?
    「仕方ないでしょ。私たちお互いの名前さえ知らないんだから。
    私、全部終わったら疲労で倒れちゃってね。
    起きたら同じように倒れたサラ以外、もういなかったの」
    「名前を知らない?でも、バルムンクって」
    「それが本名だと思う?それに私の名前は?」
    「ミコト・・・つまり偽名?」
    ここまで謎だと確かにそうも考えられる。
    「まあ、間違ってないわね。
    名前が知られたくなかったから付けた名前で、
    偽名とは少し違うかな」
    「でも、なんで?ミコトもそうなの?」
    「うん、私もそうだけどあまり名前を知られなくなかったみたい。
    まあ、実際サラの正体なんかは有名だし知られたらいろいろ問題あるかも」
    「・・・わかった。なら、せめてサラの正体と居場所を教えてくれない?」
    それ以外に手がかりは無いんだ。仕方が無い。
    「そうね、私以外の三人には何か通じる物があったみたいだし、
    私はバルムンクのことはあまり分からないけど、良く考えてみれば
    サラなら手掛かりがあるかもしれないわね。
    分かったわ。でも、理由を話してくれなきゃ嫌よ。
    仲間外れっていうのは気に食わないから」
    「・・・・・・それもそうだね。うん実は・・・」









    「・・・・・確かにバルムンクは精霊を使えてたけど、う〜ん」
    「やっぱり、駄目かな?」
    「えっ!?ああ、いいわ。サラの正体よね!?」
    「そう」
    「サラは有名よ。なんたってあの『ユナ・アレイヤ』だから」
    ピキッ!!
    あははは、運命の女神とやらはずいぶん意地悪らしい。
    「どうかしたの?」
    「ちょっと前に会った」
    「あら、そりゃ間が悪いわね」
    ほんと、なんでこんなにも・・・


    「まあ、元気出しなさい。
    正確な居場所は私も知らないけど、多分何とかなるから」
    「・・・すっごい不安だけど、ありがとう。でも、何でミコトはスノウにいたの?
    やっぱり、あの山が関係?」
    「まあ、一応ね」
    なんか歯切れが悪いけど、それ以外に私には思いつかない。
    「ユナの居場所だけど、魔術都市に工房があるから、そこが一番可能性は高いわ。
    もし、いなくても置いてある使い魔に居場所を教えてもらえることになってるし。
    目的地は魔術都市。ついでだから、付き合ってあげる」
    「ついで?」
    「そっ、あんた達が見つけてきたものはユナの頼まれ物なの」
    「ああ、そっかだからあの時・・・。分かった。とりあえず行き先は魔術都市だね」
    「ええ。と言いたいところだけど、生憎直ぐには出ないわよ」
    「なんか他に用事があるの?」
    「そうじゃなくて、あんた達このままだと足手まといにしかならないから
    私がみっちり鍛えてあげるわ」
    「ええっ!?いっ、いいよ。そんなことしなくても!!」
    実はミコトってかなりスパルタなのよね。
    いつも、ミコトに鍛えてもらった後は筋肉痛でうまく動けなかったもの。
    もっとも、そのおかげで生きてこれたようなものだけど。
    「いっとくけど、拒否権は無いわよ。
    あんた達は気に入ってるけど、それとこれとは別。
    弱い人とは組むつもりはないから。
    セリスもどうにかしないといけないけど
    ・・・まあ、こっちは後で考えるわ。そんなわけで覚悟しなさい」
    鬼だ。悪魔だ。人でなしだ。
    「納得して無いみたいね。
    でも、考えて見なさい。
    教団や教会の者に何時狙われるか分からないんだから、
    あんた達は強くならなきゃならないでしょ?
    なら、むしろ喜ぶべきよ」
    ・・・・言われて見れば確かに言うとおりだ。
    私たちは強くならなきゃならない。
    だからこそお父さんがここで冒険者なんてやらせようとしたのだろうから。
    ならば、王国の英雄が直々に訓練してくれるなど願っても無いことだ。
    「・・・・・よろしくお願いします」
    「よろしい」





    「さて、そろそろセリスを起こしてこなくていいの?」
    「う〜ん、セリスが自分で起きるのを待ったほうが楽なんだけど」
    「そういえば、前にそんなこと言ってたわね」
    ・・・でも、そろそろ起こさないと不味いし、どうせ
    「ケルスに餌を上げなくちゃならないわね」
    いつもはセリスの仕事なんだけど、起きるのを待っていたらケルスが可哀想だ。
    何かやらかしてご飯抜きのときならともかく・・・・
    「ケルスって?」
    「えっ、ああ、最近飼いだした犬の名前。
    かなり強くて、頭もいいの。性格にちょっと難ありだけど」
    「犬?まさかね。・・・・毛の色と目の色、あと大きさは?」
    「えっ!?っと、真っ黒な毛で覆われてて、目は赤。
    大きさは普通より大きいから多分魔獣の一種だと思うけど」
    「・・・ちょっと見せてくれない?」
    「いっ、いいけど、どうかしたの?」
    なんか、ミコトの後ろの空気が揺らめいて見える。
    犬嫌い?ってそれなら、見せてなんていわないか。
    じゃあ、なんで?


    「ケルスご飯よ」
    そういって、店で出したものの残りが入った皿を置く。
    待ってましたと言わんばかりにこちらを向くが
    その次の瞬間、凍りついたように固まった。
    「へ〜〜。やっぱりあんただったんだ。こんなところで何やってるの?」
    ミコトの纏う空気は先ほどとは比べ物にならないほど恐ろしい。
    これが殺気というものなんだと漠然と感じた。
    殺気を向けられている張本人(犬)であるケルスは怯えながらも、
    必死に意思疎通しようと頑張っている。
    「あんた馬鹿にして・・・・ってもしかして、また捕まったの?呆れたわ」
    とりあえず、ミコトの殺気が和らいだが完全には消えていない。
    でも、怒っていると言うよりは呆れてると言う感じだ。
    流れるような動きで、腰に下げた刀を抜き、
    「ミコト!?」
    突き出された刀は漆黒の毛をほんの少し刈り取って、
    私も気付いてなかった首に巻かれてた細い首輪を断ち斬った。
    「これで、喋れるでしょ?」
    床に落ちた細い首輪を拾いながら話しかけてくる。
    「喋れるって・・・・」
    「ふう〜、ミコト。ありがとな!!いや〜久しぶりに喋れるぜ」
    って・・・・ケルスが・・・・喋ってる!?
    「えぇ〜〜〜〜!!??」



    「分かった?」
    「何とか」
    ミコトの話によるとケルスは魔族の血を引く獣人で本名はクロアというらしい。
    2年前に魔族の所為で王都が荒れてたときに仲間と共に旅してて王都周辺で
    騒ぎを起こして、捕まってたところをシンクレアに助けられたそうだ。
    そして、ディシール王女を救う際に手伝ったらしい。
    けど、魔王との戦いには参加してない。
    その所為で王都の方ではシンクレアが6人だと言われてるが、
    スノウ・・・・つまり王城の戦いよりも魔王との戦いのほうが知られているところでは
    4人として伝わっている。ある意味シンクレアの一員なのだろうが、
    魔王殺しの勇者ではないというなんとも曖昧な人物だ。
    そして、先ほどまで喋れなかったのは詳しくは私には分からないけど、
    クロアは魔獣・・・というよりも、魔族の血を引いているためか私たちのように
    少々異常な存在、それゆえに余りいい言いかたではないが、非公式の魔科学研究所で研究材料として捕らえられたそうだ。
    もっとも、何かされる前に逃げてきたが、捕まった際に魔力封じの道具かなにかで
    人の姿にはなれなくなったらしい。
    それが自分たちにも起こりうることだと、思うと背筋が凍った。
    クロアの容姿は人の姿だと漆黒の髪、褐色の肌、赤い瞳で、かなりの長身。
    顔の作りも整っていて、黙っていれば2枚目といえる。
    ただ、性格はアウラの予想通り、ルスランと同じ類の存在で合っていた・・・。
    「む、失敬だな。見境なしというわけではないぞ」
    「嘘つきなさい!!会った瞬間、私とサラとアルテに口説いてきたじゃない!!
    しかも牢屋の中にいながら。いったい、どういう神経してんのかと思ったわ!!」
    「いや〜、やっぱり美しい女性に出会えのたら、その出会いに感謝し、
    称えなくては駄目だろ?」
    「・・・それでナンパ?」
    「おう!!」
    ―ピキッ!!
    ミコトの顔が引きつっている。怖っ!!
    「フィーアにしっかり伝えておいて上げるから」
    満面の笑みだが、これ以上ないほど恐ろしい。
    「いや、待て!!それはやめてくれ!!
    また、あること無いこと吹き込む気だろ!!
    そのたびに俺の命が消えかかるんだぞ!?」
    「何のこと?自業自得ってやつでしょ」
    多分ケルス・・・クロアが怯えているのは旅の仲間だった人のことだろう。
    ここまで怯えるとなるといったいどんな人なんだろう?
    やっぱり、ルスランとアウラたちみたいなのかな?
    ―コンコン
    「あれ、チェチリアにベア?どうしたの?」
    「そろそろ、手伝って欲しいから呼びにきたんだ。
    で、誰だそいつは?」
    ベアの視線の先にいるのはケルス・・・もといクロアだ。
    「う〜ん、話せば長くなるけどケルスみたい」
    「ケルスってあの犬か?」
    「うん」
    「・・・・獣人だったのか」
    「ああ、よろしくな」
    あらら、ずいぶんあっさりと納得したわね。
    ん、チェチリアの様子がなんか変。
    「チェチリア、どうしたの?」
    その言葉に我に返ったらしく、顔を真っ赤にしてそのまま回れ右して
    出てってしまった。
    「どうしたのかしら?クロア、あんた何かやらかした?」
    「いや、ああでもちょいと着替えを覗いたことがあったような・・・」
    「―ほう・・・・」
    まるで地獄のそこから響くよな重い声をベアが発する。
    ああ、先生を相手にしてたときよりも凄いプレッシャーだ。
    クロアもそれにいち早く気付いたらしく、一目散に窓を開け2階から逃げ出した。
    「さらば!!」
    「―フッ。逃がすかーーーーーーーーーーー!!!!!!」
    そう叫びながら階段を駆け下り、開いた窓から店に置いてあった武器を持って
    追い駆けていくのが見えた。
    「・・・・・親バカ?」
    まあ、『ロ』というよりはそんな感じかな。
    ・・・にしても王国の勇者か。もう、理想も憧れも、何もかも無くなったわ。
    「まあ、人の夢と書いて儚いと言うけど、本当なのよね」
    人事みたいに・・・その夢を壊した張本人のくせに〜〜!!








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