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■403 / 18階層)  蒼天の始まり 第8話
□投稿者/ マーク -(2006/10/11(Wed) 14:19:19)
    『修行』






    「さてと、始めるわよ」
    そういって、ミコトが木の棒を構える。
    ミコトに修行をつけて貰うことになり、街の外まで来ている。
    セリスも同じように少し離れたところでクロアと訓練をしているはずだ。
    「口で言うより体で覚えさせる方が私は得意だから
    今まで通り私から一本・・・私に一撃加えられたらとりあえず合格ね」
    今までもそうだったとはいえ舐められてるのかと思ってしまう。
    まあ、実際それくらい力の差があるのだろう。
    「で、やっぱりその棒でやるの?」
    「ええ、こっちは木刀。そっちは真剣で、魔法を使っても良いから」
    すっごい自信。くっ、見てなさい。
    私だって進歩してるんだから!!
    さて、ミコトは接近戦メインだろうから、距離を置いて魔法を中心に行けば
    有利だろうが、それでは、何か卑怯だ。
    それに多少は進歩していることを見せたい。
    ならば、
    「接近戦ね」
    剣を強く握り、ミコトに向かって駆ける。
    ミコトに向かい勢い良く剣を振り下ろす。
    だが、ミコトは静かに私の剣を捌き、剣戟の隙に剣を走らせる。
    慌ててこれを防ぎ、また同じようにこれが繰り返される。
    分かりきっていたことだが、やはり単純な斬り合いでは勝ち目は薄い。
    にしても、ただの木の棒で何故真剣を捌けるんだろう。
    しかも、前に使っていた普通の剣ならともかく、この剣まで受けきるなんて
    ガンッ!!
    「イッツ〜」
    一瞬、別のこと考えてる間にミコトの一撃が頭に入った。
    「まったく、実戦だったらあんたは死んでるわよ。
    戦いの最中に他所事を考えるなんて自殺行為」
    「はい」
    まだ、少し痛むが剣を構える。
    くっ、今度こそ。
    先ほどと同じ様にミコトに斬りかかる。
    一応、修行と言うことだからかミコトから斬りかかる事は少ない。
    もっとも、私が間違った対応をすれば、容赦なくかかって来るし、
    隙を見つければ鋭い剣戟(といっても全然本気ではないらしいが)を振るってくる。
    何度か打ち合い、ミコトが私の剣を捌きながら間隔が空いたところで一気に後ろに下がる。
    追おうと一歩踏み込んだところで、ミコトが身を屈めて刀を腰に構えてたことに気付く。
    ―居合い。
    私が知りうるミコトの剣術の中で、最速、かつ必殺の一撃。
    このまま斬りかかるか下がって魔術で狙うか一瞬、躊躇する。
    すると、躊躇した一瞬のうちにミコトが膝のバネを利用して勢いよく
    地面をけり、懐に飛び込む。そして、剣が抜かれる。
    抜かれた剣は私の手に握られていた剣を弾き飛ばし、王手と言わんばかりに
    目の前に突きつけられた。
    「今、一瞬躊躇したでしょ。そのせいで対応が遅れて隙が出来たわ。
    迷いは捨てる。いいわね」








    何度か試したがやはり、喰らいつくのがやっとで一撃などとてもじゃないが無理だった。
    初めに比べ、ミコトから動くことも多くなったが私自身、これは私が攻撃に
    専念してる所為で隙が多くなったからと私が少しは上達してるからの半々だと思う。
    にしても、やっぱり、接近戦だけじゃ勝ち目はないか。
    分かってはいたことだ。
    少し悔しいが、仕方が無い。
    一歩後ろに下がり、剣を振るって氷の塊を撃ちだす。
    だが、それも木刀によってことごとく砕かれる。
    あの程度では効果なし。ならもっと大きいのなら。
    詠唱を始め、意識を集中させようとしたところで、
    今度はミコトのほうから突っ込んできた。
    慌てて、詠唱を止めてミコトの剣を防ぐが、何撃か打ち合いミコトの剣が私の
    のど元で止まる。
    「魔法を使おうとすれば、どうしても相手は詠唱の邪魔をするべく接近してくる。
    そして、詠唱なんかをするときは術者の集中が疎かになるわ。
    魔術を使う際は相手を足止め、もしくは距離を空けてから使うこと」
    「分かった」
    「じゃあ、続けるわよ」
    でも、ミコトのスピードじゃ距離を空けるといってもかなり下がらないと無理だ。
    つまり、やるとしたら足止めとなる。

    ミコトの剣の間合いより少し外側から魔術で牽制する。
    そして、ミコトが距離を詰めれば剣を受け止めて私も後ろに下がる。
    ミコトのスピードを考えれば距離を詰められば数回剣を打ち合うだけで負けてしまう。
    だから、私が最も力を発揮できる、剣と魔術両方が行使できるこの間合いで対応する。
    けど
    「甘い」
    氷はことごとく砕かれるし、剣でも勝ち目は無い。
    ああ!!もう、どうすればいいのよ!!
    結論から言えばとりあえず、負けはしないが勝てもしないといった感じだ。
    体力的には間違いなくミコトが上だし、やはり賭けに出るしか無いみたい。
    だが、どうすれば?
    足止め・・・氷を盾にして距離を詰める。
    これなら、足止めにもなるだろうし目くらましにもなる。
    それに、さすがのミコトでも斬った後なら隙が出来るだろう。
    よし!!
    今までいくつも出していた氷を一つに絞り、大きな塊にして撃ちだす。
    そして、その直ぐ後を追うようにして距離を詰める。
    それに対し、透明な氷の向こう側でミコトが居合いの構えを取った。
    一瞬、怯みかけたがたとえミコトの居合いでも、この距離なら私自身には届かない。
    むしろ、居合いの後は隙が大きくなるらしいからチャンスだ。
    「奥義『光牙』ッ!!」
    ミコトの剣が目にも止まらぬ速さで抜かれ、氷が砕け散る。
    ―今だ!!
    そう思って駆け出そうとしたとき、嫌な感じがした。
    とっさに、体を左に逸らし剣を盾にする。
    目に見えない何かが剣にぶつかり、弾かれぬよう耐えたが、
    その間に距離を詰めたミコトがその剣を再び喉元に突きつけた。
    「今のは悪くは無かったわ。けど、私が剣しか使えないからこの間合いなら大丈夫と考えたわね。
    それが敗因。私にだって多少は離れた敵に対する術はある。
    戦いとは斬り合いではなく、敵を知ること。
    敵の手を探り、自らの手を隠す。それこそが本当の戦いよ」
    「敵を知る・・・分かった。次は気を付けてみる」
    何度目かのミコトからのアドバイスを聞き、実践すべく構える。
    「よし。じゃあ、次行くわよ」




    「さてと、それじゃあ、始めるぞ」
    「何をやるの?」
    「鬼ごっこだ」
    「鬼ごっこ?」
    「おう、ただの鬼ごっこじゃないぞ。
    この森の中を俺が全力で逃げ回るから捕まえれば終わりだ。
    セリスは武器と魔法の使用もオッケー、俺は攻撃しない。
    では行くぞ!!」
    そういってクロアが地を蹴り、木に上って枝をつたい移動する。
    セリスがそれを眼で追うが、視界も悪く補足できるものではなかった。
    範囲が森の中だけと指定されてるとはいえかなり広い。
    第一、獣人相手に身体能力で勝てるものではない。
    つまり頭を使って勝つしかない。
    セリスはそう考え、仕掛けをほどこしてからクロアを追った。







    枝をつたい、森の中を縦横無尽に駆け回る黒い影は後ろを振り返り、気配を探る。
    と、今までほとんど動いていなかった気配が動き出し、こちらへと向かっていた。
    この特訓はまず、相手の隙、不意を如何にしてつくかが重要となる。
    チャンスの見極める力、いざと言うときに狙いを外さない正確さ、
    その隙を作り出す作戦がものをいう。
    ―さて、どんな手で来るか。
    少し経ってから動いたと言うことは初めの位置の辺りに何らかの仕掛けを
    施したのだろう。自分の特性、状況をしっかりと理解してるし、冷静だ。
    ただ、減点なのは仕掛けは場所が分かってしまえば効果が半減すること。
    そして、仕掛けといって想像できるのはあの先生に教わったらしい結界魔法だ。
    だが、ゆえに自ら進んで罠にとびこむ。
    セリスの結界魔法の実力を確かめるため、そして、何事にも例外が存在することを
    早いうちに教えておくべきであり、例外つまり結界魔法がつかえない、
    もしくは効果がないときに対応する術を持つ必要がある。
    なにより、今までもその高い身体能力を武器に闘ってきたクロアにとって
    隠れる、逃げ回るということは性に合わなかった。




    セリスへと方へと向かい、ある程度まで近づくと向こうもこちらを感知し、
    メビウスを投げてきた。
    ―気配感知は優秀、メビウスの操作は特訓の必要あり。
    メビウスの狙いはマオとの息がまだあってないからか、思ったほどではなく、
    十分避けられた。
    だが、セリスはすぐさま避けられたメビウスを操作し、直ぐ横の木を支点にして
    まるで振るわれたハンマーの如くメビウスが周りの木を倒しながらクロアに向かう。
    クロアもその機転には驚いたが、迫り来るメビウスを絶妙のタイミングで叩き落とし、
    セリスが落とされたメビウスを回収するよりも早く、後ろに回り
    「おりゃ」
    「うひゃっ!?」
    わき腹をつついた。
    セリスは予想外のことに驚き、つついた張本人を睨む。
    「攻撃しないって言ったのに〜」
    「ん、攻撃はしてないぞ?」
    「〜〜〜〜〜!!」
    確かに攻撃はしてはいない。
    それに完全に信じきって守りのことを考えずに隙だらけだった。
    そんなのが実戦で許される筈がないのだ。
    「まあ、さすがに隙だらけ過ぎだったからな。
    そうなんじゃ、悪い狼や人食い熊に食べらちまうぞ?
    嫌だったらもっと頑張れ。
    あと、メビウスの糸は出来るだけ使わないでくれ。
    いくら俺でもアレは危険だし、このままじゃ森が丸裸になっちまう」
    そういったクロアの視線は先ほどまで立っていた木の辺り、
    メビウスの糸によってある程度の高さから上を切り倒された何本もの木に注がれていた。
    斬られた木には葉がほとんどなく、真上から見ればこの辺りだけ緑が見えないことだろう。
    「わかった」
    「よし。んじゃ、再開」
    そういって初めと同じように木をつたって森を進んでいく。
    向かう先は初めの位置。仕掛けを施した辺りだ。
    セリスは薄く笑い、先ほどの仕返しをするべくクロアを追って行った。


    ―見えた。
    木をつたって逃げ周るクロアを視認した。
    クロアに全力で逃げられたら捕まえることはおろか追いつくことすら出来ない。
    それでは修行にはならないからか、離れすぎないよう時折スピードを緩めたり
    立ち止まったりしていた。
    だが姉のエルリスと違い、セリスはミコトの訓練なんかも受けてなく、
    遺跡でも後方支援や頭脳労働が専門だったため体力が低い。
    おかげで、もう息が切れかけていた。
    (む、体力づくりも必要か。妙にムラがあるな)
    と逃げながらセリスの力を分析し今後の方針を決める。
    エルリスとは正反対にムラが激しい。
    が、頭の回りも早く、後方支援としては優秀だ。
    あとは武器戦闘で持ち堪えられる程度には鍛えておけばいいだろう。
    セリスは再びこちらを捕らえるべく、メビウスを飛ばす。
    息が切れて集中が乱れたのか狙いが妙にあまい。
    が、クロアは途中で狙いが自分ではないことに気付いた。
    クロア自身を狙っても叩き落される。
    だから、それを支える枝に向けてメビウスが投げられたのだ。
    枝が折られる寸前に木から飛び降りるがさらに、着地の瞬間を狙って
    セリスがいつの間にか持っていた魔術式が彫られたナイフを投げる。
    ―ッ!?
    体を捻り、かろうじて避ける。
    避けられたナイフはそのまま木に突き刺さり
    「マオ!!」
    「了解!!アインス、ツヴァイ、フェンフ、ドライ、ゼクス、アハト、ノイン、基点接続」
    「第8結界、封印結界、『籠の鳥』!!」
    セリスとマオの流れるような詠唱と共に魔術式を彫りこんでおいた周りの木々が
    基点となり魔力の檻が作られる。
    予想以上のスピード、そして精度だった。
    生半可な攻撃では壊すことは出来ないだろう。
    「やるな〜」
    「えへへへ、こっちの勝ちだね」
    「さあ、どうかな?」
    と、もはや勝ったも同然のセリスがこの言葉に首をかしげる。
    「ここからどうする気なの?いくらクロアでも中からは壊せないよ」
    「まあ、待て。マーキングって知ってるか」
    「?」
    「知らんか。犬とかがよくやる匂いつけの事なんだが」
    「それってつまり」
    どうやら理解したらしいが、余分なことまで考えているらしく顔をしかめている。
    まあ、普段が普段なだけに仕方がない。
    「まあ、俺も犬みたいなもんだから似たことをやるんだが
    俺の場合は魔族の血の所為か魔力を使う。
    で、おかげで面白いことが出来るんだ。
    ―こんな風にな!!」
    ―バンッ!!
    と、何かが破裂したような小さな爆発音がし、結界が消える。
    セリスとクロアの間にあった壁が消失し、消した張本人は慌てているセリスの
    眼に前まで走り
    ―バシッ!!
    「いっ〜!!」
    デコピンを食らわした。
    「な、まだ終わりじゃなかっただろ?」
    「うう〜、どうやったの」
    「どうやったんだ〜」
    「じゃあ、種明かしといくか。
    さっきマーキングって言ったよな。
    これをすると俺の魔力をつけたところを任意で燃やしたり
    爆発させたり出来るんだ。
    んで、始まった時にセリスがこっちに来るのが遅かったから何か罠を張ってるだろうと
    分かったから探してみたら結界の基点があったからマーキングしといたんだ」
    「じゃあ、知ってて罠に飛び込んだの!?」
    「そういうことだ」
    「あ〜、完敗だな〜」
    「まあ、いい線いってたし、思った以上だったぞ」
    「よし、今度こそは!!」







    「いらっしゃいませ〜」
    「何で私まで・・・」
    「つべこべ言ってないで手を動かせ」
    「分かってるわよ。料理をお持ちしました〜」
    ああ、忙しい。
    まさか、ベアの店にこんなに客が来るなんて思いもしなかったわ。
    冒険者の店とはいえ、来る人全てが冒険者というわけでもなく、
    料理を食べに来たり、夜なんかはお酒を飲みに来る人だって多くいる。
    おかげで、最近ではベアの店はお昼時と夕方以降が妙に忙しい。
    確かにチェチリアの料理は美味しいし、もう少し流行っててもおかしくは無かった。
    けど、私たち3人が入ってから、いきなり客が増えたと思う。
    手伝いについてはセリスは気に入ってるけど、ミコトはかなり不満みたい。
    私たちの修行の所為で街を出られない上に、お金がそろそろヤバイらしいから渋々やっている。でも、その割にはなんか手馴れてると言うか動きに無駄が無い。
    ちなみに担当は私はチェチリアの手伝い。
    ミコトとセリスがウエイトレス。ついでにクロアも。
    忙しいと、ミコトもキッチンで手伝うが食文化の違いからかどうしても
    味が変わってしまうため、味付けなんかはチェチリアに任せてる。
    まあ、アレはアレで美味しいんだけど。
    普段の手伝いは正午と夕方で比較的余裕のある昼間は修行だ。
    今日みたいに昼にいっぱい客が来るときは修行の方もあるから結構ハード。
    「ハンバーグ3つにナポリタン1つ、あと、サンドイッチが1つ」
    「おね〜ちゃ〜ん、こっちも〜」
    「は〜い、っと」
    働かざるもの食うべからずとか言ってたけど、割に合わないと思う。


    ふう、お昼の時間が過ぎて、何とか落ち着いた。
    もっとも、夕方にでもなればまた忙しくなるだろう。
    「さてと、エルリスいくわよ」
    「ああ〜」
    今度は修行・・・このままじゃ絶対倒れると思う。
    「安心しなさい。そんなへまはしないから。
    こっちの国では弟子を鍛える際は生かさず殺さずって言われてるのよ」
    すっごい危険な言葉が聞こえた気がする。
    今はっきりと分かった。ミコトは人の皮をかぶったアクマだ・・・








    「ただいま〜ってあれ?」
    修行と言う名の拷問を終え、店に帰ってくると珍しい顔があった。
    ちょっと前にお世話になったルスランたちだ。
    「おお、エルリスにセリス、ミコトまでいるじゃなねーか。
    待ってた甲斐があったぜ」
    ルスランは相変わらずだ。これは無視するに限る。
    「久しぶり。もうどれくらい経つ?」
    「ざっと、半年弱だ」
    ああ、そうかミコトはルスランたちと組んでたことがあったんだっけ。
    「ねえ、ミコト。私とルスランたちとミコトじゃどれくらい実力に差があるの?」
    「ん〜、そうね。人としての最高を10としたら私は8、
    ルスランたちは5か6、エルたちはやっと3といったところね」
    「つまり、まだまだってこと?」
    「そういうこと、でも筋はいいしそれほどかからないと思うわ。
    無理すれば三ヶ月くらいで形にはなるわ」
    私とセリスの修行はルスランたちと同じぐらいになるまでが目標だった。
    が、無理をすればというのがとてつもなく不吉な予感がする。


    ―キュピーン!!
    「お前とはうまくやっていける気がする」
    「ああ、俺もだ。あんたとならきっと親友、いや心友になれるぜ」
    とミコトと話してたらクロアとルスランが妙に意気投合してる。
    ああ、なんか嫌な予感
    「あの女性は70点といったところか?」
    「なるほどな。3サイズは上から86-58-84てとこか」
    「うお〜、凄ーな。あんた」
    「ふっ、任せろ。この俺の眼にかかればこれぐらいわけないぜ!!」
    「ははっは!!ん、ああ畜生、彼氏持ちだ!!」
    「なっ、なんだと!?バカな!?」
    「だが事実だ。男の匂いがするうえ、悲しいかなもう手が付けられた後だ」
    「なっなんということだ」
    「だが悲しんでいても始まらない。あっちはどうだ?
    67点ってところだろ。しかも、手が付けられる前だ」
    「クックック、なるほど。
    だが、まだまだ甘いな。上から72-57-79だ」
    「なんと、ナイチチか?
    だが、あんた凄すぎるぜ。
    どうしてあのローブの上から分かるんだ」
    「まあ、慣れってやつだな。
    だが、それはお前もだろ。
    獣人ってそこまで分かるものなのか?」
    「ふっ、まさか。あんたと同じさ。この磨き上げられた嗅覚を持ってすれば
    女性に彼氏がいるかはもちろんすでに手を付けられた後かどうかも一発だぜ!!」
    「なんと!?」
    「ちなみに、こっちの6人は全員しょ「喋るな!!!」グバッ!!?」
    とミコトがクロアに踵落しを食らわせ、嫌な音と共にクロアの頭が
    テーブルにめり込んだ。おかげでテーブルはどす黒い液体で染まっている。
    ああ、もう買い替えきゃ。
    「友よ!?っく、何をす」
    「覚悟は出来た?」
    アウラの笑顔は仁王の憤怒する様を思わせた。
    「すいません。俺は無実です。どうかご慈悲を」
    「却下」
    グシャッ!!
    「ああ、こりゃ掃除が大変だな」
    そういって、成り行きを見守っていたベアが店の扉に張り紙を張って戻ってくる。
    ―本日諸事情により冒険者の店ベアは休業させていただきます。









    「ほんと、客がふえたわね〜」
    「でもなんでだろ?」
    「・・・分かってないの、セリス」
    「えっ、ミコトは分かるの?」
    多分分かってないのはセリスだけ・・・いや、チェチリアもか。
    「ねえ、以前からこんなにいた?」
    『いえ、今まではこんなに来てませんでした』
    やっぱりそうか。つまり、私たち3人がいい客寄せになったのだろう。
    まあ、別に店の雰囲気は悪くはないし、料理も美味しいから
    1度来れば何人かは再び訪れるだろう。
    ああ。でも、ベアが問題か。
    「おい、ミコト」
    「なによ」
    うわ〜、ミコトがかなり不機嫌。
    そのとばっちりが修行に来るからたまったもんじゃない。
    「なにか、芸はないか?」
    「・・・・・・・・いや。絶対にいや!!」
    すっごい拒絶してる。何か嫌な事でもあるのだろうか。
    「とゆうか、なんでそんなこと聞いてるの?」
    「何か演奏でもやれば客寄せになるかと思ったんだが」
    「絶っ対に嫌よ!!」
    「なんで、そんなに嫌がるの?」
    「・・・いろいろあったのよ。とにかく私は嫌よ!!」
    「はあ。じゃあ、私が何かやるわ」
    「おお、本当か?助かる」
    「お姉ちゃんが?」
    セリス、その不安げというか信じられないという感じの顔はなに?
    セリスって悪気はなくても結構、人を傷つけるのよね。
    「私だって芸といえるかどうかは分からないけど、1つぐらいあるわよ」
    「そうなんだ。何するの?」
    「まあ、見てなさい」
    さて、とは言ったものの芸といえるようなものなんてほとんどないし、
    客寄せになりそうなのなんてアレしかないわよね。
    テーブルを叩いて、リズムを取る。
    「〜〜〜〜〜〜〜〜♪」
    「あっ!!これって」
    お母さんから教えてもらった歌。
    まだ、幼かった私に教えてくれた大切な思い出、
    そして、私とセリスの絆。そんな歌だ。

    ―パチッパチッパチッ!!
    歌を終え、お辞儀をする。
    結構、好評のようだ。
    「凄いな」
    「まるで、教会の歌姫のようだ」
    「そういえば、歌姫って何処に行ったんだ?」
    「さあな、案外本物か?」
    「はっはっは、だったら凄いな」
    「まあ、そんなことはどうでもいいさ、嬢ちゃん一杯やらないか?」
    そんな、大袈裟な。
    というかお酒はちょっと勘弁して。

    ―ガタンッ!!
    物音のした方を向くと、チェチリアが立ち尽くしていた。
    「いったい、どうしたの?」
    慌てて駆け寄るが、私を振り切り2階へと行ってしまう。
    私が何かしたのだろうか?
    「気にするな。お前の所為じゃない」
    「でも」
    あんな辛そうなチェチリア、初めて見た。
    「これはあいつの問題だ」

    「・・・分かった」
    「はあ、教会の歌姫か。何時までも逃げて入られないな」
    一体何なのだろう?おそらく、その歌姫ってのがチェチリアに関係有るのだろう。
    私に何か力になれることはないだろうか。


    「ねえ、クロア」
    「なんだ、ミコト?」
    「ちょっと聞いてきてくれない」
    「チェチリアのことか?でも、一体誰に聞くんだ」
    「チェチリアの『お友達』にでも聞けば何かわかるかも知れないでしょ」
    こういうときぐらい、役に立ってもらわなきゃ。
    「ああ、なるほどな。じゃあ、そっちで適当に言い訳しといてくれよ」
    「オッケー」
    そうして、クロアが2階へと上がっていく。
    「あれ、クロアは?」
    「ナンパ」
    「また!?」
    「・・・ええ」
    「最悪・・・」
    「うわ〜」
    「最低だな」
    「・・・」
    ちょっと可哀想だったか。
    まあ、いっか。
    いつものことだ。



    「おい、こらミコト。どんな言い訳したんだ?」
    「言われたとおり、『適当』に答えただけよ」
    「・・・お前に頼んだ俺がバカだった」
    「で、どうだった?」
    「無視か?まあ、いいさ。聞いた話によると
    チェチリアは昔、教会に預かられてた孤児で当時、教会の聖歌隊に所属してたらしい。
    しかも、その中ではソロを任されるほどの実力だったそうだ。
    が、ある事件で声が出せなくなったらしく、歌えなくなった歌姫は周りの人からの視線に耐えられず、
    心をも閉ざした。その後、歌姫はとある冒険者に引き取られてその店の手伝いをしてるといったところだ」
    「歌えなくなった・・・・そっか。でも、そのある事件って何?」
    「それは分からんかった」
    「使えないわね」
    「お前が言うか?
    まあ、さっきのは多分客に歌姫だとばれて、奇異の目で見られるのが嫌だったんだろ」
    「・・・それだけかしら」
    そんな簡単なことではない。
    きっと、もっと複雑な・・・・ああ、そっか。
    それに怯えてるのか。
    そんなに複雑と言うわけではないが、本人にとっては切実なのかもしれない。
    さて、どうしたものか。












    ―コンッコンッ!!
    「チェチリア、いる?」
    ・・・・・コンッコンッ
    ノックが帰ってきた。中にはいるらしい。
    「・・・・入っていい?」
    ・・・・・・・・・・
    返事が無いのは構わないという事かそれとも・・・・
    いいや、どうせ入らなくちゃどうしようもないんだ。
    扉を開け、部屋に入る。
    「チェチリアちょっといい?」
    ―コクン
    チェチリアは無言でうなずき、こちらを向く。
    先程まで泣いてたのか、目の周りにはうっすらと涙の跡があった。
    「チェチリアの『お友達』から聞いたわ。歌姫について」
    チェチリアが怯えるような顔でこちらを見る。
    「怖い?歌姫と知られるのが、あの目で見られるのが」
    これがチェチリアのトラウマ。
    周りからの冷たく、無機質な視線。
    私も昔、あの目で見られたことがあるが、あれほどは辛く悲しいものはない。
    そんな目で見られてきたら、心を閉ざしても仕方が無いだろう。
    そして、チェチリアが最も恐れるのはおそらく、
    「・・・・私たちにそんな目で見られるのが怖い?」
    ―ピクンッ!
    チェチリアがかすかに反応した。
    全部思ったとおりだ。チェチリアはあの視線を、親しき者からの
    視線が変わってしまうのを恐れているのだ。
    今の私からすればそんなこと、とても些細な、そして無駄なこと。
    でも、本人にとってはあまりにも大きなことなのだ。
    「ねえ、チェチリア。私もあなたのことはそれほど詳しく知ってるわけじゃない。
    でも、私が知っているチェチリアは料理が上手で、可愛い服が良く似合って、
    動物が大好きなそんな女の子。
    エルリスもセリスも、クロアだって、きっとそう思っているわ。
    チェチリアが誰だろうと、何であろうと関係ない。
    私たちは変わったりはしないわ。違うかしら?」
    チェチリアが涙をこらえながら首を横に振る。
    「そうね、チェチリアの昔なんて関係ない。
    今ここにいるチェチリア・ミラ・ウィンディスこそが私たちの知るあなたなの。
    歌えなくても、声が出せなくてもそんなこと関係ない、
    今ここにいる貴方こそが私たちの知る貴方よ」
    ―ガバッ!!
    言い終わると同時にチェチリアが抱きつき、こらえてた涙が溢れ出す。
    よっぽど辛かったのだろう。黙って胸を貸してあげることにする。
    時間が経ち、チェチリアが泣き止むと、ジェスチャーを含め何かを聞いてくる。
    喋っていたときの名残か声は出てないが口は動いており、
    読唇術に覚えがあるおかげで、いいたいことは直ぐ分かった。
    ――ミコトさん、その『お友達』って誰ですか?
    ああ、それか。
    「『お友達』はチェチリアの飼っている動物たちよ」
    一瞬、驚いたように口を大きく開け、心配そうに見ていた後ろの動物たちに
    目を向ける。そして、何匹かの動物が気まずそうに目をそむけた。
    もっとも、チェチリアも自分のためを思ってやったことだと分かっているから、
    怒ってなどいないだ。でも、チェチリアが元気になって良かったわ。





















    「それじゃあ、行って来ます」
    「また、帰ってくるからね〜」
    「もう、帰ってこんでもいいぞ」
    やっと修行も終わって、ミコトからお墨付きをもらえた。
    最初の一ヶ月・・・・これはかわいい物だった。
    その後はセリスとの連携、そして4人で遺跡に潜って実戦訓練。
    最後なんて丸一ヶ月にわたるサバイバル訓練なんかをやらされた。
    眠いわ、お腹減ったわでかなり辛かった。
    挙句の果てに満月の日に団体さんが来たときにはセリスもあまり動けず、
    向こうにいたっては絶好調でマジでやばかった。
    まあ、おかげでかなり強くなれたと思う。
    でもあまり思い出したくない。
    屋敷に下に地下王国?
    今思えば良く生きて出られたものだ。
    「じゃあね。チェチリア、どうせまた直ぐに帰ってくるから」
    あれ?そういえば、ミコトとチェチリアって何時の間にあそこまで
    仲良くなったんだろう?
    まあ、いっか。
    いつの間にやらチェチリアも元気になってたし。
    気にするほどのことではないだろう。



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